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事件 昭和 47年 (行ウ) 141号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1973/06/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
全容
原告訴訟代理人は、「原告が昭和四六年二月三日にした特許第四四三一五七号および特許第四五二六六七号に関する各第七年分特許料および割増特許料ならびに各第八年分、第九年分特許料納付について、被告が昭和四六年一〇月一九日付でした不受理処分を取り消す。」との判決を求め、
その請求の原因として、つぎのとおり述べた。
「一原告は、左記特許権の特許権者である。
(A)特許番号 第四四三一五七号発明の名称 消火器体特許出願日 昭和三七年九月一〇日出願公告日 昭和三九年四月六日特許登録日 昭和四〇年三月二七日(以下「(A)特許権」という。)(B)特許番号 第四五二六六七号発明の名称 消火器体の製造方法特許出願日 昭和三七年九月三日出願公告日 昭和三九年四月六日特許登録日 昭和四〇年八月七日(以下「(B)特許権」という。)。
二 原告は、前記(A)、(B)各特許権について、第一年分ないし第六年分特許料はいずれも納付した。
三 原告は、前記(A)、(B)各特許権について、その各第七年分特許料を不可抗力による障礙により、納付期限である昭和四五年四月六日およびその追納期限である昭和四五年一〇月六日までに特許庁に納付することができなかつたが、不可抗力による障礙消除の日である昭和四六年二月三日から「一週間以内」(民事訴訟法第159条)である昭和四六年二月三日、各第七年分特許料(倍納額)の追加納付手続を第八、九年分特許料納付手続とともにし、かつ、その旨の上申書(「特許料追完上申書」)を被告に対して提出した。
四 原告の右各納付手続に対し、被告は、昭和四六年一〇月一九日付で、「本特許権は第六年分特許料不納により昭和四五年四月六日に権利消滅した。尚本件に対する昭和四六年二月三日提出の上申書は受理できない。」との不受理処分(以下「本件処分」という。)をし、本件処分は同年一〇月二〇日原告代理人に到達した。
五 そこで、原告は、昭和四六年一二月二〇日、被告に対し、行政不服審査法による異議申立てをしたところ、被告は、昭和四七年六月二三日付で右異議申立てを棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をし、本件決定は昭和四七年六月二七日原告代理人に送達された。
六 本件決定の要旨は、(一)「特許法第112条第1項に規定するいわゆる追納期間内に、特許権者がその責に帰し得ない事由により特許料および割増特許料を納付することができなかつた場合に、これを救済する方法について、特許法はなんら明文の規定を置いていない。」というのである。
しかし、右のいわゆる追納期間は、本来の納付期間内に特許権者がその特許料を納付することができなかつた場合にも、それによつてただちに特許権を消滅せしめるという特許権者に酷な結果となることを避け、これを救済するために設けられた期間ではあるが、一方、特許権者の側に特段の事由を要することなく当然に本来の納付期間への追加を認めるものであるから、結果的には、本来の納付期間そのものが六か月延長されたのと同様になるといつても差支えなく、また、特許権者の側からすれば、割増特許料を納付することを条件として、本来の特許料納付期間が六か月延長されるものと観念することは、けだしまた当然のことであるともいいうるのである。そうすると、この追納期間の満了するにあたつて特許権者がその責に帰すべからざる事由により特許料および割増特許料を納付できなかつた場合に、これにより特許権が、自動的に、当然消滅するものとすることは、始めの特許料納付期間の経過により自動的に、当然特許権が消滅するとすることが特許権者に酷であると同様に酷に過ぎ、これを救済する方法が認められなければならないものと思量する。追納期間は、本来の納付期間に納付できなかつた場合の救済規定であるということから、ただちにこの追納期間の徒過についての救済を認めるべき必要性がないということはできないものである。特許法は、この場合の救済方法については「なんら明文の規定を置いていない」ことは右決定のいうとおりであるが、しかし、明文の規定がないということは、必ずしも特許法は当事者の責に帰すべからざる事由による追納期間の追完を否定しているものと断定させるものではない。かかる場合の期間の伸長は、民事訴訟法第159条によつて表現された、期間の伸長に関する一般原則によつて、認容せらるべきものであると信ずる。この点において、明文の規定がないとの理由をもつて、原告の右異議申立てを棄却した本件決定は法律の解釈を誤まつたものである。
七 つぎに本件決定は、(二)「仮に原告の主張する見地にたつて、本件各特許権に関してその責に帰すべからざる事由により第七年分の特許料および割増特許料の納付につき追納期間を懈怠したかどうか検討してみるのに」と前置きして、原告の左記主張事実を掲記し、これに対し、「かかる疎明証拠のみでは、本件特許権者がその責に帰し得ない事由により特許料および割増特許料を納付することができなかつたとは、たやすく措信しがたく、原告の主張は採用することができない。」と説示して原告の右異議申立てを棄却したのであるが、その判断は誤つている。
八 原告の主張する事実とは、左記のとおりであり、また、それが真実であるから、結局、原告は、その責に帰しえない事由により特許料および割増特許料を納付することができなかつたものというべきである。
(一) 昭和四五年九月一〇日、原告代理人は、原告会社に対し、前記(A)、
(B)各特許権について特許出願代理をした関係上、各第七年分追納期間が昭和四五年一〇月六日までであることを念のため通知して置いた。
(二) 前記原告代理人の書面に対し、原告会社は、昭和四五年九月一七日附をもつて特許料および割増特許料の立替納付方を依頼する旨およびその請求書を原告会社に送付されたい旨の書面を発信した。
(三) 原告会社の該書面は、原告代理人事務所に昭和四五年一〇月六日までに到達せず(その後も到達せず)、原告代理人は、原告会社において右第七年分特許料および割増特許料につき自ら納付手続をしたか、または、他の代理人に納付手続を依頼したものと推測して来た。
(四) ところが、昭和四六年二月二日附で原告会社から前掲(A)、(B)各特許権に関する原告代理人の立替特許料および割増特許料についての請求書に関する照会と特許庁からの特許料および割増特許料領収書の着否の照会の書面が原告代理人事務所に昭和四六年二月三日午前、配達された。
(五) 原告代理人は、驚愕し、急拠事実を調査したところ、前記(二)の原告会社の書面は昭和四五年九月一七日確かに投函されたことおよび右書面は原告代理人事務所には、ついに配達されていなかつたことが判明した。
右事実は、郵便事故に基づくものと解するの外なく、不可抗力であり、当事者の責に帰すべからざるものである。
(六) よつて、原告代理人は、障礙(郵便事故による)消除の日である昭和四六年二月三日より「一週間以内」の第一日である同日深更までかかつて同日附をもつて、右各「第七年分特許料および割増特許料」納付の追完手続を、各第八、九年分特許料納付手続とともにし、同時にその旨の上申書を被告特許庁に対して提出した。
九 以上のとおり、被告が昭和四六年一〇月一九日付でした本件処分は違法であるから、その取消しを求める。」 被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁および主張として、つぎのとおり述べた。
「一(一) 請求原因一および二の事実は認める。
(二) 同三のうち、原告が本件特許料および割増特許料追納期間内に不可抗力により納付できなかつたとの事実は否認する。その余の事実は認める。
(三) 同四、五の事実は認める。
(四) 同六の主張は争う。
(五) 同七のうち、原告が本件決定を引用する部分は認めるが、その主張は争う。
(六) 同八の(一)ないし(五)の事実は知らない。八の(六)の事実は認める。
二 特許法(以下単に「法」という。)第112条第1項の期間経過後は、特許料追納は、事由のいかんにかかわらず認められないと解すべきである。その理由は、次のとおりである。
(一) 特許権は、特許料の納付をまつて設定の登録により発生し(法第107条第1項第108条第1項第66条第1項第18条第1項)、発生の後は、原則として、特許料を予納しなければ、それを維持しえない建前になつている(法第108条第2項)。法第112条第1項は、右の原則の例外であり納付期間内に特許料を納付することを怠つた特許権者を一定の追納期間内にかぎり救済しようとするものである。そして、右の追納期間内にも特許料追納がない場合は、その特許権は、自動的に、前記の原則に従つて、本来の納付期間経過の時にさかのぼつて消滅したものとみなされるのである(法第112条第3項)。したがつて、右の追納期間経過後は、特許権が消滅している以上、その特許権についての特許料追納ということを考える余地はないというべきである。
(二) 特許制度は、新しい技術を公開した者に、その代償として一定期間一定の条件の下に特許権という独占的な権利を付与し、他方、第三者に対しては、この公開された発明を利用する機会を与え(特許権の存続中においては権利者の許諾を得ることにより、また、特許権の消滅後においては全く自由に)、右のように独占的な権利を付与された者の利益と、その権利の対象となつている発明を利用する第三者の利便との間に調和を求めつつ技術の進歩を図り産業の発達に寄与することを目的とするのである(法第1条)。ところで、法第112条第1項所定の追納期間内までに特許料を納付しなければ、職権で特許権の消滅の登録がされることになる(法第112条第3項第27条第1項第1号、特許登録令第16条第1号)。消滅の登録がされれば、第三者はその発明を全く自由に利用できるものと信じてこれを利用するであろう。それにもかかわらず、特許権の消滅登録後、特許料追納を認めて特許権を消滅させることなく存続させることは、特許制度についての前記の観点に立つてみれば、特許権者の保護のみに傾き、利用者等の第三者の保護に欠け、不合理な結果を是認することになる。もし、法がこのような取扱いを認めるのであれば、当然特許権消滅後にその発明を利用した第三者の利益を保護するための法第一七五、第176条のような規定をおいたはずである。ところが、法がこのような規定をおいていないのは、法第112条第1項に規定する追納期間経過後は特許料追納は事由のいかんを問わず認めない趣旨であると推察されるのである。
(三) ある法定期間が不変期間である場合は、法はその旨明記しているのが通常である(たとえば、民事訴訟法第366条第2項第415条第2項等)。ところが、特許法は、いうまでもなく、特許料追納期間が不変期間である旨の規定は、
おいていないのである。そして、右の追納期間の制度は、本来の納付期間に特許料納付を懈怠した特許権者を救済しようとするものであることをも考えると、民事訴訟法第159条の1週間の追完期間はいかなる事由があつてもさらに追完することができないのと同様に、右の特許料追納期間を不変期間のように解して期間の追完を認め、特許料追納を懈怠した特許権者をさらに救済することはできないと解さざるをえない。
(四) さらに、民事訴訟法第159条によれば、当事者の責に帰すことのできない事由が持続するかぎりはいつまでも追完できる状態が続くことになるから、仮に、右規定を準用するとすれば、特許料が法定の期間内に納付されないにもかかわらず、特許権の消滅がいつまでも確定しない場合も考えられなくもなく、特許権に関する法的安定性を害し、ひいては、発明者の保護と発明を利用しようとする第三者等の利益との調和の上に成り立つている特許制度の趣旨に反する不合理な結果を招くことになる。
三 仮に、特許法第112条第1項所定の期間経過後も、民事訴訟法第159条の規定を準用して、特許料追納ができると解したうえで、なお、原告の主張の事実が真実であるとしても、それをもつて原告に「責ニ帰スヘカラサル事由」があつたということはできない。
けだし、「責ニ帰スヘカラサル事由」とは、いかにゆるやかに解しても、その者が通常人としての十分な注意を尽しても避けることのできない事由をいうと解されるのであるが、原告は、本件特許料の納付に際して、右の程度の注意さえ尽していなかつたことは次に述べるとおり明らかである。すなわち、
(一) 原告代理人に対する追納の依頼において、@決裁を得ながら決裁文書を残していない、
A依頼状と控に契印をとつていない、B控は原告が通常行なつているという事務担当者の捺印後の複写として保管していない、C発信簿に発信の事実を記帳していない、D依頼状を書留・配達証明によるなどとして送付することなく、普通郵便で送付したなど依頼した事実を明確にしておくべき手段を十分といつていない。
(二) また、右依頼状送付後、原告代理人からなんらの応答がないにもかかわらず、電話連絡するなどによつて、依頼状が送付されているかどうかおよび追納手続をしたかどうかを確認する措置を構ぜず、五か月もの間無為に放置している。」立証(省略) 理 由一 原告が(A)、(B)各特許権の第七年分の特許料を、その納付期限である昭和四五年四月六日およびその追納期限である昭和四五年一〇月六日までに特許庁に納付しなつたこと、原告が昭和四六年二月三日に右(A)、(B)各特許権の第七年分の特許料追納手続を、第八、九年分特許料納付手続とともにしたところ、被告はこれに対し昭和四六年一〇月一九日付で本件処分(本件処分の理由中、本件特許権は「第六年分特許料不納により」昭和四五年四月六日に権利消滅したとあるのは、「第七年分特許料不納により」の誤記と認められる。)をしたことについては当事者間に争いがない。
原告は、原告の責に帰すべからさる事由により特許料追納期間(特許法第112条第1項)を遵守することができなかつたときは、その期間経過後であつても、
特許料追納は許さるべきものであると主張し、被告は、右追納期限徒過の事由が特許権者の責に帰すべきものであるか否かは特許法第112条第3項の趣旨からいつて問題とならず、同項の規定により、特許権は始めの納付期間の経過の時にさかのぼつて消滅したものとみなされると争うので、この点について判断する。
特許法第108条第2項は、特許権者の第四年以後の各年分の特許料は原則として、出願公告の日から(同法第107条参照)各前年以前に納付しなければならない旨を規定し、同法第112条第1項は、特許権者が右期間内に特許料を納付することができないときは、その期間経過後六月以内にその特許料追納することができる旨を規定する。すなわち、第四年以後の各年分の特許料の本来の納付期限は、
原則として、各年の出願公告応答日であるが、この納付期限は、それまでに特許料を納付することができなかつた者に対しては、その他になんらの理由の存在も要することなく六ヶ月延長されるのである。ただその場合には、特許権者は、各年分の特許料のほかに、それと同額の割増特許料を納付することを要するのである(同法第112条第2項)。右のいわゆる追納期間は、被告主張のように、本来の納付期間内に特許権者がその特許料を納付することができなかつた場合にも、それによつてただちに特許権を消滅せしめるという特許権者に酷な結果となることを避け、これを救済するために設けらた期間であると解すべきものではあるが、一方、特許権者の側に特段の事由を要することなく当然に本来の納付期間への追加を認めるものであるから、結果的には、本来の納付期間そのものが六か月延長されたのと同様になるものと考えても差支えなく、また、特許権者の側からすれば、割増特許料を納付することを条件として、本来の特許料納付期間が六か月延長されるものと観念することは、けだしまた当然のことであるといいうるのである。そうすると、この追納期間の満了するにあたつて特許権者がその責に帰すべからざる事由により特許料および割増特許料を納付できなかつた場合に、これにより特許権が当然消滅するものとすることは、始めの特許料納付期間の経過により当然に特許権が消滅するとすることが特許権者に酷であると同様に酷にすぎ、これを救済する方法が認められなければならいものと考えられる。追納期間は、本来の納付期間に納付できなかつた場合の救済規定であるということから、ただちにこの追納期間の徒過についての救済を認めるべき必要性がないということはできない。特許法は、この場合の救済方法についてはなんらの明文の規定をもおいていない。しかし、明文の規定がないということは、かならずしも特許法は当事者の責に帰すべからざる事由による追納期間の追完を否定しているものと断定させるものではない。当裁判所は、かかる場合の期間の伸長は、民事訴訟法第159条によつて表現された、期間の伸長に関する一般原則によつて、許されるものと考える。この場合、追完が許されるべき期間がどれほどかについては、明文の規定がないので困難な問題であるが、やはり前記民訴法の規定が一応の基準とさるべきものと考える。
二 被告は、追納期間内に特許料が納付されなければ、被告が職権で消滅の登録をすることになるが、特許権の消滅登録後も特許権者にその責に帰すべからざる事由による特許料追納を認めて特許権を存続させることを認めると、この場合には特許法第175条第176条のような規定がないから、その登録を信じてその特許発明を利用した者は保護されないことになるという理由で、同法第112条第1項に規定する追納期間経過後は特許料追納は事由のいかんを問わず認められない旨の主張をする。
しかしながら、上来説明してきたところによると、追納期間の満了するにあたつて特許権者がその責に帰すべからざる事由により特許料および割増特許料を納付することができなかつた場合には、その事由が止んだ後一定の期間は納付の追完が許され、したがつて、その時までは特許法第112条第3項でいう特許権が本来の特許料の納付期限の時にさかのぼつて消滅したものとみなされる効果は発生しないのであるから、仮に特許庁長官が職権で特許権消滅の登録をしたとしても、その登録は実体を伴わないものであり、この点において被告が挙示する特許無効の審決ならびにそれに対する再審の審決等の登録の場合などと異なるところがあるのみならず、追納追完が許される場合においては、特許法第175条第176条のような規定はないけれども、その規定がないことによつてかならずしも第三者が保護されえないということはできない。けだし、特許料追納の期間が経過すれば、被告においてただちに特許権消滅の登録をするということは通常の場合は期待できず(本件でも特許権消滅の登録をしたとのことは被告において主張立証しないところである。)、また、消滅の登録がされたとしても、この特許権消滅の事実は別に公告されるわけでもないから、特許の無効の審決(この場合は、原則として、公開の口頭審理による審判手続においてされるべきものとなつているから、第三者も特許の無効の審決があつたことを容易に知りうる。)におけると異なり、第三者は特許権消滅の登録がなされたことを知りうる機会がきわめて少ないものと考えられ、したがつて、第三者が、特許権が消滅したことを知つてその特許発明実施する場合は稀有であるのみならず、仮に特許権消滅の登録の存在を知つてその特許発明の利用をしたとしても、責に帰すべからざる事由の存在によつて特許権が消滅しないで存続するものとせられた特許権者からする故意過失による特許権侵害の損害賠償責任の追求は、これを免れうるものと考えられるからである。被告の立論は、特許権消滅の登録がされれば、第三者はただちにその特許発明実施をするということを根拠とするものであつて、その根拠は事実からははなはだ遠いものといわなければならない。
なお、被告は、民事訴訟法第159条を準用すれば、特許権の消滅がいつまでも確定しない場合も考えられなくはなく、特許権に関する法的安定性を害するというが、当事者の責に帰すことのできない事由が持続するかぎりは、特許権は消滅しないのであるから、法的安定性を害するというようなことはない。このことは特許の無効の審決に対して取消の訴が提訴された場合のことを考えれば容易に理解できよう。すなわち、特許の無効の審決は、これが確定しなければ特許は無効とならないのであつて、無効の審決がされてからそれが確定するまでの間が長いからといつて、それが法的安定性を害するということはいえないからである。
三 そこで、次に、原告がその責に帰すべからざる事由により特許料追納期間を遵守することができなかつたかどうかについて考える。
証人【A】の証言により真正に成立したものであることを認めうる甲第八号証の二、同第一一号証に証人【A】の証言を総合すると、原告代理人【A】は、
(A)、(B)各特許権について特許出願代理をした関係上、原告会社に対し、昭和四五年九月一〇日に、右各特許権の第七年分の特許料追納期間が昭和四五年一〇月六日までであること、もしその納付手続がすんでおらず、また自分に納付方を依頼するのであれば至急その旨申し越すべき旨の手紙を原告会社経理課に宛てて発送し、右手紙はその頃原告会社に到達したことを認めることができる。原告は、右原告代理人の手紙に対し、昭和四五年九月一七日附で、同人に対し、特許料および割増特許料の立替納付方を依頼する旨およびその請求書を原告会社に送付されたい旨の書面を発信したと主張し、その立証として、その旨を記載した書面であるとして甲第六号証を提出する。また、証人【B】、同【C】は右原告主張事実に沿うような供述をしているが、右の書証の存在および証人の証言のみによつては、いまだ右原告主張事実を認めしめるに足りず、他に右原告主張の趣旨を記載した書面を原告が原告代理人に宛てて発送したことを認めうるに足りる証拠はない。すなわち、
前掲甲第六号証は、前掲証人らの証言によれば、昭和四五年九月一七日に原告会社生産技術課員【C】が、原告代理人に宛てて発送したという書面を複写したもので、生産技術課の保管文書中に綴り込んであつたものであるというのであるが、右書面には、それにより発送した文書の複写であることを示すのを通常とする発送文書との間の契印もなく、かつ、右証人らの証言によれば原告会社は従業員四〇〇名くらいの会社であり、その中に文書の発受信を扱う総務課があることが認められるにもかかわらず、同証人らは、原告主張の書面をその総務課も通さず、前記生産技術課員【C】が作成し、しかも、これを発送した旨を発信簿等に記載するなど、発信したことを証するものをなんら残すことなく、同人自らその作成の日の夕方投函して発送した旨を供述するにとどまり、甲第六号証の存在のほかには、同証人らの証言のうち、原告主張の文書を発送したとの供述部分を裏付けるものはないから、
甲第六号証の存在自体では、これと同文の文書が原告代理人宛に発送されたとの証拠にはなりえず、したがつて、右証人らの右供述部分も結局はそれだけでは措信しえないというのほかはない。
四 以上のとおり、責に帰すべからざる事由によつて特許料追納期間を遵守することができなかつたとの原告の主張事実はこれを認めるに足りる証拠がないから、
結局、本件各特許権は第七年分の特許料の納付期限である昭和四五年四月六日に遡つて消滅したものとみなされるとしてされた本件処分は正当である。
五 よつて、本件処分が違法であることを前提としてその取消を求める原告の請求は、理由がないから、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 三宅正雄
裁判官 中川哲男
裁判官 武居二郎
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