関連審決 | 異議2003-71494 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 公知技術 / 技術的手段 / 技術常識 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 交換 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10214号
特許取消決定取消請求事件
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原告 富士ゼロックス株式会社 訴訟代理人弁理士小泉雅裕 同 中村智廣 同 成瀬勝夫 被告 特許庁長官中嶋誠 指定代理人伏見隆夫 同 山下喜代治 同 井出和水 同立川功 同宮下正之 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/03/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1原告(1) 特許庁が異議2003-71494号事件について平成16年7月6日にした決定中,「特許第3356172号の請求項1ないし2,4ないし5に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2被告主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成4年1月17日に出願した特願平4-26269号(以下「原出願」という。)の一部を分割して,平成11年1月14日に新たな特許出願とした特願平11-8088号の一部をさらに分割して,平成13年6月11日に,発明の名称を「画像形成装置」とする新たな特許出願(特願2001-175921号)とした特許第3356172号(平成14年10月4日設定登録。以下「本件特許」という。登録時の請求項の数は11である。)の特許権者である。本件特許に対し,平成15年6月6日及び同年6月9日,特許異議の申立てがなされ,特許庁はこれらの申立てを異議2003-71494号事件として審理した。その過程で,原告は,平成16年5月11日付け訂正請求書により,本件特許に係る明細書の訂正を請求した(なお,この訂正により,請求項1ないし5及び10は削除され,請求項6ないし9及び11が訂正され,請求項1ないし5に繰り上げられた。)。特許庁は,審理の結果,同年7月6日,「訂正を認める。特許第3356172号の請求項1ないし2,4ないし5に係る特許を取り消す。同請求項3に係る特許を維持する。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,同年7月26日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲上記訂正後の本件特許に係る明細書(以下,図面と合わせて「本件明細書」という。)の請求項1ないし5の記載は,次のとおりである(以下,各請求項に係る発明を「本件発明1」などという。)。 【請求項1】用紙に画像を形成して記録紙とする画像形成部が内部に配置され,画像形成部の下方に当該画像形成部に用紙を供給する給紙部を備えた記録紙作成部と,略全域が前記記録紙作成部の上方に空間を介して設けられ,原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取ると共に,読み取った画像情報を前記画像形成部に供給する画像読取り部と,前記記録紙作成部と画像読取り部との間に記録紙作成部から排出された記録紙を収容し且つ前記画像読取り部の略全域に面した記録紙載置面を有する記録紙排出部を形成するように,前記記録紙作成部に対し画像読取り部を上方に持ち上げて支持する支持手段とを備え,前記記録紙作成部のうち画像形成部が内部に配置された装置本体と給紙部と,前記画像読取り部とを略同大とし,更に,前記支持手段が前記画像読取り部の両側端部を持ち上げて支持すると共に,前記記録紙排出部の側方両側を囲うように設けられ,前記画像読取り部及び前記支持手段に囲まれた記録紙取り出しのための開口部が装置前面側に形成されていることを特徴とする画像形成装置。 【請求項2】請求項1に記載の画像形成装置において,給紙部は,装置本体に対して装置前面側から挿入可能な用紙収容手段を備えていることを特徴とする画像形成装置。 【請求項3】請求項1又は2に記載の画像形成装置において,記録紙作成部は,装置本体の側部に設けられた用紙搬送路を介して記録紙を記録紙排出部に排出するものであることを特徴とする画像形成装置。 【請求項4】請求項1乃至3いずれかに記載の画像形成装置において,記録紙作成部は,装置本体の側部にジャム処理用の開閉部を備えていることを特徴とする画像形成装置。 【請求項5】請求項1乃至4いずれかに記載の画像形成装置において,前記記録紙作成部は,その上面両側部に配置され且つ画像読取り部底面に接触するように形成される立ち上がり部を備え,この立ち上がり部が前記支持手段を構成していることを特徴とする画像形成装置。 3 本件決定の理由別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件発明1,2,4及び5は,特開平3-120125号公報(本件決定における「刊行物6」,以下「引用例」という。甲4),特開平1-133462号公報(以下,本件決定と同じく「刊行物1」という。甲5),特開昭63-172172号公報(以下,本件決定と同じく「刊行物8」という。甲7)及び特開平2-32371号公報(以下,本件決定と同じく「刊行物10」という。甲8)記載の発明(ただし,本件発明4については,これらの発明及び周知技術)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条(判決注:平成11年法律第41号による改正前のもの,以下同じ。)2項の規定により特許を受けることができない,とするものである。 本件決定が上記結論を導くに当たり認定した引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)の内容,本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 (引用発明)用紙に画像を形成して記録紙とするイメージングユニット10が内部に配置された記録ユニットBと,イメージングユニット10の下方に設けられ,イメージングユニット10に用紙を供給する給紙ユニットAと,一部の領域が記録ユニットBの上方に空間を介して設けられ,原稿を読み取ると共に,読み取った画像情報をイメージングユニット10に供給する読み取りユニットCと,記録ユニットBと読み取りユニットCとの間に記録ユニットBから排出された記録紙を収容し且つ読み取りユニットCに面した排出トレイ13を有する空間を形成するように,記録ユニットBに対し読み取りユニットCをその両側で支持する記録ユニットBの上部壁を備え,上部壁は排出トレイを囲むように設けられ,読み取りユニットCと上部壁に囲まれた記録紙取り出しのための開口部が装置側部側に面するように形成されているファクシミリ装置。 (一致点)用紙に画像を形成して記録紙とする画像形成部が内部に配置され,画像形成部の下方に当該画像形成部に用紙を供給する給紙部を備えた記録紙作成部と,記録紙作成部の上方に空間を介して設けられて,原稿を読み取ると共に,読み取った画像情報を画像形成部に供給する画像読取り部と,記録紙作成部と画像読取り部との間に記録紙作成部から排出された記録紙を収容し且つ画像読取り部に面した記録紙載置面を有する記録紙排出部を形成するように,記録紙作成部に対し画像読取り部を支持する支持手段とを備え,更に支持手段が画像読取り部の両側を支持すると共に,記録紙排出部の側方両側を囲うように設けられ,画像読取り部及び支持手段に囲まれた記録紙取り出しのための開口部が形成されている画像形成装置,である点。 (相違点)(1) 画像読取り部が,本件発明1はその略全域が記録紙作成部の上方に空間を介して設けられているとともに,原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取るものであるのに対して,引用発明は全領域ではなく一部の領域が記録紙作成部の上方に空間を介して設けられているし,読み取りの態様についてもプラテンローラに搬送される原稿の画像を読み取るものである点(以下「相違点(1)」という。)。 (2) 記録紙排出部の記録紙載置面が,本件発明1では画像読取り部の略全域に面しているのに対して,引用発明はさほどの違いはないものの全領域とはいえない点(以下「相違点(2)」という。)。 (3) 支持手段が,本件発明1では記録紙作成部に対し画像読取り部の両側端部を上方に持ち上げて支持するものであり,また,開口部が装置前面側に形成されているのに対して,引用発明は,記録紙作成部に対し画像読取り部の両側を支持するものではあるが両側端部とまではいえないし,上方に持ち上げて支持するものでもないし,開口部も装置側部に面するように設けられている点(以下「相違点(3)」という。)。 (4) 本件発明1は画像形成部が内部に配置された装置本体と給紙部と画像読取り部とを略同大とするものであるのに対して,引用発明はそれらの大きさにさほどの違いはないものの,略同大とはいえない点(以下「相違点(4)」という。)。 |
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原告主張の取消事由の要点
本件決定は,本件発明1について,引用発明との相違点を看過する(取消事由1)とともに,その進歩性判断を誤った(取消事由2)ものであり,また,本件発明1の場合と同様の誤りに基づいて,本件発明2,4及び5の進歩性を否定した(取消事由3)ものであるから,本件決定のうち本件発明1,2,4及び5に係る特許を取り消した部分は,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(相違点の看過)本件決定は,引用発明の認定を誤り,その結果,本件発明1と引用発明との相違点を看過したものである。 (1) 引用発明の認定の誤りア 本件決定は,引用発明が「記録ユニットBに対し読み取りユニットCをその両側で支持する記録ユニットBの上部壁を備え,上部壁は排出トレイを囲むように設けられ」ている旨認定したが,誤りである。 イ 引用例には,記録ユニットBと読み取りユニットCとの奥行き方向に関する位置関係の記載はなく,記録ユニットBの後方側の上部壁に読み取りユニットCが載置されていることが明記されているわけでもないから,引用例の記載に基づいて,記録ユニットBの後方側の上部壁を認めることができるとしても,読み取りユニットCが記録ユニットBの後方側の上部壁に載置されていることは読みとれない。 また,引用例には,記録ユニットBの前方側の上部壁の形状の記載はなく,記録ユニットBの前方側の上部壁に読み取りユニットCが載置されていることが明記されているわけでもない上,引用例の第3図には,読み取りユニットCが奥行き方向に非対称な形状であることが示されているから,仮に読み取りユニットCが記録ユニットBの後方側の上部壁に載置されていると認定することが可能であるとしても,引用例の記載に基づいて,記録ユニットBの前方側に後方側と同様の上部壁があることは読みとれないし,仮に記録ユニットBの前方側に上部壁があるとしても,その上部壁に読みとりユニットCが載置されていることは読みとれない。 そして,本件特許の出願日(原出願の出願日)当時,読み取りユニットに相当する部分を一辺のみで支持する例(甲9,11)や,読み取りユニットに相当する部分が装置左側の垂直壁の上部のみに載置されている例(甲10)が知られていることに照らしても,引用発明の記録ユニットBに,読み取りユニットCをその両側で支持する上部壁があるとしなければならない理由はない。 (2) 本件発明1と引用発明との相違点の看過上記のとおり,本件決定が,引用発明について,「記録ユニットBに対し読み取りユニットCをその両側で支持する記録ユニットBの上部壁を備え,上部壁は排出トレイを囲むように設けられ」ていると認定したことは誤りであるから,本件決定が,本件発明1と引用発明との一致点として,「支持手段が画像読取り部の両側を支持すると共に,記録紙排出部の側方両側を囲うように設けられ」ている点を認定したこと,相違点(3)において,引用発明の支持手段につき,「記録紙作成部に対し画像読取り部の両側を支持するものではある」と認定したことも,誤りである。 すなわち,本件決定は,本件発明1では,@支持手段が記録紙作成部に対し画像読取り部の両側端部を支持し,A支持手段が記録紙排出部の側方両側を囲うように設けられており,B画像読取り部及び支持手段に囲まれる開口部が装置前面側に設けられているのに対し,引用発明にはこれらの構成が記載も示唆もされていないという相違点を,看過したものである。 そして,本件発明1の上記@ないしBの構成は,本件決定が引用したいずれの刊行物にも記載されていないから,本件発明1が上記刊行物に記載された発明から容易に発明できたものではなく,上記の誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。 2 取消事由2(進歩性判断の誤り)(1) 判断手法の誤りア 本件決定は,引用発明に相違点に係る本件発明1の構成の一部を付加した発明を,あたかも公知技術のように扱って,容易想到性の判断を行うという誤った判断手法を採用したものである。 すなわち,本件決定は,引用発明に相違点(4)に係る本件発明1の構成を付加した発明を想定した上で,相違点(2)や相違点(3)の容易想到性を検討しているが,引用発明に相違点(4)に係る本件発明1の構成を付加した発明から,本件発明1が容易に想到できたとしても,引用発明から本件発明1が容易に想到できたということにはならない。 また,本件決定は,「相違点(3)は相違点(1)についての変更をするに際して,具体化に当たって当業者が普通に考えつくことができる程度の構成の変更である」と判断したが,引用発明において,装置右側部を前面側に変更することは,ハンドセット4が装置後方側に配置され,操作に支障をきたすものとなるという阻害要因がある。そうすると,本件決定は,引用発明に相違点(1)に係る本件発明1の構成を付加した発明について,相違点(3)に係る構成とする,すなわち,向きを変更する動機付けがある旨判断したものというべきである。しかし,引用発明に相違点(3)に係る本件発明1の構成を付加した発明から,本件発明1が容易に想到できたとしても,引用発明から本件発明1が容易に想到できたということにはならない。 イ 前記1のとおり,引用発明が「記録ユニットBに対し読み取りユニットCをその両側で支持する記録ユニットBの上部壁を備え,上部壁は排出トレイを囲むように設けられ」ているとの認定は誤りであるから,引用発明から画像読取り部の両側端部を支持するものが導かれるということは,自明ではない。 また,装置本体と画像読取り部とを互いに突出するようにして配置した装置も画像形成装置として成立し,そのようにした場合には,両端部を支持する態様は取り得ないのであるから,装置本体と給紙部と画像読取り部とを略同大にしたとしても,自ずと画像読取り部の両端部を支持するものに至るということにはならない。そして,引用例には,装置本体と画像読取り部を互いに突出するようにした配置を妨げるような記載もない。 本件決定は,相違点(3)の認定において,「画像読取り部の両側を支持するものではあるが両側端部とまではいえない」とし,両側端部おいて支持されていないことを認めているのであるから,相違点(3)についての,「装置本体と給紙部と画像読取り部とを略同大とすると,支持手段は結果的に画像読取り部の両側端部を支持することになる」との判断は,論理的な飛躍を含むものであって,誤りである。 (2) 本件発明1の課題について本件発明1の課題は,引用例に記載も示唆もなく,周知のものでもない。 本件発明1は,「装置の設置スペースの低減を図りながら,記録紙排出部からの記録紙の取出し作業を容易に行うことができると共に,装置全体のコンパクト化を容易に実現することができることに加え,記録紙排出部からの記録紙の脱落を有効に防止する」という技術的課題に対してなされた発明である。 これに対し,引用例は,読み取りユニットCのコンパクト化並びにコストダウン及び原稿の操作性に関する課題を開示するものにすぎず,本件発明1の課題について記載も示唆もしていない。 仮に,設置スペースの低減,記録紙の取り出し性及び記録紙の脱落の防止のそれぞれが周知の課題であったとしても,これらは互いに相反するものであるから,本件発明1の課題が周知であるとはいえない。 このように,本件発明1の課題は,引用例に記載,示唆がなく,周知でもないから,引用例から本件発明1に至る動機付けはないというべきで,本件決定はこの点を看過したものである。 3 取消事由3(本件発明2,4及び5についての判断の誤り)本件発明2,4及び5は,本件発明1を引用し,さらにその構成を限定するものであるから,本件発明1についての上記取消事由1及び2と同様の理由により,本件発明2,4及び5に係る特許を取り消した本件決定の判断は誤りである。 |
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被告の反論の要点
本件発明1,2,4及び5に係る特許を取り消した本件決定における認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(相違点の看過)について(1) 引用発明の認定の誤りについて引用例の第1図,第7図において,記録ユニットBの排出ローラ9は,排出トレイ13の方に露出して迫り出して設けられているので,その軸受,支持部,駆動力伝達系は排出トレイ左端の垂直壁の内部には収容しきれず,記録ユニットBの前方側と後方側の両方に,排出トレイ13を囲うように上部壁を設けて,それらを収納していると理解するのが,自然である。また,電子写真方式のファクシミリ装置においては,多量の記録紙が重なり合うので,その脱落防止の工夫が必須であり,引用例の記録ユニットBの前方側には,後方側と同様に,上部壁があると理解するのが自然である。 さらに,引用例の読み取りユニットCはかなり重く,重心位置は垂直壁から随分右側にあり,原稿の重量や搬送等に伴う振動要因もあることを踏まえると,上部壁に載置されているからこそ安定的に支持されていると理解するのが自然であり,また,読み取りユニットCは前方側と後方側でほぼ同様の重さがあり,原稿の重量も両側にかかるものと理解されるから,前方側,後方側ともに,上部壁の上に読み取りユニットCが載置されているものと理解するのが自然である。 なお,原告は,引用例の第3図において,読み取りユニットCが前方側と後方側で非対称に描かれていることを指摘するが,この点は原稿搬送部分の片脇に排出ローラ55などに駆動力を伝達する駆動力伝達系が設けられていることを示すものであり,それ以外の主要な機構や構造はほぼ対称であると理解されるので,記録ユニットBの前方側においても,後方側と同様に,上部壁があり,前方側,後方側ともに,上部壁の上に読み取りユニットCが載置されているものと理解することを妨げるものではない。また,原告が指摘する甲9記載のものは,引用例記載の「読み取りユニット」とは構造が大きく相違するので,その構造を推定する根拠とはならない。 (2) 本件発明1と引用発明との相違点の看過について上記のとおり,本件決定における引用発明の認定は正当であり,本件発明1と引用発明との一致点及び相違点の認定も正当である。 2 取消事由2(進歩性判断の誤り)について(1) 判断手法の誤りについてア 本件決定では,本件発明1と引用発明との細かな相違も拾い上げて,相違点を認定したものであるから,相違点を複数に分け,順次検討する進歩性の判断手法は,合理的である。 イ 引用例における第1図,第2図及び実施例の説明の記載によれば,引用例記載の「ファクシミリ装置」の装置本体,給紙部,画像読取り部は,それぞれ,同じ定型サイズ紙を保持する保持部分を備えていると理解することが自然であるから,それらの奥行き外形寸法もさほど違わないものと理解できる。そして,装置全体の設置ないし使用の形態を考慮すると,原告のいう「装置本体と画像読取り部を互いに突出するようにした配置」は現実的でないから,装置本体,給紙部,画像読取り部は,奥行き方向に互いに突出することなく,ほぼまっすぐ重なるように積み上がっているものと解される。してみると,排出トレイ13の手前側,すなわち,装置本体の手前側端部の支持手段(上部壁),排出トレイ13の奥側,すなわち,装置本体の奥側端部の支持手段(上部壁)は,それぞれ,ほぼ,画像読取り部の手前側端部,画像読取り部の奥側端部を支持しており,「両支持手段は,画像読取り部の両側端部を支持している」と解されるものであって,本件決定の認定判断は,論理的,合理的に説明できるから,原告の主張は失当である。 (2) 本件発明1の課題について本件決定では,本件発明1の課題や効果についても十分に検討しており,それを踏まえて,本件発明3に係る特許を維持しているものであるから,原告の指摘はあたらない。 3 取消事由3(本件発明2,4及び5についての判断の誤り)について取消事由1及び2に理由がないことは上記1,2で述べたとおりであるから,本件発明2,4及び5についての本件決定の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について(1) 引用発明の認定の誤りについて原告は,本件決定が,引用発明について「記録ユニットBに対し読み取りユニットCをその両側で支持する記録ユニットBの上部壁を備え,上部壁は排出トレイを囲むように設けられ」ていると認定したことは,誤りである旨主張する。 ア 引用発明について(ア) 引用例(甲4)には,次の記載がある。 「まず,第1図に従いファクシミリ装置の概略構成について説明する。 このファクシミリ装置は,大きく分けて給紙ユニットA,記録ユニットB,読み取りユニットC及びオプション給紙トレイDの4ユニットから構成される。給紙ユニットAは,ファクシミリ装置の本体下部に設けられ,その上方に記録ユニットB及び読み取りユニットCがこの順に設けられ,記録ユニットBの右側に相当する本体右側壁にオプション給紙トレイDが装備される。給紙ユニットAはファクシミリ受信時において受信情報を記録する記録紙(図示せず)を記録ユニットBに給紙する。また,このファクシミリ装置が複写機として使用されるコピーモード時においても同様に記録ユニットBに記録紙を給紙する。かかる給紙ユニットAは,本体下部に装備され,多数の記録紙を収納する給紙カセット1と,給紙カセット1内の記録紙を一枚ずつ取り出し,記録ユニットBに給紙する給紙ローラ2と,給紙カセット1の上方部に装備されるファクシミリ制御基板3とを備えてなる。また,給紙ユニットAの外部にはハンドセット4と,操作表示部(図示せず)が設けられる。」(2頁右上欄7行〜左下欄9行)「一方,記録ユニットBには電子写真方式の作像行程を行うイメージングユニット10と,受信情報をレーザ光に変換してイメージングユニット10を構成する感光体ドラム12に露光するプリントヘッド11とが装置される。感光体ドラム12には搬送ローラ6とタイミングローラ7を介して前記記録紙が供給される。・・・感光体ドラム12に供給され,所定の作像工程によりトナー像が転写された記録紙は,感光体ドラム12から分離され,イメージングユニット10の左側部に設けられる定着ローラ8の位置に搬送され,ここでの定着工程が完了すると,排出ローラ9によりプリントヘッド11の上部に設けられる排出トレイ13上に排出される。」(2頁左下欄12行〜右下欄10行)「次に,第2図に従い読み取りユニットCの具体的な構成について説明する。読み取りユニットCの右側下部には多数枚の原稿DCがセットされる原稿トレイ20が装備される。セットされた原稿DCは矢印aで示す時計方向に回転駆動される給紙ローラ21により,左側に繰出され,・・・プラテンローラ51の位置に搬送される。」(3頁左上欄9行〜17行)「プラテンローラ51の上側には原稿DCの原稿画像をアナログの画像信号として読み取る密着型の読み取りセンサ50が設けられる。読み取りセンサ50により,読み取られた画像信号は2値化基板52に装置される2値化処理回路(図示せず)に入力され,明暗2値の画像データに変換され,その後,電話回線に送出される。」(3頁右上欄4行〜同欄10行)「読み取られた原稿DCは,次に搬送ローラ54及び排出ローラ55を介して上方に向けてUターン状に搬送され,読み取りユニットCの上方に設けられる上り傾斜状の排出面56上に排出され,…原稿受け202,202が受載する。」(3頁右上欄16行〜左下欄1行)引用例の上記記載,並びに,第1図及び第2図によれば,引用例記載のファクシミリ装置は,複写機としても使用されるものであって,読み取りユニットCにおいては,原稿DCが,原稿トレイ20から,給紙ローラ21など各種ローラにより原稿受け202まで搬送され,プラテンローラ51の位置において,読み取りセンサ50により,原稿画像が画像信号として読み取られること,給紙カセット1から給紙ローラ2により記録ユニットBに供給された記録紙は,搬送ローラ6など各種ローラにより感光体ドラム12に供給され,所定の作像工程によりトナー像が転写された後,定着ローラ8の位置での定着工程が完了すると,排出ローラ9によりプリントヘッド11の上部に設けられる排出トレイ13上に排出されることが認められ,また,引用例の第1図によれば,記録ユニットBの後方側に上部壁が存在し,その上端部の高さは読み取りユニットCの下端部の高さと一致すること,この上部壁により排出トレイ13の後方側が露出しないよう構成されていることが認められる(なお,これらの点は,原告も明らかに争わないところである。)。 (イ) しかしながら,引用例には,装置の前方側及び後方側の形状や構成について特段の説明はなく,第1図は断面図であるから,引用例の記載それ自体には,引用例記載の装置において,記録ユニットBの前方側に読み取りユニットCの下端部まで達する上部壁が存在するか否か,記録ユニットBの前方側及び後方側の上部壁に読み取りユニットCが載置されているか否か,そして,これらの上部壁が排出トレイを囲むように設けられているか否かが,明示されているとはいえないが,引用例に明示的には記載がないとしても,引用例に接した当業者が,その図面等から合理的に理解し得る事項であれば,これを引用発明の認定の基礎とすることができることはいうまでもない。 そこで,引用例記載の装置における上部壁について検討する。 前記(ア)のとおり,引用例記載の装置において,記録ユニットBの後方側に上部壁が存在し,その上端部の高さは読み取りユニットCの下端部の高さと一致すること,この上部壁により排出トレイ13の後方側が露出しないよう構成されていることが認められることは,引用例の第1図の記載自体から明らかである。そして,複写機等の画像形成装置においては,記録ユニットは全体が矩形状の筐体に収納されるのが通常であるから,引用例の第1図に記載されたものも,まずはそのように理解される。 他方,引用例には,装置前方側及び後方側の形状や構成について,特段の説明や図示がないことからすれば,当業者は,引用例の第1図に示される装置が,その前方側及び後方側の形状ないし構成について格別の特徴を有するものとは,通常,理解しないものと考えられる。 また,引用例記載の装置において,記録ユニットBを構成するイメージングユニット10などの要素が露出しないように,これを覆う壁部が前方側に設けられることは,技術常識に照らし,明らかであると考えられるから,記録ユニットBの前方側に上部壁がないとすれば,排出トレイ13の前方側が正面視略逆三角形状に露出することになり,装置の構成として不自然なものとなる。 そうすると,引用例に接した当業者は,引用例記載の装置の前方側の形状ないし構成について格別の特徴はなく,記録ユニットBの前方側にも,後方側と同様に,上部壁が存在し,この上部壁により排出トレイ13の前方側が露出しないよう構成されているものと理解するのが,通常と考えられる。 (ウ) 上記の理解は,本件明細書に記載された,引用例記載の装置についての原告自身の理解とも符合する。すなわち,本件明細書(甲3添付の全文訂正明細書)には,次の記載がある。 「【0002】【従来の技術】従来におけるデジタル方式の画像形成装置としては,例えば電子写真方式などの記録紙作成部の上方に記録紙排出部を設け,更に,この記録紙排出部の上方に原稿移動型画像読取り部を配設した態様が既に知られている(例えば特開平3-120125号公報参照)。 この態様によれば,装置本体の側方に記録紙排出部としての排出トレイを突出配置した態様(例えば特開昭62-131668号公報参照)に比べて,装置の設置スペースを低減できるという利点がある。 【0003】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,この種の画像形成装置にあっては,記録紙作成部と画像読取り部との間に設けられた記録紙排出部に記録紙を排出するようにしたため,記録紙排出部に排出された記録紙に対する取り出し作業が面倒になり易いという技術的課題が見い出された。また,この種の画像形成装置にあっては,更に,装置全体のコンパクト化をどのような観点から実現すべきかという明確な基準がなく,装置全体のコンパクト化を如何に効率的に実現していくかが解決すべき技術的課題になっている。」本件明細書の上記記載によれば,原告は,特開平3-120125号公報,すなわち引用例に記載された画像形成装置について,「記録紙作成部と画像読取り部との間に設けられた記録紙排出部に記録紙を排出するようにしたため,記録紙排出部に排出された記録紙に対する取り出し作業が面倒になり易いという技術的課題」があるものと認識したことが明らかである。 前記のとおり,引用例記載の装置において,記録ユニットBの前方側に上部壁がないとすれば,排出トレイ13の前方側が正面視略逆三角形状に露出することになり,装置の構成として不自然なものとなるが,その反面,排出された記録紙を装置の前方側から取り出すこともできることになるから,「記録紙排出部に排出された記録紙に対する取り出し作業が面倒になり易いという技術的課題」が生ずることはない。 そうすると,引用例記載の装置において,記録ユニットBの前方側に上部壁がないとすることは,当業者の通常の理解に反するのみならず,本件明細書に記載された引用例記載の装置についての原告自身の理解にも反するものというべきである。 (エ) さらに,引用例の第1図及び第2図の記載によれば,引用例記載の装置において,読み取りセンサ50,プラテンローラ51など,読み取りユニットCを構成し,ある程度重量があると考えられる要素が,排出トレイ13の上方に位置していることが認められる。 そして,読み取りユニットCの下端部の高さが記録ユニットBの後方側の上部壁の上端部の高さに一致していることは前記(ア)で認定したとおりであり,記録ユニットBの前方側にも,後方側と同様に,上部壁が存在すると考えられることは,前記(イ)で認定したとおりである。 そうすると,引用例に接した当業者は,通常,引用例記載の装置において,読み取りユニットCは,記録ユニットBの上部壁に載置され,これにより支持されているものと理解すると考えられる。 (オ) 以上によれば,引用例に接した当業者は,引用例記載の装置が,「記録ユニットBに対し読み取りユニットCをその両側で支持する記録ユニットBの上部壁を備え,上部壁は排出トレイを囲むように設けられ」ているものと理解するのが,通常であるというべきである。 イ 引用例の第3図について原告は,引用例の第3図には,読み取りユニットCが奥行き方向に非対称な形状であることが示されているから,仮に読み取りユニットCが記録ユニットBの後方側の上部壁に載置されていると認定することが可能であるとしても,引用例の記載に基づいて,記録ユニットBの前方側に後方側と同様の上部壁があることは読みとれないし,仮に記録ユニットBの前方側に上部壁があるとしても,その上部壁に読みとりユニットCが載置されていることは読みとれない旨主張する。 確かに,引用例の第3図は,読取ユニットCが奧側に突出した部分(図上の上方)を備えることを示している。 しかし,前記ア(イ)のとおり,記録ユニットBの前方側にも,後方側と同様に,上部壁が存在すると考えるのが通常であって,第3図の記載は必ずしもこのことを覆すものとはいえない。また,その前方側の上部壁に読み取りユニットCが載置されていないとすれば,記録ユニットBが読み取りユニットCの前方側に突出した構成となり,装置の構成として不自然なものとなる。 引用例(甲4)には,発明が解決しようとする課題として「排出トレイ56を設けた分,読み取りユニットC回りの構造が複雑,且つ大型化し,装置構成のコンパクト化及びコストダウンを図る上でネックになる。」(1頁右下欄16行〜19行)との記載がある。この記載は,直接的には,読み取りユニットC回りの構造について言及したものであるが,コンパクト化及びコストダウンは,装置全体においても当然考慮すべき一般的な課題であるということができる。そうすると,引用例記載の装置において,記録ユニットBが読み取りユニットCの前方側に突出した構成とすることは,コンパクト化及びコストダウンという課題に反するものであって,前方側に突出した部分に何らかの部材を収納する必要があるなど,特段の事情がない限り,想定しがたいものである。そして,引用例の記載を検討しても,かような構成を積極的に採用したと解すべき特段の事情があると解することはできない。 したがって,引用例の第3図の記載をもって,前記アの認定を覆すべきものと認めることはできない。 ウ 甲9〜11について原告は,読み取りユニットに相当する部分を一辺のみで支持する例(甲9,11)や,読み取りユニットに相当する部分が装置左側の垂直壁の上部のみに載置されている例(甲10)を指摘する。 (ア) 甲9の第2図において,排紙トレイ107の両側上方に壁部は記載されていないことに照らせば,甲9記載のファクシミリ装置において,原稿トレイ117は,第1図の左方側においてのみ支持されていることが認められる。 しかし,甲9記載のファクシミリ装置においては,給紙ローラ118,露光ランプ119,イメージセンサ121など画像読取部の大部分が第1図の左方側に集中して配置され,排紙トレイ107の上方には原稿トレイ117が存在するだけであることが認められるところであり,読み取りユニットCを構成する要素が排出トレイ13の上方に位置している引用例記載の装置とは,その構造を異にすることが明らかである。 したがって,甲9記載のファクシミリ装置が知られていることをもって,前記アの認定を覆すべきものと認めることはできない。 (イ) 甲11の第1図によれば,原稿読取装置を備えた照明部103が図面右方側においてのみ支持されていることが認められるが,甲11記載の画像形成装置が,引用例記載の装置における排出トレイ13に相当する構成を備えていないことも認められる。 加えて,甲11には,次の記載がある。 「本発明による画像形成装置にあっては,従来,読取部の照明にのみ用いていた光源を机上を照明する照明スタンドとして兼用する。」(2頁右上欄8行〜10行)「照明部103は,横長のランプ及び撮像素子などを内蔵し,その光が下部を広範囲に照明できると共に,外部から供給される原稿110の読取部を照明できるようにされている。」(2頁左下欄14行〜17行)甲11の上記記載によれば,甲11記載の画像形成装置は,光源を机上を照明する照明スタンドとして兼用するため,下部を広範囲に照明できるように,照明部下方の空間を広く取ったものであって,読み取りユニットCの下方に排紙トレイ13を有する引用例記載の装置とは,その構造を異にすることが明らかである。 したがって,甲11記載の画像形成装置が知られていることをもって,前記アの認定を覆すべきものと認めることはできない。 (ウ) 甲10の第1図によれば,読取部20が,図面左方側で,プリンタ部1の上方に接していることが認められる。 しかし,甲10の第1図は,甲10記載のファクシミリ装置の断面図(22頁右下欄2行)であり,これからは,図面の手前側及び奧側の構成が直ちに明らかであるとはいえないから,読取部20が,原告主張のように,図面左方側においてのみ支持されていることが明らかとはいえない。 この点をひとまず措くとしても,引用例の第1図には,読み取りユニットCの下端部の高さが記録ユニットBの後方側の上部壁の上端部の高さに一致していることが示されているのであるから,甲10記載のファクシミリ装置が知られていることをもって,前記アの認定を覆すべきものと認めることはできない。 エ 以上のとおりであるから,本件決定が,引用発明について「記録ユニットBに対し読み取りユニットCをその両側で支持する記録ユニットBの上部壁を備え,上部壁は排出トレイを囲むように設けられ」ていると認定したことに誤りはなく,引用発明の認定の誤りをいう原告の主張は採用の限りでない。 (2) 本件発明1と引用発明との相違点の看過について原告は,本件決定が,本件発明1と引用発明の一致点として,「支持手段が画像読取り部の両側を支持すると共に,記録紙排出部の側方両側を囲うように設けられ」ている点を認定したこと,相違点(3)において,引用発明の支持手段につき,「記録紙作成部に対し画像読取り部の両側を支持するものではある」と認定したことは,いずれも誤りである旨主張する。しかし,本件決定における一致点及び相違点(3)の認定の誤りをいう原告の主張は,本件決定が,引用発明について,「記録ユニットBに対し読み取りユニットCをその両側で支持する記録ユニットBの上部壁を備え,上部壁は排出トレイを囲むように設けられ」ていると認定したことが誤りであるとの主張を前提とするものであるところ,本件決定における引用発明の認定に誤りがないことは,上記(1)のとおりであるから,原告の主張はその前提を欠くものであって,採用することができない。 原告は,本件決定が,本件発明1では,@支持手段が記録紙作成部に対し画像読取り部の両側端部を支持し,A支持手段が記録紙排出部の側方両側を囲うように設けられており,B画像読取り部及び支持手段に囲まれる開口部が装置前面側に設けられているのに対し,引用発明にはこれらの構成が記載も示唆もされていないという相違点を,看過したと主張する。しかし,引用発明において,読み取りユニットCの前方側及び後方側の各端部は,記録ユニットBの前方側及び後方側の各上部壁に支持されるものと認められることは,前記(1)の認定に照らし,明らかであるところ,この上部壁は,本件発明1でいう「支持手段」に相当し,支持手段が記録紙作成部に対し画像読取り部の前後両側端部を支持するということができ,上部壁は排出トレイ13の前方側及び後方側を囲うものということができるから,引用発明は本件発明1の上記@及びAの構成を備えているというべきである。また,本件発明の上記Bの構成を引用発明が備えていないとの点は,本件決定において相違点(3)として認定されているところである。 したがって,本件決定が本件発明1と引用発明との相違点を看過したということはできず,原告主張の取消事由1には,理由がない。 2 取消事由2(進歩性判断の誤り)について(1) 判断手法の誤りについてア 原告は,本件決定が,引用発明に相違点に係る本件発明1の構成の一部を付加した発明を,あたかも公知技術のように扱って,容易想到性の判断を行うという誤った判断手法を採用した旨主張する。 しかし,本件決定が,本件発明1と引用発明の相違点を複数に分け,その容易想到性を順次検討するような言い回しをしたのは,相違点に係る本件発明1の構成の進歩性の判断の過程を説明するための便宜上のものであることが明らかであり,本件決定に原告主張のような判断手法の誤りがあるとはいえない。 そして,本件決定の進歩性の判断に誤りがないことは,以下のとおりであるから,原告の主張は採用の限りでない。 イ 相違点(1)について(ア) 刊行物1(甲5)には,次の記載がある。 「第1図及び第2図に示す画像形成装置1は,原稿に付された画像情報の読取走査を行う読取部3を内蔵した画像読取手段(スキャナ)2と,この画像形成手段2を上面に載置する状態で支持するレーザビームを用いた画像形成手段(レーザビームプリンタ)4とを有している。前記画像形成手段2は,筐体5と,この筐体5の上面部に水平状態に配置された透明ガラス製の原稿載置板6と,この原稿載置板6の側方で,かつ,前記筐体5の内部に設けられた原稿搬送手段7と,前記原稿載置板6上に載置される原稿及び原稿搬送手段7により搬送される原稿に対しそれぞれ読取走査を行う前記読取部3と,この読取部3の筐体5内における走行領域9を形成すると共に画像形成手段2の底面側を画する分離配置の第1底板部9A,第2底板部9Bと,前記原稿載置板6の上面を施蓋すると共に筐体5に対して開閉可能に連結され所定の傾斜角をもった開蓋状態のときその上面から前記原稿搬送手段7に原稿を挿入可能なプラテンカバー10とを具備している。」(2頁右上欄15行〜左下欄14行)刊行物1の上記記載及び第1図に照らせば,刊行物1には,画像読取り部が原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取る画像形成装置が記載されているものと認められる。 (イ) 刊行物10(甲8)には,次の記載がある。 「第1図は,本発明を適用したデジタル・カラー複写機の外形図を示している。全体は2つの部分に分けることができる。第1図の上部は原稿像を読み取り,デジタル・カラー画像データを出力するカラー・イメージ・スキャナ部1(以下,スキャナ部1と略す)と,スキャナ部1に内蔵されたデジタル・カラー画像データの各種の画像処理を行うとともに,外部装置とのインターフエース等の処理機能を有するコントローラ部2より構成される。スキャナ部1は,原稿押え11の下に下向きに置かれた立体物,シート原稿を読み取る他,大判サイズのシート原稿を読み取るための機構も内蔵している。」(1頁右下欄下から3行〜2頁左上欄11行)刊行物10の上記記載及び第1図,第2図に照らせば,刊行物10には,刊行物1と同様に,画像読取り部が原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取る画像形成装置が記載されているものと認められる。 (ウ) 刊行物1,10記載のものは,いずれも「画像形成装置」の分野に属するものであり,引用発明において,画像読取り部を原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取る構成とすることは,当業者が適宜なし得る程度のことといえる。 したがって,引用発明において,刊行物1又は刊行物10に記載された事項を適用して,相違点(1)に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が適宜なし得る程度のことであるというべきである。 ウ 相違点(2)及び(4)について(ア) 引用発明の前後方向の大きさについてみると,読み取りユニットC,記録ユニットBは,原稿DCないし記録紙をいずれも各種ローラにより搬送するものであるから,概略,原稿DCないし記録紙の幅に応じたローラ,トレイの幅に加えて,ローラをその一端で回転駆動するローラ駆動系を収納するに足る奥行きが必要になるものと認められる。そして,ファクシミリ装置,複写機など,原稿読取機能,記録紙作成機能を備えた画像形成装置においては,各種サイズの原稿ないし記録紙が使用されるものであるが,使用可能な最大サイズは,原稿,記録紙とも同じとされるものが通常見受けられるところである。また,ローラ駆動系収納のために必要な奥行きサイズが,読み取りユニットC,記録ユニットBとでさほどの違いがあるものとも想定しがたいので,結局,両者の前後方向の大きさは,略同等とみるのが相当である。 (イ) また,刊行物8(甲7)には,以下の記載がある。 「第1図は本発明にかかる複写機の斜視図で,この複写機は,概略,複写機本体(1),排紙装置(2),給紙装置(3),及び自動原稿給送装置(以下,「ADF」という)(4),で構成されており,下方から給紙装置(3),排紙装置(2),複写機本体(1),ADF(4)の順に積層配設されている。」(1頁右下欄15行〜末行)「排紙装置(2) 排紙装置(2)には外部に開方された空間である複写紙排紙部(21)が形成され,該排紙部(21)には排紙トレイ(22)が設けてあり,排紙部(21)の側部には排紙路(23)と給紙路(26)が形成されている。」(2頁右上欄13行〜18行)刊行物8の上記記載及び第1図,第2図に照らせば,刊行物8には,画像形成装置の一種である複写機が記載され,複写機の構成要素である,給紙装置(3),排紙装置(2),複写機本体(1),自動原稿給送装置(4)は下方から順に積層配設され,複写機本体(1),排紙装置(2),給紙装置(3)は略同大のものであって,排紙装置(2)には,排紙トレイ(22)を設けた複写紙排紙部(21)が形成され,排紙部(21)の側部には排紙路(23)と給紙路(26)が形成され,排紙トレイ(22)は,用紙搬送に必要な排紙路(23)と給紙路(26)を除いた排紙装置(2)の略全域に位置するように設けられていることが認められる。すなわち,刊行物8には,画像形成装置の各構成要素である,複写機本体(1),排紙装置(2),給紙装置(3)は略同大にするとともに,用紙搬送に必要な領域を除いた排紙装置(2)の略全域に位置するように排紙トレイ(22)を設けた画像形成装置が記載されているということができる。 一方,本件発明1は,「画像読取り部の略全域に面した記録紙載置面を有する記録紙排出部を形成する」との構成,及び,「画像形成部が内部に配置された装置本体と給紙部と,前記画像読取り部とを略同大とし」との構成を有するところ,前者は,記録紙載置面が画像読取部と略同大である趣旨と解することができるから,本件発明1において,記録紙載置面は,装置本体及び給紙部と略同大であるということができる。 そして,本件明細書(甲3添付の全文訂正明細書)の「このような技術的手段において,支持手段について補足すると,例えば図5において,画像形成装置の記録紙排出部5の両側にある上下方向に延びる部分は,画像読取り部2を記録紙作成部10から空間を隔てて上方に支持しており,『支持手段』に相当することは明らかである。」(段落【0006】)との記載に照らせば,本件明細書の図5(甲2)は本件発明1の実施形態を示すものと解されるところ,本件明細書には,「図5に示されるように,装置本体の側部に用紙搬送路と画像形成部とを配置した」(段落【0022】)と記載され,図5において,装置左側に厚みをもたせた壁部が形成されるように記載されていることからみて,本件発明1の記録紙排出部の記録紙載置面が「画像読取り部の略全域に面」するとは,記録紙載置面が画像読取り部と全く同大であることまでは要せず,用紙搬送路が形成される領域程度の差異があるものも含む意味と解される。 そうすると,刊行物8記載の複写機本体(1),排紙装置(2),給紙装置(3)を略同大にするとともに,用紙搬送に必要な領域を除いた排紙装置(2)の略全域に位置するように排紙トレイ(22)を設けた画像形成装置も,記録紙載置面が装置本体,給紙部と略同大であるということができ,本件発明1と同程度に「画像形成装置」のコンパクト化が図られているものとみることができる。 (ウ) 以上によれば,引用発明においても,画像形成装置の各構成要素である,画像形成部が内部に配置された装置本体と給紙部と画像読取り部とを略同大にするとともに,記録紙載置面を装置本体,給紙部と略同大にすること,すなわち,記録紙排出部の記録紙載置面が画像読取り部の略全域に面するようにすることは,格別の困難性を要せずに,当業者が適宜なし得る程度のことというべきである。 したがって,引用発明において,刊行物8に記載された事項を適用して,相違点(2),(4)に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が適宜なし得る程度のことであるというべきである。 エ 相違点(3)について(ア) 相違点(3)のうち,支持手段が,本件発明1では記録紙作成部に対し画像読取り部の両側端部を上方に持ち上げて支持するものである点について検討する。 まず,前記1(2)のとおり,引用発明の上部壁は,本件発明1でいう「支持手段」に相当し,支持手段が記録紙作成部に対し画像読取り部の前後両側端部を支持するということができる。 そして,前記イのとおり,画像読取り部を原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取る構成とすることは,当業者が適宜なし得る程度のことといえるところ,記録ユニットBと読み取りユニットCとの間に排出トレイ13を設ける引用発明において,単に画像読取り部を原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取る構成とすると,記録紙排出部としての空間がとれなくなるから,空間確保のために記録紙作成部に対して画像読取り部の全領域を上方に持ち上げて支持することは必然というべきであり,当業者が当然考慮し得る程度の事項というべきである。 したがって,引用発明において,相違点(3)に係る本件発明1の前記構成とすることは,当業者が適宜なし得る程度のことである。 原告は,装置本体と画像読取り部とを互いに突出するようにして配置した装置も画像形成装置として成立し,そのようにした場合には,両端部を支持する態様は取り得ないのであるから,装置本体と給紙部と画像読取り部とを略同大にしたとしても,自ずと画像読取り部の両端部を支持するものに至るということにはならない旨主張するが,引用発明においても,支持手段が記録紙作成部に対し画像読取り部の前後両側端部を支持するということができるのは,前示のとおりであるから,原告の主張は採用できない。 (イ) 次に,相違点(3)のうち,本件発明1では,開口部が装置前面側に形成されている点について検討する。 装置のどの面を前面,あるいは側方とするかは,装置の使用者が装置をどのような向きに置くかによって変わり得るものであり,本件発明1において「記録紙取り出しのための開口部が装置前面側に形成されている」と規定したこと自体,前面,側方の相対的な位置関係を特定する以上の意味を持つと解することはできないものであるが,引用発明においても,例えば,引用例第1図右側方向を前面側とするように装置を置くことは,設置場所の状況等に応じて使用者が適宜なし得る程度のことというべきであり,その際には必然的に開口部は装置前面側に面するように形成されることになる。 なお,本件明細書(甲3添付の全文訂正明細書)に,図5の実施形態の説明として「特に,本実施の形態では,記録紙排出部5の開口は,給紙ユニット20の挿入方向に開放されているため,給紙ユニット20の交換作業と記録紙排出部5からの記録紙の取り出し作業とを同じ側から容易に行うことができる。」(段落【0021】)と記載されていることから,仮に,本件発明1の「装置前面側」とは,給紙ユニットが挿入される側であると解したとしても,刊行物10(甲8)には,第1図,第2図の記載に照らし,給紙カセット20が挿入される側から記録紙を取り出すことができるようにしたものが記載されているものと認められるから,開口部を,給紙ユニットが挿入される側すなわち前面側に開放することは,当業者が容易になし得る程度のことといえる。 (ウ) 以上によれば,引用発明において,相違点(3)に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が適宜なし得る程度のことというべきである。 なお,原告は,引用発明において,装置右側部を前面側に変更することは,ハンドセット4が装置後方側に配置され,操作に支障をきたすものとなるという阻害要因がある旨主張するが,設置場所の状況によっては,ハンドセット4が装置後方側に配置されても必ずしも操作に格別の支障がないこともあり得るし,開口部を装置前面側に形成する際に,操作性を考慮してハンドセットを適宜の箇所に配置することは,当業者が設計的に適宜なし得る程度のことともいえるから,引用例にハンドセット4を備えたものが記載されているとしても,開口部を装置前面側に形成することに阻害要因があるということはできない。 原告の主張は採用できない。 オまとめ以上のとおり,引用発明に,刊行物1,刊行物8,刊行物10に記載された事項を適用して,相違点(1)〜(4)に係る本件発明1の構成のようにすることは,当業者が容易に想到することができたものというべきであり,これと同旨の本件決定の進歩性判断に誤りがあるとはいえない。 (2) 本件発明1の課題について原告は,本件発明1の課題は,引用例に記載,示唆がなく,周知でもないから,引用例から本件発明1に至る動機付けがないと主張する。 しかし,当業者であれば,引用発明に,刊行物1,刊行物8,刊行物10に記載された事項を適用して,本件発明1の構成のようにすることは容易に想到し得たものであることは,前記のとおりであるから,原告の主張は採用の限りでない。 3 取消事由3(本件発明2,4及び5についての判断の誤り)について原告主張の取消事由3は,取消事由1及び2と同様の理由により,本件発明2,4及び5に係る特許を取り消した本件決定の判断の誤りをいうものであるところ,取消事由1及び2が理由のないことは,すでに検討したとおりであるから,取消事由3もまた理由がない。 4結論以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,本件決定にこれを取り消すべき誤りは認められない。 したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |