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事件 昭和 40年 (ネ) 1459号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1972/04/07
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人らの連帯負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 控訴人ら、
「原判決中、差止および廃棄請求に関する部分を除くその余の部分を取り消す。
被控訴人は、控訴人らに対し、それぞれ、金四、三〇六万二、九〇〇円およびこれに対する昭和三八年一〇月二一日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決二 被控訴人、
主文第一項同旨および「控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決
当事者の主張
当事者双方の事実および法律上の陳述は、つぎに掲げるもののほか、原判決の事実欄中「第二原告らの主張」および「第三被告の主張」(ただし、いずれもその二項および八項を除く。)に記載されたところと同一(ただし、「第二原告らの主張」九項(三)に「金四千三百六万二千八百円」とあるのを「金四千三百六万二千九百円」と訂正する。)であるから、これを引用する。
一 控訴人らの主張(一) 原判決は、本件特許発明の要旨を、特許明細書記載の一実施例に基づいて特殊な意義に解釈し、これと被控訴人製品との対比を行なつたうえ、被控訴人製品が本件特許発明技術的範囲に属しないとの結論を導いている。
そこで、本件特許発明の技術内容を再説すれば、本件特許発明の目的とするところは、
「常時絞りを全開せしめて像を明瞭ならしめシヤツターの作働に際しまたは焦点深度観察をなさんとする等の必要時のみ自動的に予め定めたる絞り度に絞らんとするにある。」そして、この発明の目的を達するための必要欠くべからざる技術的構造として、本件特許発明はつぎの各要素を採用する。
(イ) 絞り度調整環に止子を設けること(ロ) 絞り羽根開閉板(以下開閉板という。)を該止子に衝合するようにすること(ハ) 開閉板にシヤツターの起動杆に関連せる作動環を係合し、常時絞りを全開状態に保たせること(ニ) シヤツターの作動に際し、シヤツターが開き始めない期間中に作動環を押進し、開閉板が止子に衝合するまでこれを共に回動させること 右の構造を前記発明の目的と関連させて説明すれば、つぎのとおりである。すなわち、シヤツターの起動杆が作動しないうちは開閉板が全開状態の位置を保持するように、シヤツターの起動杆と関連して作動すべくした作動環を右開閉板と係合させ、開閉板を常時は全開の状態に保たせる。
そして、必要時シヤツター釦を押すと、シヤツターの起動杆に関連する作動環が作動してこれと係合している開閉板を共に回動させて絞り込むのであるが、プリセツトされた絞り度調整環に止子が設けられており前記開閉板はこの止子に衝合するようになつているので、開閉板は予定絞り度の個所において止子に行き当り、それ以上は絞り運動を停止し、予定絞りを完了するのである。
そして、前記作動環はシヤツターが開き始めない期間中に押進され、しかも、これと係合している開閉板を回動し絞り込みを完了した後シヤツター幕が開き始めるようになつているので、絞り込みを完了しないうちにシヤツターが開かれることはない。
なお、かようなシヤツターの作動とは関連なく随時焦点深度を観察しようとするときには、開閉板は作動環に結合あるいは固定されておらず「係合」されているに止まるので、開閉板のみを作動環と切り離して、手をもつて直接に、または特設の釦、槓杆等で回動させて予定絞りを得ることができるわけである。
このように、本件特許発明は前記各構成要素全体を必要かつ十分なものとして発明の目的を達しているものである。
なお、被控訴人は、本件特許発明について先行技術を挙げて主張するところがあるが、本件特許は、前記各構成要素全体を一体不可分なものとして発明の目的・効果を達成するものであるから、たとえ右構成要素の一部が公知であつたとしても、
その部分を必要不可欠の要素ではないとして発明の構成から取り除くことはできない。
さもないと、発明を構成する各要素間の有機的関連が失なわれてしまうからである。
本件発明の構成要素を不可分的全体において理解するならば、本件特許発明の目的を達成するうえにおいて、その請求範囲は必要かつ十分に記載されており、これに特殊な意味を付与して解釈する必要をまつたく生じない。
(二) 本件におけるもつとも重要な争点は、開閉板と作動環との係合が原判決および被控訴人がいうように「開閉板が止子に衝合するまでは両者が一体的に回動し、その後は作動環だけが回動しうるような特殊の結合関係」のみを意味するものであるかどうか、そしてまた、この点に関連して、被控訴人がいうように右係合が摩擦的係合に限られるかどうか、という点にある。
本件特許請求の範囲では、右係合につき何ら限定を附していないから、これを原判決および被控訴人がいうように特殊な意味に理解すべきものとするには、何らかの積極的な理由が示されなければならない。しかるに、原判決においては、何ら理由とみるべきものは示されていない。
開閉板と作動環とを固定ではなく係合に止めているのは、開閉板が止子に衝合するまでは両者一体に回動するが、その後は開閉板を残して作動環のみがその行程端まで回動するように構成するためであるというが、何故本件発明において係合をそのような技術目的のために採用されたものと考えるべきかという肝腎な点については何も述べていない。
本件特許明細書に本発明の一例として記載されている機構のものにおいて、開閉板が止子に衝合したのち、さらに作動環のみがその行程端まで回動するようになつているのは、作動環自体は、少くとも最小絞りの位置まで開閉板を回動させる行程を保有していなければならないからにすぎない。したがつて、明細書記載の実施例においても、最小絞り度の場合を想定すれば作動環は、開閉板とともに回動し、しかも、それとともにその位置に止まり、余分に回動することはないのである。
本件特許において、作動環と開閉板を固着することなく、係合するに止めたのは、焦点深度を観察する等の必要時に、開閉板のみを独立して操作できるようにしたためであつて、被控訴人製品における係合もまつたく同一の技術的意味を有しているのである。
以上のような本件特許の要件からみて、作動環と開閉板との結合の具体的機構としては、何も右のような機構のみに限定されなければならない理由はなく、中途絞りの場合においても、開閉板が止子に衝合したときは作動環もともに回動を停止するような機構を採用することも差し支えないわけであつて、被控訴人製品はまさにこの種のものにほかならない。要するに、作動環と開閉板を係合させるのは、原判決のいう技術的理由によるものではない。本件特許によつて提案された右の両者の関係は、開閉板が止子に衝合するまでこれとともに作動環が回動するという機構にほかならない。
さればこそ、発明者は開閉板が止子に衝合したのち、作動環がさらに回動するかどうかについては、これを発明の要件として取り上げることなく、意識的に特許請求の範囲から除外したのである。さらに原判決は、両者が固定されていれば、あるときは、両者が一体的に回動し、あるときはその一方のみが回動するということが不可能になるという。その限りではまさにそうである。しかし、それだからといつて、一方のみが回動することを可能にする「係合」は、「開閉板が止子に衝合するまでは作動環と一緒に回動し、衝合した後は開閉板を残して作動環だけが回動するような係合」に限られることにはならないのである。あるときは両者一体に運動し、かつ、一体となつて停止するが、またあるときは作動環は全然動くことなく開閉板のみが動くようにした係合もありうる。
本件特許明細書の記載中、焦点深度観察のため開閉板のみを動かす場合が、まさにこの係合状態である。
結局、原判決は、本件特許明細書に記載された一実施例のイメージが終始頭から離れず、普遍的な推考を施すことに失敗し、予め設定した結論を急ぐのあまり、飛躍した論断を理由といれ違えているのである。
被控訴人が、本件特許発明における「係合」が特殊な係合であるとする理由として主張するところを要約すると、
(イ) 本件特許明細書の実施例によれば開閉板と作動環とは摩擦板を介した摩擦係合であつて、作動環は開閉板よりも大なる行程―つまり開閉板を最小絞りまで持つて行きうる行程―を常に回動するようになつている。
(ロ) 開閉板と作動環とは右(イ)のような係合でなければ発明の目的を達成することができず実施不能である。
(ハ) 作動環がその行程端まで行きつくことによつて始めてシヤツター開放部材を押すことになつているので、作動環のみは常に最終行程端まで行きつく必要がある。
(ニ) 右以外の「係合」の実施例は示されていない。
という四つの理由に尽きる。
しかし、右(イ)についていえば、実施例はあくまでも発明の一実施態様にすぎないのであつて、そこに示された具体的な設計それ自体が発明の必須的要素となつているわけではない。したがつて、本件特許明細書に説明されている実施例において、開閉板と作動環とが摩擦板を介した摩擦係合であつて、作動環は常に開閉板を残して最終行程端まで回動を続けるような設計が示されていたとしても、本件特許発明における両者の「係合」が、右のような特殊な係合に限定されなければならないという理由は、それだけでは何ら生じないものといわなければならない。
また、(ロ)についていえば、両者の係合は(イ)のような特殊係合でなければ発明の目的を達しえられないというけれども、要するに、開閉板と作動環とが固定的な関係ではなく必要時別々に運動しうるような関係的結合の状態にありさえすれば、冒頭において述べたように、本件発明の目的は十分に達成しうるのであるから、右(ロ)のような実施不能論もまつたく当つていない。数ある係合の仕方のうちで、何故にそのいうような特殊係合でなければ実施不可能であるのかということについては何ら積極的理由を述べることをしない。ただ、本件実施例によれば開閉板と作動環とは環状摩擦板を介した摩擦的係合であり、そのような構造にあるから、開閉板が止子に衝合した後も作動環だけは開閉板を最小絞りの位置まで持つていくだけの行程を保有し、毎回その行程端まで回動するようなものでなければ実施不能である、というように、いつまでも実施例の枠の中で堂々めぐりの議論をしているだけである。
もし、本件特許明細書において、環状摩擦的係合でない別の実施例が採用されていたらどうなのか。
それでもなお両者は原判決がいうような「特殊な係合」でなければ実施ができないというのであろうか。被控訴人は摩擦係合を離れた場合の係合については敢えて論じようとしない。それは、摩擦係合以外の係合においては、もはやいわゆる特殊な係合に限定されるということはいえなくなるからであろう。被控訴人は、実施のためのバネや環状摩擦板がなければ発明の目的が達せられず実施不可能であるというが、例えば、環状摩擦板は本件特許発明における必須要件ではなく、これがなくとも発明の目的は達せられるので、控訴人は、これを特許請求の範囲から意識的に除外しているのである。
つぎに、右(ハ)の理由は、その前提において本件発明に示されてない機構を空想した根拠のない推定である。本件特許明細書においては、シヤツター開放部材が作動する時期(それは絞りを完了した後である)についての記載はあるが、開放部材がどのようにして作動せしめられるかという構造についてはまつたく触れるところがないから、作動環が最終行程端迄行きつくことによつてシヤツターの開放部材を押すようになつているとの認識は、まつたくの想像にすぎない。
最後に、(ニ)の理由についていえば、右以外の「係合」の実施例は示されていないということは、実施例に示されていないものは発明の内容に含まれないという意味なのか、そうであるとすれば、敢えてとりあげて反駁する必要もないが、他の例は考えられないというのであれば、それはまつたく認識不足である。
「係合」という語は、特許実務上古くから慣用された語であつて、二つの物体の結合関係を示す場合に、消極的には「固定」と区別され、積極的には二つの物体が必要時一体的に、他の時には別々に運動または作用をするような場合に用いられている。したがつてその具体的設計においては、例えば嵌合、嵌合圧接、咬合、衝合、摩擦、連結、接合、挟持等さまざまな態様があるのである。本件における開閉板と作動環との係合も、右のようにあらゆる実施態様における係合を予定しているのであつて、本件発明の実施上これを原判決あるいは被控訴人がいうような特殊な係合、あるいは、摩擦的係合に限定すべき理由はまつたく見出すことができないのである。
これを要するに、原判決は、何故本件発明において作動環と開閉板とは固定されることなく係合に止められているのかという技術目的から係合の意味内容を見定めんとしたもので、その限りにおいて着眼の仕方は正しかつたのであるが、結局本件発明の目的からみた係合の技術的意味内容の認識を誤つたがため、それは絞り羽根開閉板を止子との衝合位置に残して作動環のみが行程端まで回動する必要からであるとの誤つた結論に到達したものである。そして、被控訴人は、この誤つた判決の結論に便乗してこれを支持する理由づけを行ない、ひたすら実施例の記載のみを頼りに狭い視野においてこの議論を正当化しようと試みた。
しかしながら、冒頭において述べたように、本件特許発明の目的に関連して、何故開閉板と作動環とが固定ではなく係合とされているかを考えるならば、それはシヤツターの作動とは関連なく随時焦点深度を観察せんとするとき開閉板のみを作動環と離して動かす必要からであることを明白に知るのである(本件特許明細書一頁右欄下から九行目以下)。
開閉板のみを随時作動環と離して動かしうるような両者の係合でありさえすればよいのであつて、その他に作動環のみが行程端まで行きつくような設計であろうと、作動環も開閉板と共に進行を停止するような設計であろうと、はたまた両者が摩擦的な係合であろうと、その他の機械的な係合であろうと(係合の仕方にはいろいろな態様があることは前述した)、右発明の目的を達するためには何ら選ぶところがないのである。
かように、「係合」の技術的意味を本件発明の目的に照して正しく認識するときは、原判決の示したところの結論は根底から崩れ去るのであり、これを実施例の記載を頼りにひたすら正当化しようとしてきた被控訴人の議論もまつたく空しいものとならざるをえないのである。
(三)最後に、被控訴人製品はレバーを用いた伝導機構であつて、極力摩擦による抵抗を排除し、したがつて、小なる運動量で作動しうる点が本件特許発明よりすぐれている点を被控訴人は力説する。
しかしながら、本件特許発明において、与えられた力がシヤツターの起動杆から作動環、開閉板を経て絞り羽根の開閉運動に及ぼされるまでの一連の伝導手段については、さまざまな具体的設計を採用することが可能なのであつて、勿論好適な実施例の一としてレバーによる伝導機構を採用することも可能である。被控訴人製品においては、その名称こそ異なれ、構造、作用的には作動環と同一である弓状レバーと、開閉板と同一である中介レバーとを係合させ(シヤツターと関連して作動させるときは両者一体となつて動くが、随時焦点深度を観察せんとするときは手をもつて中介レバーのみを動かすことができるような関係的結合)、絞り羽根の開閉運動に伝導する機構であるから、本件発明の必要的要素と異なるところはなく、他の構成要素もことごとく具備するものであるから、右製品は本件特許発明技術的範囲に当然含まれるものといわなければならない。
摩擦による抵抗を極力排除したというが、本件特許発明の技術思想の中には、摩擦抵抗というような要素はまつたく含まれていないのであるから(前述のように、
本件特許請求の範囲は、環状摩擦板の観念を除外している。)、これと比較して摩擦抵抗が多い少いを論ずること自体およそ意味のないことである。レバー伝導機構のもたらすすぐれた効果をいかに強調しようと、それはそれだけのことであつて、
本件特許発明を比較の対象とするわけにはいかないのである。
以上の通り、被控訴人製品がレバー伝導機構を採用しているとの一事をもつては、それが本件特許発明の技術思想と異なることにはならない。
二 被控訴人の主張(一)控訴人らは、開閉板と作動環との「係合」の関係について、最小絞り度の場合を想定すれば、作動環は開閉板とともに回動し、かつそれとともにその位置に止まる旨主張するが、絞り度は最大から最小までの間において撮影条件による任意点の選択が可能でなければならず、このように絞り度に変化を与えうることがそもそもカメラの必要要件であり、この絞り度を任意に変更することができないときは、
一眼レフレツクスカメラにおける自動絞り装置自体がまつたく無意味になるのであるから、常に最小絞り点を想定せよという控訴人らの主張は自己矛盾である。
また、中途絞りの場合においても、開閉板が止子に衝合したときは、行動環もともに回動を停止するような機構を採用することは少しも差し支えない旨の主張があるが、本件特許発明の出願当時、発明者がその点まで意識したかどうかは不明であり、このような点にまで発明は存在しない。しかも、本件特許明細書の記載によると、「作動環12はバネ15に抗して回動」するようにしてあり、その行程端まで回動したとき始めてシヤツターが開かれ、この時「このバネ15により作動環12……は常態に復する」のであるから、このバネに抗して作動環12を回動させる力は一定でなければならず、したがつて作動環は、つねに、「その行程端まで回動」することが必要であつて、開閉板とともにその回動を停止することはその機構上許されないのである。
また、係合という言葉の意味は、その特許明細の全体を通じて、当該請求範囲に使用された係合の意味に解釈すべきであつて、明細書を離れて所与的に決まつているものではなく、決めるべきものでもない。本件特許明細書によると、係合とは、
原判決および被控訴人主張のとおりの意味に用いられており、別の意味の係合は予想もしていない。しかも他の実施例の記載はまつたくない。したがつて、控訴人らの主張する嵌合その他の例示した関係は、「係合」には当らない。
控訴人らは、被控訴人が原判決および被控訴人において主張している以外の係合を論じようとしていないと主張するが、控訴人らにおいて右以外の係合関係または実施例を具体的に主張および立証すべきであつて、「特許請求の範囲」のとおりであり、請求の範囲には、そのような特殊な係合に限定されるという記載がないというだけでは論争にもならない。なお、係合の言葉的意味ではなく、被控訴人が主張する係合以外の係合によつて、本件発明の目的を達する機構または実施例を主張すべきである。
(二)のみならず、本件特許請求の範囲の記載によれば、「作動環」、あるいは、
これを「回動せしめて」という文言があるように、本件特許発明の必須要件である開閉板に係合されるべき不可欠の部材である作動環は、円形のものであること、この円形の作動環を押進する作用によつて、これとともに止子に衝合するまで動く開閉板の運動は、「回動せしめ」られる関係から見て、必ず円運動である。したがつて、作動環と開閉板とが円運動をするものであることを限定的要件としているのであり、右の要件のもとでは、係合は、原判決および被控訴人が主張するように解釈しなければならず、他の機構によつては実施不能である。
証拠関係(省略)
理 由一 当裁判所も、被控訴人の製品は本件特許発明技術的範囲に属しないと判断するもので、その理由は、つぎのとおり附加するほかは、原判決の理由中、第二の二ないし四の部分と同一であるから、その記載をここに引用する(但し、原判決二〇枚目表一行目「甲第三号証」を「甲第二号証」と、同二四枚目表九行目「押動ピン12」を「押動ピン7」とそれぞれ訂正する。)。
二 成立に争いのない乙第一号証の三(大正一三年九月一六日特許局図書館受入れの米国特許第七二〇、五八六号明細書)によれば、一眼レフレツクスカメラにおいて、本件発明と同一の目的、すなわち、「常時絞りを全開せしめて像を明瞭ならしめ、撮影時シヤツターの作動にさいし、自動的に予め定めた絞り度に絞る」目的(本件発明がこの目的をもつことは、成立に争いのない甲第二号証(本件発明の明細書)の記載に徴し、明らかである。)をもつて、
絞り度調整部材(腕24)に止子(階段26)を設け、絞り羽根開閉部材(リング7)(の腕27)を該止子に衝合するようにし、開閉部材にシヤツターの起動杆(レバー23)に関連する作動部材(コード9)を係合し、常時絞りを全開状態に保たしめ、シヤツターの作動にさいし、シヤツターが開き始めざる期間中に作動部材を駆動し、開閉部材(の腕)が止子に衝合するまでこれをともに回動せしめて予め定めた絞り度に絞るようにした絞り作動装置の技術思想が、本件特許出願以前から公知であつたことが明らかである。
したがつて、本件発明が、右公知技術が存在するにかかわらず新規性ありとして特許されたゆえんのものは、本件発明が右公知技術と同一の技術思想を有する点にあるのでないことは、特許制度の建前上当然のことであつて、本件発明は、公知技術と同一の目的を、公知技術にはみられない新規な構成により達成した点に、特許性を認められたものと解するほかはない。
そして、本件発明の構成をその「特許請求の範囲」の記載にもとづいて考察するならば、本件発明は、基本的には前記公知技術の採用する技術思想を用いながら、
その具体的構造において、各部材の形状および部材相互の関係に一定の限定を加えたものであることが理解される。すなわち、本件発明は、前記公知の技術思想における絞り度調整部材として「絞り度調整環」を、絞り羽根開閉部材として「絞り羽根開閉板」を、また、作動部材として「作動環」をそれぞれ採択し、作動部材の駆動方法として、シヤツターの起動杆による「押進」の方法を採用した点に特徴を有する。詳言すれば、本件特許発明は、絞り度調整環および作動環を、いずれもカメラ鏡胴の周囲において鏡胴と同心的に回動する環状体とし、したがつて、この作動環と係合して共に回動し絞り度調整環の止子に衝合する開閉板も同様に鏡胴と同心的に回動する環状の板体とし、かつ、シヤツターの起動杆と作動環との「関連」の具体的手段として、シヤツターの作動にさいし起動杆が作動環を「押進」するという最も単純かつ合理的な機構に特定することによつて、右各部材からなる自動絞り装置をカメラ鏡胴部にコンパクトに纒めたものであつて、前掲乙第一号証の三によつて認められるように、前記公知技術が、当時一般的であつた大型の蛇腹式またはボツクス式カメラに適用される装置であつたのに対し、本件発明は、その出願当時におけるカメラの小型軽量化の一般的傾向(このことは周知の事実である。)を前提として、そのようなカメラにも適合しうるコンパクトな自動絞り装置として発明され特許されたものと認めるのが相当である(このような、小型軽量のカメラに適した絞り装置の構造としての本件発明の作用効果については、明細書に格別の記載はないが、前記公知技術の公開当時と比較した場合の本件特許出願当時におけるカメラの小型軽量化という当業者の技術常識を前提として明細書を読むならば、本件発明が右のような作用効果をもつものであることは、当業者にとり十分理解し感得しうるところというべきである。)。
したがつて、右のような特定の構造の部材を持たない絞り作動装置は、たとえ基本的な技術思想において本件特許発明と共通するものがあつても(そのような基本的な技術思想自体は、すでに公知技術に開示されたところであつて)、本件発明の技術的範囲に属するものではない。
ところで、被控訴人の製品において、本件特許発明の作動環に相当する部材は弓状レバーであり、開閉板に相当する部材は中介レバーであり、また、起動杆に相当する部材は進退レバーであると解されるが、弓状レバーおよび中介レバーが、いずれも鏡胴の周囲に鏡胴と同心的に回動する環状体でないことは明らかであり、また、シヤツターの作動にさいし進退レバーが弓状レバーを押進するものでないことも明らかであるから、被控訴人の製品は、すでにこの点において本件発明の必須の要件たる構造を欠くのである。また、本件発明の起動杆がシヤツターの作動にさいし作動環を「押進」するものであるから、「シヤツターの作動にさいしシヤツターが開き始めざる期間中に作動環を押進し、開閉板が止子に衝合するまでこれをともに回動せしめて予め定めた絞り度に絞」つたのち、なお起動杆を所定の位置まで押動してシヤツターを開放せしめるためには、起動杆により押進せしめられる作動環も、起動杆がシヤツターを開放せしめるに足る行程端まで起動杆とともに移動することが必要になるのであつて、この意味で、本件「特許請求の範囲」における「係合」は、「押進」との関係において原判決の説示するとおりの限定的な意味に解釈せざるをえないのである(起動杆が作動環を押進し、開閉板が止子に衝合して停止したのちは、この押進関係が解除されるような構造も考えられないわけではないが、そのような特殊な構造を採用することにより格別の利点が生ずるものとは思われず、また、明細書中にそのような特殊の構造の採用を示唆する記載は何もないから、かかる構造は本件発明の解釈上考慮する必要はない。)。そして、被控訴人の製品が、右のような意味における「係合」の構造を有しないことは、原判決の説示するとおりである。
三 よつて、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、民事訴訟法第384条第95条第89条第93条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 杉山克彦
裁判官 土肥原光圀
裁判官
裁判官 賢二