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関連ワード 技術的思想 /  製造方法 /  技術的手段 /  優先権 /  技術的意義 /  均等 /  置換 /  実施 /  拒絶査定 /  変更 /  公知事実 / 
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事件 昭和 37年 (行ナ) 134号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1970/04/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が、昭和三十七年四月二十四日、同庁昭和三五年抗告審判第二、〇八三号事件についてした審決は、取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求は、棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする」との判決を求めた。
請求の原因
原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和三十三年三月二十五日、名称を「スルフオンアミドの製法」とする発明につき、一九五七年(昭和三十二年)三月二十六日オーストリヤ国における特許出願の優先権を主張して、特許出願をしたところ、昭和三十五年三月三日拒絶査定を受けたので、同年八月五日これに対する抗告審判を請求し、同年抗告審判第二、〇八三号事件として審理されたが、昭和三十七年四月二十四日「本件抗告審判の請求は成り立たない」旨の審決があり、その謄本は、同年五月十六日原告に送達された(出訴のための附加期三間か月)。
二 本願発明の要旨 4ーアミノ―2・6―ヂヒドロキシピリミヂンをヂメチルアニリンの存在においてオキシ塩化燐と反応せしめ、この場合反応を4―アミノ2・6―ヂヒドロキシピリミヂン、オキシ塩化燐及びヂメチルアニリンを一‥四〜一二‥〇・二〜一・五重量部の量割合において、約摂氏七〇〜一三〇度の温度において行なう第一工程、得たる4―アミノ―2・6―ヂクロルピリミヂンをメタノール中にてアルカリ金属メチラートと共にメタノールの沸点以上の温度において圧力下にて加熱する第二工程、得たる4―アミノ―2・6―ヂメトキシピリミヂンを4―位にアミノ基に変じうべき置換分を有するベンゾールスルフオニルハロゲニドと縮合する第三工程及び得たる縮合生成物のベンゾール核の4―位における置換分をアミノ基に変ずる第四工程を結合することを特徴とする4―スルフアニルアミ―2・6―ヂメトキシピリミヂンの製法。
三 本件審決理由の要点 本願発明の要旨は、前項掲記のとおりであるところ、第一引例(ザ・ジヤーナル・オブ・オーガニツク・ケミストリ第二十巻第八二九〜八三七頁)(昭和三十年九月七日東京大学受入)には、「4―アミノ2・6―ヂヒドロキシピリミヂン一〇グラムとオキシ塩化燐一五〇ミリリツトルとヂエチルアニリン一五ミリリツトルとを約一〇時間還流せしめ(還流温度は摂氏一〇〇〜一一〇度と認められる)、4―アミノ―2・6―ヂクロールピリミヂンが得られる」ことが記載せられ、第二引例(ケミカル・アブストラクツ第五十巻第一五、五四五頁)(昭和三十一年十二月二十五日特許庁受入)には「4―アミノ―2・6―ヂクロールピリミヂンを金属ナトリウム含有の無水メタノールと還流せしめ、4―アミノ―2・6―ヂメトキシピリミヂンを得、これをP―アセチルアミノ―ベンゾールスルフオニルハロゲニドと縮合せしめて4―スルフアニルアミド―2・6―ヂメトキシピリミジンのアセチル誘導体が得られる。4―スルフアニルアミド―2・6―ヂメトキシピリミヂンの融点は、二〇一〜三度、そのアセチル誘導体の融点は二二〇〜三度である」と記載されているが、これらの記載から、「4―アミノ―2・6―ヂヒドロキシピリミヂンの2位及び6位のOH基を、順次Cl置換、CH3O置換したのち、これにP―アセチルアミノ―ベンゾールスルフオニルハロゲニドを縮合せしめて、4―スルフアニルアミド―2・6―ヂメトキシピリミヂンのアセチル誘導体が得られることが本願出願前既知となつているばかりでなく、この化合物の脱アセチルした化合物がその性質と共に知られていること」が明らかである。本願発明の要旨を右既知の事実と対比するに、後者には前者の第一工程におけるオキシ塩化燐の添加割合及びヂメチルアニリンの使用の点、第二工程における加圧条件及び第四工程について記載されていないだけで、他の点は両者一致する。しかして、オキシ塩化燐添加割合を本願程度とすることは、第一引例に過剰のオキシ塩化燐は吸引溜去せねばならぬ旨説明されているところから当業者が容易になしうることと認められるばかりでなく、引例にヂエチルアニリンの使用が示されていれば、これと第三級アミンとして均等なヂメチルアニリンを使用することは当業者が必要に応じてなしうべきことで、これによつて収量を増大したとしても、これが重要な発明の構成因子をなすものと認めることはできない。次に、第二工程の加圧条件についてみるに、一般に加圧下の反応は、常圧におけるそれに比し、反応速度を増大し、又は平衡における転化率を有利にする等の長所を有する故に、揮発性物質を含有する反応系にしばしば用いられる手段であるばかりでなく、明細書、抗告審判請求書には加圧の程度、効果について明確な記載がないから、この点にも発明を認めることができない。また、第四工程は、有機合成上の常套手段であるから、本願方法は、全体として引例から当業者の容易に到達しうる程度のことに属し、発明と認め難く、旧特許法(大正十年法律第九十六号)第1条の特許要件を具備するものと認めえない。なお、抗告審判請求人(原告)は、ジヤーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエテイ一九五一年第七十三巻第三〇一一〜三〇一二頁の論文を引用して、ヂメチルアニリンの使用は予想しえない旨述べているが、該文献はヂメチルアニリンの使用が全く不可能であることを示しているものではなく、単にこれを使用した失敗例を示すにすぎないものであるから、これによつて、本願が発明を構成するものとすることもできない。
四 本件審決を取り消すべき事由 本願発明は、(一)出発物質としてヂメチルアニリンを使用すること、(二)4―アミノ―2・6―ヂヒドロキシピリミヂン、オキシ塩化燐及びヂメチルアニリンの量割合を限定したこと、(三)温度限定をしたこと及び(四)第四工程を採用したことの四者を結合して、高純度、高収率のものが得られる点において、各引例の技術と格段の相違があるものであるところ、本件審決は、これを看過誤認し、本願発明をもつて、各引例から当業者の容易に到達しうる程度のことに属する、とした点において違法であり、取り消されるべきものである。すなわち、本願発明の要旨、公知刊行物である各引例の記載内容、それらの記載から明らかな事実、
各引例ないしは右公知事実と本願発明の相違点及び一致点が、いずれも本件審決認定のとおりであること、ヂエチルアニリンとヂメチルアニリンが第三級アミンとして一般に均等なものであること及び第四工程が有機合成上の常套手段であることは争わないが、本件審決は、次の点において判断を誤つたものである。
(一)本件審決は、オキシ塩化燐の量割合を本願発明の程度とすることは、第一引例に過剰のオキシ塩化燐は吸引溜去せねばならない旨説明されていることから、当業者が容易になしうることである、としている。第一引例に右のような説明のあることは争わないが、第一工程における三反応関与体の相対的量割合について特に重要であるのは、オキシ塩化燐ではなく、ヂメチルアニリンのそれである。本願明細書第四頁末行ないし第五頁五行に「良好なる結果を得るには、次の原料物質を次の重量比において使用するのが適当である。……ヂメチルアニリンの相対的量は特に重要である」と記載されているが、本件審決は、ヂヒドロキシピリミヂンとオキシ塩化燐との量割合のみに着目し、ヂメチルアニリンのこの重要な相対的使用量割合を看過している。
(二)本件審決は、引例にヂエチルアニリンの使用が示されていれば、これと第三級アミンとして均等なヂメチルアニリンを使用することは当業者の必要に応じてなしうべきことである、としている。両者が、一般に第三級アミンに属することはいうまでもないが、本願発明の方法において両者は均等物ではない。本願発明の特許出願当時(オーストリア国への特許出願の日は一九五七年三月二十六日)において、本願発明の第一工程のように、4―アミノ―2・6―ヂヒドロキシピリミヂンを相当するヂクロルピリミヂンに変ずるに当たり、ヂメチルアニリンを使用することは、少くとも工業的実施において不可能であつた。一九五一年に発行された権威ある化学雑誌ジヤーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエテイ第三〇一一頁左欄の記載によれば、4―アミノ―2・6―ヂヒドロキシピリミヂンと類似する(審決の見解によれば当然これと均等とされるべき)2―アミノ―4・6―ヂヒドロキシピリミヂン及び2・4―ヂアミノ―6―ヒドロキシピリミヂンの両者はオキシ塩化燐及びヂメチルアニリンの使用下に容易に塩素置換されえたが、本願発明の出発物質である4―アミノ―2・6―ヂヒドロキシピリミヂンの場合には、この塩素置換は失敗に帰した。本件審決は、右文献は、「ヂメチルアニリンの使用が全く不可能であることを示しているのではなく、単にこれを使用した失敗例を示すにすぎない」と、不当に前記報告を過小評価しているが、この報告は、ヂメチルアニリンの使用によるヂクロル化が全く行なわれえないことを示すとまではいいえないにしても、他の類似ないし均等のヂヒドロキシピリミヂンについては困難なく塩素置換されたに対し、4―アミノ―2・6―ヂヒドロキシピリミヂンの場合には、同様の条件下において相当するヂクロル化合物を得ることに失敗したと明白に報告しているのである。成功例を示すことなく、単なる一失敗例にすぎないとするのは根拠のないことである。右文献は、ヂメチルアニリンとヂエチルアニリンとが、少なくとも、このような反応において、均等物とは考えらるべきでないことを示しているのである。このような本願発明出願当時の技術水準において、従来慣用されていたトリクロルピリミヂンからではなく、4―アミノ―2・6―ヂヒドロキシピリミヂンから出発し、しかも、一旦不可能として断念放棄されたヂメチルアニリンの使用に立ち帰り、三反応関与体の相対的量割合及び加熱温度の両条件を一定範囲に規制することによつて、きわめて高収率、高純度のヂクロル化合物が得られることが見出されたのである。しかも、本願発明の方法による収量の増大は、通常行なわれる程度の条件の改善による僅かな増大に止まるものではないから、本件審決が漫然「ヂメチルアニリンを使用することによつて収量を増大したとしても、これが発明の構成因子をなすものと認めることができない」としたことは誤りである。
被告の答弁
被告指定代理人は、答弁として、次のとおり述べた。
原告主張の事実中、特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点がいずれも原告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。
本件審決の判断は正当であり、原告主張のような違法の点はない。本願発明の方法の効果についても、たしかに、数字的には、従来の文献に示されたものを上廻つてはいるが、その効果を過大に評価することは、本願発明の本質を見誤るおそれがある。第一引例には、4―アミノ―2・6―ヂヒドロキシピリミヂン一〇グラム、オキシ塩化燐一五〇ミリリツトルとヂエチルアニリン一五ミリリツトルとを約十時間還流させて、4―アミノ―2・6―ヂクロールピリミヂンが得られることが記載されており、本願発明の第一工程における結合剤ヂメチルアニリン又はその場合における原料物質との相対的量割合について全く一致する記載のないことは事実であるが、4―アミノ―2・6―ヂヒドロキシピリミヂンから4―アミノ―2・6―ヂクロールピリミヂンが得られる技術的思想は明らかに示唆されている。しかも、ヂエチルアニリンとヂメチルアニリンとを結合剤として均等的に使用することは、その相互変換につき格別技術的困難性を伴うものとは認められない。
原告は、ヂヒドロキシピリミヂン、オキシ塩化燐およびヂメチルの量割合、とくにヂメチルアニリンの相対的量が重要である旨主張するが、結局ヂエチルアニリンに代えてヂメチルアニリンを使用した場合における自明の反応条件を数量的に規定したに過ぎず、かりにかかる規定がなくても第一工程の実施条件は右規定の範囲を出ないもので、必然的な条件と解すべきものである。また、温度制限の点も、その適用を考慮する程度の条件の変更を行なつた結果奏功したに過ぎず、格別困難性を伴なう処理条件の変更には当らないと解される。さらに、第四工程の採用も、引用例に直接示唆されてはいないが、当該技術に習熟した者にとつては、原告主張の物質を出発原料に選んだ場合、目的物質に至る合成経路として本願発明の方法のごとき順序、結合は容易に選定できる工程順序で、この点にも発明としての評価を与えることはできない。
証拠関係(省略)
理 由(争いのない事実)一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点がいずれも原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)二 本件審決は、次の点について判断を誤つたものであり、違法として取り消されるべきものである。
本件審決は、本願発明において、ヂメチルアニリンを使用した点について、「引例にヂエチルアニリンの使用が示されている場合、これと第三級アミンとして均等なヂメチルアニリンを使用することは、当業者が必要に応じてなしうべきことであり、そこに発明の存在を認めることはできない」旨説示する。しかして、引例にヂエチルアニリンの使用が示されていること及び一般にヂメチルアニリンとヂエチルアニリンが第三級アミンに属し、化学的性質において類似した物質であること自体は、当事者間に争いのないところであるが、このことから、本願発明におけるヂメチルアニリンとヂエチルアニリンとが均等物であり、したがつて、公知のヂエチルアニリンに代えてヂメチルアニリンを使用することが、当業者の必要に応じてなしうることであり、そこに発明は存在しないと速断することは誤りであるといわざるをえない。けだし、本願出願当時、本願発明のようなスルフオンアミドの製造方法において、結合剤としてヂメチルアニリンを使用することは工業的に不可能とされていたものであるところ、本願発明はこれを使用することにより、他の構成要素である技術的手段と相まち、引例の方法に比し高収率、高純度のヂクロル化合物を得ることができるに至つたからである。すなわち、成立に争いのない甲第十二号証(ザ・ジヤーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエテイ第七十三巻三、〇一一〜三、〇一二頁)によれば、本願特許出願当時において、本願発明の第一工程における4―アミノ―2・6―ヂヒドロキシピリミヂンと類似する2―アミノ―4・6―ヂヒドロキシピリミヂン及び2・4―ヂアミノ―6―ヒドロキシピリミヂンは、オキシ塩化燐及びヂメチルアニリンの使用のもとにおいて、容易に塩素置換されえたが、4―アミノ―2・6―ヂヒドロキシピリミヂン(本願発明の出発物質)の場合には、塩素置換には成功しなかつた事実が認められ、同じく甲第十三号証(第一引例)によれば、4―アミノ―2・6―ヂヒドロキシピリミヂンから相当するヂクロル化合物を得るため、ヂメチルアニリンに代えてヂエチルアニリンの使用を試みたところ、収率は僅かに二七%にすぎないが、一応ヂクロル化に成功した事実が認められ、これらの事実によれば、本願発明のようなヂクロル化工程において、ヂメチルアニリンとヂエチルアニリンとは塩素化の反応性において差異があり、本願出願当時の当該技術分野においては、両者をもつて、本願発明の方法における均等物とはしがたく、ヂメチルアニリンを使用することはもち論、ヂエチルアニリンを使用することも、きわめて不満足な効果をもたらすにすぎず、到底工業的実施の対象たりえなかつた事実を認定しうべく、この認定を左右するに足る証拠はない。本件審決は、前掲甲第十二号証の記載をもつてヂメチルアニリンの使用が全く不可能であることを示すものでなく、単にこれを使用した失敗例を示すにすぎないもの、としているが、他に成功例の示されていない証拠関係のもとにおいて、右記載をこのように評価判断することは全く理由のない独断であり、正しい証拠の取捨判断ということはできない。
さらに、成立に争いのない甲第十六号証(アンドレ・グリユツスネルの宣誓供述書)によれば、実験結果として、本願発明の方法により収量八五・五%の純粋な均質の生成物が得られた事実が認められる(他にこれを動かすに足る証拠はない)から、本願発明におけるヂメチルアニリンとヂエチルアニリンとはヂヒドロキシピリミヂンをオキシ塩化燐と反応せしめる塩素置換の技術手段として、性質上、均等といえないばかりでなく、その挙げる効果にも大きい差異のあることが明らかであるから、本願発明においてヂメチルアニリンを使用したことをもつて、当業者が、引例に示されたところから、必要に応じて容易になしうるものと断ずることはできない。
したがつて、本件審決の前示判断は、本題発明においてヂメチルアニリンを使用することとした本願当時における技術的意義並びにこれに伴う作用効果を看過誤認したものというほかはない。
(むすび)三 以上説示したとおりであるから、その主張の点に違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、爾余の点について判断を用いるまでもなく、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第八十9条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 服部高顕
裁判官 三宅正雄
裁判官 石沢健