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関連審決 審判1964-4696
関連ワード 製造方法 /  周知技術 /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  実施 /  加工 /  拒絶査定 / 
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事件 昭和 42年 (行ケ) 46号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1971/09/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が、昭和四一年九月三〇日、同庁昭和三九年審判第四六九六号事件についてした審決は、取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。
二 被告指定代理人は、「原告の請求は、棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
原告訴訟代理人は、請求の原因として、つぎのとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和三六年一一月二日、名称を「携帯時計の側」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願をしたところ、昭和三九年五月二〇日拒絶査定があつたので、これに対する審判を請求したが、同年審判第四六九六号事件として審理のうえ、昭和四一年九月三〇日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年一一月三〇日、原告に送達された。(出訴期間として、三月が附加された。)二 本願発明の要旨 目に見える部分のうち、少なくとも幾つかが少なくともほぼトパーズの硬度に匹敵する硬度を有する金属炭化物を基礎とする金属により構成されることを特徴とする携帯時計の側三 本件審決の理由の要点 本願発明の要旨は前項掲記のとおりと認められるところ、時計の側には、従来、
その耐蝕性、加工の容易さ、装飾的効果等の観点から、金銀あるいは黄銅にクロームメツキしたもの等種々な材料が長く用いられて来ており、さらに近来にあつては、ステンレススチールが前記諸点のほかに相当大なる硬度をそなえており傷つきにくい点をも考慮されて用いられるようになつていることは、従来から周知のことである。すなわち、このような物品には、前述した諸条件や価格等を勘案し、製品に応じていずれかの条件を強調し、これに適合するような材料を使用すること、また、その使用材料の種類も逐次拡大して来たことは明らかに認められるところである。一方、タングステン炭化物は、焼結のような適宜の手段で比較的小型の線、
管、板体等に加工されていることもまた従来きわめて普通に知られているところである。以上のような周知の技術を前提とすれば、硬度の高い時計側を得るために、
タングステン炭化物を用いることは、上記周知技術から当業者が容易に想到しうるものと認められるから、本願は、特許法上の発明を構成するものとは認め難い。
四 本件審決の違法性 本件審決は、従来周知の時計側材料およびタングステン炭化物等金属炭化物の用途に関する理解の欠如から、本願発明を当業者が容易に想到しうるものと誤認し、
しかも、当業者が容易に想到しうるかどうかを認定するにあたつて、何らの根拠なく、世界的に有力な当業者の認識に関して原告が提出した証拠を無視し、机上の空論をもつてこれらの証拠に反する事実認定をしたものであり、違法の審決たるをまぬがれない。すなわち、
(一) およそ、タングステン炭化物のような金属炭化物は、審決が時計側の公知材料として引用している金、銀、黄銅あるいはステンレススチールのような金属単体または金属同志の合金とは相違する特別の材料(非金属)であつて、従来、もつぱら工具としてのみ使用され、時計の側としてはもちろん、およそいかなるものであつても、装飾的用途に使用された事例は絶無である。金属炭化物とは、金属と炭素の化合物の総称でほとんどの金属は炭素と化合して金属炭化物を生成するものであるが、そのうち、トパーズの硬度に匹敵するものとしては、タングステンの炭化物およびチタンの炭化物等がある。これらの金属炭化物の性質は、硬度がきわめて高く、融点がきわめて高いことを特徴とする。したがつて、その用途は、切削工具、耐摩耗工具、鉱山工具、耐熱材料および電気接点材料等の製造に使用されており、いずれも、硬度と融点のどちらも高いという既知の性質を利用するものばかりであつて、これらの製品は、そういう性質のために、高い常温硬さ、高い高温硬さ、高温における安定性、耐摩耗性、高い弾性係数、高い抗圧力および耐蝕性などの点において、すぐれた特色を有するものとされている。このように、金属炭化物の既知の用途は、主として重工業の分野で前記のような諸性質を利用した効果を対象とするもののみであつて、装飾的な効果を対象とするものはまつたく存在しなかつた。また、その製品の形状もおうむね単純なものばかりであり、時計側のような複雑な形状の物の製造に用いるには困難があるとされていたばかりでなく、金属炭化物より製造した時計は、金属炭化物の多孔性の故に、良好な美しい表面は得られないと考えられていたのである。ところで、金属炭化物から目的とする物品を製造する場合には、金属炭化物は前記のとおり融点が高いので、その粉末を所望の大きさおよび形に圧縮、成形し、加熱し、該粉末を焼結して、所期の物品を得るのであるが、この場合、金属炭化物だけでは製造された物品が脆いため、靭性の高い金属の粉末をも混合し、前記のように操作して、脆くない物品を得ることが行なわれており、このような方法を粉末冶金法と称している。
(二) つぎに、公知の時計側材料として実用に供されているものは、本件審決に指摘されているように、金、銀、ステンレススチールおよびクロームメツキした黄銅であり、これらの材料について、本件審決においてとくに時計側の材料として考慮すべきであるとされている諸点、すなわち、耐蝕性、加工容易性、硬度、装飾的効果(とくに色調)および価格について考えると、それぞれ一長一短はあるが、これら公知の時計側材料に共通した欠陥は、いずれも傷がつき易いか、または傷がつくことをまぬがれえないことである。さらに、装飾的効果については、従来公知の時計側の材料は、その優劣は一概に論じえないけれども、金色、銀色または銀白色の範囲を出ないものばかりである。
(三) 本願発明は、工具等の材料としては公知の金属炭化物を材料として製造された新規の携帯時計の側に関するものであり、その製造方法も工具の製造方法としては公知の前記粉末冶金法を適用するものである。ところで、前記のように工具等の材料としてのみ知られた金属炭化物をもつて時計側を製造するというようなことは、従来、当業者の夢想だにしなかつたところであり、時計側の業者にとつて、タングステン炭化物等の金属炭化物は、時計側の材料とまつたく適用分野を異にするものであり、これを時計側の材料とするようなことは、思考上の盲点になつていたのである。そのことは、傷つきにくい(すなわちスクラツチ・プルーフの)時計に対する要求は以前から存在しており、一方、金属炭化物が知られてから三〇年以上の年月が経過しているのに、その間、金属炭化物を使用して時計側を製造するという試みすら、一度としてされたことがないこと、ならびに、原告が世界的に一流の時計側の業者一一社および硬質金属部品メーカー一社に対して発した照会の回答によつて明らかであつて、とくに、スイスにおけるもつとも有力な焼結タングステン炭化物の製造業者であるトレフイユリ・レユニ・S・A・は、その回答中で、金属炭化物などの硬質金属は、傷つきにくいと同様に衝撃に対して脆いこと、および硬質金属から時計側のような複雑な形状の製品を正確に製造することは、きわめて困難であること、との理由をあげて、金属炭化物から時計側を製造するなどという考えは、ユートピアにおける夢想であると考えていた、と述べている。そして、金属炭化物における前記のような欠点は、公知の粉末冶金法の下においても、なお存在するもののように考えられていたのである。(被告は、前記業者等の回答は、原告と特定の関係のあるメーカーのものと思われるとして主張するところがあるが、右回答の作成者のすべてが原告と関係のあるメーカーのみであるというようなことは、まつたく被告の憶断であつて、事実に反する。)ところが、本願発明によつて、公知の製造方法の範囲においても、前記製造上の困難さは、時計側についてはそれほどの欠点とならず、むしろこれを補つて余りある多くの他の利点があることが判明し、はじめて、どのような苛酷な条件の下に携帯されても条痕によつて損傷されることのない時計側が得られたのである。研磨された金属炭化物よりなる時計側は、独特の神秘的な深みのある気品高い光沢を有し、しかも、その光沢は、どれだけ歳月が経過しようとも、減少ないし消滅することはない。その鋼鉄の色より渋い、深い底光りのする黒色に近い色調は、従来公知の携帯時計側の材料にはまつたく見ることのできない独特のものである。金属炭化物のこのような優れた装飾的効果は、本願発明によつてはじめて発見されたところであり、それが時計側に使用されたときにとくに優れた効果を発揮する。携帯時計の側の「目に見える部分の内、
少なくとも幾つかが少なくともトパーズの硬度に匹敵する硬度を有する金属炭化物を基礎とする金属により構成される」ことによつて、たとえば腕時計の側の上面のように外部の物体と接触すべく露出して目に見える部分がその物体との接触によつて条痕を生じたり、空気に触れて酸化したり、曇りを生ずるようなことがなく、常に美しい外観を保持することができるようになつたのである。時計側は、また一個の装飾品である。上面の目に見える部分が広い、いわゆるワイド・ベゼルの時計側は、現代の流行となつているが、これは、本願発明によつてはじめて可能となつたものであり、本願発明の価値は、その産業上の成功によつて有力に実証されたというべきである。
(四) 本件審決が、単に硬度の点にのみ着目し、「硬度の高い時計側を得るために、タングステン炭化物を用いることは、・・・・当業者が容易に想到し得るものと認められる」と断定したことは、時計側として有することが望ましい硬さ以外の諸々の性質についての、また既知の金属炭化物の材料としての硬度以外の特性についての省察を欠いた、きわめて皮相的な独断であるといわなくてはならない。本件審決の誤断は、本願発明実現後の状況をもつて、その出現前の技術水準を推測したものというべきであり、特許法の適用を誤つた違法の審決として、取り消されるべきものである。
請求の原因に対する被告の答弁
被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、つぎのとおり述べた。
一 原告主張の請求原因一ないし三の事実は、認める。
二 同四冒頭の本件審決を違法とする主張は、争う。本件審決には、原告主張のような違法の点はない。
(一) 同四の(一)のうち、金属炭化物の性質、金属炭化物よりなる製品の製法および従来の用途(ただし、その製品の形状に関する点を除く。)は認めるが、その余の事実は争う。
(二) 同四の(二)の事実は、認める。
(三) 同四の(三)の事実は、争う。
原告主張の業者等の回答は、原告と特定の関係のあるメーカーのものと思われ、
不特定人とはいい難いので、このような特定人の言辞から、本願発明に相当する技術が客観的に不存在であつたとすることはできない。かりにそうでないとしても、
右回答は、本願発明に相当する技術に対して、その発想自体の困難ないしは不可能なことを指摘しているものではなく、原告の時計側についての「注文書」に対する「回答書」であつて、その注文書には、条件として、ビデユリト型、硬質金属製、
円形側、別または被覆された突起を持つ二つの部材、耐水性、外径三五ないし三七ミリメートル、ガラス嵌込口二七ミリメートル、時計側バンド、突起および嵌込口等はとくに研磨すること等を指示したもので、そのような条件下で加工の困難性を累加した苛酷な注文であり、これに対して各受注会社が各自の意見または現在の各社の設備ではという前提で、困難または不可能といつているにすぎないので、これらの証拠から、本願発明は、従来不可能視されていたものを可能としたもので、特許性を有しているとする原告の主張を認めることはできない。
また、原告が時計側としての顕著な効果として主張する強度・光沢等は、時計側に用いた場合にはじめて認識されるというより、むしろ材料自体の属性というべきものであつて、たまたまその属性が時計側として好ましい性質と一致しているとしても、これは材料の属性から当然予測される程度の効果とみるのが至当であり、顕著なものということはできない。
原告の主張は、時計側およびタングステン炭化物等の素材に関する公知の技術水準に対する認識の誤りに基づく誤解であり、その主張する効果も、本願発明とは直接関係のない特定のデザインと絡み合わせて誇大に論じているものであつて到底賛同できない。
タングステン炭化物のような硬質物質が、従来、装飾的価値を要する時計側に用いられていなかつたことは、本件審決も認めているところであるが、該材料を特定物品に転用しても格別顕著な効果が生ずるとは考えられない。すなわち、
(1) 従来、金属を主とする種々な物質が時計側に利用されてきたが、このことはまた、時計側が具備すべき素材の特性がその設計製作にあたつて既知であるということ、すなわち、耐久性・外観その他の特性がある一定のレベルに達しているものでなければならないということである。このような考えは従来から公知のことであり、この考えに基づいて、ある場合には硬度の犠牲において外観に、またある場合にはこれと反対の点に、重点をおいて、素材が取捨選択されてきたのである。そして、銀、クローム、ステンレススチール等が時計側として従来からきわめて普通に利用されていたところからみて、銀色系の金属光沢面が、前述のレベルに達しており、時計側として好ましいものであることは、十分推認できるところである。
(2) 一方、タングステン炭化物が、相当の硬度を具備しており、また、その研磨面が銀色の美麗な金属光沢を具えていることも、従来既知の事実である。
本件審決は、このような前提で、右(1)、(2)に示したような時計側として具備すべき特性の既知性、色調による効果の予測性およびタングステン炭化物自体の属性から考えれば、本願発明のように、時計側を少なくともその目に見える個所をタングステン炭化物等で覆つても、それによる耐久性・外観等の効果は、素材の持つ属性が単に表われたとみるべきであつて、当業者ならば容易に推考できる程度のものと考えないわけにはゆかないとしているのである。
(四) 同四の(四)の主張は、争う。
本件審決には、時計側として考慮しなければならない条件として、外観について明示しており、このことと、前述のようなタングステン炭化物の属性、効果の予測性を前提として、とくに硬度について例示したもので、何ら判断に誤りはない。以上述べたように、本願発明の作用効果は、その材料の有する特性がそのまま表われたにすぎないとするのが相当であるから、本願発明をもつて、当業者が容易にできるものとした本件審決には、何ら原告主張のような誤りはない。
証拠関係(省略)
理 由(争いのない事実)一 原告主張の請求原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨および本件審決の理由の要点)、同四の(一)のうち金属炭化物の性質、金属炭化物よりなる製品の製法および従来の用途(ただし、その製品の形状に関する点を途く。)が原告主張のとおりであること、ならびに同四の(二)の事実(公知の時計側材料およびその性質等)については、本件当事者間に争いがない。
(本件審決の違法性の有無について)二 本件審決は、その指摘する周知技術から当業者が本願発明を容易に想到しうるものと誤認した点において、違法といわなければならない。すなわち、前記当事者間に争いのない事実、いずれもその成立について争いのない甲第一号証、同第七号証、同第八号証の一ないし一一、同第九号証、同第一七号証の一ないし四および同第二三ないし第二六号証、証人【A】の証言および原告代表者【B】の供述、本願発明の実施品であることについて争いのない検甲第一号証ならびに弁論の全趣旨によれば、つぎの事実が認められる。すなわち、
携帯用時計の側の材料としては、従来、その耐蝕性、装飾的効果および加工容易性等の条件を考慮して、金、銀プラチナおよびクローム等でメツキした黄銅(真鍮)等が用いられて来たが、これらは、いずれも硬度が低く、擦過されることによつて容易に傷がつき、光沢を失うという欠点があつたところ、近来、硬度の高いステンレススチールが、右諸条件を具え、かつ、右の欠点をも解消すべきものとして使用されるようになつたが、しかし、ステンレススチールも、その硬度は十分とはいえず、携帯中に傷が生ずることが少なくないことが明らかとなつたので、このような傷の生じない(すなわちスクラツチ・プルーフの)時計側を製造することは、
時計側製造に関する当業者間において、解決されなければならない課題として周知のものであつたこと、一方、タングステン炭化物等の金属炭化物は、原告主張のいわゆる粉末冶金法で製造されることにより、高い常温硬さ、高い高温硬さ、高温における安定性、耐摩耗性、高い弾性係数、高い抗圧力および耐蝕性等を有するものとして、早くから知られ、もつぱら、切削工具、耐摩・耐蝕工具、鉱山工具および耐摩・耐熱等の性質を要する部品に使用されて来たが、本件特許出願の前には、金属炭化物を時計側として使用した事例のなかつたことはもちろん、これを何らかの装飾的用途に使用した事例もまつたくなかつたこと、そして、金属炭化物の従来の用途が前記のとおりで、時計側のような装飾的効果を要するものに使われた事例がなかつたことに加え、前記粉末冶金法によつて時計側のような高い精度を要する複雑な形状を有するものを製造することは困難であり、また、同方法による成型物をさらに加工して精度の高い製品に仕上げることも、その硬度および脆弱性のため困難であると予想されていたこと等により、前記当業者の間では、前記のような課題があつたにもかかわらず、金属炭化物を携帯用時計の側の材料とすることは、まつたく考えられていなかつたこと、本願発明は、時計側製造業界における前記課題の解決のため、前記のように加工上の困難があると予想されていた金属炭化物をあえてとり上げ、時計側の目に見える部分のうち少なくともいくつかを、いわゆる粉末冶金法によつて成型加工した硬度の高い金属炭化物によつて構成することとしたものであるが、これにより、前記予想に反し、公知の粉末冶金法による金属炭化物の成型品を使用して、必要な精度を有する携帯用時計の側を得ることが可能である(実施方法として、時計側のうちのとくに精度を要する部分を施削可能なステンレススチールで製造し、これと粉末冶金法によつて成型した金属炭化物を接着する等の手段をとることにより、さらに、より複雑な形状の時計側についても、その精度を保つことが可能である。)ことが判明し、従来の金属製時計側に見られない一種独特の深味のある色調を有し、ダイヤモンド(まれにカーボランダム)以外のものによつて傷つけられることがないため長期にわたつてその光沢が消えることがないという、従来品に比し著しい作用効果を有する時計側を得ることができたものであること、
以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。
(被告は、甲第八号証の一ないし一一および第九号証について、これらは、原告と特定の関係のあるメーカー等による回答と思われ、その内容も本願発明の特許性を証明するものではない旨主張するが、右各証拠および前記甲第七号証ならびに原告代表者本人の供述をあわせ考えれば、原告と各回答者との間には、その回答の証明力に疑いを入れるに足るような特別の関係はないものとみるのが相当であり、また、回答の内容についても、原告の注文書に指示された条件がとくに苛酷であつたために、回答者が困難または不可能と考えたとみることはできず、回答全体を通じ、金属炭化物による時計側の製造を示唆されてもなお、各回答者が、それを困難ないし不可能と考えていた事実を認めるに十分であるから、被告の右主張は失当である。) そして、右認定の事実によれば、本件特許出願の当時においては、いわゆるスクラツチ・プルーフの時計側に関する業界の課題ならびに金属炭化物の存在およびその製品の製造法は周知であつたにもかかわらず、携帯用時計の側の材料として金属炭化物を用いることは、当業者が容易に想到しうる程度のものであつたとみることはできないから、本件審決は、この点において、事実の認定を誤つたものといわなければならない。
なお、被告は、タングステン炭化物が相当の硬度を有しており、その研磨面が美麗な金属光沢を具えていることは周知であるから、本願発明の耐久性、外観等の作用効果は、材料であるタングステン炭化物等自体の属性によるもので、当然予測される程度のものである旨主張するが、硬度および外観の点が周知であつても、そのため金属炭化物を時計側の材料として使用することが容易に想到されうるものとはいいえないこと、前説示のとおりであるから、被告の右主張は採用できない。
(むすび)三 以上のとおりであるから、その主張の点に違法があるとして本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、その理由があるものといわなければならない。よつて、
これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条
民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 三宅正雄
裁判官 武居二郎
裁判官 楠賢二