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関連ワード 遡及 /  特許出願日 /  特許料(維持年金) /  追納 /  設定登録 /  異議申立 /  不変期間 /  追完 / 
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事件 昭和 44年 (行ウ) 248号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1970/12/07
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
全容
原告訴訟代理人は、「原告が昭和四三年五月二七日にした第三一五一〇六号特許に関する第四年分特許料および割増特許料納付につき、被告が同年六月二一日付でした不受理処分は、これを取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、
その請求の原因として、
「一、原告は、左記特許権(以下「本件特許権」という)の特許権者である。
記 特許番号 第三一五一〇六号 発明の名称 複数個の音響映画、フイルム及び選択したフイルムの映写機構を含む装置 特許出願日 昭和三四年一〇日二八日 出願公告日 昭和三八年一一月二九日 特許権設定登録日 昭和三九年六月二七日 ところで、原告は、本件特許権の第四年分の特許料を、不可抗力により、その納付期限である昭和四一年一一月二九日、およびその追納期限である昭和四二年五月二九日までに、特許庁に納付することができなかつたところ、結局、昭和四三年五月二七日に至つて、本件特許権の第四年分および第五年分の特許料ならびにそれぞれの割増特許料(計金六、〇〇〇円)を納付した。
しかるに、被告は、原告に対し、昭和四三年六月二一日付で、「本件特許権は、
その第四年分特許料不納により昭和四一年一一月二九日に消滅したから、原告の本件特許権に関する昭和四三年五月二七日付特許料納付書は受理しない」旨の処分(以下「本件処分」という)をし、右処分の通知は翌日(昭和四三年六月二二日)原告代理人に到達した。
そこで、原告は、昭和四三年八月二〇日付で、被告に対し、行政不服審査法による異議申立てをしたところ、被告は、昭和四四年九月五日付で、右異議申立てを棄却する旨の決定をし、右決定は同月九日原告代理人に到達した。右決定の要旨は、
「特許法第112条第1項の規定による追納期間内に納付することを懈怠したときは、その懈怠事由が特許権者の責に帰すべきものであると否とを問わず、同条第三項の規定によつて、当該特許権は法律上当初の納付期限が経過したときに遡及して消滅する、」というのである。
二、しかしながら、本件処分は、法律の解釈を誤つた違法なものであるから、取消さるべきものである。
その理由は、つぎのとおりである。
1 原告訴訟代理人事務所に所属する弁理士訴外Aは、昭和四一年一二月二一日付書簡で、原告に対し、本件特許権に関する第四年分特許料の納付をするかどうかの問合せをした。これは、原告訴訟代理人事務所所属の弁理士訴外Bが原告の本件特許に関する出願代理人をした関係があつたからである。しかし、右第四年分の特許料および割増特許料追納期限である昭和四二年五月二九日までに、原告からなんの指示もなかつたので、Aは、原告に本件特許権の第四年分特許料納付の意思がないか、あるいは他の代理人に納付の依頼をしたものと推測し、右特許料の納付をしなかつた。
しかるに、その後昭和四二年一〇月七日原告訴訟代理人事務所宛に配達された原告の同年九月二八日付普通郵便により、原告は同年五月四日付普通郵便で原告訴訟代理人事務所宛に、本件特許権に関する第四年分特許料を納付するようすでに指示していた事実が判明した。右のように指示した原告の書簡は、原告の発信簿にその内容、発送日および発送先が記載されており、原告は右書簡を現実に投函しているのである。しかしながら、原告訴訟代理人事務所の受信簿には、原告からの前記書簡が受信された旨の記載がなされていない。このような事実からすると、右書簡は郵送途中で紛失したものと推認せざるを得ず、結局、原告が右追納期限までに特許料を納めることができなかつたのは、郵便事故という不可抗力によるものというべきである。
そこで、原告は、本件特許権の重大性にかんがみ、右の事由を記した書類を添付して、前記のように昭和四三年五月二七日、特許料および割増特許料金六、〇〇〇円を納付したのである。
原告は、日本国内に住所も営業所も有しない者であるため、本件特許権の特許料を納付するためには、日本国内に住所または居所を有する代理人によらなければならない(特許法第8条)。原告は、本件特許権に関する第四年分の特許料および割増特許料納付の意思を有し、また、これに必要な手続をその期間内にしたのである。それにかかわらず、原告および原告代理人の責に帰さない事由たる郵便事故という不可抗力により、前記納付期限を徒過せざるを得なかつたものである。
この点につき、被告は、特許法第112条第1項および同条第三項を、特許権は、特許権者の責に帰すべき事由によると否とを問わず、特許料を納付しないときは、その追納期間の経過により当然遡及的に消滅するものと解しているが、その解釈は誤りであり、右の追納期間といえども、不可抗力による延長は認めらるべきものである。しかして、当該不可抗力の継続中は右追納期間の進行は停止するのである。
一般に、期間を任意に伸縮することが不可能とされる不変期間であつても、その責に帰することができない不可抗力によつて当事者がその期間を遵守することができなかつた場合には、その不可抗力が止んだ後一定の期間内に当該懈怠行為の追完をすることが認められ、権利を救済することが図られているのである(たとえば民事訴訟法第159条等)。特許法第112条第1項特許料追納期間は、いわゆる不変期間でもないから、当事者の責に帰することができない不可抗力事由により右追納期間を徒過した場合には法律で規定するまでもなく、当然その不可抗力事由が継続する間右追納期間も延長されると解すべきものである。
2 仮りに、原告が本件特許権に関する特許料および割増特許料をその追納期間内に、事由のいかんを問わず、納付しなかつたことが原告の手続上の瑕疵であるとしても、原告が現実に右特許料および割増特許料を納付した昭和四三年五月二七日には、原告の右手続上の瑕疵は治癒されたものである。すなわち、原告が右特許料および割増特許料を特許庁に納付申請した際には、また本件特許権に関する設定登録は原簿上抹消されておらず、したがつて、同日までに第三者が本件特許権に関する登録原簿を閲覧しても、原簿上本件特許権が存在するものとして取り扱われたはずである。また、原告は、本件特許権を第四年目以降も享有することを希望し、
それに必要とする本件特許権の第四年分特許料納付手続を原告訴訟代理人に依頼したものである。特許権者の意思にも合致し、また第三者の権利を制限することもなく、不測の損害を蒙らせることもない間に特許料等を納付した場合には、たとえ当該納付行為が法定の納付期間経過後になされたものであつても、具体的な特許料納付行為により法定期間経過に伴う瑕疵は治癒されるものである。被告が右事実を無視して、本件処分をしたことは明らかに違法である。
三、よつて、本件処分の取消を求めるため、本訴に及んだ。」と述べた。
被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、
「一、1 原告主張の請求原因一は、原告が特許料を納付することができなかつたことが不可抗力によるものであるとの点を除き、認める。
2 同二の1のうち、原告が本件特許料の納付につき追納期間を徒過したのは原告の責に帰さない事由によることを記した書類を添付し、昭和四三年五月二七日付で特許料金六、〇〇〇円の納付申請をしたこと、被告が特許法第112条第1項を原告主張のように解釈していることはいずれも認めるが、その余の事実は知らない。
原告の主張は争う。なお、原告主張の書簡を原告が発信したことが原告の発信簿に記載されているとしても、その投函の事実が立証されないかぎり、郵便事故があつたと断定することはできない。また仮りに、原告が主張するような郵便事故があつたとしても、その事故は特許料追納についての不可抗力事由とはなりえない。
3 同二の2の主張は争う。
二、本件特許権は、特許法第112条第3項の規定により、同法第108条第2項所定の特許料の納付期限および第112条第1項所定の追納期間内にこれが納付されなかつたために、昭和四一年一一月二九日に消滅しているのであり、納付期間の徒過の事由が特許権者の責に帰すべきものであるか否かは、右法条に照らし問題にならないのであるから、原告の主張は理由がなく、本件特許料納付書の不受理処分は正当である。
原告は、特許権者が、不可抗力によつて特許料ならびに割増特許料追納ができない間は納付期間の進行は停止すると主張するが、明文の規定がないのに原告主張のような例外を認めることはできない、なお、追納期間は、本来の納付期間に納付できなかつた場合の救済のための期間であり、この追納期間の経過について、さらに救済的例外を認める必要性は存しない。
三、本件特許権は、原告が特許料および割増特許料を現実に納付したと主張する昭和四三年五月二七日登録原簿が抹消されていたか否かにかかわらず、特許料および割増特許料が納付期間内に納付されなかつたことにより、昭和四一年一一月二九日にさかのぼつて、絶対的に消滅したのであり、原告が主張するような手続上の瑕疵の治癒を認める余地はない。」と述べた。
(立証省略) 理 由 原告が本件特許権の第四年分の特許料を、その納付期限である昭和四一年一一月二九日およびその追納期限である昭和四二年五月二九日までに特許庁に納付しなかつたこと、被告が原告に対し昭和四三年六月二一日付で本件処分をしたことについては、いずれも当事者間に争いがない。
原告は、原告の責に帰すべからざる事由により特許料追納期間(特許法第112条第1項)を遵守することができなかつたときは、その期間経過後であつても、
特許料追納は許さるべきものであると主張し、被告は、右追納期限徒過の事由が特許権者の責に帰すべきものであるか否かは特許法第112条第3項の趣旨からいつて問題とならず、同項の規定により、特許権は始めの納付期間の経過の時にさかのぼつて消滅したものとみなされると争うので、この点について判断する。
特許法第108条第2項は、特許権者の第四年以後の各年分の特許料は原則として、出願公告の日から(同法第107条参照)各前年以前に納付しなければならない旨を規定し、同法第112条第1項、特許権者が右期間内に特許料を納付することができないときは、その期間経過後六月以内にその特許料追納することができる旨を規定する。すなわち、第四年以後の各年分の特許料の本来の納付期限は、原則として、各年の出願公告応答日であるが、この納付期限は、それまでに特許料を納付することができなかつた者に対しては、その他になんらの理由の存在も要することなく六か月延長されるのである。ただその場合には、特許権者は、各年分の特許料のほかに、それと同額の割増特許料を納付することを要するのである(同法第112条第2項)。右のいわゆる追納期間は、被告主張のように、本来の納付期間内に特許権者がその特許料を納付することができなかつた場合にも、それによつてただちに特許権を消滅せしめるという特許権者に酷な結果となることを避け、これを救済するために設けられた期間であると解すべきものではあるが、一方、特許権者の側に特段の事由を要することなく当然に本来の納付期間への追加を認めるものであるから、結果的には、本来の納付期間そのものが六か月延長されたのと同様になるものと考えても差支えなく、また、特許権者の側からすれば、割増特許料を納付することを条件として、本来の特許料納付期間が六か月延長されるものと観念することは、けだしまた当然のことであるといいうるのである。そうすると、この追納期間の満了するにあたつて特許権者がその責に帰すべからざる事由により特許料および割増特許料を納付できなかつた場合に、これにより特許権が当然消滅するものとすることは、始めの特許料納付期間の経過により当然に特許権が消滅するとすることが特許権者に酷であると同様に酷にすぎ、これを救済する方法が認められなければならないものと考えられる。追納期間は、本来の納付期間に納付できなかつた場合の救済規定であるということから、ただちにこの追納期間の徒過についての救済を認めるべき必要性がないということはできない。特許法は、この場合の救済方法についてはなんらの明文の規定をもおいていない。しかし、明文の規定がないということは、かならずしも特許法は当事者の責に帰すべからざる事由による追納期間の追完を否定しているものと断定させるものではない。当裁判所は、かかる場合の期間の伸長は、民事訴訟法第159条によつて表現された、期間の伸長に関する一般原則によつて、許されるものと考える。この場合、追完が許されるべき期間がどれほどかについては、明文の規定がないので困難な問題であるが、やはり前記民訴法の規定が一応の基準とさるべきものと考える。
そこでつぎに、原告が、その主張するように、その責に帰すべからざる事由により本件特許権の第四年分の特許料納付の追納期間を懈怠したものであるかどうかについて考察する。
本件特許権の特許権者たる原告が日本に住所も営業所も有しないものであることは、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。そして、日本国内に住所または居所(営業所)を有しない者は、特許に関する手続をするには、日本国内に住所または居所を有する代理人によらなければならず、右手続の中には特許料支払の手続もまた含まれるものと解すべきである(特許法第八第第一項、第3条第2項参照)。
ところで、成立に争いのない甲第四、第五号証、同第八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものであることを認めうる甲第二号証、同第七号証、イタリア国公証人が証明しているので、原告が一九六七年(昭和四二年)五月四日付で作成した原告代理人事務所宛の書簡の写の複写であると認められる甲第三号証、同じくイタリア国公証人が証明しているので、原告会社備付の発信簿の写であることを認めうる甲第六号証を総合すると、原告は、本件特許権の第四年分の特許料の納付に関し、原告訴訟代理人事務所からの昭和四一年(一九六六年)一二月二一日付の書簡による照会に対し、昭和四二年(一九六七年)五月四日付で、原告訴訟代理人事務所宛に、右第四年分の特許料の納付を委託する旨の書簡を作成し、そのころこれを普通航空郵便として投函したが、右書簡はすくなくとも昭和四二年一〇月七日までには原告訴訟代理人事務所には到達していなかつたこと、同日原告訴訟代理人事務所宛配達された原告昭和四二年(一九六七年)九月二八日付の書簡により、原告訴訟代理人事務所では、前記のように原告が一九六七年五月四日付の書簡により第四年分の特許料の納付を原告訴訟代理人事務所宛に委託した旨を了知できたことを認めることができる。そうすると、原告の原告訴訟代理人事務所宛の前記昭和四二年五月四日付の書簡が原告訴訟代理人事務所に到達せず、したがつてそのことにより、原告が本件特許権の第四年分の特許料を納付することができず、そのことが原告の責に帰すべからざる不可抗力によつて追納期間を遵守することができなかつたものと解しうるとしても、一九六七年九月二八日付の書簡が同年一〇月七日原告訴訟代理人事務所に到達したことによつて、その不可抗力事由は止んだものということができる。不可抗力による期間の伸長が許されるのは、不可抗力が止んだ後一定の短期間内に懈怠した行為を追完した場合に限られる(民事訴訟法第159条参照)。しかるに、原告は、その代理人を通じて直ちに本件特許権の第四年分の特許料および割増特許料を納付することなく、これを納付したのはそれから七か月以上も経過した昭和四三年五月二七日のことである--この事実は当事者間に争いがない--から、原告はいかなる意味においても、もはや右特許料の納付が有効であると主張することはできないものといわねばならない。
右のとおりであるから、原告の本件特許権は、特許法第112条第3項の規定により、昭和四一年一一月二九日消滅したものである。
原告は、本件特許権の設定登録は、未だ原簿上抹消の手続がなされておらず、したがつて、その間に特許料が納付された場合には、その納付行為によつて、法定期間経過に伴う手続上の瑕疵は治癒されたものであると主張するが、そのように解すべき根拠はなく、その主張は失当である。
そうすると、被告のした本件処分は適法であるから、これを違法としてその取消を求める原告の本件請求はその理由がない。よつて、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 高林克巳
裁判官 元木伸
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