運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能
  • 要点(法的判断を中心に)自動抽出結果


追加

これと同視し得る者が国外において特許製品を譲渡した場合においては、特許権者は、譲受人に対しては、当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合を除き、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては、譲受人との間で右の旨を合意した上特許製品にこれを明確に表示した場合を除いて、当該製品について我が国において特許権を行使することは許されないものと解するのが相当 該当部分へ
すなわち、(1) さきに説示したとおり、特許製品を国外において譲渡した場合に、その後に当該製品が我が国に輸入されることが当然に予想されることに照らせば、特許権者が留保を付さないまま特許製品を国外において譲渡した場合には、譲受人及びその後の転得者に対して、我が国において譲渡人の有する特許権の制限を受けないで当該製品を支配する権利を黙示的に授与したものと解すべきである 該当部分へ
そして、(3) 子会社又は関連会社等で特許権者と同視し得る者により国外において特許製品が譲渡された場合も、特許権者自身が特許製品を譲渡した場合と同様に解すべきであり 該当部分へ
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成10オ364債務不存在確認請求事件 判例 特許
平成13受1256補償金請求事件 判例 特許
平成14受1100損害賠償,商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成12受580損害賠償等請求事件 判例 特許
平成18受826特許権侵害差止請求事件 判例 特許
関連ワード 物の発明 /  技術的範囲 /  同一の発明 /  パリ条約 /  優先権 /  消尽 /  存続期間 /  特許発明 /  実施 /  並行輸入 /  属地主義 /  優先期間 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施料 /  実施権 /  設定登録 /  特許権者の許諾 /  対価 /  補助参加 /  同盟国 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 7年 (オ) 1988号 特許権侵害差止等
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 最高裁判所第三小法廷
判決言渡日 1997/07/01
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
事実及び理由
全容
上告代理人竹内澄夫の上告理由及び上告代理人兼上告補助参加代理人竹内澄夫の上告理由について 一 本件は、ドイツ連邦共和国において上告人により製造販売された製品について、上告人が、我が国において有する特許権に基づき、いわゆる並行輸入によりこれを輸入して我が国において販売している被上告人らに対し、輸入、販売等の差止め及び損害賠償を求める訴訟であるところ、原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
(1) 上告人は、我が国において、発明の名称を「自動車の車輪」とする特許権(昭和五八年一〇月二九日出願(一九八三年五月二七日の欧州特許庁への特許出願に基づく優先権主張)、平成二年一月一二日出願公告、平成三年一二月二〇日設定登録。特許番号一六二九八六九号)を有している(以下、右特許権を「本件特許権」といい、その発明を「本件特許発明」という。)。
(2) 上告人は、ドイツ連邦共和国において、本件特許発明同一の発明につき特許権(一九八三年五月二七日同国等を指定国として欧州特許庁に出願、特許出願番号八三一〇五二五九・二号。一九八七年四月二二日登録)を有している(以下、右特許権を「対応ドイツ特許権」という。)。
(3) 被上告人ジャップオートプロダクッは、少なくとも平成四年八月ころまで第一審判決添付イ号製品目録記載の自動車用アルミホイールBBS・RS及び同ロ号製品目録記載の自動車用アルミホイールロリンザーRSKを輸入して、これを被上告人ラシメックスジャパンに販売し、同被上告人は、少なくとも同月ころまで右各製品を販売していたが、被上告人らは、今後も右各製品を輸入、販売するおそれがある(以下、既に販売済みのもの及び将来販売予定のものを含め、右各製品を併せて「本件各製品」という。)。
(4) 本件各製品は、いずれも本件特許発明技術的範囲に属する。
(5) 本件各製品は、ドイツ連邦共和国において、対応ドイツ特許権の効力発生後に、その実施品として、
上告人により製造販売されたものである。
二 本件訴訟において、被上告人らは、本件各製品についての本件特許権は、上告人がドイツ連邦共和国において本件各製品を適法に拡布したことにより、その効力を失ったから、被上告人らの本件各製品の我が国への輸入及び我が国における販売行為は本件特許権の侵害に当たらない旨の、特許権のいわゆる国際的消尽の主張をしている。
原審は、本件において、上告人は、自ら有する対応ドイツ特許権の実施品として、ドイツ連邦共和国において本件各製品を製造販売したものであって、上告人に発明公開の代償を確保する機会が一回保障されていたことが明らかであるところ、拡布の際に右代償確保の機会を法的に制約されていたとの事実は認められないから、同国における適法な拡布によって、本件特許権は本件各製品に関して消尽したと判断し、上告人の被上告人らに対する本件特許権に基づく差止請求及び損害賠償請求を棄却した。
三 上告人の被上告人らに対する本件特許権に基づく差止請求及び損害賠償請求がいずれも理由がない旨の原審の判断は、結論において是認することができる。その理由は、次のとおりである。
1 「千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にへーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約」(以下「パリ条約」という。)4条の2は、「(1) 同盟国の国民が各同盟国において出願した特許は、他の国(同盟国であるかどうかを問わない。)において同一の発明について取得した特許から独立したものとする。(2) (1)の規定は、絶対的な意味に、特に、優先期間中に出願された特許が、無効又は消滅の理由についても、また、通常の存続期間についても、独立のものであるという意味に解釈しなければならない。」と規定している。右規定は、特許権の相互依存を否定し、各国の特許権が、その発生、変動、消滅に関して相互に独立であること、すなわち、特許権自体の存立が、他国の特許権の無効、消滅、存続期間等により影響を受けないということを定めるものであって、一定の事情のある場合に特許権者が特許権を行使することが許されるかどうかという問題は、同条の定めるところではないというべきである。
また、属地主義の原則とは、特許権についていえば、各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものである。
我が国の特許権に関して特許権者が我が国の国内で権利を行使する場合において、権利行使の対象とされている製品が当該特許権者等により国外において譲渡されたという事情を、特許権者による特許権の行使の可否の判断に当たってどのように考慮するかは、専ら我が国の特許法の解釈の問題というべきである。
右の問題は、パリ条約属地主義の原則とは無関係であって、この点についてどのような解釈を採ったとしても、パリ条約4条の2及び属地主義の原則に反するものではないことは、右に説示したところから明らかである。
2 特許権者は、業として特許発明実施をする権利を専有するものとされているところ(特許法68条参照)、物の発明についていえば、特許発明に係る物を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等は、特許発明実施に該当するものとされている(同法2条3項1号参照)。そうすると、特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者から当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)の譲渡を受けた者が、業として、自らこれを使用し、又はこれを第三者に再議渡する行為や、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、業として、これを使用し、又は更に他者に譲渡し若しくは貸し渡す行為等も、形式的にいえば、特許発明実施に該当し、特許権を侵害するようにみえる。しかし、特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである。けだし、(1) 特許法による発明の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ、(2) 一般に譲渡においては、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり、特許製品が市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、特許製品について譲渡等を行う都度特許権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、
特許製品の円滑な流通が妨げられて、かえって特許権者自身の利益を害する結果を来し、ひいては「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」(特許法1条参照)という特許法の目的にも反することになり、(3) 他方、特許権者は、特許製品を自ら譲渡するに当たって特許発明の公開の対価を含めた譲渡代金を取得し、特許発明実施を許諾するに当たって実施料を取得するのであるから、特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているものということができ、特許権者又は実施権者から譲渡された特許製品について、特許権者が流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。
3 しかしながら、我が国の特許権者が国外において特許製品を譲渡した場合には、直ちに右と同列に論ずることはできない。すなわち、特許権者は、特許製品を譲渡した地の所在する国において、必ずしも我が国において有する特許権と同一の発明についての特許権(以下「対応特許権」という。)を有するとは限らないし、対応特許権を有する場合であっても、我が国において有する特許権と譲渡地の所在する国において有する対応特許権とは別個の権利であることに照らせば、特許権者が対応特許権に係る製品につき我が国において特許権に基づく権利を行使したとしても、これをもって直ちに二重の利得を得たものということはできないからである。
4 そこで、国際取引における商品の流通と特許権者の権利との調整について考慮するに、現代社会において国際経済取引が極めて広範囲、かつ、高度に進展しつつある状況に照らせば、我が国の取引者が、国外で販売された製品を我が国に輸入して市場における流通に置く場合においても、輪入を含めた商品の流通の自由は最大限尊重することが要請されているものというべきである。そして、国外での経済取引においても、一般に、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものということができるところ、前記のような現代社会における国際取引の状況に照らせば、特許権者が国外において特許製品を譲渡した場合においても、譲受人又は譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、業としてこれを我が国に輸入し、我が国において、業として、これを使用し、又はこれを更に他者に譲渡することは、当然に予想されるところである。
右のような点を勘案すると、我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において特許製品を譲渡した場合においては、特許権者は、譲受人に対しては、当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合を除き、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては、譲受人との間で右の旨を合意した上特許製品にこれを明確に表示した場合を除いて、当該製品について我が国において特許権を行使することは許されないものと解するのが相当である。すなわち、(1) さきに説示したとおり、特許製品を国外において譲渡した場合に、その後に当該製品が我が国に輸入されることが当然に予想されることに照らせば、特許権者が留保を付さないまま特許製品を国外において譲渡した場合には、譲受人及びその後の転得者に対して、我が国において譲渡人の有する特許権の制限を受けないで当該製品を支配する権利を黙示的に授与したものと解すべきである。(2) 他方、特許権者の権利に目を向けるときは、特許権者が国外での特許製品の譲渡に当たって我が国における特許権行使の権利を留保することは許されるというべきであり、特許権者が、右譲渡の際に、譲受人との間で特許製品の販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を合意し、製品にこれを明確に表示した場合には、転得者もまた、製品の流通過程において他人が介在しているとしても、当該製品につきその旨の制限が付されていることを認識し得るものであって、右制限の存在を前提として当該製品を購入するかどうかを自由な意思により決定することができる。そして、(3) 子会社又は関連会社等で特許権者と同視し得る者により国外において特許製品が譲渡された場合も、特許権者自身が特許製品を譲渡した場合と同様に解すべきであり
また、(4) 特許製品の譲受人の自由な流通への信頼を保護すべきことは、特許製品が最初に譲渡された地において特許権者が対応特許権を有するかどうかにより異なるものではない。
5 これを本件についてみるに、前記の原審認定事実によれば、本件各製品は、いずれも本件特許権を有する上告人自身がドイツ連邦共和国において販売したものである。そして、本件においては、上告人が本件各製品の販売に際して、販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意したことについても、そのことを本件各製品に明示したことについても、上告人による主張立証がされていないのであるから、上告人が、本件各製品について、本件特許権に基づいて差止めないし損害賠償を求めることは許されないものというべきである。
原判決は、結論において右と同旨をいうものであるから、これを是認することができる。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立って原判決の法令違背をいうか、又は原判決の結論に影響しない説示部分を非難するに帰するものであって、採用することができない。
よって、民訴法401条95条89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 大野正男
裁判官 園部逸夫
裁判官 千種秀夫
裁判官 尾崎行信
裁判官 山口繁