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関連審決 審判1986-17219
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  公知技術 /  発明の詳細な説明 /  出願変更 /  着想 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  異議申立 / 
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事件 昭和 63年 (行ケ) 267号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1990/12/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告ら 「特許庁が昭和六一年審判第一七二一九号事件について昭和六三年九月二二日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決二 被告 主文同旨の判決
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和五三年六月一五日の出願に係る実用新案登録出願(昭和五三年実用新案登録願第八一〇〇五号)を昭和五九年四月六日に名称を「包装袋連続体の製造方法」とする発明(以下「本願発明」という。)についての特許出願(昭和五九年特許願第六七四九八号)に出願変更したが、昭和六一年六月二三日拒絶査定を受けたので、同年八月二二日これを不服として審判を請求(昭和六一年審判第一七二一九号)した。本願は、昭和六二年四月二二日に出願広告(特公昭六二ー一八四〇八号)されたが、出崎勇から特許異議の申立てがなされた結果、特許庁は、昭和六三年九月二二日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。
二 本願発明の要旨 幅方向のみを延伸した一軸延伸樹脂フイルムの一面にアンカーコートを施し、その上にポリオレフイン層を介してアルミニウム箔を積層するか又はアルミニウムを蒸着したポリオレフインフイルムを積層し、更にその上にヒートシール性の樹脂を積層した積層シートを製袋すべき包装袋の幅に合せた幅の長尺積層シートに形成し、その長尺積層シートを、このシートの延伸方向と直交する向きに送りつつ前記ヒートシール性の樹脂層を向い合せ、この向い合せたシートの外側縁をヒートシールすると共に、送り方向に直交する側を適宜ピッチでヒートシールしながら充填物を充填することにより、切裂方向が送り方向に直交した袋であって、かつ、この袋が前記切裂方向と直交する向きで連続していることを特徴とする包装袋連続体の製造方法(別紙図面参照)。
三 審決の理由の要点1 本願発明の要旨は、前項記載(特許請求の範囲の記載に同じ。)のとおりである。
2 これに対して、特許異議申立人【A】が提出した、本出願前に日本国内で頒布された特開昭四九ー一七八五八号公開特許公報(以下「引用例1」という。)には、「横方向に容易に引裂くことができるフイルムを用いて、易カット性の袋を製造すること」、「横方向に容易に引裂くことのできるフイルムは、Tダイ法によった場合、未延伸フイルムをTD(横方向)に、延伸すること」が記載されている。
3 同じく、「新包装技術便覧」(日本包装技術協会編 一九七一年一二月二〇日発行一七八八頁ないし一七九五頁)(以下「引用例2」という。)には、「熱接着性の巻取り包装材料から連続して製袋する途中の工程にて内容物を充填し、口を封じる、包装材料が上から下に流れる縦型製袋充填機において製袋装置の一タイプである三方シール製袋装置の作動は、巻取り包装材料をガイドで縦方向に二つ折りし合せ目側面をシールし、内容物を充填し、次に直角方向をシールし、口と同時に底を封じ、その境目から切り離され、三方シールの袋とするもので、粉末、顆粒、粘体、液体等のごく小さいユニット包装に広く使われる。および包装材料にラミネート各種プラスチックフイルムを用いる。」ことが記載されている。
4 そこで、本願発明と引用例2に記載されたものとを対比すると、本願発明の「長尺積層シート」、「充填物」は、引用例2の「巻取り包装材料」、「内容物」に、それぞれ相当し、両者は製袋すべき包装袋の幅に合せた幅の長尺積層シートを送りつつ、シートを向い合せ、この向い合せたシートの外側縁をヒートシートすると共に、送り方向に直交する側を適宜ピッチでヒートシールしながら充填物を充填することを特徴とする包装袋連続体の製造方法である点で一致し、次の点で相違する。
5 相違点1 長尺積層シートの構造について、本願発明が、幅方向のみを延伸した一軸延伸樹脂フイルムの一面にアンカーコートを施し、その上にポリオレフイン層を介してアルミニウム箔を積層するか又はアルミニウムを蒸着したポリオレフインを積層し、更にその上にヒートシール性の樹脂を積層した構造であるのに対して、引用例2には、ラミネート各種プラスチックフイルムと記載されているだけで、その積層構造が明記されていない点。
6 相違点2 袋の切裂方向について、本願発明が、長尺積層シートを、シートの延伸方向と直交する向きに送って、切裂方向が送り方向に直交した袋としたものであるのに対して、引用例2には、袋の切裂方向とシートの送り方向について、何ら触れていない点。
7 相違点1についての判断 長尺方向のみ一軸延伸させた合成樹脂フイルムの一面にアンカーコートを施し、
その上にポリオレフイン層を介したアルミニウム箔を積層し、更にその上にヒートシール性の樹脂を積層した積層シートは請求人(原告)も認めるように本出願前に周知のものであり、また、包装用袋を形成する際に、横方向に容易に切り裂くことのできるように、横方向(幅方向)のみに延伸させたフイルムを用いることも、引用例1に記載されているように、本出願前公知のことであるから、前記の周知の積層シートのベースフイルムとして、長尺方向のみ一軸延伸させたフイルムの代わりに、横方向に切り裂くために横方向に延伸された引用例1のフイルムを用いて、本願発明の積層シートとすることは、当業者が目的を勘案して容易になし得る程度のことと認められる。
8 相違点2についての判断 製袋装置における包装材料として、横方向に容易に引き裂くことのできる包装袋用のフイルムを用いて連続製袋する際に、フイルムの延伸方向と送り方向とを直交させるような状態でフイルムを供給することは、当然のことと認められる。
9 そして、請求人(原告)の主張する本願発明の効果も、引用例1及び引用例2のものに比べて、特に予測できない優れた効果を奏するものとも認められない。
10 したがって、本願発明は、引用例1及び引用例2から、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
四 審決を取り消すべき事由 審決の理由の要点1ないし6は認める。同7の相違点1についての判断は争う(ただし、長尺方向のみ一軸延伸させた合成樹脂フイルムの一面にアンカーコートを施し、その上にポリオレフイン層を介したアルミニウム箔を積層し、更に、その上にヒートシール性の樹脂を積層した積層シートが本出願前に周知のものであることは争わない。)。同8の相違点2についての判断は争わない。同9は争う。審決は、本願発明と引用例2に記載されたものとの相違点1についての判断を誤り、かつ本願発明の効果を看過した結果、本願発明の進歩性を誤って否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 本願発明の技術的内容(一) 本願発明の目的 本願発明は、@ステイック状の縦長の袋をその細幅方向において切裂開口部を位置付けること、A三方貼りシールは勿論、四方貼り、封筒貼り等いずれのシール形態をもとれること、B連続的な製袋、充填が可能で、かつ、製袋される包装袋は連続体であることの各要件をみたす包装袋連続体の製造方法を提供することを目的とするものである。換言すれば、どのようなシール形態をとっても必ず開口のための切裂線を袋の細幅方向に平行な向きにできるとともに、この切裂線をもつ包装袋が縦方向で連続している包装袋の製法を得ることを目的としている。
(二) 本願発明の構成本願発明は、右の目的を達成するために、
@ 幅方向のみを延伸した一軸延伸樹脂フイルムの一面にアンカーコートを施し、
その上にポリオレフイン層を介してアルミニウム箔を積層するか又はアルミニウムを蒸着したポリオレフインフイルムを積層し、更にその上にヒートシール性の樹脂を積層した積層シートを製袋すべき包装袋の幅に合せた幅の長尺積層シートに形成することA その長尺積層シートを、このシートの延伸方向と直交する向きに送りつつ前記ヒートシール性の樹脂層を向い合せ、この向い合わせたシートの外側縁をヒートシールすると共に、送り方向に直交する側を適宜ピッチでヒートシールしながら充填物を充填すること、
B 切裂方向が送り方向に直交した袋であって、かつ、この袋が前記切裂方向と直交する向きで連続していることの各要件を構成要件としたものである。
(三) 本願発明の効果 本願発明は、前記@ないしBのとおりの構成要件による包装袋連続体を形成するようにしたことによって、次のとおりの特有な効果を奏するものである。
(イ) 包装袋は、各袋の切断線(連続部分)と各袋を開封するための切裂線が同じ方向(平行)に位置付けられた連続体として製袋される。
(ロ) 右の切断線と切裂線とは、基シート送り方向と直交し、かつ延伸方向と同方向である。
(ハ) 従来の製袋充填機によって、三方貼り、封筒貼り、合掌貼りなどいずれのシール構造を有する縦長の包装袋を連続体として形成することができる。
(ニ) その結果、従来の縦方向延伸フイルムと製袋充填機により形成された包装袋では、開封するための切裂線と袋同士の切断線が同方向において易カット性を具備することはできず、したがって、従来技術で製袋される袋は、切裂線に易カット性をもたせているため、製袋されるごとに切断した後に切裂線の端部に切裂きのための切口(以下単に「切口」ともいう。)を入れなければならないという問題があるのに対し、本願発明では、易カット性の切裂線と切断線とが平行に形成でき、この方向で各袋の接続部に易カット性があるため各包装袋がそれらの連続体として形成されていても、切口を幅方向に設けることができるので、切口を設けた後に手で容易に各袋を切断できるという利点がある。
本願発明が右のような効果を奏するものであるので、本願発明により形成される包装袋連続体は、例えば、即席食品のスープ等を所要個数(複数)単位の連続体の包装袋として、一括した取扱が可能になるために、このような商品のパッケージング等の取扱のうえで便利になるものである。
2 相違点1についての判断の誤り(一) 審決は、相違点1について、長尺方向に一軸延伸させた合成樹脂フイルムを使用した積層シートが周知であり、かつ、横方向のみに延伸したフイルムが易カット性の包装袋用のフイルムとして引用例1に記載されているように本出願前公知のことであるから、積層シートのベースフイルムとして、長尺方向のみ一軸延伸させたフイルムに代えて、引用例1のフイルムを用いて本願発明の積層シートとすることは、当業者が目的を勘案して容易になし得る程度のこととしたが、これは前述したとおりの本願発明の技術的内容、特に本願発明の目的及び効果を正しく理解しないことに基づき誤った認定判断である。
(二) 従来技術において、フイルムの延伸方向と易カット性の方向とは平行であることが知られていたから、個々の縦長の包装袋に対し、それを横向きにカットする易カット性を付与することを目的とすれば、従来公知の縦方向延伸フイルムを使用した積層シートを本願明細書(甲第二号証の本願特許公報、以下同じ。)添付の図面第2図(イ)に示す態様で連続製袋すれば足りる。つまり、公知の連続製袋充填技術は、連続製袋充墳する袋をすべて最終工程で切断するため、縦長の包装袋にその横断方向で易カット性を付与する場合であっても、縦方向延伸フイルムを用いた積層シートを連続製袋充填機にかけることにより、横方向に易カット線を有する縦長の包装袋をその袋の向きに横にして連続製袋することができる。したがって、
従来技術では、縦長の包装袋に横方向に延伸したベースフイルムを使用しなければならない特段の必要性はなかったのである。しかしながら、縦長の包装袋であってその横方向に易カット性を付与した包装袋を連続体として得ようとする場合には、
公知の縦方向延伸フイルムを用いた積層シートでは、本願明細書添付の第2図(イ)に示すような態様(縦長の袋の向きを横にして)でしか連続製袋できないため、内容物の充填に困難な面が生じたり、シール形態が限定されるといった問題があった。
(三) 右の問題点について、引用例1、2には、何ら触れるところがないが、この点を解決することが本願発明の目的である。すなわち、本願発明においては、縦長の包装袋であってその横方向に易カット性を有し、かつ、この袋の縦長の向きで連続させた形態で製袋充填するようにすれば、内容物の充填性の問題やシール形態が限定されるという問題点が解消できることに着眼し、この着眼を具体化するために横方向にのみ延伸したフイルムを積層シートのベースフイルムとして用いて本願発明の積層シートとしたものである。
このような本願発明における従来技術に対する問題点の認識やこの問題点を解決するための着想の示唆となるような事項は引用例1、2には全くないのである。このように、本願発明は、縦方向延伸フイルムをベースフイルムとした積層シートを用いた従来の連続製袋充填方法に対する問題点を摘出検討したうえで、この問題点を解決するための積層シートとして本願発明の積層シートの構成に到達したものであるから、引用例1、2に従来技術に対する問題点の認識やこの問題点を解決するための着想の示唆となるような事項がない以上、審決のいうように、当業者が目的を勘案して容易になし得る程度のこととは到底いい得ない。
3 本願発明の奏する効果の看過 審決が、「本願発明の効果も、引用例1、2のものに比べて、特に予測できない優れた効果を奏するものとも認められない。」とした認定判断は誤りである。すなわち、前1(三)(本願発明の効果)において詳細に述べたとおり横方向に易カット線を有する縦長の包装袋を縦向きのままその連続体として製造することができる(縦長の包装袋連続体のまま細幅方向に切裂きのための切口を設けることができる。)ので、従来の縦方向延伸フイルムを用いた積層シートによっては横向きでしか形成できない縦長袋の連続製袋における充填性やシール形態の問題を一挙に解決できるとともに、連続製袋のまま細幅方向に切口を設けることができるという引用例1、2からは予測できない効果を奏するものであるから、予測できない優れた効果を奏するものと認められるべきであって、これを否定した審決の認定判断は明らかに誤りというべきである。
4 被告の主張に対する反論(一) 従来技術と最終工程の切断について 被告は、従来技術の連続製袋充填工程において切断工程をおくことは、ヒートシールすることにより袋の口を封じた部分には切裂特性が残っていないためであり、
切断工程は、使用するベースフイルムが、横方向に延伸したフイルムであるか否かにかかわらず必要なものであるから、原告の主張には理由がないと主張するが、ヒートシールした場合、延伸フイルムの物性が多少変化するものの、縦方向の延伸フイルムにはもともと切断方向(横方向)での切裂特性(易カット性)がないために切裂きのための切口を入れるのには製造された袋の連続体を切断する必要があるのに対し、横(幅)方向延伸フイルムを用いたものではその切裂特性が全く損なわれてしまうことはないのみならず、むしろその切裂特性を助長するヒートシールも可能であることに鑑みれば、必ずしも切口を設けるために製造された袋の連続体を切断する必要はないのである。引用例2の公知の連続製袋充填技術では最終工程で製袋充填した各袋を個々に「切断する」ので、縦方向に延伸したベースフイルムを有する従来公知の積層シートを用いても、縦長の袋であってその横方向に切裂特性(易カット性)を備えた袋の連続製袋充填が可能であり、したがって、この意味において引用例2の公知技術では、横方向に延伸したフイルムをベースフイルムとして用いた積層シートを使用しなければならない必要性はないものである。
(二) 本願発明の目的について 被告は、原告の本願発明の目的に関する主張は、本願発明の好ましい実施態様に対応したものであって、本願発明の目的は、縦長の包装袋の製造に限定されるものではないから、前記の限定した目的に基づくものであって失当であると主張する。
しかしながら、本願発明の目的として、本願明細書には、「特にステイック状の縦長の袋をその細幅方向に切裂開口部を位置付け、且つ、合掌貼り、封筒貼りシール形態をとって連続的な製袋、充填が可能な包装袋の連続体の製造方法を提供することを目的としてなされたもの」(五欄二一行ないし二五行)と明示されており、且つ、この目的は、特許請求の範囲に記載された要件を満足する本願発明によってはじめて達成されるものである。確かに、特許請求の範囲に記載された本願発明の製造方法によれば、本願発明の目的に掲げた「ステイック状の縦長の袋をその細幅方向に切裂開口部を位置付け、且つ、合掌貼り、封筒貼りシール形態をとって連続的な製袋、充填が可能な包装袋の連続体」、すなわち、「縦長の包装袋であって横方向に易カット性が付与された包装袋の連続体」のほかに、「横方向に易カット性が付与された包装袋であって、その易カット性の方向と直交する方向に袋が連続した連続体」、つまり、縦長に限られない包装袋の連続体も製造できる。しかしながら、前記の目的を達成するためになされた本願発明によって、その目的とした対象のほかに、これと異なる幅を有する包装袋の連続体が製造できるにしても、本願発明によらなければ、「縦長の包装袋であってその横方向に易カット性が付与され、
且つその易カット性の方向に直交する向きに袋が連続した包装袋の連続体」は製造できないのであるから、この点に基づいた本願発明の目的についての原告の主張は何ら誤りではない。
請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一ないし三の事実は認める。同四の主張は争う。審決の認定判断は、正当であって、審決には、原告主張のような違法の点はない。
二 被告の主張1 本願発明の技術的内容について(一) 本願発明の目的について 本願発明の目的については、本願明細書に「本発明は上記のような一軸延伸フイルムを基材とした積層シートによる包装用袋において、内容物の自動充填をし乍ら連続製袋する技術の現状に鑑み、一軸延伸フイルムをベースとする積層シートを用いた袋であるが、特に(イ)ステイック状の縦長の袋をその細幅方向に切裂開口部を位置付け、(ロ)且つ、合掌貼り、封筒貼りシール形態をとって(ハ)連続的な製袋、充填が可能な包装袋の連続体の製造方法を提供することを目的としてなされたもの」(五欄一七行ないし二五行)((イ)(ロ)(ハ)の符号便宜上付したもの)と記載されているように、本願発明の目的は、右の(イ)(ハ)に限定されるものでなく、一軸延伸フイルムをベースとする積層シートを用いた袋を製造する際に、切裂開口部が、シートの幅方向(横方向)に位置するとともに、連続的な製袋充填が可能な包装袋の連続体を製造できる方法を提供するものである。そして、引用例1、2に審決認定のとおりの記載があることは原告の認めるところであるから、本願発明の右の目的は引用例1、2に記載されている。
(二) 本願発明の構成について 本願発明の目的は前項で述べたとおり一軸延伸フイルムをベースとする積層シートを用いて袋を製造する際に切裂開口部がシートの幅方向にある包装袋の連続体を製造する方法を提供するものであり、幅方向に延伸したフイルムをシートの幅方向(横方向)に位置させれば切裂方向が幅方向になることは当然のことであるから、
前記積層シートのベースフイルムとして引用例1のフイルムを用いることは、当業者が容易に着想できることである。審決のこの点の判断には何ら誤りはない。
三 本願発明の効果について 原告が本願発明の効果として主張する(イ)の事項は、横方向に延伸した横方向に易カット性を有するフイルムを包装袋の材料として用いた際に生じる当然の効果であり、(ロ)は、該フイルムを縦型製袋充填機に供給し包装袋を形成する際に必然的に生ずる作用を記載したものにすぎないから、(イ)と(ロ)は、引用例1、
2から予測できる効果といえる。また、(ハ)の事項は、本願発明のシート構造は、三方貼りの構造に係るものであるから、引用例2に記載されたシール構造と同じものである。そして、包装袋を連続体として形成できることは、引用例2においても包装袋は連続して形成されるものであるから、(ハ)の効果も引用例2に記載されているものといえる。更に、(ニ)の事項については、本願発明は包装袋連続体の製造方法に係るものであり、引用例2においても包装袋連続体は形成されており、包装袋連続体を、切断するか切断せずにそのままにとめておくかは、商品の取扱の際に決定する事項であって、本願発明の直接の効果ということはできない。
2 相違点1についての判断について(一) 原告は、従来技術の連続製袋充填技術は、連続製袋充填する袋をすべて最終工程で切断するため、積層シートに本願発明のように、横方向に延伸したベースフイルムを使用しなければならない特段の必要性はなかった旨主張するが、連続製袋充填工程において切断工程をおくことは、ヒートシールすることにより袋の口を封じた部分には切裂特性が残っていないためであり、したがって、切裂工程は、使用するベースフイルムが横方向に延伸したフイルムであるか否かにかかわらず必要なものであるから、原告の右の主張には理由がない。
(二) 原告は、本願発明の目的は、「縦長の包装袋であってその横方向に易カット性が付与した包装袋の連続体」を得ようとした場合における問題点を解決することである旨主張するが、前述のとおり本願発明は、好ましい実施態様における「縦長の包装袋」の製造に限定されるものではなく、一軸延伸フイルムをベースとする積層シートを用いた袋を製造する際に、切裂開口部がシートの幅方向(横方向)に位置するとともに、連続的な製袋充填が可能な包装袋の連続体を製造できる方法を提供することにある。そして、特許請求の範囲の記載をみても、切裂方向が長尺積層シートの送り方向に直交するという記載はあるが、縦長の包装袋に関する記載はなく、また、発明の詳細な説明をみても、本願発明の製造方法では必ずしも縦長の包装袋のみが製造されるものとは限らない。そうすると、原告の本願発明の目的に関する主張は、本願発明の好ましい実施態様に対応したものであって、本願発明の目的は縦長の包装袋の製造に限定されるものではないから、前記の限定した目的に基づく原告の主張は失当である。
3 本願発明の効果について 本願発明の目的が、右に述べたとおり好ましい実施態様に限定されることなく、
一軸延伸フイルムをベースとする積層シートを用いた袋を製造する際に、切裂開口部がシートの幅方向(横方向)に位置するとともに、連続的な製袋充填が可能な包装袋の連続体を製造する方法を提供するものであり、本願発明の製造方法が、縦長の包装袋連続体の製造方法に限定されるものでない以上、限定に基づく効果を本願発明の特有の効果とした原告の主張は失当である。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
二 取消事由に対する判断1 引用例2に審決の理由の要点3摘示に係る記載があること、本願発明と引用例2に記載されたものとは、製袋すべき包装袋の幅に合せた幅の長尺積層シートを送りつつ、シートを向い合せ、向い合せたシートの外側縁をヒートシールすると共に、送り方向に直交する側を適宜なピッチでヒートシールしながら充填物を充填することを特徴とする包装袋連続体の製造方法である点で一致することは、当事者間に争いがない。
2 原告は、本願発明と引用例2に記載されたものとの相違点1について、特に縦長のステイック状の包装袋(以下、「縦長の袋」ともいう。)を製造する場合を取り上げ、審決の判断の誤りを主張し、本願発明の効果の看過を主張するので、この点を検討する。
(一) 前記当事者間に争いのない本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証(昭六二ー一八四〇八号特許公報)(本願明細書)を総合すると、本願発明は、@粉末スープ、液体スープなどを包装したときに開封個所の切裂性の良好な特に縦長のステイック状の包装袋を、連続体の形態で自動製袋しつつ充填物を自動包装し充填する自動包装袋連続体の製造方法に関する発明であること、A従来、粉末スープ、液体スープなどの包装袋(以下「袋」ともいう。)は、その切裂性を確保するため、フイルムの長手方向にのみ延伸を施した樹脂フイルムを基材とした積層シートにより製造されていたこと(二欄一六行ないし一八行)、Bかかる長手方向に延伸した樹脂フイルムを基材とした積層シートを前記1の方法により縦長の袋に自動製袋しながら、個々に区画された各袋に充填物を充填し、充填後各袋を密封する作業を自動機械によって連続的に行おうとすると、その方法は、第1図(イ)(縦長の袋の二つの短辺と一つの長辺とをヒートシールし、縦長状に縦に連続した形態で製造される。)と第2図(イ)(縦長の袋の一つの短辺と二つの長辺とをヒートシールし、横長状に縦に連続した形態で製造される。)の方法があること、C第1図(イ)に示された方法では、(a)その形態は基本的な三方シール形態のほか、縦長の袋を自動製袋しつつこれに充填物を自動充填する上で従来の自動製袋充填機を利用できる点において有利な合掌貼りシールや封筒貼りシールを採用することができる長所を有するが、
(b)縦(長辺)方向に易カット性を有することから、切裂線が縦長の袋の長辺に沿って形成されるため、切裂きをする上で不便であるという使用上の短所があること(三欄二行、八欄三行ないし七行)、D第2図(イ)に示された方法では、
(a)横(短辺)方向に易カット性を有することから、切裂線が縦長の袋の短辺に沿って形成されるため、切裂きをする上で便利であるという長所を有するが、
(b)充填物が極めて浅底で広口の袋に自動的、連続的に充填されなければならないので、こぼれ易いなど充填物の充填がむずかしく、これに対処するためシートの早送りもできず、充填ノズルのストロークの空間を短くし、その構造を変える必要があり(三欄二九行ないし四欄一一行)、また、そのシール形態も三方シールを基本としたものに限られ、前記のような合掌貼りシール、封筒貼りシールを自動的、
かつ連続的になし得ないという製袋、効率性の面での短所があったこと(四欄四三行ないし五欄一六行、八欄七行ないし九行)、E本願発明は、(a)前記のような第1図(イ)及び第2図(イ)の方法における短所(C(b)、D(b))を解消し、両者の長所(C(a)、D(a))を合せた切裂きをする際の使用上での不便さがなく、かつ効率的に製袋、充填することにより縦長の袋を製造することを課題とし、その解決方法として、積層シートが横(短辺)方向の易カット性を有し、かつ、これを第1図(イ)の方法により縦長の向きで連続させた形態で充填物を充填することを着想し、(b)これに基づいて、本願発明の要旨のとおりの構成を採択したものであることが認められる。
(二) 引用例2記載の製袋方法は、長尺積層シート(巻取り包装材料)を連続的に縦方向に送り、これに三方シールするものであるから、この方法による製袋、充填の形態は本願明細書添付の第1図(イ)又は第2図(イ)の場合しか考えられないことは明らかであり、その場合に製袋、充填について生じる前記のような各方法の長所短所、また、縦方向に延伸されたフイルムを基材とした積層シートを用いた場合に縦方向に易カット性があることから送り方向に直交する方向には切裂線が設けられないなど切裂性に関連する前記のような各方法の長所短所に関しては、当業者であれば、当然認識しているものと認めて差し支えなく、したがって、前記2E(a)において述べた本願発明の課題は、当業者にとって予測可能なことということができる。
そうであれば、引用例1に「横方向に容易に引裂くことができるフイルムを用いて、易カット性の袋を製造すること」、「横方向に容易に引裂くことのできるフイルムはTダイ法によった場合、未延伸フイルムをTD(横方向)に、延伸すること」が記載されていること、長尺方向のみ一軸延伸させた合成樹脂フイルムの一面にアンカーコートを施し、その上にポリオレフイン層を介したアルミニウム箔を積層し、更にその上にヒートシール性の樹脂を積層した積層シートが本出願前周知であることは、当事者間に争いがないのであるから、引用例2の方法において、ラミネート各種プラスチックフイルムとして、右周知の積層シートに代えて、幅方向にのみ一軸延伸した樹脂フイルムを基材とした積層シートを用いた本願発明に想到することは、さして困難なこととは認められないものというべきである。そして、これによりもたらされる縦長の袋についての効率的な製袋、充填及び横方向の易カット性による切裂きをする上での便利さの効果も予測の域を出ないものと認めることができる。
(三) 本願発明において、積層シートの基材となる樹脂フイルムが延伸される幅方向とは、長尺積層シートの送り方向と直交する方向、換言すれば各袋の切断方向と平行な方向を意味するものであることは、前記本願発明の要旨から明らかなところであるから、一軸延伸した樹脂フイルムを基材とした積層シートを用いているのであれば、第1図(イ)や第4図(イ)にみられるような縦長の袋の製造にのみ限定されるものではない(この点は原告も明らかに争わないところである。)。したがって、例えば、
右積層シートを用いて第2図(イ)にみられるような形態の包装袋連続体を製造することも包含される。この場合、製袋、充填が効率的でないことは前記(一)D(b)で述べたとおりであり、また、易カット性は各袋の切断線と平行な方向に備わっていることから、切裂線は第1図(イ)にみられる袋と同様に縦長の袋の長辺に沿って設けられることになり、切裂きをする上で不便であるという使用上の短所は何ら解消されないことが明らかである。また、正方形の包装袋については、積層シートの基材となるべき樹脂フイルムの延伸方向を縦横いずれにしても切裂きをする上での便には変わりがないところである。そうであれば、仮に、原告が主張する前記(二)認定の「縦長の袋」の連続体についての効果が各引用例や前記周知技術から予想できる域を超える事項であるとしても、それはその「縦長の袋」の連続体を製造する場合に限られることであるから、本願発明において常に奏される特有の効果と認めることはできない。また、包装袋連続体のまま、各袋の切断線と平行な方向の端部に切裂きのための切口を設けることができるという、原告主張の効果は、積層シートの基材として右切断線と平行な方向に易カット性をもつ、つまり幅方向に一軸延伸したフイルムを用いることから、当然に考えられる事柄であるので、格別の効果とはいえない。したがって、各袋の切断線と平行な方向の端部に切口を設けることができるということをもって、予測できない優れた効果とみることはできない。
3 右のとおり、審決の相違点1についての判断には何ら誤りはなく、また、本願発明の効果を看過した誤りも認められないので、原告の主張はいずれも採用できず、相違点2については原告も特に争わないところであるから、本願発明の進歩性を否定した審決の判断は正当であって、審決にはこれを取り消すべき違法の点はない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤った違法があることを理由に審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものとして、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条及び民事訴訟法89条
93条1項本文の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 松野嘉貞
裁判官 舟橋定之
裁判官 杉本正樹