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関連審決 審判1966-3572
関連ワード 頒布された刊行物 /  発明の詳細な説明 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 43年 (行ケ) 51号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1970/11/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は「特許庁が昭和四三年二月一九日、同庁昭和四一年審判第三五七二号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は主文同旨の判決を求めた。
請求原因
一、特許庁における手続の経緯 原告は昭和三七年一二月一七日名称を「穀粒変流装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願したところ、昭和四〇年一月二二日出願公告がなされたが、同年三月二〇日Aから特許異議の申立があり、昭和四一年四月二一日拒絶査定を受けたので、同年六月七日審判を請求した(昭和四一年審判第三五七二号)。特許庁は昭和四三年二月一九日右審判事件につき「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年三月一一日原告に送達された。
二、本願発明の要旨 穀粒流動流路中に設けたホツパースケールまたはその代替品を使用した間歇流動流路に、計量のため一度に開放することができる間歇開閉弁を設け、その後の行程に精穀機のような装置につながる連続流動排出口を有する滞流タンクを直列に設け、該タンクに下限の限界量嵩において開閉するレベルスイツチを設け、該スイツチの回路を前記間歇開閉弁の電磁力または電動力作動装置の回路に連結したことを特徴とする穀粒変流装置。(別紙第一図面参照)三、審決理由の要点(一) 本願発明の要旨は、「穀流路中に設けた間歇流動流路に、間歇開閉弁を設け、その後の行程に連続流動排出口を有する滞流タンクを直列に設け、該タンクに限界量嵩において開閉するレベルスヰツチを設け、このスヰツチの回路を前記開閉弁の電磁力または電動力作動装置の回路に連結したことを特徴とする穀粒変流装置」である。
(二) 本願出願前頒布された刊行物である実用新案公報昭三四―九五二三号(以下「引用例」という。)には、(a)一定量の粒状物を収納し、次工程に供給すべきホツパー1の上方に、被処理物を間歇的に投入できるフイダー2を設け、(b)その下方に連続流動排出口(下部送出フイダー3)を有する定量の粒状物収納ホツパー1(上記(a))が直列に設けられ、(c)このホツパー1には、この中に投入された被処理物の限界量嵩によつて作動する一連のリミツト装置4が取付けられており、(d)このリミツト装置4の作動によつて、上記(a)に設けてある間歇的に投入できるフイダー2と結合せしめてある(e)粒状物自動供給装置が図面とともに記載されている。(別紙第二図面参照)(三) そこで本願発明と引用例とを比較検討すると、(イ)穀流路中に間歇流動流路を設けた点の実施例として、本願明細書および図面には、ホツパースケール1が設けられていること、(ロ)このホツパースケールに間歇開閉弁2が設けられていること、したがつて、(ハ)滞溜タンク5に設けたレベルスイツチ8を上記ホツパースケールの間歇開閉弁に結合した点がいずれも設計として引用例とは一応相違する。
しかしながら、引用例においてもホツパー1に粒状物投入用の上部フイダー2が取付けられているし、(前記(a))またホツパー1の下方には送出用のフイダー3が設けられており、かつ上部フイダー2は下方のホツパー中の限界量嵩において開閉するリミツト装置4が取付けられていて(前記(c))、このリミツト装置の作動によつて、上部フイダー2からの被処理物の供給を停止させたり、再度投入供給せしめたりさせ得るものであつて、本願発明のものと引用例記載のものとは、ともに、一連の穀流路中に間歇流動流路(本願のホツパースケール1、引用例では上部フイダー2)を設け、この間歇流路に間歇開閉弁を設ける(本願の弁、引用例ではフイダー停止装置)、この後の行程に連続流動排出口を有する滞溜タンクを直列に設ける(本願の滞溜タンク5、引用例ではホツパー1)、この滞溜タンクに限界量嵩において開閉するレベルスイツチを設ける(本願のレベルスイツチ8、引用例ではリミツト装置4)、このスイツチの回路を、前記間歇開閉弁等の作動装置の回路に連結した点で同一であつて、その作用効果は、ともに、
自動的に被処理物の波状的な間歇流動を安定した連続流動に変流して、同一流動行程に挿入した諸機械の性能を安定させるものである。
前記(イ)、(ロ)、(ハ)の点について更に検討すると、(イ)点の作用効果は単に精白歩留やその能率の観察に便にするためホツパースケールを採用したにすぎず、かつそのために特にこのホツパースケールが特殊のものであつたり、従来周知のものでもその取付構成が特殊な取付け構造となつていたりするものとも認められないばかりでなく、この種のホツパースケールを用いることは精穀機等の構造として従来慣用の手段であつて(必要であれば特公昭三三―一〇五五五号公報参照)、この点が発明を構成するものとはとうてい考えられない。また前記(ロ)、
(ハ)の点については、本願のものが間歇開閉機構として採用した弁が如何なる特殊の弁かは不明であるのみならず、この種流体の制御に開閉弁を用いることは、例示するまでもなく慣用手段であり、また、その弁と上部ホツパースケールとの連結構造も、本願明細書と図面の記載では「下部タンクのレベルスイツチの回路を開閉弁の電磁力または電動力作動装置に連結した」とあるだけであつて、何等特殊な構成とも認め難く、この点引用例のものと作用効果の上で格段の相違は認め難い。
(四) 結局本願発明は引用例が公知である以上特許法第29条第1項第3号に該当し、同条に規定する特許の要件を具備するものとは設められない。
四、審決を取り消すべき事由(一) 本願明細書の特許請求の範囲には審決認定の本願発明の要旨と同一の記載があるが、本願発明の要旨は前記二、記載のとおりであるから、審決は本願発明の要旨の認定を誤り、その結果本願発明のもつ技術思想を誤認したものである。すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明中、「間歇流動流路の間歇開閉弁が開いて一度に滞流タンクに供給される」という記載から、特許請求の範囲記載の「間歇開閉弁」とは一度に開放でき、これを開放すれば間歇流動流路中の原料が一度に滞流タンクに移動するようにしたものであり、同じく「タンク内の滞溜穀量が徐々に減量して限界量嵩に達すると光電静電マイクロその他のレベルスイツチが閉じ同じ回路の電磁力または電動力が発生して前記間歇開閉弁を開き次の穀量をタンクに供給し、同様に間歇流動を連続流動に変流するものである。」という記載から、特許請求の範囲記載の「限界量嵩において開閉するレベルスイツチ」とは下限の限界量嵩において開閉するレベルスイツチを指すものであり、同じく「この装置は間歇流動をなすホツパースケールから流出する穀粒を直列的に精穀機等に供給する場合等に適切な作用をなし至便である。」という記載から、特許請求の範囲記載の「間歇流動流路」とはホツパースケールまたはその代替品を指し、「連続流動排出口を有する滞流タンク」とは「精穀機のような装置につながる連続流動排出口を有する滞流タンク」の意味であり、同じく「本発明では波状供給に伴う間歇流動を連続流動に変流して供給し合理的な計量精穀を成立させるものである。」という記載から、本願発明はホツパースケールまたはその代替品を使用して合理的な計量精穀を行うことを目的としたものであることがそれぞれ明らかである。
そして、本願発明では、ホツパースケールまたはその代替品で計量した一定量の穀粒を、次の計量を行うために、一時に滞流タンク内に移し、次に計量した一定量の穀粒は、前に計量した穀粒と滞流タンク内で混合することを避けるために、それが精穀機等に悪影響を及ぼさない限界量に達する程度に減量するまでホツパースケールまたはその代替品内にとどめおき、もつて滞流タンクに対する穀粒の供給を一定時間中断するのであるから、本願特許請求の範囲にいう「間歇」とは、「一定の規則正しい時間を隔てて周期的に起ること」を意味するものである。したがつて、
本願発明は、「ホツパー(滞流タンク)に対する穀粒の供給を、ホツパー内の穀粒の滞溜量が一定限度以下になるまで、自動的に中断させ、これによつて生ずる間歇(この意味は前記のとおり。)流動を安定した連続流動に変流させる。」という技術思想をもつものである。
(二) 引用例に審決認定のとおりの記載があることは、上部フイダー2が被処理物を間歇的に投入できるとした点を除き、争わないが、審決は引用例の考案のもつ技術思想の認定を誤り、その結果本願発明のもつ技術思想との比較を誤つたものである。すなわち、引用例の考案は本願発明のような間歇流動流路および間歇開閉弁を有せず、粒状物の計量を行うことができない。引用例の考案では、上部フイダー2からホツパー1に供給される粒状物の量が下部フイダー3から排出される量と均衡を保つている間は、上部フイダー2からは連続的に粒状物が供給されており、右の均衡が崩れホツパー1内に滞溜する粒状物の量が溜り過ぎて一定限度を越えると、一定限量に減量するまで上部フイダー2からの供給を中断するのであつて、周期的に一定時間中断するのではないから、上部フイダー2は粒状物をホツパーに間歇的(この意味は前記のとおり。)に供給するものではない。したがつて、引用例の考案は、「ホツパーに対する粒状物の供給を、ホツパー内の粒状物の滞溜量が一定の範囲内に保たれるように自動的に調節し、これによつて生ずる不安定な連続流動を安定した連続流動に変流させる。」という技術思想をもつに過ぎず、本願発明とは技術思想を異にする。
(三) ホツパースケールを間歇流動流路として精穀機等に用いることは慣用手段ではないから(審決挙示の特公昭三三―一〇五五五号公報にもホツパースケールを使用する旨の記載はない。)、これを慣用手段であるとした審決の認定は誤りである。
被告の答弁
一、本件の特許庁における手続の経緯および審決理由の要点が原告主張のとおりであることは認めるが、本願発明の要旨が原告主張のとおりであることは否認する。
二、審決には原告主張の違法はない。
(一) 本願発明の要旨は審決認定のとおりである。本願明細書の特許請求の範囲には右と同一の記載があり、発明の詳細な説明にも本願発明の要旨を原告主張のとおりに認めるに足りる記載はない。間歇とは「周期的に或は不規則に時間を隔てて起りまたはやむこと」であつて原告主張の意味に限られるわけではない。
本願発明の装置は右の意味での間歇流動を安定した連続流動に自動的に変流させるものに過ぎないから、必ずしも原告主張の意味での計量精穀が可能であるとは限らない。
(二) 引用例の考案では、上部フイダー2からホツパー1に対する粒状物の供給が原告主張の態様で中断されることおよび原告主張の意味での計量精穀を行うことができないことは認めるが、間歇の意味は前記のとおりであるから、上部フイダー2は粒状物をホツパー1に間歇的に供給するものといつて差支えない。したがつて引用例の考案は、間歇流動を安定した連続流動に自動的に変流させる点で本願発明と同一の技術思想をもつ。
(三) ホツパースケールを間歇流動流路として用いることは本願発明の要旨に含まれないから、この点に関する審決の認定に誤りがあつても審決取消の理由にならない。
証拠関係(省略)
理 由一、本件の特許庁における手続の経緯および審決理由の要点が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。
二、そこで審決に原告主張の違法があるか否かについて判断する。
(一) 本願明細書の特許請求の範囲に審決認定のとおりの記載があることは当事者間に争いがない。原告は右記載のうち、「間歇流動流路」、「間歇開閉弁」、
「連続排出口」、「限界量嵩」にそれぞれ原告主張の限定があるものと主張するが、およそ特許請求の範囲における用語は、特許請求の範囲に明記されているか、
発明の詳細な説明に明確に定義されている場合を除き、これを限定的に解釈すべきでないことは、特許法第70条の規定の趣旨に照らし明らかである。本件において、原告は右特許請求の範囲にいう「間歇」とは「一定の規則正しい時間を隔てて周期的に起ること」(以下「狭義の間歇」という。)を意味すると主張するが、間歇とは必ずしも原告主張の意味に限らず、「周期的に或は不規則に時間を隔てて起りまたはやむこと」の意味(以下「広義の間歇」という。)にも用いられることは、間歇泉の用例に照らし明らかであるから、特許請求の範囲に明記されているか発明の詳細な説明のなかで明確に定義されていなければ、本願特許請求の範囲の間歇が狭義の間歇のみを意味するものとすることはできない。そこで、この点について検討するのに、本願特許請求の範囲には右のような限定のあることが明記されていないことは前叙の当事者間に争いのない事実に照らし明らかである。そして、成立に争いのない甲第二号証の三および七によれば、本願明細書の発明の詳細な説明に原告が前記四の(一)に指摘するとおりの各記載があることはこれを認めうるのであるが、右各証拠によつて認められる発明の詳細な説明の記載全文、特に「このように本発明は自動的に穀粒の波状的な間歇流動を安定した連続流動に変流して同一流動行程に挿入した諸機械の性能を安定させる効果を有するものである。」との記載に照らして考えれば、右各記載はその趣旨が極めて曖昧であつて、特許請求の範囲の前記各用語を明確に定義したものとは認められず、むしろ本願発明の一実施例について説明したものと認めるのが相当である。したがつて、本願発明の要旨は審決認定のとおりであり、本願発明のもつ技術思想は、「ホツパー(滞溜タンク)に対する穀粒の供給を、ホツパー内の滞溜量の限界量嵩によつて作動する装置によつて自動的に間歇流動(広義)にし、これを安定した連続流動に自動的に変流させること」に尽きるのであつて、間歇流動(広義)の態様や限界量嵩が下限のみか上限および(または)下限かは本願発明の要旨とは関係がないものといわねばならない。
そうすると、原告のこの点に関する審決非難は失当というほかはない。
(二) 引用例に審決認定のとおりの記載があることは、上部フイダー2が被処理物を間歇的に投入できるとした点を除き、当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例記載の粒状物供給装置の上部フイダー2はカムスイツチ8を介してモーター6により間歇的(狭義)に作動し、ホツパー1に粒状物(被処理物)を間歇的(狭義)に供給するものであることが認められるが、これによつて生ずる間歇流動はホツパー内の滞溜量の限界量嵩により作動する装置によつて生ずるものでないことが明らかである。しかし右証拠によれば、引用例の装置では、ホツパー内に滞溜する粒状物の量を一定の範囲内に保つため、その上限および下限の限界量嵩によつて作動するリミツト装置4および浮子5により、滞溜量が上限の限界量嵩に達すると、下限の限界量嵩に減少するまで、粒状物の供給を自動的に中断するものであることが認められるから、上部フイダー2からホツパー1に対する粒状物の供給は、右装置により周期的に或は不規則に時間を隔てて中断され、
広義の間歇流動となることが明らかである。もつとも、ホツパー1内の滞溜量が上限の限界量嵩を越えないように粒状物を供給すれば、右装置による間歇流動は生ずる余地がないが、このことは、右装置によつてホツパー1に対する粒状物の供給を自動的に間歇流動にする、という技術思想が引用例に開示されていることを否定する根拠とはならない。したがつて、本願発明のもつ技術思想は全部引用例に開示されていると認めるのが相当である。
(三) 間歇流動流路としてホツパースケールを用いることが本願発明の要旨に含まれないことは前認定のとおりであるから、審決理由中ホツパースケールに関する認定は無用の説示であるといわねばならない。したがつてこの点に関する認定に原告主張の誤りがあつたとしても、それは審決取消の理由とならないことが明らかである。
三、よつて審決には原告主張の違法はないから、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 服部高顕
裁判官 石沢健
裁判官 滝川叡一