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関連審決 不服2003-20012
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  技術常識 /  着想 /  悪意 /  技術的意義 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10460号 審決取消請求事件
原告 株式会社エルイーテック代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 熊倉禎男
同 弁理士 今城俊夫
同 弁護士 富岡英次
同 弁理士 上杉浩
同押本泰彦
同 弁護士 渡辺光
同高石秀樹
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 林毅
同吉岡浩
同小池正彦
同小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/03/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-20012号事件について平成17年3月29日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が特許出願をしたところ拒絶査定を受けたので,これに対し不服の審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成8年7月26日,発明の名称を「通信機能を有するセキュリティチップ」とする特許出願をしたが(甲10。以下「本件出願」という ,平成15年9月16日に拒絶査定を受けたので,不服の審判請求を 。)した。
同請求は特許庁において不服2003-20012号事件として審理されたが,同事件係属中の平成16年7月12日,原告は,発明の名称を「通信機能を有する遊技機用セキュリティチップ」とするほか,特許請求の範囲の記載等を変更する補正をした(甲4,13 。)そして特許庁は,平成17年3月29日 「本件審判の請求は,成り立た ,。。 ない 」との審決をし,その謄本は平成17年4月12日原告に送達された(2) 発明の内容平成16年7月12日付け補正後の特許請求の範囲は,請求項1〜3から成るが,その請求項1の内容は,下記のとおりである(請求項2,3は記載省略。以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」という 。。)記「 請求項1】クロック発生回路10に基づきタイミングをとる遊技機制御 【用中央処理装置(CPU)11と,該CPU11とバス回路を介して接続されたワーク用の内蔵RAM13及びユーザープログラム内蔵メモリー14と,各チップに付与された固有の識別番号を記憶するID番号記憶回路と,前記ID番号記憶回路15と接続された暗号化回路と復号化回路とを有する外部通信制御回路18と,外部通信制御回路18が,前記外部通信制御回路18の暗号化回路と復号化回路と同一のものが搭載された外部管理装置22と通信を行うための外部通信インターフェース回路20とからなり,前記外部通信制御回路18が外部管理装置22からの識別番号の発信を指示する暗号化されたコマンドを復号化を行いその識別番号発信の指示に従いID番号記憶回路15に書き込まれたチップ固有の識別番号を暗号化して外部管理装置22に送信する機能を有することを特徴とする通信機能を有する遊技機用セキュリティチップ 」。
(3) 審決の内容ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その要旨は,本願発明は,特開平4-332582号公報(本訴甲2。
以下「引用例1」という )及び特開昭63-37783号公報(本訴甲 。
3。以下「引用例2」という )に記載された発明並びに当該分野の周知 。
事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
イ なお審決は,上記判断をするに際し,引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という )の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び 。
相違点を以下のとおり認定した。
<引用発明>「パチンコ機制御装置のコントローラであるCPU11と,該CPU11とコモンバス12を介して接続されたRAM13と,ホストコンピュータ9との通信を司るシリアルI/Oインターフェース(SIO)17とからなる集積回路3と,I/Oインターフェースを介して接続された識別コードと制御プログラムを内蔵したEPROM5とを有し,該SIO17がホストコンピュータからの読出しコードを受信し,前記EPROMの識別コードを利用して,前記読出しコードに対応した応答コードを作成し,該応答コードをホストコンピュータに送信する通信機能を有するパチンコ機制御装置 」。
<一致点>「クロック発生回路に基づきタイミングをとる遊技機制御用中央処理装置(CPU)と,該CPUとバス回路を介して接続されたワーク用の内蔵RAMと,ユーザープログラム内蔵メモリーと,識別番号を記憶するID番号記憶回路と,外部管理装置と通信を行うための外部通信回路とからなり,外部管理装置からの識別番号発信の指示に従いID番号記憶回路に書き込まれた識別番号に相当するデータを外部管理装置に送信する通信機能を有する集積回路からなるセキュリティ機能を有する遊技機用制御装置」である点。
<相違点1>外部通信回路の構成が,本願発明においては暗号化回路と復号化回路及び外部通信インターフェース回路を有する外部通信制御回路であり,暗号化されたコマンドの復号化〔判決注:審決の「複合化」は明らかな誤記と認める ,識別番号の暗号化を行うものであるのに対し,引用 。〕発明においてはシリアルI/Oインターフェースが暗号通信機能を有するものではない点。
<相違点2>外部管理装置からの指示により送信するデータが,本願発明ではID番号記憶回路に書き込まれたチップ固有の識別番号であるのに対し,引用発明では,EPROMに記憶された識別コードを利用して作成される応答コードである点。
<相違点3>本願発明ではユーザープログラム内蔵メモリーとID番号記憶回路がセキュリティチップに内蔵されているのに対し,引用発明では集積回路に外付けされている点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決は,一致点の認定を誤り(取消事由1 ,相違点につ)いての判断を誤った(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(一致点の認定の誤り)引用発明の「識別コード」が本願発明の「識別番号」に相当するとした審決の認定は,以下のとおり,誤りである。また,この点に誤りがある以上,引用発明の「読出しコード」が本願発明の「識別番号発信の指示」に相当するとした認定,引用発明の「識別コードを内蔵したEPROM」が本願発明の「識別番号を記憶するID番号記憶回路」に対応するとした認定も,同様に誤りである。
・ 本願発明の「識別番号」は,各遊技機に設けられるチップを個別に識別するために各チップに付される,チップごとに異なる番号である。
この「識別番号」は,セキュリティチップ自体が正規のものか否かを判定するためのものである。
これに対し,引用発明の「識別コード」は,引用例1に遊技機ごとに異なる旨の開示も示唆もないこと「コード」の語は一般に「情報伝達 ,の効率・信頼性・守秘性を向上させるために変換された情報の表現,また変換の規則」を意味するものであって 「一つ一つを区別するために ,順番を付した数字や符号」である「番号」とは異なる概念であること(広辞苑〔第5版 。甲5 ,本件出願の当時,チップごとに固有の番 〕)号を付するという技術的思想が存在していなかったことによれば,遊技機の機種ごとに付されるものと理解することができる。この「識別コード」は,ROMに記憶された遊技機のプログラムが正規のものか否かを判定するセキュリティチェック機能を実行するためのものである。
以上のとおり,引用発明の「識別コード」と本願発明の「識別番号」とは本質的に異なるのであって,引用発明と本願発明とは具体的構成が実質的に相違するから,審決による一致点の認定は誤りである。
・ 本願発明は,特許請求の範囲に「遊技機用セキュリティチップ」と明記されたとおり,遊技機のプログラムが正規のものか否かを判定するセキュリティチェック機能を当然に有しており,そのための「識別コード」を備えているのであって,これとは別に 「識別番号」が存在す ,るのである。なお,原告は,出願当初の特許請求の範囲に記載していた「セキュリティコード (識別コード)を補正により削除したが,これ 」は,その所在がセキュリティチップ内に限定されると誤解されないようにするためであって,識別コードを不要としたものではない。
したがって,本願発明にいう「識別番号」が「識別コード」に相当するということはできないから,審決の上記認定は誤りである。
イ 取消事由2(相違点についての判断の誤り)・ 相違点1について以下のとおり,相違点1についての審決の判断には誤りがある。
@ 審決は,回路構成を複雑にすれば回路の偽造をしにくくなることは自明のことであるから,偽造防止の目的で暗号化回路及び復号化回路を設置することは格別のことではないなどと判断した。
しかし,本願発明の「外部管理装置と外部通信回路とに同一の暗号化回路及び復号化回路を設置して通信を行う」構成は,チップの回路構成を複雑にして回路の偽造を困難とするための構成ではなく,「識別番号」が第三者に読み取られることを防止するために設けられた構成であり 「回路の偽造」の容易性とは無関係である。したがっ ,て,審決の上記判断は,明らかに論理付けを誤っている。
A 本件出願の当時,チップごとに付与する「識別番号」に基づいて真贋判定を行うという技術的思想が全く存在しなかった以上 「識別番,号」が第三者に読み取られることを防止するという技術的課題も存在しなかった。したがって 「外部管理装置と外部通信回路とに同一の ,暗号化回路及び復号化回路を設置して通信を行う」という本願発明の構成は,当業者が容易に想到し得るものではない。
B 本願発明は,外部管理装置とセキュリティチップ内の外部通信回路とに同一の暗号化回路及び復号化回路を設置して通信を行うように構成されており,これによって,両者間の通信が可能であれば,そのことからセキュリティチップ内の暗号化回路及び復号化回路が正規のものであることが分かるので,チップが真正なものかどうかを簡易にチェックすることができる。このように,通信システムにおいて,暗号化回路及び復号化回路を,情報を他者に読み取られないようにするという通常の目的とは別に,チップの偽造等の不正の簡易な発見手段としても利用することは,自明であるとも着想容易であるともいうことができない。
・ 相違点2について以下のとおり,相違点2についての審決の判断には誤りがある。
@ 審決の判断は,引用発明の「識別コード」が本願発明の「各チップに付与された固有の識別番号」に相当することを前提とするものであるが,この前提は,取消事由1のとおり,誤りである。
正しくは 「本願発明ではID番号記憶回路に書き込まれたチップ ,固有の識別番号が外部管理装置からの指示により送信されるのに対し,引用発明では,これに相当する構成が存在しない点」を相違点として挙げなければならない。そして,このように相違点を正確に認定した場合には,引用例2と組み合わせることの動機が希薄となるばかりでなく,仮にこれを組み合わせても,本願発明の「チップ固有の識別番号」という構成が得られないことはもとより,この番号が「外部管理装置からの指示により送信される」構成も得られないことになり,この構成を得るためには,別の引用例または周知技術を組み合わせることが必要となるが,審決にはこれが欠落している。
したがって,審決における進歩性の認定判断の方法に誤りがあることは明らかである。
A 審決は,製品管理(偽造品管理を含む)の目的でチップに固有の識別番号を付し,これを外部からの指示で読み出せるようにすることは,引用例2に基づいて容易に行い得ることであると判断した。
しかし,本願発明は,違法行為の防止のために,遊技機本体に固有の「製造番号」を付することに加え,各チップに固有の「識別番号」を付することにより 「偽造チップの大量生産が困難なものとなる」 ,という技術的意義を初めて見いだし,そのような構成を採用した点に特徴がある。したがって,本件出願の当時,このような技術的課題も存在しない状況下で,全く分野の異なるテレビ製品等に関する引用例2に開示された技術を適用することが容易であるはずはない。しかも,引用例2のテレビ受像機等は,チップが偽造される危険はなく,チップの偽造防止という技術的意義とは無関係である。引用例2において製造番号を付する構成は,遊技機本体に固有の製造番号を付する構成に相当するのであって,各チップに固有の識別番号を付する本願発明の構成とは次元が異なるのである。
なお,商品価格の維持を目的として製造番号を付し,これにより商品の流通経路を探すことは独占禁止法違反として厳しく禁止されているから,引用例2は,現在では適法に利用され得ない技術である。
ところが,審決は,本願発明の,各チップに固有の「識別番号」を付することの技術的意義を看過した結果,技術的に無関係な引用例2において製品本体に付する「製造番号」が,本願発明における遊技機等の本体とは別に各チップに付する「識別番号」に相当する旨の誤った認定判断に陥ったものである。
B 引用発明の「識別コード」に替えて,引用例2に記載された「固有の識別番号」を採用した場合には,プログラムが正規のものであるか否かを判定するセキュリティチェック機能を実行することが不可能となってしまう。ところが,遊技機において,不正プログラムの排除という根本的な課題を解決する手段を排除する必要性も合理性もないから,当業者にとって 「識別コード」に替えて「固有の識別番号」を ,採用することは有り得ない発想である。
・ 相違点3について審決は 「メモリを内蔵したLSIチップにすれば改ざんが難しくな ,ることは技術常識に属すること」を理由に 「ユーザープログラム内蔵 ,メモリーとID番号記憶回路をチップ内蔵とすることを格別のことということはできない」と判断した。
しかし,審決の上記判断は,引用発明の「識別コード」が本願発明の「識別番号」に相当することを前提とするものであるが,この前提が誤りであることは取消事由1のとおりである。引用発明は 「識別番号」,ではなく 「識別コード」に関するものであり 「識別コード」を記憶 ,,する回路をチップ内蔵型としても「偽造チップの大量生産が困難なも ,のとなる」という本願発明の作用効果を得ることはできないのであるから,相違点3についての審決の判断も誤りである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論審決の認定及び判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対し原告は,引用発明の「識別コード」は,遊技機の機種ごとに付されるものであり,チップごとに付される本願発明の「識別番号」と本質的に異なるから,前者が後者に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,両者は,種類ごとに付されるかチップごとに付されるかの点で完全には一致しないとしても,少なくとも「正当なチップを不正なチップから区別するために各チップに付与された符号」であるという意味において共通する。そして,引用発明の「識別コード」がチップ固有の識別番号とはいえないという意味で本願発明の「識別番号」と相違する点については,審決は,これを相違点2として認定している。
また,原告は,本願発明においては「識別コード」とは別に「識別番号」が存在するとも主張するが,これは特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,失当である。
したがって,前者が後者に「相当する」とした審決の認定に誤りはない。
(2) 取消事由2(相違点についての判断の誤り)に対しア 相違点1につき原告は,回路の偽造の困難化をいう審決には論理付けの誤りがあると主張する。しかし,審決は,暗号化回路及び復号化回路を設けるという相違点1の克服を容易とすることの論理付けとして,偽造の困難化の点のみを挙げているわけではなく,情報の秘匿性を高めること(第三者に読み取られることを防止すること)を挙げているのである。
また,原告は,本件出願の当時「識別番号」が第三者に読み取られる ,ことを防止するという技術的課題は存在しなかったから,相違点1に係る本件発明の構成は当業者が容易に想到し得る構成ではないと主張する。しかし,引用発明における識別コード及び読出しコードは,チップが正当なものであることを判定するための符号及びその発信指示であり,悪意の第三者に知られた場合に不正が行われ易くなることは自明であるから,これらを通信する際に何らかの秘匿手段を設けるのが望ましいことも自明である。そして,以上のことは,引用発明における識別コードをチップ固有の識別番号に置換したもの(相違点2が克服されたもの)においても当然に妥当するものである。
さらに,原告は,本願発明において外部管理装置と外部通信回路とに同一の暗号化回路及び復号化回路を設置したことについて容易想到性がない旨を主張するが,通信を双方向に行う二つの装置において両者が同一の暗号化回路及び復号化回路を有するものとすることは,周知の構成である。
したがって,相違点1についての審決の判断に誤りはない。
イ 相違点2につき・ 原告は,一致点の認定に誤りがあるから相違点の判断も誤りであると主張するが,この点は取消事由1について述べたとおりである。
・ 引用例2には,不正防止を目的として,コンピュータ機器に固有の識別番号を,マイクロコンピュータのチップに内蔵したメモリーに格納しておくことが記載されている。この識別番号は,当該機器に固有のものであるから,チップにとっても必然的に固有の識別番号となる。なお,原告は,引用例2には違法な技術内容が開示されていると主張するが,引用例2は,盗難品等の不正な取引を防止する目的を有しているから,何ら違法なものではない。
また,引用発明の「識別コード」と,引用例2に記載された「コンピュータ機器に固有の識別番号」とは,不正防止を目的とするものである点で共通する。
さらに,不正防止を目的としてチップに固有の識別番号を付してチップごとに識別するという技術思想は,乙5(特表平2-501428号公報 ,乙6(特開昭60-203036号公報)に記載されているよ )うに,周知である。
したがって,引用発明のように「識別コード」を用いて機種レベルで偽造を防止することに替えて,引用例2に記載の「固有の識別番号」を採用し,本願発明のように「各チップに付与された固有の識別番号」を用いて個々のチップのレベルで偽造を防止しようとすることは,容易に想到することができたものであるから,審決の相違点2についての判断に誤りはない。
ウ 相違点3につき審決の一致点の認定を誤りとする原告の主張が誤りであることは,取消事由1について述べたとおりである。識別番号を記憶するメモリーをチップに内蔵することは,引用例2に記載されたように周知であるから,引用発明の構成を,チップに固有の識別番号を内蔵メモリーに格納するように構成することに格別な困難性は認められない。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯 ,(2)(発明の内容 ,(3)(審決 ))の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の適否に関し,原告主張の取消事由ごとに順次判断することとする。
2 取消事由1(一致点の認定の誤り)について(1) 審決は,引用発明の「識別コード」が本願発明の「識別番号」に相当するとした上で(5頁24〜28行 ,引用発明と本願発明とは「識別番号 ),を記憶するID番号記憶回路」を有し 「外部管理装置からの識別番号発信 ,の指示に従いID番号記憶回路に書き込まれた識別番号に相当するデータを外部管理装置に送信する通信機能を有する」点で一致すると認定した(6頁9〜13行 。)これに対し,原告は,前記第3の1(4)アのとおり,・ 本願発明の「識別番号」と引用発明の「識別コード」とは本質的に異なる,・ 本願発明においては「識別コード」とは別に「識別番号」が存在すると主張して,審決の上記認定の違法をいうものである。
(2) そこで,まず,原告の上記・の主張について検討すると,本願発明の特許請求の範囲には 「各チップに付与された固有の識別番号」と記載されてお ,り 「識別番号」に「各チップに付与された固有の」という限定が付加され ,ている。審決は,上記のとおり,引用発明の「識別コード」が本願発明の「識別番号」に相当すると認定したものではあるが 「各チップに付与され ,た固有の」という部分を含めて,引用発明の構成と本願発明の構成とが一致すると認定したものではない。
ところで 「番号」とは 「一つ一つを区別するために順番に付した数字 ,,や符号 (広辞苑〔第5版 。甲5)を意味する語であるが,番号により区 」〕別されるべき「一つ一つ」とは,個別の商品,製品等の単体を意味する場合もあるが,商品や製品といったカテゴリの中で区別される種類ないし種別を意味する場合もあるということができる(例えば,バーコードは,それが表す番号(バーコードの下に付された数字)により,生産国,製造業者等を含めて,商品の種類を区別するものであり,後者の場合の例に当たる 。。)そうすると 「各チップに付与された固有の」との限定を伴わない「識別 ,番号」が,遊技機の機種ごとに付される引用発明の「識別コード」と本質的に相違するということはできない。
そして,審決は,本願発明の「識別番号」が「各チップに付与された固有の」ものであるのに対し,引用発明の「識別コード」がそのようなものではないことについては,これを相違点2として認定している(審決は,相違点2として,外部管理装置からの指示により送信するデータが,本願発明では, 「ID番号記憶回路に書き込まれたチップ固有の識別番号」であるのに対し引用発明では 「EPROMに記憶された識別コードを利用して作成される ,応答コード」である点を認定しており,この認定は,送信するデータという面からみたものであるため,引用発明の構成を「応答コード」としているが,データの内容としてみれば,引用発明が機種ごとの「識別コード」であるのに対し,本願発明が「各チップに付された固有の識別番号」であることを相違点として認定したということができる 。。)したがって,原告の上記・の主張は採用することができない。
(3) 次に,原告の上記・の主張について検討する。
本願発明の特許請求の範囲には「遊技機用セキュリティチップ」との記載があるのみであり 「セキュリティ」の語が安全,治安,防衛等を意味する ,ことからすると,上記記載をもって,本願発明が当然に遊技機のプログラムが正規のものか否かを判定するセキュリティチェック機能を有しているとも,また,そのための「識別コード」を「識別番号」とは別に備えているとも認めることはできない。むしろ,本件出願の当初の明細書(甲10)の特許請求の範囲に記載されていた「ユーザープログラム内蔵メモリー14に書き込まれたプログラムが正規のものであるか否かを所定のセキュリティコードに基づきセキュリティチェックするセキュリティチェック回路16」との構成が,平成13年7月16日付けの補正により削除されたこと(甲11)からすると,本願発明においては 「セキュリティコード (これが引用発明に ,」いう「識別コード」に当たることは,上記補正前の特許請求の範囲の記載か。。 ら明らかである )に関する構成を不要としたものと解するのが相当であるしたがって,原告の上記・の主張も採用することができない。
(4) 以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について(1) 相違点1につきア 審決は,外部通信回路の構成が,本願発明では「暗号化回路と復号化回路及び外部通信インターフェース回路を有する外部通信制御回路であり,暗号化されたコマンドの復号化,識別番号の暗号化を行うものである」のに対し,引用発明では「シリアルI/Oインターフェースが暗号通信機能を有するものではない」ことを相違点1と認定した上で(6頁16〜20行 ,@ 装置間で通信を行う場合に,情報の秘匿性を高めるために情報 )を暗号化することは必要に応じて行われることであり,暗号化通信のための構成として,双方の装置に同一機能を有する暗号化回路及び復号化回路を設けることは,普通の構成にすぎない,A 請求人(原告)は,通常のネットワーク通信における暗号化の目的は,第三者による通信内容の盗取を防ぐことにあるが,本願発明において暗号化回路及び復号化回路を設置する目的は,それ以上に,不正チップを検査するために利用することにある旨を主張するけれども,回路構成を複雑にすれば回路の偽造がしにくくなること自体は自明のことであるから,暗号化回路及び復号化回路を偽造防止の目的で設置することも格別のことではないと判断した(6頁29行〜7頁20行 。)これに対し,原告は前記第3の1(4)イ・のとおり主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。
イ 原告は,本願発明の上記構成は 「識別番号」が第三者に読み取られる ,ことを防止する目的で設けられたものであり,回路の偽造の容易性とは無関係であるから,審決の判断は論理付けを誤っていると主張する。
しかし,審決は,上記ア@のとおり,通信を行う際に情報の秘匿性を高めるために情報を暗号化することは必要に応じて行われるものであることを主たる理由として,相違点1に係る構成は容易に想到することができるとの判断に至ったものである。審決が,上記アAにおいて,回路構成を複雑にすれば回路の偽造がしにくくなる旨の判断を示したのは,審判段階における原告の主張に応じたものであって,審決の上記判断に何ら不合理なところはない。
ウ 原告は,本件出願の当時,チップごとに付与する「識別番号」に基づいて真贋判定を行うという技術的思想が存在しなかった以上 「識別番号」,が第三者に読み取られることを防止するという技術的課題も存在しなかったから,本願発明の構成を容易に想到することはできないと主張する。
しかし,引用発明は,遊技機器用のチップに付与された識別コードに基づいて不正判定を行うようにした技術であるところ,引用例1(甲2)には 「続いて,EPROM5に書き込まれたセキュリティコードCDを利 ,)。 用して,読出コードに対応した応答コードを生成する(ステップ250この生成処理は,例えば,読出コードに対してセキュリティコードCDを用いた演算を行なった結果を応答コードとして生成するものなどを考えることができる (段落【0023 「なお,ステップ210〜290に 。」】),よるセキュリティコードCDを用いた読出コードと応答コードとのやり取りは,パチンコ機制御装置1と接続される外部の制御処理装置(ホストコンピュータ9)が正当なものであるか否かを判定するセキュリティチェック機能を果たす ( 0025 )と記載されたとおり,不正判定のために 」【 】応答コードを用いることが示されている。そして,上記記載によれば,応答コードは,識別コード(セキュリティコードCD)を用いた演算結果により生成され,外部管理装置へ送信されるものであるから,その応答コードをそのままのデータの形で外部管理装置へ送信した場合には,悪意を持った第三者がこれを読み出して不正を行う危険性のあることを容易に予想することができる。そうすると,引用発明における応答コードの送信に当たり,何らかの秘匿手段を設けるべきことが当然に想定されるところ,通信内容の秘匿手段としては,暗号化及び復号化の手段が代表的な周知技術であることは明らかであるから,そのような手段を講ずることに格別な困難性及び創作力を必要とするということはできない。
そして,以上の点について,不正判定に用いられるものが,引用発明のような「識別コード」である場合と,本願発明のような「各チップ毎に付与する識別番号」である場合とで,別異に解すべき事情があることもうかがわれない。
したがって,相違点1に係る本願発明の構成は,当業者(発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に想到し得るものであると認められる。
エ 原告は,本願発明は,外部管理装置とセキュリティチップ内の外部通信回路とに同一の暗号化回路及び復号化回路を設置して通信を行うように構成することによって,チップの偽造等の不正を簡易に発見するための手段としても利用することができるのであり,このことが自明であるとも着想容易であるともいえないと主張する。
しかし,外部と情報の送受信を行うに際し,情報の重要性にかんがみ,暗号化及び復号化の技術を施すことは極めて周知の手法であり,その際に送り手及び受け手の双方に同一の暗号化回路及び復号化回路を設けることも,周知の技術であると認められる(乙2〜4 。そうすると,本願発明 )において,外部管理装置とセキュリティチップ内の外部通信回路とに同一の暗号化回路及び復号化回路を設置したことによって,原告の主張するように,簡易な不正発見手段として利用することが可能となったとしても,そのことをもって,本願発明の進歩性を基礎づけることはできないというべきである。
したがって,この点に関する原告の主張も採用することができない。
(2) 相違点2につきア 審決は,外部管理装置からの指示により送信するデータが,本願発明にでは「ID番号記憶回路に書き込まれたチップ固有の識別番号」であるのに対し,引用発明では「EPROMに記憶された識別コードを利用して作成される応答コード」である点を相違点2と認定した上で(6頁21〜24行 「電子機器等の保守,流通管理等の目的で製品に製造番号を付す ),ことが従来より行われており,この製造番号をCPU内の不揮発性メモリに格納し,外部からの指示により表示することは,引用例2に示されるように公知のことである。ここで,製造番号は製品を特定するためのものであり,製品に固有の番号であるから,前者〔判決注:本願発明〕におけるチップ固有の識別番号と言って良いものである。従って,前者において製品管理(偽造品管理を含む)の目的でチップに固有の識別番号を付し,チップ固有の識別番号を外部からの指示で読み出せるようにすることは容易に為し得ることである 」と判断した(7頁21〜29行 。 。)これに対し,原告は前記第3の1(4)イ・のとおり主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。
イ 原告は,審決の判断は,引用発明の「識別コード」が本願発明の「識別番号」に相当するとした前提に誤りがある以上,当然に誤りであると主張するが,この主張を採用し得ないことは,取消事由1について説示したとおりである。
ウ 原告は,審決が,本願発明における「各チップに付与された固有の識別番号」を付することの技術的意義を看過した結果,技術的に無関係であるのみならず,違法な技術内容が開示された引用例2を引用して,誤った認定判断に陥ったものであると主張する。
そこで検討すると,まず,引用例2(甲3)には,@「従来の技術」の項に 「テレビ受像機やパーソナルコンピュータ等の機器には大抵品質保 ,証がついており,ユーザの正常な使用状態の下で故障が生じた場合には,保証規定にしたがってメーカが責任をとり故障箇所を修理するようになっている 「そのような機器の各々を識別する意味で,各機器筐体の片隅 。」,等に製造番号(シリアルNO.とも称される)が形名(製品名とも称される)と共にラベル表示される。これにより,メーカのほうでは製造番号を基に各機器製品の製造ラインや流通経路,購入先等を管理できる (1。」頁右下欄3〜13行 ,A「発明が解決しようとする問題点」の項に, )「製造番号の改ざんは,ディスカウント製品以外にも,盗難品やその他の不正な方法で取り引きされる機器製品に対しても行われている (2頁。」右上欄14〜16行 ,B「実施例」の項に 「EAROM(EPROM ),とも称される)18は消去可能プログラマブル読出専用メモリで,ここには従来のようにチャンネルデータやバンドデータ等が格納されるほか,本発明にしたがい当該テレビ受像機の製造番号のデータが格納される 」。
(2頁右下欄10〜15行 「EAROMを内蔵したマイクロコンピュ ),ータも開発されているので,そのようなICまたはLSIチップを使用すれば,より一層改ざんが難しくなる (4頁右上欄1〜4行 「本実施 。」),例はテレビ受像機に係るものであったが,本発明はVTRやビデオディスク等の他の機器にも適用可能である(4頁右上欄19行〜左下欄1 。」行)との記載がある。
また,本件出願の前に刊行された乙5(発明の名称を「正当でないコピーおよび使用から集積回路を保護する方法および装置」とする公表特許公報平2-501428)には,C「発明の分野」の項に 「本発明は集積,回路のための安全システムおよび方法に関するものであり,特に正当でないコピーから集積回路システムを保護しそれらの使用を制御するためのシステムおよび方法に関するものである (4頁左下欄6〜9行 ,D「発 。」)明の概要」の項に 「上記問題の観点において,本発明の目的は様々なI ,CおよびICを組込むシステムのための安全システムおよび方法を提供することである。この安全システムはICの設計のコピーを防ぎ,ICの使用を制御するため使用される。ICの使用の制御はICが組込まれる任意のシステムの使用を制御する。この使用制御はシステムの任意の形の不正使用からシステムを保護する (同頁右下欄12〜18行 ,E「好まし 。」)い実施例の詳細な説明」の項に 「この修正は全ウェハ上の各および全て ,のチップ(あるいはIC)へ2つのものを組込む。第1のものは“制御コード”であり,第2は“チップ識別性”即ち“チップID”である。各チップが個々に修正されるので,実際使用制御のためには,全チップのための独自の制御コードおよびチップIDを実施することが望ましい (7。」頁左上欄13〜19行)との記載がある。
引用例2の上記@〜Bの記載によれば,引用例2には,不正防止を目的として,機器の製造番号,すなわち,機器に固有の識別番号を,機器に内蔵されたチップ内のメモリーに格納する技術が示されており,この技術は,テレビ受像機に限らず,パーソナルコンピュータ,VTR,ビデオディスク等の機器にも適用されるものであると認めることができる。
また,乙5の上記C〜Eの記載によれば,ICチップの不正コピーといった不正使用防止を目的として,ICチップに固有の識別番号を付してチップごとに識別することは,本件出願の当時,周知の技術であったことが認められる。そして,ICチップは様々な分野で利用されており,その不正防止が分野を超えて共通した課題であることは明らかであるから,乙5に示されたICチップに係る技術は,本願発明のような遊技機の分野にも関係する技術であるということができる。
さらに,本願発明,引用発明及び引用例2に記載された上記技術は,それぞれ,個々のチップ,遊技機の機種及び機器の本体を対象とするものであるという点では差違が認められるものの,不正防止を目的とする技術であるという点では共通する。
そうすると,引用発明に,引用例2に記載された技術を適用すること,すなわち,引用発明の「識別コード」を用いて機種レベルで不正行為を防止することに替えて 「各チップに付与された固有の識別番号」を用いて ,個々のチップのレベルで不正行為を防止することは,当業者が容易に想到し得る事項であると認めることができる。
エ 原告は 「識別コード」に替えて「固有の識別番号」を採用すると,セ ,キュリティチェック機能を実行することが不可能となってしまうから,そのようなことは当業者にとって有り得ない発想であると主張する。
しかし,本願発明は,遊技機中のセキュリティチップに関する発明であり,識別番号により個々のチップが正規のものであるか否かを判断するものであるが,本願発明に係るセキュリティチップを備えた遊技機において,このセキュリティチップとは別に,プログラムが正規のものであるか否かを判断するセキュリティチェック機能を併せ持つことを妨げるものではない。したがって,この点に関する原告の主張も失当というべきである。
(3) 相違点3につき審決は,本願発明ではユーザープログラム内蔵メモリー及びID番号記憶回路がセキュリティチップに内蔵されているのに対し,引用発明では集積回路に外付けされている点を相違点3と認定した上で(6頁25〜27行 ,)一般に集積回路によって装置を構成する場合,ワンチップにどの程度の機能を盛り込むかは,組立てコストや後の設計変更,生産個数等の様々な要素を考慮して決定する事項であるなどとして,本願発明における上記構成を格別なものということはできないと判断した(8頁3〜19行 。), これに対し,原告は,前記第3の1(4)イ・のとおり,審決の上記判断は引用発明の「識別コード」が本願発明の「識別番号」に相当するものであることを前提とした点において誤りであると主張する。
しかし,引用発明の「識別コード」が本願発明の「識別番号」に相当するとした審決の認定に誤りがあるといえないことは,取消事由1について判断したとおりである。したがって,相違点3についても,原告の主張を採用することはできない。
(4) したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
4結語以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも採用することができない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 大鷹一郎
裁判官 長谷川浩二