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関連審決 審判1974-4014
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事件 昭和 60年 (行ケ) 235号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1989/04/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
本訴における訴訟費用及び参加によつて生じた訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた判決
一 原告1 特許庁が、同庁昭和四九年審判第四〇一四号事件について、昭和六〇年六〇月二九日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
請求の原因
一 特許庁等における手続の経緯1 原告は、発明の名称を「自動二輪車用燃料タンクの製造方法」とする登録第六六〇八三〇号特許(昭和三九年九月三日出願、昭和四三年三月一一日出願公告、昭和四七年九月三〇日設定登録。以下「本件特許」といい、本件特許にかかる発明を「本件発明」という。)につき、その存続期間が満了するまで特許権者であつた。
2 被告は、原告を被請求人として、昭和四九年五月二七日、本件特許を無効とすることについて審判を請求したところ、特許庁は、右請求を同庁同年審判四〇一四号事件として審理の上、昭和五〇年一一月一〇日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決(以下「第一回審決」という。)をした。
3 被告は、昭和五一年二月一二日、当庁に対し、右審決の取消訴訟を提起し(この訴訟を以下「前訴」という。)、当庁はこれを当庁昭和五一年(行ケ)第一五号事件として審理した上、昭和五九年二月一六日、右審決を取り消す旨の判決(以下「前訴高裁判決」という。)をした。
原告は、同年二月二九日、右判決に対し上告をし、最高裁判所はこれを最高裁判所昭和五九年(行ツ)第五九号事件として審理した上、昭和六〇年四月九日、右上告を棄却する旨の判決(以下「前訴最高裁判決」という。)をした。これにより前訴高裁判決は確定した。
4 そこで特許庁は、前記同庁昭和四九年審判第四〇一四号事件につき、更に審理の上、昭和六〇年一〇月二九日、「特許第六六〇八三〇号発明の特許を無効とする。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同年一二月一一日、原告に送達された。
二 本件発明の要旨 一枚の板材の板面を規準面aとして、圧搾成形により、一側部に段状膨出部4を、かつ上記板材規準面aの開口部周縁に耳部7を有する帽状体1を一体に膨出成形する第一工程と、前記帽状体1を、その段状膨出部4のある部分は、その膨出部の稜(本件特許発明についての特許出願公告公報(甲第二号証)に、「陵」とあるのは「稜」の誤記と認める。)周縁5に沿い、かつその他の部分は開口部周縁の耳部7に沿つて打抜き成形して該帽状体周縁に段部6を有するフランジ3、3’を成形する第二工程と、二ケの上記帽状体1、1のそれぞれの開口部周縁のフランジ3、3(前記特許出願公告公報の特許請求の範囲の欄に「3、3’」とあるのは誤記と認める。)を互いに合掌溶着する第三工程と、該二ケの帽状体のそれぞれの段状部のフランジ3’、3’に逆U字状の内底板2を嵌当溶着せしめる第四工程とよりなるオートバイ用燃料タンクの製造方法。(別紙図面参照)三 本件審決の理由の要点1 本件発明の特許出願から設定登録までの経過は、一項の1に記載のとおりである。
2 本件発明は、前訴高裁判決に記載のとおり、その特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、いずれもその特許出願前に日本国内で頒布された刊行物である、雑誌「モーターサイクリスト」昭和三九年九月号六〇頁(以下「第一引用例」という。)ドイツ特許第七一四八八八号公報(以下「第二引用例という。)及び昭和三七年一〇月二〇日日本塑性加工学会発行「塑性と加工」三巻二一号の七二二頁(以下「第三引用例」という。)に記載された事項に基づいて容易になし得たものであつて、特許法第29条第2項に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきものである。
四 本件審決を取り消すべき事由 本件審決は、その理由として、前記三本件審決の理由の要点2記載のとおり前訴高裁判決の理由を援用するが、同判決の理由は事実の認定を誤つたものであり、この誤つた認定を援用しこれを前提とする本件審決の、「本件発明は、第一引用例、
第二引用例及び第三引用例に各記載の技術に基づいて容易に発明をすることができた。」旨の判断もまた誤りであるから、本件審決は、違法として取り消されなければならない。
即ち、本件審決が援用する前訴高裁判決は、「本件発明の特許出願前の二輪車用燃料タンクの製作にあつても、左右の帽状体は絞り加工によつて成形され、縁部のフランジ工程において、通常、腹部フランジはロール又はプレスにより、また、段部フランジ及び先端フランジは金型とハンマーによる手加工で成形されていたものと認められ、しかも、本件発明の特徴は前叙のとおり右のフランジ工程を簡素容易化するために段絞り加工技術を適用したものであるから、第三引用例に、段絞り加工技術がフランジング工程を容易にすることができる旨の開示がある以上、二輪車用燃料タンクの製造方法に段絞り加工技術を適用することは、当業技術者にとつて容易にしうることとみるべきである。」旨認定判断する(甲第七号証二六枚目表末行から同裏末行まで。)が、右認定判断は誤りである。
第三引用例に、エンジンルームカバー、メータパネル、ホイルハウス等の製造に段絞り加工を適用する例が開示されているとしても、そのことから直ちに、本件発明におけるように段絞り加工技術を自動二輪車用燃料タンクの製造方法に適用することを当業技術者が容易になし得たものということはできない。
1 本件発明は、段絞り造加技術自体に関するものではなく、自動二輪車用燃料タンクの製造方法に関するものである。したがつて、ここでは段絞り加工技術一般の技術水準いかんが問題ではなく、本件特許出願当時における自動二輪車用燃料タンクの製造方法の技術水準いかんが問題であるところ、静岡地方裁判所浜松支部昭和五〇年(ヨ)第二三号仮処分申請事件における証人【A】の証人調書(甲第一四号証はその謄本)の中に、「オートバイ用の燃料タンクについて段絞り加工をした例を見てはいないし、その例も聞いていない。」旨述べられているとおり、本件特許出願前に自動二輪車用燃料タンクの製造に段絞り加工が用いられた例は皆無であつたものであり、当業界においてはそのような着想さえなかった。
けだし、自動二輪車用燃料タンクはガソリンを収容する容器であることはいうまでもないところ、一般に水、空気が漏れない容器であつてもガソリンは浸透力が強くややもすれば漏れを生じる可能性が大であり、しかもこのタンクは通常過熱エンジンの真上に取り付けられるものであつて、ガソリンが少しでも漏れるときは引火の危険があるし、また、乗車時には、運転者がこれを自己の膝ではさむため、衣類にガソリンが浸透し万一転倒した際には過熱エンジンの衝撃から運転者の衣類に引火する危険性があるところから、自動二輪車用燃料タンクは一〇〇%の気密性が要求されるものであるところ、自動二輪車用燃料タンクは全体の形状が複雑な不等形をなし、絞り深さは大きく、かつ形成されるべきフランジの形状自体も複雑であつて、このような形状の物を段絞り加工技術により製造するときは著しくしわが発生し、一〇〇%の気密性あるタンク類を製造することは不可能であると考えられていたからに他ならない。
2 事実、第三引用例に開示されているところは、エンジンルームカバー、メータパネル等のように比較的単純な形状のもののみであつて、しかも、ほとんど直線状のフランジを段絞り加工により形成するということである。
第三引用例の第21図に示されるホイルハウスにしても、そのフランジ面は僅かに凹凸を形成するだけであつて、本件発明における「段部6」を形成し得るようなほとんど垂直方向に屈曲した急激な段状をなしているものではない。この点、前訴高裁判決は同図について、「ハウス外縁に段部を有するフランジを具えたホイルハウスを成形することができる。」と認定しているが、同図のホイルハウスのフランジ面には段部といえるようなものは存在せず、また、ホイルハウスの用途からしても少なくとも自動二輪車用燃料タンクを製造するに必要な程フランジ面に急激な段部の形成を必要とするものでない(右判決の認定は、第21図のホイルハウスのフランジ面の凹凸を本件発明における「段部6」と同視している点において明らかに事実誤認である。)。のみならず、第21図のホイルハウスをはじめ、第三引用例に示される製品はいずれも気密性を何ら要求されないものである。例えば、第21図のホイルハウスはこれを更に半分に分割して使用するものであつて、開放状態において使用されるものである。
3 以上のように、本件特許出願前の段絞り加工に関する一般的な技術水準は、少なくとも自動二輪車用燃料タンクのような複雑な形状、絞り深さ及び一〇〇%の気密性が要求される製品について容易に実施し得るという程度にまでは達していなかつたものである。
このことは、第三引用例の第21図の説明にも、「写真からもわかるように、絞りフランジ部にしわの発生が多く、型具の摩耗が著しい。段絞り半径部も二〜三toではすぐ摩耗してしまう。このような深い絞りでスプリングパツクの防止や、側壁部のそりを防止するには写真に見られる程度の段絞りでは小さいようである。このように絞りが深い部品での段絞り限界はしわ発生と考えられ、段絞りを効果的に使うのはむずかしい。」と記載されているところからも明らかである。
即ち、第三引用例に段絞り加工技術がフランジング工程を容易にすることができる旨の開示があるといつても、これが適用される製品及びフランジ面には限界があることは第三引用例の記載自体が明瞭に認めているところである。してみると、その当時における当業技術者の認識も自ずから右限界内に留まつていたというべきである。
4 したがつて、右限界を超えて当業技術者が第三引用例の記載から自動二輪車用燃料タンクの製造方法に段絞り加工技術を適用することを容易に着想し得たとするにはこれを認定するに足りる別個の証拠を要するというべきところ、前訴高裁判決も本件審決も何らこれを示していない。前訴高裁判決及び本件審決の認定は明らかに飛躍がある。
5 むしろ、当業技術者は、段絞り加工技術の技術水準からして、本件発明の自動二輪車用燃料タンクのような一〇〇%の気密性が要求され、かつ、全体の形状が複雑な不等形をなし、絞り深さは大きく、かつ形成されるべきフランジの形状自体も垂直方向に屈曲した急激な段部を有する等複雑な形状の物を製造することは、段絞り加工技術の限界を起えるもので不可能であると認識していたであろうことを推認させ、当業技術者は、第三引用例の記載から自動二輪車用燃料タンクの製造方法に段絞り加工技術を適用することを容易に着想し得なかつたものと認定することを相当とする証拠として、甲第六号証の二、甲第一三号証の一ないし三、甲第一六号証及び甲第一七号証がある。なお、これらの証拠の内、甲第一三号証の一ないし三、
甲第一六号証及び甲第一七号証は、前訴でも、前訴高裁判決による審決取消後の審判でも提出されていない新たな証拠である。
(一) 第三引用例の直前の頁である甲第六号証の二の七二一頁の右欄の「5、段絞りの限界」から第三引用例の左欄二五行までには、段絞り加工技術は全ての製品及びフランジ面に適用し得るものではなく、その適用には自ずから限界があること、この限界を超えた場合には破断としわの発生が不可避であることが明記されている。
(二) 第三引用例と同じ雑誌の同じ号に登載されている論文である(甲第六号証の一参照。)甲第一五号証(昭和三七年一〇月二〇日日本塑性加工学会発行「塑性と加工」三巻二一号七三八頁以下・【B】・【C】・【D】「自動車ボデー板金部品成形用絞り型のしわ押え面決定法について」)の七三八頁左欄一〇行から一六行までには、段絞り加工技術について成形形状が複雑な面又は輪郭を有する場合には確たる理論的しわ押え面決定法を定めることができないのが現状である旨記載され、この点に段絞り技術の適用限界があることが示されている。そして同所以下に開示されている筆者等が設計製作した型の形状は全て開放状態において使用されるもののみであつて、気密性を要求される製品については全く開示されていない。
(三) 甲第一七号証は、被告補助参加人(以下、単に「補助参加人」という。)とその関連会社である訴外ホンダエンジニアリング株式会社との共同出願にかかる「オートバイ用燃料タンクの製造方法」に関する特許発明を記載した特公昭五三-一五九八二号特許出願公告公報(同公報に記載された右特許発明を以下「補助参加人発明」という。)であるが、右公報には、「従来この種タンクの製造方法における帽状体の成形に当たつては、一度の圧搾成形により最終絞りまで加工しているため必然的に板材は深絞り加工となり、その際のしわの発生を防止する意味で一般に引張り力を大きくして成形するので、曲面の折り曲げ稜線に当たる部分が局部的に伸ばされてタンクのアクセントがぼけてしまい、さらにダイス肩の板金に対する初期曲げがクツシヨン圧を一定にして下死点まで成形するのでシヨツクライン(デフオーム)が生ずる不都合があつた」(甲第一七号証一枚目1欄三五行から2欄七行まで。)と述べられている。右特許出願は本件特許出願より一〇年遅れてされたものであるが、それでもなおオートバイ用燃料タンクのような複雑な形状の物を段絞り加工技術により製造する場合には、著しく、しわ及び破断が発生することが指摘されている。
更に、右公報は本件発明に触れ(甲第一七号証一枚目2欄七行から八行にかけて「特公昭四三-五四九一号」とあるが、右は「特公昭四三-六四九一号」の誤記である。)、補助参加人発明が本件発明の改良発明である旨が述べられており、事実本件発明と補助参加人発明とは、本件発明が帽状体の一側部に段状膨出部を成形させるのに対し、補助参加人発明は帽状体の上半分を一側耳部で引張曲げ成形により他側耳部との間に段状の下部耳部を有する帽状体の下半分を成形する点が相違するのみで、他は同一であるところ、第三引用例に、エンジンルームカバー、メータパネル、ホイルハウス等の製造に段絞り加工技術を適用する例が開示されていることから直ちに本件発明におけるように段絞り加工技術を自動二輪車用燃料タンクの製造方法に適用することを当業技術者が容易になし得たものといい得るのであれば、
補助参加人発明もまた容易推考の域を出ないといわざるを得ないであろう。
補助参加人発明の特許出願日は本件発明の特許出願日より一〇年も遅れていることを考慮すればなおさらである。それにもかかわらず、補助参加人が補助参加人発明について特許出願をしたということは、補助参加人自身が、段絞り加工技術を自動車用燃料タンクの製造方法に適用するのが当業技術者にとつて必ずしも容易でないと考えていたことを端的に示すものである。
被告及び補助参加人の、請求の原因に対する認否及び主張
一 請求の原因一ないし三の事実は認めるが、同四の主張は争う。
本件審決の認定判断は、以下二ないし八に主張するとおり正当であり、原告主張のような違法事由はない。
二 前訴高裁判決の拘束力又は実質的確定力による本件審決の適法性 本件訴訟に至る経緯は、前記請求の原因一2ないし4のとおりである。
以下三ないし七に詳細に主張するとおり、本件審決は、前訴高裁判決に示されたところに従つてされたものであるから、行政事件訴訟法第33条第1項の規定による、前訴高裁判決の裁判官に対する拘束力及び確定判決の実質的確定力のいずれの点からみても、何らの違法事由はなく、制度上取り消される筋合いのものではない。前訴高裁判決に示されたところに反する原告の審決取消事由の主張は、本訴における審査の対象として取り上げることはできない。本訴において原告が主張する審決取消事由はいずれも前訴高裁判決に示されたところに反するから、主張自体理由がないものとして退けられるべきである。
三 第一回審決及び前訴の経緯1 本件審判手続において、被告が無効審判請求人として主張し、審理の対象とされた本件特許の無効事由の要点は、「本件発明は、オートバイ用燃料タンクの製造方法であり、その特許請求の範囲に記載されたとおりの四つの工程からなるものであるが、その特徴は、第一工程及び第二工程にあるところ、右第一工程及び第二工程の各技術は第三引用例の記載に基づいて当業者が容易に推考し得たものであり、
右第三工程及び第四工程も第一引用例及び第二引用例により公知のことであるから、本件発明は第三引用例の記載に基づいて容易に推考できた。」旨のものであつた。
第一回審決は、「本件審判の請求は成り立たない。」旨判断したことは、請求の原因一2のとおりである。
2 前訴において、原告であつた本訴被告が、第一回審決の認定判断の誤りとして主張した主な点は、次の二点であつた。
即ち、本件発明の重要な特徴は、第一工程及び第二工程にあるところ(一) 第一回審決は、第三引用例には、「本件発明の特徴である板面を圧搾成形により、耳部以外の部分に段状膨出部を成形し、その膨出部の稜周縁に沿う打抜きと耳部に沿う打抜きとにより段部を有するフランジを成形する点については示されていないし、それを示唆する記載もない」から、本件発明は第三引用例の記載から容易に推考できない旨認定判断したが、右認定判断は誤りである。
(二) 第一回審決は、第一引用例及び第二引用例について、「本件発明のオートバイ用の燃料タンクの製造方法については全く記載がなく、また、それを示唆する記載もない」と認定判断したが、この認定判断は誤りである。
3 前訴高裁判決は、本訴被告の主張をいずれも認め、第一回審決を取り消す旨の判決をしたが、その理由は次のとおりであつた。
(一) 右2(一)の主張について(1) 第三引用例の第21図及びその説明には、「一枚の板材の板面を規準面として、圧搾成形により、側部に段状膨出部を、かつ、上記板材規準面の開口部周縁に耳部を有する帽状体を一体に膨出成形する」本件発明の第一工程の技術は、開示されているものとみることができる。また、前記認定のとおり、第21図の説明文のなかに、「フランジ部の成形を段絞り部分で行うもので、複雑な形状のフランジ面も比較的簡単に成形することができる。」と記載されていることからして、「帽状体の段状帽出部のある部分は、その帽出部の稜周縁に沿つて打抜いて帽状体周縁に段部を有するフランジを成形する点」(第二工程の前段)は当然の前提として示唆されているものである。
ところで、本件発明の第二工程の後段にある「帽状体の耳部に沿つて打抜きしてフランジを成形する点」については、第三引用例には直接これを示唆する記載はないが、成立に争いのない甲第一一号証(本訴の甲第八号証)、第一六号証(本訴の甲第九号証)、第二三号証の一ないし三(本訴の甲第一〇号証の一ないし三)及び弁論の全趣旨によれば、一般の絞り加工において、成形品と一体にしわ押え面を成形し、絞り加工を行つた後に、そのしわ押え面を成形品のフランジとして利用することは、本件発明の特許出願前に普通に行われている慣用手段であつたことが認められるから、第三引用例の記載及び前記慣用手段によれば、本件発明の第一工程で製作された帽状体を、その段状膨出部のある部分はその膨出部の稜周縁に沿って、
その他の部分は開口部周縁の耳部(しわ押え面)に沿つて打抜き、帽状体周縁に段部を有するフランジを形成すること(第二工程)は、当業者が容易に推考しうる程度のこととみるべきである。
右のとおりであるから、審決(第一回審決)が第三引用例には、本件発明の第一工程及び第二工程についてこれを示唆する記載がないとしたのは誤りである。(前訴高裁判決の判決書(本訴の甲第七号証)二四枚目裏六行から二六枚目表二行まで。)(2) 被告(本訴原告)は、本件発明の特許出願当時においては、自動二輪車用燃料タンクの製造方法に関して、段絞り加工によつて製作した実例はなかつたから、段絞り加工技術を本件発明のようなオートバイ用燃料タンクの製造方法に適用することは、当業者が容易にしうることではないと主張する。
しかしながら、成立に争いのない乙第一号証(本訴甲第一号証)によれば、本件発明の特許出願前の二輪車用燃料タンクの制作にあつても、左右の帽状体は絞り加工によつて成形され、縁部のフランジ工程において、通常、腹部フランジはロールまたはプレスにより、また、段部フランジ及び先端フランジは金型とハンマーによる手加工で成形されていたものと認められ、しかも、本件発明の特徴は前叙のとおり、右のフランジ工程を簡素容易化するために段絞り加工技術を適用したものであるから、第三引用例に、段絞り加工技術がフランジング工程を容易にすることができる旨の開示がある以上、二輪車用燃料タンクの製造方法に段絞り加工技術を適用することは、当業者にとつて容易にしうることとみるべきであり、この点の被告(本訴原告)の主張は採用できない。(甲第七号証二六枚目表三行から同裏末行まで。)(二) 右2(二)の主張について 第二引用例には、本件発明における「二個の帽状体のそれぞれの開口部周縁のフランジを互いに合掌溶着する」第三工程と「該二個の帽状体のそれぞれの段状部のフランジに逆U字状の内底板を嵌当溶着せしめる」第四工程は十分示唆されているとみるべきである。
したがつて、「第二引用例には本件発明のオートバイ用燃料タンクの製造方法について全く記載がなく、また、それを示唆する記載もない」とした審決の認定は誤りというべきである。(甲第七号証二八枚目表八行から同裏五行まで。)(三) 結論 本件発明はその特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、第一引用例ないし第三引用例に記載された事項に基づいて容易に推考し得たものとはいえないとした審決(第一回審決)の判断は、誤りであり、審決は違法として取消を免れない。(甲第七号証二八枚目裏七行から同末行まで。)4 原告(前訴被告)は、前訴高裁判決に対し上告し、上告理由として、前訴高裁判決は、第一に、経験則及び技術常識に違背して、第三引用例に関する技術内容の認定を誤つた違法があること、第二に、本件発明の特許出願時における段絞り加工技術水準を誤認し、二輪用燃料タンクの製造方法に段絞り加工技術を適用することの容易推考性の有無の判断を誤つた違法がある旨主張した。
しかし、最高裁判所は、裁判官全員一致の意見で原告(前訴被告)の上告を棄却したが、その理由は、「所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。」というものであつた。右上告棄却の判決によつて、前訴高裁判決は確定した。
5 本訴の書証と前訴の書証との対応関係は、別紙書証対照表のとおりである。
四 本件審決の経緯及び内容 前訴高裁判決の確定後の特許庁における審判手続においては、新たな主張及び証拠の提出がなく、請求の原因三記載のとおりの理由により、「本件特許を無効とする。」旨の審決がされた。
五 前訴高裁判決の拘束力 前訴高裁判決の確定により、同判決は、特許法第181条第2項の規定によりさらに審判請求について審理を行い審決をする特許庁の審判官に対し、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により拘束力を有するものである。即ち、審判官は、前訴高裁判決の趣旨に反する処分を行うことが許されず、判決に示された理由、個々の具体的な違法事由にかかる判断に拘束されることになる。これは、特許庁と裁判所との間における同じ紛争の繰り返しを防止し、同時に当事者間に法的安定性をもたらすために、法が認めた拘束力であるが、審決等に対する訴訟制度の存在目的上、
不可欠の効力といえる。
本件審決は、請求の原因三記載のとおり、「本件発明は、前訴高裁判決に記載のとおり、その特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、いずれもその特許出願前に日本国内で頒布された刊行物である、第一引用例、第二引用例及び第三引用例に記載された事項に基づいて容易になし得たものである。」旨の理由により、本件発明の特許を無効としたものであり、前訴高裁判決によつて拘束された枠内での判断をしたものである。したがつて、本件審決は法律の要求に適つたものであり、何らの違法事由もない。
本訴において、原告が本件審決の取消事由として主張していることは、本件審決が引用した前訴高裁判決の理由中、右二3(一)(2)記載の部分の認定に誤りがある旨及び「本件特許出願前の段絞り加工に関する一般的な技術水準は、少なくとも自動二輪車用燃料タンクのような複雑な形状、絞り深さ及び一〇〇%の気密性が要求される製品について容易に実施し得るという程度にまで達していなかつたものであり、この限界を超えて当業技術者が第三引用例の記載から自動二輪車用燃料タンクの製造方法に段絞り加工技術を適用することを容易に着想し得たとする認定は論理の飛躍であり、容易に着想できなかつたと認定するのが相当である。」旨に尽きる。しかし、右は確定判決の行政庁に対する拘束力の枠内で行政庁が行つた判断を違法であるとする主張であつて、行政庁に対し不能を強いるものであり、主張することができないものである。
原告の主張するとろは、前訴高裁判決において無効理由とすべきことを命じられた第三引用例に関する主張であるから、遮断効により主張自体理由がない。
六 確定判決の実質的確定力 第一回審決と本件審決とは、審決としては別個のものである。しかし、その審理の対象は、実質的に同一であつて、ともに、本件特許権に関し、既に述べたとおりの具体的な主張と証拠に裏付けられた特許法第29条第2項に基づく無効事由の存否を審理するものである。言い換えるならば、前訴高裁判決がその違法性について判断を求められた第一回審決も、本件訴訟において裁判所が違法性の判断を求められている本件審決も、実質的には同一の事件を審理の対象とするものであり、しかも、本件審決は前訴高裁判決の趣旨に沿うものであつた。したがつて、いま、もし本件審決に対して高等裁判所が前訴高裁判決と異なる判断を下し、本件審決を取り消すならば、同一の事件につき二つの矛盾した判決が生じることになる。しかし、
このような裁判における矛盾並びに法的不安定の発生は、いわゆる裁判の実質的確定力により防止されている。
七 結論 以上の次第であるから、審判官に対する前訴高裁判決の拘束力及び確定判決の実質的確定力のいずれの点からみても、本件審決には何らの違法事由はなく、前訴高裁判決に示されたところに反する原告の審決取消事由の主張は、主張自体理由がないものとして退けられるべきである。
八 原告が本件訴訟で新たに提出した、本件特許の出願当時における自動二輪車用燃料タンクの製造方法の技術水準についての証拠について 原告が本件訴訟で新たな証拠を提出することができるとしても、原告が新たに提出した甲第一三号証の一ないし三、甲第一六号証、甲第一七号証を見ても、本件審決には何ら違法はない。
1 甲第一三号証の一ないし三は自動二輪車用燃料タンクの帽状体及び均等形容器の見本写真であるが、本件審決の判断を左右する証拠ではない。
2 甲第一六号証は、段絞り加工の限界について一般論を要約するに過ぎない上、
添付された資料(1)は前訴事件の甲第三二号証の二であり、資料(2)は、本件特許発明の出願日からはるか後である昭和四六年三月一日発行にかかる文献であり、本件特許の出願当時の技術水準を示すに足りる証拠でないことは明瞭である。
3 甲第一七号証一枚目2欄七行から八行にかけて「特公昭四三-五四九一号」とあるのは、「特公昭四三-六四九一号」の誤記であることは認める。
第三引用例には、もともと絞りフランジ部にしわの発生が多いこと等の問題が記載されているところ、本件発明の特許明細書を仔細に検討しても第一工程ないし第四工程によつては、気密性の確保あるいは、しわ及び破断の発生の防止などの特別の手段は全く開示されていない。つまり、原告の本件発明は、しわの発生防止や、
そのことから発生する問題を一切解決することなく、さらに甲第一七号証記載の発明が課題とするデフオームの問題などについても一切開示するところがない。してみれば、原告の本件発明は、第三引用例に記載された段絞り加工技術を二輪車用燃料タンクに適用したにすぎないのであつて、ただこれだけのことであるならば、当業技術者にとつて容易になし得ることである。
被告及び補助参加人の、前訴高裁判決の拘束力及び実質的確定力についての
主張に対する原告の認否反論一 前記第三、二の主張中、本件訴訟に至る経緯が、前記請求の原因一の2ないし4のとおりであることは認めるが、その余の主張は争う。
二 前記第三の三及び四の主張は認める。
三 前記第三の五、六及び七の主張は争う。
一般に、審決取消判決の拘束力に基づき、その判決に示されたと同一の理由によりなされた審決の判断が、そのことの故にいかなる場合にも当然に違法事由はないとすることはできない。
このことは、例えば、判決後になされた訂正審判の請求により、無効審決の後その確定前に「特許請求の範囲」の記載が訂正された場合を想定すれば明らかであろう。この場合には右無効審決は、当該特許発明の要旨認定を誤つた違法があるものとして取り消されることになる。審決取消判決の拘束力といつても、この場合には、遡つて当該判決自体が要旨に関する事実誤認という違法性を具備するに至り、
もはや審決の正当性を支持する根拠たり得ないものとなるというべきであろう。
同様に、本件審決についてもこれを拘束する前訴高裁判決の事実認定に誤りがある場合には、前訴高裁判決はもはや本件審決の正当性を支持する根拠たり得ず、本件審決も前訴高裁判決の拘束力を理由にその適法性を維持することはできないものというべきである。なるほど、前訴高裁判決の事実認定は上告審たる前訴最高裁判決において是認されており、我が国の裁判制度上、最高裁が是認する限度においてこの認定を争うことはできないといえるとしても、被告及び補助参加人の引用するとおり、前訴最高裁判決は、「原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ」るというものであり、前訴最高裁判決による原審の認定判断の是認も、「原判決挙示の証拠関係」の限度に留まるものに他ならない。
してみると、当該事件が、その最高裁判決によつて最終的に終結する場合は別として、その後、当該事件において原判決に挙示されない新たな証拠を提出し得る余地がある場合には、右新証拠により、又は従前の証拠とこれを併せ斟酌することにより、審決を取り消した高裁判決と異なる認定に至ることも許容されるというべきである。
しかして、本件においては、事件は前訴最高裁判決によつて終結するものではなく、審判官はさらに審理を行うべきものであるから(特許法第181条第2項)、
特許庁における右審理の経過においても、又右審理の結果なされた審決の取消訴訟である本件訴訟の過程においても、このような新たな証拠は随時提出し得るものである。この新証拠により、前訴高裁判決と異なる認定をすることが相当とされるならば、前訴高裁判決は事実認定を誤るものとして、本件審決の正当性を支持する根拠たり得ず、その結果本件審決も事実誤認という違法事由を具備することになる。
被告及び補助参加人は本件審決が取り消されるならば、同一の事件につき二つの矛盾した判決が生じることになると主張するが、この場合、同一の証拠から異なる認定をするものではなく、異なる証拠から異なる認定をするものであるから、両判決の間には、何ら矛盾はない。
四 前記第三の八の主張は争う。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 原告主張の本件審決を取り消すべき事由について判断するに先立ち、被告及び補助参加人主張の前訴高裁判決の拘束力の主張について判断する。
1 請求の原因一の2ないし4の本件訴訟に至る経緯、被告及び補助参加人の、請求の原因に対する認否及び主張三(第一回審決及び前訴の経緯)並びに同四(本件審決の経緯及び内容)は、当事者間に争いがない。
2 特許を無効にすることについての審判請求の審決に対する取消訴訟は、当事者訴訟であつて、行政事件訴訟法第41条第1項の規定により、同法第33条第1項の「処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、当事者たる行政庁その他の関係行政庁を拘束する。」との規定が準用されるものである。したがつて、特許を無効にすることについての審判請求の審決に対する取消訴訟において、審決を取り消す判決が確定したとき、特許法第181条第2項の規定によりさらに審理を行い、審決(以下「第二回審決」という。)をする審判官の合議体は、関係行政庁として、当該審決を取り消した判決に拘束される。
右の拘束力は、確定した判決によつて取り消された審決がされた審判手続において及び右審決の取消訴訟において、各取り調べられた証拠と同じ証拠に基づいて、
右判決により違法と判断された審決の理由と同じ理由により、取り消された審決と同じ結論の第二回審決をすることを禁ずるものである。したがつて、第二回審決が、判決の拘束力に反する判断をした場合には、そのこと自体により第二回審決は違法であり、取消事由があることになる。
もつとも、審決を取り消した判決の確定後さらに審理が行われる審判手続において、(一)取り消された審決とは異なる理由で同じ結論の第二回審決をすることはもとより、(二)取り消された審決がされた審判手続及び右審決の取消訴訟において取調べられておらず、かつ、右審決を取り消した判決の事実についての認定判断を覆すに足りる証明力を有するという意味において実質的に新たな証拠が提出された結果、取り消された審決の事実認定と異なる事実認定又は同じ事実認定に基づいて、取り消された審決と同じ理由で同じ結論の第二回審決をすることも、右の拘束力に反するものではない。
これに対し、審決を取り消した判決の確定後の審判手続において、新たな主張、
立証のないままに、第二回審決が、判決の拘束力に従つた判断をした場合には、そのことにより第二回審決は適法であり、これに不服の当事者は、後記の場合を除き、原則として、拘束力に従つた第二回審決の認定判断の誤りを第二回審決の取消事由として主張することはできず、右のような主張は取消事由の主張としてはそれ自体失当となるものと解するのが相当である。けだし、その場合の第二回審決は、
法律の定める判決の判断の趣旨に従うべき義務に従つてされたものであり、また、
右のような取消事由の主張を許し、第二回審決の取消訴訟において裁判所が前訴裁判所の判断と異なる判断をする可能性を認めることは、取消判決の実効性を確保しようとする拘束力の制度の趣旨に反する結果となるからである。
もつとも、判決の拘束力に従つた第二回審決の取消訴訟において、審決取消訴訟の審理範囲内の主張立証として許される限度内で、第二回審決の認定判断の違法性を裏付ける前記の意味で実質的に新しい証拠を提出し、これに基づき第二回審決の認定判断の違法性を主張すること及び裁判所が右主張立証に基づいて第二回審決の認定判断を違法と判断することは、いずれも、審決を取り消した判決の拘束力の制度の趣旨に反するものではないと解するのが相当である。
けだし、審決を取り消した判決の確定後の審判手続において、実質的に新たな証拠が提出された結果、取り消された審決の事実認定と異なる事実認定又は同じ事実認定に基づいて、取り消された審決と同じ理由で同じ結論の第二回審決をすることが、拘束力に反するものではない以上、判決の拘束力に従つた第二回審決の取消訴訟において、審決取消訴訟の審理範囲内の主張立証としての制限以上に、第二回審決の認定判断の違法性を裏付ける実質的に新しい主張立証を制限する理由はないからである。
3(一) 本件の場合、前記のとおり当事者間に争いがない被告及び補助参加人の、請求の原因に対する認否及び主張四の事実並びに請求の原因三の事実によれば、前訴高裁判決の確定後の審判手続では、新たな主張及び新たな証拠の提出がないままに、本件審決は、その理由中で前訴高裁判決を引用して、本件発明の特許を無効とすべきである旨判断したものであるから、本件審決は前訴高裁判決の拘束力に従つたものであることは明らかである。
(二) そして、成立に争いのない甲第七号証(前訴高裁判決正本)、前記のとおり当事者間に争いがない被告及び補助参加人の、請求の原因に対する認否及び主張三の事実並びに本件訴訟における原告の主張自体によれば、原告が本件審決の取消事由として主張するところは、本件審決が引用した前訴高裁判決の理由、特に被告及び補助参加人の請求の原因に対する認否及び主張三3(一)の(2)に記載の部分が、事実の認定を誤つたというものであることが明らかである(三)(1) 即ち、原告が請求の原因四の1で主張するところは、前訴において主張した同旨の主張(甲第七号証一五枚目裏八行から一六枚目裏一〇行まで)を排斥した前訴高裁判決の理由中、前記の被告及び補助参加人の請求の原因に対する認否及び主張三3(一)の(2)に記載の部分の認定判断を、前訴で提出されていた書証(甲第一四号証、前訴甲第二一〇号証)に基づいて誤りであるとするものである。
(2) また、原告が請求の原因四の2ないし4で主張するところも、前訴で書証として提出されていた第三引用例(甲第六号証の三、前訴甲第五号証の三)の記載に基づいて、前訴高裁判決の前記部分の認定判断を争うものにすぎない。
(3) 原告が請求の原因四の5で主張するところは、前訴で書証として提出されていた甲第六号証の二(前訴甲第五号証の二)及び甲第一五号証(前訴甲第三三号証の三)並びに本件訴訟で新たに提出された甲第一三号証の一ないし三、甲第一六号証及び甲第一七号証の記載に基づいて、前訴高裁判決の前記部分の認定判断を争うものである。
(四)(1) ところで、撮影対象、撮影時期及び撮影者について当事者間に争いがない甲第一三号証の三及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、甲第一三号証の一、
二は自動二輪車用燃料タンクの帽状体の見本を撮影した写真であり、甲第一三号証の三は、均等形容器を撮影した写真であることが認めらられる。しかし、甲第一三号証の一、二に撮影された右帽状体見本には本件発明における段状膨出部に相当する段部が形成されているものであることが認められるが、右帽状体の形状は、前訴において甲第二号証として提出された本訴甲第二号証中の図面に示された本件発明の実施例の段状膨出部を含む帽状体の形状と実質的な差異はないから、甲第一三号証の一、二は、原告が請求の原因四において主張する取消事由に関する前訴高裁判決の事実についての認定判断を覆すに足りる証明力を有するという意味において、
実質的に新たな証拠とはいえない。甲第一三号証の三もまた実質的に新たな証拠とは認められない。
(2) また、成立の争いのない甲第一五号証、甲第一六号証及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、甲第一六号証は、元東京学芸大学教授、工学博士【E】作成の「段絞りの限界についての一考察」と題する文書で、本文三頁に、資料1(甲第六号証の二の七二一頁及び甲第六号証の三)及び資料2(昭和四六年三月一日日刊工業新聞社発行・プレス技術一九七一年三月号特集I二頁以下・【F】「成形による変形状態と不良発生」)が添付されたものであること、本文の内容は、冒頭に「段絞りの結果、被成形品の一部に破断を生じたり、また、しわが出来たりして製品として好ましくない状態を呈するときが段絞り加工の限界とされている。」と記載し、次に(1)の項でしわの発生原因について、(2)の項で破断の発生原因についてそれぞれ簡単に説明した後、(3)の項で、「従つて、しわも、破断も生ずることなく段絞り加工を行うことができる成形品は、上記限界内にある限られた形状、板厚等によるものと考えられるものであり、成形加工技術にあつては開示技術をそのまま用いてもたやすく同じ結果が得られるものではなく、予測出来ない困難性がある。」とするものであること、右冒頭部分は、前記資料1の一部と同旨であり、(1)の項は、全部資料1又は資料2の各一部と同旨であり、(2)の項は、
一部が資料1と同旨であり、他の一部が甲第一五号証と同旨であり、その他の内一部は資料1を引用したことを示す趣旨と解される表示があるが、資料1の該当場所には相当する記載がないことが認められる。
しかし、甲第一六号証の作成者である【E】の専攻、研究業績、同号証作成の時期及びその目的、同号証の記載内容が、添付資料や甲第一五号証に基づくものか、
他の文献に基づくものか、自己の実験、施工の経験に基づくものか等、甲第一六号証の証明力を判断するための必要な事項を認めるに足りる証拠はなく、同号証の内容についても、(3)の項の「開示技術」とは何を指すのか、例えば、前訴高裁判決が第三引用例に開示されていると認定した技術を指すのか、段絞り加工技術について技術文献に開示されている技術を指すのか、あるいはそれ以外の技術を指すのか、「成形加工技術にあつては開示技術をそのまま用いてもたやすく同じ結果が得られるものではなく、予測出来ない困難性がある。」とはどんな意味か等を明らかにする証拠もないので、甲第一六号証は、もつて直ちに前訴高裁判決の事実についての認定判断を覆えすに足りる証明力を有する実質的に新たな資料とはなし難い。
(3) 次に、成立に争いのない甲第一七号証によれば、同号証は、昭和四九年一二月二五日出願にかかる補助参加人発明の特公昭五三-一五九八二号特許出願公告公報であること、右公報には、「従来この種のタンクの製造方法における帽状体の成形に当たつては、一度の圧搾成形により最終絞りまで加工しているため必然的に板材は深絞り加工となり、その際の皺の発生を防止する意味で一般に引張り力を大きくして成形するので、曲面の折り曲げ稜線(「陵線」とあるのは誤記と認める。
同号証につき以下同じ。)に当たる部分が局部的に伸ばされてタンクのアクセントポイントがぼけてしまい、さらにダイス肩の板金に対する初期曲げがクツシヨン圧を一定にして下死点まで成形するのでシヨツクライン(デフオーム)が生ずる不都合があつた。」との記載(同号証一枚目一欄三五行から二欄七行まで)、それに続いて、本件発明のように(同号証一枚目二欄七行から八行にかけて「特公昭四三-五四九一号」とあるのは「特公昭四三-六四九一号」即ち本件発明の出願公告番号を記載すべきところを誤記したものであることは、当事者間に争いがない。)「帽状体の一側部に段状膨出部を成形させるものでも上述のものと同様のタンクのアクセントポイントを形成する曲面の折曲げ稜線がぼけてしまうこと、段状膨出部と他側の段状膨出部のない部分との引張力を均合させるために広い巾の絞りフランジを必要とするうえ、皺の発生することも多く材料歩留が悪く作業能率を低下させると共にタンクのデザイン上好ましくない等の不都合が存した。」旨の記載(同号証一枚目二欄七行から一六行まで)、また、これに続いて、補助参加人発明がかかる不都合を改良するためになされたものである旨の記載(同号証一枚目二欄一七行から一八行まで)があること、更に、特許請求の範囲の欄において、「第一工程において、一枚の板材の板面を規準面として圧搾成形により規準面の開口部周縁に耳部を有する帽状体の上半部を一体に膨出成形し、第二工程において、該帽状体の上半部を一側耳部で引張曲げ成形により他側耳部との間に段状の下部耳部を有する帽状体の下半分を成形し、第三工程において、該帽状体を上下の耳部に沿つて打ち抜き成形して帽状体周縁に段部を有する互いに連続した上下フランジを成形するものである。」旨の記載(同号証一枚目一欄二二行から三〇行まで)があることが認められる。
右認定事実によれば、甲第一七号証には、段絞り加工技術について、本件発明のように、段絞り加工技術により帽状体の一側部に段状膨出部を成形させるものでは、広い巾の絞りフランジを必要とするうえ、皺の発生することも多く材料歩留が悪く作業能率を低下させると共にタンクのデザイン上好ましくない等の不都合が存したこと、補助参加人発明は、かかる不都合を改良するためになされたもので、前記一ないし第三の工程によって帽状体を製造することを特徴とするのであつて、段絞り加工技術による成形についてのものでないことが明らかにされている。
なお、前記甲第一七号証一枚目一欄三五行から二欄七行までの、「従来この種タンクの製造方法における帽状体の成形に当たつて」の技術の記載は、その記載の趣旨に照らし、段絞り加工技術による成形についての記載と解することはできない。
右認定事実によれば、甲第一七号証には、本件特許出願より約一〇年遅れてされた補助参加人発明の明細書においても、本件特許発明のように段絞り加工技術によりオートバイ用燃料タンクを製造する場合には、しわが発生することが多いことを指摘する記載があるが、このような記載は、絞りが深い部品での段絞り限界はしわ発生と考えられ、段絞りを効果的に使うのはむずかしいとの記載がある第三引用例(甲第六号証の三)や、前掲甲第六号証の二の証明力を特に強化するものではない。
更に、補助参加人が、補助参加人発明について特許出願したことをもつて、補助参加人自身が、段絞り加工技術を自動車用燃料タンクの製造方法に適用するのが当業技術者にとつて必ずしも容易でないと考えていたことを示すものと解することも相当でない。
よつて、甲第一七号証も前記の趣旨において、実質的に新たな証拠ということはできない。
(4) 以上のとおり、原告が本件訴訟で提出した証拠は、いずれも前記の意味で実質的に新たな証拠とはいえない。
(五) 右(二)ないし(四)のとおり、原告が本件審決の取消事由として主張するところは、結局、前訴においてした主張と同旨の主張を繰り返し、前訴で既に取り調べられた証拠及び本訴において初めて提出されたものではあるが実質的に新たな証拠とはいえない証拠に基づいて、前訴高裁判決の拘束力に従つた本件審決の認定判断の違法性を主張しているものに過ぎず、いずれも主張することが許されない、それ自体失当のものである。
三 よつて、その余の主張について判断するまでもなく、その主張の点に判断を誤った違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条第94条後段を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 秋吉稔弘
裁判官 西田美昭
裁判官 木下順太郎
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