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関連審決 無効2003-35241
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  試行錯誤 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  パリ条約 /  優先権 /  優先日 /  数値限定 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  混同 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10314号 審決取消請求事件
原告 コーニンクレッカフィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ
訴訟代理人弁護士 吉武賢次,宮嶋学,弁理士 橘谷英俊,佐藤泰和,吉元弘, 川崎康,中村行孝,紺野昭男,横田修孝,高村雅晴
被告 岩崎電気株式会社
訴訟代理人弁護士 外立憲治,西美友加,弁理士 岡部正夫,加藤伸晃,三山 勝巳
訴訟復代理人弁護士 岡伸夫,藪田広平,倉田伸彦,日比慎,鈴木理子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/03/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
。 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2003-35241号事件について平成16年3月31日にした審決を取り消す 」との判決。。
事案の概要
本件は,特許を無効とする審決の取消しを求める事件であり,原告は無効とされた特許の特許権者,被告は上記特許に対する無効審判の請求人である。
1 特許庁における手続の経緯(1) 原告は,発明の名称を「高圧水銀蒸気放電ランプ」とする特許第2829339号(請求項の数3。平成元年4月20日に出願(パリ条約による優先権主張1988年4月21日ドイツ国 ,平成10年9月25日に設定登録。以下「本件 )特許」という )の特許権者である (甲3) 。。
(2) 被告は,平成15年6月12日,本件特許について無効審判の請求をした(無効2003-35241号事件として係属 。)(3) 特許庁は,平成16年3月31日 「特許第2829339号の請求項1 ,ないし3に係る発明についての特許を無効とする 」との審決をし,同年4月12 。
日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲の記載【請求項1】タングステン電極と,実質的に水銀,希ガスおよび動作状態における遊離ハロゲンより成る封入物とを有する,高温に耐えることのできる材料より成3る容器を有する高圧水銀蒸気放電ランプにおいて,水銀の量は0.2mg/mmより多く,水銀蒸気圧は200バールよりも高く,管壁負荷は1w/mm より大2きく,またハロゲンC1,BrまたはIの少なくとも1つが10 と10 μmo-6 -4l/mm の間で存することを特徴とする高圧水銀蒸気放電ランプ。
3【請求項2】水銀の量は0.2と0.35mg/mm の間にあり,動作時の水3銀蒸気圧は200と350バールの間にある請求項1記載の高圧水銀蒸気放電ランプ。
【請求項3】ランプは青放射線を阻止するフィルタで取囲まれた請求項1または2記載の高圧水銀蒸気放電ランプ。
3 審決の理由の要点審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,請求項1ないし3に係る発明(以下,請求項記載の番号に従い「本件発明1」のようにいう )は,本件の優先。
日の前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,特許法123条1項2号の規定により,無効にすべきである,というものである。
( ) 米国特許第2,094,694号明細書(審判甲9(本訴甲2の1 ,以下「刊行物1」とい 1 )う )に記載された技術的事項 。
発光蒸気放電装置に係る発明に関し,( ) 発明の目的について 「我々の発明の目的の一つは,良い色特性が,高効率を有しつつ,極 1a ,。, めて高い表面輝度又は本質的な輝度をもって作用する発光蒸気放電装置を供することである さらに極めて高い蒸気圧を使用できる構成及び動作方法を供することも目的とするものである (1頁左欄。」4〜11行)( ) 発明が提供するランプについて 「構成及び動作の新しい原理によって,数百気圧まで動作 1b ,する放電蒸気ランプを供することができるのである (1頁左欄55行〜右欄3行) 。」( ) 発光色について 我々の発明を具体化する水銀蒸気ランプからの光は 本質的に赤色光 連 1c,「,(続スペクトルとして存在)を有し,それゆえ,現存する水銀アークランプの光よりも,より白色光に近いのである (1頁右欄24〜28行) 。」( ) 容器について 「幾分拡大された尺度の断面で示される第6図を参照すると,透明な材料, 1d,例えば融解石英,又は高温及び高圧での温度勾配に耐えることができる適当なガラスによって作られた容器1が示されている (2頁左欄21〜26行) 。」( ) 電極について 「それらは,タングステンの細いワイヤがらせん状に巻きつけられたタング 1e,ステンワイヤで構成されうる (2頁左欄68〜70行) 。」( ) 水銀及び希ガスについて 「4で示されている少量の水銀は,容器を十分に排気した後に且 1f ,つ容器が封止される前に,容器の中に封入される。我々は,また,後に述べるように,電極を引き離しているスペース間での放電の始動を促進するために,特に好ましいのは希ガスであるが,ガスを低気圧で封入する (2頁左欄32〜39行) 。」( ) 水銀の量について 「例えば,約0.5cm の内容積をもつ管において,当該管の中で10 1g,30気圧を維持するために要求される飽和水銀蒸気の重量は,液体水銀の温度が全空間の温度であった場合には,たった約100mgである。そのため,放電空間の大部分は放電路に沿っていて,液体水銀の温度をはるかに超えた温度になり,いくらかの未蒸発水銀が未だに残っている一方で,この水銀量の約半分は,そのような蒸気圧に到達するために必要以上に存在しているのである (2頁右欄1。」1〜23行)( ) 第5図について 「この曲線を取り出してみると,入力された100W/cmから600W 1h,/cmへのワットの増加は,40気圧から200気圧の蒸気圧の増加を伴っている (7頁左欄27。」〜31行)( ) 第18図に図示する例について 「第18図で示されているような各端部を有する電極構造 1i ,を備え,記載しているように内径1mm,壁厚1mm,数センチメートルの圧力で始動ガスを封入している水冷ランプは,いかなる酸化物によっても加工されていない電極で動作される。電極間のスペースは10mmで,ランプの電流は1.5アンペア,電極間の電圧は800ボルト,管内の圧力は約。, 。 」() 200気圧であった 最大輝度は160 000CP/cm であった 11頁右欄31〜42行2と記載されている。
( ) 本件発明1について 2ア対比本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比する。
(ア) 刊行物1に記載された放電ランプは,容器が高温に耐えることのできる材料である石英よりなるものであって(摘記事項( )参照 ,電極にはタングステンが用いられ(摘記事項( )参照 ,容 1d 1e ))器内には水銀と希ガスが封入されている(摘記事項( )参照)おり,これらの点では,本件発明1と 1f相違するものではない。
(イ) 摘記事項( )及び( )からみて,刊行物1に記載された発明は,数百気圧までの高い蒸気圧 1a 1bで動作する放電ランプを提供するものであり,また,摘記事項( )からみて,得られるランプは赤色 1c光(連続スペクトルとして存在)を有しているものと認められるが,これらのことは,本件明細書の「約300バールの動作圧力では,可視放射の連続部分は明らかに50%の上にある。その結果,放射された光スペクトルの赤部分も増される 」という記載に相当するものである。 。
また,刊行物1の第18図の実施例においては 「管内の圧力は約200気圧であった (摘記事 ,。 」項( )参照)と記載されており,1気圧=1.013バールであって,管内の希ガスは少量であるか 1iら,該実施例には,水銀蒸気圧が「約200バール」であることが記載されているといえる。
(ウ) 前記実施例中には,水銀の量については具体的な記載はないが,刊行物1には 「約0.5c,m の内容積をもつ管において,当該管の中で100気圧を維持するために要求される飽和水銀蒸気3の重量は,液体水銀の温度が全空間の温度であった場合には,たった約100mgである (摘記事。」項( )参照)と記載されており,該記載から,100気圧を維持するために要求される飽和水銀蒸 1g気の重量が「0.2mg/mm 」であると計算され 「約200気圧」を維持するために要求される3,飽和水蒸気の重量はこの「0.2mg/mm 」以上であることは明らかであるから,封入される水3銀の量は0.2mg/mm 以上であるといえる。
3(エ) 刊行物1には,本件発明1の管壁負荷w/mm に相当する直接の記載はないが,第18図に2示す実施例では(摘記事項( )参照 ,ランプの電流は1.5アンペア,電極間の電圧は800ボル 1i)トであるから,ワット数は,1200wである。該実施例における発光管の長さが記載されていないために発光内壁の表面積は不明であるが,発光管の内径が1mmであるから,内壁の周方向の長さは3.14mmとなり,管壁負荷が1w/mm となる発光管の長さは約382mmと計算される。こ2の400mmに近い長さは,内径1mmに比べて非常に長いものであって,刊行物1記載の発明においては発光管の長さは少なくともこの算出された長さより少ないことは明らかであるから,管壁負荷が1w/mm 以上であることも明らかである。
3以上の(ア)ないし(エ)を踏まえると,本件発明1と刊行物1に記載された発明とは,「タングステン電極と,実質的に水銀および希ガスより成る封入物とを有する,高温に耐えることの3できる材料より成る容器を有する高圧水銀蒸気放電ランプにおいて,水銀の量は0.2mg/mmより多く,水銀蒸気圧は高く,管壁負荷は1w/mm より大きい高圧水銀蒸気放電ランプ 」2。
である点で一致しており,以下の点で相違している。
相違点1:水銀蒸気圧を高くする点について,本件発明1では 「200バールより高く」としているのに対 ,し,刊行物1には 「数百気圧まで」或いは「約200気圧」という記載があるものの 「200バー ,,ルより高く」という直接の記載はない点。
相違点2:本件発明では,封入物として 「動作状態における遊離ハロゲン」を有し,かつ,その「ハロゲン ,C1,BrまたはIの少なくとも1つが10 と10 μmol/mm の間で存する」としている-6 -4 3のに対して,刊行物1には,ハロゲンを封入することについての記載はない点。
イ 相違点についての判断(ア) 相違点1についてa 相違点1に係る構成を採用した理由について,本件明細書には 「より高い水銀蒸気圧では光 ,出力と演色評価数が著しく増加することがわかったが,これは連続部分の強烈な増加によるものである。200バールより大きな高い圧力では,準分子状態( )よりの連続放射のほか quasi molecular stateに,実際の束縛分子状態( )の帯放射も寄与するものと考えられる。約300バ bound molecule stateールの動作圧力では,可視放射の連続部分は明らかに50%の上にある。その結果,放射スペクトルの赤部分も増される (特許掲載公報3欄34〜42行)と記載されている。 。」b これに対し,刊行物1には 「数百気圧までの高い蒸気圧で動作する放電ランプを供すること ,ができる (摘記事項( ))及び「我々の発明を具体化する水銀蒸気ランプからの光は,本質的に赤 」1b色光(連続スペクトルとして存在)を有し,それゆえ,現存する水銀アークランプの光よりも,より白色光に近いのである (摘記事項( ))と記載されており,高い水銀蒸気圧を採用した理由におい 。」1cては,本件発明1と異なるものではないが,その具体的な数値については 「この曲線を取り出して ,みると,入力された100W/cmから600W/cmへのワットの増加は,40気圧から200気圧の蒸気圧の増加を伴っている (摘記事項( ))及び「管内の圧力は約200気圧であった (摘 。」。 」 1h記事項( ))の記載があるだけで 「200バールより高く」することを具体的に示す記載はない。 1i ,W.Elenbaas, c しかしながら,W.エレンバースほか著「高圧水銀蒸気放電」1951年発行(THE HIGH PRESSURE MERCURY VAPOUR DISCHARGE 1951, North-Holland Publishing “”,審判甲1(本訴甲2の2 ,以下「刊行物2」という )の第67図には,水銀蒸気圧を3 Company )。
5気圧から300気圧に増加するにつれて放射スペクトルの可視光域での増加がみてとれ,特に300気圧のものにおいては,放射スペクトルは赤色部分で連続したスペクトルとなっており,赤色域での増加がみてとれる。
してみれば,当業者であれば,刊行物2の記載に基づいて,可視光域での増加を目的として,刊行物1に記載された発明において,水銀蒸気圧を「200バールより高く」することは格別な創意を要することなく容易に想到し得るものである。
そして,本件明細書及び図面の記載をみても 「200バール」という数値に予期しない格別な臨 ,界的意義があるとも認められない。
したがって,刊行物1に記載された発明において,相違点1に係る構成を採用することは,刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
(イ) 相違点2についてa 本件明細書(特許掲載公報4欄4〜19行)には 「電極の非常に小さな寸法は,電極から蒸 ,発したタングステンによる容器壁の黒化の増加をきたすおそれがある。けれども,このような容器の黒化は絶対に避けねばならない,というのは,さもなければ壁温が熱放射の吸収の増加のために寿命中に高くなり,ランプ容器の破裂をきたすからである。タングステンの輸送によるこのような容器壁の黒化を避ける手段として,本発明の高圧水銀蒸気放電ランプは,ハロゲンCl,Brまたは1の少なくとも1つの少量を有する。これ等のハロゲンはタングステン輸送サイクルを生じ,これにより,蒸発したタングステンは電極に戻される。本発明の高圧水銀蒸気放電ランプでは,使用されるハロゲンは臭素(Br)であるのが有効で,この臭素は,約0.1ミリバールの封入圧力でCH Br の形22。, 。 」, でランプに入れられる この化合物は ランプが点灯すると同時に分解される と記載されており該記載からすると,電極から蒸発するタングステンによる容器壁の黒化によるランプ容器の破裂を避けるために,上記相違点2に関する構成要件を採用したものと理解される。
,(() ,「 」 b ところで 特開昭54-150871号公報 審判甲11 本訴甲2の3 以下 刊行物3という )及び特開昭53-139377号公報(審判甲10(本訴甲2の4 ,以下「刊行物4」と 。)いう )に記載されているとおり,動作状態において遊離ハロゲンとなるようなハロゲンを発光管内 。
に封入し,蒸発したタングステンによる容器の黒化を防止することは,本件の優先日の前に既に良く知られているところである。
すなわち,刊行物3には 「内部に水銀と始動用希ガスと臭素とが封入された石英製の発光管,こ ,の発光管内に配された1対のタングステンからなる電極を備えた高管壁負荷の超高圧水銀放電灯において,発光管内に封入される臭素の封入量を,発光管内容積1cc当り0.1×10 グラム原子〜-66×10 グラム原子とする (特許請求の範囲2項参照)ことが記載され,その作用効果について-6」は 「発光管内に臭素を封入するとともに,電極を構成する材料としてタングステンを用いたことに ,より,高管壁負荷のものにあっても黒化および失透が防止されて長寿命になり (2頁右上欄下から ,」7〜2行の記載参照)及び「この様に上記実施例のものが良好な特性が得られた理由としては,放電灯点灯中,電極(6),(7)から飛散されたタングステンが発光管(1)の内壁に付着しても,これが発光管(1)内の臭素と化合してすぐに臭化タングステンとなり,管内壁のクリーニングにつながり,黒化および失透を防いだものと考えられる (2頁右下欄5〜11行参照)と記載されている。 。」また,刊行物4には 「電極を有する発光管内に希ガスと所定量の水銀を封入するとともに,その ,2 2封入水銀量をMHg(モル ,管壁負荷をWL(W/cm )で表わしたとき,0.2MHg/WL )(モル)以上で15MHg/WL (モル)以下の範囲のハロゲンを上記発光管内に封入してなる高2圧水銀ランプ (特許請求の範囲)が記載されており 「点灯中に発光管の内面に付着し,発光管が 。」,黒化して紫外線放射を妨げると同時に,発光管の材料である透光性石英ガラスに失透核を形成し,失透現象を生じさせる。そして点灯時間の経過とともに黒化および失透現象が進行して著しい紫外線出力の低下を来たすと同時に,失透減少が石英ガラスの外表面まで達すると外気が発光管内にリークして点灯不能になる等の事故が発生する。このような現象は発光管の管壁負荷が大きいほど短期間に起こり (2頁左上欄下から6行〜右上欄4行)という従来技術の問題を解決するものであることが記 ,」載されている。
c 被請求人が主張するとおり,刊行物3に記載された発明では,実施例に記載された水銀量が16.6mg/cc,すなわち0.0166mg/mm であることからみて,刊行物1に記載された3(. , ) 放電ランプ 水銀の量は0 2mg/mm より多く 水銀蒸気圧も約200気圧と高い放電ランプ3あるいは本件発明1の放電ランプに比較すると,刊行物3に記載された放電ランプの水銀量及び水銀蒸気圧は1桁ほど低いものであるといえる。
同様に,刊行物4に記載された発明では,実施例1に記載された水銀の原子量(200.59)を用いて,ランプ容積V=L×π×(D/2) ,封入水銀濃度CHg=200.59×MHg/Vに2基づき,封入水銀濃度CHgを概算すると,実施例1(イ)ないし(ハ)及び実施例2ないし4におけるランプの封入水銀濃度は,それぞれ「0.0033 「0.0022 「0.0040 「0.001 」」」9 「0.0019 「0.0019」であることからみて,刊行物1に記載された放電ランプあるい 」」は本件発明1の放電ランプに比較すると,刊行物3に記載された放電ランプの水銀量及び水銀蒸気圧は1桁ほど低いものであるといえる。
しかしながら,刊行物1に記載された放電ランプのように,水銀蒸気圧が高い放電ランプにおいては,管壁負荷も高くなることは当然に予想されるところであり,一方,前述のとおり,刊行物3(1頁右下欄12行から2頁左上欄下から3行参照)及び刊行物4(2頁左上欄下から9行〜右上欄4行参照)には,発光管の黒化及び失透現象は,管壁負荷が高い程重大な問題となることが記載されているのであるから,当業者であれば,刊行物1記載の発明において,タングステンの飛散による黒化及び失透を防止することを目的として,動作状態における遊離ハロゲンを発光管内に封入することは,刊行物3及び刊行物4に記載された発明に基づいて容易になし得るものである。
したがって,刊行物3及び刊行物4に記載された放電ランプの水銀量が1桁ほど低く,水銀蒸気圧が低いものであっても,そのことで,刊行物1に記載された発明に,刊行物3及び刊行物4に記載された発明を適用しえない根拠とすることはできない。
d つぎにハロゲンの封入量を特定している点について検討する。
刊行物3に記載された発明では,臭素の封入量を,0.1×10 グラム原子〜6×10 グラム-6 -6原子,すなわち,1.0×10 〜6×10 μmol/mm としており,本件発明1で特定する-4 -3 3「10 と10 μmol/mm の間」とは 「1.0×10 μmol/mm 」だけで一致して-6 -4 3 -4 3,いる。
しかしながら,刊行物3及び刊行物4に記載された技術手段を,刊行物1に記載された発明に適用するにあたり,刊行物3に記載されたハロゲンの封入量の範囲をそのまま適用せず,刊行物1に記載された放電ランプに最適なハロゲンの封入量を別個に定める程度のことは,当業者であれば,当然になされる技術的事項にすぎない。
そして,本件明細書及び図面の記載をみても,「10 と10 μmol/mm の間」という数値に格別な臨界的意義があるとは認められない。
-6 -4 3被請求人は,刊行物3に記載された発明について 「実際に発光管内部に封入されたとされるハロ ,ゲン量はHgBr の形態で1.05×10 グラム原子であり,発光管の容積5.3ccとを用い2-6,,., て 発光管内部に封入されたハロゲン濃度を算出すると 3 96×10 μmol/mm となり-4 3本件特許発明のランプにおけるハロゲン量の上限値である10 μmol/mm よりもかなり多い-4 3。」,, 「」 ことが分かります と主張しているが 一方では 本件の特許請求の範囲に記載された ハロゲンは「水銀およびタングステン以外の金属とハロゲン化物を形成していないハロゲン」を意味するものであると主張し,被請求人の親会社のレターである審判甲5(本訴甲2の5)によれば 「全ハロゲ,ン封入量のかなりの部分は遊離状態になく,他の原子と結合して化学サイクルに寄与しない。ハロゲンに一部は常に水銀ハライドの形態でHgと結合している。ハロゲンの他の部分は,電極,石英壁等からフリーともなる不純物と結合している。その結果,全ハロゲン封入の一部が化学サイクルに関し遊離ハロゲンとして利用可能である 」とし,その量は0.5であるとしている。 。
してみると,刊行物3に記載された実施例において,封入されたHgBr 量をそのまま計算した2結果に基づいて,本件発明で特定するハロゲン量よりもかなり多いとする被請求人の主張は,前記の被請求人の主張と矛盾するものである。
そして,本件の特許請求の範囲に記載された「ハロゲン」が,被請求人の主張とおり 「水銀およ,びタングステン以外の金属とハロゲン化物を形成していないハロゲン」を意味するものであるとすると,審判甲5(本訴甲2の5)に記載されているところの,遊離ハロゲンが封入ハロゲン量の0.5であることや,不純物の存在等を考慮すれば,刊行物3に記載された発光管内に封入すべきハロゲン化物の量に比較して,本件発明1で特定する量の範囲が低くなることは当然である。
-6 -4したがって,相違点イのうち 「ハロゲンC1,BrまたはIの少なくとも1つが10 と10 ,μmol/mm の間」と特定することについても,格別な創意を要することなく容易に想到し得る3ものである。
e 以上のとおり,刊行物1に記載された発明において,相違点2に係る構成を採用することは,刊行物3及び刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
(ウ) 相違点についてのまとめ以上のとおり,相違点1及び相違点2のいずれにも困難性は認められず,また,本件発明1においては,相違点1による効果は赤色部分の増加した連続スペクトルという点にあり,相違点2による効果はハロゲン-タングステン輸送サイクルによる発光管の黒化及び失透現象を防止するという点にあるものであって,これらの相違点を組み合わせることによりそれ以上の予期し得ない格別な効果を奏しているとすることもできない。
したがって,本件発明1は,刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
( ) 本件発明2について 3本件発明2では,本件発明1の特定事項に加えて 「水銀の量は0.2と0.35mg/mm の間 ,3にあり,動作時の水銀蒸気圧は200と350バールの間にある」としている。
,,, そこで 本件発明2と刊行物1に記載された発明とを対比すると 刊行物1に記載された発明でも水銀の量は0.2mg/mm より多く,また,水銀蒸気圧が約200バールのものが実例として記3載されていることは 「対比」の項で既に述べたとおりである。 ,よって,両者は,前述の相違点2と以下の相違点3で相違しているといえる。
相違点3:本件発明1では 「水銀の量は0.2と0.35mg/mm の間にあり,動作時の水銀蒸気圧は2 ,300と350バールの間にある」としているのに対し,刊行物1には,この様な数値についての具体的な記載はない。
そこで,相違点2についてはすでに述べたとおりであるので,以下,相違点3について検討する。
刊行物2の第67図には,水銀蒸気圧を35気圧から300気圧に増加するにつれて放射スペクト,(.) , ルの可視光域での増加がみてとれ 特に300気圧 1気圧=1 013バール のものにおいては放射スペクトルは赤色部分で連続したスペクトルとなっており,赤色域での増加がみてとれる。
してみれば,当業者であれば,可視光域での増加を目的として,刊行物1に記載された発明において,水銀蒸気圧を「200と350バールの間」とすることは格別な創意を要することなく容易に想到し得るものである。
また,封入水銀量のデータは,該第67図には記載されていないが,本件明細書にも,従来技術の説明において 「ドイツ国特許公告公報第1489417号より知られた超高圧水銀蒸気放電ランプ ,は ・・・6.5mgの水銀が封入され,これは0.12mg/mm の水銀量に相当する。水銀蒸気 ,3圧は約120バールになることができる (2欄9〜14行)及び「英国特許明細書第110913 。」5号には,0.15mg/mm までの水銀(これは約150バールの水銀蒸気圧に相当する)が封3入された・・・ (3欄8〜10行)と記載されているように,水銀蒸気圧を,発光管内の水銀封入 」量の1000倍の値になるものとして近似されることは,本件の優先日の前にすでに周知であるか3ら,200と350バール間の水銀蒸気圧を得るための水銀の量を,0.2と0.35mg/mmの間とすることに困難性はない。
そして,本件明細書及び図面の記載をみても,上記限定した数値に予期しない格別な臨界的意義があるとも認められない。
したがって,本件発明2は,刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものである。
( ) 本件発明3について 4本件発明3は,本件発明1の特定事項又は本件発明2の特定事項に「ランプは青放射線を阻止するフィルタで取囲まれた」という事項を付加するものである。
そこで,本件発明3と刊行物1に記載された発明とを対比すると,上記相違点1,2あるいは相違点2,3に加えて,以下の相違点4でも相違している。
相違点4:本件発明4では 「ランプは青放射線を阻止するフィルタで取囲まれた」としているのに対して, ,刊行物1にはフィルタに関する記載がない点。
,,,。 相違点1ないし3については すでに述べたとおりであるので 以下 相違点4について検討する本件明細書(特許掲載公報4欄36〜40行)に 「ハロゲン化物を有する高圧水銀蒸気放電ラン ,プにおいて,フィルタの使用により青放射部分を減らすこと,したがって放出された放射の色の改良を得ることは,英国特許明細書第1539429号より知られていることを指摘すべきであろう 」。
と記載されているように,ランプに青放射線を阻止するフィルタを設けることは,本件の優先日の前にすでに知られているところであるから,相違点4については,格別な創意を有するものではない。
したがって,本件発明3は,刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものである。
( ) 審決のむすび5以上のとおり,本件発明1ないし3は,本件の優先日の前に頒布された刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,本件発明1ないし3についての特許は,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであるから,特許法123条1項2号の規定により,無効にすべきものである。
当事者の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由(1) 取消事由1(相違点2のうち,ハロゲン封入量を特定している点についての容易想到性の判断の誤り)審決は,ハロゲンの封入量を特定している点について 「刊行物3に記載された ,-4 -3 3発明では,臭素の封入量を ・・・1.0×10 〜6×10 μmol/mm ,,「 」, としており 本件発明1で特定する 10と10 μmol/mm の間 とは-6 -4 3「1.0×10 μmol/mm 」だけで一致している。しかしながら,刊行物-4 33及び刊行物4に記載された技術手段を,刊行物1に記載された発明に適用するにあたり,刊行物3に記載されたハロゲンの封入量の範囲をそのまま適用せず,刊行物1に記載された放電ランプに最適なハロゲンの封入量を別個に定める程度のことは,当業者であれば,当然になされる技術的事項にすぎない 」と判断した。。
ア 水銀蒸気圧を高くした場合に想到されるハロゲン封入量について(ア) 本件発明1の高圧水銀蒸気放電ランプの水銀蒸気圧は,刊行物3(甲2の3)及び4(甲2の4)に記載されている高圧水銀蒸気放電ランプの水銀蒸気圧に比べて,1桁ほど高いから,刊行物3及び4に基づいて,本件発明1のような水銀蒸気圧の高い高圧水銀蒸気放電ランプにハロゲンを封入しようとする場合,水銀蒸気圧が1桁ほど高いことを考慮しつつ,ハロゲンの封入量を調整することになる。
(イ) 本件発明1においてハロゲンを封入する理由は,電極から蒸発したタングステンが容器壁に付着して容器壁が黒化することを避けるために,ハロゲンによってタングステン輸送サイクルを生じさせ,蒸発したタングステンを電極に戻すためである。このようなハロゲンサイクルを実現するためには,他の原子と結合していないハロゲン原子が必要であるが,水銀蒸気放電ランプにおいては,ランプ容器内に水銀が存在しているから,一部の水銀原子とハロゲン原子とが結合し,ハロゲン,, , 化水銀を形成しており これにより 他の原子と結合していないハロゲンが減少しハロゲンサイクルに寄与するハロゲン原子が減少する。
そして,水銀蒸気圧を高くするということは,ハロゲン化水銀が増加し,他の原子と結合していないハロゲンが減少することを意味する。なぜなら,ハロゲン化水銀の生成反応は,以下の化学平衡式(金属原子に水銀原子,ハロゲン原子に臭素原。),, 子をあてはめている によって表すことができるが 水銀を増加させた場合には平衡状態が崩れて右向きの矢印の反応が促進されて,他の原子と結合していないハロゲンが消費されて減少するからである。
→2 Hg+2Br HgBr←このような平衡状態が成立している場合,それぞれの気体の圧力間に以下の関係。, 。 が成立する この関係が成立することは質量作用の法則として広く知られているKp×p〔Hg〕×p〔Br〕 = P〔HgBr 〕22(p〔]〕は]の分圧,Kpは平衡定数。平衡定数は温度のみに依存し,p〔Hg ,P〔Br ,P〔HgBr 〕には依存しない ) 〕〕 。
2ここで新たにハロゲンを封入せずに,水銀の封入量を増やして水銀蒸気圧(すなわち,P〔Hg〕)を増加させると,Kpは不変であるため,臭化水銀(すなわち,P〔HgBr 〕)が増加する。この臭化水銀は,水銀と臭素が結合して生成される2ので,必然的に他の金属原子と結合していない臭素が消費され,p〔Br〕が減少する,すなわち,水銀蒸気圧を高くすると,他の原子と結合していないハロゲンが減少する。
(ウ) このように,水銀蒸気圧を高くした場合には,ハロゲンサイクルに寄与し得る他の金属原子と結合していないハロゲン原子が減少する。その結果,ハロゲンサイクルが従前機能していた程度には機能しなくなる。
(エ) そうすると,一般的な当業者は,水銀蒸気圧を高くした状態で,ハロゲンサイクルにより容器壁の黒化を避けようとするならば,ハロゲンサイクルに寄与するハロゲン原子を維持すべく,ハロゲンの封入量を増加させようと考えるから,刊行物3(甲2の3)に記載されたハロゲン封入量の範囲に基づき,本件発明1のような水銀蒸気圧の高い高圧水銀蒸気放電ランプのハロゲン封入量を決定しようとする場合には,水銀蒸気圧が1桁ほど高いことを考慮して,ハロゲンの封入量を増加させようとするのであって,このような状況の下で,あえてハロゲンの封入量を減少させるということは,容易でない。
イ 刊行物3(甲2の3)の記載について刊行物3の発明の詳細な説明には 「封入量が0.1×10 〔グラム原子〕未 ,-6満であると,臭素を封入した効果があらわれず (3頁左上欄6,7行)との記載 」-6 -4がある 「0.1×10 〔グラム原子 」は,単位換算すると,1.0×10 。〕μmol/mm であり,また 「臭素を封入した効果」は 「黒化及び発光管の失3,,透を防止して長寿命となし,かつ安定したアークが得られるという効果 (3頁右」上欄10,11行目)であるから,刊行物3には,高圧水銀蒸気ランプにおいて,臭素の封入量が1.0×10 μmol/mm 未満であると,黒化及び発光管の-4 3失透を防止して長寿命とするという効果が得られないことが記載されている。
本件発明1と刊行物3記載の発明とでは水銀蒸気圧が1桁ほど異なるが 「高圧,水銀蒸気放電ランプ」の発明である点では共通しているから,このような状況の下, , で 容器壁の黒化を避けて非常に寿命の長い高圧水銀蒸気放電ランプを得るためにハロゲンの封入量を,あえて1.0×10 μmol/mm 未満である10 と-4 3 -610 μmol/mm の間で存するようにすることは,当業者にとって容易では-4 3ない。
ウ 出願当時の高圧水銀蒸気放電ランプの開発の流れについて本件特許の優先日のはるか以前から,水銀蒸気圧を非常に高く(例えば200気), , 圧以上 することで 優れた演色性で高輝度の光が得られることは知られていたが。, 高い水銀蒸気圧下では実用化に耐えられるだけの寿命が得られなかった そのため本件特許の優先日当時,例えば200気圧以上という極めて高い水銀蒸気圧でランプを構成するというアプローチは事実上断念されており,水でランプを冷却する等の特別の技術上の配慮を施した上での実験的使用などの極めて特殊な用途においてのみ使用されるにすぎなかった。そこで,当業者は,優れた演色性,長寿命のランプを実現するために,比較的低い水銀蒸気圧(典型的には10〜30バール)を採, , 用し 水銀蒸気圧を低くすることにより懸念されるスペクトルの連続部分の損失は金属ハロゲン化物(メタルハライド)をランプ内に導入することで補うというアプローチに注目し,これが主流になっていた。
そうであるから,このような状況の下で,当時の水銀ランプ開発の主流であった比較的低い水銀蒸気圧を有するランプに関する刊行物3及び4の記載事項を,1937年に発行された200バールという非常に高い水銀蒸気圧を有するランプに関する刊行物1に適用することは,当時の当業者にとって容易であったということはできない。
エ したがって,本件発明1のハロゲンの封入量を10 と10 μmol/m-6 -4m の間に特定することは,当業者にとって容易に想到することができないもので3あるから,審決の判断は誤りである。
(2) 取消事由2(顕著な効果の看過)審決は 「本件発明1においては,相違点1による効果は赤色部分の増加した連 ,続スペクトルという点にあり,相違点2による効果はハロゲン-タングステン輸送サイクルによる発光管の黒化及び失透現象を防止するという点にあるものであって,これらの相違点を組み合わせることによりそれ以上の予期し得ない格別な効果を奏しているとすることもできない 」と判断した。。
(), ,「, ア 本件明細書 甲3 には 本件発明の効果について 本発明のランプでは実質上一定の出力(Δξ<2%)と実質上不変の色座標(5000時間の間Δx,Δy<0.05)を有する5000時間以上の寿命を得ることができる。この場合ξは効率,xおよびyは色座標である (2頁右欄27ないし31行目)との記 。」載がある。
イ 従前の高圧水銀蒸気放電ランプの例として,刊行物4に記載された高圧水銀ランプの実施例1ないし4は,紫外線出力維持率が1000時間点灯後に65ないし79%程度まで低下しており(2頁左下欄8行目ないし3頁左下欄19行目 ,)5000時間点灯後にも実質上一定の出力を有する本件発明1の高圧水銀蒸気放電ランプに比べて,はるかに寿命が短い。また,刊行物3(甲2の3)に記載された高圧水銀蒸気ランプも,せいぜい350時間であり(2頁左下欄13行目 ,これ)また,本件発明1の高圧水銀蒸気放電ランプに比べて,はるかに寿命が短い。
ウ 本件発明1の高圧水銀蒸気放電ランプは,刊行物3(甲2の3)に記載された高圧水銀蒸気ランプに比べて,水銀蒸気圧が1桁ほど高く,管壁負荷も増加している。水銀蒸気圧及び管壁負荷の増大は,ランプ内での分子の移動を活発にし,電極からのタングステンの蒸発を増大させるから,ランプの寿命が短くなる。そうであれば,本件発明1のように水銀蒸気圧を200バールよりも高く,管壁負荷を1w/mm より大きくした場合には,刊行物3に記載されている高圧水銀蒸気ラン2プの寿命は,刊行物3に記載されている350時間よりもかなり短くなるはずである。それにもかかわらず,本件発明1の高圧水銀蒸気放電ランプは,5000時間以上の寿命を有しているのである。
エ このように,本件発明1の高圧水銀蒸気放電ランプは,従前の高圧水銀蒸気放電ランプの寿命に比べて驚異的に長寿命であり,本件発明1は,極めて顕著な効果を奏する。そして,刊行物1ないし4(甲2の1ないし4)に,このような顕著な効果を奏することは示唆されていないから,当業者が予期することのできないものであり,審決の判断は誤りである。
(3) 取消事由3(本件発明2及び3についての判断の誤り)本件特許の請求項2及び3は,いずれも請求項1の従属項であるから,上記(1)及び(2)のとおり,本件発明1が容易に想到することができない以上,本件発明2及び3も,同様に,容易に想到することができないものである。
,。 したがって 本件発明2及び3が容易想到であるとした審決の判断は誤りである2 被告の反論(1) 取消事由1(相違点2のうち,ハロゲン封入量を特定している点についての容易想到性の判断の誤り)に対してア 水銀蒸気圧を高くした場合に想到されるハロゲン封入量について(ア) 本件明細書に 「この高い水銀蒸気圧を達成するために,容器は高い壁温 ,(約1000℃)を有さねばならない (2頁左欄43,44行目)との記載があ 」るように,水銀の封入量を増やして水銀蒸気圧を増加させると,ランプ作動上高い壁温となり,ランプ容器内の雰囲気の温度も高くなる。そうすると,上記1(1)アの化学平衡式に示されているように,ハロゲン金属(臭化水銀)の割合が減り,臭素が増すから,水銀封入量が増したからといって,直ちに,高温のランプ動作でのハロゲン-タングステン輸送サイクルに寄与する臭素が減るということはない。原,(,[] ), 告は 水銀の封入量を増して水銀蒸気圧すなわち P Hg を増加させるとKpは不変であるため,臭化水銀(すなわち,p[HgBr )が増加すると主2]張するが,水銀蒸気圧を増加させるためには,ランプ動作温度を高くする必要があるから,Kpが変わるのであり,原告の主張は妥当でない。
(イ) 刊行物4の発明の詳細な説明には 「発光管の失透現象を防止するために ,は封入ヨウ素量(すなわち封入ハロゲン量)を封入水銀量MHgに比例させ,管壁負荷WLの2乗に反比例して封入する必要があることが判明した (3頁左上欄5」ないし9行目)との記載があり,管壁負荷の観点からいえば,管壁負荷が高い本件発明1は,封入ハロゲン量を刊行物3のそれよりも減少させるべきであるということになる。このように,封入すべきハロゲン量は,水銀蒸気圧(すなわち水銀量)だけに依存して考察されるわけではない。
また,ランプ点灯中にランプのガラス容器やタングステン電極から発生する不純物は,ハロゲン-タングステン輸送サイクルに大きく影響するのである。
(ウ) そうすると,当業者は,水銀蒸気圧を高くしたからといって必然的にハロゲン封入量を増加させようと意図することはなく,水銀蒸気圧を高くしたことによるランプ管内の温度の状態及び高い管壁負荷がハロゲンサイクルに及ぼす影響を考慮し,さらに,ランプ内の不純物量をも考慮した上で,実験的に最適なハロゲン封入量を選択しようという認識をもつものと考えられるから,200気圧以上の水銀蒸気圧を有する刊行物1のランプの構成に最適なハロゲン量の数値を特定する程度のことは,当業者が刊行物3及び4に記載されているハロゲン量の数値を参考に実験的に選択することができるものである。
イ 刊行物3(甲2の3)の記載について(ア) 刊行物3には 「発光管(1)内に封入される臭素の封入量を種々変えて超高 ,圧水銀ランプを製作し試験を行ったところ 臭素の封入量として0 1×10 グ ,.〔-6ラム原子〕〜6×10 〔グラム原子〕とすることが良いことが判明した。すなわ-6ち,封入量が0.1×10 〔グラム原子〕未満であると,臭素を封入した効果が-6あらわれず (3頁左上欄1ないし7行目)との記載があるところ,この試験にお 」ける発光管(1)は,刊行物3の実施例である封入水銀16.6〔mg/cc ,封〕入ハロゲンとして臭化水銀(HgBr ,電極間距離13.5〔mm ,管電力12)〕200〔W ,管電流13.4〔A ,管電圧100〔V ,管壁負荷85〔W/c 〕〕〕m 〕の仕様になる一種類のものであると理解されるのであって,10 μmol2 -4/mm の下限値はそのような発光管で試験して得られた1つの知見にすぎない。
3(イ) 本件発明1の発光管は,水銀量は0.2mg/mm より多く,水銀蒸気圧2は200バールより高く,管壁負荷は1W/mm より大きいものであり,刊行物23の発光管とは明らかにその仕様が異なっている。ハロゲン-タングステン輸送サイクルに必要なハロゲン封入量は,上記ア(ウ)のように種々の要因に依存するのであるから,同じ「高圧水銀蒸気放電ランプ」といっても,刊行物3で得た知見である下限値の10 μmol/mm が,本件発明1のような仕様が異なる発光管の-4 3場合についても,そのまま下限値として厳密に適用されると考えられるべきではない。
-6 -4 3特に,本件発明1のハロゲン封入量範囲の10 ないし10 μmol/mmは,極めて微量といっても,刊行物3の10 μmol/mm の公知範囲と一致-4 3又は隣接する部分を含むものであり,本件発明1の発光管と刊行物3の発光管とが異なる仕様であることを考慮すれば,少なくとも一致又は隣接する部分のハロゲン封入量についてまでも,刊行物3が否定していたとは考えられない。少なくとも一致又は隣接する部分のハロゲン封入量については,その選択を阻む格別の障害があったわけでもなく,周知のハロゲン-タングステン輸送サイクルの作用効果を期待して,当業者がそのような数値を選択すること自体は,極めて自然であり,通常の設計事項の範囲である。
ウ 出願当時の高圧水銀蒸気放電ランプの開発の流れについて(ア) LIGHT-SOURCE TECHNOLOGY 1979- A REVIEW(甲5)には,水銀ランプがすでに成熟し,メタルハライドランプが主流となったことが記載されているが,これ, ,, は 一般照明用光源として用いられる放電ランプについて述べたものであり またELECTRIC DISCHARGE LAMPS 1971(甲6)は,一般照明用のメタルハライドランプが開発された経緯を述べたものである。これに対し,業務用の映画フィルム再生用プロジェクター,半導体やプリント基板露光用のような投影用光源は,1960年代ころから高圧水銀蒸気ランプやキセノンランプが使用されており,現在でも同じ傾向が続いている。
確かに,液晶(LCD)技術の進展に伴い,LCDを用いたデータプロジェクター用として小型メタルハライドランプが投影用光源にも進出したことがあったが,この時期においても,従来からの露光用光源としては高圧水銀ランプが相変わらず使われて,メタルハライドランプと併用されていたのである。
原告の高圧水銀蒸気ランプ開発の歴史的認識は,一般照明用のメタルハライドランプの歴史的経緯と投影用のメタルハライドランプのそれとを混同するものである。
(イ) 本件特許の優先日当時に,例えば200気圧以上という極めて高い水銀蒸気圧でランプを構成するというアプローチが事実上断念されていたわけではない。
() HIGH PRESSURE MERCURY VAPOUR LAMPS AND THEIR APPLICATIONS,1965 乙11の1には,刊行物1と同様の200気圧の水銀蒸気圧を有するランプに微量のハロゲンを封入することによって黒化を防止することが記載されており,むしろ有用であることの説明がされている。さらに,例えば,昭和50年から昭和63年までの期間においても,特開昭50-9287号公報や特開昭63-254653号公報(乙13)に代表されるように,多数の特許出願が公開されており,高圧水銀ランプを用いた投影用ランプの開発が継続していた。
なお,刊行物1は,1937年に発行されたものであるが,その当時,既に高圧水銀ランプの製造技術がほぼ確立されていたのであるから,刊行物3及び4の記載事項を1937年に発行された刊行物1に適用することは,何ら不自然なことではない。
エ したがって,本件発明1のハロゲンの封入量を10 と10 μmol/m-6 -4,, m の間に特定することは 当業者が容易に想到することができるものであるから3審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2(顕著な効果の看過)に対してア 本件明細書に記載されている「5000時間以上の長寿命」が,本件発明13 2の0.2mg/mm より多い水銀,200バールより高い水銀蒸気圧,1Wmm以上の管壁負荷の条件下での10 ないし10 μmol/mm というハロゲン-6 -4 3封入量の結果としてもたらされていることは,本件明細書の記載からみて明らかでなく,技術常識から考えると,むしろ,高純度のランプ容器石英ガラス材料とタングステン電極材料,そして高度に管理された製造工程のような製造技術からもたらされていると理解されるべきものである。
そうであれば,ハロゲン封入について必ずしも数値限定がなくとも,ハロゲン封入という広い概念と共に改善された製造技術が伴えば,達成され得るものであるから,本件明細書に記載された「5000時間以上の長寿命」が本件発明1の数値限定によってもたらされているということはできない。
イ ランプの寿命の長さを評価する要素は一律でなく,一つのランプの寿命といっても評価する要素によって,その長さは異なる。
本件発明1のランプは,可視域での発光量である全光束の変化率及び色度座標の,, 変化率を寿命の長さを評価する要素としているのに対し 刊行物3や4のランプは紫外線出力の維持率を寿命の長さを評価する要素としている。そして,一般的に紫外線出力維持率は,全光束(可視光)の減少がなくても,大きく減少することは当業者の間ではよく知られている(Sources and Applications of ULTRAVIOLET RADIATION 1983(乙5 。)また,プロジェクターのように小さな液晶パネルを拡大投影することを目的とするランプの場合は,一般的に光学系を通してスクリーンに投射された照度(スクリーン照度)の維持率をもってその寿命を評価するのが通常である。そして,スクリーン照度の維持率を寿命の長さを評価する要素とすれば,全光束の減少がほとんどないようなランプの変化(アーク長の変化や小さな白濁や黒化)でも光学効率の低下によりスクリーン照度に大きく影響することは当業者の間では知られていることである。
本件発明1のランプにおいても,寿命の長さを評価する要素を紫外線出力維持率やスクリーン照度維持率とすれば,5000時間以上の寿命を得ることができるか否かは判然としない。
ウ 最適なハロゲン封入量が長寿命の要因であるとするならば,刊行物3及び4のランプは,ハロゲンサイクルのために最適なハロゲン量を封入していて,本件発明1のランプに比べて,水銀蒸気圧が一桁ほど低く,管壁負荷も低いから,本件発明のランプに比べて,より長寿命となるはずである。そうであるにもかかわらず,刊行物3及び4のランプの寿命が本件発明1のランプに比べて短いのであれば,最適なハロゲン封入量とは別の要因,すなわち,当時の技術者の常識を超える程の純度の低い材料の選択や不純物の不十分な除去のためであると考えるのが当業者の常識である。
エ したがって,請求項1に記載された本件発明1の構成事項,特に10 ない-6し10 μmol/mm のハロゲン封入量と5000時間以上の長寿命との間に-4 3直接的な因果関係があるということはできないのであって,審決の判断に誤りはない。
(3) 取消事由3(本件発明2及び3についての判断の誤り)に対して本件特許の請求項2及び3は,いずれも請求項1の従属項であり,上記1及び2のとおり,本件発明1についての判断に誤りはないから,本件発明2及び3についての審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点2のうち,ハロゲン封入量の特定についての容易想到性の判断の誤り)について(1) 水銀蒸気圧を高くした場合のハロゲン封入量についてア 刊行物3(甲2の3)について(ア) 刊行物3には,次の記載がある。
「内部に水銀と始動用希ガスと臭素とが封入された石英製の発光管,この発光管内に配された1対のタングステンからなる電極を備えた高管壁負荷の超高圧水銀放,,. 電灯において 発光管内に封入される臭素の封入量を 発光管内容積1cc当り01×10 グラム原子〜6×10 グラム原子とした (特許請求の範囲)-6 -6」「この発明は上記欠点に鑑みてなされたもので,発光管内に臭素を封入するとともに,電極を構成する材料としてタングステンを用いたことにより,高管壁負荷のものにあっても黒化および失透が防止されて長寿命になり,かつ水平点灯用にも使用できる超高圧水銀放電灯を提供するものである(2頁右上欄13ないし19 。」行目)「上記発光管(1)を水酸基の含有量の少ない石英いわゆる無水石英製とするとともに,その内径21[mm ,内容積を5.3[cc]とし,この発光管(1)内部 ]にアルゴンガス40 cc と水銀16 6mg/cc と1 05×10 グ [] .[ ]. [-6ラム原子]の臭素を臭化水銀[HgBr ]の形で封入し,電極(6),(7)を純タン 2グステン棒として電極(6),(7)間長を13.5[mm]とした超高圧水銀放電灯を。[] , 作製したものである この様に構成された超高圧水銀放電灯を管電力1200 W管電流13.4[A ,管電圧100[V]とし,管壁負荷が約85[W/cm ] ]2で点灯したところ,350時間点灯後においても発光管(1)上部の石英の失透は発生せずまた黒化も少なく,しかも点灯期間中アークが安定しており良好な特性が得られた。水平点灯した場合にも上記と同様に良好な特性が得られた (2頁左下。」欄1〜17行目)「この様に上記実施例のものが良好な特性が得られた理由としては,放電灯点灯中,電極(6),(7)から飛散されたタングステンが発光管(1)の内壁に付着しても,これが発光管(1)内の臭素と化合してすぐに臭化タングステンとなり,管内壁のクリーンアップにつながり,黒化および失透を防いだものと考えられる (2頁右。」下欄5ないし11行目)「次に,発光管(1)内に封入される臭素の封入量を種々変えて超高圧水銀ランプを製作し試験を行ったところ,臭素の封入量として0.1×10 (グラム原子)〜-66×10 (グラム原子)とすることが良いことが判明した (3頁左上欄1な-6。」いし5行目)(イ) 上記(ア)の刊行物3の記載によれば,刊行物3に記載された発明は,発光管内に臭素を封入するとともに,電極を構成する材料としてタングステンを用いることにより,高管壁負荷においても黒化及び失透が防止される,長寿命の超高圧水銀蒸気ランプを提供するものであり,その臭素の封入量としては,1.0×10 μ-4mol/mm ないし6×10 μmol/mm とすることが良いとされている3-33(なお,0.1×10 (グラム原子)ないし6×10 (グラム原子)は,1.0×-6 -610 μmol/mm ないし6×10μmol/mm に相当する 。そして,-43-33。)「発光管(1)を水酸基の含有量の少ない石英いわゆる無水石英製とするとともに,その内径21[mm ,内容積を5.3[cc]とし,この発光管(1)内部にアル ]ゴンガス40[cc]と水銀16.6[mg/cc]と1.05×10 [グラム-6原子]の臭素を臭化水銀[HgBr ]の形で封入し,電極(6),(7)を純タングス 2テン棒として電極(6),(7)間長を13.5[mm]とした超高圧水銀放電灯を作製」,「[],.[],[] した ものを 管電力1200 W 管電流13 4 A 管電圧100 Vとし,管壁負荷が約85[W/cm ]で点灯」させ 「次に,発光管(1)内に封入2,される臭素の封入量を種々変えて超高圧水銀ランプを製作し試験を行ったところ,臭素の封入量として0.1×10 (グラム原子)〜6×10 (グラム原子)とす-6 -6ることが良いことが判明した 」というのであるから,効果のある臭素の封入量と 。
された0.1×10 (グラム原子)ないし6×10 (グラム原子 ,すなわち,-6 -6)1.0×10 μmol/mm ないし6×10 μmol/mm との数値は,特-4 3 -3 3定の材質の発光管で特定の数値の内径,内容積,水銀量,電極構造を有する高圧水,,, 銀蒸気ランプについて 臭素の封入量が異なるものを試作し 特定の数値の管電力管電流,管電圧を印加して点灯させることにより見出されたものである。
イ 刊行物4(甲2の4)について(ア) 刊行物4には,次の記載がある。
「電極を有する発光管内に希ガスと所定量の水銀を封入するとともに,その封入水銀量をMHg(モル ,管壁負荷をWL(W/cm )で表わしたとき,0.2 )2MHg/WL (モル)以上で15MHg/WL (モル)以下の範囲のハロゲンを22上記発光管内に封入してなる高圧水銀ランプ (特許請求の範囲)。」「点灯中に発光管の内面に付着し,発光管が黒化して紫外線放射を妨げると同時に,発光管の材料である透光性石英ガラスに失透核を形成し,失透現象を生じさせる。そして点灯時間の経過とともに黒化および失透現象が進行して著しい紫外線出力の低下を来たすと同時に,失透減少が石英ガラスの外表面まで達すると外気が発光管内にリークして点灯不能になる等の事故が発生する。このような現象は発光管の管壁負荷が大きいほど短期間に起こり,」(2頁左上欄15行目ないし右上欄4行目)第3図(1000時間点灯後の最良な紫外線出力維持率となった封入水銀量MHgに対する封入ヨウ素MIの比と管壁負荷WLとの関係を示すグラフ)とともに,「紫外線出力維持率を向上させ,発光管の失透現象を防止するためには封入ヨウ素量を封入水銀量MHgに比例させ管壁負荷WLの2乗に反比例して封入する必要があることが判明した (3頁左上欄5ないし9行目) 。」(イ) 上記(ア)の刊行物4の記載によれば,刊行物4には,高圧水銀ランプの発光,(), 管内に希ガスと所定量の水銀を封入するとともに その封入水銀量をMHg モル管壁負荷をWL(W/cm )で表したとき,0.2MHg/WL (モル)以上で2 215MHg/WL (モル)以下の範囲のハロゲンを上記発光管内に封入すること2により,発光管の黒化及び失透現象を防ぐことが記載されている。そして,第3図に示されたグラフによれば,少なくとも,刊行物4が対象とした高圧水銀ランプにおいては,水銀量に対する封入ハロゲン量は,管壁負荷の2乗に反比例する関係にあることが分かる。
ウ 本件発明1が対象とする高圧水銀蒸気ランプの水銀蒸気圧は 「200バー,ルより高く」とされており,刊行物3及び4に記載された高圧水銀蒸気ランプの水銀蒸気圧よりも1桁ほど高い(当事者間に争いがない 。。)高圧水銀蒸気ランプにハロゲンガスを封入し,ハロゲン-タングステン輸送サイクルによりランプの黒化,失透を防止し,ランプを長寿命化する技術自体は,上記のとおり,刊行物3,4に記載がある。
そして,ハロゲンの封入量について,本件発明1は 「C1,Br又はIの少な ,くとも1つが10 と10 μmol/mm の間で存する」とされているのに対-6 -4 3し,刊行物3では,臭素が1.0×10 μmol/mm 〜6×10 μmol-4 3 -3/mm が良いとされており,両者は 「1.0×10μmol」だけで一致し3 -4,ている。
ところで,最適なハロゲンの封入量は,水銀蒸気圧のみならず,刊行物4に記載されているように,管壁負荷にも依存する。また,原告が主張するように,ランプ容器内の温度も,ハロゲン-タングステン輸送サイクルに寄与するか悪影響を与えるかは実験してみないと分からないから,やはり考慮すべき要素となる(Journalof APPLIED PHYSICS,February 1975(乙4)654頁のFIG.5.には,水銀ランプ内の温度が,中心部(約6000K)と周辺部(約1000K)とで大きな偏りがあることが示されており,そうであれば,水銀ランプ内が平衡状態にあるということはできないから,平衡状態にあることを前提とする理論式は正確には成り立たない 。このようにみると,ハロゲンの封入量を律するパラメータには様々な 。)ものが考えられるのであって,試行錯誤により最適な値を探索するほかはない。
そうすると,刊行物3に記載された臭素の封入量の範囲1.0×10 μmol-4/mm ないし6×10 μmol/mmの下限値である1.0×10 μmol3-33 -4/mm は,当業者がこの下限値よりも少ないハロゲンの封入量を試みることの妨3げとはならないというべきである。
したがって,刊行物1に記載された高圧水銀蒸気ランプの発明(引用発明)において,水銀蒸気圧を200バール以上とし,そこにハロゲンを封入してハロゲンサイクルによりランプの黒化,失透を防止しようとする場合,対象とする水銀放電ランプの水銀蒸気圧は1桁低いものの,具体的に試作をして得られた知見を示す刊行物3の記載内容を出発点とし,その数値範囲の前後のハロゲン封入量を試みることは,当業者に普通に期待することができる事項である。
(2) 刊行物3(甲2の3)の記載について刊行物3の発明の詳細な説明には 「次に,発光管(1)内に封入される臭素の封 ,入量を種々変えて超高圧水銀ランプを製作し試験を行ったところ,臭素の封入量として0.1×10 (グラム原子)〜6×10 (グラム原子)とすることが良いこ-6 -6とが判明した。すなわち,封入量が0.1×10 〔グラム原子〕未満であると,-6臭素を封入した効果があらわれず (3頁左上欄1ないし7行)との記載がある。 」上記(1)ア(イ)のとおり,効果のある臭素の封入量とされた1.0×10 μmo-4l/mm ないし6×10 μmol/mm との数値は,特定の材質の発光管で特3-33,,, , 定の数値の内径 内容積 水銀量 電極構造を有する高圧水銀蒸気ランプについて臭素の封入量が異なるものを試作し,特定の数値の管電力,管電流,管電圧を印加して点灯させることにより見出されたものであり,逆にいえば,効果が得られなかったというのは,このような特定の仕様の高圧水銀蒸気ランプを対象とした場合にすぎない。したがって,刊行物3の記載は,ハロゲン封入量を決定する試行錯誤の出発点とはなっても,異なる仕様の高圧水銀蒸気ランプのハロゲン封入量を決定するに際して,当業者が封入量を1.0×10 μmol/mm 以下に設定するこ-4 3との妨げとはならない。
(3) 出願当時の高圧水銀蒸気放電ランプの開発の流れについてア HIGH PRESSURE MERCURY VAPOURLAMPS AND THEIR APPLICATIONS,1965(乙11の1)には,次の記載がある。
「第7章 『高輝度を有する高圧水銀蒸気ランプ』7.1 序文第4章では,一般照明目的の高圧水銀ランプについて議論し,第6章では紫外線域応用の高圧水銀蒸気ランプについて議論した。この章では,光学装置に使用される高圧水銀蒸気ランプを扱う。そのようなランプの最も重要な必要条件は,発光面が小さな寸法であって表面輝度が高いことである。ランプがこれらの必要条件と合致してはじめて,安価な光学機器を設計・製造することが可能となる。高圧水銀蒸気ランプは,この目的に理想的に適していることが示される。前に述べたように,圧力と特定の負荷を増加させると,光出力は増加する。加えて,輝度も増加する。
したがって,それらの必要条件に繋がる技術的課題-高圧,光負荷,高電流-を解決できれば,種々の光学機器に適したランプ群を製造できる。
これらの高圧水銀蒸気ランプの物理的性質についての包括的な研究と,適した製造技術の開発とによって,高い表面輝度を有する相異なる2種類のランプがもたらされた。
1.球状高圧水銀蒸気ランプ2.毛細管型(キャピラリー型)超高圧水銀蒸気ランプこの2種類を分類するために,まず,おおよそのデータを与える。
表7.1ランプ形状 球状 毛細管型点灯蒸気圧(気圧) 10〜50 50〜200 (240頁)」「この後者(判決注:ランプの黒化の回避)は,ヨウ素や臭素などのハロゲンの一つを微量ランプに導入することによって可能であることが実証されている。白熱灯で明らかなように,これにより,ハロゲンサイクルが働くようになる。温度が適切であれば,電極から管壁に付着するタングステンは,タンステンハライドに変化し,熱い電極に戻されると,そこでタングステンハライドはタングステンとハロゲンに分解する (292頁)。」イ 上記アの記載によれば,1965年(昭和40年)において,水銀蒸気圧が200気圧程度に至る高圧水銀蒸気ランプが,光学機器に適した高輝度のランプとして研究・開発の対象とされ,また,ランプの黒化の問題の解決にハロゲンの導入によるハロゲン-タングステン輸送サイクルが有効であると認識されていたことが分かる。
そうであれば,刊行物3及び4の記載事項を刊行物1に適用することは,当業者にとって容易であったということができる。
ウ 以上のとおりであって,本件発明1のハロゲンの封入量を10 と10 μ-6 -4mol/mm の間に特定することは,当業者が容易に想到することができるもの3であるから,審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(顕著な効果の看過)について(1) 本件明細書(甲3)には,本件発明の効果について 「本発明のランプで ,は,実質上一定の出力(Δξ<2%)と実質上不変の色座標(5000時間の間Δx,Δy<0.05)を有する5000時間以上の寿命を得ることができる。この場合ξは効率,xおよびyは色座標である(2頁右欄27ないし31行目)と 。」の記載がある。
ア しかしながら,上記「5000時間以上の寿命」が,具体的にどのような条件下でどのようなデータが得られたのかについての記載は,本件明細書にない。
イ また,請求項1が規定する数値範囲である水銀の量(0.2mg/mm よ3り多い ,水銀蒸気圧(200バールよりも高い ,管壁負荷(1W/mm より大 ))2きい)及びハロゲン量(C1,BrまたはIの少なくとも1つが10 と10 μ-6 -4mol/mm の間で存する)に関し,本件明細書が例示しているのは,次のとお3り,例1,例2及び例3の3例のみである。
「いくつかの実際的な具体例のデータを示すと次の通りである。
例1封入水銀 Hg6mm (0.261mg/mm )3ハロゲン CH Br 5・10 μmol (Br10 μmol/mm )2 5 -6 -5 3動作圧力 約200bar2管壁負荷 1.30W/mm例2封入水銀 Hg4mm (0.243mg/mm )3ハロゲン CH Br 5・10 μmol25 -6動作圧力 約220bar2管壁負荷 1.30W/mm例3封入水銀 Hg2.5mm (0.357mg/mm )3ハロゲン CH Br 5・10 μmol25 -6動作圧力 約300bar管壁負荷 1.36W/mm 」2これらの記載によれば,例1,例2及び例3のいずれにおいても,ハロゲンは臭素(Br)であり,ハロゲン量は10 μmol/mm である。そして,これら-5 3の例による寿命のデータは記載がない。
ウ 本件特許の請求項1は,ハロゲンについて 「C1,BrまたはIの少なく ,とも1つが10 と10 μmol/mm の間で存する」と規定しており,臭素-6 -4 3以外のハロゲン元素を含み,また,封入量も10μmol/mm から10 μ-6 3 -4mol/mm までと広範囲である。塩素(Cl ,臭素(Br ,ヨウ素(I)は3))同じハロゲン元素であり,類似の性質を持つものではあるが,特定の場面における反応のし易さは一般に異なる。刊行物3(甲2の3)には「発光管(1)内に封入,される臭素のかわりに他のハロゲン,たとえばヨウ素,塩素,フツ素を封入した超高圧水銀ランプを製作したところ,ヨウ素を封入したものにあつては,35[W/cm ]以上の高管壁負荷のものにあつては,発光管(1)内壁の温度が非常に高いた2め,ヨウ化タングステンが形成されず,電極構成材料であるタングステンの飛散による発光管(1)内壁への黒化が防止できなかった。さらに塩素やフツ素を封入したものにあつては,ハロゲンサイクルが強力すぎて電極(6),(7)先端に飛散したタングステンが再堆積して短い点灯時間に電極(6),(7)間長が短くなり,管電圧の減少をきたし,所望の光学的特性が得られなかった(3頁左上欄13行目ないし右 。」上欄6行目)との記載があり,これによれば,ヨウ素や塩素では,臭素を封入した場合のような効果が現れなかったことが理解できる。また,本件明細書(甲3)にも 「本発明の高圧水銀上記放電ランプでは,使用されるハロゲンは臭素(Br) ,であるのが有効で (2頁右欄15,16行目)との記載があり,臭素を用いた場 」合と他のハロゲン元素を用いた場合とで効果が異なることが認められる。
そうであれば,臭素以外のハロゲンを封入した場合において,臭素を用いた場合と同様の効果を奏すると予測することはできないといわなければならない。
エ 高圧水銀蒸気ランプの寿命はハロゲンの封入量に依存すると認められるところ,10 μmol/mm から10 μmol/mm までの封入量の範囲とそれ-6 3 -4 3以外の封入量の範囲とで,ランプの寿命がどのように変化するのかについて,本件明細書の記載からは明らかでない。
オ 以上の点にかんがみると,本件特許明細書に記載された「5000時間以上の寿命を得ることができる」という効果は,仮にあるとしても,本件の請求項1に記載した全てのハロゲン元素及び全ての数値範囲について奏されるものであるとは認定することができない。
(2) 本件明細書には,ハロゲンの封入により長寿命化が図れる機序について,「電極の非常に小さな寸法は,電極から蒸発したタングステンによる容器壁の黒化の増加をきたすおそれがある。けれども,このような容器の黒化は絶対に避けねばならない,というのは,さもなければ壁温が放射熱の吸収の増加のために寿命中に高くなり,ランプ容器の破裂をきたすからである。タングステンの輸送によるこのような容器壁の黒化を避ける手段として,本発明の高圧水銀蒸気放電ランプは,ハロゲンCl,BrまたはIの少なくとも1つの少量を有する (2頁右欄4ない。」し12行目)との記載があるが,これは,周知のハロゲン-タングステン輸送サイクルによる黒化の防止について述べたものにほかならない。
(3) ランプ管内へのハロゲンの封入と5000時間以上のランプ寿命との関係については,ほかに手がかりとなる開示は本件明細書にない。
(4) そうすると,本件発明1と刊行物1に記載された発明との相違点2に係る効果,すなわち 「動作状態における遊離ハロゲンを有し,かつ,そのハロゲンC ,1,BrまたはIの少なくとも1つが10 と10 μmol/mm の間で存す-6 -4 3る」ことによる効果として客観的に認定することのできる事項は,ハロゲン-タングステン輸送サイクルにより発光管の黒化を防止するという点以外にはないといわなければならない。
(5) 以上のとおりであって,審決が 「相違点2による効果はハロゲン-タン ,グステン輸送サイクルによる発光管の黒化及び失透現象を防止するという点にあるものであって,これらの相違点を組み合わせることによりそれ以上の予期し得ない格別な効果を奏しているとすることもできない 」と判断したことに誤りはなく, 。
原告主張の取消事由2は,理由がない。
3 取消事由3(本件発明2及び3についての判断の誤り)について本件発明2及び3についての原告の主張は,本件発明1についての審決の認定判断が誤りであることを前提とするものであるが,本件発明1についての審決の認定判断に誤りがないことは,上記1及び2のとおりであるから,原告主張の取消事由3も,理由がない。
結論
よって,原告の主張する審決取消事由は,すべて理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 野輝久
裁判官 佐藤達文