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関連審決 審判1979-3498
関連ワード 公然知られ(29条1項1号) /  容易に実施 /  容易に発明 /  寄せ集め /  周知技術 /  公知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  警告 /  援用権(援用) /  不存在 /  実施 /  先使用権(先使用) /  構成要件 /  侵害 /  実施権 /  通常実施権 /  設定登録 /  審理終結通知 /  請求の範囲 /  変更 /  新たな無効理由 /  公知事実 / 
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事件 昭和 59年 (行ケ) 110号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1986/01/23
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和五四年審判第三四九八号事件について昭和五九年二月二七日にした審決を取消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文同旨の判決2 被告ら 「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
請求の原因
1 特許庁における手続の経緯 被告らは、名称を「海苔抄造方法」とする特許第八三一七一六号発明(昭和四七年三月一一日出願、昭和五一年二月二〇日出願公告、同年一〇月一二日設定登録
以下、「本件発明」という。)の特許権者であるが、原告は、昭和五四年三月三一日被告らを被請求人として、本件発明について特許無効の審判を請求し、昭和五四年審判第三四九八号事件として審理された結果、昭和五九年二月二七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年三月一七日原告に送達された。
2 本件発明の要旨(一) 海苔原藻を切断機にて切断して調合機の原料タンクに供給し、調合機により、原料タンクから回転する分割車等で桝で計量するように連続しかつ自動的に供給した定量の海苔原料に対し一定比率の水を注いで流し落し所定濃度の原料液の調合を行い、調合された原料液を抄機の原液タンクに貯溜させ、調合機の原料タンクに設けた海苔原料の量を検出する検出装置により切断機の運転をON・OFFに制御し、抄機の原液タンクに設けた原料液の量を検出する検出装置により調合機の運転をON・OFFに制御し、海苔原藻の切断より抄造迄を一貫して自動的に行うことを特徴とする海苔抄造方法(以下「本件第一発明」という。)。
(二) 海苔原藻を切断機にて切断して洗浄タンクに供給し、該洗浄タンクにて海苔原料の洗浄と研ぎを行つた後脱水して調合機の原料タンクに供給し、調合機により、原料タンクから回転する分割車等で桝で計量するように連続し、かつ自動的に供給した定量の海苔原料に対し一定比率の水を注いで流し落し所定濃度の原料液の調合を行い、調合された原料液を抄機の原料タンクに貯留させ、調合機の原料タンクに設けた海苔原料の量を検出する検出装置により切断機の運転をON・OFFに制御し、抄機の原液タンクに設けた原料液の量を検出する検出装置により調合機の運転をON・OFFに制御し、海苔原藻の切断より抄造迄を一貫して自動的に行うことを特徴とする海苔抄造方法(以下「本件第二発明」という。)。(別紙図面参照)3 審決の理由の要点(一) 本件発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(二) 請求人(原告)は、本件発明は、以下に述べる何れかの理由により特許を受けることができないものであるから、その特許は、特許法第123条第1項第1号あるいは第三号の規定によつて無効とせらるべきものであると主張して甲第一号証ないし第一三号証(本項における書証番号はすべて審判手続における書証番号による。)を提出した。
(1) 本件第一発明及び第二発明は、甲第三号証に記載されたものと同一であり、かつ甲第三号証に記載されたものが本件発明の出願前公然知られたことは甲第二号証の一ないし七に示された証拠及び証人尋問によつて立証できるから、本件第一発明及び第二発明は特許法第29条第1項第1号に該当し特許を受けることができない。
(2) 本件第一発明及び第二発明は、甲第一号証に示されたものが本件発明の出願前周知であることを考慮すれば、甲第四号証の二に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、かつ甲第四号証の二に記載されたものが本件発明の出願前公然知られたことは、甲第二号証の一ないし七及び証人尋問によつて立証できるから、本件第一発明及び第二発明は特許を受けることができない。
(3) 本件第一発明及び第二発明は、甲第五号証(実公昭五〇-三〇三九七号公報)がその出願時の昭和四五年二月一三日以前に周知であるとした第5図ないし第8図に記載されたものとは相違点があるものの、その点は前記甲第三号証に示されるように本件発明の出願前周知(その事実は証人尋問によつて立証できる。)であるから、結局、本件第一発明及び第二発明は、(@)甲第五号証に記載されたものと同一であるか、あるいは(A) そのもの及び前記本件発明の出願前周知のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第1号の規定に該当し、若しくは特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(4)(@) 本件発明の特許請求の範囲には「……海苔原藻の切断より抄造迄を一貫して自動的に行うことを特徴とする海苔抄造方法」と記載され、本件第一発明及び第二発明は切断より調合を経て抄造までを一貫して自動的に行う海苔の抄造方法を発明の要旨とするものと認められるが、発明の詳細な説明には、「切断」から「調合」、それに続く「抄造」についてそれらを具体化した装置については何らの開示もなく、切断装置と調合装置が抄造装置とどんな関係にあるか、また切断から抄造までが一貫して行いうる構成についての開示もないから、本件発明は特許法第29条第1項柱書にいう発明をなしたものとは認められない。
また同時に本件発明の明細書は記載上の不備があることになるので、本件発明についての特許は特許法第36条第4項及び第五項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
(A) 本件第一発明及び第二発明は、抄機の原液タンク及び調合機の原料タンクの二ケ所に検出装置を設けることを必須構成要件としているのに対し、発明の詳細な説明には、「原液タンク3の検出装置38により調合機の駆動モーター56と、
切断機用モーター14及び洗浄用駆動モーター129を同時にON・OFFに制御してもよい。」(公報第五頁左欄第一九行ないし第二三行)と記載されており、検出装置が一ヶ所でもよいことになり、両者の記載が一致していない。そうであれば、本件第一発明及び第二発明は明細書の記載上で前後に矛盾があり、特定されていないということになり、それは、結局、「発明の不存在」ということに他ならないから、存在しない発明に対しては、特許の与えようがなく、特許法第29条第1項柱書の要件をみたしていないものである。
また同時に発明としての特定を欠き、存在しない発明を発明としてこれに特許を与えた本件発明についての特許は、特許法第36条第4項及び第五項に規定する要件を満していない特許出願に対してなされたものである。
(5) 特許は行政処分であるから、その客体である発明が存在しない出願に対して与えた特許処分は当然無効である。
(三) 一方、被請求人(被告ら)は、請求人(原告)の主張に対して反駁するために提出した乙第一号証ないし第九号証に示された事実及び甲第二号証の五(領収証)等の証拠にみられる疑問点を勘案すると、甲第三号証及び第四号証の二に記載されたものが本件発明の出願前公然知られたことは信じられないことであり、また明細書の記載上の不備の点については、乙第一〇号証ないし第一五号証の証拠に記載されたようなものが本件発明の出願前周知であることを考慮すれば、特許請求の範囲には、切断装置及び調合装置と抄機との関連が記載されているとみるのが妥当であり、発明の詳細な説明にも抄機は原液タンクに原料液を入れれば、自動的に海苔抄きが行われることが従来周知であることが記載されているので、明細書の記載としてはその程度の記載で十分であり、これらから構成、作用効果も明らかであるから、本件発明は、特許法第29条第1項柱書にいう発明を完成したものであることはいうに及ばず、特許法第36条第4項及び第五項に規定する要件もみたしているものである。
更に乙第一六号証ないし第二二号証及び証人尋問をみても甲第三号証及び第四号証の二に記載されたものが本件発明の出願前公然知られたことは信用できるものではなく、乙第二三号証ないし第二九号証をみれば、本件第一発明及び第二発明がこの種のものでは最先のものであつて、本件発明の出願前にはそのようなものは存在しなかつたことは明らかであるから、本件発明には特許無効理由はないものであると主張して、乙第一号証ないし第二九号証を証拠として提出した。
ところで、請求人(原告)の提出した甲第一号証ないし第一三号証には、それぞれ次のものが記載されている。
甲第一号証(特公昭四六―一一八六号公報) 海苔貯蔵タンクから回転する分割車等で、桝で計量するように連続し、かつ自動的に供給した海苔原料を、その計量に対し一定比率の噴水で流し落して原料の取り出しと調合を併せ行うようにした海苔原料自動調合方法。
甲第二号証の一ないし七 株式会社釘崎鉄工所の全自動切断脱水装置代外の【A】氏外各氏への領収書の控。
甲第三号証(「全自動調合装置 全体配置図」設計図面) 切断機、原料槽、脱水篭、検知棒付調合機及び検知棒付抄機原料槽からなる全自動調合装置であつて、海苔原藻を切断機にて切断して原料槽に供給し、該原料槽にて海苔原料の洗浄と研ぎを行つた後脱水して調合機のタンクに供給し、調合機により、調合機のタンクから回転する自動計量装置によつて計量するように連続しかつ自動的に供給した定量の海苔原料に対し一定比率の水を注いで流し落し所定濃度の原料液の調合を行い、調合された原料液を抄機の原料槽に貯留させ、調合機のタンクに設けた海苔原料の量を検出する検知棒により切断機の運転をON・OFFに制御し、抄機の原料槽に設けた原料液の量を検出する検知棒により調合機の運転をON・OFFに制御し、海苔原藻の切断より抄造までを一貫して自動的に行うようにしたもの。
甲第四号証(「全自動調合装置、調合機組立図」設計図面) 全自動調合装置における調合機において機台上に下部に分割筐を有し、その中に分割車を配置し、該分割筐の上部にタンクを設け、該タンク内には動力によつて回動される掻落し棒、海苔崩板及び押込スクリユーを取り付けたものを設置したもの。
甲第四号証の二(「全自動調合装置、調合機組立図」設計図面) 全自動調合装置における調合機において機台上に下部に分割筐を有し、その中に分割車を配置し、該分割筐の上部にタンクを設け、該タンク内には動力によつて回動される掻落し棒、海苔崩板及び押込スクリユーを取り付けたものを設置するとともに、分割筐の先端の樋の下方に検知棒付抄機原料槽を配置し、海苔原料液の量を検出する検知棒により調合機の運転をON・OFFに制御するようにしたもの。
甲第五号証(実公昭五〇―三〇三九七号公報) 自動海苔調合機に於ける原料槽の調合液面制御装置において原料槽内に複数個の電極棒を設け、その電極棒の検出指令によつてその槽内に供給する調合原液の供給量の調節制御をするようにしたもの。
(甲第六号証の一ないし三、第七、第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証ないし第一三号証 省略)(四) そこで、請求人(原告)の主張する無効理由の有無について検討する。
理由(1)について 本件第一発明及び第二発明と甲第三号証に記載されたものを対比すると、本件第二発明と甲第三号証に記載されたものとは、両者ことごとく構成上一致しており、
また本件第一発明と甲第三号証に記載されたものとは、本件第一発明が切断後洗浄タンクに供給し、該洗浄タンクにて海苔原科の洗浄と研ぎを行つて脱水する行程を通さないようにした点で相違するが、この種のものにおいて海苔原料の洗浄と研ぎを行つた後、脱水するようなことは慣用のことと認められるので、前記相違点は単なる行程の削除にすぎないものと認められ、結局、本件第一発明及び第二発明は甲第三号証に記載されたものと同一であるものと認められる。しかしながら、甲第三号証に記載されたものが本件発明の出願前に製作され、公然知られたことは甲第二号証の一ないし七及び証人【B】、同【A】の証言のみによつては信用しがたいので、本件第一発明及び第二発明は特許法第29条第1項第1号に該当し、特許を受けることができないものであるとすることはできず、特許要件を具備するものである。
理由(2)について 本件第一発明及び第二発明と甲第四号証の二に記載されたものを対比すると、両者は、調合機が抄機原料槽に検出装置(検知棒)を有し、抄機原料槽に設けた海苔原料液の量を検出する検出装置により調合機の運転をON・OFFに制御するようにした点で、共通する点があるものの、甲第四号証の二に記載されたものは、本件第一発明及び第二発明の海苔抄造方法を必須構成要件としておらず、またそれを示唆する記載も見当たらない。そして、本件第一発明及び第二発明は、甲第四号証の二に記載されたものによつては期待できない海苔の抄造作業を一体不可分に関連させ、一貫して全く自動的に行うようになしたことにより、省力化、品質の向上及び作業条件の改善を図りうるという効果を期待できるものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとすることはできない。
理由(3)について (@)については、本件第一発明及び第二発明と甲第五号証に記載されたものとは、僅かに自動海苔調合機におけるタンクに検出装置に相当する検知棒を設けた点で共通するのみで、その他の点ではことごとく相違し、作用効果も別異のものであるので、仮に甲第三号証に示されたもののようなものが本件発明の出願前周知であつたとしても、本件第一発明及び第二発明は、甲第五号証に記載されたものと同一であるものとは認められない。
また、(A)については、理由(1)について検討した結果、本件第一発明及び第二発明が甲第三号証に記載されたものと同一であるが、甲第三号証に記載されたものが本件発明の出願前公然知られたことは、甲第二号証の一ないし七及び証人尋問における証言のみによつては信用しがたいので、理由あるものとすることができないという結論になつた以上、本件第一発明及び第二発明は、前記甲第五号証に記載されたもののような本件発明の出願前周知のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
理由(4)(@)について 本件発明の明細書第八頁第一一行ないし第一七行の「3は図示は省略したが従来広く使用されている周知の抄機に付設されている原液タンクで……前記した如く……従来と同様である。」の記載をみれば、抄機は原液タンク3に原料液を入れれば自動的に海苔抄きが行われるものであることは本件発明の出願前周知のことと認められるので、請求人(原告)主張の点についての記載がなくても、本件発明の明細書には本件第一発明及び第二発明が当業者が容易に実施しうる程度に記載されているものと認められ、本件発明は特許法第29条第1項柱書にいう発明を完成しているものである。
またそのように抄機は原液タンク3に原料液を入れれば自動的に海苔抄きが行われるものであることが本件発明の出願前周知のことである以上、発明の詳細な説明に「切断」から「調合」までと「抄造」との具体的関係が記載されてなくとも、前記のような記載があれば十分であり、記載上の不備はなく、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載も対応しているものと認められるから、特許法第36条第4項及び第五項に規定する要件をみたしているものである。
理由(4)(A)について 本件発明の明細書の発明の詳細な説明の記載全体からみると、請求人(原告)指摘の記載部分は、主要な部分ではなく「ON・OFFに制御してもよい。」というような記載をみても、あくまでも附帯的な記載にすぎないものと認められるから、
請求人(原告)の主張するような発明の不存在を云々するようなものでなく、本件発明の明細書には本件第一及び第二発明が当業者が容易に実施しうる程度に記載されているものと認められるから、本件発明は特許法第29条第1項の要件をみたしているものである。
また、前記記載が発明の詳細な説明全体からみれば、附帯的な記載にすぎないものであると認められる以上、その他の点にも記載上の不備は存在しないものと認められるから、本件発明は特許法第36条第4項及び第五項に規定する要件をみたしているものである。
(甲第四号証、第六号証のないし三、第七、第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証ないし第一三号証についての判断 省略) 理由(5)について (5)の無効理由は特許法第123条に規定されたものではないから、検討する必要を認めない。
(五) 以上のとおりであるから、請求人(原告)の主張する理由及び提出した証拠によつては、本件発明についての特許を無効とすることはできない。
4 審決の取消事由(一) 審決が、本件審判手続において請求人(原告)がした主張として摘示した本件発明についての特許無効理由は、前記3(二)(1)ないし(5)記載のとおりである。右のうち、(1)、(4)及び(5)については、審決摘示のとおりであることは争わないが、(2)及び(3)についての審決の摘示は誤りであり、審決には請求人の主張に対し判断を遺脱した違法があるから取消されるべきである。
(1) 審決が摘示した前記特許無効理由(2)及び(3)に関する原告の主張は、正しくは、昭和五八年一一月二四日付被請求人ら(被告ら)の第七答弁書に対する弁駁書(以下「本件弁駁書」という。)に記載した「請求人の主張する第二の無効理由」(第四頁第一四行ないし第九頁第一五行。以下、右主張を「本件主張」という。)のとおりである。すなわち、
(イ) 海苔の抄造が、原藻の切断―洗滌―脱水―水との調合―抄造の順序で行われることは、古来の常識事項に属する。
(ロ) 右の(イ)の順序での作業を連続式に行うためには、まず切断―調合―抄造の各作業を切断>調合>抄造の能力比で行うことが必要であることも、従来、当業者が技術常識として知悉していたところである。
右事実の立証 甲第二号証(本件発明の特許公報、審判手続における甲第一〇号証、以下当審の書証番号に続く括弧内の書証番号は審判手続における書証番号を示す。)第三頁右欄第四行ないし第七行。
(ハ) 調合>抄造の作業を連続自動式に行う場合に、前段の作業との連繋調和を図り、前段から後段への材料の給送が中断したり過剰になつたりせずに平均的に行われるようにするため、「後段の材料タンク内に、長さに段差のある三本の検知棒から成る電気式検出装置」を附設して置いて、その検知棒によつて、タンク内の材料液面の上限、下限を検知し、その電気式指令によつて、前段の作業をON・OFFに制御するようにすることも、本件発明の出願前からの公知技術である。
右事実の立証 前掲甲第二号証第二頁右欄第一二行、第一三行、甲第四号証(甲第四号証の二)、甲第三号証(甲第五号証)第一頁左欄第二二行ないし第二頁左欄第二三行及び第5図ないし第8図、甲第一五号証の一、二(甲第九号証の一、
二)、審判手続における証人【B】、同【A】の各証人調書なお、切断した海苔原料を洗滌し脱水した上で水との調合を行うことは昔からの必要的作業であつた。
(ニ) 切断に続いて洗滌、脱水処理を施した海苔原料を、調合機の貯溜タンクに移送した上で該タンク内の回転する分割車によつて計量しつつ取り出し、これに一定比率の水を注加して所定濃度の抄原液となし、それを抄機の原液タンク内に給送貯溜する作業を、連続かつ自動的に行う調合方法自体も、本件発明の出願前からの公知技術である。
右事実の立証 甲第一三号証(甲第一号証) 以上、(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)に挙示した基礎的な技術がすべて公知である以上、本件第一発明及び第二発明は、共に当該技術分野の機械製造技術者ならば、これらの公知技術に、当然必要な設計事項ないし類推事項を併加し総合することによつて、容易に発明しうる範囲を出るものではなく、特許法第29条第2項に該当する。
(2) そして、本件弁駁書は、昭和五八年一一月二五日特許庁に受理されたが、
本件審判手続における審理終結通知は、右受理後である同年一二月一五日付でなされ、昭和五九年一月一七日原告に到達したものであるから、本件弁駁書記載の主張は本件審判手続において適法になされた主張である。
しかるに、審決は本件主張について審理することなく、原告の主張として前記特許無効理由(2)及び(3)のとおり摘示した上、(2)については、甲第四号証(甲第四号証の二)に基づいては本件発明を容易に推考することはできないということのみで、また(3)については、甲第三号証(甲第五号証)は本件発明と同一のものとは認められず、あるいは甲第三号証(甲第五号証)に基づいては本件発明を容易に推考することはできないというのみで、それぞれ原告の主張を理由がないと判断したものであつて、審決は、本件主張について判断を遺脱した違法がある。
被告らは、審決が本件主張を正確に採り上げたとしても、同一の結論に到達したものであつて、その結論は相当として維持されるべきであるとして、本件主張に対し縷々反論しているが、特許無効の抗告審判で審理判断されなかつた公知事実との対比に基づく特許無効原因を審決取消訴訟において主張することは許されないとする最高裁判所大法廷判決の趣旨に照らし、被告らの右反論に係る主張は、本訴の審理対象となるものではない。
(二) 審決は、前記特許無効理由(1)について、甲第五号証(甲第三号証)に記載されたものが本件第一発明及び第二発明と同一発明に属するものと認めたのにかかわらず、前者の発明が本件発明の出願前国内において公知公用に属していたとの原告の主張について、甲第一二号証の一ないし七(甲第二号証の一ないし七)及び審判手続における証人【B】、同【A】の各証言のみによつては信用しがたいとし、(1)についての原告の主張を排斥したのは、証拠に対する価値判断を誤つたことに基づくものであつて、違法であるから、取消されるべきである。すなわち、
【B】は、甲第五号証の作成者であると同時に、同号証の図面に記載された装置の製造者であり、【A】は、その装置を使用して、自己の営業とする海苔の製造を、二シーズンにわたつて実施した者であり、両名の証言は、当該機械装置そのものに密着した実体験に基礎を置くものである点において、これ以上信憑性の強い証拠は他にない。
また、甲第一二号証の一ないし七は、【B】の前記証言から真正に成立したことを証明することができた前記装置等の売買に関する領収証控であり、原告が【A】から昭和四六年一二月二八日全自動切断脱水装置代として金一五万円を受領したことが記載されており、その記載については何ら疑問を挾む余地はない。
したがつて、甲第五号証記載のものが、本件発明の出願前に製造され、公然使用された事実は前記摘示の証拠によつてこれを認めるに十分であり、これらの証拠のみによつては認められないとした審決の判断は誤りである。
被告らの答弁及び主張
1 請求の原因1ないし3の事実は認める。
2 同4の審決の取消事由の主張は争う。
審決の判断は正当であつて、審決には原告の主張する違法の点はない。
(一) 原告が審判手続において提出した本件弁駁書に記載された本件主張の要旨は第二4(一)(1)記載のとおりであること及び本件審判手続における審理終結通知は、昭和五八年一二月一五日付でなされ、同五九年一月一七日原告に到達したことは認める。
しかしながら、原告が従来の主張を組み変えてなした本件主張は、要するに、本件発明の出願当時における周知技術公知技術を組み合わせれば、甲第三号証(甲第五号証)、甲第四号証(甲第四号証の二)に記載された技術を基に、調合機の原料タンク検知棒を設けこれにより切断機の運転をON・OFFにコントロールするようにすることが容易に推考できるとするものである。そして、審決は、右主張を逐語的に摘示しなかつたにせよ、右主張の要点を把握した上本件発明の容易推考性を否定したものであつて、その結論は以下(1)(2)に述べるところに照らし相当であり、原告の本件主張を正確に採り上げたとしても、同一の結論に到達したものであるから、審決には判断遺脱の違法は存しない。
(1) まず、原告が本件主張の根拠とする証拠関係について検討を加える。
原告は、本件発明の特許公報である甲第二号証には、原藻の切断、洗滌、脱水、
調合、抄造の各作業を連続的に行うためには、切断>調合>抄造の能力比で行うことが必要である旨記載されていると主張する。
しかしながら、原告指摘の箇所の記載は、単に切断機、調合機、抄造機の単位時間当たりの処理能力を比較すると、右の関係になつているので、これらを何ら制御することなく連続作業をさせると不都合が生ずる旨述べているのであつて、その趣旨は、これらの各装置を単純に連結することはできない、という点にある。そうであるからこそ、右公報には、本件発明によつてはじめて切断機、調合機、抄造機を一体不可分に関連させることができるようになつた(第六欄第三六行ないし第四三行)旨述べられているのである。
また、原告は、右公報には、検知棒によつてタンク内の材料液面の上限、下限を検知し、その電気式指令によつて前段の作業をON・OFFに制御することが公知であつた旨述べられていると主張するが、原告指摘の箇所は、検知棒が公知であつたとしているのみであり、この検知棒を用いて前段の機器(特に切断機)をON・OFFに制御することが公知であるとは一言も述べられていない。
甲第三号証(甲第五号証)に、本件主張(ハ)記載の内容が存することは認める。
甲第四号証(甲第四号証の二)については、原告は、審判手続における第一回口頭審理期日(昭和五八年一月二〇日)において、乙第二号証(甲第四号証)の原本と称する図面を提示し、証人【B】に対する主尋問を行つたところ、被告ら代理人による反対尋問の際、右図面がその写しである乙第二号証とやや異なる図面であることが発見され、しかもその作成者であるとされる同証人はその喰い違いの由来がわからず、その相違は、原本なるものにおいては、一度描かれた、調合機に付いている検知棒が消しゴムで消されていることと関連あることも明らかになつた。そこで、原告は、止むなく第二回口頭審理期日(同年五月一九日)において、同号証の差換えを申立てたが、許されず、新しい証拠として提出したのが甲第四号証(甲第四号証の二)である。そこで対比すると、乙第二号証において描かれている、調合機に付いている検知棒は甲第四号証においては抹消されており、かつ抄機原料槽及びこれに付属する検知棒が付加された他は、筆跡、作成日、その他の点で酷似しており、書類の改変が行われたものであることが容易に推測でき、したがつて信憑性のきわめて薄い証拠であることが明らかである。
甲第七号証の二(審判手続における証人【B】の証人調書)については、同人は、原告会社が被告らから特許侵害警告書を受けた後に発した回答書に真実と異なることを平然と書いていること、原告会社の従業員は数十名にすぎず、【B】はその総務部長であるのにかかわらず、【A】の妻が原告会社に勤めていたことを知らないと証言していること、甲第四号証、第五号証の図面には製図欄に「【C】」なるサインがあり、検図欄に「【B】」の捺印があるのにもかかわらず、「【C】のことは知らない」とか「この図面は自分が描いた」とか述べ、一方、別訴(名古屋地方裁判所昭和五五年(ワ)第一七一三号事件)においては、図面中のややくずれた文体の「調合機」、「切断機」等の文字は【B】が書き、その他は【C】が書いたが、【C】の住所や勤務先、経歴等は解らないと証言内容を変更するなど、信用性が低い証言である。
また、甲第八号証の二(審判手続における証人【A】の証人調書)については、
同人の妻は原告会社に勤めていたこともあり、原告とは何らの利害関係も有しない公正な第三者とはいい難く、甲第五号証記載の装置を二シーズンの間公然と使用したと証言するが、同人の住所地である福岡県には一〇社を超える多数の海苔機械メーカーが存在し、互いに新製品の開発を競い、新製品に対する関心が高いので情報の伝達がきわめて迅速であるのに、原告の近隣の同業者、海苔機械大手メーカー、
漁業共同組合、【A】の近隣の海苔業者のいずれも右装置が【A】により使用されたことを聞いておらず、その信用性は低いことが明らかである。
甲第一三号証(甲第一号証)に、本件主張(二)記載の内容が存することは認める。
甲第一五号証の一、二(甲第九号証の一、二)については、この写真のみでは、
写真に示された装置が多数販売されたか否か、それが公然と使用されたか否かは明らかでない。
(2) 原告は、甲第四号証記載の装置又は甲第三号証記載の発明と本件発明の出願当時の周知技術公知技術を組み合わせれば本件発明を容易に推考しうると主張する。
しかしながら、昭和四六年当時、海苔原藻を切断機へ自動的に供給しうる切断機なるものは公知ではなく、被告らの多大の研究開発の成果によりはじめてそのような切断機が生み出され、ひいては本件発明のように全体を自動的に運転して海苔を抄造しうるようになつたのである。したがつて、原告が主張するような抄機の原液タンク内の検出装置により調合機の運転をコントロールしうるような装置が公知であつたとしても、容易には本件発明の方法に到達しえなかつたものである。そもそも、抄機の原液タンク内の検出装置により調合機の運転をON・OFFにコントロールしうることを知つた海苔機械メーカーは、誰れしも、更に一歩進め、調合機の原料タンクにも検出装置を設け、これによつて切断機の運転をもON・OFFに制御したいと考えたのであるが、長い間この方法が行われなかつたのは、表面的には似た技術であつてもそこには超え難い諸難問が伏在していたためであり、被告らはこれらを一つづつ根気よく解決した結果始めて全体を自動的に操作しうる方法に達したのである。
また、甲第三号証に、「しかしこの従来のものは(中略)第8図のように電極棒B、C、Dに(「の」は「に」の誤記と認める。)海苔b1が巻きつきb1に含まれ或いは附着している水分が導電媒体となつて電極俸B、C、Dが互いに導通し合い、(中略)モーターMおよび調合装置1の作動を停止する誤作動を引き起し易い。」(第三欄第五行ないし第二〇行)と記載されているように、本件発明の出願前には当業者間に海苔と水の混合液でさえも電極棒による液面の検出に誤作動が伴うという認識があつたくらいであるから、当業者において水分が殆どない海苔原料のみが収容されている調合機の海苔原料の量を電極俸で検出することを想到しえないことは容易に了解しうるはずである。そもそも調合機の原料タンク内の海苔原料は切断機で細断された形状の不均一な葉体であり、これを分割車内へ送り込むために揺動又は回動する移動板によつて上下動することによつてその表面は常に凹凸の状態になつているのであるから、このような海苔原料の量を電極俸で検出する公知技術は存在しなかつたのである。
(二)(1) 審決は、原告主張の特許無効理由(1)を判断するについて、甲第五号証(甲第三号証)に記載されたものが本件第一発明及び第二発明と同一であると認定している。
しかしながら、甲第五号証記載の装置は、@ 単に押し込み翼を有するにすぎないから、原藻の自動供給ができない、A 切断機のスクリユーは、調合機のスクリユーを利用したもの(審判手続における証人【B】の証言)とされているが、調合機のスクリユーとは目的が異なるので、先太で、かつピツチは先へ行くほど小さくなければならない、B 調合機の樋の部分を接続フランジで切り離し、代わりにナイフ、多孔板、止めリングを装着すると、調合機を切断機として転用できるとされている(審判請求時に提出された原告の説明書)が、両機のスクリユーは形が異なり、かつ回転速度を異にするので、そのようなわけにはいかない等の不都合があり、本件発明におけるように、「海苔原藻の切断より抄造迄を一貫して自動的に行う」ことができないから、審決の右認定に関する部分は誤りである。
(2) 仮に、右主張が審判取消訴訟の性質上許されないものであるとしても、甲第五号証記載のものは、本件発明の出願前公然と使用されたことがなく、特許無効理由(1)についての原告の主張は失当である。すなわち、
甲第五号証については、被告両会社職員が昭和五四年一月一八日、原告の主張する先使用による通常実施権について確認のため、原告会社総務部長【B】らと面談した際、原告側は、【B】が甲第一一号証の一のスケッチを描いて示し、「他から購入した切断機の上に図示のような調合機のタンクを載置したものを作つたが、その事実の証拠方法となる図面、注文書、売上台帳等は何もない。右の装置は実用できなかつたもので、【A】宅に置かれた当該装置は使用されなかつた。」と回答したにもかかわらず、その後の審判手続において、【A】が使用したものの図面であるとして提出されたものであり、甲第一一号証の一のようなポンチ絵程度の図面しか描けなかつた【B】がその後突然甲第五号証のような詳細な図面が描けるようになつたとも考えられない。また、甲第一二号証の一ないし七は、前記面談時にはないとされていたのにかかわらず、その後の審判手続に至つて提出されたものであり、その内容にも不自然、不合理な点があるので、これをもつて使用可能な全自動海苔製造機が販売されたと認定することはできない。そして、【B】、【A】の各証言の信用性が低いことは前記(一)(1)において述べたとおりである。更に、
甲第五号証記載のものには、前記(二)(1)@ないしBのほか、原藻を切断するナイフを取り付けた回転軸(4)aとスクリユー形の移送翼を有する筒軸(4)bと同じような速さで回転しなければ原藻が切断できないのに、(4)aは高速回転をし、(4)bはきわめて低速で回転するものとなつている、(4)aが定速回転するのに対し、(4)bは間欠的に回転し、しかもその回転中の速さは一定ではなく正弦波様に変化するので、原藻の定量裁断ができないばかりでなく、原藻の押し出しの速さが遅い部分では原藻は押し潰されて粉々になつてしまう等の問題点があり、これが全自動海苔抄造機として作動していたとは考えられず、このことは、原告が審判手続において乙第一二号証(審判請求書中訂正申立書)を提出して右図面を訂正せざるをえなかつたことからも明らかである。
証拠開係(省略)
理 由1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
(一) 成立に争いのない甲第七、第八号証の各一、第一八号証ないし第二〇号証、第二五号証ないし第二七号証及び乙第一号証によれば、本件審判事件における審判請求から審理終結に至るまでの審理経過と、原告が請求人としてした主張関係は、次のとおりであることが認められる。
(1) 原告は、昭和五四年三月三一日被告らを被請求人として本件発明について特許無効の審判を請求し、昭和五四年審判第三四九八号事件として受理されたが、
右審判請求書には、本件発明の特許無効理由として、審決摘示の理由(1)及び(2)(本判決事実摘示第二3審決の理由の要点の(二)(1)及び(2)参照。
以下同様である。)と同旨の主張、すなわち(1)については、「その一、B公知例との比較」と題する部分(同書第一〇頁第六行ないし第一二頁第五行)、(2)については、「その二、A公知例との比較」と題する部分(同第一二頁第六行ないし第一六頁第二行、なお(1)、(2)の証拠方法中書証に関し第一七頁第一三行ないし第一九頁第六行)が記載されている。
(2) 次いで、原告は、特許庁審判長に対し、昭和五六年二月一五日付「審判請求理由の追加」、同年七月二四日付「審判請求理由の追加(第二回)」と題する各書面を提出したが、本件発明の特許無効理由として、前者には審決摘示の理由(3)(@)(A)と同旨の主張が、後者には審決摘示の理由(4)(@)と同旨の主張が記載されている。
(3) 本件審判事件については、昭和五八年一月二〇日及び同年五月一九日口頭審理が行われ、証人【B】、同【A】の証人尋問等が行われたが、第二回口頭審理期日の終了に際し、審判長は出頭した請求人及び被請求人ら代理人に対し、以後の審理は書面審理にする旨告知した。
(4) 原告は、特許庁審判長に対し、昭和五八年七月二七日付「第三回追加理由書(新たな無効理由の追加主張)」と題する書面を提出したが、右書面には、本件発明の特許無効理由として、審決摘示の理由(4)(A)及び(5)と同旨の主張が記載されている。
(5) 更に、原告は、特許庁審判長に対し、昭和五八年一一月二四日付「被請求人の第七答弁書に対する弁駁書」と題する書面(本件弁駁書)を提出したが、右書面には、審判請求書の「その二、A公知例との比較」と題する特許無効理由は、その論旨の全部を組み換えて主張する旨記載されており、組み換えた主張の要旨は次のとおりである。
a 海苔の抄造作業が、原藻の切断―洗滌―脱水―水との調合―抄造の順で行われることは、昔から常識として行われてきた事実である。
b 前記のうち、切断と調合と抄造の各装置の作業能力比を、切断>調合機>抄機とするこも従来常識として行われてきたことであり、このことは甲第二号証(本件発明の特許公報、甲第一〇号証)第三頁右欄第四行ないし第七行において被告らの自認するところである。
c 切断の次工程として、切断された海苔片に対しては、水による「洗滌」とその汚れた洗滌水を除去するための「脱水」工程が介入されることも不可欠の工程として従来から当業者のすべてが実施してきたところである。
d 他方、調合と抄造の二工程を連続かつ自動的に行うため、後工程の準備態勢である抄造用原液タンク内に電気式検知装置を挿入して置いて、該タンク内の原料液面の上限及び下限をこれによつて検知し、その検知装置と前位の調合機の作動とを電気的に関連させて、その作動を自動的に停止したり、再開させたりすることが本件発明の出願前から公知公用であつたことは、甲第四号証(甲第四号証の二)、
【B】、【A】の各証言のほか、第三者の出願に係る甲第三号証(甲第五号証)の第5図から第8図にわたつて、従来の公知公用の制御装置として同一のものが表示されていることからも証明されている。
e また、洗滌、脱水を終えた切断海苔原料を「調合機によつて、原料海苔を原料タンクから、回転する分割車等で桝で計量するようにしながら連続かつ自動的に供給し、それに一定比率の水を注加して、流し落して一定濃度の原料海苔液に調合し、これを抄機の原液タンクに給送貯溜する方法」は、甲第一三号証(甲第一号証)により本件発明の出願前公知である。
f そうであれば、dにおいて前工程と次工程との間に介設したと同旨の制御装置を、切断装置からみれば次位に当る調合装置との間にも介設して、切断装置から調合装置を経て抄造装置までを、連続かつ自動的に行いうるようにして本件第一発明と同一の方法とすること、及びその連続自動式装置における切断装置の次に「洗滌と脱水」の装置を介設して本件第二発明と同一の方法にすることは、当業者において容易になしうることである。
(6) 本件弁駁書は、昭和五八年一一月二五日特許庁審判部に受理され、特許庁審判長の本件審理終結通知は、その受理後である同年一二月一五日付でなされ、同五九年一月一七日原告に到達した(右審理終結通知については、当事者間に争いがない。)。
以上の事実が認められ、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。
右の事実によれば、審決が特許無効理由(2)として摘示した原告の主張は、審判請求書に記載された主張に基づくものであるところ、右主張は本件審判手続において適法に主張された本件弁駁書記載の前記(5)の主張(以下の判決理由中では、前記(5)の主張を「本件主張」という。)のとおり変更されたものであることが明らかである。
したがつて、審決は、本件主張を審理の対象とし、これに対する判断を示すべきであるのにかかわらず、特許無効理由(2)を審判請求書の記載に基づき、摘示し、該主張に対する判断として、単に本件第一発明及び第二発明と甲第四号証(甲第四号証の二)に記載されたものとのみを対比し、後者には「本件第一発明及び第二発明の海苔抄造方法を必須構成要件としておらず、またそれを示唆する記載も見当たらない。そして、本件第一発明及び第二発明は、甲第四号証に記載されたものによつては期待できない(中略)効果を期待できるものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとすることはできない。」と説示したものであるから、審決は、本件主張について判断を遺脱したことは明らかである。
なるほど、審決は、他方において、その摘示する特許無効理由(3)に対する判断として、本件第一発明及び第二発明は甲第三号証のような右発明出願前周知のものに基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない旨説示しているが、右判断は、本件主張に組み替えられる以前の主張に対するものとして、もつぱら甲第三号証のみに基づく本件発明の容易推考性の有無を考究した結論を示したものにすぎず、このような判断と前述した審決摘示の特許無効理由(2)に対する判断とを寄せ集めてみても、これをもつて本件主張に対する判断が示されたものと評価することはできない。
(二) ところで、成立に争いのない甲第二号証によれば、本件発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、海苔抄造の従来技術及びその欠点、本件発明の目的、方法に関し、海苔の抄造は、採取した原藻の洗滌、切断、調台、抄造の工程に大別されるが、原藻は採取したものを当日中に抄造し終らなければならないこと、しかし家庭内の限られた労働力で短時間に処理を行うという特殊な作業条件に加え、寒冷期の水仕事であるため若年労働者に嫌悪される等して労働力の不足が著しいこと、
このため従来でも高速の自動海苔抄機や調合機、原藻切断磯が実用に供されていたが、これらは個々独立して作業を行うため、作業能率が悪く、長い作業時間と相当の人手を要し、また切断した海苔原料を長時間放置するため鮮度が低下する等の欠点があつたこと、「本発明は海苔原藻の切断より、所定濃度に調合した原料液を抄機の原液タンクに貯留し、この原料液を抄機に汲上げて抄造を行う全ての作業を一貫して自動的に行い、更に原液タンク、調合機の原料タンクの夫々に検出装置を設けて両タンク内の原料液及び海苔原料の増減を検出し、原料タンクに設けた検出装置により切断機の運転をON・OFFに制御し、原液タンクに設けた検出装置により調合機の運転をON・OFFに夫々制御して連続作業を可能にした海苔の抄造方法に係り、上記した従来の欠点を除いて抄造作業の合理化と品質の向上を図るもの」(本件発明の特許公報第二欄第三一行ないし第三欄第五行)であること等が記載されていることが認められる。
右の記載によれば、海苔の抄造は従来から原藻の洗滌、切断、調合、抄造の工程を経るものであること、本件発明の出願当時、高速の自動海苔抄機、調合機、原藻切断機が実用に供されていたことが認められるから、本件発明において、これらの機械を用いて右の工程を行うこと自体に格別の発明力が存するものでないことは明らかである。
そして、調合と抄造の工程を連続かつ自動的に行う場合において、原告が本件主張において援用する成立に争いのない甲第三号証(実用新案出願公告昭五〇―三〇三九七号実用新案公報)によれば、右実用新案公報には、同公報記載の実用新案の出願(昭和四五年二月一三日)当時の従来技術として、「毎苔と水とを適当な混合比に調合する自動海苔調合機は、普通海苔抄機の原料必要量よりも能力に余裕をもたせてあり、調合された原料海苔は、一旦原料槽に貯溜されて、さらに調合の均一化と共に使用量と供給量のバランスが計られる。このバランスを制御する装置として、原料槽内の調合液面の高低を検出して調合機を作動或は停止して原料槽内に流入する調合原料海苔を制御するような装置が施されている。」(第一欄第二五行ないし第三三行)と記載され、同公報第5図ないし第8図に基づき、抄機の原液タンク内に本件発明の明細書及び別紙図面第1図第2図に実施例として示されたものと同一の三本の電極棒(検知棒)を平行に植設し、これを電源に接続して原料液の量を検出し、調合機の運転をON・OFFに制御する装置が開示されていることが認められ(甲第三号証に、抄造原料槽内に三本の検知棒から成る電気式検出装置を附設して置いて、これによつて原料液の量を検出し、調合作業をON・OFFに制御するようにするのが本件発明の出願前からの従来技術である旨の記載があることは当事者間に争いがない。)、同公報は、本件発明の出願後に刊行されたものであるが、同公報記載の従来技術は、本件発明の出願前の技術水準を示すものであることはその記載自体から明らかであるから、本件発明の採用する抄機の原液タンクに設けた原料液の量を検出する検出装置により調合機の運転をON・OFFに制御することは、この点につき原告の援用する他の証拠を検討するまでもなく、また被告らの主張事実(事実摘示第三2(一)(1)参照)のうちそれらの証拠が上記調合機の電気的制御の技術内容を示すものでないとする部分について判断をするまでもなく、本件発明の出願前公知技術であつたというべきである。
また、本件発明が採用する前記調合手段については、原告が本件主張において援用する成立に争いのない甲第一三号証(特許出願公告昭四六―一一八六号特許公報)によれば、右特許公報には、自動調合機のタンクヘ原料を必要量供給するだけで、海苔梳機(抄機)の能力に応じ、常に一定量の原液を連続かつ自動的に調合するために、「海苔貯蔵タンクから回動する分割車等で、桝で計量するように連続し、且つ自動的に供給した海苔原料を、その計量に対し一定比率の噴水で流し落して原料の取り出しと調合を併せ行なうようにすることを特徴とする海苔原料自動調合方法。」(特許請求の範囲1)が記載されていることが認められるから(甲第一三号証に、海苔原料を貯溜タンクから回転する分割車によつて計量しつつ取り出し、これに一定比率の水を注加して調合する自動調合方法が記載されていることは当事者間に争いがない。)、右記載からみて、本件発明の出願前公知技術であつたというべきである。
もつとも、原告が本件主張において援用する証拠方法を検討しても、本件発明の採用する切断機の運転をON・OFFに制御することが本件発明の出願前公知技術であつたことを認めるに足りない。
しかしながら、前記のとおり本件発明の出願当時、海苔の抄造において、高速の自動海苔抄機、調合機及び原藻切断機が実用に供されていたこと、調合及び抄造工程を連続自動化するため本件発明におけるように調合手段と抄機の原液タンクに設けた検出装置により調合機の運転を制御する手段を採用することが公知技術であつたこと、海苔の抄造は労働集約的な産業であり、労働力不足を解決する必要に迫まられていたこと等を踏まえ、更に原告が本件主張中で述べている諸般の技術事項を解明し、これらに基づき本件発明の容易推考性を検討するならば、当業者にとつて、切断機の運転をも電気的に制御するように構成することにより、連続自動化した調合及び抄造工程に洗滌、切断工程をも加えて、海苔原藻の切断より抄造までを一貫して自動的に行うことを特徴とする本件発明の海苔抄造方法を想到することは容易とはいえないと断定することはできないものというべきであるから、審決が原告の主張するところを正解し、これについて所要の審理を行つたならば、その判断いかんによつて審決の結論が異つた蓋然性なしとはいえない。
なお、被告らは、原告が従来の主張を組み変えてなした本件主張は、要するに、
本件発明の出願当時における周知技術公知技術を組み合わせれば、甲第三号証、
甲第四号証に記載された技術を基に、調合機の原料タンクに検知棒を設けこれにより切断機の運転をON・OFFにコントロールするようにすることが容易に推考できるとするものであるところ、審決はその容易推考性を否定したものであつて、その結論は本訴において被告らの主張する事実に照らすと相当であり、本件主張を正確に採り上げたとしても、同一の結論に到達したものであると主張するが、審決は適法になされた本件主張について審理したうえ当該結論を示したものでないこと前説示のとおりであるから、本件訴訟において本件主張について判断を示すことは、
当事者に保障されている訴訟の前段階における専門行政庁たる特許庁の審理判断を受ける利益からみて相当でなく、本件主張の当否に直接に係わる前記被告らの主張事実(事実摘示第三2(一)(2)参照)について判断することも許されないものというべく、したがつて、審決が本件主張を正確に採り上げたとしても、同一の結論に到達したものであるとする被告らの主張は、前提において、失当とするほかない。
(三) 以上の次第であるから、審決には特許無効審判請求事件において請求人が適法になした主張について判断を遺脱した誤りがあり、その誤りは審決の結論に影響をおよぼす蓋然性があるものと認められるから、原告の主張するその余の取消事由について判断するまでもなく、審決は違法として取消されるべきである。
3 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求は正当として認容することとし、
訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条第93条の各規定を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 蕪山嚴
裁判官 竹田稔
裁判官 濱崎浩一