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関連ワード 技術的思想 /  上位概念 /  下位概念 /  技術的範囲 /  同一の発明 /  優先権 /  置換 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 35年 (行ナ) 142号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1970/09/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が、昭和三三年抗告審判第一、四四三号事件について、昭和三五年六月九日にした審決を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
双方の求めた裁判
一 原告 主文と同旨の判決二 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
との判決
原告の請求原因
一 原告は、昭和二九年五月四日特許庁に対し、「四―置換尿素化合物を含有する有害物抑制組成物」の発明(その後、発明の名称を「有害物抑制組成物」と訂正した。以下「本件発明」という。)につき、当時原告が特許出願中の昭和二五年特許願第一五、五四八号「殺草性組成物」の発明(のちに特許第二〇七、五九七号として特許された。以下「引用発明」という。)の追加の特許として特許出願をしたが、昭和三三年一月二四日拒絶査定をうけたので、同年六月二七日抗告審判の請求をしたところ(同年抗告審判第一、四四三号)、特許庁は、昭和三五年六月九日抗告審判の請求は成り立たない旨の審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同月二九日原告に送達された。
二 本件発明の「特許請求の範囲」(昭和三五年三月二五日訂正のもの)は、
<11625-001> (但し、式中Rは一個又は二個の炭素原子を有するアルキル基、Xはハロゲン、
nは一、二又は三であつて、Yは水素又は一〜四個の炭素原子を有するアルキル基で、芳香族置換基は少くとも一個の未置換オルソ位置を有する)によつて示される一―(ハロフエニル)―一―アルキル―三、三―ヂメチル尿素を有効成分として含有することを特徴とする有害物抑制組成物である。
三 これに対し、引用発明は、一九四九年一二月六日アメリカ合衆国にした特許出願等にもとずく優先権を主張して、昭和二五年一二月五日特許出願したもので、その「特許請求の範囲」は、
<11625-002> 但しArは芳香族基、Xは酸素又は硫黄で窒素原子の三個の結合手の中一個、二個又は三個全部が炭素数一乃至三を有する一価脂肪族炭化水素基に結合し窒素の残余結合手は水素と結合しているを有する尿素多置換体の一種又は二種以上に界面活性剤を加え又は加えないものと稀釈剤の一種又は二種以上とからなることを特徴とする殺草性組成物である。
四 本件審決の理由の要旨は、
本件発明と引用発明の要旨は、それぞれ右「特許請求の範囲」のとおりと認められるところ、両者を比較すると、(一)前者(本件発明)の化合物自体は、後者(引用発明)の明細書に記載されていないにせよ、後者の尿素多置換体に包含されることは明らかであり、(二)前者は、配合成分として界面活性剤および稀釈剤を用いることを構成要件としていないけれども、その明細書の記載によれば、これらを使用するものであるから、この点でも後者と差異はなく、(三)前者は殺草剤であると同時に殺菌、殺虫および殺ダニ剤として使用される有害物抑制組成物であるに対し、後者は殺草性組成物であるという差異があるけれども、前者の化合物が後者の尿素多置換体に包含される以上は、両者の組成物自体は同様のものであり、後者の組成物は前者と同様に殺草性以外に殺菌、殺虫および殺ダニ性を有するものを包含すると解され、結局その作用効果においても両者間に実質的な差異はなく、しかも、両者がともに殺草剤として使用される場合は、両者はまつたく同一である。
したがつて、両者間に別異の発明思想があるものとは認められず、本件発明は引用発明と同一の発明であるから、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第8条の規定に準じて本件発明を特許することはできないというのである。
五 しかしながら、本件審決はつぎのとおり判断を誤つた違法のものであるから、
その取消を求める。
(一) 本件発明の有効成分である化合物が、引用発明の一般式で示された尿素多置換体に包含されるものであることは争わない。しかし、この化合物は、引用発明の明細書中に、その発明の詳細なる説明の項において、実施例としても具体的に記載されていないものである。のみならず、引用発明の明細書には、
芳香族基に結合する窒素原子に水素を結合していない尿素化合物はより高価であり且幾分活性が低いので余り重要でない。
故に芳香族基に結合する窒素原子に水素を結合している尿素化合物が好ましい(同特許公報六頁左欄下から四行目以下)。として、本件発明の化合物のように「芳香族基に結合する窒素原子に水素を結合していない尿素化合物」は、好ましくないものとされているのである。
(二) また、引用発明が殺草性組成物であつて、殺草作用だけしか有しないに対し、本件発明は、殺草作用のほかに殺菌、殺虫および殺ダニ作用をも兼備するという差異がある。
従来、殺菌、殺虫および殺ダニ効果をある程度併有する農薬は知られていたが、
これらの効果と同時に殺草効果をも兼備する尿素系化合物を有効成分とする組成物は、本件発明の出願日前には知られていなかつた。したがつて、本件発明は、これらの効果をすべて発現させたい場合に、従来数種類の薬剤の使用を必要としたのに対し、本件発明のものだけを撒布することによつて一挙にその目的を達しうる利点があるのである。
(三) いわゆる「選択発明」の考え方として、当該発明の構成要件が先行特許のそれに包含されるものであつても、そのうちから特定のものを選択したことによつて特異な作用効果ないしは利益が得られ、かつ、そのように選択することについて先行特許明細書に具体的な記載がなかつた場合には、その選択に対して特許が附与されるべきである。
本件発明は、右のように、引用発明の一般式で示された尿素多置換体の中から特定の化合物を選択することにより、引用発明の明細書にまつたく記載されていないすぐれた作用効果を有する有害物抑制組成物を得たものであるから、引用発明とは別個の発明として特許されるべきものである。
被告の、本件発明は構成要件からみて引用発明に含まれる以上、引用発明と同一の発明であるから、これを特許すべきではない、という趣旨の主張は、選択発明の理解を誤つたもので、失当である。
被告の答弁
一 原告の請求原因一ないし四の事実は認めるが、同五の本件審決を違法であるとする主張は争う。
二 本件発明が引用発明と同一の発明であるとした本件審決判断は、正当である。
(一) 発明の異同は、発明構成要件の異同にもとづいて判断すべきものであつて、発明構成要件からみて本件発明が引用発明に包含されるものであることは明らかであるから、両者は同一発明といわざるをえない。本件発明の有する殺草性、殺虫性、殺ダニ性等の効果は、特許価値を判断するうえの因子ではあるとしても、発明の構成要件ではない。したがつて、発明の異同を考えるにあたつて、発明の構成要件でない作用効果の異同を論ずることは意味がない。
また、本件発明の有効成分である化合物が、引用発明の明細書中に物質名で具体的に示されていないことは、原告のいうとおりであるが、それが引用発明の一般式に包含される物質である以上、明細書中に物質名を挙げて例示された化合物と同様に、引用発明の技術的範囲に属するのである。本件発明の組成物を単に殺草剤として使用する場合を考えるならば、それが殺菌、殺虫および殺ダニ作用を同時に呈するとしても、発明にかかる「物」を使用する行為としては、これを引用発明の実施と区別することはできないであろう。
(二) このように、本件発明の組成物が引用発明の有しない性質を有するとしても、本件発明が、引用発明と区別しうる表現において、これらの性質を利用する発明思想として構成されない限り、その性質上の差異のみを根拠として両者が別個の発明であると解することはできないのである。
このことは、いわゆる選択発明においても例外ではない。本件発明の化合物において殺草性以外に殺虫、殺ダニ性等の特徴ある性質を有することが、化合物の式における個々の位置に存在する基の種類いかんということよりも、個々の位置における特定の基の「組合せ」いかんに基因するものであるならば、―個々の位置における基自体としては、引用発明の例示化合物のそれと一致する場合があつても―その選択された「基の組合せ」は、非自明の選択され付加された要素であるというべきであるから、本件発明を構成要件上、引用発明と区別するに足る要件であると解されるのである。
証拠(省略)
理 由一 原告の請求原因一ないし四の事実(特許庁における手続の経緯、
本件発明および引用発明の「特許請求の範囲」等ならびに本件審決の要旨に関する事実)は、当事者間に争いがない。
二 右争いのない事実および成立に争いのない甲第二号証および同第三号証の一、
二によれば、本件発明および引用発明の要旨は、各「特許請求の範囲」に記載されたとおりのものであると認めることができる。
そして、本件発明の有効成分である一―(ハロフエニル)―一―アルキル―三、
三―ヂメチル尿素が、引用発明の前記一般式で示された尿素多置換体に包含される化合物であることは明らかであり、また、この化合物が、引用発明の明細書中に例示化合物として具体的に記載されたものでないことは、当事者間に争いのないところである(むしろ、引用発明においては、本件発明の右化合物のごとき「芳香族基に結合する窒素原子に水素を結合していない尿素化合物」は好ましくない、とされていること、前掲甲第二号証により明らかである。)。
三 ところで、引用発明が「殺草性組成物」であつて、従来の合成化学薬品では根絶せしめえなかつた抵抗力の強い雑草をも有効に除去しうる殺草効果を有するものであるに対し、本件発明は「有害物抑制組成物」であつて、引用発明の化合物中から前記特定の化合物を有効成分として選択することによつて、引用発明の組成物が単に除草(殺草)効果だけしか示さなかつたに対して、除草効果だけでなく、殺虫、殺菌および殺ダニの効果をも兼ね備えるに至つたものであることは、前掲甲第二号証および同第三号証の一、二によつて明らかである。すなわち、引用発明は、
その構成要件として「殺草性」組成物という用途の特定があり、その組成物は単に殺草の作用効果を有するものであるに対し、本件発明は、その構成要件として「有害物抑制」組成物すなわち(それは明細書の記載に徴すれば)「殺草、殺虫、殺菌、殺ダニ性」組成物であることの特定があり、その組成物は殺草、殺虫、殺菌、
殺ダニの作用効果を兼備するものであるということができる。
四 そして、このように、本件発明の有害物抑制組成物は、引用発明の明細書のうちに一般式で示された上位概念に包含される化合物を有効成分とすることを特徴とするものであるけれども、引用発明の明細書は、具体的にはこの化合物を記載しておらず(かえつて、この化合物を好ましくないものとして排除する趣旨が窺われ、)、かつ、前記の一般式において特定の位置における特定の基および元素の組合せを選択することによつて、殺草性に加うるに、殺虫、殺菌等の特徴ある性質を有することについて何ら言及するところがないのであるから、本件発明の化合物は、引用発明の明細書の記載から予測することのできないものであるというべきであり、このような特徴ある性質に基づいて、本件発明は、引用発明の予測しえなかつた新たな用途を開拓し、その使用範囲の拡大を図ることを目的とするものであるから、その技術的思想において、引用発明とは別個のものがあるといわなければならない。
五 被告は、この点に関し、発明の異同は構成要件の異同に基づいて判断すべきものであるが、構成要件からいえば、本願発明が引用発明に包含されることは明らかであり、作用効果から両発明の異同を論ずることは無意味である旨主張する。もとより発明の異同はその構成要件に基づいて判断すべきものであることは、いうまでもないが、本件発明と引用発明とは、その構成要件上、引用発明が上位概念で示される化合物を有効成分とする殺草性組成物を、本件発明が下位概念で示される化合物を有効成分とする殺草、殺虫、殺菌、殺ダニ性組成物を、それぞれ特定している点で区別の存することは、前記のとおりであるから、両者はこれを別発明とみるのを相当とし、被告の右主張は理由がないものというほかはない。(もつとも、本件発明の化合物が引用発明の上位概念の化合物中に包含され、両者が殺草性を有する点で一致するために、本件発明のものが引用発明の技術的範囲に属するかどうかの問題がありうるけれども、このことは両者が別発明とみるべきものであるかどうかとは関係がない。)。
六 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、
理由があるものということができる。よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 三宅正雄
裁判官 杉山克彦
裁判官 楠賢二