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関連審決 審判1970-8137
関連ワード 進歩性(29条2項) /  公知技術 /  発明の詳細な説明 /  遡及 /  優先権 /  分割出願 /  交換 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 47年 (行ケ) 108号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1975/11/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上訴期間につき附加期間を三月とする。
事実及び理由
当事者の申立
原告訴訟代理人は「特許庁が昭和四七年三月二一日同庁昭和四五年審判第八一三七号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は主文第一、二項と同旨の判決を求めた。
請求の原因
原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として次のとおり述べた。
(審決の成立ー特許庁における手続)一 原告は名称を「蓄音機のピツクアツプ」とする発明につき一九五八年(昭和三三年)二月二七日及び同年八月六日アメリカ合衆国において特許出願をし、これに基づく優先権を主張して、昭和三四年二月二七日特許出願(以下「原出願」という。)をし、次いで、昭和三八年一月五日旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第9条の規定による分割の特許出願(以下「本願」という。)をし、昭和四〇年六月一七日出願公告をされたが、日本ビクター株式会社その他から特許異議の申立があり、昭和四五年五月一一日拒絶査定を受けたので、同年九月一四日審判を請求(同年審判第八一三七号事件)したところ、特許庁は昭和四七年三月二一日右審判の請求は成り立たない旨、本訴請求の趣旨掲記の審決をし、その謄本は同年四月二六日原告に送達された(なお、出訴期間として三か月を附加された)。
(審判の理由)二 右審決は本願発明の要旨を「一対の圧電型変換素子と、これらの変換素子の主面がほぼ直角な平面内に在るように変換素子を支持する装置とを備えた45/45方式の立体録音再生用ピツクアツプにおいて、音針腕を支持する制御再入部を有する一体的な結合部材を備えて音針が両変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の交線上に配置されるようにしたことを特徴とする立体録音再生用ピツクアツプ。」と認定したうえ、次のように要約される理由を示している。
本願発明の要旨中「音針が両変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の交線上に配置される」という要件については、原出願の明細書及び図面に明確に示されていない。すなわち、右明細書中に直接、その記載はなく、右図面中、第五ないし第一一図に示されたものは明らかに右要件を備えていないほか、第一ないし第四図に示されたもの、特に第四図のものは右要件を備えているかもしれないが、これらの図面は元来、説明図であつて寸法の記入もないから、これに記載の結合部材の音針支持体を収容する再入中央部も音針を右要件に従つて配置することを明確に示しているものとは認めることができないのである。したがつて、本願発明は原出願の明細書及び図面に記載された事項、または、それから自明な事項を発明の要旨とするものではないから、これについて、分割出願に基づく出願日の遡及を認めることができない。
そして、本願発明と本願前の公知文献たる特公昭三六年一六八二三号公報に記載された立体録音再生用ピツクアツプとは音針腕の支持構造において差異があるほかは、一致した構成であり、また、本願発明における音針腕の支持構造は、実公昭二九ー一二三八号公報(モノラル型ピツクアツプ)に示されるように、それ自体公知技術であつて、これを本願発明のステレオ型ピツクアツプに転用することは当然考えられるところであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(審決の取消事由)三 本願発明の要旨は右審決の認定したとおりである。しかし、本願発明の要旨中右審決の指摘する要件は後記のとおり原出願の明細書及び図面に記載されているから、その明示がないとした右審決の認定ないし判断は誤りであつて、本願発明については、分割出願による出願日の遡及を認めるべきであるから、その遡及日後に頒布された引用例との対比上、本願発明の進歩性を否定して本願発明の特許を受入れることができないとした右審決は違法であつて取消を免れない。ただし、上記以外の点に関する右審決の認定及び判断は争わない。
(一) 原出願の明細書には次のような記載がある。
1 「変換素子28及び30の主面がピツクアツプケーシングの縦軸を通る垂直平面に対し四五度の角度をなし、かつ、互に直角な平面にあるよう制動体32及び34の孔を穿つ。」(第八頁第一六行ないし第一九行)2 「軛は変換素子28及び30の縦軸に直角な平面にあり、その各末広がり脚は、それが接着する変換素子の法線になつている。」(第九頁第九行ないし第一一行)3 「駆動位置では音針腕の軸が大体変換素子28及び30の軸に平行である」(第一三頁第一四、一五行)4 「この軛はピアノ線の単片で造られて一対の末広がり脚と一つの再入中央部分とを持つている。」(第九頁第二行ないし第四行)(二) 原出願の図面中、第四図において、軛36の両脚の各中心線の延長線が音針腕56の下方(図上では上方になる。)で交わる点をAとすると、A点より音針腕56の軸線に平行に引いた線(別紙図面の赤点線)は音針48の先端を通ることが明らかである。また、原出願の明細書には「変換素子28及び30と駆動音針とは下方に延びて音針とピツクアツプケーシングとの間に必要な隙間を与え、ピツクアツプケーシングのいずれの部分も、ターンテーブル92上で演奏中のレコード90に触れるおそれなしにレコードを走査する位置にある。」との記載がある(第一三頁第一七行ないし第一四頁第三行)が、これを第四図と対照すると、音針腕56の音針がついている平坦な端部54は十分に上方に曲つているので、音針と変換素子28、30に分け与えられる傾きにかかわらず、音針はレコード面に垂直となること、さらに、軛36の中央再入部分は深みを持つもであることが明らかである。
(三) 以上の点をあわせ考えれば、当業者としては原出願の明細書及び図面によつて容易に「音針が両変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の交線上に配置される」という要件を読み取ることができる。
答弁
被告指定代理人は請求の原因について次のとおり述べた。
一 原告主張のうち、審決の成立にいたる経緯、審決の理由に関する事実は認めるが、右審決の認定ないし判断は正当であつて、右審決に違法はない。
二 右審決の理由に対する原告主張の非難が当らない所以は次のとおりである。
(一) 原出願の明細書に原告指摘の記載があることは認めるが、これを総合しても、音針の先端の位置を特定することはできない。すなわち、本願発明の要件のように「音針が両変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の交線上に配置される」というがためには、例えば、軛の再入中央部における音針腕の軸線の位置が軛の一対の末広がり脚の中心軸線の交点上にあり、音針腕の軸線が両変換素子の縦軸に完全に平行であり、かつ、音針の先端が音針腕の軸線上に配置されるという条件が定められなければならないのに、原出願の明細書には音針腕の軸が大体、両変換素子の軸に平行であると記載されているだけで、軛の再入中央部分の寸法、音針腕の軸線と音針との相対的な寸法、これらの相関関係等については何ら記載されていないのである。
(二) 原告主張のA点は原出願の明細書中、原告指摘の記載に照合すると、「両変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の交線上」にあるものと認められるところ、右交線が両変換素子の縦軸に平行となることは幾何学的に明らかであるから原出願の図面中、第四図において、A点を通り両変換素子の縦軸に平行な線A・B(別紙図面の赤実線)は音針腕56の平らな端54の上方(図上では下方になる。)を通り、音針48の先端とは相当の隔りがある。原告はA点より音針腕に平行に引いた線が音針の先端を通ると主張するが、音針の先端が「両変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の交線上に配置される」には、A点を通り両変換素子の縦軸に平行な線上になければならないから、右主張は意味をなさない。もつとも、
その主張が原出願の明細書中、「音針腕の軸が大体、変換素子28及び30の軸に平行である」との記載をふまえて、A点より音針腕に平行に引いた線は両変換素子の軸とも平行であるという趣旨にも解されようが、右明細書の記載は音針腕の軸と変換素子の軸とが「大体……平行である」としているだけであり、図面中、第四図においては明らかに両者が平行でない状態が示されているのであるから、結局、原告の右主張は成り立たない。
証拠関係(省略)
理 由一 前掲請求原因のうち、原告主張の発明につき、原出願から、旧特許法第9条の規定による分割の本願を経て、審決が成立するまでの経緯及び発明の要旨の認定を含む審決の理由の要点に関する事実は、当事者間に争いがなく、本願発明の要旨が右審決認定のとおりであることは原告の自陳するところである。
二 そして、原告主張の右審決の取消事由よれば、本訴における争点は先ず本願発明の要旨中「音針が両変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の交線上に配置される」という要件が原出願の明細書または図面に記載されているか否かにあるので、この点について検討する。
(一) 成立に争いのない甲第一一号証(原出願の特許願)によると、原出願の明細書には特許請求の範囲として次の記載があることが認められるが、これに本願発明の前記要件が記載されていないことは明らかである。
「個々の録音一対を一つの音溝に行つた蓄音機レコードに使用するために、二つの電気出力を有する機械ー電気変換装置と、音針支持体と、上記録音で音針に与えた振動を上記変換装置に伝えて、上記録音の一方の録音波面に応答する上記音針の振動で対応する電圧変化を上記出力の一方に発生し、上記録音の他方の録音波面に対応する上記音針の振動で対応する電圧変化を上記出力の他方に発生するようにした結合装置とを備える立体音響型蓄音機ピツクアツプにおいて、上記結合装置は、
上記音針保持体を収容する再入中央区分と、互にほぼ九〇度でこの再入中央区分から外向きに延びる二つの部分とを有する一体構造の軛を備え、これら外向き延長部分の再入区分から遠い方の端各々を上記変換装置に異なる位置で接着することを特徴とする立体音響型蓄音機ピツクアツプ」(二) 次に、原出願の明細書(前掲甲第一一号証によると、発明の詳細な説明)に次のような各記載があることは当事者間に争いがない。
1 「変換素子28及び30の主面がピツクアツプケーシングの縦軸を通る垂直平面に対し四五度の角度をなし、かつ、互に直角な平面にあるよう制動体32及び34の孔を穿つ。」2 「軛は変換素子28及び30の縦軸に直角な平面にあり、その各末広がりの脚は、それが接着する交換素子の法線になつている。」3 「音針腕の軸が大体変換素子28及び30の軸に平行である。」4 「この軛はピアノ線の単片で造られて、一対の末広がり脚と一つの再入中央部分とを持つている。」 (弁論の全趣旨によれば、以上に表われる番号は原出願の図面中、第四図に記載のものと一致する。以下、これに同じ。なお、同図の記載を示すため、本判決末尾に別紙図面を添付する。) これを原出願の明細書中その余の記載に併せ考えると、右明細書には原出願の特許請求の範囲にいう結合装置の構成に関して少くとも次の記載があるものと認めるのが相当である。
1 駆動位置にある音針腕56の軸線は両変換素子28、30の縦軸に大体、平行である。
2 両変換素子の各主面の垂直二等分面の交線は両変換素子の縦軸に平行であつて、垂直方向から見た場合、これら縦軸間の真中に位置する。
3 軛36は両変換素子の縦軸に直角な平面上にあつて、その一対の末広がりの脚の軸線がそれぞれ両変換素子の垂直二等分面上にある。
そして、右3の当然の帰結として、軛の両足の軸線を延長した線の交点をAとすると、A点は別紙図面に示すように両変換素子の各主面の垂直二等分面の交線上にあることとなる。
(三) ところが、前出甲第一一号証によると、「音針」については、原出願の発明の詳細な説明中に「音針46を音針腕52の平らな端50に支え、音針48を同様に音針腕56の平らな端54に支える。」と記載されているだけで、その音針腕との位置関係を規定するものがないのは勿論、本願発明の「音針が両変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の交線上に配置される」という要件について、これを直接記載した個所を見出すこともできない。さればとて、音針は音針腕の軸線上に配置されるものと仮定し、右要件中の「音針」を「音針腕」と読みかえても、駆動位置にある音針腕56が右要件を具備しているというためには、前記(二)により明らかなように(イ)音針腕56の軸線が両変換素子28、30の縦軸に正確に平行であること、
(ロ)軛36の再入中央部における音針腕の軸線が軛の両脚の軸線の交点(別紙図面におけるA点に当る。)上にあることの2条件を満足しなければならないのに、
原出願の明細書には、前記のように(イ)については見るべき記載がなく、(ロ)については全く記載がない。すなわち、本願発明の要旨中、駆動音針に関する構成については、原出願の明細書中に記載されるところがないといわざるをえない。
原告は原出願の図面中、第四図の記載を根拠に、音針48が右要件を備えていると主張するが、同図によると、駆動位置にある音針腕56の軸線が両変換素子28、30の軸線と平行でないことがたやすく認められ、原告主張のようにA点(前記のように両変換素子の各主面の垂直二等分面の交線上にある。)より音針腕56に平行に引いた線が音針48の先端を通るようなことはありえず、かえつて、被告主張のように、A点より両変換素子28、30の軸線に平行な線A・B(別紙図面の赤実線)が音針腕56の平らな端54の上方((図上では下方になる。)を通り、音針48の先端と相当隔りがあることが明らかであるから原告の右主張は当らない。
(四) 以上の次第で、本願発明の要旨中、前記要件は、原出願の明細書または図面に記載されているといえないから、本願をもつて適法な分割出願ということはできず、したがつて、これにつき原出願の日まで出願日の遡及を認めることはできない。
三 してみると、本願発明がその出願日前に頒布された引用例との対比により進歩性を否定されることがあつてもやむをえないものというべきところ、原告は本願発明の進歩性に関する右審決の認定ないし判断について争わないから、右審決に原告主張の違法があるということはできない。
よつて、本件審決の違法を主張してその取消を求める本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 駒田駿太郎
裁判官 中川哲男
裁判官 橋本攻