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関連審決 不服2002-7490
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  パリ条約 /  優先権 /  着想 /  優先日 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  国際出願 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10464号 審決取消請求事件
原告 サムスンエレクトロニクス カンパニー リミテッド
同代表者代表理事
同訴訟代理人弁理士 志賀正武
同渡辺隆
同村山靖彦
同実広信哉
同訴訟復代理人弁理士 野村進
被告 特許庁長官中嶋 誠
同指定代理人 長島孝志
同小林紀和
同宮下正之
同羽鳥賢一
同小池正彦
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/03/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-7490号事件について平成16年12月21日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等原告は,平成11年4月6日(パリ条約による優先権主張1998年4月4日,大韓民国)を国際出願日とし,発明の名称を「チャネル符号化/復号装置及び方法」とする特許出願(平成11年特許願第550314号,以下「本願」という )をしたが,特許庁は,平成14年1月18日,本願について拒 。
絶査定をした。
原告は,平成14年4月30日,拒絶査定不服審判の請求をしたが(不服2002-7490号 ,特許庁は,平成15年4月15日 「本件審判の請求 ),は,成り立たない 」との審決をした。。
そこで,原告は,平成15年9月8日,上記審決の取消訴訟を提起したところ(東京高等裁判所平成15年(行ケ)第396号 ,平成16年10月26 )日,上記審決を取り消す旨の判決が言い渡され,その後これが確定した。
これを受けて,特許庁は,上記審判事件について,さらに審理した上,平成16年12月21日 「本件審判の請求は,成り立たない 」との審決(以下 ,。
「本件審決」という)をし,その謄本は,平成17年1月11日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲平成13年12月3日付け手続補正後の本願に係る明細書(以下「本願明細書」という )の請求項3の記載は,次のとおりである(以下,この発明を 。
「本願発明」という 。。)「移動通信システムのチャネル符号化装置において,伝送するデータが32Kbps/10ms以上のデータレートか又は320ビット以上のフレームサイズであるデータサービスの場合はターボ符号器を選択し,該条件以外のデータサービス及び音声サービスの場合は畳み込み符号器を選択する制御器と,前記制御器の制御下でデータを畳み込み符号化する畳み込み符号器と,前記制御器の制御下でデータをターボ符号化するターボ符号器と,を備えることを特徴とするチャネル符号化装置 」。
3 本件審決の理由別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,欧州特許公開第820159号明細書(甲1,以下「引用例」という )に記載された発明(以 。
下「引用発明」という )及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明を 。
することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
本件審決が認定した本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(一致点)通信システムのチャネル符号化装置において,伝送するデータが長いフレームサイズの場合はターボ符号器を利用し,短いフレームサイズのデータサービス及び音声サービスの場合は畳み込み符号器を利用する,チャンネル符号化装置。
(相違点1)「通信システムのチャネル符号化装置」に関して,本願発明は「移動通信システム」の「チャネル符号化装置」であるのに対して,引用発明は「VSAT衛星通信システム」の「チャネル符号化装置」である点。
(相違点2)本願発明は,伝送するデータが32Kbps/10ms以上のデータレートか又は320ビット以上のフレームサイズであるデータサービスの場合はターボ符号器を選択し,該条件以外のデータサービス及び音声サービスの場合は畳み込み符号器を選択する制御器を備えているのに対して,引用発明は,そのような制御器を備えていない点。
(相違点3)本願発明は,制御器の制御下でデータを畳み込み符号化する畳み込み符号器と,前記制御器の制御下でデータをターボ符号化するターボ符号器とを備えているのに対して,引用発明は,伝送するデータブロックの長さに対応させて,「ターボ符号器」と「畳み込み符号器」のどちらか一方を利用する点。
原告主張に係る本件審決の取消事由
), 本件審決は,相違点3の認定を誤って相違点を看過し(取消事由1 ,また相違点2,3についての判断を誤った(取消事由2)結果,本願発明の進歩性の判断を誤ったものであり,この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。
なお,本件審決の一致点及び相違点1,2の各認定並びに相違点1についての判断は認める。
1 取消事由1(相違点3の認定の誤り)本件審決は,相違点3を「本願発明は,制御器の制御下でデータを畳み込み符号化する畳み込み符号器と,前記制御器の制御下でデータをターボ符号化するターボ符号器とを備えているのに対して,引用発明は,伝送するデータブロックの長さに対応させて 『ターボ符号器』と『畳み込み符号器』のどちらか ,一方を利用する点 」と認定したが(審決書4頁 ,正しくは 「…引用発明は, 。),『ターボ符号器』と『畳み込み符号器』のどちらか一方のみを備えて,伝送するデータブロックの長さに対応させる点」と認定すべきである。
すなわち,引用例の記載によれば,引用発明においては 「ターボ符号器」,及び「並列連結テイルバインディング畳み込み符号器」のどちらか一方のみを備えることを構成要件としているものと解される。しかるに,本件審決は,引用例の開示内容について,通信システムのチャネル符号化装置において 「タ,ーボ符号器」及び「並列連結テイルバイティング畳み込み符号器」のどちらか一方のみを備えることを正確にとらえないで,相違点3を誤って認定し,相違点を看過したものである。
2 取消事由2(相違点2,3についての判断の誤り)(1) 周知技術の認定について本件審決は,周知技術として,特開平8-237146号公報(甲2,以下「甲2文献」という ,特開昭62-123843号公報(甲3,以下 。)「甲3文献」という ,特開平7-212320号公報(甲4,以下「甲 。)4文献」という )及び特開平5-37674号公報(甲5,以下「甲5文 。
献」という )を挙げた上,漠然と「通信の分野において,符号器を複数個 。
備え,制御器の制御下において入力データに応じて最適の符号器を選択する技術は周知」であると認定している(審決書4頁 。)しかしながら,データの符号化は,いくつかの目的を持って行われ,代表的な目的が,誤り訂正のための符号化と,元のデータの圧縮のための符号化であり,符号化の目的により符号化手法はまったく異なる。
そうすると,符号化の目的に照らせば,@甲2文献から,通信の分野において,一種類の訂正符号器を複数備え,情報の種類(音声,画像)に応じて,処理の経路を選択する技術が,また,A甲3文献〜甲5文献から,通信の分野において,圧縮符号器を複数備え,データに応じて圧縮符号を選択する技術が,それぞれ把握されるというべきであるから,本件審決の上記周知技術の認定は誤りである。
( ) 容易想到性の判断について 2本願発明の「畳み込み符号器 「ターボ符号器」は,データの誤り訂正 」,符号器であるから,圧縮符号に関する甲3文献〜甲5文献とは技術的に異なるものである。また,甲2文献よりとらえられる技術としては,通信の分野において 「一種類の訂正符号器」を複数備え,情報の種類(音声,画像) ,に応じて,処理の経路を選択する技術のみであり,本願発明の構成要件の「伝送するデータが32Kbps/10ms以上のデータレートか又は320ビット以上のフレームサイズ」を何ら開示・示唆していない。ましてや,甲2文献は,畳み込み符号,ターボ符号について一切触れていないばかりか,1つの装置が異なる種類の訂正符号器を備えることについても何ら開示・示唆していない。したがって,甲2文献記載の技術を引用発明に組み合せても本願発明に想到するものではない。
仮に,本件審決が認定したとおり「通信の分野において,符号器を複数 ,個備え,制御器の制御下において入力データに応じて最適の符号器を選択する」ことが周知の技術であったとしても,通信システムのチャネル符号化装置において一種類の符号器のみを備える引用発明と,異なる符号器を複数備える技術とは,一種類と多種類(異なる種類)という点で技術的な思想が大きく異なる。一種類の技術から多種類の技術に移行するためには,多種類を備える必要性について着想する,多種類の使い分け方を決定する,という少なくとも2段階の技術的なステップが必要である点を考慮すると,引用発明に対し,本件審決が周知技術とした技術を組み合せること自体に困難性がある。
したがって,本件審決が,引用発明と周知技術との組み合わせに基づいて本願発明を容易に想到できるものであると判断したのは誤りである。
被告の反論
本件審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張する取消事由には理由がない。
1 取消事由1(相違点3の認定の誤り)について本件審決も,引用発明を「 ターボ符号器』と『並列連結テイルバイティン 『グ畳み込み符号器』の両方を備えたもの」と認定しているわけではなく,そのどちらか一方を備えたものと認定した上で,相違点3を認定したものであるから,原告の主張は,本件審決を正解しないものである。
このことは,本件審決が,相違点3として「…引用発明は,…『ターボ符号器』と『畳み込み符号器』のどちらか一方を利用する点 」を取り上げ,それ。
についての判断として 「 …畳み込み符号器と,…ターボ符号器と,を備え ,『る』ようにすることは当業者であれば容易に想到し得ることである 」と説示。
していること等から明らかである。
2 取消事由2(相違点2,3についての判断の誤り)について(1) 周知技術の認定について甲2文献の図3及び図4からも明らかなように,甲2文献の実施例のものにおいても,画像情報の場合と音声情報の場合とでは,インターリーブメモリからのデータの読み出し順は異なっているのであり,そのことは取りも直さず,画像情報を処理する回路と音声情報を処理する回路とが互いに異なる回路であることを意味する。そして,甲2文献の図1に示される「情報判別部1」は,入力データが画像情報のデータか音声情報のデータかに応じて,上記互いに異なる画像情報用の回路と音声情報用の回路のうちの適した方の回路を選択するものである。したがって,甲2文献には,一種類の訂正符号器を複数備えるものしか開示されていない旨の原告の主張は誤りである。
また,甲3文献〜甲5文献に開示された技術における符号器が圧縮符号器であり,本願発明における「ターボ符号器」や「並列連結テイルバイティング畳み込み符号器」のような誤り訂正のための符号器でないことは,原告主張のとおりであるが,本件審決は 「通信の分野において,符号器を複数個 ,備え,制御器の制御下において入力データに応じて最適の符号器を選択する技術」の限度で周知技術を認定しているものであり,そこでいう符号器は,誤り訂正のための符号器には限られず,圧縮符号器でも良いのであるから,上記認定に誤りはない。
( ) 容易想到性の判断について 2引用発明が異なる符号器を複数備えるものではなくても,@引用例には,「VSATおよびネットワーク基地局」は 「パケット伝送,クレジットカ ,ード処理および音声圧縮通信で典型的である短いデータ・ブロック」の場合は「非再帰的系統的テイルバイティング畳み込み符号」が使用され 「ファ,イル伝送で典型的である長いデータ・ブロック」の場合は「再帰的系統的畳み込み符号を有する並列連結符号化」を利用するという記載があり,入力データに応じて異なる符号器を利用することが示唆されていること,A該示唆のある引用発明において,上記「符号器を複数個備え,制御器の制御下において入力データに応じて最適の符号器を選択する」という周知技術が有用であることは,自明であること,B引用発明において,異なる符号器を複数備えるようにすることを阻害する事情は何もないこと等の事情に照らせば,引用発明に対し上記周知の技術を組み合せること自体に困難性があるという原告の主張が当を得ていないことは明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点3の認定の誤り)について原告は,本件審決が,相違点3を「…引用発明は,伝送するデータブロックの長さに対応させて 『ターボ符号器』と『畳み込み符号器』のどちらか一方 ,を利用する点 」と認定したのは誤りであり,正しくは 「…引用発明は 『タ 。,,ーボ符号器』と『畳み込み符号器』のどちらか一方のみを備えて,伝送するデータブロックの長さに対応させる点」と認定すべきである旨主張する。
( ) 本件審決は,本願発明と引用発明との相違点3として 「本願発明は,制 1 ,御器の制御下でデータを畳み込み符号化する畳み込み符号器と,前記制御器の制御下でデータをターボ符号化するターボ符号器とを備えているのに対して,引用発明は,伝送するデータブロックの長さに対応させて 『ターボ符,号器』と『畳み込み符号器』のどちらか一方を利用する点 」を認定した上。
で(審決書4頁 ,上記相違点についての容易想到性の判断として 「引用 ),発明において 『制御器の制御下でデータを畳み込み符号化する畳み込み符 ,号器と,前記制御器の制御下でデータをターボ符号化するターボ符号器とを備える』ようにするとともに 『伝送するデータ』が所定以上のデータレー ,ト又はフレームサイズであるデータサービスの場合はターボ符号器を選択し,該条件以外のデータサービス及び音声サービスの場合は畳み込み符号器を選択する制御器を備えるようにすることに格別の困難性はなく」と説示し,続けて 「引用発明において『伝送するデータが32Kbps/10ms以上 ,のデータレートか又は320ビット以上のフレームサイズであるデータサービスの場合はターボ符号器を選択し,該条件以外のデータサービス及び音声サービスの場合は畳み込み符号器を選択する制御器と,前記制御器の制御下でデータを畳み込み符号化する畳み込み符号器と,前記制御器の制御下でデータをターボ符号化するターボ符号器と,を備える』ようにすることは当業者であれば容易に想到し得ることである 」と結論づけている(審決書4 。
頁。)( ) すなわち,本件審決は,引用発明が,伝送するデータブロックの長さに対 2応させて「ターボ符号器」と「畳み込み符号器」のどちらか一方を備えて利用するものであるとの前提に立った上で,引用発明に周知技術を適用し,ターボ符号器と畳み込み符号器を両方備えるようにするとともに,データの性質に応じてターボ符号器と畳み込み符号器とを選択する制御器を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得ることである,という判断をしていることが明らかである。
したがって,本件審決は,相違点3を原告が主張するようなものとして認定した上で,それについての判断を行っているのであるから,原告の上記主張は本件審決を正解するものでなく,採用することができない。
2 取消事由2(相違点2,3についての判断の誤り)について( ) 周知技術の認定について 1原告は,甲2文献からは,通信の分野において,一種類の訂正符号器を複数備え,情報の種類(音声,画像)に応じて,処理の経路を選択する技術が,甲3文献〜甲5文献からは,通信の分野において,圧縮符号器を複数備え,データに応じて圧縮符号を選択する技術が,それぞれ把握されるというべきであるのに,本件審決は,甲2文献〜甲5文献に基づき,漠然と「通信の分野において,符号器を複数個備え,制御器の制御下において入力データに応じて最適の符号器を選択する技術は周知」であると誤って認定したものである旨主張する。
ア 甲2文献に「通信の分野において,訂正符号器を複数備え,それを選択する技術」が記載されていることの限度においては,当事者間に争いがないところ,甲2文献には 「音声用インタリーブメモリ3aには音声用メ ,モリ制御部4aの指示信号に従い,128バイトの情報ブロックが図3に示されるような128×8バイトのインタリーブマトリクス60で書き込まれる。つまり128バイトの情報ブロックが図3において縦に8つ書き込まれることになる (甲2の段落0048 「画像情報についても音 。」),声情報と同様の処理が行われて画像用伝送セル40としてセル多重化部7に出力される(S2b〜S7b 。異なる点としては,画像用インタリー )ブメモリ3bでは,図4に示されるような128×47バイトのインタリーブマトリクスで書き込まれる点である。つまり128バイトの情報ブロック50が図4において縦に47個書き込まれることになる。それ以外については,音声情報についての処理と基本的に同様であるので説明は省略する (同段落0052)と記載されているから,そこにおいて音声情 。」報の処理に用いられる128×8バイトのインタリーブマトリクス(図3の60)と画像情報の処理に用いられる128×47バイトのインタリーブマトリクス(図4の60)とは,メモリの大きさが違うのみで本質的な差異はないものと認められる。
そうすると,甲2文献に開示された内容は,原告の主張するように,通信の分野において,一種類の訂正符号器を複数備え,情報の種類(音声,画像)に応じて,処理の経路を選択する技術であるということができる。
イ また,本願発明の符号化が誤り訂正のためのものであるのに対し,甲3文献〜甲5文献に開示された技術がデータの圧縮のための符号器であることは,当事者間に争いがないところ,甲3文献〜甲5文献に開示された内容は,複数の圧縮符号器を備え,制御器の制御の下で,入力データの性質に応じて最適の圧縮符号器を選択する技術であるということができる(甲3〜5 。)ウ 本件審決が認定した周知技術は,異なる種類の符号器を複数個備えていることを前提とするものと解されるところ,上記アからすると,本件審決がその周知技術を認定するに当たり甲2文献を挙げたことは適切とはいえない。また,同じ符号化といっても符号化の目的により符号化手法は技術的に異なる側面を有するものというべきであるから,上記イからすると,本件審決が,甲3文献〜甲5文献に基づいて,符号器一般についてのものとして周知技術を認定したことも,必ずしも当を得たものとはいえないといわざるを得ない。
しかしながら,当業者であれば,引用発明及び周知の技術に基づいて相違点2,3に係る本願発明の構成を容易に想到することができたことは,後記( )のとおりであるから,結局,原告の上記主張は,審決の結論に影 2響しない点を指摘するにすぎないものというべきである。
( ) 容易想到性の判断について 2原告は,本願発明はデータの誤り訂正符号に関するものであるから,圧縮符号に関する甲3文献〜甲5文献とは技術的に異なるし,通信システムのチャネル符号化装置において一種類の符号器のみを備える引用発明と,異なる符号器を複数備える技術とは,一種類と多種類(異なる種類)という点で技術的な思想において大きく異なる等の点を考慮すると,本願発明は,引用発明と周知技術との組み合わせに基づいて容易に想到できるものではない旨主張する。
ア 引用例(甲1)には,次の記載がある。
「本発明は,例えば並列連結テイルバイティング畳み込み符号および並列連結再帰的系統的畳み込み符号(いわゆる『ターボ符号 )を含む並列連』結符号化技術,並びにそれらの復号を利用するVSAT衛星通信システムである (訳文3頁1行〜3行) 。」「一実施態様では,パケット伝送,クレジットカード処理および音声圧縮通信で典型的である短いデータ・ブロックの場合,このような並列連結符号化方式におけるコンポーネント符号として非再帰的系統的テイルバイティング畳み込み符号が使用される。ファイル伝送で典型的である長いデータ・ブロックの場合,VSATおよびネットワーク基地局は再帰的系統的畳み込み符号を有する並列連結符号化を利用する (訳文3頁11行〜 。」16行)イ 上記の記載に接した当業者は,パケット伝送,クレジットカード処理及び音声圧縮通信で典型的である短いデータ・ブロックの場合は,非再帰的系統的テイルバイティング畳み込み符号を使用するのが適切であり,ファイル伝送で典型的である長いデータ・ブロックの場合は,再帰的系統的畳み込み符号を有する並列連結符号化(ターボ符号)を利用するのが適切であると理解するものと認められる。
原告は,引用発明では,畳み込み符号器とターボ符号器のいずれか一方のみが備えられている点を強調するが,最終的には一方が備えられ利用されるとしても,そのためには,データの性質に応じて適切な符号化手段を選択するという設計上の技術事項が当然の前提とされていることが明らかであり,また,引用発明において,異なる符号器を複数備えるようにすることを阻害する事情も認められない。
ウ そして,甲3文献〜甲5文献によれば,前記「複数の圧縮符号器を備え,制御器の制御の下で,入力データの性質に応じて最適の圧縮符号器を選択する技術」が本願の優先日前において周知であったと認められる(甲3〜5)ところ,引用発明と上記周知技術とは,共にデータや音声の通信に用いられるものであり,また,それぞれ複数の方式があって,データの性質に応じて使い分けがなされている点で共通する。
エ そうすると,伝送するデータブロックの長さに対応させて「ターボ符号器」と「畳み込み符号器」のどちらか一方を備えて利用している引用発明に接した当業者であれば,上記周知技術から示唆を受け,制御器の制御下で,伝送するデータが所定以上のデータレート又はフレームサイズであるデータサービスの場合は「ターボ符号器」を選択し,該条件以外のデータサービス又は音声サービスの場合は「畳み込み符号器」を選択するという構成を容易に想到することができるというべきである。
オ そして,本願明細書(甲6)の発明の詳細な説明における「発明の背景」の「2.従来の技術」に記載されたところによれば,従来も,データを符号化する場合は,サービスの種類,フレームの長さ,データレートに応じて,最適なチャネル符号器が選択されていたと認められるから,具体的な符号器について,それに適したデータレートやフレームサイズの範囲を決めることは,チャネル符号化装置を設計するに当たって当業者が当然に行うことであるということができる。
一方,本願明細書(甲6,7)には,本願発明において「伝送するデータが32Kbps/10ms以上のデータレートか又は320ビット以上のフレームサイズ」の場合にターボ符号器を選択することとしたことの技術的意義は記載されていない。そうすると,この数値限定は,用いるターボ符号器に合わせてそれに適したデータの性質を規定したということ以上の意義を有しないものと評価するほかない。
以上のとおりであるから,本願発明において,データレートやフレームサイズについて上記のように数値を限定した点は,当業者が適宜設定し得る技術上の設計事項というべきである。
カ したがって,当業者であれば,引用発明及び周知の技術(甲3文献〜甲5文献)に基づいて相違点2,3に係る本願発明の構成を容易に想到することができたものというべきであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告の前記主張は採用することができない。
3結論以上のとおり,原告主張の取消事由には理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 嶋末和秀
裁判官 沖中康人