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関連審決 審判1984-16678
審判1982-7376
関連ワード 方法の発明 /  加工方法 /  容易に実施 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  抵触 /  援用権(援用) /  発明の要旨認定 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  既判力 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  訂正明細書 /  特許無効審決 /  取消判決 /  判決の拘束力 / 
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事件 平成 1年 (行ケ) 51号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1990/07/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告ら 「特許庁が昭和五七年審判第七三七六号事件について昭和六三年一二月二三日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決二 被告 主文同旨の判決
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「ガラス板面取り加工方法及びその装置」とする特許第九三三五六〇号発明(昭和四八年一一月二八日特許出願、昭和五三年四月二四日出願公告、
同年一一月三〇日設定登録、以下「本件発明」という。)についての特許権者であるが、原告らは、昭和五七年四月一七日、被告を被請求人として本件発明の明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲第一項に記載された発明(以下「本件第一発明」という。)について特許無効の審判を請求し、昭和五七年審判第七三七六号事件として審理された結果、昭和五八年三月三一日、「特許第九三三五六〇号発明の明細書の特許請求の範囲第一項に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「一次審決」という。)があった。
被告は、東京高等裁判所に対し一次審決取消訴訟を提起するとともに、昭和五九年八月二八日、本件明細書を左記のとおり訂正することについて審判を請求し、昭和五九年審判第一六六七八号事件として審理された結果、昭和六二年六月一一日右請求のとおり訂正することを認める旨の審決(以下「訂正審決」という。)があり、その謄本は同年七月八日被告に送達され、訂正審決は確定した。
記(一) 明細書第一頁第九行目の「凹面状に曲げられた状態」の記載を「前記一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態」と訂正し、
(二) 明細書第六頁第七行目の「凹面」の記載を「研削手段に近いがラス板の一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面」と訂正し、
(三) 明細書第六頁第一三行目の「凹面」の記載を「研削手段に近いガラス板の一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面」と訂正し、
(四) 明細書第七頁第一行目の「凹面」の記載を「彎曲状の支持面により凹面」と訂正し、
(五) 明細書第七頁第二行目から同頁第三行目の記載の「研削手段から受ける応力を分散させ」を削除し、
(六) 明細書第一一頁第四行目から同頁第五行目の「プーリー4A、4B」の記載を「プーリー32、34」と訂正し、
(七) 明細書第一七頁第一行目の「第14」の記載を「第13」と訂正する。
東京高等裁判所は、前記事件について、昭和六二年一一月一九日、訂正審決の確定により本件第一発明の要旨認定及び本件明細書の発明の詳細な記載事項の認定を誤った違法があるとの理由により、一次審決を取り消す旨の判決(以下「一次判決」という。)を言い渡し、一次判決は確定した。そこで、前記審判事件についてさらに審理された結果、昭和六三年一二月二三日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成元年二月八日原告らに送達された。
二 本件第一発明の要旨 ガラス板を一対の搬送手段で挟持搬送しながらガラス板の一端縁部を研削手段で面取り加工する方法において、前記ガラス板を、搬送方向に直交するその断面形状が研削手段の位置する側に向かって前記一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で、搬送することを特徴とするガラス板面取り加工方法
(別紙図面一参照)三 本件審決の理由の要点1 本件発明の特許出願、出願公告、設定登録、本件第一発明の特許無効審決請求とその経緯、訂正審判の経緯と訂正審決の要旨等は、「特許庁における手続の経緯」記載のとおりである。
2 請求人ら(原告ら)は、本件第一発明に係る特許は無効とするとの審決を求め、その理由として次のように主張している。
@ 明細書第七頁第一行目から同頁第四行目に「研削手段近傍でガラス板を凹面状に彎曲することにより研削手段から受ける応力を分散させ、ガラス板の面取り端部の逃げを防止するものである。」とあるが、何故に応力が分散されるのか不明であり、ガラス板の面取り端部の逃げが防止される理由が不明である。
A ガラス板の面取り端部の逃げを防止するには、当て板により凹面状に彎曲されるベルトが、ガラス板の一端縁部近傍まで延設されていることが必要であるが、その点が構成要件とされていない。
B ガラス板を彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で搬送するには、前記支持面のほか、該支持面のガラス板をはさんだ反対側に押圧部材である押圧ロールが必要であるが、その点が構成要件とされていない。
前記のことからして、本件第一発明は、その目的を達成することができない未完成発明であって、特許法第29条第1項柱書に規定する発明を構成しないものであり、未完成発明でないとしても、当業者が容易に実施できる程度に発明が開示されておらず、また、目的を達成するのに必要な構成が記載されておらず、特許法第36条第4項及び第五項(昭和六〇年法律第四一号による改正前の同条同項を指すものである。)の規定に違反するものである。
したがって、本件第一発明は、特許法第123条第1項第1号、同条同項第三号の規定により無効とされるべきものである。
3 よって以下に検討する。
@について 確定した訂正審判により、明細書第七頁第二行目から同頁第三行目の「研削手段から受ける応力を分散させ、」は削除され、@の点は、解消されたものと認める。
そして、ガラス板の面取り端部の逃げが防止されるのは、本件明細書の記載に徴して、ガラス板を、搬送方向に直交するその断面形状が研削手段の位置する側に向かってガラス板の一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で搬送することにより、ガラス板自体の研削荷重に対する抵抗力が増大して、ガラス板の面取り端部が曲げ変形されにくくなるためである、ことによることであることが分かる。
Aについて 前記の訂正審判により、明細書第一頁第九行目の「凹面状に曲げられた状態」が「前記(ガラス板)一端部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態」と訂正され、この構成により、ガラス板の面取り端部の逃げは防止され、Aの点は、解消されたものと認める。
Bについて ガラス板を彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で搬送するには、装置としては、支持面のほかにガラス板をはさんだ支持面とは反対側にガラス板を押圧する押圧手段を要することは請求人の主張のとおりであるが、一つには、本件第一発明は方法に係る発明であること、また、他の一つには、装置として前記の押圧手段を用いることは周知のことであって、本件第一発明を実施するに際しては、装置として当然に使用される自明のことであり、本件第一発明において、押圧手段を具備するとの直接の記載がない事をもって、本件第一発明がその目的を達成し、所望の作用効果を奏するための構成を欠くものとすることはできない。
4 以上のことからして、請求人の主張は採用できず、請求人の主張をもってしては本件第一発明の特許を無効とすることはできない。
四 本件審決の取消事由 本件第一発明は、未完成発明であるか、又は特許法第36条第4項及び第五項(本判決において右条項は、昭和六〇年法律第四一号による改正前の同条同項を指す。)の規定に違反するものであるのに、本件審決は、右の点に関する原告の主張(本件審決の理由の要点@ないしB)についての認定、判断を誤った結果、本件第一発明の特許を無効とすることはできないとしたものであって、違法であるから、
取り消されるべきである。
1(一) 本件審決の理由の要点@について 訂正審決により「研削手段から受ける応力を分散させ」との記載が明細書から削除されたことは本件審決認定のとおりであるが、そのことによって原告が審判手続きで主張した@の問題が解消したことにはならない。
訂正前の本件明細書は、「要するに、本発明方法においては、研削手段近傍でガラス板を凹面状に彎曲することにより研削手段から受ける応力を分散させ、ガラス板の面取り端部の逃げを防止するものである。」(本件発明の出願公告公報第三欄末行ないし第四欄第四行)と記載され、訂正審決により右記述中の「研削手段から受ける応力を分散させ」の部分が削除されたが、
右削除により「ガラス板の面取り端部の逃げを防止する」効果が得られる理由の説明がなくなったわけであり、「ガラス板を凹面状に彎曲することにより」何故「ガラス板の面取り端部の逃げを防止する」ことができるのかはますます不明の度を深めただけであって、原告らが審判手続で提起した疑問は何ら解消されていないことが明白である。
本件明細書の記載に照らしても、ガラス板を彎曲させること自体によってガラス板の面取り端部の逃げを防止できるとの効果が得られる旨の説明は皆無であり、本件第一発明の特許請求の範囲にいう「ガラス板を(中略)凹面状に曲げられた状態で搬送すること」により、どのような作用効果が得られるかに関し、本件明細書には、本件第一発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に本件第一発明の実施をすることができる程度にその発明の効果が記載されていないというべきである。
この点について、本件審決は「ガラス板の面取り端部の逃げが防止されるのは、
本件明細書の記載に徴して、ガラス板を、搬送方向に直交するその断面形状が研削手段の位置する側に向かってガラス板の一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で搬送することにより、ガラス板自体の研削荷重に対する抵抗力が増大して、ガラス板の面取り端部が曲げ変形されにくくなるためである、ことによることが分かる。」と認定、判断しているが、本件明細書には、
「研削手段近傍でガラス板を凹面状に彎曲することにより」、「ガラス板自体の研削荷重に対する抵抗力が増大する」旨の記載も、「ガラス板の面取り端部が曲げ変形されにくくなる」旨の記載も存在せず、またそのような作用の発生を裏付けるべき記載も存在しない。常識で考えても、ガラス板を単に凹面状に彎曲させたところで、ガラス板そのものには何の変わりもないのであるから、「ガラス板自体の研削荷重に対する抵抗力が増大する」はずがなく、また「ガラス板の面取り端部が変形されにくくなる」理由もないわけである。それらの効果を挙げるためには、凹面状に曲げられたガラス板が研削手段近傍で特定の手段によって支持されなければならないことが明らかである。
したがって、本件第一発明は未完成であるか、又は特許法第36条第4項及び第五項の記載を欠くものであるといわなければならない。
(二) 本件審決の理由の要点Aについて 訂正前の本件明細書の特許請求の範囲における「凹面状に曲げられた状態」の記載がガラス板の「前記一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態」と訂正されたことは本件審決認定のとおりであるが、この構成によりガラス板の面取り端部の逃げが防止され、原告ら主張のAの問題が解消されたとすることはできない。
けだし、訂正後の特許請求の範囲の記載は、あくまでガラス板を凹面状に曲げられた状態にすることを要件とするのみであり、そのように凹面状に曲げられたガラス板の支持自体については、何ら言及するところがないからである。
また、ガラス板の「一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面」のみによっては、ガラス板を凹面状に曲げることも、ガラス板を支持することも不可能であることは、事理の当然である。そのような作用を果たすためには、ガラス板を彎曲状の支持面に向かって押圧する押圧部材の存在と、ガラス板を凹面状に曲げられた状態にするのに適切な押圧部材の構造が要求される。しかるに、訂正後の本件第一発明の特許請求の範囲には、押圧手段を用いることに関する何らの記載もないから、その点からしても本件第一発明は、ガラス板の面取り端部の逃げ防止を実現する手段を欠くものといわなければならない。
したがって、本件第一発明は、右の点においても未完成であるか、又は特許法第36条第4項及び第五項の記載を欠くものであることが明白である。
(三) 被告は、審判手続における原告の主張@及びAについての本件審決の認定、判断は一次判決により確定して争う余地のないものであるとの理由により、右認定判断を争う原告の主張は主張自体失当である旨主張する。
しかしながら、拘束力については、行政事件訴訟法第33条の規定上明らかなように、行政処分を取り消す判決は、その事件について当事者たる行政庁その他の関係行政庁を拘束するにとどまり、他の裁判所を拘束するところはないから、本件に対する裁判所の判断について、一次判決の拘束力が働く余地はない。
また、既判力については、そもそも既判力は当該判決の対象たる訴訟物について生じるにすぎないものであるところ、一次判決は一次審決を訴訟物とするものであるのに対して、本件訴訟の訴訟物は本件審決であるから、一次判決の既判力が本件訴訟物に及ばないことは明らかである。
2 本件審決の理由の要点Bについて 本件審決は、「ガラス板を彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で搬送するには、装置としては、支持面のほかにガラス板を挟んだ支持面とは反対側にガラス板を押圧する押圧手段を要することは請求人の主張のとおりであるが、(中略)装置として前記の押圧手段を用いることは周知のことであって、本件第一発明を実施するに際しては装置として当然に使用される自明のことであり、本件第一発明において、押圧手段を具備するとの直接の記載がないことをもって、本件第一発明がその目的を達成し、所望の作用効果を奏するための構成を欠くものとすることはできない。」と認定、判断している。
しかしながら、本件出願前周知のガラス板面取り加工装置にあっては、ガラス板を挟持搬送する手段が備えられていたにとどまり、挟持搬送手段の一方を彎曲した支持面とし、他方を右支持面にガラス板を押圧する手段とし、その押圧によってガラス板を凹面状に曲げるという思想はなかったのであるから、従前のガラス板面取り加工装置につき「押圧手段」なるものを観念する余地は存在しない。すなわち、
「押圧手段」なる観念は、彎曲状の支持面なるものが考えられて初めて出てくるものといわなければならない。本件審決の認定、判断は、従前のガラス板面取り加工装置にも押圧手段が存在したと即断した点においてすでに失当である。
また、本件出願前周知であったガラス板面取り加工装置の押圧手段は、本件発明の特許審判請求公告公報の第1図(別紙図面一参照)の3A・4Aに見られるごときものである。同公報第2図及び第3図は、その「図面の簡単な説明」の記載によれば、「ガラス板の有する波形面を巨視的に示している概略横断図」であって、本件出願前の周知技術でない。本件審決認定のように、本件第一発明が「ガラス板の支持を『彎曲状の支持面により』行うという構成」を有するものであり、その構成により「研削手段により近い所まで彎曲面により支持することができる」という作用を有するものとすれば、前記3A・4Aに見られるごとき押圧手段では、別紙図面二に示すように押圧部材の下端からガラス板の下端までの間隔が大きいためガラス板の下端が研削手段からの研削荷重を受けた際、彎曲状の支持面の下端を支点としてそれより上のガラス板の部分が浮き上がり、その目的を達成し、所望の作用効果を奏することができないことが明らかである。
したがって、周知の押圧手段の使用により本件第一発明がその目的を達成し、所望の作用効果を奏するとした審決の前記認定、判断は、誤りである。
本件第一発明が本件審決の認定、判断した「ガラス板の支持を『彎曲状の支持面により』行うという構成」を実現し、その構成により「研削手段により近い所まで彎曲面により支持することができる」という作用を営むためには、その押圧部材が研削手段により近い所までガラス板を彎曲面により支持するのに適切な構造を有することが必要である。この点において、本件審決には、本件第一発明の構成に欠くことのできない事項の認定に関する判断を誤り、本件第一発明の特許請求の範囲にその記載がないことを看過した違法がある。
請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一ないし三の事実は認める。
二 同四は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。
1 審判手続における原告らの主張@及びAは、一次審決までに主張した無効理由であり、一次審決が認定した次の二つの無効理由は、原告らのこの二点の主張をそのまま採用したものである。
イ 「搬送手段を介して当て板をもって、ガラス板を凹面状に曲げた状態で搬送する構成をもってしては、研削状態で研削手段からガラス板が「後方に変化しない」「逃げない」「逃げを防止する」という目的、効果は達成し得ないものと認められ、発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その目的、構成、効果を記載したものとは認められず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものと認められる。」ロ 「研削状態で研削手段からガラス板が「後方に変化しない」「逃げない」「逃げを防止する」のは、ガラス板下端の研削のために研削手段の砥石近傍部が搬送手段を介して当て板の下端部分で支持されている状態の構成を採用しているためと認められる。ところが、この点の構成が第一番目の特許発明発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項として記載されておらず特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないものと認められる。」 しかしながら、原告らが主張し、一次審決が採用したこの二点が訂正後の本件第一発明の無効理由たり得ないことは、一次審決を取り消した一次判決で確定している。すなわち、一次判決は、その理由中において「訂正された特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載によれば、本件明細書の特許請求の範囲には、ガラス板の一端縁部の面取り加工のためにガラス板の一端縁部近傍が搬送手段を介して彎曲状の支持面で支持されている状態の構成が記載されて」いるとの認定を行った後に、
さらに「発明の詳細な説明には、右構成、及び右構成によって研削状態で研削手段からガラス板が「後方に変化しない」「逃げない」「逃げを防止する」という目的、効果を達成し得ることが記載されていることが明らかである。」との認定を行っている。
したがって、右@及びAに関して、これを排斥した本件審決を論難する原告らの本訴における主張は、法的に確定した事項を蒸し返そうとするものであって、主張自体失当である。
2 本件第一発明は、「ガラス板を一対の搬送手段で挟持搬送しながらガラス板の一端縁部を研削手段で面取り加工する方法において」を前提とするものである。そして、本件第一発明は、従来のガラス板を全面的に支持する平板状の当て板を設けた場合には、ガラス板が薄板であるとき、当て板がガラス板面を当て板の幅内において完全に把えることが困難であり、特にガラス板の面取りされる端部を十分に固定支持することが困難であるという欠点を克服すべく、ガラス板を、搬送方向に直交するその断面形状が研削手段の位置する側に向かって、前記一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で搬送するものである。
本件第一発明は、この構成荷より研削手段から研削抵抗力を受けてもガラス板の研削手段に近接する部分に逃げを生じることがなく、均一な面取り面が得られるという目的を達成し、所望の作用効果を奏する。
したがって、ガラス板を凹面状に曲げられた状態にすることに関し、押圧手段を適切なものとし具体的にどのようにするかは、本件第一発明の目的とするところではない。押圧手段そのものについては、特許請求の範囲の「おいて」の文言のところでガラス板を挟持搬送する「一対の搬送手段」と規定している。また、押圧手段を具体的にどうするかは、当業者が目的、効果を勘案して任意に選択し得る範囲のものである。
原告らは、本件出願前周知であったガラス板面取り加工装置の押圧手段は、本件発明の特許審判請求公告公報の第1図(別紙図面一参照)の3A・4Aにみられるごときものであって、この押圧手段の使用によって本件第1発明がその目的を達成し、所望の作用効果を奏することはできない旨主張するが、本件審決が右図面記載の押圧手段を用いることを周知としたものでないことは、本件審決の理由の要点から明らかであり、原告ら援用の別紙図面二のものは本件第一発明の埓外のものである。
なお、ガラス板面取り加工装置の従来技術としては、例えば米国特許第二七五四九五六号明細書記載の装置がある。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件第一発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 原告らは、本件第一発明は、未完成発明であるか、又は特許法第36条第4項及び第五項の規定に違反するものであるのに、本件審決は、右の点に関する原告の主張(本件審決の理由の要点@ないしB)についての認定、判断を誤った結果、本件第一発明の特許を無効とすることはできないとしたものであって、違法である旨主張する。
これに対し、被告は、審判手続における原告の主張@及びAについての本件審決の認定、判断は一次審決を取り消した一次判決に基づいてなされたものであり、本訴において右認定、判断を争うことはできない旨主張するので、まず、この点について、検討する。
特許無効審判請求について特許庁がした特許無効の審決取消しの訴訟が提起され、裁判所が右審決の認定、判断の誤りを理由として右審決を取り消す判決を言い渡し、右判決が確定した場合、特許庁審判官は、さらに審理を行い、審決をしなければならない(特許法第181条2項)。そして、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、右取消判決は判決確定後の行政庁の行為を直接に規制するから、その拘束力は、当該事件について審理され、判決の理由において違法事由として示された事実上及び法律上の判断に及び、特許庁審判官は右判決のこの点に関する判断に抵触する判断をすることができない。
ところで、特許庁審判官がした再度の審決に対してもこれに不服の当事者は審決取消訴訟を提起することができるが、行政事件訴訟法第33条第1項の規定は、取消判決の行政庁に対する拘束力を規定したものであって、裁判所を拘束する規定でないから、この規定から直ちに再度の審決取消訴訟において先の判決が裁判所を拘束するとはいえない。
しかしながら、審決取消訴訟の訴訟物は審決の違法性であって、審決が違法になされたか否かが審理、判断の対象になるのであるから、再度の審決取消訴訟においては、取消判決の拘束力に従う法律上の義務のある審判官がした審決が違法になされたか否かが審理、判断の対象であり、再度の審決は、取消判決の拘束力に従ってなされた限度においては(審決取消訴訟において提出の許される新たな主張、証拠によって再度の審決と異なる結論に到達した場合を除き)これを違法とすることができないと解するのが相当である。
したがって、再度の審決取消訴訟においては、取消判決の拘束力に従ってなされた審決の認定、判断の誤りを審判手続における主張、証拠に基づいて取消事由として主張することは許されないというべきである。
これを本件についてみるに、成立に争いのない乙第一号証ないし第三号証によれば、次の事実が認められ、ほかに右認定に反する証拠はない。
(一) 原告らは、本件第一発明の特許無効の審判を請求し、その審判手続において前記1及び2と同趣旨の主張をしたところ、一次審決は、右主張について、「搬送手段を介して当て板をもって、ガラス板を凹面状に曲げた状態で搬送する構成をもってしては、研削状態で研削手段からガラス板が「後方に変化しない」「逃げない」「逃げを防止する」という目的、効果は達成し得ないものと認められ、発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その目的、構成、効果を記載したものとは認められず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものと認められる。」、「研削状態で研削手段からガラス板が「後方に変化しない」「逃げない」「逃げを防止する」のは、ガラス板下端の研削のために研削手段の砥石近傍部が搬送手段を介して当て板の下端部分で支持されている状態の構成を採用しているためと認められる。ところが、この点の構成が第一番目の特許発明発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項として記載されておらず特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないものと認められる。」との理由により、本件第一発明の特許を無効とする審決をした。
(二) 被告は、一次審決取消訴訟を提起したが、一次判決は、被告の請求に基づき特許庁における手続の経緯記載のとおりの訂正審決がなされたことにより一次審決は本件第一発明の要旨認定及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載事項の認定を誤った違法があるとの理由により一次審決を取り消す判決をし、右判決は確定したが、右判決の理由中には、次の判断が示されている。
「訂正された特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載によれば、本件明細書の特許請求の範囲には、ガラス板の一端縁部の面取り加工のためにガラス板の一端縁部近傍が搬送手段を介して彎曲状の支持面で支持されている状態の構成が記載されており、また、発明の詳細な説明には、右構成、及び右構成によって研削状態で研削手段からガラス板が「後方に変化しない」「逃げない」「逃げを防止する」という目的、効果を達成し得ることが記載されていることが明らかである。」(三) 本件審判事件については、一次判決の確定により、さらに審理された結果本件審決がなされたものであり、本件審決の要旨は、審決の理由の要点記載のとおりである。
以上の認定事実によれば、審判手続における原告らの主張@及びAについての本件審決の認定、判断は、一次判決の拘束力に従ってなされたものであり、本訴において審判手続における右主張を繰り返して一次判決の拘束力に従ってなされたこの点に関する審決の認定、判断の誤りを取消事由として主張することは許されないというべきである。
この点について、原告らは、「行政処分を取り消す判決は、その事件について当事者たる行政庁その他の関係行政庁を拘束するにとどまり、他の裁判所を拘束するところはないから、本件に対する裁判所の判断について、一次判決の拘束力が働く余地はない。また、一次判決は一次審決を訴訟物とするものであるのに対して、本件訴訟の訴訟物は本件審決であるから、一次判決の既判力が本件訴訟物に及ばないことは明らかである」旨主張するが、再度の審決取消訴訟においては、取消判決の拘束力に従ってなされた審決の認定、判断の誤りを審判手続における主張、証拠に基づいて取消事由として主張することが許されないことは前述のとおりであり、原告らの右主張は採用することができない。
したがって、審判手続における原告らの主張@及びAについての本件審決の認定、判断が誤りであるとする原告らの主張自体失当というべきである。
2 次に、審判手続における原告の主張Bについての本件審決の認定、判断の当否を検討する。
成立に争いのない甲第二号証(本件発明の特許審判請求公告公報記載の訂正明細書)によれば、本件明細書には、本件第一発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について次のとおり記載されていることが認められる。
(一) 本件第一発明は、ガラス板を一対の搬送手段で挟持搬送しながら、複数個の直列された研削手段により、ガラス板の一端縁部を面取り加工するためのガラス板面取り加工方法に係るものである(第二頁左欄第七行ないし第一一行)。
この種の従来の面取り加工方法は、可及的にガラス板を真直状態に挟持搬送しながら面取りしている(同欄第一二行ないし第一四行)。この方法を実施するための従来の面取り加工装置は、第1図(別紙図面一参照)に示すように、スプリング手段2、2を備えた押圧ローラ3A、3Bにより一対のベルト4A、4Bを介して押圧支持されながら搬送されるガラス板1を砥石によって面取り加工する場合、ガラス板1は、スプリング手段により研削開始とともに砥石から遠ざかる方向にわずかに逃げ、ガラス板1の始端から終端まで均一な面取り加工が行われ得ない。また、
このような欠点を克服するために、第2図(別紙図面一参照)に示すようにガラス板1をベルト4Bの裏面に当接してベルトの内側部分を全面的に支持する平板状の当て板6を設けた場合には、ガラス板が薄板のとき、第3図(別紙図面一参照)に示すように当て板6がガラス板面を当て板の幅内において完全に把えることは困難であり、特にガラス板の面取り加工においてはガラス板の下端部(面取りされる端部)すなわち研削手段(砥石)にできるだけ近い部分を確実に固定支持することが重要である(同頁左欄第二九行ないし右欄第二五行)。
本件第一発明は、右知見に基づき、ガラス板を搬送方向に直交するその断面形状が研削手段に向かって研削手段に近いガラス板の一端縁近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で搬送することにより、研削手段から研削抵抗力を受けても(研削手段に近いガラス板の一端縁部が)逃げることがなく、均一な面取り面が得られるガラス板面取り加工方法を提供することを技術的課題(目的)とするものである。
(二) 本件第一発明は、前記技術的課題を達成するため、本件第一発明の要旨(特許請求の範囲)記載の構成を(第一頁左欄下から第九行ないし第三行)採用した。
(三) 本件第一発明は、前記構成を採用したことにより、「研削手段近傍でガラス板を彎曲状の支持面により凹面状に彎曲することによりガラス板の面取り端部の逃げを防止する」(第三頁左欄第二行ないし第五行)、「砥石による研削荷重によりガラス板が後方に変位したり振動したりすることはない。」(同欄第三〇行ないし第三二行)という作用効果を奏し、所期の目的を達成するものである。
右認定事実によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件第一発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が当業者に十分理解できるように具体的に記載され、かつその記載に整合性があるから、当業者は本件明細書の記載に基づいて容易に本件第一発明を実施することができるというべきである。
本件第一発明の特許請求の範囲における「ガラス板の一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態」との構成は、方法の発明としては右記載自体から明瞭である。そして、これを実施するに当たり、具体的にどのようにするか、また、どのような手段を採用するかについては、前掲甲第二号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件第一発明の実施態様として、「ガラス板1は、フレーム8に固定された彎曲状表面7aをもって当て板7により、一方のベルトを介して支持されており、且つ弾性ロール3により他方のベルト4Aを介してベルト4B側に押圧され、前記当て板7の内側面の形状に沿って彎曲状に変形さる。
」(第三頁左欄第二三行ないし第二八行)と記載され、また、「本発明ガラス板の面取り加工方法実施するための装置の具体例」(第五頁右欄第二五行、第二六行)として、第4図に「彎曲面を有する当て板の配置及び押圧ローラの支持の機構を示した要部横断面図」(同欄第二七行、第二八行)が、第5図に「ガラス板面取り加工装置の正面図」(同欄第二八行、第二九行)が、第9図に「第5図に示された装置の概略横断面図」(同欄第三三行、第三四行)が、第10図に「第9図に示すベルトコンベヤ要部の拡大断面図」(同欄第三四行、第三五行)がそれぞれ記載されている(別紙図面一参照)ことが認められ、当業者はこれらの記載事項に基づき容易にその実施をすることができることが明らかである。また、本件明細書には、前記(一)認定のとおり本件第一発明が改良の対象とする第1図ないし第3図(別紙図面一参照)記載の装置が示され、第3図記載のものは、押圧手段(ローラ)を採用したものである。
したがって、本件第一発明の特許請求の範囲における「ガラス板の一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態」との構成を実施するために具体的にどのようにするか、どのような手段を採用するかは、当業者が本件第一発明たる方法の発明実施するにあたり任意に選択し得る事項というべきであり、本件第一発明の構成として不可欠な事項であるとすることはできない。
この点について、原告らは、「本件出願前周知のガラス板面取り加工装置にあっては「押圧手段」なるものを観念する余地は存在しない。すなわち、「押圧手段」なる観念は、彎曲状の支持面なるものが考えられて初めて出てくるものといわなければならない。本件審決の認定、判断は、従前のガラス板面取り加工装置にも押圧手段が存在したと即断した点においてすでに失当である」旨主張する。
しかしながら、本件第一発明の特許請求の範囲における「ガラス板の一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態」との構成は、方法の発明としては右記載自体から明瞭であり、これを実施するために具体的にどのようにするか、どのような手段を採用するかは、当業者が本件第一発明たる方法の発明実施するにあたり本件明細書の記載に基づき任意に工夫し選択し得る事項であって、発明の構成として不可欠な事項といえない以上、本件出願前押圧手段が周知であったか否かは、本件審決の認定、判断の結論に影響を及ぼすものではないから、原告らの右主張は理由がない。
また、原告らは、「本件出願前周知であったガラス板面取り加工装置の押圧手段は、本件発明の特許審判請求公告公報の第1図(別紙図面一参照)の3A・4Aに見られるごときものであり、同公報第2図及び第3図は、本件出願前の周知技術でない。本件審決認定のように、本件第一発明が「ガラス板の支持を『彎曲状の支持面により』行うという構成」を有するものであり、その構成により「研削手段により近い所まで彎曲面により支持することができる」という作用を有するものとすれば、前記3A・4Aに見られるごとき押圧手段では、別紙図面二に示すように押圧部材の下端からガラス板の下端までの間隔が大きいためガラス板の下端が研削手段からの研削荷重を受けた際、彎曲状の支持面の下端を支点としてそれより上のガラス板の部分が浮き上がり、その目的を達成し、所望の作用効果を奏することができないことが明らかである」旨主張する。
しかしながら、本件第一発明は、本件発明の特許審判請求公告公報の第1図ないし第3図記載のような技術における欠点を改良することをその技術的課題とするものであることは前記認定のとおりであり、原告ら援用の別紙図面二記載のものは、
そのべルトの構成及び配置から見てガラス板の挟持搬送に不都合であり、また、ガラス板は当て板の内側面に沿って彎曲状に変形されておらず、ガラス板の下端部が確実に固定支持されていないから逃げを生じ、本件第一発明の支持面として機能することができないものであり、これが本件第一発明の方法に用いられる装置に当たらないことは明白である。したがって、別紙図面二記載のものが本件第一発明の方法に用いられる装置であることを理由として、本件第一発明は、その目的を達成し、所望の作用効果を奏することができないとする原告らの主張は、採用できない。
そうであれば、審判手続における原告らの主張Bについて「ガラス板を彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で搬送するには、装置としては、支持面のほかにガラス板を挟んだ支持面とは反対側にガラス板を押圧する押圧手段を要することは請求人の主張のとおりであるが、(中略)本件第一発明において、押圧手段を具備するとの直接の記載がないことをもって、本件第一発明がその目的を達成し、
所望の作用効果を奏するための構成を欠くものとすることはできない。」とした本件審決の認定、判断はその結論において誤りがない。
3 以上のとおりであって、審判手続における原告らの主張@及びAについて本件審決の認定、判断に誤りがあるとする原告らの主張は主張自体失当というべきであり、また、右主張Bについての本件審決の認定、判断は正当であって、本件審決に原告らの主張の違法は存しない。
二 よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告らの本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条第93条第1項の各規定を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 竹田稔
裁判官 春日民雄
裁判官 岩田嘉彦
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