運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 異議1998-70682
関連ワード 侵害 /  損害額 /  不法行為(民法709条) /  変更 /  要旨変更 /  補助参加 /  取消決定 /  不服申立 /  異議申立 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 17年 (ネ) 162号 損害賠償請求控訴事件
控訴人 株式会社イー・ピー・ルーム
被控訴人 国代表者法務大臣 南野知惠子
指定代理人 森田強司
同 鈴木愼吾
同 小林進
同 山内孝夫
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,金160万円及びこれに対する平成16年10月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事案の概要
本件は,発明の名称を「放電焼結装置」とする特許(出願日 平成2年9月18日,登録日 平成9年5月2日,特許番号第2640694号。以下「本件特許」という。)を有していた控訴人が,本件特許につき住友石炭鉱業株式会社(以下「住友石炭鉱業」という。)がした特許異議の申立てに基づき平成13年7月4日付けでなされた本件特許を取り消す旨の決定(平成10年異議第70682号。
以下「本件取消決定」という。)は,特許庁の担当審判官らが,異議申立人たる住友石炭鉱業の利益を図る目的をもって,又は特許庁が所持保管する各種公報の調査義務を怠り,これを審理することなく違法にしたものであり,その違法行為によって,原告は15億円相当の損害を被ったとして,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,上記損害金の内金として160万円と遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審の東京地方裁判所は,特許庁の担当審判官らが控訴人主張の上記のような違法行為を行ったとは認めらないと判断して,控訴人の請求を棄却する判決をしたので,控訴人はこれを不服として本件控訴を提起した。
当事者の主張
原審における当事者の主張は,原判決の「事実及び理由」欄の第2ないし第4記載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,原判決3頁5行目の「被告補助参加人」を「同訴訟の被告である特許庁長官の補助参加人」と,同9行目及び11行目の各「本件取消決定」をいずれも「上記高等裁判所判決及び本件取消決定」と,同12行目の「初めて知り」を「初めて知ったとした上」と,それぞれ改める。
また,原判決3頁26行目(末1行目)の「原告の被った損害額」を「本件特許権の侵害の有無及び控訴人の被った損害額」と,同4頁6行目から7行目にかけての「住友石炭鉱業に不利になる本件各公報について審理することなく」を「職権で特開平4-9405号公報を刊行物1として審理し,住友石炭鉱業に不利になる本件各公報を隠して審理せず,又は特許庁が所持保管する各種公報についての調査義務を怠り,本件各公報を審理することなく」と,同14行目の「利益を図る目的で」を「利益を図る目的をもって,職権で上記刊行物1を審理し」と,同24行目及び同25行目の各「不服申立て制度」をいずれも「不服申立制度」とそれぞれ改め,同5頁3行目の「東京高等裁判所」の前に「その上訴審判決である」を加える。
当審における控訴人の主張
控訴人は,当審において,別紙「控訴理由書」のとおり主張し,被控訴人は,いずれもこれを争うと述べた。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の本訴請求は理由がなく棄却すべきものと認めるが,その理由は,次に付加するほか,原判決の記載を引用する。
2 本件各公報の審理に関する主張(控訴理由書1,3,4,5,7)につい 控訴人の控訴理由書1(特許法120条1項により発生した公務員の不法行為),3(審判官は公平な審理をする義務がある),4(過去において本件各公報を審理した事実はない),5(原判決は本件各公報の内容を斟酌しないが,斟酌すれば,本件取消決定の内容は誤りである),7(原判決が審理しなかった,本件各公報により公知である技術の変更要旨変更を来さない旨の判例)の各主張は,必ずしも明確でないが,いずれも本件各審判官が,本件各公報について審理することなく本件取消決定をしたことが国家賠償法1条1項の違法行為に該当するとの主張と解される ところで,特許異議の申立てについて特許庁の審判官がする審理及び決定は,裁判に類似した準司法手続によって行われ(平成15年法律第47号による改正前の特許法(以下,単に「法」という。)114条,117条,119条,120条の6等),審判官がした取消決定に対して不服がある場合には,これを是正するための取消訴訟等の救済手続が定められているのであるから(法178条1項,民事訴訟法311条等),国の機関である審判官がした取消決定について国家賠償法1条1項にいう違法行為があったものとして国(被控訴人)に国家賠償責任が肯定されるためには,取消訴訟等の不服申立制度によって是正されるべき法令違背等の瑕疵が存在するというだけでは足りず,違法な取消決定に対する救済を上記不服申立制度による是正にゆだねるとするだけでは不相当と解されるような特別な事情のあることを要するものと解すべきである。
これを本件についてみるに,控訴人は,本件各審判官が本件各公報について審理をしていれば,本件特許権が取り消されることはなかったにもかかわらず,本件各審判官はこれを審理しなかった旨主張するが,この主張は,結局は,取消訴訟等の上記不服申立制度で是正されるべき法令違背が存することをいうに帰するものである。そして,前記のとおり,控訴人は,本件取消決定を不服として平成13年8月21日に東京高等裁判所にその取消しを求める訴訟を提起したが,同裁判所は平成15年4月9日に請求棄却の判決をし,その後最高裁判所による上告棄却及び上告不受理決定により,同年10月9日に同判決は確定したことが認められる。控訴人は,本件各公報の審理に関し様々な主張をするが,これらは前記取消訴訟等に関する事由であって,前記特別の事情を根拠付けるものではない。
3 住友石炭鉱業との結託に関する主張(控訴理由書6)について 次に控訴人は,本件各審判官は,住友石炭鉱業の利益を図る目的で,職権で特開平4-9405号公報を刊行物1として審理し,本件各公報を隠して審理せず,又は特許庁の保管する各種公報について調査義務を尽くさず,その審理をすることなく本件取消決定をした旨主張する。
しかし,特許異議の申立てについて審判官が職権審理を行うに当たり,特許庁の保管する各種公報等のうち何を調べるかはその合理的な判断にゆだねられているというべきところ,本件全証拠によるも,本件各審判官が上記判断権を濫用し,住友石炭鉱業の利益を図る目的でことさら本件各公報についての審理を行わずに本件取消決定をした事実は認められない。
なお,控訴人は,東京高等裁判所における本件取消決定の取消訴訟に住友石炭鉱業が同訴訟の被告である特許庁長官の補助参加人として参加したことを指摘するが,かかる事実をもって,特許庁と住友石炭鉱業が結託し,又は,本件各審判官が,住友石炭鉱業の利益を図る目的で本件特許に対する異議申立ての審理を行い,本件取消決定をしたと認めることは到底できない。
この点に関する控訴人の主張は理由がない。
4 控訴人の被った損害等に関する主張(控訴理由書2,8,9)について 次に,控訴人は,その控訴理由において,2(取消訴訟では救済できない法175条による損害),8(原判決が審理しなかった本件特許権の侵害),9(原判決が審理しなかった損害額)を主張するが,これらはいずれも,本件各審判官の前記行為が国家賠償法1条1項の適用上違法であることを前提とした損害額等に関する主張であるから,前記のとおり本件各審判官の前記行為が国家賠償法1条1項の適用上違法とされることがない以上,その余について判断するまでもなく,理由がない。
5 結語 よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 青蜉]
裁判官 上田卓哉