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事件 |
昭和
44年
(ワ)
8219号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 1972/05/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
被告は、原告に対して、金一〇、八七三、九四〇円およびこれに対する昭和四四年九月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。 原告その余の請求を棄却する。 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。 この判決は、原告勝訴の部分に限り、原告において金三、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、かりに執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 原告 「被告は、原告に対し、金二〇、三六六、五〇〇円およびこれに対する昭和四四年九月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言。 二 被告「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決。 |
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当事者の主張
一 請求原因1 原告は、左記特許発明の特許権者である。 特許出願 昭和三六年七月七日(昭和三六年特許願第二四、四九八号) 出願公告 昭和三九年六月二〇日(昭和三九年出願公告第一一、三〇〇号) 特許登録 昭和四二年九月二五日 特許番号 第五〇一、五〇一号発明の名称 光導電体を使用する等間隔目盛露出光計2 右特許権の特許請求の範囲は、次のとおりである。 主として高照度域を担当する光導電体の両端子間に分圧器を並列に接ぐとともに、主として低照度域を担当する他の光導電体の一極を前記前者の光導電体の一極に直結し、前記後者の光導電体の他極と前記分圧器の分圧用引出端子との間に電源、計器および必要ならば抵抗を直列に接いだ光導電体を使用する露光計回路。 3 本件特許発明の技術的範囲を別紙図面(一)にもとづいて示すと、次のとおりである。 主として高照度域担当の光導電体R1の両端子間に、分圧器R3〜R4を並列に接続するとともに、主として低照度域担当の光導電体R2の一極を前記の高照度域担当の光導電体R1の一極に直結し、前記の低照度域担当の光導電体R2の他極4と前記の分圧器の分圧用引出端子3との間に電源2、計器1および必要があれば抵抗R5を直列に接続したものであつて、この電光計用回路においては、主として高照度域担当の光導電体R1と主として低照度域担当の光導電体R2とが直列に接続されているので、低照度域においては、高照度域担当の光導電体R1の抵抗値が極めて大きいため、低照度域担当の光導電体R2への光電流は、電池2から、高照度域担当の光導電体R1と並列的に接続した抵抗R4を介し主として供給され、また、高照度域においては、低照度域担当の光導電体R2は飽和状態にあつてきわめて低い抵抗値を維持してほとんど変化しないから、光電流は、高照度域担当の光導電体R1を介して供給されることとなり、したがつて、回路における部分品の抵抗値を適当に選定するだけで、回路の切換えを行なうことなしに、低照度域から高照度域にわたる広範囲な露光領域にわたつて、メーターの指示目盛を光量に対して直線的変化を示すようにすることができ、電光計に等間隔目盛を施すことができるようにした露光計回路(以下「本件特許回路」という。)である。右回路において、 R3の抵抗値は、これを零とすることもできる。すなわち、本件特許回路における分圧器は、高照度域担当の光導電体R1を通して流れる電流と抵抗R4を通して流れる電流との割合を調整して、照度に対する光電流値の変化をほぼ直線的にするために機能するものであるから、ある場合には、分圧器の一部を構成している抵抗R3の値が零となり、抵抗R4のみとなりうることは、その明細書に明記されているばかりでなく、当業技術者なら容易に理解できるところである。したがつて、本件特許回路においては、高照度域担当の光導電体R1と並列に接続させる分圧器として必須の抵抗は、R4だけであつて、必ずしも抵抗R3とR4との両方をともに必要とするものではない。 4 被告は、その製造にかかる写真機のうちの一種類を、ヤシカJ―7なる商品表示で、昭和四一年二月一日から昭和四三年七月三一日までの間に三八、五〇〇台販売した。 右写真機に組み込まれている露光計は、これを電気的に等価な回路で示すと、別紙図面(二)のとおりとなるが、同図面にもとづいてその構成を示すと、次のとおりになる。 主として高照度域を担当する光導電体R1と、主として低照度域を担当する光導電体R2とを直列接続して、これを抵抗R5および計器1を直列に介して電池2の間に接続するとともに、高照度域担当の光導電体R1と並列に抵抗R4を接続し、 かつ、両光導電体R1、R2の直列回路と並列に第三の光導電体R4を接続するものであり、この構成により、回路の切換えを行なうことなしに、低照度域から高照度域にわたる広範囲な露光領域にわたつて、露光計の指示目盛を光量に対して直線的変化を示すよう、したがつて、露光計に等間隔目盛が施せるようにした露光計回路(以下「被告回路」という。)である。 5 本件特許回路と被告回路を対比すると、次の二点を除いて、その余の構成は、 全く同じである。 (一) 被告回路では、第三の光導電体Rxを、高照度域担当の光導電体R1、低照度域担当の光導電体R2の直列回路と並列に接続しているが、本件特許回路には第三の光導電体Rxがない。 (二) 被告回路では、高照度域担当の光導電体R1と並列に抵抗R4を接続しているが、本件特許回路では、高照度域担当の光導電体R1の両端子間に分圧器(抵抗R3とR4)を並列に接続している。 まず、右のうち(一)の点についてみると、被告回路の抵抗Rxは、その抵抗値が非常に高く、この光導電体Rxが、露光計回路に及ぼす影響はほとんどない。すなわち、この第三の光導電体Rxの存在によつて、高照度域担当の光導電体R1と低照度域担当の光導電体R2とを直列接続したことによる無切換えで広照度範囲にわたる露光領域のほぼ直線的測定を可能にするという動作原理が本質的に変更されるということはない。したがつて、被告回路における第三の光導電体Rxは単なる付加的構成にすぎないものである。 次に右(二)の点についてみると、本件特許回路において、高照度域担当の光導電体R1と並列に分圧器を接続し、この分圧器の引出端子を計器および電池の直列回路の一端に接続しているのは、少くとも抵抗R4の存在下で分圧比を適宜選択することにより、 光導電体R1を流れる電流と抵抗R4を流れる電流との割合を調整していることが明らかであるから、その実施の態様として、当然抵抗R3の抵抗値が零となる場合がありうる。そして被告回路は、本件特許発明における前述した極限状態の場合の態様に相当している。したがつて、被告回路における抵抗R4は、本件特許発明にいう分圧器を構成しているに外ならないものということができる。 以上のとおり、本件特許回路と被告回路で相違する二点のうち、(一)の点は単なる付加的構成であり、また(二)の点は、本件特許発明にいう分圧器を構成しているから、被告回路は、本件特許発明の技術的範囲に属するものである。 6 したがつて、被告が、被告回路を有する露光計を内蔵する前記写真機ヤシカJ―7をを製造、販売することは、本件特許権の侵害となり、被告は、右行為が、侵害となることを知りまたは知るべきであつたのに、これを行なつたのであるから、 原告に対し、右製造、販売により原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。 7 ところで、被告は、前記写真機ヤシカJ―7を一台金三〇、三〇〇円で販売したものであるが、その税込卸売価格は、右販売価格の六七パーセントの金二〇、三〇一円であり、右卸売価格から、課されるべき一五パーセントの物品税即ち金二、 六四八円を差し引くと、その税引卸売価格は、金一七、六五三円となる。そして、 本件特許発明について、その実施を許諾する場合の実施料率は少なく見積つても、 右税引卸売価格の三パーセントであるから、本件において特許権者たる原告が通常受けるべき実施料は、写真機一台について金五二九円ということになる。したがつて、被告は、原告に対し、右写真機一台の製造および販売につき、金五二九円を支払うべき義務がある。 8 よつて、原告は、被告に対し、前記写真機ヤシカJ―7の製造、販売につき、 本件特許発明の実施に対し原告が通常受けるべき実施料一台あたり金五二九円に、 被告が製造、販売した台数三八、五〇〇を乗じた金二〇、三六六、五〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四四年九月二日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 二 請求原因に対する認否1 原告が、請求原因1において主張する特許発明の特許権者であることは認める。 2 右特許権の特許請求の範囲が、原告主張のとおりであることは認める。 3 原告が、請求原因3において主張する本件特許発明の技術的範囲のうち、別紙図面(一)におけるRの抵抗値が零ともなりうるとの点を否認しその余を認める、 すなわち、 (一) 本件特許発明の特許請求の範囲では、別紙図面(一)における引出端子3および抵抗R3、R4、R4の回路構成につき、分圧器の分圧用引出端子なる表現を用いている。ところで、分圧器なる用語は、機能と形態の両面から概念づけられうるところ、機能的には降下電圧を取り出す働きをするものであり、形態的には両端をもつた抵抗体とその途中に引出端子が設けられたものであるが、本件特許発明における分圧器は、右の機能に着目したものではないから、右の形態的な面からその概念が定められるべきである。そうとすれば分圧器において、引出端子の両端に抵抗体があることは不可欠な要件であるから、R3の抵抗値を零とする余地はないことになる。R3の抵抗値が零となつたものは、技術常識上分流器と呼ばれ、分圧器とはいわない。また、本件特許発明の目的である電流曲線を直線化するための作用に重点をおいて、分圧器の概念を規定することは、作用のみを記載して、その具体的実現手段を何ら記載しない発明が特許されないのと同様、本件特許発明における分圧器の概念を定めるための根拠としえない。ことに、本件特許回路においては、その製作過程における一段階として、R1とR2の抵抗特性が定まつた後に回路電流曲線を直線化するという観点から、最も好ましいR3を選定するのであつて、それは分圧用引出端子を抵抗体の端部の方向へ移して行くものでもなければ、 これを摺動させて行くものでもない。そのうえ、このようにしてR3の抵抗値が選定された後は、もはや抵抗R3もR4も端子3もすべて固定されるのである。このように、本件特許発明において、Rの抵抗値を零と解すると、特許請求の範囲における分圧器は、その形態上の概念から甚だしく遠いものに解せざるをえず、不当な結果となる。 (二) 本件特許発明の特許公報における発明の詳細な説明および特許請求の範囲は、昭和三八年一一月一四日付の手続補正書によつて補正されたものであつて、右補正前の本件特許出願の書類には、分圧器なる用語は全く見当らず、右補正後に分圧器なる語が用いられた部分についての、補正前の表現は、次のとおりであつた。 「本発明は上記の欠点をなくするための光導電体の接続回路を有する等間隔目盛露光計に係るものであつて、その回路は第4図に示す如く分圧用端子3を有する直列抵抗R3・R4を、高照度域で光値LVに略正比例する電流を与える一つの光導電体R1の両端子に並列に接ぐと共に、低照度域で光値LVに略正比例する電流を与える他の光導電体のR2の一極を上記光導電体R1の一極と直結し、上記光導電体R2の他極4と前記分圧用引出端子3との間に電池2、電流計1及び必要ならば保安抵抗R5を直列に接いだものである。」 「すると、第4図に示す高照度担当のCdSR1の抵抗値と、抵抗R3の抵抗値との和即ちR1+R3=R1……」なお、この記載は電気理論上の誤りであつて、正しくは次のとおり記載さるべきである。すなわち、 「すると、第4図に示す高照度担当のCdSR1の抵抗値と直列抵抗R3、R4の抵抗値との和即ちR1(R3+R4)/R1+R3+R4=R1……」「分圧用引出端子を有する直列抵抗を、高照度域で光値に略正比例する電流を与える一つの光導電体の両端子間に並列に接ぐと共に、低照度域で光値に略正比例する電流を与える他の光導電体の一極を上記前者の光導電体の一極に直結し、上記後者の光導電体の他極と前記分圧用引出端子との間に電池、電流計及び必要ならば保安抵抗を直列に接いだ光導電体を使用する等間隔目盛露光計」 以上の点からみると、本件特許発明が出願された際に考えられていた抵抗R3、 R4についての右回路部分は、分圧用引出端子を有する直列抵抗であることは明確で、R3の抵抗値が零の場合を少しでも、推測させる記載はない。 したがつて、本件特許発明の特許請求の範囲に、R3の抵抗値を零とする場合を包含させることは、その権利範囲を拡張して解釈することになるのである。 (三) 本件特許発明の出願については、昭和三九年八月二〇日に、訴外スタンレー電気株式会社から特許異議の申立がされたが、その理由は、R3の抵抗値を零とする場合は既に発明としての新規性を喪失しているから、拒絶査定をされるべきであるということであつた。右異議の申立に対しては、申立を理由がないものとする決定がされたが、その決定理由は、次のとおりに解されるものであつた。すなわち、 (1) 本件特許発明の特許請求の範囲に記載された分圧器は、抵抗R3を必須のものとしており、R3の抵抗値が零の場合には分圧器でなくなる。 (2) ところが、発明の詳細な説明中に、R3の抵抗値はある場合には零ともなりうる旨の記載があるので、発明の詳細な説明中に開示された発明には、R3の抵抗値が零の場合を含む。 (3) その結果、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明中の記載との間に不一致がある。 (4) しかし、特許請求の範囲に記載された分圧器は、R3の抵抗値が零の場合を含まないので、かようなものとして特許請求の範囲を定めたうえで、発明の詳細な説明を検討すると、そこに記載された作用効果を奏する。 (5) このように、本件特許発明は、R3の抵抗値が零の場合の回路構成を支配しないから、特許請求の範囲には発明の詳細な説明に記載された発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載されていると認められる。よつて、異議申立人の主張は理由がない。 したがつて、本件特許発明の特許請求の範囲には、R3の抵抗値が零の場合を含まないことは、特許庁審査官も認めているのであるから、本件特許は、R3の抵抗抗値が零でない場合の回路について与えられたものであることが明らかである。 4 原告が、請求原因4において主張する、被告が本件写真機ヤシカJ―7を製造、販売していたことおよびその販売期間、台数ならびに右写真機に組み込まれた露光計の構成はいずれも認める。 5 原告は、請求原因5において主張する、本件特許回路と被告回路との対比のうち、右両回路の構成上一致する点および相違があるとする点はいずれも認めるが、 その余は否認する。すなわち、前叙のとおり、本件特許発明の技術的範囲には、別紙図面(一)におけるR3の抵抗値が零の場合は含まれない。そして、被告回路は、まさに右R3の抵抗値が零の場合であるから、被告回路は本件特許発明の技術的範囲に属さないのである。 6 原告が、請求原因6において主張する事実は否認する。 7 原告が、請求原因7において主張する事実のうち、本件特許発明について原告が通常受けるべき実施料が、被告の販売する本件写真機ヤシカJ―7の税引価格の三パーセントである一台あたり金五二九円であることを否認し、その余を認める。 すなわち、本件露光計は、写真機の機体内に組み込まれてはいるが、写真機の他の撮影機構とは何ら連動しておらず、機能上も構造上も別個で、いわば独立した露光計という自己完結体が、機体内に併存しているにすぎない。したがつて、写真機合体の価格を基礎として実施料相当額を算出することは不当である。 |
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証拠関係(省略)
理 由一 本件特許発明の技術的範囲 原告が、請求原因1において主張する特許発明の特許権者であること、その特許請求の範囲が請求原因2において主張するとおりであることおよび右特許発明の技術的範囲が、別紙図面(一)における抵抗R3の抵抗値が零となる場合を除き、原告が請求原因3において主張するとおりであることは当事者間に争いがない。そこで先ず、別紙図面(一)に示される本件特許回路において、R3の抵抗値が零の場合が本件特許発明の技術的範囲に属するか否かについて判断する。 前示当事者間に争いのない事実および成立に争いのない甲第一号証によれば、本件特許発明における特許請求の範囲においては、別紙図面(一)に記載の本件特許回路における引出端子3および抵抗R3、R4の構成を示すために分圧器なる用語を用いていることが認められる。ところで、前掲甲第一号証によれば、本件特許発明の特許公報における発明の詳細な説明中には、 「たゞしR4は絶体必要であるがR3またはR5は計器の内部抵抗その他に左右され、ある場合には零にもなり得る。」との記載があり、また成立に争いのない甲第七号証によれば、電気業界において、本件特許発明の出願当時、分圧器と称せられる装置のなかには、引出端子を移動させることによつて、回路の抵抗を変化させる構造のものであつて、引出端子の一方の抵抗が零となりうるものが存したことが認められる。右の諸点からみるとき、本件特許発明の特許請求の範囲において、別紙図面(一)記載の引出端子3および抵抗R5、R4の回路の構成を表現するにつき、分圧器なる用語を用いたのは、端子の引出部分3の両側に抵抗が存することを必須の要件としたのではなく、その一方の側にある抵抗R3の抵抗値は零となる構造の回路をも含む趣旨であることが明らかである。被告は、この点につき、右のように解することは、(1)電気業界において用いられる分圧器なる用語の概念に反する。(2)本件特許発明の特許出願手続における手続補正書提出前の明細書には、抵抗R3の抵抗値を零とする場合が含まれると解しうる記載は全くない。 (3)本件特許発明の特許出願手続中にされた特許異議申立についての決定の理由において、特許庁審査官は、本件特許発明はR3の抵抗値が零の場合をその技術的範囲に含まない旨を述べていると主張する。しかし右(1)の点については、電気業界において分圧器と称せられる装置のなかには、端子の引出部分の一方の抵抗値が零となる構造のものの存することは前示認定のとおりであるから、これを肯認することはできない。なるほど、前掲甲第七号証において示される分圧器は、その引出端子が摺動可能であるから、たとえ同端子が抵抗値零の点に接続されたとしても、さらに任意な他の抵抗値を選択する可能性が残つているのに対し、本件特許回路においては、装置完成後は引出端子が固定されてしまうのであるから、端子を引き出す点の片側のみにしか抵抗をもたない装置は分圧器とは言いえないとも考えられるが、証人【A】の証言により真正に成立したと認められる甲第五号証によれば、本件特許発明における分圧器なる用語は、別紙図面(一)のR3抵抗値を適宜選択するための過程に着目し、かゝる操作を表現したものであることが認められるから、本件では、その最終的な形態において、別紙図面(一)の抵抗R3、R4が固定抵抗であるからといつて、右分圧器なる用語の解釈に影響をおよぼすものではない。被告は、このような解釈は、作用のみを記載した発明と同様、特許されえないものであると主張するが、本件においては、右の表現は作用を記載したものではなく、発明の構成を明らかにするための手段として分圧器なる用語が用いられているにすぎず、被告の右主張は相当でない。右(2)の点については、なるほど成立に争いのない乙第三号証の一、二によれば、本件特許発明の特許出願手続において、手続補正書提出前の明細書には、別紙図面(一)における抵抗R3の値が零となる場合もある旨の記載はなく、また、分圧器なる用語も使用されていないことが認められる。しかしながら、右乙第三号証の一、二によれば、右補正前の明細書における抵抗R3に関する説明には、例えば、「分圧用引出端子3を有する直列抵抗R3、R4を、高照度域で光値LVに略正比例する電流を与える一つの光導電体Rの両端子間に並列に接ぐ……」とか「分圧用引出端子を有する直列抵抗」の記載のあることが認められる一方、いずれの説明にも、直列抵抗のいかなる部分に引出端子を設けるか、抵抗R3の値が零となる場合があるか否かについては明らかにされていない。ところが、右明細書には、「そこで今、本発明の回路を示す第4図中のCdSR1を第6図中の線Pに近い特性のものに選び、又R2を同図中の線qに近いものに選び、更に残りの抵抗R3、R4、R5には、一例として上に掲げた抵抗値表中の第4図の当該欄記載の数値のものを用いてみることにする。すると、第4図に示す高照度担当のCdSR1の抵抗値と、抵抗R3の抵抗値との和即ちR1+R3=R’1とすると、R’1は光値LV=16、……に対し、それぞれR’1=6、……KΩと変化する。」との記載部分がある。右記載部分において光値の変化にしたがつてR’1が変化するのはCdSR1の抵抗値が変化ることによることが明らかであつて、R3自体の抵抗値は変化するものではない。したがつて、右部分のR1+R3なる抵抗のうち、R1はその説明に不可欠の部分であるが、R3はいわばR1の付加的な抵抗とみることができ、これに零の値を入れても右説明を無意味にするものではないから、被告主張のごとく、これをもつて、R3の抵抗値が零であることが本件特許発明の技術的範囲に属さないとする根拠となしえないのみならず、むしろ右のように付加的な抵抗として表わされているR3は、これを絶対に必要とするとの記載のない限り、その抵抗値を零とする場合もありうるであろうことは充分に推認することができる。被告は、右R1+R3=R’1なる式は誤りであつて、R1(R3+R4)/R1+R3+R4=R’1となるべきであると主張するが、被告主張にかかる右式は、抵抗R3、R4を直列接続としこれらと抵抗R1とを並列に接続した場合の並列回路の抵抗値を表わしたものである。しかしながら、前掲乙第三号証の一、二、(手続補正書提出前の本件特許発明の明細書および図面)および同甲第一号証(本件特許発明の特許公報)によれば、本件特許発明においては、その出願当初より、右回路部分は、抵抗R1、R3、R4を用いる場合、抵抗R1、R3の直列接続部分と抵抗R4とを並列に接続する並列回路となるものとして示されており、被告主張のように、抵抗R1と抵抗R3、R4の直列接続部分とを並列に接続した回路ではないことが認められる。したがつて、この並列回路の抵抗値は、被告主張のようにR1(R3+R4)/R1+R3+R4となるものではなく、R4(R1+R3)/R1+R3+R4とならなければならないものであることは、抵抗値の計算上明らかである。ところで、この式において、抵抗R3は零の値をとりうるけれども、抵抗R4の値は、右回路が並列回路とならなければならない本件特許発明においては、零となりえないものであることは、右式自体に徴しても明らかである。そして、この場合、抵抗R3が右回路において抵抗R1の付加的な抵抗とみうることについては、抵抗R1、R3の部分についての前示説明にそのままよることができる。したがつて、本件特許発明の特許出願手続における手続補正書において、抵抗R3の値が零となる場合を挙げたことは、補正前の明細書の不明確であつた部分を明確にしたものにすぎず、右の点に関しては、補正前の明細書をもつて、本件特許発明の技術的範囲を定める根拠とすることはできない。さらに、右(3)の点については、なるほど成立に争いのない乙第七号証によれば、本件特許発明についての特許異議申立に対する決定の理由において、特許庁審査官は、本件特許発明の特許公報におけるR3の抵抗値が零となりうるとの発明の詳細な説明中の記載と特許請求の範囲の中の分圧器の記載とは不一致である旨を述べているが、前示認定の事実および判断からも明らかなとおり、分圧器なる用語の使用が、本件においては、抵抗R3の値が零となる旨の記載と必ずしも内容において齟齬を来たすものでないのみならず、特許異議の決定の理由中の判断が直ちに当該特許発明の技術的範囲の解釈を拘束するものでもないから、被告の右主張も、 これを採用することはできない。 二 本件特許回路と被告回路との比較 被告が、その製造にかゝる写真機にヤシカJ―7なる商品名を付し、昭和四一年二月一日から昭和四三年七月三一日までの間に三八、五〇〇台を販売したこと、同写真機に露光計が組み込まれていること、右露光計の電気的等価回路が別紙図面(二)記載のとおりであることおよび本件特許回路と右被告回路の構成のうち、相違点としては、(1)被告回路には、別紙図面(二)記載の抵抗R1およびR2と並列に抵抗Rxが接続されているが、本件特許回路には、抵抗Rxに相当するものは存在しないことと、(2)被告回路では、抵抗R1に並列にR4を接続しているが、本件特許回路では、R1の両端子間に抵抗R3とR4を並列に接続していることとの二点があり、その他は同一の構成であることは、当事者間に争いがない。 そこで、被告回路が、その本件特許回路と構成上相違する点を考慮しても、本件特許発明の技術的範囲に属するか否かについて判断する。先ず右(1)の点についてみるに、証人【A】の証言により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一、二、同第五号証および同第六号証によれば、別紙図面(二)記載の回路のうち抵抗R4、R5電源2および計器1を除く部分は、被告が実際に写真機ヤシカJ―7に組み込んでいる別紙図面(三)記載の複合光導電体素子を、その電極E1E0間の光導電体の抵抗をR1とし、電極E0E2間の光導電体の抵抗をR2とし電極E1E2間の光導電体の抵抗をRxとして、電気的に等価な回路として示したものであつて、右図面(三)の複合光導電体素子では、電極E0の切欠部Gが極めて小さく、電極E1E2間の抵抗値は、このGの部分における僅かな量の光導電体で定まるので、非常に高いことが認められる。したがつて、図面(三)の電極E1E2間の光導電体抵抗を等価的に図示している図面(二)のRxの抵抗値も非常に高いものと解すべきことは明らかであり、これを図面(二)における露光計回路全体としてみるとき、Rxの存在は殆ど影響をもたないものということができる。右のとおりである以上、被告回路におけるRxの存在は、単に付加的回路ということができ、右Rxの存在は、被告回路が本件特許発明の技術的範囲に属するか否かの判断に影響を及ぼさないものといつて妨げがない。次に、右(2)の点については、既に本件特許発明の技術的範囲についての判断において説明したごとく、本件特許発明は、別紙図面(一)において、R3の抵抗値が零の場合をもその技術的範囲に含むところ、右図面(一)において、R3の抵抗値を零とした場合は、抵抗R1に並列に抵抗R4を接続した回路となつて、まさに、被告回路と同一の構成となる。 以上のとおり、別紙図面(二)記載の被告回路は、別紙図面(一)記載の本件特許回路と、対比するに、右(1)の点では、抵抗Rxは単に被告回路における付加的構成部分であり、この点における相違をもつて、被告回路が本件特許発明の技術的範囲に属さないものとすることはできず、また、右(2)の点についての被告回路の構成は、まさに本件特許発明の技術的範囲に属するものであり、その他の構成部分については、両者とも全く同一であるから、被告回路は、本件特許発明の技術的範囲に属するものといわなければならない。 三 損害賠償額についての判断 以上のとおり、被告回路は、本件特許発明の技術的範囲に属するから、被告が別紙図面(二)記載の回路を有する露光計を製造、販売することは、本件特許権を侵害することになる。ところで、被告が右露光計を組み込んで製造、販売している写真機ヤシカJ―7の税引卸売価格が、一台当り金一七、六五三円であることは、当事者間に争いがない。ところで、原告は、別紙図面(二)に記載の回路を有する露光計を組み込んだ写真機の製造および販売について、通常受けるべき実施料は、右写真機の卸売価格の三パーセントである旨主張し、被告はこれを争うので、この点につき判断する。 成立に争いのない甲第三号証および証人【B】、同【A】、同【C】の各証言を総合すると、被告が製造、販売する写真機ヤシカJ―7においては、別紙図面(二)記載の回路を有する露光計は、右写真機の機体内に組み込まれており、これを撮影位置から被写体に向け、撮影者が任意のシヤツター速度を選定すると、シヤツター軸に付いているカム板と連動杆によつて露光計の絞り目盛板が回転し、一方、露光計に与えられた光値は、その値に応じて光導電体の抵抗値を変化させ、これが電流の変化となつて、右絞り目盛板上の指針を振れさせる。撮影者は、その指示値を読んで、レンズの絞りリングを調整する構造となつていることが明らかである。右事実からみれば、これを連動式あるいは共用式その他いかなる名称で呼ぶかはさておき、右露光計は、写真機の不可欠な構成要素たるシヤツター機構と密接に関連しており、機構的にも、写真機の他の部分と無関係な独立した存在とみることはできない。また、証人【B】および同【A】の証言によれば、被告が製造するヤシカJ―7が販売された昭和四一年頃からは、携帯用写真機において露光計を組み込まない機種は、市場性を有しなくなり、商品としての価値を失うにいたつたとさえいつてさしつかえないことが認められ、右ヤシカJ―7を商品としての面からみても、それに内蔵される露光計は、右写真機の機構全体の中において不可分な構成部分であるということができる。右のとおり、被告が製造、販売するヤシカJ―7において、別紙図面(二)記載の回路を有する露光計は、機構上も、商品価値の構成上も、写真機全体と密接に結合した関係にあるので、本件露光計についての特許権の実施料額の算出にあたつては、右露光計のみの価格を基準とすべきものでなく、写真機全体の価格にもとづいて、これを算定するのが相当であるというべきである。ところで、成立に争いのない甲第八号証によれば、国が普通財産として有する特許権の実施料の算出基準は、その実施価値(これは、発明の技術的価値、経済的価値、社会的貢献度、その特許発明にかかる製品の需要量および価値などの諸要素にもとづき、総合的に判断して決せられる。)が上の場合は、販売価格の四パーセント、中の場合には三パーセント、下の場合が二パーセントであつて、実施価値上とする場合の率が最も多く用いられていることおよび国有特許の実施契約においてされる実施料率の算定は、国有特許の特殊性にかんがみ、実際民間で行なわれているものより若干低い率でされているのが通例であることが認められる。してみれば、他に実施料の算定について採用できる証拠もなく、また、全立証によつても、 本件特許発明の実施価値が特に低いとも認めるべき資料のない本件においては、右基準にしたがいその率は、写真機の販売価格の四パーセントとするのが相当である。ところで、前掲甲第八号証によれば、国の有する特許権の実施料の算定においても、右の基準とすべき率に、当該特許発明が製品に占める割合、即ち利用率を考量すべきものとされていることが認められ、いまこれを本件についてみるに、証人【B】の証言によれば、次の事実が認められる。すなわち、写真機は、機構上はレンズ、シヤツター、ボデーの三部分に分かれ、露光計は、そのうちのシヤツター部分に属するものであるところ、撮影にあたつては、ピントを合わせ、構図をとり、 露出を合わせる操作を行うのであるが、露光計は、その露出決定にあたり、その役割を果たすものとして同操作上、最も重要な要素であり、被告製品ヤシカJ―7においては、露光計は、同写真機の販売の成果にかかる不可欠な要素であり、その存在価格は製品全体に及ぶものである。以上認定の諸事実をあわせ考えると、右写真機ヤシカにおける本件特許発明の利用率は、前示基準とすべき率の四〇パーセントとみるのが相当であつて、本件特許発明の実施料率は、本件においては、結局、右写真機の税引卸売価格について、前示四パーセントに四〇パーセントを乗じた一・六パーセントとなる。したがつて、被告が、製造、販売するヤシカJ―7に組み込まれた別紙図面(二)記載の回路を有する露光計についての実施料は、前記税引卸売価格金一七、六五三円の一・六パーセントである金二八二円四四銭となり、前叙のとおり、被告が昭和四一年二月一日から昭和四三年七月三一日までの間に、右写真機ヤシカJ―7を三八、五〇〇台販売したことは当事者間に争いがないのでこれに組み込まれた露光計についての実施料は、合計金一〇、八七三、九四〇円となる。してみれば被告の、本件特許権の侵害につき、被告に過失がなかつたことについて何ら主張立証のない本件においては、その侵害につき被告に過失があつたものと推定されるから、被告は、原告に対し、右被告回路の使用により原告が通常受けるべき実施料相当額の金一〇、八七三、九四〇円の支払義務がある。 四 結論 以上のとおり、原告の本訴請求は、被告に対し、金一〇、八七三、九四〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四四年九月二日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるので、これを認容し、その余は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第89条、第92条、仮執行の宣言につき同法第196条第1項を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 荒木秀一 |
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裁判官 | 高林克己 |
裁判官 | 元木伸 |