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関連審決 不服2003-24657
関連ワード 発明者 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  優先権 /  実質的に同一 /  着想 /  援用権(援用) /  容易に想到(容易想到性) /  構成要件 /  のみ用いる /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 390号 審決取消請求事件
原告X
原告 三栄商事株式会社
原告 株式会社タツミ
原告 新光産業株式会社
原告 株式会社TWRホールディングス
原告 西日本金網工業株式会社
原告 株式会社札幌山水
原告ら訴訟代理人弁理士 横沢志郎,市原俊一
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 伊波猛,高橋祐介,立川功,井出英一郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
「特許庁が不服2003-24657号事件について平成16年7月21日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,原告らが,後記本願発明の特許出願をしたが拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願発明 出願人:原告ら7名(原告株式会社TWRホールディングスは,出願時の商号は「株式会社テザック」であり,平成15年11月4日に現商号に変更された。) 発明の名称:「鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁枠ユニット,継ぎ手筋ユニットおよび継ぎ手構造」 出願番号:特願2001-50609号 出願日:平成13年2月26日(優先権主張:平成12年11月22日,平成13年1月19日,日本) (2) 本件手続 手続補正日:平成15年9月2日(本件補正。甲3) 拒絶査定日:平成15年11月17日 審判請求日:平成15年12月19日(不服2003-24657号) 審決日:平成16年7月21日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成16年8月2日(原告らに対し) 2 本願発明の要旨(本件補正後の請求項1に係るもの。請求項2ないし13の記載は省略。) 【請求項1】 所定間隔で平行に延びる上下の梁主筋と,これらに対して所定のピッチでスポット溶接されたあばら筋とを備え,前記梁主筋と前記あばら筋とのスポット溶接強度が,鉄筋母材の規格降伏点強度以上とされていることを特徴とする鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニット。
3 審決の理由の要点 (1) 審決は,特開平8-71768号公報(本訴甲4)を引用例として摘示した(引用例に記載された発明を「引用発明」という。)。
(2) 審決は,本願発明と引用発明との一致点を次のとおり認定した。
「引用発明における建設用鉄筋コンクリート構造躯体が鉄筋コンクリート梁を含むものであることは明らかであるから,引用発明の「主筋」,「補助筋」,「シングル配筋用鉄筋枠体」は,それぞれ,本願発明の「梁主筋」,「あばら筋」,「鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニット」に相当し,また,引用発明の「交差部が相互に食い込む状態で加圧し,かつ加熱して一体化する」との技術事項と本願発明の「スポット溶接された」との技術事項とは,「一体的に接合された」という点で共通しているから,両者は,「所定間隔で平行に延びる上下の梁主筋と,これらに対して所定のピッチで一体的に接合されたあばら筋とを備える鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニット」の点で一致(する)」 (3) 審決は,本願発明と引用発明との相違点を次のとおり認定した。
「<相違点> 本願発明では,一体的に接合する手段がスポット溶接であって,その溶接強度が鉄筋母材の規格降伏点強度以上とされているのに対し,引用発明では,そのような事項を有していない点。」 (4) 審決は,上記相違点について,次のとおり判断した。
「引用例の従来の技術にも開示されているが,鉄筋相互の一体的接合手段としてスポット溶接は周知技術であり,また,所定間隔で平行に延びる鉄筋(主筋)とこれらに対して所定のピッチで一体的に溶接された鉄筋(あばら筋)とを備える鉄筋枠ユニット(鉄筋コンクリート構造躯体のシングル配筋用筋枠ユニット)も周知技術(例えば,原査定の拒絶の理由に引用された,実願平1-23525号(実開平2-113625号)のマイクロフィルム,実願昭59-43728号(実開昭60-154443号)のマイクロフィルム等を参照。)である。ところで,本願発明において,「溶接強度が,鉄筋母材の規格降伏点強度以上とされている」のは,「梁筋とあばら筋のスポット溶接強度は,それらの母材の規格降伏点強度よりも高いので,鉄筋が降伏状態になる前に溶接部分が破断あるいは分離することはない。
このために,コンクリートは圧縮破壊状態に至っても,ユニットによって保持されているので,鉄筋コンクリート梁全体としての靭性を高め,その脆性破壊を防止できる。」(段落【0014】)ようにするためであり,一方,引用発明では,鉄筋が降伏状態になる前に溶接部分が破断あるいは分離することがないように,交差部が相互に食い込む状態で加圧し,かつ加熱して一体化している。しかしながら,請求人(判決注:原告ら)も審判請求書において認めているように,鉄筋コンクリート梁の配筋設計の分野における技術常識を踏まえれば,「溶接部の強度を大きくするためにはスポット溶接強度を大きくすればよいこと」は,当業者にとって自明であって,このようにすることは,当然の帰結というべきものであるから,引用例記載の技術課題を解決するために,上記当業者にとっての自明の技術事項を採用して,上記周知の鉄筋枠ユニットと同一の構造である,所定間隔で平行に延びる上下の梁主筋とこれらに対して所定のピッチでスポット溶接されたあばら筋とを備える鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットについて,鉄筋が降伏状態になる前に溶接部分が破断あるいは分離することがないように,すなわち,スポット溶接部の強度を大きくするために,スポット溶接強度を鉄筋母材の規格降伏点強度以上とすることは,当業者が容易に想到し得る程度のことにすぎない。
そして,本願発明によってもたらされる全体的効果も,引用発明及び周知ないしは当業者に自明の技術事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって,格別なものとはいえない。」 (5) 審決は,次のとおり結論付けた。
「本願発明は,引用発明及び周知ないしは当業者に自明の技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」
原告らの主張(審決取消事由)の要点
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明の一致点として,「所定間隔で平行に延びる上下の梁主筋と,これらに対して所定のピッチで一体的に接合されたあばら筋とを備える鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニット」の点で一致すると認定したが,誤りである。
(2) 引用例(甲4)の従来の技術の欄には,「コンクリート内に埋設する鉄筋は,コンクリート構造物に作用する引張り力を負担して構造物の強度を確保するために用いるものである。そのために鉄筋は,主筋とそれに直交する方向の補助筋によって枠状に組み立てられるのが普通である」と記載されている。しかし,主筋に関する記載は,当該記載部分及び図面による開示だけであり,これらの記載からは,主筋が「上下」の位置関係で平行に延びている構成であるか否かは不明である。また,引用例には,引用例記載の鉄筋枠体を,主筋を上下に配置して鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットに用いるという記載あるいは示唆は見当たらない。
(3) 一般的な鉄筋コンクリート梁のシングル配筋では,一定間隔で平行に配置した上下の主筋に対して,一定のピッチで,上下の端部にフックが形成されたあばら筋を配置した構成とされ,各あばら筋は結束用の細い針金によって上下の主筋に結束される。したがって,あばら筋は,位置ずれがしないように上下の主筋に結合されていればよく,あばら筋と上下の主筋の結合強度を高める必要はない。
この理由は,日本建築学会編集著作「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」(甲5)による梁筋の設計手法では,鉄筋コンクリート梁に作用する応力は,鉄筋とコンクリートの間の付着力を介して伝達されることを前提としており,上下の主筋とあばら筋の結合強度は,設計手法において考慮されないからである。
(4) 本願発明のように,あばら筋の上下の端部がスポット溶接によって上下の主筋に接合された構成の鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットは,あばら筋の上下の端に形成したフック及び結束用の針金の代わりに,スポット溶接を採用して,あばら筋の上下の端を上下の主筋に接合しているのである。
したがって,フックと結束用針金を用いている一般的な鉄筋コンクリート梁のシングル配筋の場合と同様に,上下の主筋とあばら筋の間のスポット溶接部の強度を高める必要性はない。
逆に,鉄筋により引張り力を受け持ち,圧縮力をコンクリートによって受け持つのであるから,スポット溶接強度を抑制して,鉄筋の靭性が損なわれないようにすることが望ましいとされている。
(5) この点について,本願の当初明細書(甲2)には,「住宅用の梁配筋は,一般的には,現場で上下の梁筋を配置し,これらの間に,一定間隔で,上下にフックの付いたあばら筋を組み付けることにより構成される。このような配筋作業は手間がかかるので,上記のように,フックを付ける代わりに溶接であばら筋の上限端を梁筋に結合する場合がある。この場合においても,鉄筋の靭性を損なうことの無いように,鉄筋の溶接強度は鉄筋母材の規格降伏点強度の1/3から2/3程度となるように管理されている。」(3頁左欄43行〜右欄1行)と記載されている。
(6) また,国土交通省の外郭団体である財団法人日本建設センターが制定した内規(甲6)である「組立鉄筋の取り扱いについて-布基礎及びべた基礎の立上り部に,スポット溶接等により接合された補強筋(主筋及びせん断補強筋)を用いる場合-」における第2条第1項(2)には,「せん断補強筋の溶接点のせん断強度は,短期のせん断補強の許容応力度の1/3以上かつ2/3程度とする。」と規定されている。
ここで,「短期のせん断補強の許容応力度」とは,鉄筋の規格降伏点強度を示している。この規定は,本件出願時におけるものであり,本件出願当時,「せん断補強筋の溶接点のせん断強度は,短期のせん断補強の許容応力度の1/3以上かつ2/3程度」に抑制されていたのである。
(7) よって,上下の主筋と,これにスポット溶接されたあばら筋を備えた鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットにおいて,引用発明におけるような「鉄筋aを相互に点溶接bして一体化する構成では鉄筋は相互に点接触しているだけであるから溶接部における強度が小さく,十分な応力伝達を期待できなかった」(甲4の2頁左欄45〜48行)という問題点あるいは解決すべき課題は,そもそも,存在していなかったのである。
(8) さらに,引用発明では,「交差部が相互に食い込む状態で加圧し,かつ,加熱して一体化」(特許請求の範囲)しているのであるから,主筋と補助筋の結合において,主筋及び補助筋に断面欠損が生ずることになる。
鉄筋コンクリート梁の構造計算においては,上下の主筋及びあばら筋の公称断面積に基づき計算が行われる。例えば,構造計算に用いられる鉄筋の許容応力度の値は,前記「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」(甲5)の41頁の表4「鉄筋の許容応力度(N/mm2)」に記載されているが,断面欠損が発生している場合には,これらの値を用いて計算することができない。
このことは,断面欠損が発生している引用発明は,少なくとも鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットとして採用不可能であることを表している。
(9) 引用例には,鉄筋交差部の食い込みについて,「1/2,あるいは1/3といった程度に調整する」(甲4の2頁右欄29〜33行)と記載されている。このように,引用発明は,鉄筋交差部を相互に1/3以上も食い込ませた構成であり,当業者の技術常識からすれば,当該構成は鉄筋の断面欠損が大き過ぎ,構造計算ができないので,鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットに用いることは不可能である。
(10) 以上を要するに,次のようにいえる。
引用発明は,鉄筋コンクリート梁の配筋として採用する点については記載あるいは示唆されていない。
また,鉄筋コンクリート梁の配筋設計においては,上下の主筋とあばら筋の結合が小さいので,十分な応力伝達ができないという問題点あるいは課題は存在していない。
さらに,鉄筋コンクリート梁の配筋設計においては,鉄筋の靭性が損なわれないようにするために,スポット溶接強度を抑制しており,上下の主筋にあばら筋をスポット溶接する場合においても溶接強度を低く抑制することが当業者の技術常識であった。
さらには,鉄筋コンクリート梁の配筋設計においては,上下の主筋及びあばら筋は断面欠損がないことを前提に構造計算を行っており,断面欠損が生ずる引用発明を,鉄筋コンクリート梁の配筋に採用できないことは,当業者にとっては自明のことである。
以上のような点にかんがみれば,当業者にとっては,引用発明を鉄筋コンクリート梁の配筋用のものであると認識することはなく,鉄筋コンクリート躯体における限られた部位に用いるワイヤメッシュなどのスラブ筋としてのみ用いることができるものであると理解するはずである。
よって,引用発明は,本願発明のような鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットを含んでおらず,この点において審決の認定には誤りがある。
2 取消事由2(本願発明の容易想到性判断の誤り) (1) 審決は,「所定間隔で平行に延びる上下の梁主筋とこれらに対して所定のピッチでスポット溶接されたあばら筋とを備える鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットについて,鉄筋が降伏状態になる前に溶接部分が破断あるいは分離することがないように,すなわち,スポット溶接部の強度を大きくするために,スポット溶接強度を鉄筋母材の規格降伏点強度以上とすることは,当業者が容易に想到し得る程度のことにすぎない。」と判断したが,誤りである。
(2) 前記のとおり,引用発明は,鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットに関するものではない。
また,鉄筋コンクリート梁の配筋設計の分野においては,シングル配筋用梁筋枠ユニットにおいて,引用発明におけるような「鉄筋aを相互に点溶接bして一体化する構成では鉄筋は相互に点接触しているだけであるから溶接部における強度が小さく,十分な応力伝達を期待できなかった」という問題点あるいは解決すべき課題は存在していなかった。
さらに,スポット溶接強度は,せん断補強筋の降伏点強度の1/3〜2/3に抑制すべきものであるとされていた。
(3) したがって,スポット溶接が周知技術であり,鉄筋枠ユニットが周知技術であり,また,溶接部の強度を高めるためにはスポット溶接強度を高めればよいことが自明であったとしても,鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットのスポット溶接強度を高めなければならない必要が存在しないのであるから,当該スポット溶接強度を従来の技術常識を覆して高めようとする着想あるいは動機付けを得ることは不可能ないし困難である。
(4) また,引用発明は,鉄筋コンクリート梁の配筋に関するものではなく,鉄筋コンクリート梁の配筋に適用することが不可能なものであるから,引用発明において,鉄筋が降伏状態になる前に溶接部が破断あるいは分離することがないように,交差部が相互に食い込む状態で加圧し,かつ,加熱して一体化している点が開示されているからといって,これに基づき,鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットのスポット溶接強度を鉄筋母材の規格降伏点強度以上にするという着想あるいは動機付けを得ることは不可能である。
(5) さらに,本願発明は,本願発明の発明者等による既存の鉄筋コンクリート梁の配筋設計手法とは異なる新たな考え方に基づき誕生したものである。
(6) よって,本願発明を当業者が容易に想到できたものであるとする審決の判断は,誤りである。
3 取消事由3(本願発明の効果の予測可能性についての認定の誤り) (1) 本願発明は,本件出願時における当業者の技術常識を覆す,全く新たな鉄筋コンクリート梁の配筋設計手法に基づいてなされたものである。
本件出願時の当業者の技術常識によれば,「鉄筋においては,溶接により焼きが入ると,その硬度は増すものの靭性が低下してしまい,伸び率が低下し脆弱になってしまう。鉄筋コンクリート構造では鉄筋により引っ張り力を負担させ,脆性破壊を防止しているので,鉄筋には十分な伸び率が要求される。かかる観点から,梁,柱等の継ぎ手部分には溶接の使用を極力避けるようにしている。」(当初明細書(甲2)3頁左欄36〜42行)。また,フックを付ける代わりに溶接であばら筋の上限端を梁筋に結合する場合においても,「鉄筋の靭性を損なうことの無いように,鉄筋の溶接強度は鉄筋母材の降伏点強度の1/3〜2/3程度に管理」(同3頁左欄48行〜右欄1行)されていた。
これに対して,本願発明では,梁筋とあばら筋のスポット溶接強度をそれらの母材の規格降伏点強度よりも高くすることを特徴としている。
(2) すなわち,本願発明者らは,鉄筋の挙動,特に,あばら筋の応力分担状態,梁の継ぎ手部分における実際の応力状態等については,依然として不明な点が多い点にかんがみて,梁筋とあばら筋の結合強度等を変えて,鉄筋コンクリート梁の載荷試験等を行うことにより,梁筋とあばら筋のスポット溶接強度をそれらの母材の規格降伏点強度よりも高くし,これらによって構成される鉄筋枠体の靭性も考慮した新たな鉄筋コンクリート梁の主筋及びあばら筋の配筋設計手法を案出するに至ったのである(甲2の3頁右欄11〜17行)。
(3) 本願発明のシングル配筋用梁筋枠ユニットによれば,梁筋とあばら筋の溶接強度は,それらの母材の規格降伏点強度よりも高いので,鉄筋が降伏状態になる前に溶接部分が破断あるいは分離することはない。このために,コンクリートは圧縮破壊状態に至っても,ユニットによって保持されているので,鉄筋コンクリート梁全体としての靭性を高め,その脆性破壊を防止できる(甲2の3頁右欄36〜45行)という優れた効果を奏することが確認されたのである。
(4) 前掲日本建設センターが制定した内規(甲6)には,「(3階建て(小屋裏利用の場合も含む)以下の木造等の建築物に用いる組立鉄筋)」との表題の下に,第3条第1項「布基礎及びべた基礎の立上り部分に補強筋として用いる場合は,構造計算により安全性の検討を行うものとする。」,同第2項「組立鉄筋を構造計算により,布基礎及びべた基礎の立上り部分に補強筋として用いる場合は,その構造計算式の適用において,安全性を確認できる構造検討書を提出する。この構造計算検討にあっては,実験及び解析による検証結果を示す。なお,実験に用いる試験体の規模は,実大スケールを含め,十数体程度を目安とする。」,同第3項「前項により安全性を確認した場合は,第2条第1項(2)に規定する溶接点のせん断強度の規定は適用しない。(い)」との記載がある。
(5) 本願発明を適用した鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットが平成13年9月21日付けで評定書(甲7)を受けたことにより,それから間もない平成13年11月16日には,上記内規に,新たに内規第3条第3項が設けられた(甲6の1頁5行目の(い)の記載)。
新たな内規第3条第3項は,本願発明のように構造計算等により安全性を確認した場合には,当時の技術常識で規定されていた「せん断補強筋の溶接点のせん断強度は,短期のせん断補強の許容応力度の1/3以上かつ2/3程度とする。」という内規第2条第1項(2)は適用しないというものであり,この結果,本願発明の鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットは,スポット溶接強度を鉄筋母材の規格降伏点強度以上としていても,3階建て以下の木造等の建築物に用いることができる。
このような内規第3条第3項の新設は,本願発明及び本願発明の効果が,当業者であれば予測することができる程度のものではなく,出願時の技術常識を覆すものであったので,従来の内規条文では対応できなかったという事実を示している。したがって,本願発明によってもたらされる全体的効果は,引用発明及び周知ないしは当業者に自明の技術事項から当業者であれば予測することができる程度のものではなく,格別なものである。
被告の主張の要点
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して 引用例記載の技術事項及び当業者の技術常識からみて,引用例記載の鉄筋枠体が梁用のものを包含し得るものであることは明らかであるから,審決における引用発明の認定に誤りはなく,審決における本願発明と引用発明との一致点の認定に誤りはない。
2 取消事由2(本願発明の容易想到性判断の誤り)に対して 原告らは,引用発明がシングル配筋用梁筋枠ユニットに関するものではないし,また,スポット溶接及び鉄筋枠ユニットが周知技術であり,溶接部の強度を高めるためにはスポット溶接強度を高めればよいことが自明であったとしても,従来の鉄筋コンクリート梁の配筋設計思想によれば,シングル配筋用梁筋枠ユニットのスポット溶接強度を高めなければならない必要性が存在しないのであるから,当該スポット溶接強度を従来の技術常識を覆して高めようとする着想あるいは動機付けを得ることは不可能ないし困難であると主張する。
しかし,引用発明が梁用のものを包含し得るものであることは明らかであり,本願発明における上記着想あるいは動機付けを得ることは不可能であるということはできないから,審決における本願発明の容易想到性についての認定に誤りはない。
3 取消事由3(本願発明の効果の予測可能性についての認定の誤り)に対して 原告らは,本願発明が本件出願時における当業者の技術常識を覆す全く新たな鉄筋コンクリート梁の配筋設計手法に基づいてなされたものであると主張する。
しかし,本願発明の考え方は,引用発明の考え方と実質的な差異はないものであり,甲6及び7があるとしても,引用発明をみる限り,本願発明が全く新たな鉄筋コンクリート梁の配筋設計手法に基づいてなされたものであるとは認められず,しかも,本願発明によってもたらされる全体的効果は,引用発明及び周知ないしは当業者に自明の技術事項から,当業者であれば予測することができる程度のものであるといわざるを得ない。よって,審決における本願発明の効果予測性についての認定に誤りはない。
4 以上を総合すると,原告らの主張はいずれも失当であり,引用発明の認定及び本願発明と引用発明との一致点の認定,本願発明が容易に想到し得る程度のものであるとの認定,並びに,本願発明の効果が予測可能なものであるとの認定についての審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 引用例(甲4)には,「【0001】【産業上の利用分野】本発明は,構造躯体に利用するような建設用の鉄筋枠体の構造に関するものである。」,「【0002】【従来の技術】コンクリート内に埋設する鉄筋は,コンクリート構造物に作用する引張り力を負担して構造物の強度を確保するために用いるものである。そのために鉄筋は,主筋とそれに直交する方向の補助筋によって枠状に組み立てられるのが普通である。」との記載があり,従来例として示された図4〜6には,所定間隔で平行に延びる2本の主筋とそれに直交する方向に溶接された補助筋によって枠状に組み立てられてなるシングル配筋用鉄筋枠体が示されている。
そして,「建築大辞典第2版〈普及版〉」(彰国社・平成9年4月10日第3刷。乙1)には,次のような記載がある。
(a)「構造…@建築物を構成する要素のうち,自重,積載物をはじめ風圧力や地震力に抵抗することを主要目的として空間を形成するもの.例えば柱,梁,壁などを指し,また骨組と同じ意味に用いられることもある.」(535頁) (b)「躯体…建築物の,建具,造作,仕上げ,設備などを除いた部分.主として強度を受け持つ.」(430頁) (c)「躯体工事…仕上げ工事に対する骨組工事の総称.通常の工事においては土工事,基礎工事,鉄骨工事,鉄筋コンクリート工事までをいい,木造建築の場合は建前までをいう.」(430頁) (d)「主筋…鉄筋コンクリート部材で,軸方向力または曲げモーメントを負担する鉄筋.柱では軸方向鉄筋,梁では上端及び下端軸方向鉄筋,床スラブでは短辺方向の引張り鉄筋をいう.」(767頁) (e)「補助筋…通常,構造上の強さを確保するために用いられる鉄筋以外の鉄筋.鉄筋を組み立てるとき,主筋の位置,形状などを確保するために補助的に用いられる鉄筋など.『補助鉄筋』ともいう.」(1543頁) 以上によれば,引用発明は,「構造躯体に利用するような建設用の鉄筋枠体の構造」に関するものであるところ,「構造躯体」である「骨組」を構成する要素に「梁」が含まれることは,本件出願時において当業者の技術常識であって,引用例に接した当業者は,上記「鉄筋枠体の構造」に関する引用発明が「梁」に使用されるものも含むものと理解し得ることが認められる。そして,引用例には,所定間隔で平行に延びる2本の主筋とそれに直交する方向に溶接された補助筋によって枠状に組み立てられてなるシングル配筋用鉄筋枠体が開示され,また,構造躯体に利用するような建設用の鉄筋枠体の構造に関するものであることとされていることから,「鉄筋枠体」が構造躯体の要素である「梁」に使用されるものである場合には,それの所定間隔で平行に延びる2本の主筋が,「上下」の主筋になることは,当業者にとって明らかであると認められる。
したがって,審決の引用発明に関する認定に誤りはなく,前記第2,3(2)の審決の一致点の認定は,是認し得るものである。
(2) 原告らは,引用発明の内容につき,前記第3,1(2)のとおり主張するが,上記判示に照らせば,採用し得ないことは明らかである。
(3) 原告らは,前記第3,1(3)〜(7)のとおり主張する。
(a) 検討するに,引用例(甲4)には,次のような記載がある。
「【0003】【発明が解決しようとする問題点】…交差部を有する枠状の鉄筋において,応力伝達機能を与えるためにたとえば2本の鉄筋aをT字型に突き合わせ,その交点を点溶接bする構造……あるいは2本の鉄筋aを上下に重ねて交差させ,その交点をやはり点溶接bする構造が採用されている。」 「【0004】…鉄筋aを相互に点溶接bして一体化する構成では鉄筋は相互に点接触しているだけであるから溶接部における強度が小さく,十分な応力伝達を期待できなかった。」 「【0018】…従来の鉄筋と鉄筋との連結は単なる位置決めであり,それ以上の強度の伝達を期待するものではなかった。しかるに本発明の構造においては,鉄筋1相互間の関係を,単に位置決めをするのみではなく,応力の伝達も可能な鉄筋枠体を提供することができる。」 (b) 上記記載に照らせば,本件出願前から,「鉄筋を相互に点溶接して一体化する構成では鉄筋は相互に点接触しているだけであるから溶接部における強度が小さく,十分な応力伝達を期待できなかった」という問題点ないし課題が,従来の鉄筋枠体に内在するものとして存在し,その存在も知られていたものと認められ(甲2〜4によれば,引用例にいう「点溶接」は,本願発明の「スポット溶接」に相当するものと認められる。),また,従来の鉄筋と鉄筋との連結は単なる位置決めであったが,引用発明では,単に位置決めをするのみではなく,応力の伝達も可能な鉄筋枠体を提供することができるという,上記課題を解決する効果が開示されているといえる。
したがって,上下の主筋と,これにスポット溶接されたあばら筋を備えた鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットにおいて,上記の引用発明におけるような問題点あるいは解決すべき課題が存在していなかったことを理由に,当業者が,引用発明を鉄筋コンクリート梁の配筋用のものであると認識することはないなどとする原告らの主張は,採用することができない。
また,原告らは,日本建築学会編集著作「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」(甲5。以下「RC計算規準」ともいう。)による梁筋の設計手法を援用して主張する。確かに,設計実務の担当者は,RC計算規準を念頭に実務を遂行するのが通常であるとは解されるが,前認定のような課題が既に認識されていたのであるから,本願発明の属する技術分野に係る当業者としては,上記規準に記載がないことゆえに,引用発明を鉄筋コンクリート梁の配筋用のものであると認識することはないということはできない。
その他,原告らが指摘する種々の点を考慮しても,審決の前記一致点の認定に誤りがあるということはできない。
なお,原告らは,配筋設計の考え方,設計手法等に力点をおいた主張をするが,いうまでもなく,本願発明は「物」の発明であり,あくまでも,請求項1記載のような構成及び特徴を有する「鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニット」が発明の対象であり,背後にある考え方に基づいた「方法」に関する発明ではない。したがって,本願発明と引用発明とは,「所定間隔で平行に延びる上下の梁主筋と,これらに対して所定のピッチで一体的に接合されたあばら筋とを備える鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニット」という限りでは一致するといわざるを得ないのであって,原告らの主張は,採用の限りではない(容易想到性判断において,配筋設計の考え方等が与える影響等については,後に検討する。)。
(4) 原告らは,前記第3,1(8)(9)のとおり主張する。
確かに,引用発明は,鉄筋同士を交差部で食い込ませるという形態に係るものであって,RC計算規準によっては,断面欠損があるとみなされることになって,計算をすることができないということにはなる。
しかしながら,審決が本願発明と引用発明との一致点として認定した事項は,前記のとおりであって,主筋及びあばら筋の断面欠損の有無や,RC計算規準に基づく配筋計算の採用の適否とは無関係なのであり,審決に誤りがあるとはいえない。
また,引用例の段落【0016】中の「本発明の方法により構成した鉄筋枠体においては,交差部2は最後まで破断することなく,それ以前に引っ張り側の鉄筋1が千切れてしまった。このように本発明の構成を採用すると交差部2の強度は,鉄筋1本体の強度よりも大きく,したがって十分に応力伝達機能を果たすことが分かった。」との記載によれば,引用発明の「鉄筋枠体」における「主筋」(「引っ張り側の鉄筋1」)は,「交差部2」に「断面欠損」があるとしても,その「交差部2」において,応力は十分に伝達できるものであると認められるのであるから,主筋及び補助筋からなる配筋に断面欠損が存在するからといって,直ちに,「鉄筋コンクリート梁」のシングル配筋用梁筋枠ユニットとして採用することが不可能であるということにはならない。
よって,原告らの上記主張もまた採用することができない。
(5) 以上のとおり,本願発明と引用発明との一致点についての審決の認定は,是認し得るものであり,原告ら主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本願発明の容易想到性判断の誤り)について (1) 取消事由1について判示したとおり,引用発明は,「所定間隔で平行に延びる上下の梁主筋と,これらに対して所定のピッチで一体的に接合されたあばら筋とを備える鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニット」を包含するものであり,当業者もそのことを理解し得るものと認められる(なお,上記のような「鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニット」は,周知技術であり(乙2,3),原告らも周知技術であることは争わない。)。その結果,当業者としては,「鉄筋を相互に点溶接して一体化する構成では鉄筋は相互に点接触しているだけであるから溶接部における強度が小さく,十分な応力伝達を期待できなかった」という問題点ないし課題が,上記の「鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニット」にも及ぶものであることを理解し得るものと推認される。
他方,鉄筋相互の一体的接合手段としてスポット溶接は周知技術であり(甲4),溶接部の強度を大きくするためにはスポット溶接強度を大きくすればよいことは,当業者にとって自明である(これらの点は,原告らも争わない。)。
そうすると,当業者としては,引用発明における上記問題点ないし課題を解決すべく,「所定間隔で平行に延びる上下の梁主筋と,これらに対して所定のピッチで一体的に接合されたあばら筋とを備える鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニット」において,スポット溶接部の強度を大きくして十分な応力伝達を図るために,スポット溶接強度を鉄筋母材の規格降伏点強度以上とすることは,当業者が容易に想到し得るものというべきである。
(2) 原告らは,前記第3,2のとおり主張する。
(a) しかし,原告らの主張は,引用発明が鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットに関するものではないこと,鉄筋コンクリート梁の配筋設計の分野においては,シングル配筋用梁筋枠ユニットに,引用発明におけるような問題点ないし課題は存在していなかったことなどを前提として主張するものであって,既に判示したところに照らせば,これらの前提自体が採用し得ないものである。
(b) また,原告らは,スポット溶接強度は,せん断補強筋の降伏点強度の1/3〜2/3に抑制すべきものであるとされていたこと,鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニットのスポット溶接強度を高めなければならない必要が存在しないことなども主張する。
確かに,本願明細書の段落【0007】においては,「住宅用の梁配筋は,一般的には,現場で上下の梁筋を配置し,これらの間に,一定間隔で,上下にフックの付いたあばら筋を組み付けることにより構成される。このような配筋作業は手間がかかるので,上記のように,フックを付ける代わりに溶接であばら筋の上限端を梁筋に結合する場合がある。この場合においても,鉄筋の靭性を損なうことの無いように,鉄筋の溶接強度は鉄筋母材の規格降伏点強度の1/3から2/3程度となるように管理されている。」と記載されている。
ところで,本願明細書は,その段落【0008】【発明が解決しようとする課題】中において,「梁の配筋に溶接を使用することは,鉄筋の靭性が低下するので避ける必要がある。」と配筋の溶接を避ける必要性を挙げつつ,これを解決する手段を構成要件とすることなく,本願発明は,単に,梁主筋と前記あばら筋とのスポット溶接強度が,鉄筋母材の規格降伏点強度以上とされていることのみを特徴としている(【特許請求の範囲】及び段落【0013】)。
以上によれば,本願明細書における上記【0008】に記載された溶接の熱による靭性低下という課題は,これを抑えるための解決手段が構成要件として規定されていないので,本願発明でも起こり得るものといわざるを得ない。そうすると,本願発明は,従来は靭性の低下を抑えるべく鉄筋の溶接強度は鉄筋母材の規格降伏点強度の1/3から2/3程度となるように管理していたものについて,溶接の熱による靭性の低下を犠牲にしつつも,剛性の向上を考慮して,鉄筋母材の規格降伏点強度以上とすることで,その面内剛性を高めたものであるといえ,靭性と剛性という両立し得ない鉄筋の性質につき,従来は靭性に重きをおいていたものを,本願発明は剛性に重きをおいたにすぎないということができる。そして,従来技術では鉄筋母材の規格降伏点強度の1/3から2/3程度としていたものを,本願発明で1以上とすることによって得られる効果は,靭性の低下を犠牲にして単に剛性を高めるということにすぎず,本願発明の創作の程度は低いものであるといわざるを得ない。
以上のような事情にもかんがみれば,前判示のとおり,本件相違点について想到容易とした審決の判断は,是認し得るものであって,原告らの上記主張は,採用の限りではない。
(c) 原告らは,本願発明は,既存の鉄筋コンクリート梁の配筋設計手法とは異なる新たな考え方に基づいて誕生したとも主張する。
しかし,本願発明は,方法に関する発明ではないことは前判示のとおりであって,物に関する発明である請求項1記載の「鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニット」としてみた場合,原告ら主張の配筋設計手法や考え方の点が,前判示のように当業者が引用発明との相違点に想到することを妨げる要因となるとは認められない。
(3) 以上のとおり,本願発明と引用発明との相違点についての容易想到性に関する審決の判断は,是認し得るものであり,原告ら主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(本願発明の効果の予測可能性についての認定の誤り)について (1) 本願明細書の段落【0014】中には「梁筋とあばら筋のスポット溶接強度は,それらの母材の規格降伏点強度よりも高いので,鉄筋が降伏状態になる前に溶接部分が破断あるいは分離することはない。このために,コンクリートは圧縮破壊状態に至っても,ユニットによって保持されているので,鉄筋コンクリート梁全体としての靭性を高め,その脆性破壊を防止できる。」との記載があるほか,段落【0057】【発明の効果】中には「面内剛性の高い配筋とすることができるので,現行の規準のように鉄筋の付着力のみに頼っていた場合に比べて,鉄筋コンクリート梁の強度を高めることができる。また,継ぎ手部分の剛性及び強度も高めることができる。」との記載がある。
(2) 検討するに,本件特許請求の範囲に記載された「鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁筋枠ユニット」に係る構成から導き出せる効果は,上記のうち,「鉄筋が降伏状態になる前に溶接部分が破断あるいは分離することがなく,面内剛性の高い配筋とすることができる」ということであると認められる。しかし,【発明の効果】の後段に記載された「現行の規準のように鉄筋の付着力のみに頼っていた場合に比べて,鉄筋コンクリート梁の強度を高めることができる。」といった効果や,原告らが主張する「コンクリートは圧縮破壊状態に至っても,ユニットによって保持されているので,鉄筋コンクリート梁全体としての靭性を高め,その脆性破壊を防止できる」などの効果は,特許請求の範囲に記載された構成から直接に導き出せるものではなく,当該梁筋枠ユニットが組み付けられた「鉄筋コンクリート梁」をも含めて全体的としてみた場合の効果であるといわざるを得ない。
そして,上記「鉄筋が降伏状態になる前に溶接部分が破断あるいは分離することがなく,面内剛性の高い配筋とすることができる」という効果は,「前記梁主筋と前記あばら筋とのスポット溶接強度が,鉄筋母材の規格降伏点強度以上とされている」という本願発明の構成から必然的にもたらされるものであって,当業者が予測できる程度のものであり,また,引用例(甲4)に記載された「本発明の構造においては,鉄筋1相互間の関係を,単に位置決めをするのみではなく,応力の伝達も可能な鉄筋枠体を提供することができる。」(【0018】)という効果と実質的に同一であり,特に画期的なものでもない。
また,当該梁筋枠ユニットが組み付けられた「鉄筋コンクリート梁」をも含めて全体的としてみた場合の効果を検討するとしても,原告が主張する「コンクリートは圧縮破壊状態に至っても,ユニットによって保持されているので,鉄筋コンクリート梁全体としての靭性を高め,その脆性破壊を防止できる」との効果は,「前記梁主筋と前記あばら筋とのスポット溶接強度が,鉄筋母材の規格降伏点強度以上とされている」という本願発明の構成及びこの構成から必然的にもたらされる「鉄筋が降伏状態になる前に溶接部分が破断あるいは分離することはない」という効果並びに周知ないし自明の技術事項から,当業者が予測し得る程度のものである。
したがって,「本願発明によってもたらされる全体的効果も,引用発明及び周知ないしは当業者に自明の技術事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって,格別なものとはいえない。」とした審決の認定判断は,是認し得るものである(審決が「全体的効果」と説示したのは,上記と同旨をいうものと解される。)。
(3) 原告らは,前記第3,3において,財団法人日本建設センターが制定した内規(甲6)を援用して種々主張する。
しかしながら,甲6,7及び弁論の全趣旨によれば,上記内規の改訂の内容及びその経緯について,原告らの主張する事情は認められないではないものの,既に判示したところに照らせば,上記事情を加えて検討しても,本願発明及びその効果が当業者が予測することができないような格別なものであるとは認められない。
(4) よって,原告ら主張の取消事由3は理由がない。
4 結論 以上のとおり,原告ら主張の審決取消事由は理由がないので,原告らの請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文