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事件 昭和 44年 (モ) 1213号
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裁判所 浦和地方裁判所
判決言渡日 1970/03/31
権利種別 特許権
訴訟類型 民事仮処分
主文 被申立人、申立人間の当庁昭和四一年(ヨ)第九三号特許権侵害禁止仮処分申請事件について、当裁判所が昭和四一年三月二八日なした仮処分命令を取り消す。
訴訟費用は被申立人の負担とする。
この判決の第一項部分は仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求める裁判
(申立人)主文第一項と同旨の判決および仮執行の宣言(被申立人)一、申立人の申立を棄却する。
二、訴訟費用は申立人の負担とする。
当事者の主張
(申請の理由)一、浦和地方裁判所は、被申立人を債権者、申立人を債務者とする同裁判所昭和四一年(ヨ)第九三号特許権侵害禁止仮処分申請事件について、昭和四一年三月二八日、「債務者は左記に表示する互換型サーミスタを製造販売拡布してはならない。」旨の仮処分決定をした。
記芝浦電子「互換型サーミスタ」型式BP、BT、LBP、LBPー1、LBT、LMT、FT、P、I、PV、M、
H、NST、NOT、NJT、S、Sー2、Sー3、F、U、WPー15、WPー22、WPー30デイスク型 右仮処分決定は、申立人の製造する前項記載の互換型サーミスタが被申立人の有する左記の特許権(以下本件特許権という。)に抵触するという理由でなされたものである。
特許番号 第三一六、七八〇号発明の名称 サーミスタ抵抗装置出願 昭和三二年三月二六日出願公告 昭和三八年一〇月四日登録 昭和四〇年三月二〇日二、しかしながら、本件特許発明は、その出願前である昭和三〇年五月九日に国内に受け入れられた公知の技術文献(以下公知文献という。)Transactions of the A.I.of E.E.(1954)Part I.Communication and Electronicsの三九六頁から四〇〇頁にわたつて掲載されている左記論文の装置と同一の物である。
記Shaping of the Characteristics of Temperature Sensitive Elements(感温素子の特性の決定) そこで、申立人は昭和四一年一一月二五日特許庁に対し、本件特許を無効とする旨の審判の申立(昭和四一年審判第八、四五五号)をした。
特許庁は右審判申立に対し、「本件特許発明と引用例(公知文献による装置をさす)のものとの差異は単なる表現形式上の差異にとどまり、実質的な差異は存在しないものと認められる。」として、昭和四四年四月一五日に本件特許を無効とする旨の審決をした。
三、被申立人は、昭和四四年六月六日、東京高等裁判所に右無効審決取消しの訴を提起した(昭和四四年(行ケ)第五六号事件)。しかしながら、右無効審決は被申立人が十分論ばくした上でなされたものであり、また、横浜国立大学工学部教授・理学博士【A】の鑑定書によつても公知文献による装置と本件特許発明均等物であることが数学的に証明されており、本件特許が無効であることは明らかであつて、右訴訟において前記審決が取り消されるようなことは考えられない。およそ、
一般条項(権利濫用、正当事由など)や裁量の余地の大きい事項が争点となつていない事例においては、上級審での変更が確実であるということが立証されない限り、仮処分申請人がその本案訴訟に敗れた事実は事情変更事由に該当すると考えるべきである。本件特許無効審判および審決取消訴訟においては裁量の余地の大きい事項が問題となつておらず、しかも前記無効審決は、高度の技術的専門的な知識と経験をもち、本件特許権の設定に至る審査経過を知悉している審判官の判断によりなされたものであるから、仮処分に対する本案訴訟と同様に考えられ、事情変更の強力な事由となると解すべきである。
被申立人は、前記東京高等裁判所昭和四四年(行ケ)第五六号審決取消請求事件において、前記無効審決が取り消されるべき旨主張している。その要旨は、「本件特許は一群のサーミスタについて三温度点における合成抵抗値をどのように選んだら全部のサーミスタを無駄なく補償できるか、その合成抵抗値の選定に発明の要点がある。」というのであるから、その主張は、本件特許をサーミスタ抵抗装置の設計方法あるいは製造方法とする理解の上に立つている。しかし、本件特許は方法の特許ではなく、装置(物)の特許である(被申立人も本件特許が物の発明であることは被申立人・申立人間の特許権侵害等請求の本案事件および前記仮処分申請事件において認めている。)、そして、本件特許発明の装置は前記公知文献に存在していたのであるから、本件特許が無効であることは明白である。したがつて、前記無効審決が取り消されるおそれがあるとは考えられない。
四、申立人は、本件特許に基づいて仮処分を受けて以来、その対象となつている型式の製造を全面的に中止し、暫定的に別途の方法によつているが、規格精度もおち、利益も大幅に減少している。これら損害は前記仮処分決定の保証金額ではまかなえない。一方、仮に申立人の製造していた型式の互換型サーミスタが被申立人の特許権を侵害するものとしても、金銭賠償が可能である。
五、以上により、前記仮処分決定の取消しを求めるべく、本件申立に及んだ。
(被申立人の答弁および主張)一、申請の理由中、一記載の事実、同二のうち第二、三段の事実および同三のうち、被申立人が申立人主張のような無効審決取消の訴を提起したことはそれぞれ認めるが、その余の事実は否認する。
二、本案訴訟における仮処分債権者敗訴の判決は、上級審においてその判決が取り消されるおそれがないと認められることを条件として事情変更の事由に該当し、特許無効審決も右本案訴訟の判決と同様に解すべきである。
三、前記特許無効審決は、申立人援用の公知文献と本件特許発明との間の根本的な技術思想上の差異(殊に効果の点における差異)を無視ないし看過した違法のものであるから、その取消訴訟において取り消されるであろうことを十分予想できる。
右の違法の詳細は左のごとくであるが、以下の記述において「サーミスタ」とは温度変化に対応して電気抵抗値が変化する素子をいい、「温度特性」とは一定の温度に対応して電気抵抗値がある特定の値となる性質をいい、「補償回路網」とは温度変化による電気抵抗値の変化が無視しうるように小さい固定抵抗値を複数組み合わせた回路網をいい、「感温回路網」とはサーミスタと補償回路網とを接続して得られる回路網をいう。
1.効果の差異(一) 公知文献の効果 ある電気的機器を使用する者は、その機器中の特定のサーミスタに故障が生じた場合に、手許に保有している別のサーミスタを使用して、この文献の方法により、
故障したサーミスタの温度特性にできるだけ近似した温度特性を有する感温回路網を設計することができる。
(二) 本件特許発明の効果 本件特許発明によれば、サーミスタを使用した電気的機器を製造供給する者は、
右機器の部品として、多量の感温回路網をつくることが可能となる。これらの感温回路網は、特定の三温度点においていずれも正確に右各温度点に対応した三つの電気抵抗値をとり、また、右の温度点以外の温度点においても、各々の感温回路網は同一の、若しくは相互に非常に近似した抵抗値をとる。サーミスタを使用した電気的機器の需要者は、その機器中のサーミスタに故障が生じた場合にも、製造者から提供される感温回路網を部品として交換すれば直ちに右機器の使用を継続することができる。重要なことは、電気的機器の製造者は、本件特許発明によつてはじめて、右機器が有すべき感度と、使用すべきサーミスタの温度特性に対し許容される偏差の範囲とを比較勘案することが可能となる、という事実である。
2. 目的の差異(一) 公知文献の目的 公知文献において、論者が解明を試みている課題は、与えられたサーミスタを使用して特定の温度特性を得るためには補償回路網の各固定抵抗値をいかに定めるべきかという問題に尽きる。右文献においては、使用すべきサーミスタと、近似の目標となる温度特性とはいずれも既定のものとして与えられている。
(二) 本件特許発明の目的 温度特性に偏差(バラツキ)のある一群のサーミスタの各々に、適当な補償回路網を接続して得られる各感温回路網が、予め選定された三温度点において、特定の三つの合成抵抗値を共有することにある。換言すれば「どのような合成抵抗値を選定すれば、与えられた一群のサーミスタを無駄なく使用することが可能か」という問題と、
「三温度点における合成抵抗値がある特定の三つの値となるような感温回路網をつくるには、使用すべきサーミスタの温度特性の偏差は、どの範囲のものが許容されるか。」という問題に解答を与えることが被申立人の目的である。そして、使用すべきサーミスタの範囲と、これらのサーミスタが三温度点において共有すべき合成抵抗値とを発見することができたならば、既に被申立人の目的は達せられたのであり、個々のサーミスタにいかなる補償回路網を接続すべきかという問題に対して解答を与える意図は持つていない。
3. 審決の誤謬(一) 効果の差異を無視したことによる違法 審決は、「引用例において一個一個のサーミスタについて整形(補償)が可能であれば、その結果として一群のサーミスタについてそれが可能となることは明らか」であることを理由に、差異の存在を否定している。公知文献においてはサーミスタの中には補償不可能のものが当然存在しうるのに対し、本件特許発明によれば、一群のサーミスタのすべてについて補償が可能である。そのように合成抵抗値を定めておいたからである。
(二) 目的の差異を無視したことによる違法 審決は、本件特許発明によつても、「回路設計の実際に当つては、温度特性の異なるサーミスタについてはやはり各抵抗値の異なる補償回路を使用せざるを得ない」ことを理由に差異の存在を否定する。しかし、右は自明の理である。被申立人は、個々の補償回路の設計方法を解明する意図など持つていない。
4. 論理操作上の誤謬 本件「特許請求の範囲」中に記載された二つの関係式は、サーミスタの抵抗値と合成抵抗値との間の相互関係を明らかにするものである。そして補償回路網の各固定抵抗値について両式は全く現われていない。ところが、審決は、この両式とも「単に補償回路の各抵抗素子が正の素子であることを要請しているにすぎない。」という。しかし、両式と、「補償回路の各抵抗素子の値は正である。」という命題とは全くその情報内容を異にしている。後者によつては一群のサーミスタが与えられたときに、それらが適当な補償を通じて共有すべき三つの合成抵抗値を定めることは不可能である。
四、以上のとおり、前記特許無効審決は、その取消訴訟において取り消される可能性が十分あるのであるから、本件特許無効審決があつたことをもつて事情変更があつたとはいえない。
五、なお、被申立人の右発明につき、アメリカ、フランス、イギリス、カナダ、オーストラリア等の諸外国においても特許を受けていることを付言する。
疎明(省略)
理 由一、申請の理由一の事実は本件記録上明らかであり、同二のうち第二段、第三段の事実および被申立人が申立人主張のような無効審決取消しの訴を東京高等裁判所に提起したことはそれぞれ当事者間に争いがない。
二、次に、右無効審決の取り消される可能性について考察する。
先ず、特許庁のした前記無効審決の理由は、特許請求の範囲に記載された本件特許発明と公知文献に記載されているサーミスタと固定抵抗器を複数個組み合わされた回路網(以下引用例ともいう。)との差異は単なる表現形式上の差異にとどまり、実質的に差異は存在しないと認めたことに基づいていることは前記のように当事者間に争いがなく、したがつて、本件特許は旧特許法第1条の規定に違反して与えられたものとして、無効にされたことが推認される。
被申立人は、本件特許発明の目的について、温度特性に偏差(バラツキ)のある一群のサーミスタの各々に、適当な補償回路網を接続して得られる各感温回路網が、予め選定された三温度点において、特定の三つの合成抵抗値を共有することにある、換言すればどのような合成抵抗値を選択すれば、与えられた一群のサーミスタを無駄なく使用することが可能かという問題に解答を与えることにその目的があり、これらのサーミスタが三温度点において共有すべき合成抵抗値とを発見することができたならば、既にその目的が達せられたのであり、個々のサーミスタに如何なる補償回路網を接続すべきかという問題に対して解答を与える意図を持つておらず、したがつて、本件特許請求の範囲に記載された二つの関係式はサーミスタの抵抗値と合成抵抗値との間の相互関係を明らかにするものであり、補償回路網の各固定抵抗値は両式に全く現われていない旨主張する。右被申立人の主張によれば、本件特許発明の要旨はサーミスタ抵抗装置の発明ではなく、方法の発明あるいはサーミスタ抵抗装置の設計方法、すなわち三温度点における各合成抵抗値の選定方法に関する発明といわざるを得ない。
しかし、成立に争いのない疎甲第六号証によれば、被申立人・申立人間の特許権侵害等請求の本案事件において、被申立人は本件特許発明物の発明であると主張していることが認められ、同仮処分申請事件において、右の主張をなすとともに、
申立人の製作していた芝浦電子「互換型サーミスタ」が本件特許発明技術的範囲に属することの疎明として、芝浦電子の製品の諸数値を単に測定してこれらの数値が前記第一関係式および第二関係式を満足させていることを理由として右「互換型サーミスタ」が本件特許発明技術的範囲に属するとした鑑定書を当庁に提出していることが記録上明らかである。しかし、被申立人も主張するように、互換型サーミスタが右第一関係式と第二関係式を満足させることは自明のことである。本件特許発明がサーミスタ抵抗装置の設計方法すなわち三温度点における各合成抵抗値の選定方法の発明であれば、前記の鑑定は全く無用、無意味であり、サーミスタ抵抗装置の各合成抵抗値を決める際に本件特許発明の方法を使用したか否かが唯一の争点となるはずである。しかし、被申立人はこの点につき鑑定その他の立証活動を行なつていないのであるから、合成抵抗値の選定方法には全く関心を持つておらず、
これを無視していたのである。したがつて、被申立人は、本件特許発明をサーミスタとこれに縦続された抵抗回路網とから構成され、三温度点においては第一関係式、一温度点においては第二関係式を満足するようなサーミスタ抵抗装置であると考えていたといわざるを得ない。
以上のように、被申立人の本件特許発明に関する主張は全く矛盾している。
被申立人が本件特許発明の要旨を方法の発明であると主張することは前記仮処分申請事件に重大な影響を与えることになる。
成立に争いのない疎甲第五号証の一ないし六によれば、被申立人は特許無効審判事件において本件特許発明の要点が一群のサーミスタ抵抗装置の製作に当つてその合成抵抗値をいかに選定すべきかという合成抵抗値の選定方法に存し、特許請求の範囲にもその思想がもり込まれている旨主張し、申立人は本件特許発明がそのような選定方法を全く含んでおらず、単なる装置の発明と考え、本件特許発明と公知文献に記載されている装置が同一である旨主張して争われたことが認められ、前記成立に争いのない疎甲第二号証によれば、そのような申立人と被申立人の主張に対して、特許庁は、被申立人が従来考えていたように特許請求の範囲に記載されている本件特許発明を装置の発明であると考えて審決したものであることが認められ(したがつて、合成抵抗値を選定する方法を無視するのは極めて当然であり、出来上つた製品を比較して同一と判断し、設計過程の差異すなわち合成抵抗値の選定方法を考慮していないのである。)、さらに、疎乙第一号証によれば、被申立人は東京高等裁判所における無効審決取消訴訟において同様に本件特許発明の要旨が方法の発明であることを前提にして争つていることが認められる。
発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載により決められるべきであるから、以下、右記載により前記審決の当否について検討する。
右疎甲第二号証によれば、本件特許請求の範囲の記載の意味内容は極めて不明確である。その理由は、被申立人も主張するように発明の要旨が三つの合成抵抗値の選定方法にあるのにかかわらず、サーミスタ抵抗装置で特許を受けているところに存すると推測される。被申立人も主張するように、本件特許発明には一群のサーミスタ(少くとも二個以上)の存在が前提とされるべきである。それにもかかわらず、特許請求の範囲にはあたかも一個のサーミスタについて記述しているのみであるから(該サーミスタ特性に若干の偏差ある場合にも一定の合成特性が保たれているという記載はあるが、効果に関する説明にすぎず、発明の要件に関する記述ではない。)、被申立人の主張する情報内容をその記載から汲み取ることは極めて困難である。なんとなれば、サーミスタの一個についての記載にすぎないとすれば、本来そのサーミスタを使用すれば足りるからである。前記特許請求の範囲の記載によれば、本件特許発明は、サーミスタとこれに縦続された抵抗回路網から構成され、
三温度点と一温度点におけるサーミスタの抵抗値と合成抵抗値が第一関係式および第二関係式を満足されるように各合成抵抗値が選定されるべきことを要件とするサーミスタ抵抗装置ということであるが、引用例のサーミスタ抵抗装置の数値も第一関係式と第二関係式を満足していることは極めて当然のことであつて、その場合にも合成抵抗値が意識的にせよ無意識的にせよ選定せられていることは明白である。
したがつて、右両式を満足するように合成抵抗値を選択するという記載のみでは、
具体的にどのように選択するのか不明であつて、被申立人の意図している、一群のサーミスタが存在する場合に、サーミスタ抵抗装置を設計するに当り、一群のサーミスタの抵抗値を具体的に第一関係式、第二関係式にあてはめ、選択しうべき三つの合成抵抗値の範囲を確定するという方法を述べているとは解釈できないからである。右の記載が一個のサーミスタについて述べているにすぎないから、一層被申立人の意図している内容の把握を困難にしている。したがつて、特許請求の範囲の記載を素直に解釈するならば、本件特許発明は、サーミスタとこれに縦続された抵抗回路網から構成され、三温度点と一温度点におけるサーミスタの抵抗値と合成抵抗値が第一関係式および第二関係式を満足することを要件とするサーミスタ抵抗装置と理解せざるを得ない。このような本件特許請求の範囲の解釈は、被申立人と申立人間の前記仮処分申請事件および特許権侵害禁止等請求の本案事件において、そもそも被申立人が主張していたところである(合成抵抗値の選定過程を考慮しないで、本件特許発明をサーミスタ抵抗装置という物の発明である旨の主張をさす。)。そして、本件特許発明が右にいうサーミスタ抵抗装置である以上、引用例の装置と同一であることは明白である。被申立人は、本件仮処分取消申立事件において突然その主張を変更しているけれども、全く不可解なことといわなければならない。本件特許請求の範囲に記載されているところの発明がサーミスタ抵抗装置である以上、装置と方法に関する比較はそもそも不可能なことなのであつて、被申立人の引用例と本件特許発明との間の差異に関する主張はすべて失当である。
以上のべた理由により、右審決は正当であつて、東京高等裁判所において取り消されるおそれはないというべきである。したがつて、本件特許権を無効とする旨の審決がなされ、右審決が上級審においても取り消されるおそれはないのであるから、仮処分決定を取り消すべき事情変更の事由があるものといわなければならない。
三、それゆえ、本件仮処分取消申立は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条、仮執行の宣言につき同法第196条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 堀部勇二
裁判官 松沢二郎
裁判官 安斉隆