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関連審決 無効2003-35400
関連ワード 技術的思想 /  使用方法 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  着想 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  具体的態様 /  設定登録 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 254号 審決取消請求事件
原告 タキロン株式会社
訴訟代理人弁理士 森治
被告 株式会社エヌ・エス・ピー
訴訟代理人弁理士 廣江武典
同 宇野健一
同 武川隆宣
同 高荒新一
同 中村繁元
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2003-35400号事件について平成16年4月23日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告の有する後記本件特許について被告から特許無効の審判請求を受けた特許庁が,本件特許を無効とする旨の審決を行ったため,本件特許の特許権者である原告が,同審決の取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 ア 原告は,平成8年12月28日,名称を「地下貯水槽等に用いる充填部材」とする発明について特許出願(特願平8-357555号。以下「本件出願」という。)をした。
イ 特許庁は,本件出願につき特許すべき旨の査定をし,平成13年6月15日,特許第3198479号として設定登録をした(以下「本件特許」という。)。
ウ 本件特許については,平成15年9月24日付けで被告から特許無効の審判請求がされ,無効2003-35400号として特許庁に係属した。被請求人である原告は,平成15年12月15日,本件特許について訂正の請求をした。特許庁は,上記事件について審理を遂げ,平成16年4月23日,@上記訂正を認めるとした上,A本件特許の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とするとの審決(以下「本件審決」という。)をし,同年5月10日その謄本が原告に送達された。
(2) 本件発明の要旨 本件審決により本件特許について訂正が認められたが,その発明の要旨は,訂正前と訂正後に分けて明らかにすると,次のとおりである。
ア 訂正前のもの(甲10) 「【請求項1】上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と,この支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部に嵌合されてその嵌合連結部に結合される嵌合部が縦横に配列されてなる複数の連結要素と,からなる地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項2】上記連結要素が,多数の上記嵌合部を一体に連結している連結部を有する請求項1に記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項3】上記連結部が通孔を有する踏板部を一体に備える請求項2に記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項4】上記嵌合部のそれぞれに上向き嵌合部と下向き嵌合部とが同心状に備わっている請求項1,請求項2,請求項3のいずれかに記載した地下貯水槽等に用いる充填部材 【請求項5】 上記嵌合部が、上記支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部に外嵌合可能な筒状のソケットでなる請求項1、請求項2、請求項3,請求項4のいずれかに記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項6】 上記嵌合部が、上記支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部に内嵌合可能な凸部でなる請求項1、請求項2、請求項3,請求項4のいずれかに記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項7】上記支柱要素および上記連結要素のそれぞれが合成樹脂成形体である請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5,請求項6のいずれかに記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。 」 イ 訂正後のもの(甲11) 訂正前の旧請求項1を下記のとおり訂正するとともに,旧請求項2を削除し,旧請求項3ないし7を訂正後の新請求項2ないし6に繰り上げる(以下,新請求項1ないし6に係る発明を「本件発明1」等という。)。
記 「【請求項1】上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と,この支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される嵌合部が縦横に格子状に配列され, 連結部 によって 相互 に連結 され てなる複数の連結要素とからなる 充填部材 を,上下 に積み重ねて 配列 するようにして なる地下貯水槽等に用いる充填部材。」(注:下線部分は訂正に係るもの) (3) 本件審決の内容 ア 本件審決の内容は別紙のとおりである。その理由の要点は,上記訂正は特許請求の範囲減縮等を目的とするもので適法であるが,訂正後の本件発明1ないし6はいずれも,本件特許の出願前に頒布された刊行物である特開平8-302692号公報(甲1),特開昭63-293233号公報(甲8)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法123条1項2号,29条2項の規定に基づいて無効とすべきものである,等としたものである。
イ 本件審決は,上記判断に当たり,本件発明1と甲1記載の発明との一致点及び相違点について,次のとおり認定している。
(一致点) 「上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と,この支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される嵌合部が配列され,連結部によって相互に連結されてなる複数の連結要素とからなる充填部材」である点。
(相違点1) 本件発明1は,支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される,連結要素の嵌合部が,縦横に格子状に配列され,上下に積み重ねて配列するようにしてなる充填部材であるのに対し,甲1記載の発明にはこのような構成が記載されていない点。
(相違点2)本件発明1の充填部材が地下貯水槽等に用いるのに対して,甲1記載の発明の充填部材は基礎コンクリートの周辺に配置する点。
(4) 本件審決の取消事由 本件審決は,以下に述べるとおり,上記相違点1及び2に係る本件発明1の進歩性の判断において誤りがある。なお,本件発明2ないし6については,独立の取消事由を主張しない。
ア 相違点1についての判断の誤り(取消事由1) (ア) 本件審決は,「上記相違点1を検討すると,甲第1号証の第2実施例は,支柱要素が相互に連結可能であることからみて,充填部材を上下に積み重ねて配列するようにしてなる充填部材が記載されているということができ,また,一般に,支柱要素と連結要素とからなる物品を上下に積み重ねて配列するものにおいて,支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される,連結要素の嵌合部が,配列されるものは,周知である(例えば,実願昭62-198527号(実開平1-103329号)のマイクロフィルム,実願昭61-108951号(実開昭63-15827号)のマイクロフィルム参照)。」と認定判断した。
a しかしながら,甲1の記載によれば,甲1の第2実施例に記載された間隔保持部材は,本件発明1が「(支柱要素の)嵌合連結部に結合される嵌合部が縦横に格子状に配列され,連結部によって相互に連結されてなる複数の連結要素」(以下「特定構成要件B」という。)を有するのと異なり,連結要素の縦横に格子状に配列された嵌合部に嵌合される複数本の支柱要素には全く対応できない。また,嵌合部が連結部によって相互に連結されるものでないことから,本件発明1の連結要素とは,構成及び作用効果の点で全く異なるものである。
ちなみに,甲1の段落【0031】の「パイプ部材34の連結個数を変更することにより,埋め戻し深さの変化に容易に対応することができる」等の記載は,甲1記載の発明には埋め戻し用台を上下に積み重ねて配列する技術思想すらないことを明確に示すものである。
したがって,「甲第1号証の第2実施例は,支柱要素が相互に連結可能であることからみて,充填部材を上下に積み重ねて配列するようにしてなる充填部材が記載されているということができ」るとした本件審決の判断には,論理に飛躍があるといわざるを得ない。
b また,本件審決が周知技術の立証のために引用する実願昭62-198527号(実開平1-103329号)のマイクロフィルム(甲12),実願昭61-108951号(実開昭63-15827号)のマイクロフィルム(甲13)は,高さ数十cm程度でそもそも当初から一体化して用いることを前提とした物品の技術であり,高さ数mにも及び上下左右に積み重ねて配列する本件発明1の地下貯水槽等に用いる充填部材とは技術的に全く無関係なものであり,両者を同列に論じることは適当でない。
また,甲13に記載された「組合わせ自在な靴棚」及び甲13の「組立式シューズラック」は,支柱を靴台や棚板の四隅に配設したものに過ぎず,この点でも,本件発明1と構成を異にするものであって,本件発明1の「複数本の支柱要素と,支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される嵌合部が………配列され………てなる複数の連結要素とからなる充填部材を,上下に積み重ねて配列するようにしてなる」点(以下「特定構成要件A」という。)及び前記特定構成要件Bを示唆するものではない。
(イ) 本件審決は,「甲第1号証には,充填材において,連結要素(22C,24C。図6参照。)の嵌合部(接続筒部25)が隅部だけでなく中央部にも設けたものが記載されており,甲第8号証には,充填材(甲第8号証の格子状枠体4が相当。以下同様。)において支持要素(格子状枠体4の板状部材。第2図参照)を格子状に設けることが記載されている。」と認定判断した。
しかしながら,甲1の図6に記載されたものは,連結要素の嵌合部(接続筒部25)を天板22C及び底板24Cの中央部に設けることが記載されるにとどまり,連結要素としての天板と底板が明確に区別されていることからも明らかなように,複数本の支柱要素と複数の連結要素からなる充填部材を上下に積み重ねて配列した場合,連結要素を介して上下に積み重ねられた充填部材を一体化するものではなく,また,甲1の第2実施例に記載されたものと構成上相容れるものではない。一方,甲8に記載された「格子状枠体4」の板状部材をもって「支持要素を格子状に設けることが記載されている」とし,特定構成要件A及びBと結びつけた本件審決の判断には,論理の飛躍がある。
(ウ) 本件発明1は,特定構成要件Aを有することにより,連結要素を介して上下に積み重ねられた充填部材が一体化し,水平方向のずれの発生を防止する作用効果を奏する。また,特定構成要件Bを有することにより,多数の嵌合部と連結部とを合成樹脂で一体に射出成形することが可能となるだけでなく,嵌合部の相互の位置関係が変動せず,また,格子状に配列された嵌合部に嵌合される複数本(少なくとも,縦横に3本ずつ)の支柱要素によって上載荷重に対して大きな対抗力を発揮する作用効果を奏する。これらの顕著な作用効果を看過した点においても,本件審決の判断は不当である。
(エ) 以上のことから,本件発明1の相違点1に係る構成は当業者にとって容易に想到できるとした本件審決の判断は失当である。
イ 相違点2についての判断の誤り(取消事由2) 本件審決は,「本件発明1の充填部材は地下貯水槽等に用いるもので,『等』と記載されている以上,用途は,地下貯水槽に限定されないから,甲第1号証記載の発明において相違点2の本願発明1に係る構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることである。なお,被請求人は,甲第1号証の『降雨時等に埋め戻し箇所に水が滲み出してきても,その水が埋め戻し用台の支柱間に入り込む』との記載は本件発明1の使用目的を示唆するものではない………と主張するが,甲第1号証記載の充填部材も,本件発明1と同様に地下に水溜め空間を設けたことでは共通するから,被請求人の主張は理由がない。」と認定判断した。
しかしながら,本件発明1は,地下貯水槽や地下貯留浸透層等に設けられる水溜め空間に用いられる充填部材に限定されるものであって,甲1の埋め戻し用台とは,その使用目的がそもそも相違するものである。なお,甲1の「降雨時等に埋め戻し箇所に水が滲み出してきても,その水が埋め戻し用台の支柱間に入り込む」との記載は,本件発明1の使用目的を示唆するものではない。
さらに,甲1記載の発明に係る埋め戻し用台は建物の基礎コンクリートの周辺に用いるものであるところ,当該埋め戻し用台によって形成される空間に積極的・恒常的に水を導入すれば基礎を緩めることになるから,このような使用方法は到底考えられない。
したがって,甲1記載の発明において相違点1の本件発明1に係る構成は当業者にとって容易に想到できるとした本件審決の判断は失当である。
2 請求原因に対する認否 請求の原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論 原告が,本件審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,次のとおり,いずれも失当である。
(1) 取消事由1の主張について ア(ア) 甲1の第2実施例に関して,甲1の図10には,2つの充填部材を上下に積み重ねて配列する図が記載されており,『充填部材を上下に積み重ねて配列する』ことが記載されていると理解できる。即ち,『充填部材を上下に積み重ねて配列する』ことは,甲1の段落【0029】等及び図10の記載から自明な事項であるから,甲1の第2実施例には,充填部材を上下に積み重ねて配列する技術的思想が記載されており,「甲第1号証の第2実施例は,支柱要素が相互に連結可能であることからみて,充填部材を上下に積み重ねて配列するようにしてなる充填部材が記載されているということができる』とした本件審決の認定判断は正当であり,これが誤りであるとの原告の主張は失当である。
(イ) 甲12ないし甲14に記載された技術は,靴棚,シューズラック,又は整理函の技術分野のみにおいて知られている技術ではなく,広く一般的技術者間に知られている技術である。したがって,本件審決において,かかる技術を周知技術として本件発明1の容易想到性の論理付けに用いたことに誤りはなく,これを誤りであるとする原告の主張は失当である。
イ 甲8記載の「格子状枠体4」は,上下に段積みされて配設される「充填部材」と捉えることができる。また,甲8記載の「板状部材」は,段積みされた格子状枠体4を支持する「支持要素」であると考えることができる。したがって,「甲第8号証には,充填材において支持要素を格子状に設けることが記載されている。」とした本件審決の認定判断は正当であり,これを誤りであるとする原告の主張は失当である。
(2) 取消事由2の主張について 本件発明1の充填部材は地下貯水槽等に用いるもので,「等」と記載されている以上,用途は,地下貯水槽に限定されないから,甲1記載の発明において相違点2の本願発明1に係る構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることである。したがって,本件発明1との使用目的の相違を理由として本件審決の判断の誤りをいう原告の主張には理由がない。
当裁判所の判断
1 請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯),同(2)(本件発明の要旨)及び同(3)(本件審決の内容) の各事実は当事者間に争いがない。
2 争点に対する判断 原告は,出願前に頒布された刊行物である甲1,甲8及び周知技術によれば本件発明1には進歩性がなく,本件発明1に係る特許は無効である,とした本件審決の認定判断は誤りであると主張するので,以下その当否について判断する。
(1) 取消事由1の主張について ア(ア) まず原告は,甲1には充填部材を上下に積み重ねる技術思想は開示されていないから,本件審決が「甲第1号証の第2実施例は,支柱要素が相互に連結可能であることからみて,充填部材を上下に積み重ねて配列するようにしてなる充填部材が記載されている」と認定判断したことは誤りであると主張する。
原告のかかる主張は,甲1の第2実施例において埋め戻し深さの変化に対応するための手段として示されているパイプ部材34の連結による支柱の延長は,「積み重ね」とは異なる技術思想に基づくものであるという解釈を前提とするものであると解される。しかしながら,甲1の第2実施例におけるパイプ部材は垂直方向の支柱を構成する部材であるから,これを複数連結するということは,垂直方向(上下方向)に部材を順次積み重ねていくことに他ならず,「積み重ね」の技術思想と互いに排斥し合うものであるとまではいえない。
また,本件訂正明細書(甲11)の段落【0002】には,「【従来の技術】特公平4-26648号公報に,雨水等の貯留浸透施設についての記載があり,この公報に,タンク部内に容器状部材を縦横かつ上下に積み上げることについての記載がある。」という記載があり,これによれば,本件特許の出願当時,地下貯水槽等において,充填部材を積み重ねること自体は従来技術として本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)にとって周知であったものと認められる。そして,甲1記載の発明の中でも,請求項1が開示する埋め戻し用台21は,「天板と複数の支柱とに分離して形成されている」(甲1の2欄46行〜47行)というものであって,かかる埋め戻し用台を積み重ねることについては,技術的に特段の支障があるものとは認められない。
したがって,本件特許の出願当時,甲1に接した当業者にとって,甲1に記載された埋め戻し用台を地下貯水槽等の充填部材として採用し,これを積み重ねることの動機付けは充分にあったというべきである。確かに,甲1の第2実施例において埋め戻し深さの変化に対応するために採用された具体的構成,すなわち,「各支柱23が相互に連結可能なパイプ部材34により構成され」(甲1の5欄24行〜25行),「各支柱23間に間隔を保持するための間隔保持部材37が取り付けられている」(同30行〜32行)という構成は,本件発明1における積み重ねの構成(特に特定構成要件A)と相違しており,本件審決が「甲第1号証の第2実施例 は………充填部材を上下に積み重ねて配列するようにしてなる充填部材が記載されている」(下線部は本判決注)と認定したことは必ずしも正確ではないが,平面状部材(天板又は底板)と複数の棒状部材(支柱)とが分離して形成された充填部材を積み重ねるという着想自体が,甲1の記載に接した本件特許の出願当時の当業者にとって容易であったという意味で,本件審決に誤りはない。
そして,本件発明1における積み重ねの具体的態様(特に特定構成要件Aの構成)に想到することが容易といえるか否かについては,本件審決は「一般に,支柱要素と連結要素とからなる物品を上下に積み重ねて配列するものにおいて,支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される,連結要素の嵌合部が,配列されるものは,周知である」として別途周知技術を認定したうえ,これに基づいて判断しているのであり,かかる判断の妥当性については後記(イ)において別途検討する。
(イ)a 次に原告は,本件審決が「一般に,支柱要素と連結要素とからなる物品を上下に積み重ねて配列するものにおいて,支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される,連結要素の嵌合部が,配列されるものは,周知である。」と認定した点に関し,本件審決が挙げた周知例(甲12ないし14)に記載された技術は,本件発明1の地下貯水槽等に用いる充填部材とは技術的に全く無関係なものであり,たかだか高さ数十cmのもので,単体で独立して使用される靴棚等に関する技術(そもそも当初から一体化して用いることを前提とした物品の技術)と,上下に積み重ねて配列することにより高さ数mにもなる本件発明1の充填部材とを同列に論じることは到底できない,と主張する。
そこで,この主張について以下検討する。
b 甲12には,その記載からして, @ 上下両端部に差込み(嵌合連結部)を備えた支柱(支柱要素)と,上方向から支柱の下端部側の差込み(嵌合連結部)を受けるとともに下方向から支柱の上端部側の差込み(嵌合連結部)を受ける穴(嵌合部)を備える靴台(連結要素)とからなり, A 靴台の穴(嵌合部)に支柱(支柱要素)の差込み(嵌合連結部)を差し込んで嵌合させ,靴台(連結要素)を上下方向に積み重ねて配列する組合せ式の靴棚において, B 靴台(連結要素)の穴(嵌合部)が,支柱(支柱要素)の上端部側の差込み(嵌合連結部)及び下端部側の差込み(嵌合連結部)にそれぞれ嵌合されてその差込み(嵌合連結部)に結合される, という技術的事項が記載されていると認められる。
甲12に記載された上記技術事項は,格別高度な技術内容ではない上に,(靴)棚という日常生活で普通に利用される物品に関するものであるから,一般に周知であるということができる。
確かに,本件発明1の地下貯水槽等に用いる充填部材と靴棚との間には直接の技術的関連性は見出せず,また,本件発明1に係る地下貯水槽等に用いる充填部材が上下に積み重ねて配列することにより高さ数mにもなるのに対して,甲12記載の靴棚はたかだか高さ数十cm程度のものであり単体で独立して使用されるものであるとはいえる。しかしながら,これらの相違は,本件発明1の具体的実施例や甲12の具体的記載事項に基づく相違であり,甲12に接した当業者が,本件審決が認定した程度に抽象化された技術的事項を理解することを妨げるものとはいえず,当該技術的事項が周知技術であるとの認定を左右するものではない。
そして,支柱要素と連結要素からなる物品を,支柱要素と連結要素との嵌合・被嵌合の関係を順次繰り返して上下に積み重ねて配列することに係る甲12の技術的事項を,同じく支柱要素と連結要素からなる甲1記載の埋め戻し用台を充填部材として用いて積み重ねるに当たって採用することに格別の困難性は見出せないから,甲12記載の技術的事項がそもそも当初から一体化して用いることを前提とした物品についてのものであることは,甲12記載の周知技術を甲1記載の埋め戻し用台の積み重ねに採用することを妨げるほどの事情とはいえない。
したがって,甲12等から抽出される上記技術的事項が当業者にとって周知であるとして,これを理由に本件発明1における充填部材を積み重ねる具体的態様の構成が想到容易であるとした本件審決の判断に誤りはない。
イ 原告は,甲1及び甲8の記載から本件発明1の特定構成要件A及びBの構成,即ち,@連結要素を嵌合部が連結部によって連結されたものとする構成,A連結要素の嵌合部を格子状に配列する構成,は容易であるとした本件審決の判断は誤りであると主張するので検討する。
(ア) 連結要素を嵌合部が連結部によって連結された構成とすることについて 甲1においては,支柱が嵌合される対象は「天板」及び「底板」と表記されており,本件発明1のように筒状の嵌合部を連結部で連結した連結要素の構成は直接には開示されていない。しかしながら,以下のとおり,甲1にはかかる連結要素の構成を示唆する記載があるということができるのであって,当業者にとって想到が困難であるとはいえない。
すなわち,甲1では,天板22及び底板24を単なる一枚板ではなく,周縁及び中央に補強リブ26を一体成形した構成とすることが開示されており(3欄47行〜48行),また,補強リブのない領域には,「肉盗み部」としての多数の透孔を配列形成することも開示されている(6欄13行〜14行)。この「肉盗み部」の領域をさらに広げていけば,天板22及び底板24は,結局のところ補強リブだけで構成されることになる。そして,補強リブの各交点に全て接続筒部を設けることによって接続筒部の配列を「格子状」にすることは,後記(イ)において説示するとおり,当業者の容易に想到しうることである。
そうすると,結局のところ,甲1の記載に接した当業者にとって,甲1記載の発明に係る埋め戻し用台の天板22及び底板24を,本件発明1につき本件特許公報(甲10)の図1に記載された連結要素20Aと同じ構成のものとすることには,特段の困難性はないというべきである。
(イ) 嵌合部を格子状に配列することについて 一般に,甲1が開示する埋め戻し用台のように天板,底板及び支柱からなる物品において,支柱の本数を増やすほど上載荷重に対する抵抗力が増すことは,常識に属する事柄である。また,横方向の荷重に対する関係でも,四角形の天板及び底板の四隅に支柱を配するだけではなく,適切な位置に追加の支柱を配することによって,より安定した構造のものとすることは当業者ならずとも容易に思い付く程度の事柄である。例えば,甲1の図6においては,天板22及び底板24の四隅だけでなく中央にも支柱を嵌合するための接続筒部25を設けたものが開示されているが,甲1には,図6において中央に接続筒部25を設けたことの技術的意義について述べた記載は見当たらず,このことは,天板及び底板の大きさ等に応じて支柱の本数を増加させることが,適宜選択すべき設計的事項に過ぎないことを示しているといえる。
そうすると,甲1記載の埋め戻し用台(例えば第1実施例のもの)を充填部材として用いるに当たり,支柱の数をさらに増やすこととし,これに応じて天板及び底板の接続筒部も同数だけ追加することも,単なる設計的事項に過ぎないというべきである。例えば,甲1の図4において,四隅だけではなく,四辺の中央にそれぞれ1個,補強リブ26の交点(正方形の中心部)に1個の接続筒部を追加するという構成も,当然考えられてよいことである。また,同図6の場合でいえば,補強リブ26と各辺の交点及び補強リブ26同士の交点の全てに接続筒部を設けることも考えられる。このように接続筒部を追加して設けるか否かは,充填部材として要求される強度や,加工にかかるコスト等を勘案して当業者が適宜設計すべき事項であることはいうまでもない。そして,このように接続筒部の数を追加すれば,その結果として当然に,接続筒部が「格子状」に配列されることになる。
したがって,本件審決がいうように甲8の記載を参酌するまでもなく,連結要素の嵌合部を格子状に配列する構成を採用することは,甲1の記載に接した当業者にとって容易に想到できることであるというべきである。
ウ 原告は,特定構成要件A及びBを有することによる本件発明1の顕著な作用効果についても主張するが,相違点1に係る本件発明1の構成が当業者にとって容易に想到できるものであることは上記ア及びイに述べたとおりであり,その作用効果も構成から当然に予期できるものであって,本件発明1の進歩性を裏付けるものとはいえない。
原告は,「多数の嵌合部と連結部とを合成樹脂で一体に射出成形することが可能となる」という作用効果も主張するが,甲1にも,「天板22,支柱23及び底板24を再生プラスチック等の安価な材料で形成することができる。」(4欄32行〜34行)と記載されているから,連結要素(天板及び底板)を一体に成形できることも格別の作用効果とはいえない。
エ 以上のとおり,相違点1についての本件審決の認定判断の誤りとして原告が主張するところは,いずれも理由がない。
(2) 取消事由2の主張について ア 原告は,本件発明1は,地下貯水槽や地下貯留浸透層等の水溜め空間に用いられる充填部材に限定されるものであって,甲1の埋め戻し用台とは,その使用目的がそもそも相違するものであるから,甲1記載の発明から本件発明1の構成を想到することは容易ではないと主張する。
しかしながら,甲1記載の発明は,水溜め空間として用いることが主たる目的ではないとはいえ,当該発明に係る埋め戻し用台を使用することによって形成された地中空間に水が溜まることを想定したうえ,水が溜まっても支障がないようにする作用効果も開示されているということができる。
すなわち,甲1には,次のとおりの記載がある。
「埋め戻し用台の支柱間に空間が形成されている。………。しかも,降雨時等に埋め戻し箇所に水が滲み出してきても,その水は埋め戻し用台の支柱間に入り込むため,埋め戻し用台が浮き上がるおそれはない。従って,埋め戻し用台の浮き上がりにより,上面に敷設した土が流れ落ちるのを防止することができる。」(3欄5行〜15行) 確かに,本件発明1が積極的に水を溜めるための空間(地下貯水槽等)を充填するのに対して,甲1記載の発明においては,水が溜まっても支障がないようにするという消極的な作用効果の記載にとどまるとはいえ,両者がいずれも建築の分野に関連した地中空間の充填に関する発明であるという点において技術分野の近接性を有することに照らすと,原告が使用目的の相違として指摘する点は,甲1記載の発明に係る埋め戻し用台の構成を地下貯水槽等の充填部材に適用することの着想を妨げるものとはいえない。
イ 原告は,甲1記載の発明に係る埋め戻し用台が使用される基礎コンクリートの周辺に恒常的に水を導入すると建物の基礎を緩めることになるからそのような使用方法は到底考えられず,当該埋め戻し用台を,恒常的に水を溜める地下貯水槽等に使用することは考えられないとも主張する。しかし,かかる使用目的の相違も,甲1の発明に係る埋め戻し用台の具体的使用態様に基づくものに過ぎず,当業者において,嵌合部を有する平面状部材(天板及び底板)である連結要素と嵌合連結部を有する棒状部材(支柱)である支柱要素とからなり,地中空間の充填に用いられる物品,という程度にまで抽象化されたものとして甲1記載の発明を把握し,これを本件発明1の使用目的である地下貯水槽等に適用することを妨げるものとはいえない。
3 結語 以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 青柳馨
裁判官 上田卓哉