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関連ワード 頒布された刊行物 /  発明の詳細な説明 /  発明の要旨認定 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  要旨変更 / 
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事件 昭和 43年 (行ケ) 22号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1972/10/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和四二年一二月一五日、同庁昭和三八年審判第一、八一三号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。
請求の原因
原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり陳述した。
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和三五年八月三〇日、名称を「合成線状ポリアミドの耐熱耐光性の改善方法」とする発明について特許出願をしたところ、昭和三七年八月一一日出願公告があつた。ところが、帝国人造絹糸株式会社および日本レイヨン株式会社からそれぞれ特許異義の申立があつたので、原告は、昭和三八年一月一四日、特許法第64条の規定に基づき願書に添附した明細書を補正したが、同年二月二七日、右補正を却下する旨の決定があり、同時に右特許出願について拒絶査定があつた。そこで、原告は、同年四月三〇日審判の請求をし、同年審判第一、八一三号事件として審理されたが、昭和四二年一二月一五日「本件審判の請求は成り立たない」旨の審決があり、その謄本は昭和四三年一月二〇日原告に送達された。
二 審決理由の要旨(一) 本願発明の要旨は、昭和三五年八月三〇日付手続補正書により訂正された明細書の記載からみて、「合成線状ポリアミドを溶融して紡糸或は成形する際に無機の第一銅塩を添加することを特徴とするポリアミドの耐熱耐光性の改善方法。」にあるものと認める。
(二) 一方、本願出願前頒布された刊行物であるフランス国特許第九〇六、八九三号明細書(以下「引用例」という)には、合成線状ポリアミドに臭化第一銅のような無機の第一銅塩を添加して熱劣化性を改善することについて記載されている。
そこで、本願発明と右引用例の記載事項とを対比すると、両者は、合成線状ポリアミドに無機の第一銅塩を添加して耐熱性を改良する点において一致しており、両者の間に実質的な相違点を見出すことができない。したがつて、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることのできないものである。
(三) 請求人(原告)が本願の出願公告決定の謄本送達後にした昭和三八年一月一四日付補正について、同年二月二七日付でこれを却下した決定は相当である。すなわち、右補正の内容は、前記本願発明の要旨(特許請求の範囲記載のとおり)中、「合成線状ポリアミドを溶融して紡糸或は成形する際に無機の第一銅塩を添加する」とあるのを、「合成線状ポリアミドを溶融して紡糸あるいは成形する際、無機第一銅塩と塩化第一錫、硫酸第一錫、シアン化カリ、ヨウ化カリよりなる非着色性無機環元性物質もしくは二・六ージ第三級ブチル-P-クレゾール、四・四-ジヒドロキシジフエニルシクロヘキサン、二・二-メチレンビス(四-メチル-六-第三級ブチルフエノール)、P-フエニルフエノール、チオ尿素、メルカプトベンツイミダゾールよりなる非汚染性の有機老化防止剤の一種又は二種以上の化合物とを併用添加する」と訂正し、かつ、発明の詳細な説明の項における右訂正に関連する部分をそれぞれ訂正しようとするものであつて、右補正は、要するに、第一銅塩と共に、さらに非着色性無機還元性物質、非汚染性有機老化防止剤の一種または二種以上の化合物を併用添加することを発明の構成要件として付加するものである。
ところで、これら添加剤の機能をみると、非着色性無機還元性物質は、特定成分の結合によつて非着色性作用と耐熱耐光性の改良剤としての相乗作用効果を奉するものであり、また非汚染性有機老化防止剤は、この物質がポリアミドと無機第一銅塩との特定組成物に配合される有機老化防止剤として特に選択されたことにより、無機の第一銅塩の耐熱耐光性効果をより一層大ならしめるものであるから、補正により前記構成要件を付加することは、たとえポリアミドの耐熱耐光性を改良する点においては補正の前後を通じて共通していても、発明の構成要件、および作用効果を異にするものになるから、実質的には別の発明を構成することになるものと認められる。したがつて、右補正は、特許法第64条第2項の準用する同法第126条第2項の規定に違反するものとして、却下すべきものである。
三 本件審決を取り決すべき事由 本件審決は、原告の昭和三八年一月一四日付でした補正(以下「本件補正」という)が適法なものであるにかかわらず、これを却下した同年二月二七日付決定を相当としたため、本願発明の要旨の認定を誤り、ひいてその特許性の判断を誤つた違法がある。
まず、本件補正は、特許請求の範囲減縮にあたるものである。すなわち、本件補正は、「合成線状ポリアミドの耐熱耐光性の改善方法」なる発明について、合成線状ポリアミドを溶融して紡糸あるいは成形する際に、「無機の第一銅塩を添加する」という補正前の構成要件に、さらに「非着色性無機還元性物質もしくは非汚染性の有機老化防止剤を併用添加する」という新たな構成要件を付加するものであるから、形式上特許請求の範囲減縮する場合に該当することが明らかである。
そして、本件補正により新たに併用添加すべきものとされた、塩化第一錫硫酸第一錫、シアン化カリ、ヨウ化カリよりなる無機還元性物質を着色防止のためポリアミドに添加することは、本願出願当時一般に知られていたことであり、また、二・六ージ第三級-ブチル-P-クレゾール、四・四-ジヒドロキシジフエニルシクロヘキサン、二・二-メチレンビス(四-メチル-六-第三級ブチルフエノール)、
P-フエニルフエノール、チオ尿素、メルカプトベンツイミダゾールなどの耐熱耐光性の安定剤をポリアミドに添加することも、本願出願当時周知のことであつた。
本件補正は、合成線状ポリアミドを汚染しないでその耐熱耐光性を改善するという目的を達成するため、無機の第一銅塩に、さらに右のような周知の技術手段であつた無機還元性物質及び有機老化防止剤を併用添加することにより、着色汚染防止の効果と耐熱耐光性改善の効果とをいちだんと向上させたものというべきであるから、補正の前後を通じて、本願発明の目的及び作用効果に差異はなく、技術思想として同一の範疇にあるものであり、したがつて、特許請求の範囲を実質上変更するものでもないというべきである。
しかるに、本件審決は、右の点の判断を誤り、本件補正をもつて特許請求の範囲を実質上変更するものとした補正却下決定を相当として維持したため、結局、適法に補正された本願発明の要旨の認定を誤り、したがつて、引用例との対比による本願発明の特許性の判断を誤つたものであつて、違法である。(もし、本件補正の却下決定が正当とされるときは、原告は、本件審決における本願発明の要旨認定およびこれと引用例との対比における判断の正当性を争うものではない。)
被告の答弁
被告指定代理人は、答弁として次のとおり陳述した。
原告主張の請求原因事実中、本件に関する特許庁における手続の経緯および本件審決理由の要旨が原告主張のとおりであり、また、本件補正が新たな構成要件を付加するもので形式上特許請求の範囲減縮にあたる場合であることは、いずれも認めるが、その余の事実は否認する。
本件補正は、実質上特許請求の範囲変更するものであるから、特許法第64条第2項の準用する同法第126条第2項の規定に違背するものであつて、許されないものである。すなわち、補正前の本願発明の目的は、無機の第一銅塩を添加して、合成線状ポリアミド用の汚染を少なくし、耐熱耐光性を改善することにあるが、これを換言すれば、無機の第一銅塩からなる、合成線状ポリアミドの汚染性の少ない耐熱耐光性改良剤についての発明ということになるものである。一方、本件補正後の特許請求の範囲は、無機の第一銅塩のほか、さらに、非着色性無機還元性物質、非汚染性の有機老化防止剤の一種以上を併用することを構成要件として付加したものであるが、そのうち、非着色性無機還元性物質は、補正前の発明において生ずる欠点としての着色を積極的に防止するために配合するものであつて、着色防止剤としての作用効果を奏するものであり、したがつて、無機の第一銅塩では達成することのできない作用効果を達成するため、これと併用するための着色防止剤、
すなわち、無機の第一銅塩の助剤であるということができる。また、非汚染性の有機老化防止剤は、無機の第一銅塩では達成できないような耐熱耐光性の改善効果、
すなわち、本願発明を工業的に利用するときに必要とされる、もう一段の耐熱耐光性の改善という作用効果を達成するものであるから、これまた、無機の第一銅塩と併用されるための耐熱耐光性の改良剤、すなわち、無機の第一銅塩の助剤というべきものである。したがつて、本件補正後の発明は、合成線状ポリアミドの汚染性と耐熱耐光性とをいつそう改良する目的で、無機の第一銅塩に併用添加すべき助剤についての発明というべきものであり、補正前の発明とは実質的に技術思想を異にする別発明となるものである。なお、原告は、補正によつて併用添加すべきものとされた無機還元性物質及び有機老化防止剤を着色防止及び耐熱耐光性処理のためポリアミドに添加することが本願出願当時周知であつた旨主張するが、メルカプトベンツイミダゾールを安定剤としてポリアミドに添加することが公知であつたことは認めるが、その余はすべて争う。したがつて、本件補正によつて前記構成要件を新たに付加することは、実質上特許請求の範囲変更するものというべく、本件審決のこの点の認定判断は正当であり、本件補正はこれを却下すべきものであつたのであるから、本願発明の要旨の認定およびこれについての引用例との対比における判断に誤りはないものである。
第四証 証拠関係(省略) 理 由(争いのない前提事実)一 本件に関する特許庁における手続の経緯および本件審決理由の要旨が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無)二 原告は、本件補正が実質上特許請求の範囲変更するものではなく、適法なものであるから、これを却下した決定を維持した本件審決は、結局、本願発明の要旨の認定を誤つたものであると主張するが、原告の右主張は理由がない。すなわち、
本件補正前の本願発明の要旨が、明細書の特許請求の範囲記載のとおり、「合成線状ポリアミドを溶融して紡糸或は成形する際に、無機の第一銅塩を添加することを特徴とするポリアミドの耐熱耐光性の改善方法。」にあるところ、本件補正が、右特許請求の範囲の記載を「合成綿状ポリアミドを溶融して紡糸或は成形する際、無機第一銅塩と塩化第一錫、硫酸第一錫、シアン化カリ、ヨウ化カリよりなる非着色性無機還元性物質もしくは二・六ージ第三級ブチル-P-クレゾール、四・四-ジヒドロキシジフエニルシクロヘキサン、二・二-メチレンビス(四-メチル-六-第三級ブチルフエノール)、P-フエニルフエノール、チオ尿素、メルカプトベンツイミダゾールよりなる非汚染性の有機老化防止剤の一種又は二種以上の化合物とを併用添加することを特徴とする合成線状ポリアミドの耐熱耐光性を改善する方法。」と訂正するものであり、要するに、ポリアミドの耐熱耐光性を改善するための方法として、無機の第一銅塩とともに、非着色性無機還元性物質もしくは非汚染性の有機老化防止剤剤の一種または二種以上を併用添加することを構成要件として付加したものであることは、本件弁論の全趣旨に徴し明らかであり、かつ、右補正が、新たな構成要件を付加したものであつて、形式上特許請求の範囲減縮に該るものであることは、当事者間に争いのないところである。
ところで、ある発明に新たな構成要件を付加することにより、形式上特許請求の範囲減縮する場合、右の新たな構成要件の付加が当業者に周知の技術手段でないかぎり、特許請求の範囲を実質上変更するものというべきである。すなわち、周知の技術手段を付加するかぎり、発明はその同一性を失うことなく、特許請求の範囲も実質上変更されることはないが、周知でない新規な技術手段を付加するときは、
構成を異にし、したがつて別個の発明となつてしまうからである。
そして、本件において、原告は、本件補正により新たに併用添加すべきものとされた前記の無機還元性物質及び有機老化防止剤をポリアミドに添加して、着色防止及び耐熱耐光性の改善をはかることは、本願出願前周知の技術手段であつた旨主張する。しかし、本願発明の出願当時、メルカプトベンツイミダゾールを安定剤としてポリアミドに添加することが公知であつたことは当事者間に争いがなく、また、
成立に争いのない甲第一三号証の一ないし三、第一五号証の一、二及び第一七号証によれば、アルカリ金属塩及びハロゲン化物の混合物をポリアミドに添加することにより、耐熱耐光処理をすること、銅化合物とアルカリ金属のハロゲン化物を合成線状ポリアミドに添加して安定化をはかること、ポリアミドの安定剤としてフエノール類を添加すること、以上のような技術手段の記載のある文献が刊行されていたことを認めることはできるが、それ以上に、本件補正により新たに加えられた前記の各無機還元性物質及び有機老化防止剤のすべてについて、これらを着色防止及び耐熱耐光性改善の安定剤として合成線状ポリアミドに添加することが、本願出願当時周知の技術手段であつたとまで認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
したがつて、本件補正により、合成線状ポリアミドに、無機の第一銅塩のほか、
前記の無機還元性物質もしくは有機老化防止剤の一種または二種以上を併用添加することを新たな構成要件として付加することは、特許請求の範囲を実質上変更することになるといわざるをえず、出願公告決定後の補正である本件補正は、特許法第64条第2項の準用する第126条第2項の規定により、許されないものと解すべきである。成立に争いのない甲第二号証によると、本願発明の明細書中の発明の詳細な説明の項には、もともと本件補正により付加された新たな構成要件に該当する技術手段の記載があつたことを認めることはできるが、このことは、出願公告前に本件補正の内容のような補正をしても、それが要旨変更として却下されることはないことを示すにとどまり、右記載のあることを根拠として、出願公告決定後の本件補正の特許請求の範囲を実質上変更することにならないと速断するわけにはいかない。
したがつて、本件補正は、実質上特許請求の範囲変更するものとして、却下すべきものであり、これを却下した決定を維持した本件審決は正当であつて、結局、
本件審決に原告主張のような違法はないといわざるをえない。
(むすび)三 以上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由のないことが明らかである。よつて、これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について行政事件訟訴法第7条、民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 服部高顕
裁判官 石沢健
裁判官 瀧川叡一