関連審決 | 無効2004-80057 |
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関連ワード | 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 慣用技術 / 均等 / 置き換え / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 設定登録 / 混同 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10488号
審決取消請求事件
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原告 ニシハツ産業株式会社 訴訟代理人弁護士 中村稔 同 富岡英次 同 水沼淳 被告 株式会社川島製作所 訴訟代理人弁理士 高松利行 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/01/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2004-80057号事件について平成17年4月14日にした審決中,「特許第1971250号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「海苔夾雑物除去装置」とする特許第1971250号の特許(平成2年4月10日出願,平成7年9月27日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。 被告は,平成16年5月25日,本件特許を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,この請求を無効2004-80057号事件として審理した。その過程で,原告は,平成16年8月10日付け訂正請求書により願書に添付した明細書の訂正を請求した。特許庁は,審理の結果,平成17年4月14日,同訂正を認めた上で,「特許第1971250号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし(以下「本件審決」という。),同月24日,その謄本は原告に送達された。 2 特許請求の範囲 上記訂正後の本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」という。)。 「【請求項1】乾海苔の通過経路の上下に搬送用ローラ群を配置するとともに,前記通過経路を挟んで一方に押さえローラ,他方に同押さえローラよりも高速で回転する回転ブラシを配置し,前記搬送用ローラ群は前記回転ブラシの乾海苔の出側と入側にそれぞれ搬送用上ローラ及び搬送用下ローラを配置したことを特徴とする海苔夾雑物除去装置。」 3 本件審決の理由 別紙審決書の写しのとおり。要するに,本件発明は,実願昭54-48927号(実開昭55-149394号,昭和55年10月27日公開)のマイクロフィルム(甲4〔審決における「甲1」〕。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた,というものである(なお,本件審決において,「平成7年9月17日にその発明について特許の設定登録がされた」とあるのは,「平成7年9月27日にその発明について特許の設定登録がされた」の誤記と認められる。)。 本件審決は,上記結論を導くに当たり,本件発明と引用発明の一致点及び相違点を,次のとおり認定した。 (一致点) 「乾海苔の通過経路の上下に搬送用ローラを配置するとともに,前記通過経路に夾雑物除去手段を配置した海苔夾雑物除去装置」である点。 (相違点) (1) 夾雑物除去手段が,本件発明では,「一方に押さえローラ,他方に同押さえローラよりも高速で回転する回転ブラシを配置した」ものであるのに対し,引用発明では,「異なった周速で回転する一対の掻取りローラ」である点(以下「相違点1」という。)。 (2) 搬送用ローラが,本件発明では,ローラ群であって,夾雑物除去手段の乾海苔の出側と入側にそれぞれ搬送用上ローラ及び搬送用下ローラを配置したものであるのに対し,引用発明では,一対のものであって,夾雑物除去手段の乾海苔の出側に設けられている点(以下「相違点2」という。)。 |
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原告主張の取消事由の要点
本件審決は,本件発明と引用発明の一致点の認定を誤り(取消事由1),相違点1及び相違点2についての各判断を誤り(取消事由2及び3),総合的判断(効果の判断)を誤り(取消事由4),本件発明が引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから,取り消されるべきである。 1 取消事由1(一致点の認定の誤り) 本件審決は,本件発明と引用発明が,「乾海苔の通過経路の上下に搬送用ローラを配置するとともに,前記通過経路に夾雑物除去手段を配置した海苔夾雑物除去装置」である点において一致すると認定したが,次のとおり,誤りである。 (1) 本件審決は,一致点の認定に当たり,引用発明の「異なった周速で回転する一対の掻き取りローラ(21)(22)」も,本件発明の「通過経路を挟んで一方に押さえローラ,他方に同押さえローラよりも高速で回転する回転ブラシを配置し」た構成も,「夾雑物除去手段」に相当するものと認められるとしたが,本件発明は,乾海苔の表面に付着している海苔に対して結着性の弱い夾雑物であれば,これをブラシによる払拭により除去することができるものであるのに対し,引用発明の「異なった周速で回転する一対の掻取りローラ(21)(22)」により除去できるのは,海苔に混入した不純物のうち海苔の表面から突出している部分のみに限られ,乾海苔を破損しない限り,本件発明の除去装置のように海苔の表面に混入した夾雑物を除去できないから,本件発明の「夾雑物除去手段」に相当するとはいえない。 (2) 本件審決は,一致点の認定に当たり,引用発明の「案内ローラ(41)」,「案内ローラ(4)」が,それぞれ,本件発明の「搬送用上ローラ」,「搬送用下ローラ」に相当するとしたが,本件発明の「搬送用上ローラ」,「搬送用下ローラ」が,乾海苔シートの変移,変形及び湾曲を防止するための必須の構成として設けられているものであるのに対し,引用発明の「案内ローラ(41)」及び「案内ローラ(4)」は,単に「海苔(9)を下流側に移行」させる(引用例。甲4の明細書10頁3行〜4行)ものに過ぎず,その目的及び機能において異なるものであって,引用発明の「案内ローラ(41)」,「案内ローラ(4)」が,本件発明の「搬送用上ローラ」,「搬送用下ローラ」に相当するとはいえない。 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について 本件審決は,相違点1について,@引用発明の「異なった周速で回転する一対の掻取りローラ」を,同じ機能を奏することが周知である回転ブラシに置き換えることに困難性はなく,シート状物の搬送のために用いられることが周知であるローラを,回転ブラシの対向位置に設けることは,単なる設計的事項にすぎない旨判断し(以下「相違点1の判断@」という。),また,A引用例に記載された「異なった周速で回転する一対の掻取りローラ」のうち,一方の高速で回転する方のローラを回転ブラシに置換することは,当業者にとって自明の事項である旨判断し(以下「相違点1の判断A」という。),上記いずれの論理付けによっても,相違点1については,引用例に記載された事項に基づき当業者が容易に想到することができるものであるとしたが,上記の相違点1の判断@,Aは,次のとおり,いずれも誤りである。 (1) 相違点1の判断@について ア 本件審決は,引用例に,回転ブラシが,海苔の表面を擦ることにより夾雑物を除去する手段として記載されている旨認定したが,誤りである。引用例に,回転ブラシが夾雑物を除去する手段として記載されていることは事実であるが,この回転ブラシはそれ自体により単独で被処理物であるシート状乾海苔に混入している蝦類,葦や穂などのような不純物を除去するものではなく,本件発明の回転ブラシに対応するものではない。 イ 本件審決は,回転ブラシは,搬送されるシート状物から不要物を除去するための手段として,本件特許の出願前に周知のものであるとし,甲5〜甲12(本件審決における参考文献1〜8)を例示したが,これらは,本件発明や引用発明とは全く異なる技術分野に関するものである。しかも,これらは,被処理物の表面に存在する異物を,清掃,クリーニング等の方法で表面から取り除く技術についてのものである。これに対し,本件発明の被処理物である夾雑物は乾海苔の表面にのみ存在するものではなく,乾海苔の表面層にも混入しているものである。 ウ 本件審決は,その機能をみた場合,掻取りローラも回転ブラシも被処理物の表面から異物を掻き取る又は擦り取るものである点において変わりはないとしたが,引用例の掻取りローラと本件発明の回転ブラシとは,その構成において異なっているのみならず,その機能においても全く異なるものである。引用発明においては,第1段掻取り装置(2),第2段掻取り装置(3)及び回転ブラシの3構成要素からなる極めて複雑な構成により乾海苔に混入している不純物を除去している。これは,被処理物の不純物が,被処理物の表面だけに存在するものではなく,表面層にも混入しているので,単に表面に付着している不純物を取り除くだけではなく,表面層からこうした不純物を掻き取らなければならないからであり,このために,凹凸模様を形成した第1段掻取り装置(2),第2段掻取り装置(3)により不純物を取り除いてもなお,不純物が残存するので,回転ブラシ(6)により残存不純物を除去する構成を採用しているのである。 また,引用例には,この回転ブラシにより,内部に食い込んで残存している不純物を略完全に擦り取ることができるかのような記載があるが,スピードが同一の上下の回転ブラシにより表面に付着して残存しているものを擦り落としえないことは当業者にとって自明である。 エ 以上のとおり,引用発明の「一対の掻取りローラ」と周知の回転ブラシとは同じ機能を奏するものではないから,引用発明の「異なった周速で回転する一対の掻取りローラ」を回転ブラシに置き換えることに困難性はないとした本件審決の判断は誤りである。 オ 本件審決の,シート状物の搬送のために用いられることが周知であるローラを,回転ブラシの対向位置に設けることは,単なる設計的事項にすぎない旨の判断も誤りである。 本件審決は,「搬送用ローラ」と「押さえローラ」とを混同する誤りを犯している。本件発明には,搬送用ローラに相当するものとは別に,押さえローラが設けられている。しかも,本件発明にいう「押さえローラ」は,単に被処理物である乾海苔を「確実に押さえて湾曲,変形を防止する」だけではなく,適宜,高さを変更し,乾海苔に混入している夾雑物の状態に応じてブラシ圧を調節することができる。 また,甲8,甲9,甲12には,回転ブラシの対向位置にローラを設けることは記載がないし,そもそもこれらの文献は本件発明とは全く異なる技術分野の文献であって,これらが周知であるからといって,これらの技術を乾海苔に混入した不純物を除去するのに転用できるかどうかは,当業者に自明ではない。 (2) 相違点1の判断Aについて 甲8,甲9,甲12には,回転ブラシと対向するローラとにより,シート状物に付着した不要物を除去することは記載されておらず,また,これらの参考文献は,本件発明とは全く異なる技術分野の文献であって,これらが周知であるからといって,これらの技術を乾海苔に混入した不純物を除去するのに転用できるかどうかは,当業者に自明ではない。 引用例の掻取りローラは,その外周面に細かい凹凸模様を形成しているものであり,凹凸模様を形成した掻取り装置を,凹凸模様を形成していない本件発明の回転ブラシに置換できるものではない。 また,仮に適用したとしても,回転ブラシに対向して組み合わされ,協働するのは掻取りローラであるから,この掻取りローラとどのように組み合わせて,どのような機能を奏するものとするかは全く明らかではない。 したがって,本件審決の,引用例に記載された「異なった周速で回転する一対の掻取りローラ」のうち,一方の高速で回転する方のローラを回転ブラシに置換することが当業者にとって自明の事項である旨の判断は,誤りである。 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り) 本件審決は,シート状物の搬送をより確実に行うために,回転ブラシのシート状物の出側と入側にそれぞれ搬送用ローラを設けることは,単なる設計的事項にすぎないと判断し,また,単なる周知技術の付加ということもできると判断したが,これらの判断はいずれも誤りである。 本件発明における回転ブラシは,対向する他方の側の押さえローラと協働して乾海苔に混入している夾雑物を除去するので,通常のシートの搬送と違って,シートに変移,変形が生じ,確実な搬送に困難を生じやすい。これを防止するための必須の構成として,回転ブラシのシートの出側と入側にそれぞれ搬送用ローラを設けているのであって,本件審決は,本件発明における回転ブラシの特殊な機能を無視する誤りを犯している。確かに,本件審決の認定したとおり,回転ブラシのような力の作用により被処理物が湾曲,変形し,被処理物の確実な搬送に支障を来すおそれがあることは自明かもしれないが,本件発明のような回転ブラシであるからこそ,こうした搬送ローラが必要になるのである。 4 取消事由4(総合的判断についての誤り) 本件審決は,当業者であれば,厚さ変動を吸収できる点は,ブラシの性質から容易に予測できることであり,また,回転ブラシの作用が強められることも,回転ブラシの作用位置において押さえローラにより被処理物が確実に押さえられることから,容易に予測し得ることであると判断したが,誤りである。 これは,まさに,本件発明の回転ブラシが押さえローラと協働するからこそ得られる効果であって,本件審決はこの構成による効果を看過している。すなわち,引用例の掻き取り装置によって,実際に夾雑物を除去しようとすれば,海苔に傷をつけたり破れたりして実用とならず,また回転ブラシは上下で等速に回転しながら海苔表面に接して同表面に付着したものを払い落とすに過ぎない。本件発明は,このような従来技術からは到底予測不可能な顕著な効果を奏するものである。 また,本件発明においては,押さえローラは固定でなければならないという限定はないから,押さえローラの高さを調節することにより,ブラシ圧を調節することができ,その結果,乾海苔に混入している夾雑物の状態に応じてブラシ圧を調節して効果的に夾雑物を除去することが可能であり,また,夾雑物が混入していない被処理物の場合には押さえローラを解放できるようにすることも可能であるが,このような効果を奏することは引用発明では到底不可能であって,こうした作用効果の違いも,本件審決は看過している。 さらに,本件発明の装置が商業的成功を収めたことは,その作用効果の顕著性を如実に物語るものである。 |
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被告の反論の要点
本件審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 本件審決の一致点及び相違点の認定は正当であり,原告主張の誤りは存しない。 2 取消事由2(相違点1についての判断誤り)について 引用例には,掻取りローラ(21),(22),(31),(32)で不純物を掻き取った後,更にその下流に設けられた上下一対の回転ブラシ(6)により海苔(9)の表面を擦り取る旨が記載されており(引用例。甲4の明細書10頁16行〜11頁5行),海苔不純物(夾雑物)の除去手段として,回転ブラシを用いることは,公知である。したがって,一方の掻取りローラに替えて,海苔不純物(夾雑物)の除去手段として,公知の回転ブラシを適用することは当業者にとって容易であり,一方の掻取りローラに替えて回転ブラシを適用しても,当業者が予期し得ない格別の作用効果が奏されるというものでもない。 また,ゴミ,異物等の除去手段として回転ブラシを用いることは,引用例の回転ブラシ(6)に限らず,一般に広く知られた技術である(甲5〜甲12)。そして,掻取りローラや回転ブラシのこすり落とし作用は,その材質等によって相違するものであり,このことは自明である。一方,夾雑物の種類や付着態様は様々であって,「小さな海老」(引用例。甲4の明細書2頁下段及び第5図,第6図,第7図)等の夾雑物は,海苔に深くめり込んで強く付着しているものもあれば,海苔の表面に軽く(弱く)付着しているものもあるが,このように夾雑物の付着態様が様々であることも自明である。つまり,掻取りローラや回転ブラシにはそれぞれの材質や回転速度等によってこすり落とし作用等の特性があり,また夾雑物の種類や付着態様も様々であり,このようなことは当業者にとって自明の事項である。したがって,どのような掻取りローラや回転ブラシをどのように配設して使用するかは,単なる設計事項にすぎないのであって,引用発明の一方の掻取りローラに替えて不純物(夾雑物)除去手段として,公知の回転ブラシを用いることは,当業者は格別の発明力を要することなく容易になし得るものである。そして,掻取りローラや回転ブラシが上記のようなこすり落とし作用等の特性を有することは自明である以上,一方の掻取りローラに替えて回転ブラシを用いても,当業者が予想し得ない作用効果が得られるというものでもない。 以上のとおり,本件審決の判断は正当であって,本件審決に原告主張の誤りはない。 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について 本件発明の相違点2に係る構成は,海苔夾雑物除去装置が当然に備えている自明の構成である。何故ならば,この構成が無ければ海苔夾雑除去装置は成立しないからであり,引用例では搬送手段は自明の事項としてその記載が省略されているにすぎない。 海苔製造装置で生産された海苔は,海苔夾雑物除去装置へ搬入され,これによって夾雑物が除去された後,次の工程(一般には,海苔検査装置により海苔の破れや穴あき等の有無を検査する工程)へ搬出されるが,海苔製造装置の海苔生産枚数は,一般に毎時4,000〜10,000枚であり,これだけ大量に生産される海苔を作業者が手作業によって海苔夾雑物除去装置へ搬入し,またこれから搬出することはできない。したがって,海苔夾雑物除去装置の入側と出側には,海苔の搬送手段(搬入手段と搬出手段)が当然に配設される。すなわち,引用例の第1図の掻取りローラ21,22の入側(甲4の第1図において右側)には海苔9の搬入手段(搬送ローラ又は搬送ベルト)が当然に存在するのであり,自明の事項として記載が省略されているにすぎない(仮に,これがなければ,海苔9を掻取りローラ21,22の間へ搬入することはできない)。一方,掻取りローラ31,32の出側(甲4の第1図において左側)には海苔9を上下から挟んで搬送する搬出手段(搬送コンベア5,5a)が設けられている(これがなければ,夾雑物を除去した海苔9を次工程へ搬出することはできない)。なお,海苔(シート状乾海苔)は紙のように軽量でヒラヒラしたものであるから,搬送中に姿勢が崩れたり搬送路から飛び出したりしないように,搬送ローラや搬送ベルトは上下に配設し,海苔を上下からしっかり挟んで搬送するのが普通であり,引用例(甲4)の第1図にもそのような搬送手段(ローラ4,41やコンベア5,5a)が記載されている。 以上のとおり,本件審決の判断は正当であって,本件審決に原告主張の誤りはない。 4 取消事由4(総合的判断についての誤り)について 取消事由2について指摘したとおり,引用発明における一方の掻取りローラに替えて回転ブラシを適用しても,当業者が予期し得ない格別の作用効果が奏されるというものではない。 原告は,本件発明は,「搬送用ローラ群は前記回転ブラシの乾海苔の出側と入側にそれぞれ搬送用上ローラ及び搬送用下ローラを配置」した構成により,いずれかの搬送用ローラが海苔を挟んでいる状態で回転ブラシに海苔が接触するため,海苔が高速で回転する回転ブラシにより飛ばされるのを防止することができるという作用を奏する旨主張しているが,特許請求の範囲には,「搬送用ローラ群は前記回転ブラシの乾海苔の出側と入側にそれぞれ搬送用上ローラ及び搬送用下ローラを配置した」と記載されているだけであるから,原告主張の作用効果が得られるとは限らない。 以上のとおりであるから,本件審決の判断は正当であり,原告主張の誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 原告は本件審決の一致点の認定に誤りがあると主張するのに対し,被告は本件審決の一致点及び相違点の認定は正当であり,原告主張の誤りは存しないと主張するので,検討する。 (1) 原告は,本件発明における「夾雑物除去手段」たる「回転ブラシ」は,乾海苔の表面に付着している海苔に対して結着性の弱い夾雑物であれば,これをブラシによる払拭により除去することができるものであるのに対し,引用発明の「異なった周速で回転する一対の掻取りローラ(21)(22)」により除去できるのは,海苔に混入した不純物のうち海苔の表面から突出している部分のみに限られ,乾海苔を破損しない限り,本件発明の除去装置のように海苔の表面に混入した夾雑物を除去できないから,本件発明における「夾雑物除去手段」に相当するとはいえない旨主張する。 しかし,本件審決は,夾雑物除去手段が,本件発明では,「一方に押さえローラ,他方に同押さえローラよりも高速で回転する回転ブラシを配置した」ものであるのに対し,引用発明では,「異なった周速で回転する一対の掻取りローラ」である点を,相違点1として認定している。仮に,相違点1に係る構成の違いにより原告主張のような作用効果の違いが生ずるとしても,本件発明における回転ブラシも引用発明における掻取りローラ(21)(22)も,海苔の夾雑物を除去するという点において共通するから,「夾雑物除去手段」に該当する点において両者が対応するものであるとした本件審決の認定に誤りがあるとはいえない。原告の主張は,採用できない。 (2) 原告は,本件発明の「搬送用上ローラ」,「搬送用下ローラ」は,乾海苔シートの変移,変形及び湾曲を防止するための必須の構成として設けられているものであるのに対し,引用発明の「案内ローラ(41)」及び「案内ローラ(4)」は,単に「海苔(9)を下流側に移行」させるものに過ぎず,その目的及び機能において異なるから,引用発明の「案内ローラ(41)」,「案内ローラ(4)」が,本件発明の「搬送用上ローラ」,「搬送用下ローラ」に相当するとはいえないと主張する。 しかし,本件審決は,搬送用ローラが,本件発明では,ローラ群であって,夾雑物除去手段の乾海苔の出側と入側にそれぞれ搬送用上ローラ及び搬送用下ローラを配置したものであるのに対し,引用発明では,一対のものであって,夾雑物除去手段の乾海苔の出側に設けられている点を,相違点2として認定している。 仮に,相違点2に係る構成の違いにより原告主張のような作用効果の違いが生ずるとしても,本件発明における「搬送用上ローラ」,「搬送用下ローラ」も引用発明における「案内ローラ(41)」も,「海苔を下流側に移行させる」点において共通するから,この点をとらえて「乾海苔の通過経路の上下に搬送ローラを配置」した点において両者が対応するものであるとした本件審決の認定に誤りがあるとはいえない。原告の主張は,採用できない。 (3) 上記によれば,本件審決の一致点の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について (1) 相違点1の判断@について ア 原告は,引用例の回転ブラシはそれ自体により単独で被処理物であるシート状乾海苔に混入している不純物を除去するものではなく,本件発明の回転ブラシと対応するものではないから,本件審決が,引用例に,回転ブラシが,海苔の表面を擦ることにより夾雑物を除去する手段として記載されている旨認定したことは誤りである旨主張する。しかし,引用例に回転ブラシが夾雑物を除去する手段として記載されていること自体は原告も認めるところであって,本件審決がその旨認定したことを誤りということはできない。なお,本件審決は,引用発明の掻取りローラを,同じ機能を奏することが周知である回転ブラシに置き換えることに困難性はない旨説示しており,この点に誤りがないことは後記のとおりであるから,引用例において回転ブラシが単独の夾雑物除去手段として記載されているか否かは,本件審決の当否に影響を及ぼさないものというべきである。 イ 原告は,本件審決により周知技術として例示された甲5ないし甲12に記載された技術について,本件発明とは全く異なる技術分野に属するものであると主張する。しかし,シート状物から回転ブラシを用いて不要物を除去するという技術は,被処理物の表面近くに存在する不要物を物理的な力により除去するという点で被処理物の素材のいかんを問わず適用し得る汎用性のある技術というべきであるから,甲5ないし甲12に記載された種々のシートに関する技術は,乾海苔の夾雑物の除去に関する技術分野にも適用し得るものというべきである。加えて,現に,引用発明において,乾海苔の夾雑物を除去手段の一部として,回転ブラシが用いられているものであり,この点に照らしても,回転ブラシを用いたシート状物からの夾雑物除去技術は,乾海苔の夾雑物の除去に適用することが可能ということができる。 原告は,また,本件審決が周知技術として例示した甲5ないし甲12記載の技術はいずれも,被処理物の表面に存在する異物を清掃,クリーニング等の方法で表面から取り除く技術についてのものであって,シート状物の表面層に混入している不純物を除去する技術に関するものではないと主張する。しかしながら,甲9には「ブラシローラ16はマットに圧接して毛足の長い絨毯状のマットの毛足の奥につまっているごみや小石等を掻き出し」(3頁左上欄2行〜4行)との記載があり,引用例には「海苔(9)の表面をブラシ(6)(6)で擦ることにより‥‥‥海苔(9)の内部に喰い込んで残存している不純物(91b)を略完全に擦り取ることが出来る」(引用例。甲4の明細書11頁1行〜5行)との記載があるのであって,これらの記載に照らせば,回転ブラシを,表面層に混入した不要物を掻き出して除去するために用いることも知られているというべきである。原告の主張は,採用できない。 ウ 原告は,引用例の掻取りローラと本件発明の回転ブラシとは,機能においても全く異なると主張する。 そこで検討するに,引用例には次の各記載がある。 「然して海苔(9)を搬入口(16)より搬送室(12)内へ送り込むと,先ず第1段掻取り装置(2)の上下のローラ(21)(22)により海苔は強制的に下流側へ引き込まれる。掻き取りローラ(21)(22)の表面には浅く細かい凹凸模様が刻まれており,上方のローラ(21)は下方のローラ(22)の2倍の速さで回っているから海苔(9)は上方のローラ(21)の周速よりも遅く,下方のローラ(22)の周速よりも早く移行される。従って海苔(9)の上,下両面はローラ(21)(22)とスリップすることになり,第7図に示す如く海苔(9)の表面に浮き出た海老等の不純物(91)はローラ(21)(22)の表面の凹凸模様によって掻き出され,不純物(91)が海苔(9)から取り除かれ,或は不純物(91a)の海苔面から臨出した部分が削り取られて目立たなくなる。」(甲4の明細書8頁末行〜9頁14行) 「第1段掻取り装置(2)を通過した海苔(9)は下流側の案内ローラ(4)(41)間に侵入する。‥‥‥第1段掻取り装置(2)では上方のローラ(21)が,第2段掻取り装置(3)では下方のローラ(32)が夫々対向するローラ(22)(31)よりも周速が速いから,海苔(9)は上,下両面に均等な掻取り作用を受けて不純物は取除かれ,或いは殆ど目立たなくなるのである。」(甲4の明細書9頁18行〜10頁15行) これらの記載に照らせば,引用発明における掻取りローラは,単に被処理物の表面に存在する不純物を取り除くだけではなく,被処理物の表面層に混入している不純物を表面の凹凸模様によって掻き出し,不純物を除去する機能も有しているということができる。 したがって,その機能をみた場合,掻取りローラも回転ブラシも被処理物の表面から異物を掻き取る又は擦り取るものである点において変わりはないとした本件審決の判断に誤りはない。 なお,この点に関し,原告は,引用例には,回転ブラシにより,内部に食い込んで残存している不純物を略完全に擦り取ることができるかのような記載があるが,スピードが同一の上下の回転ブラシにより表面に付着して残存しているものを擦り落としえないことは当業者にとって自明である旨の主張もしている。しかし,本件審決は,引用発明の「異なった周速で回転する一対の掻取りローラ」を周知の回転ブラシに置き換えることに困難性はないと判断したものであって,引用発明における回転ブラシそのものに置き換えることについて判断したものではない。 そして,前記のとおり,引用発明においては,「第1段掻取り装置(2)では上方のローラ(21)が,第2段掻取り装置(3)では下方のローラ(32)が夫々対向するローラ(22)(31)よりも周速が速い」とされているのものであり,上下の掻取りローラのスピードは異なるものである。原告の主張は,本件審決を正解しないものというべきであり,採用することができない。 エ 以上のとおりであるから,引用発明の「異なった周速で回転する一対の掻取りローラ」を,同じ機能を奏することが周知である回転ブラシに置き換えることに困難性はないとした本件審決の判断に,原告主張の誤りはない。 オ 原告は,本件審決の「シート状物の搬送のために用いられることが周知であるローラを,回転ブラシの対向位置に設けることは,単なる設計的事項にすぎない」という判断に対して,「搬送用ローラ」と「押さえローラ」とを混同する誤りを犯していると主張し,甲8,甲9,甲12には,回転ブラシの対向位置にローラを設けることは記載がないと述べる。 しかし,甲8の「ベルト支持ロール7」は,被処理物であるベルトの通過経路を挟んで,回転ブラシの反対側に配置されているものであって,被処理物であるベルトが,回転ブラシ外径の仮想円の内側に所定の干渉深さtで支持されるように配置されるものであり,押さえローラといい得る。また,甲9の「送りローラ11」も,その配置からみて,ブラシローラ16がマットに圧接して毛足の長い絨毯状のマットの毛足の奥につまっているごみや小石等を掻き出す際に,マットがブラシローラから離れないようにマットを支持する,押さえローラの役割を果たしているものと認められる。さらに,甲12の「上ローラ6D」も,「マットは上ローラ7Aとしたローラ7Bとによりブラシ群6を収める負圧室13Aの上方に搬送され,上ローラ6Dとガイドワイヤ14Aの間に挟まれて,第一の回転ローラ6Aで擦過される。」と記載されているように,被処理物であるマットの押さえローラとして機能しているものと認められる。 このように,被処理物の通過経路を挟んで,一方に押さえローラ,他方に回転ブラシを配置したものは,甲8,甲9,甲12に記載されており,「搬送のために用いられることが周知であるローラ」であるか否かに関係なく,ローラを,回転ブラシの対向位置に設けることは,周知の慣用技術であり,このような構成を採用することは単なる設計的事項にすぎないものと認められる。 なお,技術分野の相違に関する原告の主張を採用できないことは,上記イにおいて説示したとおりである。 (2) 以上のとおり,相違点1の判断@についての原告主張には根拠がなく,本件審決の判断に誤りはないというべきである。 なお,本件審決は,相違点1については,判断@,Aを示し,いずれの論理付けによっても引用例に記載された事項に基づき当業者が容易に想到することができるとしたものであるところ,相違点1の判断@に原告主張の誤りがないことは,すでに説示したとおりである。したがって,本件審決の相違点1の判断Aについての原告主張の当否を検討するまでもなく,原告主張の取消事由2は成り立たない。 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について 原告は,本件発明における回転ブラシは,対向する他方の側の押さえローラと協働して乾海苔に混入している夾雑物を除去するので,通常のシートの搬送と違って,シートに変移,変形が生じ,確実な搬送に困難を生じやすく,これを防止するための必須の構成として,回転ブラシのシートの出側と入側にそれぞれ搬送用ローラを設けているのであって,本件審決は,本件発明における回転ブラシの特殊な機能を無視する誤りを犯している旨主張する。 しかし,原告の,回転ブラシの機能に照らし,回転ブラシを設けた場合には,出側と入側に搬送用ローラが必須の構成になるという主張は,回転ブラシという構成と,出側と入側の搬送用ローラを設けることをより強く関連づけるものであって,出側と入側に搬送用ローラを設ける構成を当業者が採用する可能性をむしろ高めるものであり,本件審決が設計的事項であるとした判断を覆すものではない。 また,本件審決が例示した甲6,甲7,甲9〜甲11にも,回転ブラシの上流及び下流にそれぞれ搬送用ローラを配置したものが記載されており,この点からみても,回転ブラシのシートの出側と入側にそれぞれ搬送用ローラを設けることは,周知の慣用技術であり,そのような構成は何ら特殊なものではない。 したがって,相違点2に関する本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由3は成り立たない。 4 取消事由4(総合的判断についての誤り)について 原告は,厚さ変動を吸収できる点,及び,回転ブラシの作用が強められることは,まさに,本件発明の回転ブラシが押さえローラと協働するからこそ得られる効果であって,引用例からは到底予測不可能な顕著な効果である,と主張する。 しかし,原告が主張する効果は,被処理物の通過経路を挟んで一方に押さえローラ,他方に回転ブラシを配置した構造に共通するものであり,乾海苔の夾雑物除去に特有の効果とは認められない。したがって,仮に,本件発明が乾海苔の夾雑物除去に関する従来技術に比べて実用上の効果が優れたものであったとしても,上記構造から必然的に生ずる効果であって,予測不可能な顕著な効果ということはできない。 なお,原告は,押さえローラの高さを調節することにより,ブラシ圧を調節することができること,及び,そのことによる効果を主張するが,押さえローラの高さを調節できることは,本件特許の特許請求の範囲には記載がない。原告の主張は,特許請求の範囲の記載を離れてする主張であって,採用できない。 また,原告は,本件発明の実施品が商業的成功を収めた旨の主張もしているが,仮にそのような事実があったとしても,そのことが本件発明の構成に基づく作用効果によるものか否かは明らかでなく,上記の認定を左右するものではない。 上記のとおり,本件審決の総合的判断に誤りはなく,原告主張の取消事由4は成り立たない。 5 結論 以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,本件審決にこれを取り消すべき誤りは認められない。 したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 嶋末和秀 |
裁判官 | 沖中康人 |