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関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  着想 /  参酌 /  均等 /  置換 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  侵害 /  実施料 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 63年 (ワ) 4754号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1991/03/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
一 被告は、別紙イ号方法目録記載の方法を使用して自動車用タイヤの滑止具を製造、販売してはならない。
二 被告は、別紙イ号方法目録記載の方法を使用して製造された自動車用タイヤの滑止具を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金三六〇〇万円(昭和六二年八月一日から昭和六三年二月末日までの間の実施料相当損害金)及びこれに対する昭和六三年六月三日(訴状送達の翌日)から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
一(争いのない事実)1 原告の特許権(一) 原告は、左記の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
(1) 発明の名称 自動車用タイヤの滑止具製造方法(2) 特許番号 第一二三九一六〇号(3) 出願日 昭和五五年六月二〇日(4) 出願番号 昭和五七年第一九一七一四号(5) 出願公告日 昭和五八年一一月四日(6) 出願公告番号 昭和五八年第四九三六六号(7) 設定登録日 昭和五九年一一年一三日(8) 特許請求の範囲「プレス型表面に斜交差状の網目形成用凹溝を穿設し、この凹溝内に、可塑性被覆材を被覆せしめた紐状芯材を張り廻らして、プレス型内で網目を形成し、次にこれをプレス成形で一体に形成してなる自動車タイヤの滑止具製造方法。」(なお、本件特許出願の願書に添付した明細書及び図面(以下「本件明細書」という。)の記載は、別添特許公報のとおりである。)2 本件発明の構成要件 本件発明の構成要件は次のとおりである。
(一) プレス型表面に斜交差状の網目形成用凹溝を穿設する。
(二) この凹溝内に、可塑性被覆材を被覆せしめた紐状芯材を張り廻らして、プレス型内で網目を形成する。
(三) 次にこれをプレス成形で一体に形成する。
(四) 自動車タイヤの滑止具製造方法3 本件発明の作用効果 本件発明は右構成を採ることにより次のとおりの作用効果を奏する。
(一) 従来方法のように芯材を網目状に編む必要がないし、また網目が正確にできないため型にはめ込み難いなどの欠陥を除去できる。
(二) プレス成形で所定の形状に一度で成形できる。
(三) 芯材へのゴム等の被覆量が一定となり、生産性もすこぶる良い。
(四) 従来方法に比べ、製造が極めて簡単であるし、その作業性もすこぶる良く低原価で製造でき、しかも品質一定の滑止具を得ることができる。
4 被告は、別紙イ号方法目録記載の製造方法(以下「イ号方法」という。)を用いて自動車用タイヤの滑止具を製造、販売している。
5 イ号方法との対比 イ号方法も、プレス型表面に斜交差状の凹溝を穿設し、この凹溝内に、可塑性被覆材である未加硫ゴムを被覆せしめたナイロン系の紐状芯材(以下「被覆紐状芯材」という。)をはめ込み、次にこれをプレス成形で一体に成形(加硫)する、自動車用タイヤの滑止具製造方法である点においては、本件発明と同じである。
二(争点) 本件における主たる争点は、イ号方法におけるプレス型表面の凹溝aが本件発明の構成要件(一)の「網目形成用凹溝」に該当し、あらかじめこの凹溝に相当する目孔をプレス型外で形成した被覆紐状芯材(以下「半製品」という。)をこの凹溝にはめ込むことが、本件発明の構成要件(二)の「この凹溝内に、可塑性被覆材を被覆せしめた紐状芯材を張り廻らして、プレス型内で網目を形成する」ことに該当するか否かである。右争点に関する当事者の主張は次のとおり。
1(原告の主張) イ号方法が、
(1) プレス型表面に斜交差状の網目形成用凹溝を穿設し、
(2) この凹溝内に、被覆紐状芯材を張り廻らして、プレス型内で網目を形成していること、したがって、イ号方法が本件発明の構成要件を全部充足することは、
以下に述べるように明らかである。
(一) イ号方法において、特許請求の範囲にいう「網目を形成しているのはあくまでプレス型内である。
特許請求の範囲には、「プレス型表面に斜交差状の網目形成用凹溝を穿設し」との記載及び「プレス型内で網目を形成し」との記載があるが、ここにいう「網目」は、当然のことながらプレス型の凹溝の形状どおりの網目を指すものである。このことは、本件発明の目的・作用効果からも自明であるし、特許請求の範囲にいうプレス型の凹溝が「網目形成用」であることからも明らかである。したがって、イ号方法が本件発明の技術的範囲に属するか否かを論ずる場合には、あくまでプレス型の凹溝の形状どおりの網目を形成するのかどうか、するとして、いつどのように形成するのかという観点から論じられなければならない。
ところで、イ号方法における半製品製造工程が具体的にどのようなものであるのか必ずしも明確とは言い難いが、仮に被告主張のようにプレス型外で一旦略網状にするとしても、これはプレス型の凹溝の形状どおりの網目にはなっていない。何故なら、被告のいう半製品はゴムが未加硫であり可塑性があるため、変形自在である。いわば、ぐにゃぐにゃなのである。しかも、被覆紐状芯材を曲げた部分はゴムの性質により元に戻ろうとするから、半製品は決してプレス型の凹溝にはめ込みやすいものではない。したがって、半製品の網目は、到底プレス型の凹溝の形状どおりの網目といえるものではないのである。そして、このような半製品をプレスするためには、これをプレス型の網目形成用凹溝にはめ込むことによって被覆紐状芯材を張り廻らして、プレス型の凹溝の形状どおりの網目を形成しなければならない。
このように、半製品製造工程において略網状の半製品が得られたとしても、結局プレス型内で特許請求の範囲にいう「網目」を形成するほかないのである。すなわち、イ号方法においても、プレス型の凹溝は「網目形成用」であるし、「プレス型内で網目を形成し」ていることは明らかである。
(二) イ号方法においても、プレス型の凹溝内に被覆紐状芯材を「張り廻らして」いる。
特許請求の範囲に記載された文言を解釈する場合には、明細書中の発明の詳細な説明参酌し、特にその文言の示す構成が作用効果上どのような意味を持っているかという観点から解釈されなければならないところ、本件発明の前記作用効果に照らして考えると、特許請求の範囲にいう「張り廻らして」とは、張り廻らした状態にするという意味であって、張り廻らす方法まで具体的に特定して限定しているものではないというべきである。被告も、例えば機械で張るか手で張るかというような方法の特定があるとは主張しないのであろうが、一本の被覆紐状芯材をその一本の状態のまま直接プレス型に張って行く方法に限られるかどうかという問題もこれと全く同様であり、限定されるものではない。
(三) イ号方法における半製品製造工程は、それ自体自明かつ周知の方法である。被覆紐状芯材をプレス型に張り廻らす前にあらかじめおおよその形を整えておけば能率的であることは、当業者どころか誰でもすぐに考えることである。被告は、プレス型が余熱をもっているため半製品製造工程が独自の作用効果を有するかのごとく主張するが、プレス型が余熱をもつこと自体当業者にとって自明のことであり、これを解決するためには、@数個のプレス型を順次用いる、A半製品製造専用のプレス型を用いる、Bプレス型とは別個の半製品製造用の型を用いるなど、いくつもの選択肢があるのであって、このようなことは当業者にとって常識の範囲内であり、被告の着想には何らの進歩性もない。
したがって、仮に右(一)、(二)の主張が認められないとしても、プレス型内で網目を形成するという構成に代えて、プレス型外で網目を形成したうえプレス型に張り直すという構成への置換は自明のことであるから、イ号方法は本件発明と均等というべきである。
(四) 仮に半製品製造工程を付加するとの着想が自明でなく、一個の発明であると仮定しても、前述したとおり本件発明の構成要件を全部充足したうえで半製品製造工程を付加したものにすぎないから、本件発明を利用する発明(利用発明)に該当する。
(五) 本件においては、特許請求の範囲にいう「プレス型内で網目を形成し」との文言の解釈が問題となるわけであるが、これを解釈するにあたっては、単に形式文理的に解釈するのではなく、実質的な妥当性の観点から解釈する必要がある。仮に、半製品製造工程さえ存在すれば本件発明の技術的範囲に属さないという結論になるとすると、例えば、プレス型を二個用意し、一方で網目を形成してそれを全くそのまま他方に移し替えるという余分な作業を加えれば、それだけで本件発明の技術的範囲から「逃げる」ことができることになるが、そのような結論は妥当であろうか。このような場合、形式的にも「プレス型内で網目を形成」しているばかりでなく、実質的にも単に本件発明の技術的範囲から「逃げる」ための方法であることは明らかなのである。では、右の場合は本件発明の技術的範囲に属するとして、右の半製品製造用のプレス型を、全くそれと同じ形の木製の型に代えた場合はどうか。金属製か木製かということで結論が変わるのであろうか。さらに、形状がプレス型と少し異なる場合はどうか。そのことに何らかの意味があるのか。
以上に述べたことから明らかなように、半製品製造工程が存在するから本件発明の技術的範囲に属さないという結論は誤りである。「プレス型内で網目を形成し」との文言は、既に述べたとおり、「結局最終的にプレス型内で網目を形成すること」と解釈されなければならない。特許請求の範囲には、プレス型内で「初めて」網目を形成するとの記載はどこにもない。
2(被告の主張)(一) 本件発明は、@プレス型の凹溝内に被覆紐状芯材を張り廻らしてプレス型内で網目を形成するものであり、したがって、当初は網目を有しない被覆紐状芯材をプレス型の凹溝内に「張り廻らして」という方法により該プレス型内で網目を形成するものであること、A右のプレス型は網目形成のための手段であると共に滑止具をプレス成形(被覆材がゴムの場合は加硫成形)するための手段であり、網目を形成した被覆紐状芯材がそのプレス型内に残置されたまま引き続きプレス成形(加硫成形)されるものである。
すなわち、特許請求の範囲の、「紐状芯材を張り廻らして、プレス型内で網目を形成し」という文言自体において、構成要件(二)は未だ網目状を形成していない紐状芯材(すなわち網目状に形成されたものは排除される。)を網目状に張り廻らすことというべきであり、プレス型凹溝に相当する目孔をあらかじめプレス型外で形成する半製品製造工程を経る方法を包含しないのである。発明の詳細な説明をみても、実施例としてプレス型の凹溝に沿って被覆紐状芯材をジグザグ状に張り廻らすことにより該凹溝内で網目を形成するとの記載があるのみで、それ以外に右文言を別異に解すべきことを示唆する網目の形成方法は何ら記載されていない。また、
原告が解釈のうえにおいて参酌すべきと主張する作用効果の記載は、プレス型において初めて網目を形成することによりもたらされる作用効果(特に(一)、
(二))であり、半製品製造工程を経るとかえって奏されない作用効果である。
なお、原告及び東洋ゴム工業株式会社は、本件特許権設定登録後にそれぞれ本件発明と同様の自動車用タイヤの滑止具の製造方法に関して特許出願をしているが、
両者ともに右被告主張の理解に沿う技術を従来技術として右出願書添付明細書に記載している(乙一一、一二)。この事実からみても、被告主張が正当であることが客観的に裏付けられるのである。
(二) 本件発明の内容は前項記載のとおりであるから、半製品製造工程を経るイ号方法が、本件発明の技術的範囲に属さないことは明らかである。イ号方法の半製品は検乙二、五、一四、一七のとおりのものであって、それらが成形プレス型の外で網目を形成していることは明らかであり、かつそれらは成形プレス型凹溝にはめ込むことを容易ならしめるに足りる程度の形状、強度をもって網目形状を維持しているものであるから、イ号方法がプレス型内で初めて網目を形成するとは到底いえない。イ号方法の半製品がぐにゃぐにゃであることを前提とする原告主張は誤りである。
(三) なお、イ号方法は、プレス型内で網目を形成し、次いでそのままプレス成形する構成を採用する本件発明が有する、プレス成形の余熱により連続した作業が行えないという問題を克服し、能率的に連続したプレス成形工程を遂行できるという独自の作用効果を奏するものであるから、実質的にも本件発明から「逃げる」というものではなく、したがって均等の主張も失当である。
争点に対する判断
構成要件(一)及び(二)について 当裁判所は、本件発明は、当初は網目を有しない被覆紐状芯材をプレス型(このプレス型とは、構成要件(三)のプレス成形用のプレス型である。)の凹溝内に張り廻らすことにより、該プレス型内で初めて網目を形成する方法であり、プレス型凹溝に相当する目孔をあらかじめプレス型外で形成する半製品製造工程を経てプレス成形する製造方法は本件発明の技術的範囲に包含されないと解する。その理由は次に述べるとおりである。
1 本件明細書の記載(一) 特許請求の範囲には、「……網目形成用凹溝を穿設し、この凹溝内に……紐状芯材を張り廻らして、プレス型内で網目を形成し、」と明記されている。
(二) 発明の詳細な説明には、「この被覆芯材の芯材1a……をプレス型A前記凹溝aにジグザグ状に張り廻らして網目を形成する。」(公報2欄31〜33行)との記載があり、また実施例第3図においては、右説明に従い長い単体の被覆紐状芯材がジグザグ状に張りめぐらされている様子が図示されている。すなわち、「紐状芯材を張り廻らして」なる構成要件実施例として、前記解釈に沿ったプレス型の凹溝aに沿って被覆紐状芯材をジグザグ状に張り廻らすことにより該凹溝a内で網目を形成する方法を開示しているが、それ以外の網目の形成方法を示唆する記載はない。
(三) また、発明の詳細な説明には、本件発明は、@「従来の如くあらかじめ芯材を網目状に編む必要がないし、又網目が正確にできないため型にはめ込み難いなどの欠陥をも除去し得る。」、A「プレス成形で所定の形状に一度で成形できる。」(公報3欄16行〜4欄1行)という効果を奏するとの記載がある。
ところで、発明の詳細な説明中に従来技術として紹介されている技術及び公知資料(乙一の1・2、二〜五、一〇)との対比において、本件発明は被覆紐状芯材をもって交差した網目状に成形することが新規な構成であると認められる(乙一の1・2、二〜五には製造方法の記載はなく、乙一〇は被覆紐状芯材を用いるが交差状の網目を形成していない。)ところ、原告は、本件発明の作用効果は右新規な構成よりもたらされるものであり、イ号方法も被覆した紐状芯材を用いる点において変りがなく、イ号方法もこれをプレス型凹溝内に張り廻らした状態にした後プレス成形しているから、同様の作用効果を奏する旨主張する。
しかしながら、イ号方法のようにプレス型の外であらかじめ被覆紐状芯材を網目状に形成した半製品を製造した後、これをプレス型凹溝にはめ込む場合、プレス型にはめ込む手間においては、あらかじめ芯材を網目状に編むのと実質的に同じことであると考られ、右@の作用効果を奏しないというべきである。また、プレス型にはめ込む場合において、あらかじめ所定の形状に近い半製品を、同型の外で作るのでは、右Aの作用効果の趣旨に反することになると考えられる。したがって、本件発明の作用効果は、本件発明が被覆紐状芯材をプレス型の凹溝において初めて網目状に張り廻らすという構成を採るということを前提にして、初めて合理的に説明しうる作用効果であるといわざるを得ない。
2 後願の特許出願明細書の記載(一) 原告自身、本件特許権設定登録後の昭和六一年二月二五日に、本件発明と同様の自動車用タイヤの滑止具製造方法について特許出願したが、同出願書添付明細書の発明の詳細な説明において、「従来技術」として、「プレス成形型に凹設した滑り止めネット本体成形用の網目溝内に沿って、紐状芯材の周りに未加硫ゴムを被覆して成形した線条材を張り廻らせることにより、上記網目溝内で滑り止めネット本体を編組し、しかる後に、高温度下にて加硫プレス成形して仕上げていた。」技術のみを説明し、本件発明を含む従来技術が、プレス溝内に「沿って」被覆紐状芯材を「張り廻らし」プレス溝内で「編組」するものと認識していたことを明示しているうえ、右従来技術につき、「線条材をプレス型の網目溝内にはめ入れて、同網目溝内で滑り止めネットを編組する作業は比較的手間が掛る上、従来はこの作業を人手によって行っている為、生産性が極めて悪いものであった。また、前述した製造方法によれば、生産性を高めるためには高価なプレス成形型が沢山必要となり、また、プレス成形の比較的浅い網目溝内に線条材をはめ込む作業が難しく、多くの作業時間を必要とするのでやはり生産性の点で問題となっていた。」欠点を指摘し、この欠点を克服し、「製造コストが低く、且つ生産効率の高い滑り止めネットの製造方法を提供する」ものとして、イ号方法と同様、あらかじめ網目を形成した半製品を製造し、これをプレス型凹溝にはめ込み加硫形成する方法につき特許出願している(乙一一)。
(二) 東洋ゴム工業株式会社も、本件特許権設定登録後の昭和六一年八月一日、
本件発明と同様の自動車用タイヤの滑止具製造方法について出願したが、同特許出願書添付明細書の発明の詳細な説明において、「従来の技術」として、「ゴム製タイヤチェーンの製造法として、プレス型表面に斜交差状の網目形成用凹溝を穿設し、この凹溝内に可塑性被覆材を被覆せしめた紐状芯材を張り廻らしてプレス型内で網目を形成し、次にこれをプレス成形で一体に形成した自動車用タイヤの滑止具製造法(特公昭五八ー四九三六六号公報参照)が知られている。」、「発明が解決しようとする問題点」として、「上記公知のゴム製タイヤチェーンの製造法は、タイヤチェーンの網目を成形する網目成形型内において引続き加硫成形を行なうものであるから、作業性の問題および製品の形状精度の問題がある。すなわち、網目成形と加硫成形を同じ型で行なうと、加硫成形後に高熱を有する型を冷却するには相当時間を必要とするため、次の網目成形をするまでに時間がかかる。従って型の稼働効率が低い。」と説明し、これを解決した同社の発明として、イ号方法と同様、
あらかじめ網目を形成した半製品を製造し、これをプレス型凹溝にはめ込み加硫成形する方法につき特許出願している(乙一二)。
3 まとめ 以上、本件明細書の記載、後願の特許出願書に認められる原告の本件発明を含む従来技術に対する認識、後記二2認定の技術進展状況のいずれからみても、本件発明は、当初は網目を有しない被覆紐状芯材をプレス型(構成要件(三)のプレス成形用のプレス型)の凹溝内に「張り廻らして」、該プレス型内で網目を初めて形成する方法であり、あらかじめプレス型外でプレス型凹溝に相当する網目を形成した半製品を製造し、この半製品をプレス型凹溝にはめ込んでプレス成形する製造方法を含まないものと解さざるを得ない。
二 本件発明とイ号方法との対比及びイ号方法の評価1 本件発明の構成要件(一)及び(二)を右のように解すると、半製品製造工程を経るイ号方法が、本件発明の技術的範囲に属さないことは明らかである。
原告は、イ号方法における半製品は未加硫ゴムの状態にあるためぐにゃぐにゃで網目を形成しているとはいえず、結局プレス型をガイドとするはめ込み作業により網目を形成するものであるから、被告の実施しているイ号方法は、実質的には構成要件(一)及び(二)を充足していると主張する。しかしながら、イ号方法の半製品は検乙二、五、一四、一七のとおりの形状強度を有するものと認められ、イ号方法において予想される取扱では形崩れしない程度の形状維持力を有する網目に形成され、プレス型凹溝の網目とほぼ合致する形状を有していると認められる(検乙七、一三〜一八)。したがって、イ号方法は、プレス型凹溝を利用して網目を形成するものと認めることはできず、原告の主張は採用できない。
2 本件発明、すなわち同一のプレス型内で網目を形成しそのまま引き続いてプレス成形するという方法は、成形時に高熱になるプレス型の余熱により同プレス型を使用しての連続作業が著しく困難で非能率であるという欠点を有し、そのままでは実用に適しないものであることが当業者により認識されており、現在における当業者の技術開発目標は、右欠点を克服するためあらかじめプレス型凹溝に合致する網目を形成した半製品の製造工程を如何に工夫するかにあり、原告被告双方とも右認識のもと技術開発をしている状況にあるものと考えられる(乙一一〜一三、弁論の全趣旨)。
イ号方法は半製品製造工程を経ることにより、本件発明の欠点を克服し得たものと考えられ、本件発明を越えた作用効果を奏しているから、本件発明を「逃げる」という非難はもとより、付加的構成、利用関係、均等との原告の主張は、すべて採用できない。
三 結論 以上によれば、イ号方法は、本件発明の構成要件(一)及び(二)を充足しないから本件発明の技術的範囲に属さず、本件特許権を侵害するものでないというべきである。
追加
(別紙)イ号方法目録一図面の説明図面(一)は被告製品商品名「マイテイネット」、図面(二)は被告製品商品名「ネットライン」についての説明図である。
各第1図は半製品状態を、各第2図はプレス型を、各第3図は完成品をあらわしている。
各図中の矢印は作業の進行方向をあらわしている。
二イ号方法の説明1プレス型(図面(一)及び(二)の各第2図)プレス型Aの表面に、製品15に合致する形状・模様・寸法の凹溝aを形成する。
2半製品(図面(一)及び(二)の各第1図)及びその製造工程プレス型Aの外において、
(一)未加硫ゴム2を被覆せしめたナイロン系の紐状芯材1をもって、凹溝aに相当する目孔を形成した紐状部10を形成し、
(二)さらに、右の紐状部10に加えて未加硫ゴム片12、13、14(図面(二)においては12及び13のみで構成される)を添付し、半製品11を得る。
3プレス成形工程(一)右半製品11を前記プレス型Aの凹溝a内にはめ込んでから、
(二)ホットプレス装置に搬入し、該プレス型Aを上昇して上型に押圧しつつ加熱し、半製品11を型内で加硫しつつ一体成形する。
4製品(図面(一)及び(二)の各第3図)プレス型Aから加硫成形品を取出した後、バリを除去することにより製品15を得る自動車用タイヤの滑止具製造方法以上<03077-001><03077-002><03077-003><03077-004><03077-005><03077-006><03077-007>
裁判官 庵前重和
裁判官 長井浩一
裁判官 森崎英二