関連ワード | 技術的思想 / 物の発明 / 方法の発明 / 同一の発明 / 技術常識 / 優先権 / 発明の要旨認定 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / 訂正明細書 / 異議申立 / |
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事件 |
昭和
37年
(行ナ)
103号
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1971/10/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は、原告の負担とする。 この判決に対する上告のための付加期間を三か月とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 原告 特許庁が、昭和三七年二月二一日、同庁昭和三四年抗告審判第二、一二〇号事件についてした審決を取り消す。 との判決二 被告主文第一、二項同旨の判決 |
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原告の請求の原因
一 原告は、昭和三一年一〇月一一日アメリカ合衆国においてした特許出願にもとづく優先権を主張して、昭和三二年一〇月一一日特許庁に対し「金属の冷間仕上げ方法」の発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をしたところ、昭和三三年六月一七日出願公告があつたが、日立電線株式会社から特許異議の申立てがされ、昭和三四年四月七日拒絶査定を受けたので、原告は同年九月一四日抗告審判の請求をし、同年抗告審判第二、一二〇号事件として審理された結果、昭和三七年二月二一日抗告審判の請求は成り立たない旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本が原告に送達された(出訴期間は昭和三七年七月九日まで延長)。 二 本願発明の「特許請求の範囲」 金属の横断面積を縮小させるため可成り接近して隔てられ且軸方向に整列された少くとも二個のダイズを通して該金属を一方向に送り、前記ダイスの間の空間を封鎖して此の封鎖空間に之を充満状態に維持する量の流体を連続して供給する金属冷間仕上げ方法(別紙(一)の第一図、第四図参照)三 本件審決の理由の要点 本願発明の要旨は、前項の「特許請求の範囲」に記載されたとおりの金属冷間仕上げ方法であつて、その方法は、本願明細書添付の第一図または第四図(本判決別紙(一)の第一図、第四図にそれぞれ相当する。)に示された装置のみを従来普通の技術常識に従つて使用すれば、必要にして、かつ、充分に実施することができるものと認められ、しかも、本願明細書には、第一図または第四図に示された装置以外の装置を類推できるような記載はなんら存在しない。これに対し、拒絶査定に先願として引用された特許第二四一、〇六九号発明「線材皮むき装置」(昭和三〇年一二月五日特許出願)(以下「引用例」という。)は、その特許請求の範囲に記載されたとおりのもの、すなわち、「伸線通過兼圧油貯溜孔3、それに相連通する潤滑油圧入孔4及び潤滑油排出孔4′を設けたダイスホルダー2を有し、その圧油貯溜孔の両端を堰き止めるように線材の進行方向に伸線ダイス7及び皮むきダイス6の順に配置し、上記貯溜孔内圧油を皮むきダイス孔を通じてその切削刃先部分にまで押圧滲出せしめることを特徴とする線材皮むき装置」(別紙(二)の図面参照)であつて、これと本願明細書の第一図に示された装置とを比べてみると、構成上も作用効果上も両者はまつたく一致しており、また、本願明細書の第四図に示された装置とを比べてみても、潤滑油排出孔の有無において両者は構成が僅かに相違するが、作用効果においては格別に相違するものとは認められないから、引用例の装置と本願発明の前記図面に示された各装置とは、技術的思想においてまつたく同一のものと認められる。したがつて、本願発明の方法は、引用例の装置のみを従来普通の技術常識に従つて使用するにすぎない技術的思想にあると認めても失当でなく、 両者は技術的思想において同一なものというべきである。本願発明は方法の発明であり、引用例は装置の発明である点で両者は相違するけれども、右のようにその技術的思想が同一である以上、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第35条第1項の規定にてらし、両発明を特許すべきものと解する余地はなく、同法第8条の規定により、本願を特許することはできない。なお、昭和三四年二月一〇日差出の答弁書に本願の特許請求の範囲の訂正案が付加してあるが、これによつても右の判断を変更する必要は認められない。 四 本件審決を取り消すべき事由本件審決は、つぎのとおり判断を誤つた違法のものであるから、取り消されるべきである。 (一) 本願発明の要旨の認定の誤り 本件審決は、本願発明の要旨をその「特許請求の範囲」に記載されたとおりのものと認定したが、それは誤りである。本願発明は、「鋼棒」を冷間減経するに適した仕上げ方法に関するものである。もつとも、これを銅その他の軟質金属棒に実施しても支障はないから、明細書中にはその旨の記載もあるけれども、発明の眼目は鋼棒の冷間仕上げ方法にあり、そこに用いられる切削ダイスは鋼棒の加工整形を目的とするものである(明細書第二ページ一三ないし二〇行目参照)。そして、本願明細書の記載全体に徴すれば、本願発明の要旨は、 接近せる間隔関係に於て軸方向に一線上に在る切削ダイスと絞りダイスとを通して、鋼棒を一方向に直線状に前進させて、鋼棒の表面部分を除き且つその横断面積を減ずると共に、上記ダイス間の空間を封鎖して、この封鎖空間を催滑流体で充満させて維持するように、同空間に催滑流体を連続的に供給することから成る鋼棒の冷間仕上げ方法にあるものというべきである。これに対して引用例は、アルミ線、銅線等比較的軟質の金属線材の表面の酸化皮膜の除去あるいは線材表面の疵の除去のための皮むき装置であるから、本願発明とは処理の対象および目的において格段の差異があるのである。 右のように、特許請求の範囲の項の記載が発明の要旨を明確に表現していない場合には、審査官または抗告審判官において旧特許法第75条第5項により特許請求の範囲の項の記載の訂正を命ずるべき職責があると解すべきであるのに、本件においてそのような措置が採られることなく、本願発明の要旨をその特許請求の範囲のとおりの金属冷間仕上げ方法にあるものと速断し、ひいて引用例との前記相違点を看過した本件審決は、判断の誤りがあるというべきである。 (二) 旧特許法第35条の解釈の誤り 本願発明は方法の発明であるのに対し、引用例は物の発明である。旧特許法第35条は、特許権の効力について物の発明と方法の発明とを判然と区別して規定し、 両者の特許権が決して同一の効力を有し得ないことを明らかにしている。そして、 同法第8条が同一発明について最先の出願人に限り特許を付与される旨を規定したゆえんは、同一の効力を有する二以上の特許権の存在を許さないという条理を前提とするものであるから、物の発明と方法の発明のように、効力を異にする二つの特許権の客体となりうる一つの発明は、先後願の関係においては決して同一ではないことを擬制したものと解すべきであり、そのことは、両発明が根本の技術的思想を共通にする場合においても変りはなく、特許庁における過去幾多の審査例も同一発明思想にもとづく方法の発明とそれを実現する装置の発明とをともに特許しているのである。本件審決がこの点の判断を誤り、本願発明は方法の発明であり引用例が装置の発明であつても、両者は同一技術的思想に出たものであるから同一発明であるとしたのは、違法である。 (三) 両発明の技術的思想の差異 本件審決は、(イ)本願明細書には第一図または第四図に示された装置以外の装置を類推できるような記載がないこと、および(ロ)本願明細書の第一、四図に示された装置と引用例の装置とは、構造の主要部においてまつたく一致することの二点を根拠として、両者は技術的思想において同一であると判断しているが、右(イ)および(ロ)の判断部分は誤りであり、したがつて、これを論拠とする両技術的思想が同一であるという結論も誤りである。 すなわち、本願明細書の記載(とくに、第六ページ一ないし六行目および第九ページ下から三ないし末行の記載)から容易に、(1)切削工具が引抜きまたは押出しダイスと一体に形成されたハウジング部分に固定され、切削工具に必然的に設けられる内周面の傾斜面により、特に空間部分を設けなくても流体の充填に支障のないような装置、あるいは、(2)ダイスと一体に形成されたハウジングに螺合した押え部材によりダイスと切削工具とが密接して組み立てられ、右と同様に切削工具の内周面に必然的に形成される傾斜面を利用して流体のための空間とした装置を得ることができ、これらは本願明細書の第一、四図に示されたものとは具体的構造において明らかに相違しているにも拘らず、明細書の記載とはなんら矛盾することのない本願発明の実施例であることは疑いがないから、本件審決の前記(イ)の論拠は、この点で誤りである。 また、引用例の装置としての構成要件は、「伸線通過兼圧油貯溜孔、潤滑油圧入孔及び排出孔を設けたダイスホルダー、該圧油貯溜孔の両端を堰き止めるように配置した伸線ダイス及び皮むきダイス」であつて、ダイスホルダーの配設を必須の要件とし、このダイスホルダーに圧油貯溜孔の両端を堰き止めるように各ダイスが固定されるのである。ダイスホルダーが不可欠の要素であることは、引用例の特許公報第一ページ右欄二ないし六行目に、線材と潤滑油が必ず圧油貯溜孔を通ることを示していることより明らかである。しかるに本願明細書の第一、四図のものにおいては、引抜きまたは、押出しダイスは切削工具に直接支持されたダイスホルダーを必要としないため、同図にはダイスホルダーは示されていないのであつて、この点で引用例と構成を異にしているから、本件審決の前記(ロ)の論拠も誤りである。 なお、本願発明と引用例とが処理の対象および目的を異にしていることは前記(一)のとおりであり、この点においても両者は技術的思想を異にするのである。 |
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被告の答弁
一 原告の請求の原因一ないし三の事実は認める。本件審決の判断は正当であつて原告主張四のごとき違法はない。 二 本願明細書の記載によれば、本願発明は、鋼棒のみならず比較的軟質の金属線についても適用でき、金属線の表面を除去すること、すなわち皮むきを目的としていることが明らかであり、引用例も比較的軟質の金属線だけでなく鋼棒に対しても充分に適用しうるものと認められ、伸線ダイスを使用している以上金属線の冷間減経、加工整形を目的としていることは明らかであるから、両者が使用の対象および目的を異にするということはない。また、本願発明の特許請求の範囲に「二個のダイス」とあるのは切削ダイスと絞りダイスを意味すること、また、「流体」とあるのは潤滑作用を有する流体を意味することが明細書の全体の記載および図面により明らかであり、本件審決もそのような理解のもとになされたものである。したがつて、本件審決には原告主張のような本願発明の要旨についての誤認はなく、また原告主張の訂正案によつても判断を変更する必要は認められないとして訂正命令を発しなかつたことは当然である。 三 旧特許法第35条は、特許権の効力を規定するにあたつて、物の発明と方法の発明とに分類したものであつて、技術的内容が同一の場合においても物の発明と方法の発明とが同一の発明ではないことを定めた趣旨ではない。先願たる装置の発明の特許権者はその装置を使用する権利を専有できるから、もし、それと同一技術内容の後願たる方法の発明に対して特許権を与えれば、その方法を使用する権利すなわち先願発明の装置を使用する権利を後願者にも専有させることとなり、不当な結果を生ずることは、むしろ同条の規定から明らかである。 四 本件審決において、本願明細書には第一図または第四図に示された装置以外の装置を類推できるような記載は存しないと説示したのは、第一図または第四図に示された装置とは技術的思想において同一でない装置を類推できるような記載は認められないことを述べたもので、原告が請求原因四の(三)(1)および(2)として主張するような各装置は、具体的構造には前記第一図および第四図に示された装置との間に僅かに差異が認められるけれども、本願の特許請求の範囲に記載されている事項に関しては、両者は構成上なんら異なるものではなく、また、作用効果上もなんらの差異は認められないから、両者は技術的思想においてまつたく同一のものと認められる。 また、引用例の装置においては、ダイスホルダーに伸線ダイスと皮むきダイスとを取りつけてあるのに対し、本願の第一、四図に示された装置においては、引抜きまたは押出しダイスすなわち伸線ダイスは切削工具すなわち皮むきダイスに直接支持されている点で両者は相違するけれども、本願の特許請求の範囲に記載されている事項に関しては、両者は構成上なんら異なるものではなく、また、作用効果上もなんらの差異は認められないから、両者は結局、技術的思想においてまつたく同一の装置と認められる。 |
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証拠関係(省略)
理 由(争いのない事実)一 原告の請求原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の特許請求の範囲および本件審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。 (本件審決の取消事由の存否)二 原告は、本件審決は、原告の指摘する点においてその判断を誤つた違法がある旨主張するけれども、その理由のないことは、以下説明するとおりである。 (本願発明の要旨の認定の誤りの主張)(一) 成立に争いのない甲第一号証の七および九(本願発明の訂正明細書および特許公報)ならびに同号証の一八(本件審決の謄本)によれば、本願発明は、鋼、 銅、黄銅、アルミニウム、チタニウム、マグネシウムおよびその他類似の金属につき、棒材、杆材、管材あるいは線材の表面から不要の金属を除去し、その横断面積を縮小させる冷間仕上げ加工をすることを目的とし、その要旨とするところは、その特許請求の範囲に記載されたとおりの金属冷間仕上げ方法であつて、その特許請求の範囲にいう「二個のダイス」は切削ダイスと引抜きまたは押出しダイスをいい、また、「流体」とは潤滑能力を有する流体を指すものであること、ならびに、 これらの「二個のダイス」および「流体」の意味は明細書および添付図面の記載から容易に看取され、本件審決も本願発明の要旨を右のようなものとして理解のうえ判断したものであることが認められる。してみれば、本願発明が単に鋼棒の冷間減経を眼目とするとの前提に立つて本願と引用例とは処理の対象および目的に差異があるとする原告の主張は、明細書の記載に反し失当であり、また、本願の特許請求の範囲の項の記載が原告主張のごとき発明の要旨を表現していないことを前提に、 本件審決の本願発明の要旨認定に誤りがあること、および審査官または抗告審判官において特許請求の範囲の項の記載の訂正を命ずべき職責をつくさなかつたことの違法をいう原告の主張は、結局理由のないものといわなければならない。 (旧特許法第35条の解釈の誤りの主張)(二) 物の発明と方法の発明とは、両者が技術的思想を同じくする場合においても、旧特許法第35条の規定により、ともに特許されるべきであるとの趣旨の原告の見解は、同条の誤解に基づくものというほかはなく、当裁判所の賛同しえないところである。本願発明が方法の発明であり、先願たる引用例が装置の発明である点に差異があつても、その実体をなす技術的思想が同一であるかぎり両者は同一発明であり、本願を特許すべきでないことは、いうまでもない。そして、両者は技術的思想を同じくすることは、次に説明するとおりである。 (両発明の技術的思想の差異の主張)(三) 前記甲第一号証の七および九ならびに成立に争いのない同号証の一〇(特許異議申立書添付の引用例の特許公報)によれば、引用例の発明の要旨は、本件審決の認定するようにその特許請求の範囲に記載されたとおりの線材皮むき装置であり、これを前記認定の本願発明の要旨と対比してみると、その構成において、本願発明が「少くとも二個のダイスをかなり接近して隔てて軸方向に整列させ、ダイス間の空間を封鎖してこの封鎖空間に充満量の流体を連続供給し、ダイスを通して金属を一方向に送り金属の横断面積を縮小する金属冷間仕上げ方法」であるのに対し、引用例は、「伸線ダイスと皮むきダイスを、両ダイスが圧油貯溜孔の両端を堰き止めるようにかなり接近して隔てて線材の進行方向に整列して右の順に配置し、 潤滑油圧入孔および同排出孔を設けたダイスホルダーにより右ダイス間の空間を封鎖してこの空間を伸線通過兼圧油貯溜孔とし、この封鎖空間にそれに連通する潤滑油圧入孔から充満量の潤滑油を連続供給して貯溜孔内圧油を皮むきダイス孔を通じて切削刃先部分にまで押圧滲出せしめるようにした線材皮むき装置」に該当し、また、作用効果の点において、本願と引用例とは、いずれも、二個のダイスが被加工材をダイスにまつすぐに(偏倚、振動することなく)導入するためのガイドとなり、圧力流体がダイス作業面に良好な潤滑作用を与えることにより、高能率、高性能、かつ、経済的な金属減経加工を行ないうるという作用効果を有する点において一致することを認めることができる。 してみれば、引用例は、本願発明の方法を実施する必然的な態様を具体的装置としてそのまま表現したものであり、また、本願発明は、引用例の装置を使用して行なう金属冷間仕上げの必然的な態様を方法としてそのまま表現したものに該当し、 両発明は、まつたく同一の技術的思想につき、引用例は装置として、本願はこれを方法として、表現した差異があるにすぎず、両者は同一の発明というべきである。 なお、本願明細書第一、四図に示す装置以外に、本願発明の実施例たる装置として原告主張(1)、(2)のごとき装置が考えうることは、本願発明と引用例の技術的思想の同一性を認定する妨げとなるものではなく、また、原告主張のダイスホルダーの有無に関する両者の差異も、単にダイスとダイスホルダーとを同体とするか別体とするかの、作用効果に関係のない任意の設計事項にすぎないから、両者の技術的思想の異同に影響のないものであつて、この点に関する原告の主張も採用できない。 (むすび)三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして本件審決の取消しを求める原告の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担等につき、 行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条、第158条第2項を適用して主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 三宅正雄 |
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裁判官 | 杉山克彦 |
裁判官 | 武居二郎 |