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関連審決 不服2003-22444
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  方法の発明 /  29条1項3号 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  試行錯誤 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  発明の要旨認定 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10567号 審決取消請求事件
原告X
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 川島陵司
同 二宮千久
同 小池正彦
同 宮下正之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/03/23
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-22444事件について平成17年5月23日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成6年1月28日,発明の名称を「電気による植物生長方法」とする発明について特許出願(以下「本件出願」という。)をしたが,平成15年9月30日付けで拒絶査定を受けたので,同年10月16日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2003-22444号事件として審理した結果,平成17年5月23日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年6月11日,その謄本を原告に送達した。
2 平成15年4月7日付け(乙2)及び同年6月30日付け(乙3)各手続補正書によって補正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)の記載植物と培地間に通電して植物が発電する発電力のパワーアップを測定することを特徴とした電気による植物の生長方法。
3 審決の理由審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明が,特開平1-206926号公報(以下「引用例1」という。)及び特開昭58-56618号公報(以下「引用例2」という。)に記載された各発明(以下,順に「引用発明1」,「引用発明2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明の要旨の認定を誤り(取消事由1),本願発明と引用発明1及び2との相違点を看過し(取消事由2),相違点についての判断を誤り(取消事由3),本願発明の顕著な効果を看過し(取消事由4),加えて,特許請求の範囲請求項2に係る発明について判断遺脱等をし(取消事由5),その結果,引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと誤った結論を導いたものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願発明の要旨の認定の誤り)( ) 審決は,本願発明の「パワーアップ」について,「本願発明の『植物が発 1電する発電力のパワーアップ』は・・・植物と培地との間で流れる上昇電流の大きさであると考えられる。」(審決謄本3頁下から第2段落)と認定したが,誤りである。
( ) 本願発明は,植物体の経穴(印加位置)を特定するために,植物と培地間 2に通電して,植物の発電力を測定することを特徴とした植物の生長方法(生体機能の回復と活性化方法)の発明であり,本願発明にいう「植物が発電する発電力のパワーアップを測定する」とは,植物の最高エネルギーの位置である「経穴」を確定するための,印加位置の特定の方法である。
東洋医学にいう陰,陽,五行説を基礎とした「経絡,経穴」といういわゆる経絡理論は,自然界に存在する植物体に応用されても不思議でないとの原告の素人判断から検討したところ,試行錯誤の末に,植物体の根際部に「経穴(ツボ)」のあることが判った。植物体は,それ自身,電気を発生しているが,この電気の発生については,動物の場合と同様,いまだ正確なる原因が解明されていないものの,植物体の「経穴」とは,植物体に印加して電気抵抗が最低で,電流がスムースに流れ,植物体に与えるストレスが最低で,植物体の全体(上下)に波及する電気的刺激が有効に働く位置(場所)ということができる。
本願発明は,この経穴(印加位置)を特定するために,植物に直流電流を通電し,これを電流計で測定するという三点方式の測定方法を開発して,「経穴」の位置を確定することができるようにした。植物の根際は,接木部の近傍にあり,接木部とは,植物の地上部と地下部の相互機能を共生的に促進させる肝腎要の位置のことである。
印加位置を求めるに当たっては,仮の印加位置を根際部に定めておき,培地と根際の「差し替え」を行うことによって生じる電流の変化(上昇電流)を見る。上昇電流が大きいほど,電気エネルギーの効果は高いことになり,これが「電気エネルギーのパワーアップ」である。ここに「電気エネルギー」とは,植物体自身が発生するエネルギーであり,「差し替え」を行うことによって求められる最高エネルギーの位置を「経穴」というのである。
( ) 被告は,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】,【001 30】,【0012】等を挙げて,経穴(印加位置)を特定するために測定するという技術事項を読み取ることはできない旨主張する。
しかし,段落【0007】には,電気エネルギーとは,植物自身が発生する植物電気の測定方法であること,段落【0010】には,電気エネルギーの測定を,地上4m,幹と培地間とで行うこと,段落【0012】には,植物体の測定位置について,随意に検討されるものであるが,例えば,培地に対して「梢頂,枝,葉,幹,果実,花」等でよいことが,それぞれ記載されており,優に,本件明細書の発明の詳細な説明から「経穴の位置を確定するために測定する」との技術事項を読み取ることができる。
( ) 米国テキサス州立大学のランド教授は,1947年,個々の細胞の持つ起 4電力の本体が酸化還元電位であるとの見解を発表し,その後,多細胞系に見られる生体電位差は個々の細胞の持つ起電力の代数和であると主張している。
また,ドイツのアービン,ビニングらは,発生する電場を,電気的極性,細胞内外のイオン濃度分布の相違,及び,陰イオンと陽イオンとの膜透過速度の相違によって発生する拡散電位差と考えているようである。ところで,日本においては,昔から,常識的に,植物根から電気が発生していると言われていた。引用例1及び2は,その流れを汲むものと考えられる。本願発明においては,植物根から電気が発生しているとの日本の常識が間違いであることを示しているのである。このことは,根際をアース棒で接地していることからも明らかである。
( ) 以上のとおり,本願発明にいう「植物が発電する発電力のパワーアップを 5測定する」とは,「経穴」を特定し,印加することであるから,審決の上記認定は,根本的に誤っており,審決による本願発明の要旨の認定は,誤りである。
2 取消事由2(本願発明と引用発明1及び2との相違点の看過)( ) 審決は,引用発明1を「一方の電極やコイルA2を植物に接触するように 1配置し,他方の電極やコイルB2を根の近傍に配置し,植物に電界を印加することにより肥料の吸収を促進し,植物の育成を促進する植物育成方法」(審決謄本2頁第2段落),引用発明2を「トマト,キュウリ等の植物の茎に炭素繊維を巻きつけ,地下の根底下約10〜15cmに炭素繊維を埋め,前者を陰極,後者を陽極として電流を通電することにより,植物の成長速度および果実の結実性をよくする植物の育成方法」(同頁下から第2段落)とした上,「本願発明と引用例1又は2の発明とは,植物と培地間に通電する電気による植物の生長方法で一致し, 本願発明では,『植物が発電する発電力のパワーアップを測定』しているのに対し,引用例1又は2の発明では,植物が発電する発電力のパワーアップを測定していない点,で構成が相違する。」(審決謄本3頁第3段落)と認定したが,誤りである。
( ) 本願発明は,「植物と培地間に通電して,植物が発電する発電力のパワー 2アップを測定することを特徴とした電気による植物の生長方法」の発明であるのに対して,引用例1に記載されているのは,「電界又は磁界を時間と共に変化させることを特徴とした」発明であり,引用例2に記載されているのは,「電極に炭素繊維を使用することを特徴とした」発明である。したがって,引用発明1及び2は,いずれも,「電気による植物の生長方法」であるという限りにおいて,本願発明と共通点を有するが,印加位置の特定はなく,技術的思想は全く異なっているものである。
より具体的にいうと,引用例1には,植物に電界又は磁界を印加し,時間とともに変化させる方法,換言すると,植物にパルス状の刺激を与えることを特徴とした植物育成方法が記載され,また,引用例2においては,電気分解法で養分の供給と促進を図り,電極に炭素繊維を使用することを特徴とし,印加を炭素繊維の電極に限定した植物成長法が記載されているにすぎず,いずれも,本願発明のような,経穴(印加位置)を特定するために,植物と培地間に通電して,植物の発電力を測定するというものではない。
( ) したがって,審決は,本願発明と引用発明1及び2との相違点を看過して 3いるものである。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)( ) 審決は,「引用例1には,『植物の育成過程に根から電流が流れているこ 1とが知られているが,本発明の方法によれば,電界や磁界の刺激によってその電流の発生が促進される。』・・・と記載されており,植物の育成過程に根から流れている電流を測定していることが示唆されており,また,引用例1又は2の発明は,植物と培地との間に通電している。そうすると,引用例1又は2の発明において,植物と培地との間に電流を通電しないときと通電したときとに,植物と培地との間に実際にどの程度の電流が流れているかを確認するために,植物と培地との間の電流を測定すること,すなわち,植物が発電する発電力のパワーアップを測定することは当業者が容易に想到できることである。」(審決謄本3頁最終段落〜4頁第1段落)と判断したが,誤りである。
( ) 植物や動物が有する電気については,その正確な原因は,いまだ判明して 2いないといわれており,発見及び発明は,実体験のみに依存しているものである。植物は,「未分化生物」といわれ,生体のどの部分を切断しても発芽するものであり,かつ,圧倒的な長寿の生体でもある。植物体は,上記のような潜在的な能力とポテンシャルを有しているから,植物体のバランスを図る「動的平衡」の技術の生まれる余地があるのである。このような事情を踏まえ,本願発明は,上記1( )のとおり,植物体の経穴(印加位置)を特定す 2るために,植物と培地間に通電して,植物の発電力を測定することを特徴とした植物の生長方法(生体機能の回復と活性化方法)の発明であるのに対し,引用発明1及び2は,いずれも,現状における作用の活性化を図るという極めて消極的な成長行為にすぎないものであり,本願発明と引用発明1及び2とでは,比較にならないほど手法に格差がある。
したがって,当業者が容易に想到し得るとする審決の判断は,余りに植物知識を無視したものである。
( ) また,引用発明1及び2は,庭木,杉,松等を対象植物としておらず,例 3えば,引用例2に記載された対象植物はトマト,ナス等であるのに対し,本願発明では,樹木,花木,葉菜,根菜その他植物全般を対象植物としており,発明の対象が異なっている。引用発明1及び2は,これを,庭木や杉,松などについて実施すること,あるいは,畑及び田圃において実施することが全く不可能であり,本願発明とは,用途面が全く異なるものである。
( ) このように,本願発明は,明らかに特徴ある技術的な創作であるから,引 4用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明し得るようなものではない。
4 取消事由4(本願発明の顕著な効果の看過)( ) 本願発明は,上記1( )のとおり,植物の生体機能の回復と活性化方法の 12発明であるから,衰弱した植物の賦活,老衰した樹林の若返り,病微樹木の回復及び治療果実の増収及び味覚の改善等に幅広く利用することができる。
すなわち,植物体の「動的平衡」を図る生体バランスの改善から恒常的なホメオシタシス化で生長力が生まれる方法である。
引用発明1及び2は,いずれも水や肥料や養分の吸収を促進することを目的とした方法であって,経穴(印加位置)の特定ということはないので,引用発明1及び2から,本願発明の上記のような顕著な効果を奏することを予測することは困難である。
( ) 本件明細書の発明の詳細な説明に,「本発明は,非常に簡単な方法で,し 2かも労力も費用の面でも,安直な方法で実施できる。即ち,マツノザイセンチウによる,マツ葉が黄変したマツが,乾電池1本で完治するという画期的な,本発明の電気による植物生長方法を提供するものである。」(段落【0004】)と記載されているとおり,「マツノザイセンチュウ」による黄変したマツ枯れは,本願発明によって,その治療に成功している。また,昔からマツタケを発生させたら「ノーベル賞」ものであるといわれていたところ,本願発明により,マツタケの発生にも成功した。これらの点も,本願発明の顕著な効果というべきである。
5 取消事由5(特許請求の範囲請求項2に係る発明の判断遺脱等)本件明細書の特許請求の範囲請求項2は,本願発明とは異なる独立の発明であるにもかかわらず,審決は,本願発明についての審理をしたのみで,特許請求の範囲請求項2に係る発明について,全く審理をしていないから,審決には,判断を遺脱した瑕疵がある。
また,上記第2の1のとおり,原告は,平成6年1月28日に本件出願をしたところ,特許庁は,11年余りを経過した平成17年5月23日に審決をしたものであり,審査,審判を含めて,審決に至るまでに12年近くを要している。この期間の長さは異常であり,重大な過失といわざるを得ない。
以上のとおり,審決には手続上の違法があるから,速やかに取り消されるべきである。
被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(本願発明の要旨の認定の誤り)について原告は,本願発明は,植物体の経穴(印加位置)を特定するために,植物と培地間に通電して,植物の発電力を測定することを特徴とした植物の生長方法(生体機能の回復と活性化方法)の発明であり,本願発明にいう「植物が発電する発電力のパワーアップを測定する」とは,植物の最高エネルギーの位置である「経穴」を確定し,印加することであると主張する。
しかし,本件明細書の特許請求の範囲請求項1には「植物が発電する発電力のパワーアップを測定する」と記載されているのみであり,請求項2をみても,「植物の発電力を測定する」と記載されているのみであって,経穴(印加位置)を特定するために測定したりするという技術事項の記載は,存在しない。
また,本件明細書の発明の詳細な説明参酌することが可能であると仮定しても,本件明細書の発明の詳細な説明には,「電流計12の陰極側(-)電線3(導線)を植物体1の地上約4m付近に係止具6で係止し,陽極側(+)を培地2に埋設してある接地体4の電線3(導線)と接続し,通電して測定する。」(段落【0007】),「植物体1の約4m上幹と培地2間の電流を電流計12で測定すると約5〜7ミクロンアンペアの電流が測定される。」(段落【0010】),「植物体の測定位置については,随意に検討されるものであるが,例えば,培地に対して「稍頂,枝,葉,幹,果実,花」等でよいが,」(段落【0012】),「電気エネルギーの測定は,地上4m幹と培地間。」(段落【0018】及び【0019】),「地上1.5mの枝葉と培地とを測定,」(段落【0020】)といった記載があるのみであって,経穴(印加位置)を特定するために測定するといった技術事項を読み取ることはできない。
要するに,本願発明は,「植物と培地間に通電」することを構成要件とし,印加位置を特定することを構成要件とするものではないから,原告の主張は,失当である。
2 取消事由2(本願発明と引用発明1及び2との相違点の看過)について( ) 原告は,本願発明は,上記のとおり,経穴(印加位置)を特定し,植物と 1培地間に通電して,植物の発電力を測定することを特徴とした植物の生長方法(生体機能の回復と活性化方法)であると主張する。
しかし,上記1のとおり,本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,「植物と培地間に通電して」と記載されていて,植物及び培地における具体的な接続位置が特許請求の範囲には記載されていないから,原告の主張は,本願発明の構成要件から離れた主張である。本願発明においては,「植物と培地間に通電」することを構成要件とし,経穴(印加位置)を特定することを発明の構成要件とするものではない。
( ) 原告は,引用例1に記載されているのは,「電界又は磁界を時間と共に変 2化させることを特徴とした」発明であり,引用例2に記載されているのは,「電極に炭素繊維を使用することを特徴とした」発明であると主張する。
しかし,一般に,引用発明を認定するに当たっては,引用例に記載された特許請求の範囲に基づいて認定する必要はなく,引用例から当業者が一つの独立した技術的思想として把握できる技術を,引用発明として認定することができるものである。これを本件についてみると,審決に記載したとおりの引用例1及び2の記載内容からみて,審決認定のとおり,「一方の電極やコイルA2を植物に接触するように配置し,他方の電極やコイルB2を根の近傍に配置し,植物に電界を印加することにより肥料の吸収を促進し,植物の育成を促進する植物育成方法」(引用発明1,審決謄本2頁第2段落),引用発明2として「トマト,キュウリ等の植物の茎に炭素繊維を巻きつけ,地下の根底下約10〜15cmに炭素繊維を埋め,前者を陰極,後者を陽極として電流を通電することにより,植物の成長速度および果実の結実性をよくする植物の育成方法」(引用発明2,同頁下から第2段落)を,それぞれ把握することができるものである。
したがって,原告の上記主張は,誤っている。
( ) 以上のとおりであって,審決の,本願発明と引用発明1及び2との相違点 3の認定に誤りはない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について( ) 原告は,本願発明が,植物体の経穴(印加位置)を特定するために,植物 1と培地間に通電して,植物の発電力を測定することを特徴とした植物の生長方法(生体機能の回復と活性化方法)の発明であるとの前提で,本願発明の進歩性の主張をするが,上記1のとおり,本願発明は,経穴(印加位置)を特定することを構成要件とするものではないから,これを前提とする原告の主張は,失当である。
( ) 原告は,本願発明と引用発明1及び2とが発明の対象を異にしている旨主 2張する。
しかし,本件明細書の特許請求の範囲の記載には,「植物」と記載されているのみであるから,本願発明と引用発明1及び2とは,発明の対象が重なっていることが明らかである。したがって,原告の上記主張は,失当である。
4 取消事由4(本願発明の顕著な効果の看過)について引用例1及び2には,「肥料の吸収を促進し,植物の育成を促進する植物育成方法」,「植物の成長速度および果実の結実性をよくする植物の育成方法」の発明が,それぞれ記載されているものであって,原告の主張する効果は,引用発明1及び2から,当業者が容易に予測し得るものであり,格別顕著な効果であるということができない。
5 取消事由5(特許請求の範囲請求項2に係る発明の判断遺脱等)について特許法49条柱書は,「審査官は,特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と定めており,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明のいずれか一つが,特許法29条等の規定により,特許をすることができないものとされるときは,請求項単位ではなく,その特許出願全体を拒絶すべきことを規定している。したがって,本件出願において,請求項1に係る発明につき特許をすることができないときは,請求項1以外の請求項に係る発明についてその特許要件を検討することなく,出願は拒絶されるべきものであって,この点に関する審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明の要旨の認定の誤り)について( ) 原告は,本願発明は,植物体の経穴(印加位置)を特定するために,植物 1と培地間に通電して,植物の発電力を測定することを特徴とした植物の生長方法(生体機能の回復と活性化方法)の発明であり,本願発明にいう「植物が発電する発電力のパワーアップを測定する」とは,植物の最高エネルギーの位置である「経穴」を特定するための,印加位置の特定の方法であると主張する。
しかし,本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,上記第2の2のとおり,「植物と培地間に通電して植物が発電する発電力のパワーアップを測定することを特徴とした電気による植物の生長方法」と記載されているのみであって,経穴あるいは印加位置に関する記載はない。
( ) ところで,「植物が発電する発電力のパワーアップ」の語句は,通常の用 2語例に従えば,「植物が発電する発電力」を高めるとか増強するとかいった意味であると解されるが,一義的に明確であるとはいえないので,発明の詳細な説明参酌して,その技術的意義を探究することにする。本件明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
ア 「概念 生存する全ての植物は,四六時中ある種の発電作用を行っている。その発電力は固体差により千差万別であるが,同種間にあっては発電力の大きい程,生長力があり健康体である。従って,同所,同令,同種間の植物が持つ発電力(以下電気エネルギーという)の大,小は植物が持つ潜在的な生長力のバロメーターである。」(段落【0005】)イ 「概要 植物が発電する電気エネルギーに,別途な電源を通電して,人為的にパワーアップを図り,植物機能をより活発にし,各作用の働きを促進して『動的平衡』を醸成させ,これが植物の生長力を生み,生長から病微の回復に至る機能を回復する作用が有効的に働くことを目的としたものである。」(段落【0006】)ウ 「電気エネルギーの測定 電気エネルギーの測定は,通常の場合,図5に示すように,接地体4(アース棒)の陽極側(+)を培地2(植物の根部近傍)に埋め込み,陰極側(-)の電線3(導線)を植物体1の根際に係止mm 具6(ステンレス針,又はステップルの先端を植物体1内に5〜10差し込み電線3(導線)を係止する。)にて係止し,電流計12の陰極側(-)電線3(導線)を植物体1の地上約4m付近に係止具6で係止し,陽極側(+)を培地2に埋設してある接地体4の電線3(導線)と接続し,通電して測定する。測定は,電圧,電流共に測定可能だが電流測定の方が微量で測定が安定,精度が高い,従って,本発明では電流測定を基本とする。」(段落【0007】)エ 「適用形態例 例えば,マツ樹令35年,胸高周33 の健康木の地cm上4m幹に,係止具6を通して,陰極端子(-)を接続,陽極端子(+)を接地体4を通して,培地2(根部近傍)に接地,植物体1の約4m上幹と培地2間の電流を電流計12で測定すると約5〜7ミクロンアンペアの電流が測定される。このマツの根際(地上約20〜30 )に,乾電池3Vcmmm (単三2ケ)の陰極端子(-)の先端を係止具6で係止して5〜10を樹体内に差込み,陽極端子(+)を接地体4に接続し,培地2内(根部近傍)に10〜20 差込んで,培地2から植物体1に通電する。前記測 cm定した幹と培地2間の電流計5〜7ミクロンアンペアは,15〜20ミクロンアンペアに上昇する。培地と根際の各差し替えをすると,電流の変化が生じるが,上昇電流の大きい程,電気エネルギーの効果が高い。これが本発明でいう『電気エネルギーのパワーアップ』である。」(段落【0010】)オ 「植物体の測定位置については,随意に検討されるものであるが,例えば,培地に対して「稍頂,枝,葉,幹,果実,花」等でよいが,重要なことは「測定値を何倍にするか」,又は電源の選定にある。」(段落【0012】)( ) 上記記載,特に,「従って,同所,同令,同種間の植物が持つ発電力(以 3下電気エネルギーという)の大,小は植物が持つ潜在的な生長力のバロメーターである。」,「培地と根際の各差し替えをすると,電流の変化が生じるが,上昇電流の大きい程,電気エネルギーの効果が高い。これが本発明でいう『電気エネルギーのパワーアップ』である。」の記載によれば,「植物が持つ発電力」とは「電気エネルギー」のことであり,「電気エネルギーのパワーアップ」とは「上昇電流の大きい程,電気エネルギーの効果が高い」ということである。そして,上記( )エによれば,樹令35年の健康な松の地 2上から約4mの幹と培地間を導線で結んで電流計を置き,上記幹と培地間を流れる電流を測定すると約5〜7ミクロンアンペアの電流が測定されたこと,一方,当該松の根際(地上約20〜30 )と根部近傍の培地とを導線で cm結んで3ボルトの直流電流を流した状態で,上記幹と培地間を流れる電流を測定すると15〜20ミクロンアンペアの電流が測定され,電流が上昇していることが認められ,これを「上昇電流」と称しているものである。
そうすると,本願発明にいう「植物が発電する発電力のパワーアップを測定する」とは,当該植物と培地間に通電して上昇電流を測定し,これをもって,植物が本来持っている電気エネルギーの大きさの測定をするものと認められる。
その他,本件明細書の発明の詳細な説明を検討しても,「植物が発電する発電力のパワーアップを測定する」との語句が経穴あるいは印加位置に関する技術的意義を有することを認めるに足りる記載を見いだすことができない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明を検討しても,本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,経穴あるいは印加位置に関する記載はないというほかはなく,本願発明が植物体の経穴(印加位置)を特定するための発明であるとする原告の主張は,採用することができない。
( ) 原告は,段落【0010】には,電気エネルギーの測定を,地上4m,幹 4と培地間とで行うこと,段落【0012】には,植物体の測定位置について,随意に検討されるものであるが,例えば,培地に対して「梢頂,枝,葉,幹,果実,花」等でよいことが,それぞれ記載されているから,本件明細書の発明の詳細な説明から,経穴(印加位置)を特定するために測定するという技術事項を読み取ることができる旨主張する。
確かに,原告主張のとおり,段落【0010】には,電気エネルギーの測定を,地上4m,幹と培地間とで行うこと,段落【0012】には,培地に対して「梢頂,枝,葉,幹,果実,花」等でよいことがそれぞれ記載されており,印加位置に関する記載があるということができるものの,ここでは,本願発明にいう「植物が発電する発電力のパワーアップを測定する」がどのような技術的意義を有するかを探究するために本件明細書の発明の詳細な説明参酌しているのであって,本願発明の要旨認定において印加位置を論ずることはできない。しかも,上記記載は,印加位置に関する記載ではあっても,印加位置の特定を示すものでも,植物体の経穴を示すものでもない。
( ) そうすると,「本願発明の『植物が発電する発電力のパワーアップ』は, 5発明の詳細な説明における前記『電気エネルギーのパワーアップ』と同義であり,植物と培地との間で流れる上昇電流の大きさであると考えられる。」とした審決の認定に誤りはなく,原告の取消事由1の主張は採用の限りでない。
2 取消事由2(本願発明と引用発明1及び2との相違点の看過)について( ) 引用例1(甲3)には,次の記載がある。 1ア 「植物に電界または磁界を印加し,かつその印加する電界または磁界を時間と共に変化させることを特徴とする植物育成方法。」(特許請求の範囲)イ 「(作用)植物の育成過程に根から電流が流れていることが知られているが,本発明(注,引用例1の特許請求の範囲に係る発明)の方法によれば,電界や磁界の刺激によってその電流の発生が促進される。そして,これにより肥料の吸収が促進され,育成が促進されることになる。」(1頁右下欄第3段落)ウ 「第2図の実施例では,一方の電極やコイルA2を植物またはその種子Pに接触するように配置し,他方の電極またはコイルB2は根の近傍に配置する。」(1頁右下欄最終段落〜2頁左上欄第1段落)エ 「第5図の実施例では,植物Pの茎に,一方の電極である触針25を刺す方法,第6図の実施例では,接触電極片26にて茎や葉に触れる方法,第7図の実施例では,大量育成の場合に,植物Pと接触する一方の電極を導電性の網27にする方法を夫々採用した。」(2頁左上欄最終段落〜同頁右上欄第1段落)オ 上記エの記載に沿って,第5図には,植物Pの茎に触針25を刺している図が,第6図には,植物Pの茎を接触電極片26で挾んでいる図が,それぞれ記載されている。
上記記載によれば,引用例1には,「一方の電極やコイルA2を植物に接触するように配置し,他方の電極やコイルB2を根の近傍に配置し,植物に電界を印加することにより肥料の吸収を促進し,植物の育成を促進する植物育成方法」(審決謄本2頁第2段落)の発明(引用発明1)が記載されているものと認められる。
( ) 引用例2(甲4)には,次の記載がある。 2ア 「電気分解法で植物に養分を供給する際,電極として炭素繊維を使用することを特徴とする植物の成長速進用電極。」(特許請求の範囲)イ 「本発明(注,引用例2の特許請求の範囲に係る発明)はかゝる事情に鑑みなされたものである。即ち,最適温度以下でも充分に植物は植より水分および養分を吸収するように電気を以って根に活力を与える電極に関するものである。今日,植物の茎,枝幹などを陰極として根の下部(大地,水中など)を陽極として電気を通ずると植物の成長が活発になることが知られている。」(1頁右下欄第2,第3段落)ウ 「次に実施例を示す。温室に栽培しているトマト,キュウリおよびメロンの茎に本発明(注,引用例2の特許請求の範囲に係る発明)の炭素繊維を巻きつけ,地下の根底下約10〜15cmに炭素繊維を図面の如く埋め,前者を陰極,後者を陽極として約6ボルト,約0.2アンペアの電流を日中のみ通電し,植物の成長速度および果実の結実性および果実の成育度(重量)を調査した。本発明の電極を取りつけた植物は電極を取りつけない植物に比べ成長速度は約2倍になり,かつ果実の結実性もよく果実の重量が約1.7倍になることが判明した。」(2頁左上欄下から第3段落〜同頁右上欄第1段落)。
エ 図面には,トマト,キュウリ等の植物の茎に炭素繊維電極が巻きつけられるとともに,同炭素繊維電極と発電機,蓄電器あるいは太陽電池とを導線で結び,一方,同植物の根の真下に炭素繊維電極が埋め込まれるとともに,同炭素繊維電極と発電機,蓄電器あるいは太陽電池とを導線で結んで,茎に巻き付けた炭素繊維電極と根の真下に埋め込まれる炭素繊維電極を通じて,当該植物の根と茎の間を通電している図が記載されている。
上記記載によれば,引用例2には,「トマト,キュウリ等の植物の茎に炭素繊維を巻きつけ,地下の根底下約10〜15cmに炭素繊維を埋め,前者を陰極,後者を陽極として電流を通電することにより,植物の成長速度および果実の結実性をよくする植物の育成方法」(審決謄本2頁下から第2段落)の発明(引用発明2)が記載されていると認められる。
( ) 本願発明と引用発明1及び2とを対比すると,いずれも,「植物と培地間 3に通電することを特徴とした植物生長方法」である点で一致することが明らかであり,審決が,「本願発明と引用例1又は2の発明とは,植物と培地間に通電する電気による植物の生長方法で一致し, 本願発明では,『植物が発電する発電力のパワーアップを測定』しているのに対し,引用例1又は2の発明では,植物が発電する発電力のパワーアップを測定していない点,で構成が相違する。」(審決謄本3頁第3段落)とした点に誤りはない。
( ) 原告は,引用例1に記載されているのは,「電界又は磁界を時間と共に変 4化させることを特徴とした」発明であり,引用例2に記載されているのは,「電極に炭素繊維を使用することを特徴とした」発明であると主張するので,検討する。
ある発明の進歩性を検討するに当たっては,当該発明と公知文献に記載された発明(特許法29条1項3号所定の発明)とを対比し,一致点と相違点とを抽出した上で,相違点についての容易想到性を検討するのが通例であり,かつ,合理性のあるところである。その際に検討されるべき公知文献に記載された発明とは,当該公知文献に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から当業者が把握することのできる発明であって,その公知文献が例えば公開特許公報の場合には,公開特許公報の記載全体から,当該発明との対比において,当業者が把握することのできる発明がどのようなものであるかを検討するのであって,特許請求の範囲に係る発明に限定されるものではない。本件において,公開特許公報である引用例1及び2の各特許請求の範囲に原告の上記主張に係る事項の記載があることは,上記のとおりであるが,審決は,引用例1及び2の記載全体を検討した上で,本願発明と対比するための公知技術として,「一方の電極を植物に接触するように配置し,他方の電極を根の近傍に配置し,植物に電界を印加することにより肥料の吸収を促進し,植物の育成を促進する植物育成方法」の発明(引用発明1),「トマト,キュウリ等の植物の茎に炭素繊維を巻きつけ,地下の根底下約10〜15cmに炭素繊維を埋め,前者を陰極,後者を陽極として電流を通電することにより,植物の成長速度および果実の結実性をよくする植物の育成方法」の発明(引用発明2)を認定しているのであって,その認定に誤りはない。
なお,原告は,本願発明が,経穴(印加位置)を特定するために,植物と培地間に通電して,植物の発電力を測定するものであるとしているが,この主張が誤りであることは,上記1に判示したとおりである。
( ) そうすると,審決が本願発明と引用発明1及び2との相違点を看過してい 5るとする原告の取消事由2の主張は,採用することができない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について( ) 本願発明と引用発明1及び2とが,本願発明では,「植物が発電する発電 1力のパワーアップを測定」しているのに対し,引用例1又は2の発明では,植物が発電する発電力のパワーアップを測定していない点,で構成が相違することは,上記2( )のとおりである。3引用例1(甲3)には,上記2( )イのとおり,「植物の育成過程に根か 1ら電流が流れていることが知られているが,本発明の方法によれば,電界や磁界の刺激によってその電流の発生が促進される。そして,これにより肥料の吸収が促進され,育成が促進されることになる。」(1頁右下欄第3段落)との記載があり,引用例2(甲4)には,上記2( )イのとおり,「今2日,植物の茎,枝幹などを陰極として根の下部(大地,水中など)を陽極として電気を通ずると植物の成長が活発になることが知られている。」(1頁右下欄第3段落)との記載がある。上記記載によれば,本件出願当時には,植物の育成過程で根から電流が流れていること,植物に電気的な刺激を与えると上記電流の発生が促進され,育成が促進されることが公知の技術事項として知られていたことが認められる。
そして,引用例2では,植物の育成過程に根から流れている電流を測定していることが示唆されており,また,上記2( )のとおり,引用発明1及び 32は,いずれも,「植物と培地間に通電することを特徴とした植物生長方法」の発明である。
そうすると,引用発明1及び2に接した当業者が,植物に電気的な刺激を与えるか否かで,植物と培地との間の電流がどのように変化するかを数量的に確認するために,植物と培地との間の電流を測定してみようと考えるのは,ごく自然なことであって,これを妨げるような格別の困難はない。したがって,「植物と培地間に通電することを特徴とした植物生長方法」において,「植物が発電する発電力のパワーアップを測定」することは,当業者が容易に想到し得たことというべきである。
( ) 原告は,本願発明が,植物体の経穴(印加位置)を特定するために,植物 2と培地間に通電して,植物の発電力を測定することを特徴とした植物の生長方法(生体機能の回復と活性化方法)の発明であるとの前提で,引用発明1及び2は,いずれも,現状における作用の活性化を図るという極めて消極的な成長行為にすぎないものであり,本願発明と引用発明1及び2とでは,比較にならないほど手法に格差があるから,当業者が容易に想到し得るとすることはできない旨主張する。
しかし,本願発明が,植物体の経穴(印加位置)を特定するための発明であるといえないことは,上記1( )のとおりであるから,原告の上記主張は, 3その前提において既に誤りであって,その余の点について検討するまでもなく,採用することができない。
( ) 原告は,本願発明と引用発明1及び2とは,発明の対象が異なっており, 3また,用途面でも全く異なるものであるから,容易想到といえない旨主張する。
しかし,上記2( )のとおり,本願発明と引用発明1及び2とは,「植物 3が発電する発電力のパワーアップを測定」する構成があるかで相違するのみであり,いずれも,「植物と培地間に通電することを特徴とした植物生長方法」である点で一致しているのであるから,発明の対象,用途面が異なるといえないことは,明らかである。
結局,原告の上記主張は,本願発明の特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるから,失当であるというほかない。
( ) そうすると,原告の取消事由3の主張も,採用することができない。 44 取消事由4(本願発明の顕著な効果の看過)について( ) 原告は,本願発明は,植物の生体機能の回復と活性化方法の発明であるか 1ら,衰弱した植物の賦活,老衰した樹林の若返り,病微樹木の回復及び治療果実の増収及び味覚の改善等に幅広く利用することができる旨主張する。
しかし,上記2( )のとおり,本願発明と引用発明1及び2とは,「植物 3が発電する発電力のパワーアップを測定」する構成があるかで相違するのみであり,いずれも,「植物と培地間に通電することを特徴とした植物生長方法」である点で一致しているのであって,測定手段にすぎない「植物が発電する発電力のパワーアップを測定」するとの構成の有無で,本願発明が,引用発明1及び2とは異なる格別の効果を有するものとは認め難い。
引用発明1においては,電界や磁界の刺激によって植物内に流れる電流の発生が促進され,「肥料の吸収が促進され,育成が促進される」というのであり,引用発明2においては,「電極を取りつけた植物は電極を取りつけない植物に比べ成長速度は約2倍になり,かつ果実の結実性もよく果実の重量が約1.7倍になる」というのであるから,衰弱した植物の賦活,老衰した樹林の若返り,病微樹木の回復及び治療果実の増収及び味覚の改善等に幅広く利用することができるとの効果は,引用発明1及び2から,本願発明の構成のものとして本件出願時に予測される範囲内の効果である。
( ) 原告は,本願発明が植物体の経穴(印加位置)を特定するための発明であ 2るとの前提で,引用発明1及び2にない顕著な効果を奏する旨主張するが,本願発明がそのような発明であるといえないことは,上記1( )のとおりで3あるから,原告の上記主張は,その前提において既に誤りであって,採用の限りでない。
( ) 原告は,「マツノザイセンチュウ」による黄変したマツ枯れを,本願発明 3によって治療に成功した,本願発明によりマツタケの発生にも成功した旨主張する。
しかし,本願発明は,上記第2の2のとおり,「植物と培地間に通電して植物が発電する発電力のパワーアップを測定することを特徴とした電気による植物の生長方法」という発明であり,引用発明1及び2とは異なる格別の効果を有するものとはいい難い。
また,本件明細書の発明の詳細な説明には,本願発明の実施例として,「マツノザイセンチュウ」により黄変したマツ枯れを治癒させた旨の記載があるが,実施例(4)として,「 マツノザイセンチウ(材線虫病)による葉が黄変したマツ各1本を用いて比較実験をした。期間 1992年10月10日より同年12月15日まで。測定電気エネルギーの測定は,地上4m幹と培地間。被実験マツ 樹齢85年 胸高周 86 電気エネルギー7. cm5マイクロアンペアが3.2マイクロアンペアに減少する。枯死寸前になる。
実験マツ 樹齢85年 胸高周 82 電気エネルギー7マイクロアンペア cmを21マイクロアンペアにパワーアップ,29マイクロアンペアに増大する。
100%回復した。」(段落【0019】)との記載があるのみであって,上記記載から,にわかに,引用発明1及び2との相違点である「植物が発電する発電力のパワーアップを測定すること」との構成が加わることによって上記マツ枯れの治癒という効果を奏するものとなるということは困難である。
なお,マツタケを発生させることについては,本件明細書に何らの記載もないから,ここで論ずる余地はない。衰弱した植物の賦活,老衰した樹林の若返り,病微樹木の回復及び治療果実の増収及び味覚の改善等に幅広く利用することができるという一般的な効果については,上記( )のとおりである。1( ) そうすると,原告の取消事由4の主張も,採用することができない。 45 取消事由5(特許請求の範囲請求項2に係る発明の判断遺脱等)について( ) 原告は,審決が,本件明細書の特許請求の範囲請求項2について検討せず 1に出願を拒絶するとの結論を導いているから,審決には判断の遺脱がある旨主張する。
特許法49条は,特許出願に係る発明が,特許法29条等の規定に該当し,特許をすることができないものであるときは,審査官は,その特許出願について拒絶査定をしなければならないと規定するとともに,特許法51条においては,特許出願について拒絶の理由を発見しないときは,出願公告をすべき旨の査定をしなければならないと規定しており,一つの特許出願について,拒絶査定か特許査定かのいずれかの行政処分をすべきことを規定している。
他方,特許法は,特許無効の審判について,「二以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる。」(123条1項柱書)と明文で規定し,特許査定という行政処分がされた後には,各請求項ごとに,無効審判の申立てをすることができることを明記している。以上の特許法の規定の仕方にかんがみると,特許法49条は,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明のいずれか一つが,上記特許法29条等の規定に該当し,特許をすることができないものであるときは,その特許出願全体を拒絶すべきことを規定しているものと解すべきである。
本件の場合,審決は,本願発明(特許請求の範囲請求項1)につき,特許法29条2項の規定に該当し特許を受けることができないと判断しているのであるから,これによって本件出願が全体として特許法49条1号に該当し,拒絶をすべきものとなることは明らかである。したがって,審決が特許請求の範囲請求項2についての判断を遺脱したとする原告の主張は,理由がない。
( ) 原告は,本件出願後,審決に至るまでに12年近くを要しているとして, 2特許庁に重大な過失がある旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,それ自体として,審決の結論に影響を及ぼすべき手続上の瑕疵ということができないのみならず,証拠(乙1〜3)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件出願から7年後の平成13年1月25日に,手続補正書の提出とともに出願審査の請求をし,拒絶理由通知を受けて,平成15年4月及び同年6月に手続補正書を提出していることが認められるから,失当というほかない。
( ) 以上によれば,原告の取消事由5の主張も採用することができない。 36結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明