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関連ワード 技術的思想 /  有用性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  公知技術 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  実施 /  設定登録 /  混同 /  訂正審判 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  訂正明細書 /  異議申立 /  国際公開 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 6号 審決取消請求事件
原告 ジヤトコ株式会社
訴訟代理人弁理士 星野昇,綾田正道,朝倉悟
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 常盤務,村本佳史,前田幸雄,高木進,伊藤三男,岡田孝博
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が訂正2002-39139号事件について平成14年11月28日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。
1 特許庁における手続の経緯 本件特許第2988542号「自動変速装置」は,平成3年9月13日に特許出願され,平成11年10月8日に特許権の設定登録がなされ,その後,その特許について,特許異議の申立て(異議2000-72353号)がなされた。
異議申立てについて,平成13年10月2日,「特許第2988542号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定があり,原告はその取消訴訟を当庁に提起した(平成13年(行ケ)第521号)。
原告は,その取消訴訟の係属中である平成14年6月17日,本件特許につき訂正審判の請求をしたが(訂正2002-39139号),平成14年11月28日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり,その謄本は同年12月9日原告に送達された。
2 本件訂正発明の特許請求の範囲の記載(甲2,3の2) (1) 本件訂正審判請求前の特許請求の範囲請求項1の記載【請求項1】 装置内部に回転体が設けられていると共に,この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ,かつ,この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において,前記ブレーキ機構を構成する部品の一部にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し,かつ,このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置したことを特徴とする自動変速装置。
(2) 本件訂正審判請求に係る特許請求の範囲請求項1の記載(下線部分が訂正箇所。以下「訂正発明」という。)【請求項1】 装置内部に回転体が設けられていると共に,この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ,かつ,この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において,前記回転体が,インプットシャフト に結合 されている ハイクラッチ のハイクラッチドラム であり ,前記 ブレーキ 機構 は,シリンダ室に軸方向 に摺動自在 に収容 された ピストン と,この ピストン に設けられた 複数の腕と,この 腕により 押圧 される クラッチプレート を有し,前記 クラッチプレートは,前記 ハイクラッチ よりも トランスミッションケース の中央側 の位置 において 交互に配置 され ,前記ブレーキ機構を構成する前記腕 にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し,かつ,このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置したことを特徴とする自動変速装置。
3 審決の理由の要点 審決(甲1)は,本件訂正事項は,新規事項の追加には該当せず,実質上特許請求の範囲拡張又は変更するものでないとした上で,以下のとおり,本件訂正発明は,刊行物1及び2に記載された発明及び従前周知の技術手段に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであり,特許法29条2項により,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないと判断した。
(1) 引用刊行物 ア 特開平2-31166号公報(刊行物1,本訴甲6) イ 国際公開パンフレットWO89/10281(刊行物2,本訴甲7) ウ 特開昭50-21170号公報(刊行物3,本訴甲8) (2) 刊行物1,2に記載された発明 ア 刊行物1に記載された発明(引用発明1) 「装置内部にクラッチC1のクラッチドラム12が設けられているとともに,このクラッチC1のクラッチドラム12の外側にはクラッチ機構C0,C0aが設けられ,かつ,このクラッチC1のクラッチドラム12を構成する部品の一部の回転数を検出する回転数検知センサ3が設けられている自動変速機において,前記クラッチC1のクラッチドラム12を構成する部品の一部が,入力軸10に結合されているクラッチC1のクラッチドラム12を構成する部品の一部であり,前記クラッチ機構C0,C0aは,シリンダ部材21に軸方向に摺動自在に収容されたピストン部材22と,このピストン部材22に設けられた突出部及び連結部材25と,この突出部及び連結部材25により押圧されるクラッチプレートを有し,前記クラッチプレートの一部は,前記クラッチC1よりもトランスアクスルケース14の中央側の位置において交互に配置され,リヤカバー11に形成された切欠き部11d内に前記回転数検知センサ3を設置した自動変速機。」 イ 刊行物2に記載された発明(引用発明2) 「装置内部に歯車544が設けられているとともに,この歯車544の外側には低速/逆転クラッチ組立体310及び第4の油圧ピストン474が設けられ,かつ,この歯車544の回転数を検出する出力回転数センサ546が設けられている自動変速装置において,前記歯車544が,出力軸に結合されている歯車544であり,前記低速/逆転クラッチ組立体310及び第4の油圧ピストン474は,シリンダ室626に軸方向に摺動自在に収容された第4の油圧ピストン474と,この第4の油圧ピストン474に設けられた突出部と,この突出部により押圧されるクラッチプレート466及びクラッチディスク468を有し,前記クラッチプレート466及びクラッチディスク468は,前記歯車544よりもトランスミッションケース102の中央側の位置において交互に配置され,前記低速/逆転クラッチ組立体310及び第4の油圧ピストン474を構成する前記突出部にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し,かつ,このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記出力回転数センサ546を設置した自動変速装置。」 (3) 引用発明1との対比 「訂正発明と引用発明1とを対比すると,それぞれの有する機能に照らし,引用発明1の「クラッチC1のクラッチドラム12」は訂正発明の「回転体」に相当し,以下同様に,「クラッチ機構C0,C0a」は「クラッチ機構」に,「回転数検知センサ3」は「回転数センサ」に,「自動変速機」は「自動変速装置」に,「入力軸10」は「インプットシャフト」に,「シリンダ部材21」は「シリンダ室」に,「ピストン部材22」は「ピストン」に,「突出部及び連結部材25」は「腕」に,「クラッチC1」は「クラッチ」に,「クラッチドラム12」は「クラッチドラム」に,「トランスアクスルケース14」は「トランスミッションケース」に,それぞれ相当するものと認められるので,刊行物1には,訂正発明の用語に倣えば,下記の発明(以下,「引用発明1’」という。)が記載されているということができる。
【引用発明1’】 装置内部に回転体が設けられているとともに,この回転体の外側にはクラッチ機構が設けられ,かつ,この回転体を構成する部品の一部の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において,前記回転体を構成する部品の一部が,インプットシャフトに結合されているクラッチのクラッチドラムを構成する部品の一部であり,前記クラッチ機構は,シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと,このピストンに設けられた腕と,この腕により押圧されるクラッチプレートを有し,前記クラッチプレートの一部は,前記クラッチよりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置され,リヤカバーに形成された切欠き部内に前記回転数センサを設置した自動変速装置。 したがって,訂正発明及び引用発明1’の一致点及び相違点は以下のとおりである。 <一致点> 装置内部に回転体が設けられているとともに,この回転体の外側には摩擦係合要素が設けられ,かつ,この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において,前記回転体が,インプットシャフトに結合されているクラッチを構成する部品の少なくとも一部であり,前記摩擦係合要素は,シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと,このピストンに設けられた腕と,この腕により押圧されるクラッチプレートを有し,前記クラッチプレートの少なくとも一部は,前記クラッチよりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置された自動変速装置。 <相違点> (相違点1) 回転体の外側に設けられた摩擦係合要素に関し,訂正発明は,「ブレーキ機構」であるのに対し,引用発明1’は,クラッチ機構である点。 (相違点2) 回転数センサの設置に関し,訂正発明は,「ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し,かつ,このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて」設置しているのに対し,引用発明1’は,リヤカバーに形成された切欠き部内に設置している点。 (相違点3) クラッチよりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置されたクラッチプレートに関し,訂正発明は,「クラッチプレート」の全体が中央側の位置に配置されているのに対し,引用発明1’は,クラッチプレートの一部が中央側の位置に配置されている点。 (相違点4) 回転体に関し,訂正発明は,「ハイクラッチのハイクラッチドラム」であるのに対し,引用発明1’は,クラッチのクラッチドラムを構成する部品の一部である点。 (相違点5) 腕に関し,訂正発明は「複数の腕」であるのに対し,引用発明1’の腕は複数の腕であるかどうか不明である点。」 (4) 相違点1ないし5についての判断 ア 相違点1ないし3について 「(イ) 技術的課題について 刊行物1には,「センサを入力軸側方に配置する場合は,トランスアクスルケースの軸方向の寸法が増加し,またセンサをケース側面に配置するものは,トランスアクスルケースの半径方向寸法が増加し,近時の傾向である車輌のFF(フロントエンジン・フロントドライブ)化に伴う設置スペースの狭小化に対応できなくなる虞れを生ずる。そこで本発明は,…軸方向及び径方向がコンパクトに構成された回転数検知装置を提供することを目的とするものである。」(上記摘記事項b参照)と記載されている。 また,刊行物2には,「本発明のより特定的な目的は,…変速装置のコンパクト性を増大させ,軸方向長さを減少させる…独特のクラッチ及び歯車配置構成を提供することにある。」(上記摘記事項j参照)と記載されている。 したがって,刊行物1及び2には,それぞれの刊行物に記載された発明が解決すべき共通の技術的課題である「自動変速装置の軸方向及び径方向寸法を短縮させてコンパクト化を図る」ことが記載又は示唆されている。 (ロ) 構成について 刊行物2に記載された「低速/逆転クラッチ組立体310及び第4の油圧ピストン474」は,刊行物2の図1B,図1D,及び上記摘記事項(p)等からみて,トランスミッションケース102に固定状態にあるクラッチプレート466とクラッチディスク468を反作用プレート445に対して押し付け,これらの間に摩擦力を生ずることにより,第2の環状ギア542と第1のプラネットキャリア508とを固定状態に保持するものであり,いわゆるブレーキ機構であるから,訂正発明と引用発明2とを対比すると,それぞれの有する機能に照らし,引用発明2の「低速/逆転クラッチ組立体310及び第4の油圧ピストン474」は訂正発明の「ブレーキ機構」に相当し,また,以下同様に,「歯車544」は「回転体」に,「出力回転数センサ546」は「回転数センサ」に,「シリンダ室626」は「シリンダ室」に,「第4のピストン474」は「ピストン」に,「突出部」は「腕」に,「クラッチプレート466及びクラッチディスク468」は「クラッチプレート」に,「トランスミッションケース102」は「トランスミッションケース」に,それぞれ相当するものと認められるので,刊行物2には,訂正発明の用語に倣えば,下記の発明(以下,「引用発明2’」という。)が記載されているということができる。 【引用発明2’】 装置内部に回転体が設けられているとともに,この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ,かつ,この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において,前記回転体が,出力軸に結合されている歯車であり,前記ブレーキ機構は,シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと,このピストンに設けられた腕と,この腕により押圧されるクラッチプレートを有し,前記クラッチプレートは,前記回転体よりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置され,前記ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し,かつ,このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置した自動変速装置。 してみれば,引用発明2’は, (a) 回転体の外側に設けられた摩擦係合要素が,ブレーキ機構である, (b) 回転数センサを,ブレーキ機構を構成する腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し,かつ,このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて設置している, (c) 回転体よりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置されたクラッチプレートが,クラッチプレートの全体である, という,上記相違点1〜3に係る訂正発明の構成と同様又は類似の構成を具備しているということができる。 (ハ) まとめ 自動変速装置において,クラッチ機構の外側にブレーキ機構を設けることは,従来周知の技術手段(必要であれば,刊行物3等の記載を参照。なお,刊行物3には,刊行物3の第2図に記載されているような,ブレーキ機構のピストンを,クラッチ機構の一部と軸方向に重ねて配置したレイアウトとすることにより,「付加的な軸方向の構造長を必要とせずに,遊星歯車機構を軸方向に短くした構造様式を実現出来る」(上記摘記事項s参照)と記載され,クラッチ機構の動作形態に拘わらず,上述のような配置・レイアウトとすることにより,「自動変速装置の軸方向寸法を短縮させてコンパクト化を図る」作用効果を奏することが記載又は示唆されている。)である。 してみれば,引用発明1’の回転数センサの配置を,より軸方向寸法を短縮させ,同時に径方向寸法の短縮化にも配慮して,自動変速装置のコンパクト化を図るために,その配置を変更し,上記「(ロ)構成について」で述べた引用発明2’の構成,及び上記従来周知の技術手段を適用して,上記相違点1〜3に係る訂正発明の構成とすることは,引用発明1’及び引用発明2’が,その技術的課題においてその軌を一にするものであるとともに,そのような構成の変更に際して特段の阻害要因も見出せないので,同じ技術分野に属する引用発明1’及び引用発明2’,及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が技術的に格別の困難性を要することなく容易に想到し得たものである。」 イ 相違点4について 「刊行物2には,「変速装置100の入力側の付近では,マルチクラッチ組立体300は,アンダードライブクラッチ302(1速,2速,3速で締結),オーバードライブクラッチ304(3速,4速で締結),及び逆転クラッチ306(1速,後退速で締結)を有する。」(上記摘記事項k参照),「図1C及び図1Dに示すように,入力クラッチ組立体302,304,306を収容するため入力クラッチリテーナーハブ312が設けられる。…入力クラッチリテーナーハブ312は,また317において,入力軸176にスプライン結合されている。…入力クラッチリテーナーハブ312は,その外周部に歯319を有している。…タービン速度センサ320は,時間に関連づけてそこを通過する歯319をカウントすることにより,タービン組立体128の回転速度をモニター又は検出するために用いられる。」(上記摘記事項l参照)と記載されていることから,刊行物2には,自動変速装置の入力軸176に結合されているオーバードライブクラッチ304を含む入力クラッチ組立体302,304,306を収容するための入力クラッチリテーナハブ312の回転数をタービン速度センサ320により検知する構成が記載されていると認める。 ところで,刊行物2に記載された「オーバードライブクラッチ304(3速,4速で締結)」は,その有する機能に照らし,訂正発明の「ハイクラッチ」に相当するから,刊行物2には,自動変速装置のインプットシャフトに結合されているハイクラッチに相当する構成を含む回転体の回転数を入力回転数センサにより検知する構成が実質的に記載又は示唆されているということができる。 してみれば,引用発明1’の被入力回転数検出部材であるクラッチのクラッチドラムを構成する部品の一部に代えて,刊行物2に実質的に記載又は示唆されている同じく被入力回転数検出部材の一部であるハイクラッチの構成を適用することにより,上記相違点4に係る訂正発明の構成とすることは,同じ技術分野に属する引用発明1’及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が技術的に格別の困難性を要することなく容易に想到し得たものである。」 ウ 相違点5について 「自動変速装置のブレーキやクラッチの摩擦係合部材のピストンにおいて,ピストンに複数の腕を設けることは,従来周知の技術手段であり,引用発明1’の腕を複数の腕とすることにより,上記相違点5に係る訂正発明の構成とすることは,引用発明1’及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が技術的に格別の困難性を要することなく容易に想到し得たものである。」 (5) 訂正発明の作用効果について 「訂正発明の奏する作用効果についてみても,引用発明1’及び引用発明2’,刊行物2に記載された発明及び上記従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。」 (6) 結論 「以上のとおり,訂正発明は,上記刊行物1及び2に記載された発明,及び上記従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。」
原告の主張の要点
審決は,訂正発明と引用発明1の相違点についての判断を誤った結果,訂正発明の進歩性を否定したものであり,違法であるから,取り消されるべきである。
(1) 訂正発明の技術的思想は,「入力回転数を検出する回転数センサを設定するハイクラッチドラムの外周にブレーキ機構が配置される入力側レイアウトを持つ自動変速装置において,軸方向に対してコンパクトに配置した摩擦係合要素の位置関係を変更することなく,装置内部にブレーキ機構の腕を貫通して回転数センサを設置する。」という点にある。このように,訂正発明では,入力回転数を検出する回転数センサを設置するに当たり,ハイクラッチドラムの外側にブレーキ機構を軸方向に重ねて設けるという配置を崩すことがないため,入力側での2つの摩擦係合要素のコンパクトなレイアウト配置を変更することがなく,入力回転を検出する回転数センサを設置してもそのコンパクト性を損なわないという効果を得ることができる。
(2) これに対し,引用発明1は,訂正発明と同様に入力回転数センサの技術分野に属する発明であるが,刊行物1には,訂正発明の上記技術思想は記載も示唆もされていない。引用発明1のクラッチドラムの外周に配置されているのはブレーキ機構ではなくクラッチ機構であり,回転数検知センサは入力軸端部に固定したスリーブ内周面に臨んで配置されているのであるから,引用発明1の技術思想は訂正発明とは異なる。また,引用発明1の回転数検知センサは,入力軸端部に固定したスリーブ内周面に臨んで配置したものであるため,自動変速装置の軸方向寸法の長大化は避けられないのであって,引用発明1は訂正発明ほど顕著な作用効果を奏し得ない。
引用発明2は,自動変速装置の出力側レイアウトであり,入力回転数センサの取付け構造も,クラッチドラムの外周位置にブレーキ機構を配置するというレイアウト自体を回避したものであるから,訂正発明の技術思想は含まれていない。また,引用発明2では,複数のクラッチ302,304,306とブレーキ機構308,310を軸方向に併設しているため,軸方向の寸法が大きくなるという問題を有する。したがって,引用発明2も,訂正発明ほど顕著な作用効果を奏し得ない。
刊行物3に記載された従来周知の技術手段は,回転数センサ自体が存在しないものである以上,訂正発明と技術思想が異なることは明らかである。 (3) 審決は,刊行物1に「コンパクト化」と記載されていることから,その文言に依拠して,訂正発明と引用発明1,2が技術的課題において軌を一にするという。しかしながら,審決は,訂正発明のように遊星歯車列や摩擦係合要素を備えた自動変速装置の各構成要素のレイアウト設計による全体のコンパクト化と,回転数センサ設置による自動変速装置の大型化を防止するという意味でのコンパクト化とを混同するものである。
また,審決は,訂正発明の作用効果は,引用発明1,2及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの作用効果の総和以上ではないという。しかしながら,前記のとおり,訂正発明は,引用発明1,2等と比べて格別顕著な作用効果を奏するものであり,加えて,訂正発明を採用した自動変速装置の製造・販売実績が示す訂正発明の社会的な有用性等も考慮すべきである。
(4) 以上のとおり,訂正発明と引用発明1,2及び周知技術とは,その技術思想及び作用効果において大きな差異があるにもかかわらず,審決は,その認定を誤り,引用発明1,2及び従来周知の技術手段に基づいて,訂正発明の構成を容易に想到し得ると判断したものであり,その判断は誤りであるから,取り消されるべきである。
被告の主張の要点
訂正発明が引用発明1,2及び周知技術から容易に想到できるとした審決の判断には,何ら誤りはない。
(1) 原告は,訂正発明の技術的思想は,入力回転数を検出する回転数センサを設定するハイクラッチドラムの外周にブレーキ機構が配置される入力側レイアウトにおいて,自動変速装置の軸方向寸法を短縮させてコンパクト化を図ることであり,ここにいう「コンパクト化」の意味は,遊星歯車列や摩擦係合要素を備えた自動変速装置の各構成要素のレイアウト設計による全体のコンパクト化であると主張する。
しかしながら,訂正明細書(甲3の2)の段落【0035】には,「@インプットシャフトIN(ハイクラッチドラム4a)の回転数を検出する回転センサ7を設けるに当たり,その外周に設けられているロー&リバースブレーキL&R/Bのピストン5cとの位置をずらすことなく,ピストン5cの腕5eにセンサ用切欠5hを形成して回転センサ7を貫通させて設けたために,軸方向寸法を短くできる。」との記載がある。この記載によれば,訂正発明にいう「コンパクト化」は,原告が主張するような,遊星歯車列や摩擦係合要素を備えた自動変速装置の各構成要素のレイアウト設計による全体の「コンパクト化」ではなく,回転数センサを取り付けるに当たって自動変速装置の軸方向寸法を短縮させるという意味での「コンパクト化」にすぎないというべきである。原告の主張は,訂正発明に対して,訂正明細書の特許請求の範囲を逸脱した意味付けを与えようとするものであって,妥当ではない。
(2) 原告は,訂正発明の技術思想について前記のとおり理解した上で,刊行物1,2には,訂正発明の技術思想が記載されていないと主張する。しかしながら,原告の訂正発明の技術思想についての理解自体が失当であることは前記のとおりであるから,引用発明1,2の技術思想が訂正発明の技術思想と異なるとの原告の主張も根拠を欠くものである。
(3) 原告は,訂正発明の奏する効果は,引用発明1,2と比較すると,格別顕著であると主張する。しかしながら,訂正発明の効果である「コンパクト化」についての原告の理解が相当でないことは前記のとおりであり,また,原告は,回転数検知センサとブレーキ機構を軸方向に重ねて配置する構成を具備している引用発明2が奏する作用効果を意識的に除外又は見過ごしている。さらに,ある発明が商業的に成功し,あるいは当該特許について特許異議申立てがなされたとしても,それだけでは当該発明が格別顕著な作用効果を奏するとはいえない。
(4) 以上のとおり,訂正発明の進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由(相違点の判断の誤り)について (1) 訂正発明の技術課題 ア 原告は,訂正発明の技術思想は,「入力回転数を検出する回転数センサを設定するハイクラッチドラムの外周にブレーキ機構が配置される入力側レイアウトを持つ自動変速装置において,軸方向に対してコンパクトに配置した摩擦係合要素の位置関係を変更することなく,装置内部にブレーキ機構の腕を貫通して回転数センサを設置する。」という点にあると強調する。
そこで,まず,訂正発明の技術課題から検討するに,訂正明細書(甲3の2)には,以下の記載がある。
「【0003】従来,このような回転数センサを設置した自動変速装置として,例えば,三菱重工技法Vol.21 No.1 の第 2頁(1984年三菱重工会社発行)に記載されたものが知られていて,この頁の図1には,インプットシャフトと一体回転するクラッチドラム(回転体)の回転数を検出する回転数センサが示されている。すなわち,この従来技術は,クラッチを収容したクラッチドラムの外周にブレーキバンド(ブレーキ機構)が巻き付けられていて,回転数センサは,このブレーキバンドを避けた位置でクラッチドラムに近接されて回転数を検出する構造となっている。
【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上述の従来の自動変速装置によれば,ブレーキバンド(ブレーキ機構)を避けて回転数センサを設けているため,ブレーキバンドと回転数センサとが軸方向に並設されていることになり,軸方向寸法が大きくなるという問題があった。
【0005】本発明は上記のような問題に着目してなされたもので,回転数センサを設置するに当たって,自動変速装置の軸方向寸法の短縮化を図ることができる構造を提供することを目的としている。
【0006】【課題を解決するための手段】そこで本発明は,ブレーキ機構の一部を貫通させて回転数センサを設置して上述の問題を解決することとした。
【0007】すなわち,本発明の自動変速装置にあっては,装置内部に回転体が設けられていると共に,この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ,かつ,この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において,前記回転体が,インプットシャフトに結合されているハイクラッチのハイクラッチドラムであり,前記ブレーキ機構は,シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと,このピストンに設けられた複数の腕と,この腕により押圧されるクラッチプレートを有し,前記クラッチプレートは,前記ハイクラッチよりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置され,前記ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し,かつ,このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置した構成とした。
【0008】【作用】回転数センサがブレーキ機構を構成する腕に形成されたセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通して設置されているため,回転数センサとブレーキ機構とが軸方向に重なって配置されることになり,自動変速装置の軸方向寸法が短くなる。
【0040】【発明の効果】以上説明してきたように,本発明の自動変速装置にあっては,ブレーキ機構を構成する腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し,かつ,このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて回転数センサを設置した構成としたため,回転数センサとブレーキ機構とを軸方向に重ねて配設することができ,これにより,自動変速装置の軸方向寸法を短縮させてコンパクト化を図ることができるという効果が得られる。」 イ 訂正明細書における上記記載によれば,訂正発明は,ブレーキバンドと回転数センサとを軸方向に並設することによる軸方向寸法の長大化という技術課題に対応するため,ブレーキ機構の一部を貫通させて回転数センサを設置することにより,自動変速装置の軸方向寸法の短縮化を図ったものであると認めることができる。訂正明細書には,原告が主張する技術課題,すなわち軸方向に対してコンパクトに配置した摩擦係合要素の位置関係を変更することなく,ブレーキ機構の腕を貫通して回転数センサを設置することが訂正発明の技術課題であると理解し得る記載は存在しない。
ウ もっとも,訂正明細書には,以下の記載が存在する。
「【0034】以上説明してきたように,実施例の自動変速装置にあっては,下記に列挙する特徴を有している。
【0035】@ インプットシャフトIN(ハイクラッチドラム4a)の回転数を検出する回転センサ7を設けるに当たり,その外周に設けられているロー&リバースブレーキL&R/B のピストン5cとの位置をずらすことなく,ピストン5cの腕5eにセンサ用切欠5hを形成して回転センサ7を貫通させて設けたために,軸方向寸法を短くできる。さらに,このようにピストン5cの腕5eを貫通して回転数センサ7を設けるに当たり,ピストン5cに突起5gを設けるとともに,サイドカバー2にストッパ用穴2cを設けて,ピストン5cの回転を規制したため,腕5eと回転数センサ7とが干渉しない。
【0036】A ロー&リバースブレーキL&R/B をハイクラッチH/C の外側に配設するに当たり,ハイクラッチドラム4aを支持するハイクラッチ収納部2aの外側にシリンダ室2bを形成してこのシリンダ室2bにピストン5cを収容し,一方,プレート5a,5bはハイクラッチH/C よりもトランスミッションケース1の中央側に配置して,ピストン5cにプレート5a,5bを押圧する腕5eを設けた構成としたため,シリンダ室2bの壁の部分をサイドカバー2の端面で兼用することとなって,サイドカバー2やトランスミッションケース1にシリンダ室2bを形成する縦壁がなくなり,その分だけ自動変速装置の軸方向寸法を短縮することができる。」 エ 上記記載,とりわけ段落【0036】に照らせば,ハイクラッチドラムの外側にブレーキ機構を配設し,ブレーキ機構のクラッチプレートをハイクラッチよりもトランスミッションケースの中央側に配置するという訂正発明の構成自体は,自動変速装置の軸方向寸法の短縮化に資するものであると認めることができる。そうすると,原告の主張する技術課題は訂正明細書に記載されていないものの,訂正発明は,@回転体であるハイクラッチドラムの外側にブレーキ機構を配設し,ブレーキ機構のクラッチプレートをハイクラッチよりもトランスミッションケースの中央側に配置するとともに,A当該ブレーキ機構を構成する腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成して,その貫通用穴又は切り欠きを貫通させて上記回転体の入力回転数を検出する回転数センサを設置することにより,自動変速装置の軸方向の寸法を短縮するものであるということはできる。
(2) 引用発明1及び2の技術分野及び技術課題 ア 引用発明1の技術課題を検討するに,刊行物1には,以下の記載が存在する。
「(イ) 産業上の利用分野 本発明は,自動変速機における回転数検知装置に係り,詳しくはケース内方に支持した回転軸の回転数を検知する回転数検知センサを備えてなる自動変速機における回転数検知装置に関する。」(1頁右下欄1〜5行) 「(ハ) 発明が解決しようとする課題 しかし,上述回転数検知センサは,軸方向及び径方向に設置スペースが必要となり,更に自動変速機の中心部に設置される入力軸等の回転部材の回転数を検知する場合,前記回転数検知センサを入力軸の後端側部近傍に設置するか,又は入力軸から外径方向に向けてフランジ部材を固定し,該フランジ部材の回転を検知すべくセンサをケース側面に設置しなければならず,これによりセンサを入力軸側方に配置する場合は,トランスアクスルケースの軸方向の寸法が増加し,またセンサをケース側面に配置するものは,トランスアクスルケースの半径方向寸法が増加し,近時の傾向である車輌のFF(フロントエンジン・フロントドライブ)化に伴う設置スペースの狭小化に対応できなくなる虞れを生ずる。 そこで,本発明は,回転数検知センサを,入力軸端部に固定したスリーブ内周面に臨んで配置することにより,軸方向及び径方向がコンパクトに構成された回転数検知装置を提供することを目的とするものである。」(1頁右下欄16行〜2頁左上欄16行)「(ト) 発明の効果 以上説明したように,本発明によると,回転数検知センサ(3)が回転軸(10)に固定したスリーブ部(10a)端部に形成した被検知部(5)をその内径側から検知するように構成したので,回転数検知センサ(3)を設置するための特別のスペースを必要とせず,ケース(11),(14)を軸方向側及び半径方向側に突出することはなく,自動変速機の軸方向及び径方向寸法を増大することはなく,更に回転軸(10)の振れによる影響を減少して,検知精度を大幅に向上することができる。 また,前記回転軸10が入力軸であり,かつケースが,該入力軸の後端を支持するリヤカバー(11)であると,プラネタリギヤユニット(30)の中心部分に位置する入力軸(10)の回転数を,自動変速機の軸方向及び半径方向の寸法増大を伴うことなくかつ極めて簡単な構成でもって,確実かつ正確に検知することができる。」(3頁右下欄2〜20行) イ 以上の記載によれば,引用発明1も,訂正発明同様,自動変速機における回転数検知センサに係る発明であり,自動変速装置の入力軸の回転数を検知する回転数検知センサを設置するに当たり,変速機の軸方向及び半径方向の寸法増大を伴わない構成を実現することを目的とするものであると認めることができる。このように,引用発明1と訂正発明とは,技術分野が自動変速機における回転数検知装置である点で共通し,技術課題も自動変速機の軸方向の寸法の短縮化を図る点で共通しているのであるから,審決が引用発明1を本件発明の前提となる基本の公知技術としたことは妥当である。原告は,訂正発明と引用発明1の構成上の相違点を指摘し,両発明に内包される技術思想は異なるなどと主張するが,原告の指摘する相違点を考慮しても,両発明の技術思想が異なるということはできない(なお,原告は,審決の相違点の認定については争っていない。)。
ウ 次に,刊行物2には,以下のような記載事項がある。
「3.本発明の目的 本発明の主目的の1つは,完全に適応型である著しく進歩した電子的制御変速装置を提供することにある。… 本発明の別の目的は,従来の機械流体式の単なる自動変速システムを用いている車を含めて,多種のエンジン及び車のサイズやタイプに応じて容易に利用することができる4速の自動変速装置のデザインを提供することである。 本発明の他の目的は,エンジンの性能変動や構成部品の状態に応じて,変速品質がエンジンのサイズに拘わらず,ほぼ一様に維持される自動変速装置を提供することにある。(例えば,変速制御システムは,エンジン性能,又は変速装置の種々の摩擦部品の状態変化に適合する。) 本発明の付加的目的は,受容可能な変速品質を得るために通常必要とされる若干の所定の要素(クラッチ,バンド,ワンウェイクラッチ)の必要性をなくすことである。 本発明のより特定的な目的は,今日の3速ユニットと比較して歯車組立体の付加歯車及びオーバーランニング(ワンウェイ)クラッチに対する必要性をなくすとともに,変速装置のコンパクト性を増大させ,軸方向長さを減少させるのに,余分の摩擦要素しか必要としない独特のクラッチ及び歯車配置構成を提供することにある。」(4頁1〜32行) 「タービン速度センサ320は,時間に関連づけてそこを通過する歯319をカウントすることにより,タービン組立体128の回転速度をモニター又は検出するために用いられる。好ましくは,受動型の速度センサがタービン速度センサ320として用いられる。」(25頁2行〜7行) 「出力回転センサ546は,歯車544の通過を検出又はカウントすることにより,それによって時間に関係して,第2のプラネットキャリア524の回転数(毎分)を検出又はモニターするために用いられる。出力回転数センサ546は,タービンセンサ320と同様のものである。それは,また,他の適当な回転数センサが,トランスミッションコントローラ3010に出力回転数信号に供すべく,トランスミッション100の中や又はその後続部分に用いてもよいことに,注意すべきである。」(31頁8〜12行) エ 刊行物2の上記記載,とりわけ「本発明のより特定的な目的は,…変速装置のコンパクト性を増大させ,軸方向長さを減少させるのに,余分の摩擦要素しか必要としない独特のクラッチ及び歯車配置構成を提供することにある。」との記載によれば,引用発明2は,訂正発明と同様に,回転数検知センサを備えた自動変速装置に関する発明であり,自動変速装置の軸方向のコンパクト化を目的の一つとしていることは明らかである。したがって,両発明は,その技術分野及び目的において共通しているということができ,本件発明の進歩性を判断する公知技術として刊行物2を採用することに問題はないというべきである。原告は,訂正発明と引用発明2の構成の相違点を指摘し,両発明の内包する技術思想は異なるなどと主張するが,原告の指摘する相違点を考慮しても,両発明の技術思想が異なるとは認められない。
オ 以上のような,引用発明2と訂正発明及び引用発明1の技術分野,目的の共通性に照らすと,訂正発明の技術課題が原告の主張するとおりのものであったとしても,引用発明1及び2を公知技術とすることに何ら問題はなく,また訂正発明の構成の進歩性の判断をするに当たり,引用発明1及び2を組み合わせることを阻害するような技術課題あるいは技術思想上の差異はないというべきである。
(3) 相違点についての判断 原告は,各相違点に関する審決の判断に沿った個別の主張はしていないが,引用発明1,2及び周知技術から訂正発明の構成を想到することが容易であるとの審決の判断を争っているので,各相違点についての審決の判断を是認し得るかどうかについて検討する。
ア 相違点1ないし3について 審決は,相違点1ないし3に関し,刊行物2には,相違点1ないし3と同様又は類似の構成,すなわち,(a)回転体の外側に設けられた摩擦係合要素が,ブレーキ機構である,(b)回転数センサを,ブレーキ機構を構成する腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し,かつ,このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて設置している, (c)回転体よりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置されたクラッチプレートが,クラッチプレートの全体であるとの構成が記載されているとした。訂正明細書及び刊行物2によれば,審決のこの認定判断は是認することができる。
その上で,審決は,引用発明1と引用発明2は,技術的課題を共通にするとともに,その組合せに特段の阻害要因も見出せないのであるから,自動変速装置の軸方向寸法及び径方向寸法の短縮化を図るため,引用発明1の回転数センサの配置を変更し,引用発明2及び周知技術を適用して,相違点1ないし3に係る構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものであると判断した。
前記判示のとおり,引用発明1と引用発明2は,いずれも回転数検知センサを備えた自動変速装置に係る発明であり,その技術分野及び目的が共通である上,引用発明1の配置を変更して引用発明2を適用することについて特段の阻害事由も認められないのであるから,引用発明1に,引用発明2の上記(a)ないし(c)の構成及び周知技術を適用して,相違点1ないし3に係る構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得るというべきである。したがって,審決の判断は是認できる。
イ 相違点4について 審決は,相違点4に関し,刊行物2には,自動変速装置の入力軸176に結合されているオーバードライブクラッチ304を含む入力クラッチ組立体302,304,306を収容するための入力クラッチリテーナハブ312の回転数をタービン速度センサ320により検知する構成が記載されているとした上で,刊行物2のオーバードライブクラッチ304は,訂正発明のハイクラッチに相当するから,刊行物2にはハイクラッチに相当する構成を含む回転体の回転数を入力回転数センサにより検知する構成が実質的に記載又は示唆されているとした。訂正明細書及び刊行物2によれば,審決のこの認定判断は是認することができる。
その上で,審決は,引用発明1のクラッチのクラッチドラムを構成する部品の一部に代えて,刊行物2に実質的に記載又は示唆されているハイクラッチに相当する構成を適用することにより,上記相違点4に係る訂正発明の構成とすることは,当業者であれば技術的に格別の困難性を要することなく容易に想到し得たものであると判断した。
刊行物2のオーバードライブクラッチ304が,訂正発明のハイクラッチに相当すると認められることは上記のとおりであり,引用発明1のクラッチのクラッチドラムを構成する部品の一部に代えて,刊行物2のハイクラッチに相当する構成を適用することに特段阻害事由があるとは認められない。したがって,相違点4に係る訂正発明の構成を想到することも容易であるとした審決の判断は是認し得る。 ウ 相違点5について 審決は,相違点5について,自動変速装置のブレーキやクラッチの摩擦係合部材のピストンにおいて,ピストンに複数の腕を設けることは,従来周知の技術手段であり,引用発明1の腕を複数の腕とすることにより,相違点5に係る訂正発明の構成とすることは,引用発明1及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が技術的に格別の困難性を要することなく容易に想到し得たものであると判断した。ブレーキ機構の一部を構成する腕を複数にすることは想到容易というべきであり,審決の判断は是認し得る。 (4) 顕著な作用効果 原告は,引用発明1及び2はいずれも自動変速装置の軸方向寸法の長大化は避けられないとの問題点を有し,訂正発明ほどの顕著な作用効果を奏することはできず,また訂正発明の進歩性の判断に当たっては,その社会的有用性等も考慮すべきであると主張する。しかしながら,原告が主張するような事情を考慮しても,訂正発明の奏する作用効果は,その構成から予期し得る範囲内にとどまるというべきであり,格別に顕著なものとは認められない。
2 結論 以上のとおり,原告の主張する審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文