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関連審決 異議2003-72468
関連ワード 技術的思想 /  公然知られ(29条1項1号) /  容易に発明 /  寄せ集め /  周知技術 /  公知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  容易に想到(容易想到性) /  非容易 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 388号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社デンソー
原告 東京電力株式会社
原告 財団法人電力中央研究所3名訴訟代理人弁理士 碓氷裕彦
同 加藤大登
同 伊藤高順
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 井上哲男
同 橋本康重
同 岡田孝博
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2003-72468号事件について平成16年7月16日にした決定を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは,名称を「ヒートポンプ式給湯器」とする特許第3393601号発明(平成11年9月9日特許出願〔以下「本件出願」という。〕,平成15年1月31日設定登録,以下,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
請求項1ないし5,7に係る本件特許について特許異議の申立てがされ,異議2003-72468号事件として特許庁に係属し,原告らは,平成16年5月6日,訂正請求をした。特許庁は,同事件を審理した結果,同年7月16日,「訂正を認める。特許第3393601号の請求項1ないし5,7に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本は,同年8月4日,原告らに送達された。
2 本件出願の願書に添付した明細書(上記訂正後のもの,以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1〜5,7に記載された発明(以下「本件発明1」〜「本件発明5」,「本件発明7」という。)の要旨 【請求項1】CO2を冷媒として臨界圧力以上まで加圧させるヒートポンプサイクルを用いて給湯用の液体を加熱し,その加熱された液体を貯湯槽に蓄えるヒートポンプ式給湯器であって, 前記冷媒と,前記冷媒と対向するように流れる前記液体とを熱交換させる給湯用熱交換器と, 前記液体を加熱する際に掛かる給湯負荷に応じて,前記貯湯槽に蓄えられる液体の貯湯温度を可変する貯湯温度可変手段と, 前記貯湯温度可変手段を制御する制御装置とを備え, この貯湯温度可変手段は,前記ヒートポンプサイクルの高圧圧力,及び前記ヒートポンプサイクルと前記貯湯槽との間で循環する液体の流量を制御することで前記貯湯温度を可変するものであって, 前記制御装置は,前記ヒートポンプサイクルの高圧圧力が給湯用の液体が予め設定した目標貯湯温度を得るために必要な冷媒温度に対応する圧力となるように,前記ヒートポンプサイクルに備えられる膨脹弁の開度を制御し,給湯用の前記液体の流量を制御することを特徴とするヒートポンプ式給湯器。 【請求項2】前記貯湯温度可変手段は,季節によって貯湯温度を可変し,夏季の場合は冬季より貯湯温度を低くすることを特徴とする請求項1に記載したヒートポンプ式給湯器。
【請求項3】前記貯湯温度可変手段は,外気温度によって貯湯温度を可変し,外気温度が高い程,貯湯温度を低くすることを特徴とする請求項1に記載したヒートポンプ式給湯器。
【請求項4】前記貯湯温度可変手段は,前記ヒートポンプ式給湯器に供給される液体の温度によって貯湯温度を可変し,前記液体の温度が高い程,貯湯温度を低くすることを特徴とする請求項1に記載したヒートポンプ式給湯器。
【請求項5】前記貯湯温度可変手段は,最近において略毎日連続して使用した場合の実績によって貯湯温度を可変し,実績負荷が高い程,貯湯温度を高くすることを特徴とする請求項1に記載したヒートポンプ式給湯器。
【請求項7】前記貯湯温度可変手段は,60〜100℃の範囲で貯湯温度を可変することを特徴とする請求項1〜6に記載した何れかのヒートポンプ式給湯器。
3 決定の理由 決定は,別添異議決定謄本写し記載のとおり,取消理由通知において周知例として掲げた特開平11-193958号公報(甲5,以下「引用例1」という。),特開平9-126547号公報(甲12,以下「引用例8」という。),特開昭60-250号公報(甲7,以下「引用例3」という。)には,いずれにも,「ヒートポンプサイクルを用いて給湯用の液体を加熱し,その加熱された液体を貯湯槽に蓄えるヒートポンプ式給湯器であって,冷媒と,冷媒と対向するように流れる液体とを熱交換させる給湯用熱交換器と,液体を加熱する際に掛かる給湯負荷に応じて,貯湯槽に蓄えられる液体の貯湯温度を可変する貯湯温度可変手段と,貯湯温度可変手段を制御する制御装置とを備えたヒートポンプ式給湯器」の発明が記載されているから,上記発明は本件特許出願前に周知の発明(以下,これを「周知発明」という。)であると認定した上,本件発明1と周知発明とを対比し,本件発明1と周知発明との相違点に係る構成は,特公平7-18602号公報(甲11,以下「引用例7」という。)及び周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから,本件発明1は,引用例7及び周知の技術から当業者が容易に発明することができたものと判断し,また,本件発明2〜5,7についても,本件発明2は,同じく引用例7及び周知の技術に基づいて,本件発明3,4は,特開昭57-117741号公報(甲10,以下「引用例6」という。),引用例7及び周知の技術に基づいて,本件発明5は,特開平6-317353号公報(甲8,以下「引用例4」という。),引用例7及び周知の技術に基づいて,本件発明7は,特許第2548962号公報(甲6,以下「引用例2」という。),引用例4,6,7及び周知の技術に基づいて,いずれも当業者が容易に発明をすることができたものと判断した。
原告ら主張の決定取消事由
決定は,引用例1,3,8の記載に基づいて周知発明を認定したが,その周知発明の認定は誤りであり(取消事由1),また,周知発明と本件発明1との相違点についての判断を誤って本件発明1を容易想到とし(取消事由2),本件発明2〜5,7の容易想到性についても判断を誤った(取消事由3)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(周知発明に関する認定の誤り) (1) 決定は,引用例1,3,8に基づいて,「ヒートポンプサイクルを用いて給湯用の液体を加熱し,その加熱された液体を貯湯槽に蓄えるヒートポンプ式給湯器であって,冷媒と,冷媒と対向するように流れる液体とを熱交換させる給湯用熱交換器と,液体を加熱する際に掛かる給湯負荷に応じて,貯湯槽に蓄えられる液体の貯湯温度を可変する貯湯温度可変手段と,貯湯温度可変手段を制御する制御装置とを備えたヒートポンプ式給湯器」(決定謄本7頁下から第3段落)を周知発明として認定し,これとの対比によって本件発明1を容易想到と判断したが,それぞれ別の目的の下に別個に発明された引用例1,3,8の発明を総称した「周知発明」なるものを容易想到性の判断の基礎とした点で,適切ではない。 (2) 決定における周知発明の認定は,ヒートポンプ式給湯器であれば,冷媒と水とを対向させる熱交換器を用いるのが当然であるかのごとく扱っている点,及び別々の発明で異なる目的の下に異なる構成を採用しているにもかかわらず,ヒートポンプ式給湯器であれば,給湯負荷に応じて給湯槽に蓄えられる液体の温度を可変にする手段を用いるのが当然であるかのごとくに扱っている点で誤りである。
例えば,引用例3(甲7)には,第2図に,従来技術として,冷媒と湯(冷媒と対向するように流れる流体)とを熱交換させる給湯用熱交換器が記載されているが,引用例3の発明においては,この熱交換器は必須の構成要件とされておらず,この熱交換器に関して,冷媒の流れ及び温水の流れが説明されているものでもない。また,引用例3の発明は,給湯負荷に応じて積極的に湯の沸き上げ温度を調節するものではないから,貯湯温度を可変とする手段を有しておらず,ましてや,冷媒の高圧圧力及び冷却流体の流量を制御することで湯温を調整することは記載されていない。
2 取消事由2(相違点Bの判断の誤り) 決定は,本件発明1と周知発明との相違点Bとして,「本件発明1は,『貯湯温度可変手段は,前記ヒートポンプサイクルの高圧圧力,及び前記ヒートポンプサイクルと前記貯湯槽との間で循環する液体の流量を制御することで前記貯湯温度を可変するものであって,前記制御装置は,前記ヒートポンプサイクルの高圧圧力が給湯用の液体が予め設定した目標貯湯温度を得るために必要な冷媒温度に対応する圧力となるように,前記ヒートポンプサイクルに備えられる膨張弁の開度を制御し,給湯用の前記液体の流量を制御する』ものであるのに対し,周知発明は,貯湯温度可変手段及び制御装置が,そのような制御を行っていない点」(決定謄本9頁下から第2段落)を認定した上,相違点Bについて,「CO2を冷媒として臨界圧力以上まで加圧させるヒートポンプサイクルにおいて,ヒートポンプサイクルの能力調整のために,ヒートポンプサイクルの高サイド圧力(高圧圧力)及び冷却流体の流量を制御する点は上記引用例7・・・に記載されており,引用例7記載のものも周知発明同様ヒートポンプの制御に関するものであるとともに,周知発明のものにおいても高圧圧力及び冷却流体の流量を制御すれば冷却流体の温度を制御でき,結果として貯湯温度を制御できるものと認められるから,周知発明において貯湯温度の制御を行うに際して,引用例7記載の制御手法を採用して本件発明1(注,「本願発明」とあるのは誤記と認める。)のごとくすることに困難性は認められない」(同10頁第2段落)と判断したが,誤りである。
(1) 引用例7(甲11)に,「CO2を冷媒として臨界圧力以上まで加圧させるヒートポンプサイクルにおいて,ヒートポンプサイクルの高サイド圧力(高圧圧力)及び冷却流体の流量を制御する点」が記載されていることは決定の認定するとおりであるが,引用例7において,冷媒の高圧圧力及び冷却流体の流量を制御することによって調整しようとする対象は,その発明の詳細な説明中に,「超臨界サイクル装置の能力調整は,蒸発器流入口,すなわち第5図の点『d』における冷媒の状態を変動させることにより達成される。冷媒の単位質量流量当たりの冷却能力,すなわち,所定の冷却能力は,状態『d』および状態『e』間のエンタルピ差に対応する。このエンタルピ差は,第5図において,エンタルピ・圧力線図の水平長さとして示されている」(4頁右欄第2段落)と記載されているとおり,「蒸発器における冷却能力」であって,引用例1,3,8の給湯器におけるような「熱交換器における加熱能力」ではない。
ある所定の冷却能力を得るための冷媒の出口側温度と冷媒の高圧圧力との組合わせは,冷媒の出口側温度に応じて複数組存在し,これらの組合わせにおいて,得られる装置能力(第5図の点「d」と点「e」の間のエンタルピ差)は同一であっても,冷媒の出口側温度に応じて,熱交換器側のエンタルピ差(第5図の点「a」と点「b」の間のエンタルピ差)である加熱能力は異なっているから,引用例7のヒートポンプサイクルにおいて,蒸発器側の装置能力(冷却能力)を調整することは,熱交換器側の装置能力(加熱能力)も一義的に調整されることを意味しない。引用例7において,冷媒の高圧圧力を変化させた場合に,状態「b」がどのように変化するのか,さらに熱交換された後の冷却流体の温度がどのように変化するかなど,冷媒の高圧圧力を調整した結果,熱交換器11における装置能力(加熱能力)がどのように制御されるか,若しくは制御されないのかは全く不明である。
(2) さらに,「周知発明において貯湯温度の制御を行うに際して,引用例7記載の制御手法を採用して本件発明1のごとくすること」は,以下の理由により,当業者が容易に想到することではない。
ア 決定が周知発明の認定の基礎とした引用例1,3,8のいずれにも,「高圧圧力及び冷却流体の流量を制御すれば冷却流体の温度を制御できる」ことに関する記載は見当たらず,湯温の制御を行うに当たって,水の循環量及び冷媒の高圧圧力という複数の要因の制御を組み合わせるという技術的思想は記載されていない。
イ 引用例7は,上記(1)のとおり,冷房装置の冷却能力(低圧側熱交換器,すなわち,蒸発器における熱交換能力)を制御する目的で高圧圧力及び冷却流体の流量を制御しているものであるところ,ヒートポンプサイクルの制御方法において,何の目的でどこを制御するのかは,冷房装置の場合と給湯装置の場合とで,おのずと異なるから,引用例7のヒートポンプサイクルの制御方法は,給湯装置の温度制御に係る引用例1,3,8のヒートポンプサイクルに応用できるものではない。引用例7に記載されたヒートポンプサイクルの制御方法を引用例1,3,8の給湯装置に適用しても,その熱交換器における加熱能力を制御することが可能であるとは限らない。
ウ 引用例1,3,8に記載されたものは,臨界圧以上まで加圧しない通常のヒートポンプサイクルであるが,このような通常のヒートポンプサイクルの場合,サイクル効率(以下,「COP」ということがある。)は,冷媒の高圧圧力の変動による影響を大きく受けず,また,冷媒の高圧圧力を変動させずに給湯用の流体の流量を変動させた場合も,COPは給湯用の流体の変動による影響を大きく受けないから,給湯用の流体の温度を制御するに当たって,冷媒の高圧圧力及び水(冷却流体)の流量の両方を制御する必要性は低い。周知発明とされた給湯装置において,冷媒の高圧圧力及び水(冷却流体)の両者を制御することによって水(冷却流体)の温度を制御し得ることは,自明ではない。
エ 臨界圧以上まで加圧されるヒートポンプサイクルでは,給湯用の流体の温度と冷媒の温度との温度差が小さく,冷媒の高圧圧力の変動によって温度効率が影響を受けるため,本件発明1は,冷媒の高圧圧力のみならず,給湯用の液体の流量も制御することによって貯湯温度を可変させるようにしており,これにより,どの目標貯湯温度においてもCOPの良い領域でヒートポンプサイクルを運転することが可能となるという顕著な効果を奏する。これに対し,引用例1,3,8のような臨界圧まで加圧されない通常のヒートポンプサイクルでは,給湯用の流体の温度と冷媒の温度との温度差が大きいため,冷媒の高圧圧力が多少変動しても,温度効率にはさほど影響を及ぼさない。
被告は,本件発明1の上記効果は,当業者の予測の範囲内のことにすぎないと主張するが,この点に関して被告の指摘する引用例2(甲6)及び「第34回日本伝熱シンポジウム講演論文集(平成9年5月)『CO2を冷媒とする給湯用ヒートポンプサイクルの特徴について』505,506頁」(乙1,以下「乙1文献」という。)には,ヒートポンプサイクルにおいて冷媒を臨界圧以上に加圧することによって,冷媒を臨界圧まで加圧しない場合に比べてCOPを向上させることができる点については記載されているが,本件発明1の特徴の一つである,冷媒の高圧圧力,及び給湯用の液体の流量の双方を制御することによって貯湯温度を可変制御する点については開示がなく,冷媒を臨界圧以上まで加圧する給湯機において,いかにCOPの良い領域で運転させるのかといった点についても示唆されていない。
3 取消事由3(本件発明2〜5,7の容易想到性の判断の誤り) 以上のとおり,本件発明1は,公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許を受けることができる発明であり,本件発明1に従属する本件発明2〜5,7も,特許を受けることができる発明であり,本件発明2〜5,7の容易想到性を肯定した決定の判断は誤りである。
被告の反論
決定の認定判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(周知発明に関する認定の誤り)について (1) 本件においては,公知技術が複数存在し,それぞれの文献から摘示し得る事項が同一であったので,あえて個々の文献との対比を行うことなく,それらの文献に共通して記載された技術的思想を抽出して,「周知発明」として認定したものである。この認定は,特許法29条1項1号又は3号の規定に適合するものであって,何ら違法性はない。
(2) 原告らは,周知発明の認定に関して,引用例3の発明は,冷媒と湯とを熱交換させる熱交換器を必須要件としておらず,また,この熱交換器に関して冷媒の流れ及び温水の流れは説明されていないし,貯湯温度を可変とする手段も記載されていないなどと主張する。しかし,決定は,引用例3の図2及びその説明に記載された従来例に基づいて周知発明を認定しており,引用例3に決定が周知発明として認定した事項が示されていることは,当業者には自明のことであるから,原告らの上記主張は失当である。
2 取消事由2(相違点Bの判断の誤り)について (1) 周知発明において貯湯温度の制御を行うに際して,引用例7に記載された,「ヒートポンプサイクルの高圧圧力及び冷却流体の流量を制御する」手法を採用して,本件発明1の構成を得ることは,当業者が容易に想到し得たことである。
原告らは,引用例1,3,8には,「高圧圧力及び冷却流体の流量を制御すれば冷却流体の温度を制御でき,結果として貯湯温度を制御できる」ことに関する記載は見当たらないと主張する。しかしながら,周知発明及びその認定の根拠となった引用例1,3,8記載の各発明は,すべてヒートポンプ式給湯器であって,冷媒を加圧し,熱交換器において給水を加熱することにより,冷媒が冷却(凝縮)するヒートポンプサイクルを利用したものである。そうすると,圧縮機により冷媒の高圧側,すなわち,熱交換器に流入する側の圧力を調整することにより,冷媒の高圧側の温度を制御できることは自明であるから,これを適宜調節することにより,熱交換器を流れる水(冷却流体)の温度を調節できること,また,この水(冷却流体)の流量を調節することによっても,その温度を制御できることは,当業者の技術常識ともいうべき自明な事項にすぎない。「高圧圧力および冷却流体の流量を制御すれば冷却流体の温度を制御できる」という点は,上記のとおり,明示の記載がなくても当業者の技術常識に照らして自明の事項であるから,決定が,「周知発明のものにおいても高圧圧力及び冷却流体の流量を制御すれば冷却流体の温度を制御でき,結果として貯湯温度を制御できる」(決定謄本10頁第2段落)と判断したことに誤りはないし,「周知発明において貯湯温度の制御を行うに際して,引用例7記載の制御方法を採用して本件発明1のごとくすることに困難性は認められない」(同)と判断したことにも誤りはない。
(2) 引用例7(甲11)が開示する技術内容についての原告らの主張は,失当である。
引用例7は,冷凍機や冷房装置のように物を冷やす目的の装置と,暖房装置や温水装置のように物を加熱する目的の装置の両者に利用可能な蒸気圧縮サイクルの運転方法及びその装置を開示している。通常の(臨界圧未満の)蒸気圧縮サイクルであれ,超臨界圧の蒸気圧縮サイクルであれ,蒸気圧縮サイクルが理論的に加熱・冷却の両者に利用可能であることは,技術常識である。
引用例7には,「装置能力の調整は,点『c』における温度をほぼ一定の状態として,高サイドにおける圧力を変動することにより達成される」(4頁右欄下から第3段落)と記載されており,この記載によれば,引用例7の第5図に示すように,高圧側の圧力を変動することにより,圧縮機の出口側の状態がa’,a,a’’と変動し,熱交換器11の出口側の状態がb’,b,b’’と変動する等,サイクルの軌跡が変動することにより,装置能力の調整が行われることが記載されているのであり,ここでは,高圧側の圧力を変動することにより,熱交換器11の入口側(圧縮機の出口側)と出口側の状態が変動することが実質的に開示されているのである。そして,引用例7では,「向流型熱交換器12はこの装置の機能を達成するために絶対に必要というものではない」(4頁左欄第4段落)のであるから,当該向流型熱交換器12を省略すれば,点「c」と点「b」は一致し,点「b」の変動は点「c」の変動を意味することになるのであり,引用例7において,高圧側の圧力を変動することによりヒートポンプとしての装置能力を調整できることは,当業者に自明の事項である。
原告らが主張する本件発明1の効果は,引用例2(甲6)及び乙1文献から明らかなとおり,当業者の予測の範囲内のことにすぎない。
3 取消事由3(本件発明2〜5,7の容易想到性の判断の誤り)について 原告らの取消事由3の主張は争う。
当裁判所の判断
1 取消事由1(周知発明に関する認定の誤り)について (1) 原告らは,決定が,それぞれ目的も構成も異なる引用例1,3,8の発明を総称した「周知発明」を容易想到性の判断の基礎としたことは適切でないと主張する。しかしながら,決定の,「これらの各引用例(注,引用例1,3,8)にはいずれにも,次の発明(注,周知発明)が記載されているものと認められる」(決定謄本7頁第5段落)との説示によれば,決定は,各引用例に記載された異なる発明を寄せ集めたものを「周知発明」として認定したわけではなく,引用例1,3,8のそれぞれに「周知発明」が記載されていると認定した上で,この「周知発明」に基づいて容易想到性を判断していることが明らかであるから,その判断手法に原告らが主張するような不適切な点があるということはできない。
(2) そこで,進んで,決定が周知発明として認定した,「ヒートポンプサイクルを用いて給湯用の液体を加熱し,その加熱された液体を貯湯槽に蓄えるヒートポンプ式給湯器であって,冷媒と,冷媒と対向するように流れる液体とを熱交換させる貯湯用交換器と,液体を加熱する際に掛かる給湯負荷に応じて,貯湯槽に蓄えられる液体の貯湯温度を可変する貯湯温度可変手段と,貯湯温度可変手段を制御する制御装置とを備えたヒートポンプ式給湯器」の発明を,上記各引用例の記載から認め得るか否かを,本件出願時(平成11年9月9日)の技術水準に基づいて検討する。
ア 平成8年8月8日に日本国内において頒布された「ヒートポンプ」の発明に関する引用例2(甲6)には,「向流形熱交換器」との記載があり(例えば,2頁右欄下から第2段落),平成7年3月6日に日本国内において頒布された「超臨界蒸気圧縮サイクルの運転方法およびその装置」に関する引用例7(甲11)には,「向流型熱交換器」との記載があり(例えば,4頁左欄第2段落),平成9年5月に頒布された「CO2を冷媒とする給湯用ヒートポンプサイクル」に関する乙1文献には,「給湯のような加熱温度幅が大きい場合,熱交換を対向流にする」(「2.検討対象のサイクル」の項)との記載があるから,これらの記載によれば,本件出願当時,当該技術分野において,「冷媒と,前記冷媒と対向するように流れる液体とを熱交換させる給湯用熱交換器」は周知であったと認められる。
イ 引用例3(甲7)には,ヒートポンプ給湯機について,(ア)「従来,ヒートポンプの凝縮熱で貯湯槽内の水を昇温するヒートポンプ給湯機のヒートポンプの運転制御は,・・・又は第2図に示すごとく貯湯槽6内の水を循環ポンプ8により凝縮器2’へ強制循環する方式では循環水温の検知センサ7’の信号によりヒートポンプをオン-オフさせる方式等がある」(1頁左下欄最終段落〜右下欄第1段落),(イ)「上記実施例(注,図面第3〜第5図)では凝縮器を貯湯槽下部へ埋設した例で説明したが,第2図に示すごとき強制循環式の構成にし,水温検知センサの設置を周囲外気温度に影響される取付け構成とすることにより同様の効果が得られることは明白である」(3頁左下欄第2段落),(ウ)「発明の効果 この発明によれば圧縮機,凝縮器,絞り機構,蒸発器からなるヒートポンプの凝縮熱で貯湯槽内の水を昇温するヒートポンプ給湯機において,ヒートポンプの高圧圧力検知センサと貯湯槽内水温検知センサとを有し,高圧圧力検知によりヒートポンプ運転を停止し,貯湯槽内水温検知によりヒートポンプの再運転を行うごとく制御することにより,ヒートポンプ運転停止時高圧圧力で規制するため,冬場給湯負荷の多い時に高温で沸上り,夏場給湯負荷の少ない時には比較的低温で沸上るため,夏冬の沸上設定湯温の調節が不要となる」(同欄最終段落)と記載され,第2図として,圧縮機,凝縮器2’,蒸発器4,貯湯槽6等を備えた従来のヒートポンプ式給湯器の構成図が示されている。第2図のものは,第3図の符号を参照すると,ヒートポンプ給湯機において,圧縮機で圧縮されて高温となった冷媒が凝縮器2’へ図面上方から流入し図面下方から流出するのに対して,貯湯槽6の水は,凝縮器2’へ図面下方から流入し図面上方から流出するとともに,水は凝縮器2’内で冷媒により加熱された後,貯湯槽6に蓄えられる構造のものであると認められる。
上記(ア)〜(ウ)の記載及び第2,第3図によれば,引用例3には,冷媒と,冷媒と対向するように流れる流体とを熱交換させる給湯用熱交換器が開示されていると認められ,また,引用例3に記載されたヒートポンプ給湯機において,冬場の給湯負荷の多いときに高温で沸上げ,夏場の給湯負荷の少ない時には比較的低温で沸上げることは,「液体を加熱する際に掛かる給湯負荷に応じて,貯湯槽に蓄えられる液体の貯湯温度を可変する」ことに相当するから,引用例3に記載されたヒートポンプ給湯機が,「液体を加熱する際に掛かる給湯負荷に応じて,貯湯槽に蓄えられる液体の貯湯温度を可変する貯湯温度可変手段と,貯湯温度可変手段を制御する制御装置とを備え」ていることも明らかである。
そうすると,当業者は,引用例3の記載から,格別の思考を要することなく,決定の認定した「周知発明」,すなわち,「ヒートポンプサイクルを用いて給湯用の液体を加熱し,その加熱された液体を貯湯槽に蓄えるヒートポンプ式給湯器であって,冷媒と,冷媒と対向するように流れる液体とを熱交換させる給湯用熱交換器と,液体を加熱する際に掛かる給湯負荷に応じて,貯湯槽に蓄えられる液体の貯湯温度を可変する貯湯温度可変手段と,貯湯温度可変手段を制御する制御装置とを備えたヒートポンプ式給湯器」を理解するというべきであるから,引用例3には,上記「周知発明」が記載されているということができる。これに反する原告らの主張は,採用することができない。
ウ 引用例8(甲12)には,図2のヒートポンプ給湯機の回路図について,(ア)「本発明の第2の実施の形態を図2を用いて説明する。図2において,第1の実施の形態と同じ構成,動作するものについては,同一符号とし,説明を省略する。18は湯量検知手段であり,前記貯湯槽5に複数設けられ,貯湯槽内の湯の温度を検出して信号を発する。19は制御器であり,前記湯量検知手段18の信号に基づき,前記湯温設定手段15の温度設定をおこなう」(段落【0043】),(イ)「つぎに,上記構成において動作を説明する。沸き上げ運転の開始直前に前記制御器19は前記貯湯槽5内に設けた複数の前記湯量検知手段18の残湯量を検出信号から湯温設定手段15の設定温度を設定する。すなわち,前日の残湯量より多い場合には,前記湯温設定手段15の温度設定を低くする。逆に,残湯量が少ない場合には,温度設定を高くする。制御器19による湯温設定手段15の設定温度の制御は当初の湯温設定手段15で設定されている温度を変更することにより行う(例えば,65℃の温度設定を50℃に変更する)場合や,湯量検出手段18により検知された湯量に基づいて自動的に湯温設定手段15の設定温度を決定する場合でもよい。そして,沸き上げ運転を開始し,前記温度検知器14の信号が前記湯温設定手段15の信号と一致するように前記回転数制御器16が前記循環ポンプ12の回転数を制御して設定温度に沸き上げる。そして,前記ミキシングバルブ17で適温に下げて端末機器へ送る。従って,残湯温度と沸き上げ温度が異なっても端末での出湯温度は安定しているため,使用された給湯熱量に応じて,湯温設定を自動的におこなうことができる」(段落【0044】)と記載されている。これらの記載によると,引用例8の図2には,ヒートポンプ式給湯器において,圧縮機1から吐出された高温高圧のガスが凝縮器2へ図面上方から流入し図面下方から流出するのに対して,貯湯槽5の水は,水熱交換器13へ図面下方から流入し図面上方から流出すると共に,水は水熱交換器13内で凝縮器2を流れる高温高圧のガスにより加熱された後,貯湯槽5に蓄えられることが記載されていると認められる。そして,上記のように高温高圧のガスと水が流れて,水がガスにより加熱される態様は引用例3と同様であるから,給湯用熱交換器について上記アの周知技術を当然認識している当業者は,引用例8の熱交換器についての記載から,冷媒と,冷媒と対向するように流れる流体とを熱交換させる給湯用熱交換器を認識,理解するということができる。
さらに,引用例8記載のヒートポンプ式給湯器において,前日の残湯量より多い場合には,湯温設定手段15の温度設定を低くし,逆に,残湯量が少ない場合には,温度設定を高くすることは,「液体を加熱する際に掛かる給湯負荷に応じて,貯湯槽に蓄えられる液体の貯湯温度を可変する」ことに相当するから,ヒートポンプ給湯機が,「液体を加熱する際に掛かる給湯負荷に応じて,貯湯槽に蓄えられる液体の貯湯温度を可変する貯湯温度可変手段と,貯湯温度可変手段を制御する制御装置とを備え」ていることは明らかである。
そうすると,当業者は,引用例8の記載から,格別の思考を要することなく,決定の認定した「周知発明」を理解するということができるから,引用例8には,上記「周知発明」が記載されている。
エ 以上のとおり,引用例3,8には,決定が「周知発明」と認定した発明が記載されているということができるから,決定が容易想到性の判断の基礎とした「周知発明」の認定に誤りがあるということはできない。
原告らは,決定が,周知発明の名の下に,ヒートポンプ式給湯器であれば,冷媒と水とを対向させる熱交換器を用いるのが当然であるかのように扱っている点,及び別々の発明で異なる目的の下で異なる構成を採用しているにもかかわらず,ヒートポンプ式給湯器であれば,給湯負荷に応じて給湯槽に蓄えられる液体の温度を可変にする手段を用いるのが当然であるかのごとく扱っている点で誤りであると主張するが,本件出願時の技術水準に照らして各引用例を個別に検討したときに,少なくとも引用例3,8から決定の認定にかかる「周知発明」を認め得ることは,上記判示のとおりであるから,原告らの主張は採用することができない。
(3) 以上のとおり,原告らの取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点Bの判断の誤り)について 原告らは,相違点Bについて,決定が「周知発明において貯湯温度の制御を行うに際して,引用例7記載の制御手法を採用して本件発明1のごとくすることに困難性は認められない」(決定謄本10頁第2段落)と判断した点は誤りであると主張する。
(1) 引用例7記載の制御手法について 原告らは,まず,引用例7について,「CO2を冷媒として臨界圧力以上まで加圧させるヒートポンプサイクルにおいて,ヒートポンプサイクルの高サイド圧力(高圧圧力)及び冷却流体の流量を制御する」点が記載されていることは認めつつ,引用例7が高圧圧力及び冷却流体の流量を制御することによって調節しているのは,蒸発器における冷却能力であり,熱交換器における加熱能力を調整し得ることまでは記載されていない旨主張する。
ア 引用例7(甲11)は,「超臨界蒸気圧縮サイクルの運転方法およびその装置」の発明に係るものであって,次の記載が認められる。
(ア) 「この発明は,閉回路において,高サイドにおいては超臨界条件下で作動される冷媒を利用する・・・ヒートポンプのような蒸気圧縮サイクルの運転方法およびその装置に関し,特に,その種の装置の能力を調整及び制御する方法に関するものである。」(2頁左欄「発明の分野」の項) (イ) 「発明の概要 この発明の前述及び他の目的は,装置の冷凍及び加熱能力を制御するにあたり,超臨界状態における熱力学的特性が利用されるようにした・・・方法を提供することにより達成される。・・・」(3頁左欄最終段落〜右欄第1段落) (ウ) 「第4図はこの発明の第3実施例により構成された超臨界蒸気圧縮サイクル装置の概略図である。・・・第5図は異なる運転条件における・・・第4図の超臨界蒸気圧縮サイクル装置における圧力及びエンタルピの関係を示すグラフである。」(3頁右欄第7段落〜第8段落) (エ) 「この発明の高サイドにおいては超臨界圧力である蒸気圧縮サイクル装置は,臨界温度が熱流入口温度と熱流出口の平均温度との間にある冷媒,及び冷媒が循環される作動流体閉回路とを包含する。適切な作動流体は,たとえば,・・・2酸化炭素(CO2),・・・とすることができる。」(3頁右欄最終段落〜4頁左欄第2段落) (オ) 「冷媒は圧縮機10において適切な超臨界圧力まで圧縮され,圧縮機流出口20は,第5図において状態『a』として示される。冷媒は熱交換器11を通って循環され,そこで状態『b』まで冷却されて,熱を適切な冷却材,たとえば・・・水に放出する。所望により,冷媒は,状態『d』まで絞り操作される前に,向流型熱交換器12において状態『c』まで,さらに冷却されても良い。絞り弁13での圧力低下により,第3図に状態『d』として示されるように,ガス/液体の2相混合体が形成される。冷媒は蒸発器14において,液相の蒸発により熱を吸収する。蒸発器流出口における状態『e』から冷媒の蒸気は,向流型熱交換器12において,圧縮機流入口19に流入する前に,状態『f』まで加熱されても良く,圧縮機流入口19の流入によりサイクルが完成される。」(4頁左欄最終段落〜右欄第1段落) (カ) 「超臨界サイクル装置の能力調整は,蒸発器流入口,すなわち第5図の点『d』における冷媒の状態を変動させることにより達成される。冷媒の単位質量流量当たりの冷却能力,すなわち,所定の冷却能力は,状態『d』および状態『e』間のエンタルピ差に対応する。このエンタルピ差は,第5図において,エンタルピ・圧力線図の水平長さとして示されている。」(4頁右欄第2段落) (キ) 「臨界点付近での等温線のカーブは,第5図に示されるように,圧力によるエンタルピの変動をもたらす。図は基準サイクル(a-b-c-d-e-f),高サイド圧力が低下されたことによる低能力のサイクル(a′-b′-c′-d′-e-f),及び高サイドにおける高圧による高能力のサイクル(a″-b″-c″-d″-e-f)を示している。」(4頁右欄下から第3段落) (ク) 「向流型熱交換器12はこの装置の機能を達成するために絶対に必要であるというものではないが,その効率,特に能力増大要件に対する応答速度を改善する。」(4頁左欄第4段落) (ケ) 「これまで説明した実施例により組立てられた超臨界蒸気圧縮サイクル装置は,色々な分野において適用される。・・・なお,参考として述べるならば,高サイド圧力を主として一定に保持すると共に,絞り操作(状態「c」)する前の冷媒温度を,・・・水の循環速度を変動させることによって調整することにより,超臨界サイクル装置の能力の調整が可能であることも明らかであろう。冷却流体,すなわち・・・水の流量を低減することにより,絞り操作前の温度は増大し,能力は低下する。冷却流体の流量が増大すると,絞り操作前の温度が低下し,したがって装置の能力が増大する。圧力及び温度制御を組合せることも可能である。」(5頁右欄第5段落〜第6段落) イ 上記アの記載(ア)〜(オ)によれば,引用例7には,CO2を冷媒として臨界圧力以上まで加圧させるヒートポンプサイクルにおいて,冷媒を熱交換器11に循環させ,そこで冷媒により水を加熱する加熱能力を制御することについても記載されていると認められ,さらに,記載(カ)を考慮すると,単位質量流量当たりの冷媒は,蒸発器14において状態「d」から状態「e」に移行する際には,第5図のエンタルピ・圧力線図における状態「d」と状態「e」との間の水平長さとして示されるエンタルピ差に対応する熱を吸収し,また,熱交換器11において状態「a」から状態「b」に移行する際には,熱を水に放出することが分かる。
また,単位質量流量当たりの冷媒が熱交換器において水に放出する熱量は,第5図のエンタルピ・圧力線図における状態「a」と状態「b」との間の水平長さとして示されるエンタルピ差であり,記載(キ)を参照しつつ,第5図を検討すると,ヒートポンプサイクルにおいて,高圧圧力が@高い場合,A基準の場合,B低い場合のそれぞれについて,冷媒が状態「a」から状態「b」に移行する,すなわち,熱交換器11において冷却される際の放熱量は,@>A>Bであることが理解される。そして,冷媒の放熱量は,熱交換器11において水を加熱する加熱量であり,単位質量流量当たりの冷媒が熱交換器11で水を加熱する加熱量を調整すれば,加熱される水(湯)の温度が調節できることは明らかであるから,引用例7には,CO2を冷媒として臨界圧力以上まで加圧させるヒートポンプサイクルにおいて,ヒートポンプサイクルの高圧圧力を制御することにより,熱交換器11で加熱される水(湯)の温度を調節できることが示されているということができる。
さらに,刊行物7の記載(ケ)からは,熱交換器に循環させる水の流量を調整することにより,熱交換器11により加熱される水(湯)の温度を調整できること,さらには,ヒートポンプサイクルにおいて加熱能力を調整するに当たり,高圧圧力を制御することに加えて,熱交換器11に循環させる水の流量を制御することを組み合わせることができることが理解される。すなわち,記載(ケ)において,「絞り操作(状態「c」)する前の冷媒」は,熱交換器11から流出した状態「b」であるから,「絞り操作(状態「c」)する前の冷媒温度を,・・・水の循環速度を変動させることによって調整すること」は,熱交換器11を循環する水の循環速度,すなわち流量を変化させることにより,熱交換器11から流出する冷媒の温度を調整することを意味しており,これは,熱交換器11を循環する水の側から見れば,熱交換器11で加熱される水(湯)の温度を調整することにほかならない。
したがって,引用例7には,ヒートポンプサイクルの高サイド圧力(高圧圧力)及び熱交換器に循環させる水の流量を制御して,熱交換器で加熱される水(湯)の温度を調整することが記載されているというべきである。これに反する原告らの主張は,採用することができない。
(2) 相違点Bに係る構成の容易想到性について 引用例7記載の制御方法についての上記認定を前提として,相違点Bに係る構成の容易想到性を検討する。
ア 貯湯温度を可変することができるヒートポンプ式給湯器においては,あらかじめ「目標貯湯温度」を設定することは自明の課題である。
また,CO2を冷媒として臨界圧力以上まで加圧し,熱交換器に循環させて水を加熱するヒートポンプサイクルにおいて,ヒートポンプサイクルの高圧圧力及び熱交換器に循環させる水の流量を制御して,熱交換器で加熱される水(湯)の温度を調整することが引用例7に記載されていることは,上記(1)判示のとおりである。
そうすると,「周知発明」に係るヒートポンプ式給湯器において,あらかじめ設定した目標貯湯温度を得るに当たり,ヒートポンプ式給湯器の熱交換器で加熱される水(湯)の温度を調整することに係る引用例7記載の上記技術事項を採用して,「周知発明」の「制御装置」が「ヒートポンプサイクルの高圧圧力が給湯用の液体が予め設定した目標貯湯温度を得るために必要な冷媒温度に対応する圧力となるように制御し,給湯用の前記液体の流量を制御する」ようにすることは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。そして,ヒートポンプサイクルの高圧圧力を制御する際に膨張弁の開度を制御することは当業者が必要に応じて成し得る設計事項にすぎない。
イ これに対し,原告らは,「周知発明」に引用例7記載の発明を適用して,相違点Bに係る本件発明1の構成とすることは,想到困難である旨主張し,その理由として,@引用例1,3,8のいずれにも,湯温の制御に当たって,冷媒の高圧圧力と水の循環量の二つを制御するという技術的思想は記載されていないこと,A何の目的でどこを制御するのかは,冷房装置の場合と給湯装置の場合とでおのずと異なるから,冷房装置の冷房能力(蒸発器の熱交換能力)を制御する目的で水(冷却材)の流量を可変する引用例7のヒートポンプサイクルの制御方法は,給湯装置の温度制御に応用できないこと,B周知発明(引用例1,3,8)に示されるような臨界圧以上まで加圧しない通常のヒートポンプサイクルは,COPが冷媒の高圧圧力や給湯用の流体の変動による影響を大きく受けないから,給湯用の流体の温度を制御するために冷媒の高圧圧力及び水(冷却流体)の流量の両者を制御する必要性は低いことを挙げる。
しかしながら,原告ら主張の上記@の点については,引用例7に水の循環量及び冷媒の高圧圧力を制御することによって湯温を制御するということが示されているのであるから,「目標貯湯温度」をあらかじめ設定するという自明の課題があるときに,周知発明に引用例7に記載された湯温制御の手法を採用することは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。Aの点については,上記(1)判示のとおり,引用例7には,冷房能力のみならず,加熱能力を制御することも記載されているというべきであるから,原告らの主張は失当である。Bの点については,仮に「周知発明」に係る通常のヒートポンプサイクルにおいて,湯温の制御に冷媒の高圧圧力及び水の流量の両者を制御する必要性は低いとしても,そのことをもっては,「周知発明」に引用例7に記載された上記技術事項を採用することが想到困難であるとはいえない。なお,引用例1(甲5)には,「ヒートポンプ式給湯器」に関し,「ポンプ23を制御して湯温を調整する場合は,湯温が設定温度より低い時は,加熱用熱交換器12に供給される水量を少なくし,湯温が設定温度より高いときは,加熱用熱交換器12に供給される水量を多くする」(【0037】),「さらに,圧縮機11を制御して湯温を調整する場合は,湯温が設定温度より低い時は,圧縮機11の回転数を大くし,湯温が設定温度より高い時は,圧縮機11の回転数を小さくするようにする」(【0038】)と記載されているから,ヒートポンプ式給湯器において,そのヒートポンプサイクルの高圧圧力や水の流量を変更すれば,湯温を可変できることは明らかであり,このことからしても,湯温の制御のために冷媒の高圧圧力及び水の流量の両者を制御することが想到困難であるとはいえない。 ウ 原告らは,また,本件発明1の作用効果の顕著性を主張する。
しかしながら,CO2を冷媒として臨界圧力以上まで加圧させるヒートポンプ式の給湯器について,引用例2(甲6)には,「第2図と第4図からこの条件下での成績係数COPを求めてみると,二酸化炭素の場合がCOP=4.4,フロン-12の場合がCOP=3.7であり,従来型のフロン-12に比べ,成績係数が約2割よくなる」(3頁左欄第3段落),「本発明に係るヒートポンプによれば,二酸化炭素の超臨界圧状態を有効に利用することにより,従来使われてきたフロン-12の場合よりも成績係数の高いヒートポンプを提供できるという優れた効果を有する」(3頁右欄第4段落)と記載され,乙1文献には,「結果を表2に示す。各季節ともCO2ではR22に対し15%以上高い成績係数が得られている。
CO2では,除熱とともに温度が低下し,一方,水も加熱されて温度が上昇していくため,熱交換時の温度差によるエントロピロスが少ないサイクルが実現でき,高い効率が得られるものと考えられる」(「3.各季節条件での成績係数」の項)と記載されており,CO2を冷媒として臨界圧力以上まで加圧させるヒートポンプサイクルを用いるヒートポンプ式給湯器が,臨界圧まで加圧されない通常のヒートポンプサイクルを用いたヒートポンプ式給湯器よりも,成績係数(COP)が高いことは,本件出願当時周知であったと認められる。そうすると,原告らが本件発明1の効果として主張する,「本件発明1の臨界圧以上まで加圧されるヒートポンプサイクルでは,給湯用の流体の温度と冷媒の温度との温度差が小さく,冷媒の高圧圧力の変動によって温度効率が影響を受けるため,冷媒の高圧圧力のみならず,給湯用の液体の流量も制御することによって貯湯温度を可変させるようにしている本件発明は,これにより,どの目標貯湯温度においてもCOPの良い領域でヒートポンプサイクルを運転することが可能となるという効果を奏することができる」という点は,当業者が「周知発明」,引用例7及び周知の技術から当然予測し得る範囲内のものというべきであるから,本件発明1の容易想到性に関する上記アの判断を左右するものではない。
(3) 以上によれば,相違点Bについて,「周知発明において貯湯温度の制御を行うに際して,引用例7記載の制御手法を採用して本件発明1のごとくすることに困難性は認められない」(決定謄本10頁第2段落)とした決定の判断に誤りはない。
3 取消事由3(本件発明2〜5,7の容易想到性の判断の誤り)について 上記2のとおり,本件発明1は,周知発明,引用例7及び周知技術から当業者が容易に想到し得たものというべきであるから,本件発明1が想到非容易で あることを前提として,本件発明1に従属する本件発明2〜5,7の想到困難性を主張する原告らの取消事由の主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
4 以上のとおり,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告らの請求は理由がないから棄却することととし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 岡本岳
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