運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2003-35401
関連ワード 技術的思想 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  遡及 /  援用権(援用) /  参酌 /  技術的意義 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  減縮 /  訂正明細書 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 16年 (行ケ) 253号 審決取消請求事件
原告 タキロン株式会社
訴訟代理人弁理士 森治
被告 株式会社エヌ・エス・ピー
訴訟代理人弁理士 廣江武典
同 宇野健一
同 武川隆宣
同 高荒新一
同 中村繁元
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2003-35401号事件について平成16年4月23日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告の有する後記本件特許について被告から特許無効の審判申立てを受けた特許庁が,本件特許を無効とする旨の審決を行ったため,本件特許の特許権者である原告が,同審決の取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 ア 原告は,平成13年3月23日,名称を「地下貯水槽および地下浸透槽」とする発明について特許出願(特願2001-85222号。以下「本件出願」という。)をした。同出願は,原告の出願に係る特願平8-357555号(以下「原出願」という。)の一部を新たな出願としたものであって,本件出願の出願日は原出願の出願日である平成8年12月28日に遡及する。
イ 特許庁は,本件出願につき特許すべき旨の査定をし,平成13年8月17日,特許第3221491号として設定登録をした(以下「本件特許」という。)。
ウ 本件特許について,平成15年9月24日付けで被告から特許無効審判請求がなされ,無効2003-35401号として特許庁に係属した。被請求人である原告は,平成15年12月15日,本件特許について訂正の請求をした。特許庁は,上記事件について審理を遂げ,平成16年4月23日,@上記訂正を認めるとした上,A本件特許の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とするとの審決(以下「本件審決」という。)をし,同年5月10日その謄本が原告に送達された。
(2) 本件発明の要旨 本件審決により本件特許について訂正が認められたが,その発明の要旨は,訂正前と訂正後に分けて明らかにすると,次のとおりである。
ア 訂正前のもの(甲10) 「【請求項1】 地中に形成された水溜め空間に充填部材が多数充填され,充填部材の外側および底面に透水性を持たないシートが敷設された地下貯水槽であって,上記の充填部材が,上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と,縦横に配列する嵌合部が支柱要素の嵌合連結部に嵌合されてその嵌合連結部に結合された複数の連結要素と,からなることを特徴とする地下貯水槽。
【請求項2】 充填部材の支柱要素と連結要素が合成樹脂成形体である請求項1に記載の地下貯水槽。
【請求項3】 地中に形成された水溜め空間に充填部材が多数充填された地下浸透槽であって,上記の充填部材が,上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と,縦横に配列する嵌合部が支柱要素の嵌合連結部に嵌合されてその嵌合連結部に結合された複数の連結要素と,からなることを特徴とする地下浸透槽。
【請求項4】 充填部材の支柱要素と連結要素が合成樹脂成形体である請求項3に記載の地下浸透槽。」 イ 訂正後のもの(甲11。以下,訂正後の請求項1ないし4に係る発明をそれぞれ「本件発明1」等という。) 「【請求項1】 地中に形成された水溜め空間に充填部材が多数充填され,充填部材の外側および底面に透水性を持たないシートが敷設された地下貯水槽であって,上記の充填部材が,上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と,縦横に格子状に配列 され ,連結部 によって 相互 に連結 された 嵌合部が支柱要素の上端部と下端部 の嵌合連結部にそれぞれ 嵌合されてその嵌合連結部に結合された複数の連結要素とからなり,該充填部材 を上下 に積み重ねて 配列 する ようにしてなることを特徴とする地下貯水槽。
【請求項2】 充填部材の支柱要素と連結要素が合成樹脂成形体である請求項1に記載の地下貯水槽。
【請求項3】 地中に形成された水溜め空間に充填部材が多数充填された地下浸透槽であって,上記の充填部材が,上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と,縦横に格子状に配列 され ,連結部 によって 相互 に連結 された 嵌合部が支柱要素の上端部と下端部 の嵌合連結部にそれぞれ 嵌合されてその嵌合連結部に結合された複数の連結要素とからなり,該充填部材 を上下 に積み重ねて 配列 するようにして なることを特徴とする地下浸透槽。
【請求項4】 充填部材の支柱要素と連結要素が合成樹脂成形体である請求項3に記載の地下浸透槽。」 (下線部分は訂正箇所) (3) 本件審決の内容 ア 本件審決の内容は,別紙のとおりである。その理由の要点は,本件発明1,3に係る訂正は特許請求の範囲減縮を目的とするもので適法であるが,訂正後の本件発明1ないし4は,その出願前に頒布された特開昭63-268823号公報(甲7),特開平8-302692号公報(甲1)及び特開昭63-293233号公報(甲8)並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法123条1項2号,29条2項により無効とすべきものである,等としたものである。
イ 上記判断をするに当たり,本件審決は,本件発明1と特開昭63-268823号公報(甲7)に記載された発明(以下「甲7発明」という。)との一致点及び相違点について,次のとおり認定している。
(一致点) 「地中に形成された水溜め空間に充填物が多数充填された地下貯水槽であって,上記の充填物が,上端部と下端部とにそれぞれ結合部を備え,該充填物を上下に積み重ねて配列する地下貯水槽。」 (相違点1) 「本件発明1が,充填物の外側および底面に透水性を持たないシートが敷設されるのに対し,甲7発明はそのようなシートを有しない点。」 (相違点2) 「本件発明1の結合部を備える充填物が,上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と,縦横に格子状に配列され,連結部によって相互に連結された嵌合部が支柱要素の上端部と下端部の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合された複数の連結要素とからなる充填部材であるのに対し,甲7発明は,箱型部材からなる点。」 (4) 本件審決の取消事由 本件審決は,以下に述べるとおり,上記相違点2に係る本件発明1の進歩性の判断につき,事実の認定及び法律の適用を誤った違法なものとして取消しを免れないものである。なお,本件発明2ないし4については,独立の取消事由を主張しない。
ア 甲7発明との間の顕著な相違点について本件発明1の構成に想到することの困難性 本件発明1と甲7発明との間には,その構成及び作用効果のいずれの面においても,下記(ア)及び(イ)のとおり顕著な相違があるにもかかわらず,本件審決はこのことを看過し,その結果,甲7発明に甲1発明の構成を適用する等によって本件発明1の構成に想到することは容易であると誤って判断したものである。
(ア) 本件発明1は,別紙審決8頁にいう「特定構成要件A」(「充填部材が,複数本の支柱要素と,嵌合部が支柱要素の上端部と下端部の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合された複数の連結要素とからなり,該充填部材を上下に積み重ねて配列するようにしてなる点。」)及び「特定構成要件B」(「縦横に格子状に配列され,連結部によって相互に連結された嵌合部が支柱要素の上端部と下端部の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合された複数の連結要素。」)を構成要件として有している。
このうち,特定構成要件Aを有することにより,上下に積み重ねて配列した充填部材が一体化し,水平方向のずれの発生が防止され,これにより,「初期の立体的な形状が長期に亘って維持され,良好な水溜め作用が継続して発揮される」という作用効果が一層顕著に奏せられる。
また,特定構成要件Bを有することにより,多数の嵌合部と連結部とを合成樹脂で一体に射出成形することが可能となるだけでなく,嵌合部の相互の位置関係が変動せず,また,格子状に配列された嵌合部に嵌合される複数本の支柱要素によって上載荷重に対して大きな対抗力を発揮し,これにより,「初期の立体的な形状が長期に亘って維持され,良好な水溜め作用が継続して発揮される」という作用効果が一層顕著に奏せられる。
(イ) これに対し,甲7発明は,タンク部内に複数の容器状部材を縦横かつ上下に配設して充填するものである点で本件発明1と共通するものの,次のとおり,構成及び作用効果において根本的な差異がある。
a 部材の形状の相違 甲7発明において用いられる容器状部材は,底部及び周側壁で構成されたものであって,本件発明1の特定構成要件A及びBの構成を想到させるものでは到底ない。そして,このような構成の相違によって,本件発明1では,甲7発明のような従来技術の問題点,すなわち@容器状部材の運搬の不便,A容器状部材の周側壁部の座屈,B槽内における貯留水の流動性の悪さ,をいずれも解決できるという優れた作用効果を有している。
b 上下方向の接続手段の相違 甲7発明について,上下方向の接続手段として甲7が開示しているのは,周側板の上縁と下縁に突設した鍔に結合突起と結合孔を設け,結合孔に結合突起を挿入するという構成のみである。かかる構成は,本件発明1の特定構成要件Aの構成を想到させるものでは到底ない。
イ 甲7発明に甲1記載の技術的事項を組み合わせることを想到するのは困難であること (ア) 目的及び技術思想の相違 甲7発明は,地下貯水槽に関するものであって,積極的に水を溜めるための空間を形成するという技術思想を有する。
これに対し,甲1は,埋め戻し用台に関する発明を開示するものであって,使用目的がそもそも相違する。そして,埋め戻し用台によって形成される空間に水を導入すると基礎を緩めることになるから,かかる空間に水を溜めるという技術思想も存在しない。
このように,甲7発明と甲1記載の発明との間に技術的関連性はなく,両者を組み合わせることの動機付けもない。
(イ) 甲1発明には積み重ねの技術思想がないこと a 甲1は,埋め戻し深さの変化に対応するために,パイプ部材を複数本連結することによって支柱を延長する,という構成を開示している(甲1の段落【0031】,図10)が,充填物を上下に積み重ねるという技術思想は何ら見出せない。
なお,このことは,甲1に記載された発明が埋め戻し用台に関するものであることから当然でもある。埋め戻し用台に必要な高さはたかだか1m程度であるから,上下に積み重ねて配列する必要性がそもそも存在しないのである。
b 被告は,甲1の第2実施例には,充填部材を上下に積み重ねて配列する技術的思想があると主張する。
しかしながら,発明の第2実施例として甲1に記載された「間隔保持部材37」は,本件発明1の特定構成要件Bのように,連結要素の縦横に格子状に配列された嵌合部に嵌合される複数本の支柱要素に対応することはできない。また,嵌合部が連結部によって相互に連結されるものでもないため,隣接する支柱同士の間隔を完全に保持することもできない。
これに対し,本件発明1においては,特定構成要件Bの構成を有することにより,格子状に少なくとも縦横3つずつの嵌合部を有する連結要素を介するため,縦横3つずつの支柱要素を有することになって上下方向の載荷力が強いうえに,支柱要素同士の間隔も確実に保持される。
したがって,甲1の第2実施例に積み重ねの技術思想が開示されていると解したとしても,本件発明1とは,構成及び作用効果の点で全く異なるものである。
ウ 支持要素の格子状配設に想到するのは困難であること 本件審決は,甲1の図6及び甲8の記載から認定される技術背景を考慮すれば,充填部材において,連結要素の嵌合部を縦横に格子状に配列することは当業者が容易になし得る設計的事項に過ぎないと判断したが,誤りである。
すなわち, (ア) 甲1の図6には,連結要素の嵌合部を天板及び底板の隅部だけではなく中央部にも設けたものが開示されているが,甲1の図6に記載のものは,天板と底板が明確に区別されていることからも明らかなように,複数本の支柱要素と複数の連結要素からなる充填部材を上下に積み重ねて配列した場合,連結要素を介して上下に積み重ねられた充填部材を一体化するものではない。
(イ) 甲8に記載された「格子状枠体」は,まさに格子状に形成された枠体であって,本件発明1の特定構成要件A及びB,すなわち,複数本の支柱要素と複数の連結要素とからなる充填部材において,連結要素の嵌合部を縦横に格子状に配列することを示唆するものではない。
したがって,甲8の「格子状枠体」の板状部材をもって「支持要素を格子状に設けることが記載されている」と認定し,特定構成要件A及びBの構成と結びつけた本件審決の判断には,論理に飛躍がある。
2 請求原因に対する認否 請求の原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論 原告が,本件審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,いずれも失当である。
(1) 取消事由アの主張について 本件発明1は,背高の充填部材を構成するに当たり,最も背低の充填部材A(支柱要素10の上端部と下端部の嵌合連結部11にそれぞれ連結要素20Aの嵌合部21Aを嵌合したもの)を上下に積み重ね,積み重ねられた背低の充填部材Aの連結要素20A,20Aを一体に形成して連結要素20としたものであるといえるから,甲7発明との間に,具体的な構成においても基本的差異はない。
(2) 取消事由イの主張について ア 原告は,甲7発明と甲1に記載された発明とは,発明の目的及び技術分野を全く異にするから,甲7発明に甲1に記載された技術的事項を適用することは容易でないと主張する。
しかしながら,まず,甲1に記載された発明は,地面を掘り下げて地中構造物を施工する点において,甲7発明と技術分野が共通するということができる。
また,甲1の段落【0021】【0026】における記載は,充填物の内部空間に水が溜まることを想定したうえで,水が溜まっても大丈夫な水溜め空間を形成することを示唆している。仮に甲7発明の使用目的が積極的に水を溜める水溜め空間のみであったとしても,甲1に記載された技術的事項を甲7発明に適用し,本件発明1の構成に想到することは容易である。さらに,甲7発明と甲1に記載された発明は,地下に充填物を上下に積み重ね,左右に配列することにより地下構造物の深さ・広さの変化に対応する点で技術思想が共通する。
したがって,甲7発明と甲1に記載された発明は,目的及び技術思想が相違するとはいえない。
イ 原告は,発明の第2実施例に関する甲1の段落【0031】の記載は,埋め戻し深さの変化に対応するために部材を積み重ねるという技術思想がないことを示すものであると主張する。
しかしながら,甲1には,第2実施例において支柱要素が相互に連結可能であることが記載されており(段落【0029】),甲1の図10は,底板24及び下側支柱23からなる一の充填部材と,天板22及び上側支柱23からなる他の充填部材とを支柱23を相互に連結することにより上下に積み重ねて配列することを示した図であるということができる。したがって,甲1に記載された発明にも,埋め戻し用台を上下に積み重ねて配列する技術思想はあるということができ,原告の主張は失当である。
(3) 取消事由ウの主張について 原告は,甲1の図6及び甲8の記載は,本件発明1の特定構成要件A及びBを想到させるものではないと主張する。
しかしながら,甲8には,格子状枠体4は格子を板状部材で構成したものであること,格子状枠体4は上下に段積み配設される充填材であることが示されている。
したがって,甲8の「板状部材」は本件発明の「支持要素」に,甲8の「格子状枠体4」は本件発明の「充填材」に,それぞれ相当し,甲7に甲8を適用して本件発明の構成とすることは容易である。
そして,充填物が,本件発明1のごとく支柱要素と連結要素に分離された充填部材であるか,甲8のごとく既製の箱状部材であるかが異なるが,甲8の格子状枠体4は,充填物の支持要素を格子状に配列することを示唆しており,甲7に甲1の技術を適用するに際して,連結要素の嵌合部を縦横に格子状に配列することは容易になし得る設計事項に過ぎない。
したがって,嵌合部を隅部だけではなく中央部にも設けたことの開示(甲1の図6)と,嵌合部ではないが支持要素を格子状に設けることの開示(甲8)に接した当業者は,嵌合部を連結要素の各辺の中間点にも設けて,連結要素の嵌合部を縦横に格子状に配列することを容易に想到できる。
当裁判所の判断
1 請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本件発明の要旨)及び(3)(本件審決の内容) の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 争点に対する判断 原告は,出願前に頒布された刊行物である甲1,7,8及び周知技術によれば本件発明1には進歩性がなく同発明に係る特許は無効である,とした本件審決の認定判断は誤りであると主張するので,以下その当否について判断する。
(1) 取消事由アの主張について 原告は,甲7発明と本件発明1との間には構成及び作用効果の点で顕著なな相違点があり,甲7発明から本件発明1の特定構成要件A及びBの構成を想到することは容易ではないと主張する。
ア 甲7発明と本件発明1を対比すると,相当程度の広さ及び深さを有する地下貯水槽を充填するという目的のために,一定の大きさ単位の充填部材を用いて,当該充填部材を縦横及び上下に複数配設する,という点においては,構成及び技術思想が共通していると認められる。
これに対して,充填部材の構成について両発明を具体的に対比してみると,確かに,原告の主張するように,構成及びこれを裏付ける技術思想の面で,次の2点において相違が見られる。なお,これら2点の相違点は,実質的には,本件審決が相違点2として認定しているものである。
@ 個々の充填部材の形状 甲7発明においては,積み重ねるべき充填部材として箱型部材を採用している。これに対し,本件発明1では,充填部材として平面状の「連結要素」と棒状の「支柱要素」を組み合わせたものを採用している。 A 充填部材同士の上下方向の接続手段 甲7発明においては,箱型の充填部材を上下に接続する際に水平方向のずれを防止するために,箱型部材の上縁部と下縁部に鍔を設けて,結合突起と結合孔を形成し,結合突起と結合孔との係合によって水平方向のずれを防止している。これに対し,本件発明1では,その構成要件中の「嵌合部が支柱要素の上端部と下端部の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合された」との構成,及び本件特許公報(甲10)の図1からみて,中間の段の連結要素20(図1)について嵌合部を上面及び下面の両方に設け,上面の嵌合部は上側の支柱要素10の下端(嵌合連結部)に,下面の嵌合部は下側の支柱要素10の上端にそれぞれ結合される構成を採用している。
イ このように,甲7発明と本件発明1との間には,構成及び技術思想において相違があり,甲7発明から本件発明1を想到することには困難が伴うようにもみえる。
しかしながら,本件審決は,甲7発明から直接に本件発明1の構成に想到することが容易であるとしたものではなく,他の公知文献である甲1及び甲8に開示された技術的事項を適用することによって,本件発明1の構成に想到することが容易である,と判断したものである。甲7発明と本件発明1との間に相違点があっても,甲1及び甲8に開示された技術事項を適用することによってかかる相違点を埋めることができ,しかも,当該技術事項を適用することが当該技術分野における通常の知識を有する者(当業者)にとって容易に想到できるものであるならば,本件発明1が公知文献(甲7,甲1及び甲8)に基づいて容易に発明ができたものであるとした本件審決の判断に,誤りがあるということはできないことになる。
そこで,以下,甲1に開示された技術的事項について検討し,これらの技術的事項を甲7発明に適用することによって,上記ア@及びAの相違点(上記のとおり,これらは本件審決が認定した相違点2をさらに細分化したものであるため,それぞれ「相違点2@」及び「相違点2A」という。)に係る本件発明1の構成を想到することの容易性について検討する。
ウ 充填部材の形状(相違点2@)について (ア) 甲1には,次の記載がある。
a「【0019】【実施例】以下,この発明の第1実施例を,図1〜図9に基づいて詳細に説明する。図1及び図2に示すように,この実施例の埋め戻し用台21は,天板22と,その天板22の裏面に着脱可能に取り付けられる4本の支柱23と,その支柱23の下端に着脱可能に取り付けられる底板24とから構成されている。天板22及び底板24は共通部品として,再生プラスチック等により四角板状に形成され,その裏面の四隅部には接続筒部25が一体に突設されるとともに,裏面の周縁及び中央には補強リブ26が一体形成されている。各支柱23は再生プラスチック等により円筒状に形成されている。」(3欄38行〜49行) b「所定の平面積の天板22及び底板24を選択するとともに,所定長さの支柱23を選択して,天板22及び底板24の各接続筒部25に,支柱23の上下両端部を嵌合させれば,所定の大きさの四角枠状の埋め戻し用台21を組み付けることができる。」(4欄13行〜18行) 上記a及びbの記載からして,甲1の第1実施例の埋め戻し用台21は,四角形の天板22及び底板24の四隅部に設けられた接続筒部25に,棒材でなる複数本の支柱23の上下両端部を,それぞれ嵌合させて組み立てるものであると認められる。
(イ) 「充填」が,通常,「あいた所につめてふさぐこと」を意味する(広辞苑第5版)ことからすれば,基礎コンクリート52の周辺の掘った土を埋め戻す代わりに,土を掘った場所に設置する甲1の埋め戻し用台21は,土を掘ってあいた地下空間をふさぐ,つまり充填するということができる。
他方,本件発明1の充填部材も地下空間(地中に形成された水溜め空間)を充填するといえるから,甲1の第1実施例の埋め戻し用台21は,地下空間を充填する点で,本件発明1の「充填部材」に相当する。
また,地下空間を充填する充填部材を構成する点に関する限り,甲1の第1実施例支柱23は,本件発明1の「支柱要素」に相当し,以下同様に,甲1の第1実施例支柱23の上下端部,接続筒部25はそれぞれ,本件発明1の「嵌合連結部」,「嵌合部」に相当すると共に,甲1の第1実施例の四角形の天板22及び底板24の四隅部に設けられた,つまり縦横に配列された接続筒25(嵌合部)は,天板22,底板24によって相互に連結されているから,甲1の第1実施例の天板22及び底板24は,それぞれ本件発明1の「連結部」に相当する。
(ウ) 本件発明1は,個々の連結要素に係る構成自体は特定せず,連結要素について,「縦横に格子状に配列され,連結部によって相互に連結された嵌合部が支柱要素の上端部と下端部の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合された複数の連結要素」と規定しているだけであり,しかも「連結要素」は,その語義からして,連結に関連する構成要素という程度の意味に解されるにすぎない。
そうすると,四角形の天板22及び底板24の四隅部に設けられた接続筒部25に,棒材でなる複数本の支柱23の上下両端部を,それぞれ嵌合させて組み立てる甲1の第1実施例の埋め戻し用台21は,「縦横に配列され,連結部(天板22及び底板24)によって相互に連結された嵌合部(接続筒25)が支柱要素(支柱23)の上端部と下端部の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合された」構成を有する点において,本件発明1の「連結要素」と一致するということができる。
(エ) 以上によれば,甲1が発明の第1実施例として開示する充填部材(埋め戻し用台21)は,本件発明1の充填部材の形状,すなわち 「充填部材が,上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と,縦横に………配列され,連結部によって相互に連結された嵌合部が支柱要素の上端部と下端部の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合された複数の連結要素とからな」る, という構成を備えていると認められる。(上記の「………」は「格子状に」の文言に相当する部分である。嵌合部を格子状に配列することの容易想到性については後記(オ)において別途検討する。) そうすると,甲7発明の箱型部材に代えて,甲1の第1実施例の充填部材を用いることによって,本件発明1の相違点2@に係る構成(但し,「格子状に」との点を除く。)とすることができるということができる。
そして,甲7発明の地下貯水槽(貯留浸透施設)の水溜め空間(タンク部2)を充填する充填部材(箱形部材4,4)は,地下空間を充填する充填部材であるから,甲7発明の充填部材(箱型部材)に係る構成に代えて甲1の充填部材に係る構成を採用することは,地下空間を充填する充填部材の観点からすれば同一の技術分野に属する発明として,当業者であれば容易に想到し得る程度の事項である。
(オ) 進んで,甲7発明の充填部材に係る構成に代えて甲1の第1実施例の埋め戻し用台に係る構成を採用するに当たり,連結要素の嵌合部を格子状に配列する構成を採用することの想到困難性を検討する。
一般に,甲1の第1実施例の埋め戻し用台のように天板,底板及び支柱からなる物体において,支柱の本数を増やすほど上載荷重に対する抵抗力が増すことは,常識に属する事柄である。また,横方向の荷重に対する関係でも,四角形の天板及び底板の四隅に支柱を配するだけではなく,適切な位置に追加の支柱を配することによって,より安定した構造のものとすることは当業者ならずとも容易に思い付く程度の事柄である。例えば,甲1の図6においては,天板22及び底板24の四隅だけでなく中央にも支柱を嵌合するための接続筒部25を設けたものが開示されているが,甲1には,図6において中央に接続筒部25を設けたことの技術的意義について述べた記載は見当たらず,このことは,天板及び底板の大きさ等に応じて支柱の本数を増加させることが,適宜選択すべき設計的事項に過ぎないことを示しているといえる。
そうすると,甲1の第1実施例の埋め戻し用台を充填部材として用いるに当たり,支柱の数をさらに増やすこととし,これに応じて天板及び底板の接続筒部を同数だけ追加することも,単なる設計的事項に過ぎないというべきである。例えば,甲1の図4において,四隅だけではなく,四辺の中央にそれぞれ1個,補強リブ26の交点(正方形の中心部)に1個の接続筒部を追加するという構成も,当然考えられてよいことである。また,同図6の場合でいえば,補強リブ26と各辺の交点及び補強リブ26同士の交点の全てに接続筒部を設けることも考えられる。このように接続筒部を追加して設けるか否かは,充填部材として要求される強度や,加工にかかるコスト等を勘案して当業者が適宜設計すべき事項であることはいうまでもない。そして,このように接続筒部の数を追加すれば,その結果として当然に,接続筒部が「格子状」に配列されることになる。
したがって,本件審決がいうように甲8の記載を参酌するまでもなく,連結要素の嵌合部を格子状に配列する構成を採用することは,甲1の記載に接した当業者にとって容易に想到できることであるというべきである。
(カ) そして,原告が主張する本件発明1の優れた作用効果,すなわち,甲7発明のような従来技術について指摘されている,@容器状部材の運搬の不便,A容器状部材の周側壁部の座屈,B槽内における貯留水の流動性の悪さ,をいずれも解決できるという作用効果も,甲7発明の箱型部材に代えて甲1の第1実施例の埋め戻し用台を用いることによって当然に奏されるものであるから,かかる作用効果があることは,本件発明1が容易に想到し得たものではないとすることの理由にはならないというべきである。
エ 充填部材の接続手段について(相違点2A) 甲7発明と本件発明1との間の,充填部材の上下方向の接続手段に関する上記アAのとおりの相違点(相違点2A)についても,甲7発明の箱型部材に代わる充填部材として甲1が開示する埋め戻し用台に係る上記構成を採用することに付随して当業者が適宜選択し得る技術的選択肢の一つにすぎないというべきである。その理由は以下に述べるとおりである。
(ア) 甲7には「少なくとも上下方向の接続手段は構成しておき,これにより上下方向の接続を確実にするのが良い」(2頁右下欄4行〜6行)との記載があり,水平方向のずれを防止すべきことが開示されているから,甲7発明の箱型部材に代わる充填部材として甲1に開示された埋め戻し用台を用いる際にも,上下方向の接続手段につき考慮することは,当業者が当然に行うことである。そして,甲7は,上下方向の接続手段として,箱型部材の上縁及び下縁の鍔部に設けた結合孔と結合突起との係合によって接続固定する方法を例示している(同7行〜13行)。
ここで,結合孔は,結合突起が嵌合する部分である点からすれば「嵌合部」であるといえ,該「嵌合部」は鍔部により「連結」されており,また結合突起は,結合孔(「嵌合部」)に嵌合して箱形部材(「充填部材」)を連結する点からすれば,「嵌合連結部」であるといえる。してみると,甲7には,充填部材の相互に連結された嵌合部と嵌合連結部を利用して,上下の充填部材同士の間に嵌合・被嵌合の関係による結合を繰り返し形成することにより,上下の充填部材を結合させつつ,充填部材を上下に積み重ねて配列することが記載されていると認められる。
(イ) 他方,甲1の第1実施例の埋め戻し用台が,「縦横に配列され,連結部(天板22及び底板24)によって相互に連結された嵌合部(接続筒25)が支柱要素(支柱23)の上端部と下端部の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合された」構成を備えていることは,上記ウ(エ)のとおりであり,また甲1の図1〜9からして,天板22(連結部),底板24(連結部)によって連結された接続筒25(嵌合部)はそれぞれ平面状に配列されていると認められる。してみると,甲1には,棒状の「支柱要素」と,連結部によって相互に連結された嵌合部からなる平面状の「連結要素」とから構成される「充填部材」が記載されていると共に,棒状の支柱要素の上下両端部(嵌合連結部)を連結要素の嵌合部に嵌合させて結合する構成が開示されていると認められる。
(ウ) そして,甲7発明の箱型部材に代えて甲1の第1実施例の埋め戻し用台を採用することは,地下空間を充填する充填部材の観点からすれば同一の技術分野に属する発明として,当業者であれば容易に想到し得る程度の事項であることは上記ウのとおりであり,また,棒状の部材の端部を嵌合部に嵌合させて結合することも普通に行われる程度の事項であることからすれば,甲7発明が有する,充填部材の嵌合部と嵌合連結部を利用して,上下の充填部材同士の間に嵌合・被嵌合の関係による結合を形成する構成に代えて,甲1が開示する棒状の支柱要素の「嵌合連結部」と連結要素の「嵌合部」との嵌合・被嵌合関係を利用することは,甲7発明の箱型部材に代わる充填部材として甲1の第1実施例の埋め戻し用台を採用することに付随して当業者が適宜選択し得る技術的選択肢の一つにすぎない。
そして,本件発明1においては,上記のように構成して上下の充填部材を結合させた結果,上下に積み重ねて配列された充填部材が,連結要素を介して一体化することも明らかであって,その作用効果も格別のものとはいえない。
オ 小括 以上アないしエに述べたとおり,甲7発明と本件発明1との間の構成及び作用効果の相違(本件審決の認定する相違点2)について,甲1に接した当業者にとって,本件発明1の相違点2に係る構成に想到することは容易であるといえるから,これらの相違があることを理由として本件審決の認定判断が不当であることをいう原告の主張は,採用の限りでない。
(2) 取消事由イの主張について 原告は,上記のとおり,甲1に開示された技術事項を甲7発明と組み合わせることは当業者が容易に想到し得たものではないと主張するが,次のとおりいずれも採用することができない。
ア 原告は,目的及び技術思想の差異として,甲7発明は地下貯水槽の充填部材であるのに対し,甲1は埋め戻し用台に関する発明を開示したものであり,目的が異なるから組合せの動機付けがないとか,埋め戻し空間は恒常的・積極的に水を溜めるものではなく,甲1に記載された発明には水を溜めるという技術思想がないから,甲7発明と技術的関連性はなく,組合せの動機付けがない等と主張する。
しかしながら,原告が主張する事項は,いずれも,甲1記載の埋め戻し用台の具体的構成に起因する事項にすぎない。そして,原告が主張する上記事項は,上記(1)ウで説示した程度に抽象化された相違点2@に係る甲1の第1実施例の構成を,甲1の記載に接した当業者が理解し,当該構成を甲7発明の箱型部材に代わる充填部材として適用することを妨げるものとはいえない。
そうすると,原告が主張する目的及び技術思想の差異は,地下空間を充填する充填部材という観点からすれば,両者の組み合わせを困難とする程の技術分野の相違を基礎付けるものとはいえない。
イ 原告は,甲1には上下に積み重ねるという技術思想を有する発明は開示されていないとして,(a)甲1は,発明の詳細な説明の記載(5欄21行〜44行)及び図10において,埋め戻し深さの変化に対応するために複数のパイプ部材34を連結して支柱23を延長する構成を示しており,充填物を上下に積み重ねるという技術思想がない,(b)埋め戻し台として要求される高さ(埋め戻し部分深さ)はせいぜい1m程度であり,パイプを連結することによる延長で対応できるから,積み重ねの技術思想はない,等と主張する。
しかしながら,甲1の第1実施例の埋め戻し用台は,上記(1)ウ(エ)で説示したとおり本件発明1の相違点2@に係る構成を備えており,該構成の埋め戻し用台を充填部材として用い,甲7発明の箱型部材に代わるものとして上下に積み重ねて配列することが,技術的に不可能ないし困難であると解すべき根拠はない。原告が指摘する甲1の上記記載は,発明の第2実施例として開示されているに過ぎず,第1実施例の埋め戻し用台を積み重ねることを否定するものではない。したがって,充填部材の積み重ねによって地下貯水槽の深さの変化に対応しようとする甲7発明の構成から本件発明1の構成に想到することの容易性を判断するに当たって,甲7発明の「充填部材」に置換すべきものとして,甲1の記載から第1実施例の構成を抽出して検討したことが不当であるということはできない。
そして,甲7記載の発明の充填部材の構成として甲1の第1実施例に係る構成を採用することが,地下空間を充填する充填部材の観点からすれば同一の技術分野に属する発明として,当業者であれば容易に想到し得る程度の事項であることは,上記(1)ウ(エ)のとおりである。したがって,甲1には充填部材を上下に積み重ねるという技術思想が開示されてないとしても,そのことが,甲1の記載から個々の充填部材としての第1実施例の構成を抽出して,これを甲7発明の充填部材と置換すべきものとして用いることについての容易想到性の判断を左右するものではない。
ウ また,原告は,甲1に積み重ねの技術思想が開示されているとしても,本件発明1とは構成及び作用効果が異なると主張する。
(ア) まず,原告は,甲1の第2実施例に記載された「間隔保持部材37」は,連結要素の縦横に格子状に配列された嵌合部に嵌合される複数本の支柱要素に対応することはできず,また,嵌合部が連結部によって相互に連結されるものでもないため,隣接する支柱同士の間隔を完全に保持することもできないのに対し,本件発明1においては,特定構成要件Bの構成を有することにより,格子状に少なくとも縦横3つずつの嵌合部を有する連結要素を介するため,縦横3つずつの支柱要素を有することになって上下方向の載荷力が強いうえに,支柱要素同士の間隔も確実に保持される,という優れた作用効果を有すると主張する。
しかし,原告が甲1の第2実施例の構成を前提に「積み重ね」の構成及び作用効果について論じているのに対して,上記イに説示したとおり,本件審決は,甲1の第1実施例の埋め戻し用台(天板,底板及び支柱からなるもの)を甲7発明の箱型部材に代わる充填部材として用い,これを上下に積み重ねていくという構成の容易想到性について判断したものであるから,原告の主張を採用することはできない。
そして,甲7発明の充填部材に代えて甲1の第1実施例の埋め戻し用台に係る構成を採用するに当たり,嵌合部を格子状に配列することが,当業者であれば必要に応じて適宜成し得る程度の事項であることは上記(1)ウ(オ)のとおりであり,連結要素に係る嵌合部の数が増えることに伴い当該嵌合部に嵌合される支柱要素の数が増えれば,上下方向の載荷力がより強くなるうえに,支柱要素同士の間隔もより確実に保持されるようになることは,自明である。したがって,嵌合部を格子状に配列することによって,上下方向の載荷力が強くなるうえに,支柱要素同士の間隔も確実に保持されるようになるという原告主張の本件発明1の特定構成要件Bの作用効果も,格別のものではなく,当業者が予測し得る範囲内のものである。
(イ) 次に,本件訂正明細書(甲11)には,「上記のように立体的に組み立てた充填部材を水溜め空間に充填した地下貯水槽は,充填部材の複数本の支柱要素を垂直に配備することによって,それらの支柱要素が上載荷重に対して大きな対抗力を発揮する。また,支柱要素の長さや積み重ね段数を増減することによってその全体高さが増減調節され,1つの連結要素に結合される支柱要素の本数を増減することによって,上載荷重に対する対抗力が調節される。従って,所望の深さを有し,要求される上載荷重に耐え得る地下貯水槽が施工される。」(段落【0009】)との作用効果の記載もあるが,かかる作用効果は,甲7発明の充填部材に代えて甲1の第1実施例の埋め戻し用台を用いることによって当然に奏されるものであり,当業者が予測し得る範囲内のものである。 また,上記記載に続いて,「また,充填部材を組み立てる前の支柱要素や連結要素は別々に取り扱うことができるので,コンパクトな形に梱包して搬送したり保管したりすることができる。」(段落【0009】)との作用効果の記載もあるが,甲1記載の発明もその構成自体から,「埋め戻し用台を天板と複数の支柱とに分解して運搬することができる。従って,埋め戻し用台の運搬を,嵩張ることなく簡単に行うことができる。」(6欄47行〜50行)という効果を奏するものである。したがって,本件発明1の上記作用効果も,甲7発明の充填部材に代えて甲1の第1実施例の埋め戻し用台を用いることによって当然に奏されるものであり,本件発明1の進歩性を基礎付けるものとはいえない。
(3) 取消事由ウの主張について 原告は,甲1の図6及び甲8の記載は,本件発明1の特定構成要件A及びBを想到させるものではないと主張する。
しかしながら,特定構成要件A及びBは,連結要素の構成について,@嵌合部を格子状に配列すること,A嵌合部を連結部によって連結すること,を表現したものであるところ,まず@についていえば,嵌合部を格子状に配列することは,甲8の記載を参照するまでもなく当業者が容易に思い付く程度の事柄であることは,上記(1)ウ(オ)において説示したとおりである。
また,連結要素を甲1の第1実施例のように板状のものではなく,本件発明1のごとく筒状の嵌合部を連結部で連結した構成のものとすることについても,甲1にその示唆があるということができる。すなわち,甲1では,天板22及び底板24は単なる一枚板ではなく,周縁及び中央に補強リブ26を一体成形した構成とすることが開示されており(3欄47行〜48行),また,補強リブのない領域には,「肉盗み部」としての多数の透孔を配列形成することも開示されている(6欄13行〜14行)。この「肉盗み部」の領域をさらに広げていけば,天板22及び底板24は,結局のところ補強リブだけで構成されることになる。そして,補強リブの各交点に全て接続筒部を設けることによって接続筒部の配列を「格子状」にすることも,上記(1)ウ(オ)において説示したとおり,当業者の容易に想到しうることである。
そうすると,結局のところ,甲1の記載に接した当業者にとって,甲1の第1実施例の天板22及び底板24を,本件発明1につき本件特許公報(甲10)の図面1に記載された連結要素20Aと同じ構成のものとすることは,困難性はないことになる。
したがって,本件審決が援用する甲1の図6や甲8の記載をまつまでもなく,本件発明1の特定構成要件A及びBを想到することは容易であると認められ,原告の主張は採用できない。
3 結語 以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 青柳馨
裁判官 上田卓哉