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関連審決 不服2003-21521
関連ワード 技術的思想 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10634号 審決取消請求事件
原告 昭和電工建材株式会社代表者代表取締役
訴訟代理人弁理士 菊地精一
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 岡本昌直
同 岡 千代子
同岡田孝博
同小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/03/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-21521号事件について平成17年6月27日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が後記特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対し不服の審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成12年7月12日,名称を「複合管の接続構造」とする発明につき特許出願をした(甲2。以下「本件出願」又は「本願」という 。。)特許庁は,平成15年9月30日,本件出願につき拒絶査定をしたので,原告は,これを不服とする審判を請求し,特許庁において不服2003-21521号事件として審理されることになった。原告は,その係属中の平成17年4月15日,特許請求の範囲変更等を内容とする補正をした(甲10。)そして特許庁は,平成17年6月27日 「本件審判の請求は,成り立た ,ない 」との審決(甲1)をし,その謄本は平成17年7月20日原告に送 。
達された。
(2) 発明の内容本件出願に係り平成17年4月15日付けの補正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし4から成り,その内容は,下記のとおりである(下線は補正部分。以下,請求項1に記載された発明を「本願発明1」という 。。)記【請求項1】管内に流体または固形物を通行させる内管と,内管より大径で内管を被覆するごとく成形された窯業系の難燃性材料および/または不燃性材料の外管とが複合された,難燃性および/または不燃性の複合管と,複合管と接合する接合部の内径が複合管の内管の外径とほぼ同径の接合内管と,接合内管より大径で接合内管を被覆するごとく成形された窯業系の難燃性材料および/または不燃性材料の接合外管とが複合された,難燃性および/または不燃性の複合接続管との接続構造であって,接合外管と外管の間に介在された断熱シール材が過熱状態において膨張して複合接続管と複合管の接続部をシールすることを特徴とする複合管の接続構造。
【請求項2】複合管の内管および/または複合接続管の接合内管が合成樹脂であることを特徴とする請求項1記載の複合管の接続構造。
【請求項3】複合管の外管および/または複合接続管の接合外管が軽量モルタルを含む材料で成形されたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の複合管の接続構造。
【請求項4】断熱シール材が熱膨張性ゴムであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の複合管の接続構造。
(3) 審決の内容ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その要旨は,本願発明1は,特開平8-100881号公報(本訴甲3。
以下「引用例」という )に記載された発明(以下「引用例発明」とい 。
う )及び下記刊行物に示された周知技術に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したものである。
記・特開平8-210567号公報(本訴甲5。以下「甲5」という )。
・特開平8-178150号公報(本訴甲6。以下「甲6」という )。
・実願昭63-139896号(実開平2-65027号)のマイクロフィルム(本訴甲7。以下「甲7」という )。
イ なお審決は,上記判断をするに当たり,引用例発明の内容並びに本願発明1との一致点及び相違点を,次のとおり認定した。
<引用例発明>「管内に流体または固形物を通行させる内管7と,内管7より大径で内管7を被覆するごとく成形された繊維強化モルタル被覆管等の外管9とが複合された,耐火二層管直管6と,耐火二層管直管6と接合する接合部の内径が耐火二層管直管6の内管7の外径とほぼ同径の内管2と,内管2より大径で内管2を被覆するごとく成形された繊維強化モルタル被覆管等の外管4とが複合された,耐火二層管継手1との接続構造であって,外管4と外管9の間に介在された無機質繊維断熱材からなる環状パッキン5が耐火二層管継手1と耐火二層管直管6の接続部をシールする接続構造 」。
<一致点>「管内に流体または固形物を通行させる内管と,内管より大径で内管を被覆するごとく成形された窯業系の難燃性材料および/または不燃性材料の外管とが複合された,難燃性および/または不燃性の複合管と,複合管と接合する接合部の内径が複合管の内管の外径とほぼ同径の接合内管と,接合内管より大径で接合内管を被覆するごとく成形された窯業系の難燃性材料および/または不燃性材料の接合外管とが複合された,難燃性および/または不燃性の複合接続管との接続構造であって,接合外管と外管の間に介在された断熱シール材が複合接続管と複合管。。 の接続部をシールすることを特徴とする複合管の接続構造 」である点<相違点>本願発明1は,断熱シール材が,過熱状態において膨張して複合接続管と複合管の接続部をシールするものであるのに対し,引用例発明は,断熱シール材(無機質繊維断熱材からなる環状パッキン5)が過熱状態において膨張しないものである点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決は,以下のとおり,一致点の認定を誤り(取消事由1 ,相違点についての判断を誤ったものであるから(取消事由2 ,違法 ))として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(一致点の認定の誤り)審決は,引用例発明における「無機質繊維断熱材からなる環状パッキン5 (以下,単に「環状パッキン」ということがある )が本願発明1 」。
の「断熱シール材」に相当するとした上で,本願発明1と引用例発明とは「接合外管と外管の間に介在された断熱シール材が複合接続管と複合管の接続部をシールする」点で一致すると認定した(4頁9〜12,27・28行 。)しかし,本願発明1の断熱シール材は,火事等の過熱状態において膨張して接続部をシールするものであり,通常の状態において閉鎖状態にしておくことを要求していない。すなわち,本願発明1において,接合外管と外管とを通常の状態で完全にシールできるならば,外管等は過熱状態において熱収縮しないため,過熱状態において熱膨張する断熱シール材を用いる必要はないのである。また,接合外管と外管との接続は,狭隘な現場での加工であり,加工者の技量水準,切断面の凹凸,寸法精度不良や切断加工による精度不良によって多少隙間が形成されるため,接続部の完全なシール状態を確保することは困難なのであって,断熱シール材を接合外管と外管との間に介在させて当接するだけでは,完全なシール状態に接続することは不可能なのである。むしろ,密閉状態にある場合には,断熱シール材が外管の内側に膨張し,内管を押しつぶす可能性があるので,密閉状態にあってはならないのである。
これに対し,引用例発明の環状パッキンは,過熱状態において膨張するものではなく,通常の状態において完全なシール状態とすることを必要とするものであって,本願発明1の断熱シール材とは機能が基本的に異なる。したがって,これが本願発明1の「断熱シール材」に相当するとはいえないから,本願発明1と引用例発明との一致点についての認定は誤りである。
イ 取消事由2(相違点についての判断の誤り)審決は,甲5〜7の記載事項からみて 「建造物の配管に使用される ,耐火二層管に熱により膨張するシール材または目地材を用いることは従来周知の技術手段と認められ,また,当業者が引用例発明における断熱シール材について,従来周知である熱により膨張するシール材に置換することを阻害する要因はなにも認められない (6頁10〜14行)と 。」判断して,本願発明1の進歩性を否定した。
しかし,周知例として挙げられた甲5及び6は,いずれも金属管の単管同士の接続構造に関する発明であり,通常のパッキンと熱膨張性のゴムリング(甲5)又は熱膨張ゴムパッキン(甲6)とを組み合わせて使用するものであること,通常の状態においても完全に密閉されていること,過熱状態におけるシール性及び断熱性により保護されるべき内管を有していないことなどの点で,本願発明1及び引用例発明とは異なるものである。
また,甲7は,複合管ではなく,内面に耐火断熱被覆材を被覆した金属製ダクトの金属函体接続部の欠陥の対策に関する考案であり,加熱により収縮する耐火断熱被覆材の外周に金属製函体を配置したものであること,常温においてもシールされていることなどの点で,本願発明1及び引用例発明と異なっている。
以上のように,甲5〜7は技術的課題を異にするものであるから,これらに記載された事項を引用例発明に適用することは困難である。
しかも,過熱状態において断熱シール材が膨張して複合接続管と複合管との接合部をシールするが,通常の状態においては完全なシールが要求されないという本願発明1の技術的思想は,引用例及び甲5〜7には記載も示唆もされていないのである。
したがって,引用例及び甲5〜7に基づき,本願発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断は誤りである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論審決の認定及び判断は正当であり,原告主張の取消事由は,以下のとおり,いずれも失当である。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対し原告は,本願発明1の「断熱シール材」は,過熱状態において膨張して接続部をシールするものであり,通常の状態において密閉状態にあってはならないものである旨主張する。しかし,本願発明1の特許請求の範囲には,「断熱シール材が過熱状態において膨張して複合接続管と複合管の接続部をシールする」と記載され,過熱状態において断熱シール材が膨張するとは特定されているものの,通常の状態において密閉状態にあってはならないとは特定されていない。原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,失当である。
また,本件出願に係る明細書(甲2。以下「本願明細書」という )の発。
明の詳細な説明の項には 「断熱シール材として,熱膨張性ゴムを用いてい ,るので,熱膨張性ゴムの弾性を利用して,容易にしかも位置ずれなく装着することができ,さらに,接続後において地震等による振動・衝撃が作用したとしても,この熱膨張性ゴムの弾性によって振動・衝撃を確実に吸収して,接続部における破損・損傷を確実に防止することができる 」といった記載。
があり(段落【0020 ,これによれば,本願発明1の「断熱シール 】)材」は,過熱状態となる前の状態においても,接合外管及び外管に密着してある程度のシール性を有していることがうかがえるのであって,通常の状態におけるシール性が排除されているということはできない。
したがって,引用例発明の「環状パッキン」が,通常の状態において,完全なシール状態にあるとしても,これが本願発明1の「断熱シール材」に相当しないとの原告の主張は理由がない。
(2) 取消事由2(相違点についての判断の誤り)に対し審決は,建造物の配管に熱により膨張するシール材又は目地材を用いることが従来周知であることを立証するために,甲5〜7を周知例として引用したのであって,原告は審決の趣旨を正しく理解していない。
すなわち,本願発明1と引用例発明との相違点は 「断熱シール材」が過 ,熱膨張するか否かのみであるから,周知例において「断熱シール材」以外の部材の材質や構造がどのようなものであるかは,相違点の判断に影響するものではない。
そして,引用例発明は,耐火二層管継手とその製造方法及びその継手を用いた耐火二層管接合部構造に関するものであり,環状パッキンを不燃性の無機質繊維断熱材としていることからみて,二層管継手の接合部における耐火性を考慮したものであることは明らかである。他方,甲5〜7の断熱シール材は,具体的な適用箇所は異なるとしても,建造物の配管部に使用されるものである。そうすると,接合部での耐火性を向上させるために,引用例発明における複合管の接続部のパッキン(シール材)として,甲5〜7の過熱状態において膨張する断熱シール材を適用することは,当業者にとって容易に想到し得たものである。
したがって,審決の前記判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯 ,(2)(発明の内容 ,(3)(審決 ))の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の適否に関し,原告主張の取消事由ごとに判断する。
2 取消事由1(一致点の認定の誤り)について(1) 審決は,引用例発明における「無機質繊維断熱材からなる環状パッキン5」が本願発明1の「断熱シール材」に相当するとした上で(4頁9〜12行 ,本願発明1と引用例発明とは 「接合外管と外管の間に介在された断 ),熱シール材が複合接続管と複合管の接続部をシールする」ものである点で一致すると認定した(4頁27・28行 。), 原告は,前記第3の1(4)アのとおり,本願発明1の「断熱シール材」は火事などの過熱状態において膨張して接続部をシールするものであるのに対し,引用例発明の「環状パッキン」は,通常の状態において完全なシール状態を必要とするものであるから,審決の上記認定は誤りであると主張する。
(2) そこで検討すると,審決は,本願発明1と引用例発明との一致点を上記のとおり認定する一方,両者の相違点として,本願発明1の断熱シール材が,過熱状態において膨張して複合接続管と複合管の接続部をシールするものであるのに対し,引用例発明の断熱シール材(環状パッキン)は,過熱状態において膨張しないことを認定している(4頁29〜33行 。このことから)明らかなとおり,審決は,引用例発明の「環状パッキン」は,断熱シール材であって,複合接続管と複合管の接続部をシールするものである点では本願発明1の「断熱シール材」と一致するものの,過熱状態における性状については,膨張の有無において本願発明1の「断熱シール材」とは相違すると認定したものであって,過熱状態及び通常の状態におけるシール態様が共通すると認定したものではない。
したがって,上記原告の主張は,審決を正しく理解しないものであって,採用することはできない。
(3) もっとも,審決は,上記一致点の認定において,断熱シール材によりシール状態が形成される時点につき,本願発明1と引用例発明との異同を明確にしていないので,原告の上記主張は,この点を誤りとするものとも解される。
そこで,この点につき更に検討する。
ア まず,本願発明1の断熱シール材のシール状態が形成される時点についてみると,本願発明1の特許請求の範囲には 「接合外管と外管の間に介 ,在された断熱シール材が過熱状態において膨張して複合接続管と複合管の接続部をシールする」との記載はあるものの,通常の状態においてどのような形態とされているかについての記載はない。そうすると,本願発明1の断熱シール材は,過熱状態において膨張して接続部をシールするものであることを要するが,これをもって足り,通常の状態における形態を問わないものと解するのが相当である。
また,本願明細書(甲2)の発明の詳細な説明の「課題を解決するための手段」の項には 「断熱シール材として,熱膨張性ゴムを用いているの ,で,熱膨張性ゴムの弾性を利用して,容易にしかも位置ずれなく装着することができ,さらに,接続後において地震等による振動・衝撃が作用したとしても,この熱膨張性ゴムの弾性によって振動・衝撃を確実に吸収して,接続部における破損・損傷を確実に防止することができる 」との記載が。
あり(段落【0020 ,これによれば,本願発明1の「断熱シール 】)材」を,通常の状態(過熱されない状態)で接続部をシールするものと構成することも可能であると認められる。
そうすると,本願発明1の断熱シール材を,通常の状態においてシール状態にないものに限定することはできない。
イ 次に,引用例発明の環状パッキンのシール状態が形成される時点についてみると,引用例(甲3)には,@「実施例」の項に 「耐火二層管直管,6,6の内管7,7の開口端部7a,7a外周面に接着剤を塗布し,これら開口端部7a,7aを耐火二層管継手1の内管2の両受け口端部2a,2aへ挿入嵌合して開口端部7a,7aを環状突起2bに当接せしめて耐火二層管継手1の内管2と耐火二層管直管6,6の内管7,7との一体化を図り,かつ耐火二層管継手1の外管4の両受け口端部4a,4aに合成された環状パッキン5,5を,耐火二層管継手1の外管4の受け口端部4a,4aと,耐火二層管直管6,6の外管9,9の開口端部9a,9aとの間に押圧圧縮した状態で介装することにより耐火二層管継手1を介して耐火二層管直管6,6を一体的に接合する 」との記載(段落【003 。
0 。なお,同様の記載は,段落【0041】にもある ,A「発明の効 】。 )果」の項に 「振動,温度変化等に起因する耐火二層管直管と耐火二層管 ,継手との間の相対的な変位に対しても環状パッキンが追従して変形することと相俟って長期間安定した目地処理機能が確保でき (段落【004」3 )との記載がある。】これらの記載によれば,引用例発明の「環状パッキン」は,耐火二層管直管と耐火二層管継手との間の相対的な変位に対して追従して変形するものであって,通常の状態においてシール機能を発揮するとともに,過熱状態においては,膨張はしないものの,シール機能を持続するものであると認められる。
ウ 上記ア及びイによれば,本願発明1と引用例発明との相違点は,断熱シール材が,過熱状態において膨張してシールするか,過熱状態において膨張せずにシールするかの点にあると認められるから,審決が,両者の相違点を「本願発明1は,断熱シール材が,過熱状態において膨張して複合接続管と複合管の接続部をシールするものであるのに対し,引用例発明は,断熱シール材(無機質繊維断熱材からなる環状パッキン5)が過熱状態において膨張しないものである点 」と認定し(4頁29〜33行 ,他に 。)相違点を認定しなかったことに誤りはない。
(4) 以上のとおり,審決に一致点認定の誤りはなく,ひいては相違点の看過もないから,原告の主張する取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について(1) 審決は,本願発明1と引用例発明との上記相違点につき,甲5〜7に記載された事項からみて 「建造物の配管に使用される耐火二層管に熱により膨 ,張するシール材または目地材を用いることは従来周知の技術手段と認められ,また,当業者が引用例発明における断熱シール材について,従来周知である熱により膨張するシール材に置換することを阻害する要因はなにも認められない 」と判断した(6頁10〜14行 。 。)原告は,前記第3の1(4)イのとおり,甲5〜7に記載された技術は,断熱シール材が使用される対象物や,シールをする態様等において本願発明1と異なるから,審決の上記判断は誤りであると主張する。
本願発明1と引用例発明との相違点は,上記2(3)ウのとおり,断熱シール材が,過熱状態において膨張してシールするか,過熱状態において膨張せずにシールするかの点だけにあるから,引用例発明の「環状パッキン (過」熱状態において膨張しないもの)を,本願発明1の「断熱シール材 (過熱」状態において膨張してシールするもの)に置換することが容易であるかどうか,甲5〜7に基づいてこれを容易であると判断した審決を是認することができるかどうかを検討すべきものとなる。
(2) 証拠(甲5〜7)によれば,以下の事実が認められる。
ア 甲5は,発明の名称を「管継手」とする公開特許公報であり,発明の詳細な説明中に次の記載がある。
・ 「本発明は火災時のシール性を考慮した管継手に関するものである (段落【0001 ) 。」】・ 「食い込み部材と一体のゴムリングが膨張黒鉛入りの熱膨張性ゴムリングを用いているので,万一の火災に際してもゴムリングが継手と管外周面との間を充満し,都市ガス等の内部流体の噴出を防止し2次災害の発生を未然に防止する (段落【0007 ) 。」】イ 甲6は,発明の名称を「自在継手」とする公開特許公報であり,発明の詳細な説明中に次の記載がある。
, ・ 「本発明は,特にガス配管用に用いて,通常状態ではシール性が良く火災時においても大きな漏れを発生しない接続部が揺動自在な自在継手に関するものである (段落【0001 ) 。」】・ 「火災等に際しても熱膨張パッキンの収容空間が変化しないので,熱膨張パッキンの熱膨張によって継手本体と継手スリーブ間の揺動連結部がシールされ,内部を流れる都市ガス等の流体の漏れが防止される 」。
(段落【0006 )】ウ 甲7は,考案の名称を「耐火断熱被覆付金属製ダクトの接続部目地処理構造」とする実用新案登録出願(公開実用新案公報)のマイクロフィルムであり,明細書の考案の詳細な説明中には次の記載がある。
・ 「本考案は電線,ケーブル,可燃性管路等を火災から保護し,維持するための耐火断熱被覆付金属製ダクトの耐火断熱被覆構造に関するものである (1頁19行〜2頁1行) 。」・ 「本考案の目的は,火災などにより耐火断熱被覆付金属製ダクトが加熱されて耐火断熱被覆材が収縮しても,同被覆材の接続部に隙間が生じることなく,もって同ダクト内に敷設されている電線やケーブルが保護され,その機能が維持される,耐火断熱被覆付金属製ダクトの接続部目地処理構造を提供することにある (3頁16行〜4頁2行) 。」・ 「本考案の耐火断熱被覆付金属製ダクトの接続部目地処理構造は・・・・同接続部における隣り合う耐火断熱被覆材3の継ぎ目4に,熱によって膨張又は発泡する難燃性材料により所定形状に成形された目地材5が介在され,同目地材5は前記継ぎ目4に介在される介在部6と,同継ぎ目4から内側に突出して耐火断熱被覆材3の内面7に重合する頭部8とが一体に形成されたものであることを特徴とするものである (4。」頁4〜15行)・ 「本考案の耐火断熱被覆付金属製ダクトの接続部目地処理構造では,火災時に耐火断熱被覆材3が収縮しても,目地材5が加熱により膨張または発泡して,耐火断熱被覆材3の収縮方向に伸びるので,同被覆材3の収縮により生ずる隙間が目地材5により充填され,熱風が金属製ダクト内に流入しにくくなる(4頁17行〜5頁3行) 。」(3) 上記(2)の事実によれば,甲5〜7は,建造物に使用される配管又はダクトの接続構造に関する技術であり,火災等により過熱状態となった場合においても接続部分の密閉性が確保されることを目的として,熱により膨張するシール材又は目地材を用いたものであると認められる。
また,引用例発明(甲3)は,建造物の配管に使用される耐火二層管の接合部の構造に係る発明であり,これに用いられた「環状パッキン」は,耐火断熱作用を有する部材であって,前記2(3)イのとおり,通常の状態(過熱されない状態)だけでなく,過熱状態においてもシール機能を持続するものであって,火災等により過熱状態となった場合における接続部分の密閉性の確保を目的の一つとするものである。
そして,本願発明1(甲2,10)も,建造物の配管の接続構造に関するものであって,本願明細書(甲2)の「発明の効果」の項に「万一の火災時にも,過熱状態にて,断熱シール材が膨張することにより,これら複合管と複合接続管との接続部を確実にシールすることができ,これにより,接続部から内管内に火炎や煙が入り込んだりあるいは接続部から火災や煙が噴出したりして防火区画を越えて他の区画へ進入するような不具合を確実に防止することができる 」と記載されたとおり(段落【0042 ,火災時等にお 。】 )ける密閉性の確保を目的の一つとして,過熱状態において膨張する断熱シール材を採用したものということができる。
そうすると,甲5〜7に記載された技術と,引用例発明及び本願発明1とは,技術分野及び目的において共通すると認められるから,引用例発明の「環状パッキン (過熱状態において膨張しないもの)に替えて,甲5〜7 」に記載された熱により膨張するシール材又は目地材を採用し,本願発明1の「断熱シール材 (過熱状態において膨張してシールするもの)を備えた構 」成とすることは,当業者(発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)において容易に想到し得る事項であると認めるのが相当である。
したがって,審決の前記判断は相当として是認することができる。
(4) これに対し,原告は,前記のとおり,甲5〜7と本願発明1とは断熱シール材の適用対象やシール態様等において異なることを理由に,審決の判断に誤りがあるなどと主張するが,以上説示したところに照らし,原告の主張はすべて採用することができない。
4結語以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 大鷹一郎
裁判官 長谷川浩二