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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 16年 (ワ) 10402号 特許権侵害差止等請求事件
原告 フオレシアシエージ ドトモビル
訴訟代理人弁護士 中島和雄
補佐人弁理士 志賀正武
同 渡邊隆
被告 シロキ工業株式会社
訴訟代理人弁護士 関根修一
同 田中成志
同 長尾二郎
同 平出貴和
同 板井典子
同 山田 徹
補佐人弁理士 井島藤治
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/03/31
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
1 被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,販売し若しくは販売の申し出をしてはならない。
2 被告は,その占有にかかる前項記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,1億800万円及びこれに対する平成16年5月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 請求の要旨 原告は,後記の車両シート用関節装置の発明に係る特許権を有する者であり,被告は,自動車部品及びその他の輸送用機械器具部品の製造並びに販売等を業とする会社である。本件において,原告は,被告の製造販売に係る車両シート用リクライニング機構は,上記特許権の技術的範囲に属すると主張して,同特許権に基づいて,被告に対して,同製品の製造販売等の差止め及び損害賠償を求めている事案である。
2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定される事実。証拠により認定した事実については,該当箇所末尾に証拠を掲げた。) (1) 当事者 ア 原告は,フランス法により設立された会社である。
イ 被告は,自動車部品及びその他の輸送用機械器具部品の製造並びに販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告の有する特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している(甲1,2)。
ア 特許番号 第3343039号 イ 登録日 平成14年8月23日 ウ 出願番号 特願平8-285461 エ 出願日 平成8年10月28日 オ 優先権主張番号 9512723 カ 優先日 平成7年10月27日 キ 優先権主張国 フランス ク 発明の名称 車両シート用関節装置 (3) 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報〔甲1。以下「本件公報」という。〕参照。)の「特許請求の範囲」における請求項1の記載は,次のとおりである(以下,同請求項に係る発明を「本件特許発明」という。)。
「シートの背もたれの傾斜角をその座部に関して水平軸Xの周りに調節できる車両シート用関節装置であって: それぞれ,このシートの座部におよびこのシートの背もたれに固定することを意図し,互いに関してこの軸Xの周りに旋回できるように取付けられて,閉じた箱を形成する第1チーク(1)および第2チーク(2)で,この第2チークがこの軸X上に中心を置く少なくとも一つの円弧上に拡がり且つ半径方向に内方に向いた歯部(3)に固定されているチーク, この箱の内側にあって,この第2チークの歯部と相互作用できる外歯部(6)を備える少なくとも一つのホロワー(5)で,このホロワーが半径方向に滑動するとき,この第1チークに固定された案内(7)によって,このホロワーが第2チークの歯部と相互作用し,それによってこの関節装置を封鎖するロック位置と,それが第2チークの歯部から離脱する非ロック位置との間を案内されるホロワー, この箱の内側にあって,このホロワーの半径方向の滑動を制御するために軸X周りに回転できるように取付けられたカム(8)で,このカムが弾性手段(9)によってこのホロワーをそのロック位置へ押戻す休止角度位置の方へ押付けられているカム,およびこのシートに座っている人が,このカムをその休止位置からこのホロワーをその離脱位置へ滑動できるようにする作動位置へ移行するために,アクセスできる制御部材(11), を含み,この関節装置が更に,一方では,各ホロワーから軸方向に突出するペグ(12)を,他方では,この背もたれのチークに結合され,この背もたれの角度位置の所定の範囲に亘ってホロワー(5)を離脱位置に確実に保持するようにペグ(12)と相互作用できる段付き円形軌道(P)を含む関節装置に於いて,それが,一方では,各ホロワーから軸方向に突出する第2ペグ(13)を,他方では,カム(8)に固定されていて,各々上記第2ペグの一つと相互作用してその軸Xの方への移行を確実に制御し,それをこの関節装置のロック解除に対応するカムの位置に対して離脱位置に保持することができる開口部(15)が明いている薄板(14)を含み,上記板が,各ホロワーの二つのペグ(12および13)の間に,ホロワーの半径方向の往復運動を可能にするに十分狭い部分(16a)を備えた,曲がった架橋片(16)を含むことを特徴とする関節装置」 (4) 本件特許発明構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件A」のように表記する。)。
A シートの背もたれの傾斜角をその座部に関して水平軸Xの周りに調節できる車両シート用関節装置であって: B それぞれ,このシートの座部におよびこのシートの背もたれに固定することを意図し,互いに関してこの軸Xの周りに旋回できるように取付けられて,閉じた箱を形成する第1チーク(1)および第2チーク(2)で,この第2チークがこの軸X上に中心を置く少なくとも一つの円弧上に拡がり且つ半径方向に内方に向いた歯部(3)に固定されているチーク, C この箱の内側にあって,この第2チークの歯部と相互作用できる外歯部(6)を備える少なくとも一つのホロワー(5)で,このホロワーが半径方向に滑動するとき,この第1チークに固定された案内(7)によって,このホロワーが第2チークの歯部と相互作用し,それによってこの関節装置を封鎖するロック位置と,それが第2チークの歯部から離脱する非ロック位置との間を案内されるホロワー, D この箱の内側にあって,このホロワーの半径方向の滑動を制御するために軸X周りに回転できるように取付けられたカム(8)で,このカムが弾性手段(9)によってこのホロワーをそのロック位置へ押戻す休止角度位置の方へ押付けられているカム,およびこのシートに座っている人が,このカムをその休止位置からこのホロワーをその離脱位置へ滑動できるようにする作動位置へ移行するために,アクセスできる制御部材(11),を含み, E この関節装置が更に,一方では,各ホロワーから軸方向に突出するペグ(12)を,他方では,この背もたれのチークに結合され,この背もたれの角度位置の所定の範囲に亘ってホロワー(5)を離脱位置に確実に保持するようにペグ(12)と相互作用できる段付き円形軌道(P)を含む関節装置に於いて, F それが,一方では,各ホロワーから軸方向に突出する第2ペグ(13)を,他方では,カム(8)に固定されていて,各々上記第2ペグの一つと相互作用してその軸Xの方への移行を確実に制御し,それをこの関節装置のロック解除に対応するカムの位置に対して離脱位置に保持することができる開口部(15)が明いている薄板(14)を含み, G 上記板が,各ホロワーの二つのペグ(12および13)の間に,ホロワーの半径方向の往復運動を可能にするに十分狭い部分(16a)を備えた,曲がった架橋片(16)を含む H ことを特徴とする関節装置 (5) 被告の行為 被告は,別紙物件目録記載の製品番号を付した車両シート用リクライニング機構22種類を製造・販売している(これら各製品は,右側シート,左側シートの別,トッピングの間隙幅の大小など,細部には相違点が見られるが,いずれも同一の構造を有する。以下,これらの製品を総称して,「被告製品」という。なお,同目録添付の図1ないし図8が,被告製品の構成を示すものであることについて,当事者間に争いがない。また,被告製品の具体的構成に係る主張については,後記第3,1に記載のとおり,一部争いがある。)。
3 争点 (1) 被告製品の具体的構成(争点1) (2) 被告製品の構成要件充足性(争点2) (3) 本件特許発明には無効理由があることが明らかであり,本件特許権に基づく原告の差止め及び損害賠償の請求は権利の濫用に当たるか(争点3) (4) 原告の損害額(争点4)
争点に関する当事者の主張
1 争点1-被告製品の具体的構成について (原告の主張) (1) 被告が製造・販売する被告製品の具体的な構成は,別紙「原告物件説明書」記載のとおりである。なお,被告製品の具体的構成に関する被告の主張は,別紙「被告物件説明書」記載のとおりである。被告製品の具体的構成については,当事者間に一部争いがあるが,符号については,同一の部材には同一の符号が用いられているので,以下の符号は,特に断らない限り,上記各別紙記載の符号を示すものとする。
(2)ア 別紙原告物件説明書記載のうち,aないしd,e(3),f(1)ないし(4)及びhの各記載については,当事者間に争いがない。
また,同f(5)のうち,「上記長穴状のカム穴は,溝幅が略均一でかつ全体の平面形状が円弧状をしており,カム穴の一端側は水平軸に近づき他端側は水平軸から離れるように渦状に配置されている。レリーズプレートがどのような角度位置にあっても,ポールの第2の突起の半径方向の移動は,このカム穴の存在によって,最大でも,このカム穴の上記略均一な半径方向の溝幅である小範囲内に規制されることになる。リクライニング機構のロック状態からロック解除方向にレリーズプレートを回転させると,このカム穴の外周側の円弧状内壁面とポールの第2の突起との摺動により,第2の突起及びポールは,緩やかにロック解除方向に退避するようになっている。」という部分も,当事者間に争いがない。
イ 被告が主張する被告製品の具体的な構成については,次のとおり不適切な記載がみられる。
(ア) 被告製品の構成e’(1)の記載について 被告製品は,別紙物件目録添付の図4からも明らかなとおり,ラチェット内歯部内側には円形軌道が形成されている。トッピングは,その円形軌道の内側4箇所に円中心に向かって突出するように形成されているのであるから,「内歯部の内側に沿って円形軌道が形成されて」いるというべきである。
なお,本件特許発明においても,第2チーク内周環状部分は,直接何かが通る道として予定されているものではないが,形態的にみて,円形の軌道状に形成されている以上,当該部分を「円形軌道」と呼ぶことについては何ら支障はない。
(イ) 被告製品の構成e’(2)の記載について 被告製品のトッピング(501,503,505,507)先端面は,水平軸と平行な平面であることについては,当事者間に争いはない。この点に関して,被告は,「トッピング(501,503)の上記平面は,その間隙T1側の肩部よりも反対側の肩部が高い平面,すなわち,間隙T1の反対側の肩部が水平軸に近づくように突き出た傾斜平面となっており,トッピング(505,507)の上記平面は,その間隙T2側の肩部よりも反対側の肩部が高い平面,すなわち,間隙T2の反対側の肩部が水平軸に近づくように突き出た傾斜平面となっている」と主張するが,当該構成は,被告製品を目視することによっては確認することはできない。また,原告の調査によれば,公的な精密測定機関によっても測定困難であるとのことであるから,被告製品が上記構成を有するとは認められない。
(ウ) 被告製品の構成e’(4)の記載について 同様に,被告が指摘する,「第1の突起611は,平面形状が円弧状になるように突設され,トッピング503にのみ摺接するものであり,第1の突起の円弧状外周面は,トッピング503の傾斜平面上の高い肩部側にその外周面上の接触位置を変えながら摺接するものである。もう一つの第1の突起613も,同様に,平面形状が円弧状になるように突設され,トッピング507にのみ摺接するものであり,第1の突起の円弧状外周面は,トッピング507の傾斜平面上の高い肩部側その外周面上の接触位置を変えながら領域に摺接する」との現象が実際に生じているか否かも確認することができない。
しかも,目視及び精密測定すら困難な程度の微小なトッピング肩部の出っ張りにより,第1の突起との相互作用が,被告が主張するとおりの態様により生じるとは到底想定し難いというべきである。
かえって,被告製品に関する特許出願とみられる特開2003-299544号公報(甲8)には,ポール140(150)の突起611(613)は,トッピング501(505)及びトッピング503(507)のいずれも平坦な両端面を跨いで線接触しながら摺動するものと理解される記載があり,被告の前記主張はいずれも前記公開特許公報中の記載と明らかに矛盾しており,信憑性に乏しい。
上記のとおり,被告物件説明書被告製品の構成e’(4)の記載はすべて不適切である。
エ 被告製品の構成e’(5)の記載について 被告製品の第1の突起(611,613)の上記円弧状外周面の円弧方向の長さは,背もたれのアンロック角度範囲にわたってラチェットの内歯部とポールの外歯部との噛合が解除された位置にポールを保持できるように,対をなすトッピング(501と503,505と507)相互の間隙T1及びT2の円周方向の幅よりも大きく設定されているのであるから,上記構成についても明示すべきである。
オ 被告製品の構成g’について 被告は,被告製品の「弧状部の狭い部分」は,ポールの半径方向の往復運動を可能にしていないなどと主張する。
しかし,被告製品は,そのレリーズプレートのカム穴の縁部の弧状部のうち「弧状部の狭い部分」が曲がっていることは一見明らかであるし,レリーズプレート縁部のうち,「弧状部の狭い部分」の幅が隣接する弧状部の広い部分と同程度に広ければ,レリーズプレートがロック解除の方向に回転するとき,その部分が第1の突起と第2の突起との間を挿通することができず,ポールの半径方向の往復運動の妨げとなることも明らかである。
したがって,被告製品においても,「弧状部の狭い部分」が,曲がっていて,ポールの半径方向の往復運動を可能にする程度に十分狭く形成されているというべきである。
(被告の主張) (1) 被告が製造・販売する被告製品の具体的な構成は,別紙被告物件説明書記載のとおりである。
別紙原告物件説明書記載のうち,aないしd,e(3),f(1)ないし(4)及びhの各記載については認める。
また,同f(5)のうち,「上記長穴状のカム穴は,溝幅が略均一でかつ全体の平面形状が円弧状をしており,カム穴の一端側は水平軸に近づき他端側は水平軸から離れるように渦状に配置されている。レリーズプレートがどのような角度位置にあっても,ポールの第2の突起の半径方向の移動は,このカム穴の存在によって,最大でも,このカム穴の上記略均一な半径方向の溝幅である小範囲内に規制されることになる。リクライニング機構のロック状態からロック解除方向にレリーズプレートを回転させると,このカム穴の外周側の円弧状内壁面とポールの第2の突起との摺動により,第2の突起及びポールは,緩やかにロック解除方向に退避するようになっている。」という部分については認める。
(2) 別紙原告物件説明書記載のうち,以下の部分は不適切である。
ア 被告製品の構成e(1)の記載について 軌道とは,一般的に,「路盤の上につくった線路構造物の総称」,「物体が何らかの力に作用されて運動する際に描く一定の経路」等を意味するところ,被告製品のラチェット内歯部には,平坦になっているトッピング(501,503,505,507)があるだけで,これと第1の突起(611,613)が当たるとしても,本件特許発明の構成のように,円形軌道上面に当接するものではない。被告製品において,本件特許発明における外見上直径の小さい部分B(本件明細書【0017】参照)に対応する位置に存在するトッピング部分は平坦であり,「段付円形」の構成を有するものではなく,「円形軌道」といえるものではない。
たしかに,被告製品には,「ラチェットの内歯部の内側に沿って」,中心方向に突出するトッピング(突部)が4箇所に設けられており,ラチェットは丸く,その内側も円形となっているが,内歯部の内側のトッピングの部分は,トッピング507の間隙T2の反対側の肩部がT2側の肩よりも高くなった平面,すなわち,間隙T2の反対側の肩部が中心に近づくように突き出た傾斜平面である。トッピングを横から見れば直線であり,円形ではない。
イ 被告製品の構成e(2)の記載について 4箇所のトッピング先端面が,水平軸と平行な平面であることは認める。もっとも,トッピング(501,503)の上記平面は,その間隙T1側の肩部よりも反対側の肩部が高い平面,すなわち,間隙T1の反対側の肩部が水平軸に近づくように突き出た傾斜平面となっており,トッピング(505,507)の上記平面は,前記のとおり,間隙T2の反対側の肩部が水平軸に近づくように突き出た傾斜平面となっているものである。
ウ 被告製品の構成e(4)の記載について 被告製品の第1の突起611は,平面形状が円弧状になるように突設され,トッピング503にのみ摺接するものであり,第1の突起の円弧状外周面は,トッピング503の傾斜平面上の高い肩部側にその外周面上の接触位置を変えながら摺接するものである。もう一つの第1の突起613も,同様に,平面形状が円弧状になるように突設され,トッピング507にのみ摺接するものであり,第1の突起の円弧状外周面は,トッピング507の傾斜平面上の高い肩部側その外周面上の接触位置を変えながら領域に摺接するものである。
エ 被告製品の構成e(5)の記載について 被告製品の第1の突起(例えば611)は,トッピング507の間隙T2の反対側の肩部近辺に当たるにすぎず,トッピング507(トッピングの上側の部分(ラチェットにおいて内側になる部分)を背もたれが倒れる約30度の角度という所定の範囲にわたって摺動するものではない。第1の突起611は,トッピング507の間隙T2の反対側の肩部近辺に当たり,背もたれが倒れる所定の範囲にわたって,実質的に,トッピング507の肩部近辺の位置において,回転して摺動するものである。
オ 被告製品の構成gについて 被告製品のカム穴183の弧状縁部は,狭い部分に隣接する開口部部分も広い部分に隣接する開口部部分も略均一溝幅のスリットであり,弧状部の狭い部分であっても,ポールの半径方向の往復運動はカム穴の略均一な半径方向の横幅に規制されているものである。第2の突起がポールを伴って外方向に自由に移動できるものではない。
2 争点2-被告製品の構成要件充足性について (原告の主張) (1) 被告製品の構成のうち,aないしd及びhが,本件特許発明構成要件AないしD及びHを充足することは,当事者間に争いがない。
(2) 構成要件Eについて ア ペグ12の意味について (ア) 被告は,何らの根拠もなく,「ペグ」とは「土台に対して垂直方向に棒状のもの」であると主張するが,原告及び被告が引用する辞書類(甲3等)においても,土台に対し垂直とか棒状とかといった専ら形態面に着目した画一的な定義は見当たらず,テントの張綱の杭,掛けくぎ,留めくぎ,弦の糸巻き,ハイボール,洗濯ばさみその他の具体的な物が列挙されているのみである。
英英辞書中には,「Peg」の項の冒頭に,コート掛,弦楽器の糸巻,テントの綱杭及び洗濯ばさみの4種を図示して,「通常は一方端が他端よりも薄い木製又は金属製の小片であって,物体を締めつけたり掛けたりなどの目的に使用されるもの」と定義するもの(甲4)もあるが,当該図面においても,テントの杭を除き,いずれも棒状とは言い難いし,テントの杭も地面に対して垂直ではなく斜めに立っており,洗濯ばさみに至っては垂直の基準となるべき土台自体が存在せず,しかも棒状とはいえない。
したがって,「ペグ」の意味として,被告のように「土台に対し垂直方向に棒状のもの」と画一的に決めつけるのは,明らかに誤りである。
(イ) ホロワー5の面上に軸方向に突起した横長の部材でも,本件特許発明の「ペグ12」に該当することは,本件明細書【請求項2】において,「請求項1による関節装置に於いて,各ホロワー5の二つのペグ(12および13)がこのホロワーの半抜きによって作られている関節装置」と記載されていることによっても,明らかである。なお,本件特許発明は,出願過程において,特許庁審査官から,平成13年11月14日付けで,上記記載に関し,「請求項2には,ペグが半抜きによって作られる旨記載されているが,『半抜き』とはどのような加工を意味しているのか不明である」旨の拒絶理由通知を受けた。そこで,原告は,平成14年6月19日付け意見書(甲6)に参考資料(1)及び(2)を添付して提出し,「半抜き」とは,プレス加工の技術分野における適正な技術用語であり,全体的に打ち抜くのではなく,部分的に打ち抜く加工,すなわち穴抜きを途中で止めて凸形状にする加工を意味すると釈明したところ,審査官の理解が得られて本件公報記載の表現のままで特許査定された経緯がある。
そして,「半抜き」加工とは,被告製品の第2の突起のように,縦に細い突起よりも,どちらかといえば第1の突起のように水平方向にある程度の広がりを持った突起を形成するのに適したプレス加工技術であることからしても,本件特許発明のペグ12が,被告製品の第1の突起のような形状を除外しているとは考えられない。
(ウ) 本件特許発明の「ペグ」に関し,本件明細書には,「各ホロワーから軸方向に突出するペグ12」,「各ホロワーから軸方向に突出する第2ペグ13」と記載するのみで,【発明の詳細な説明】にも,「各ホロワーから軸方向に突出するペグ」としか記載されておらず,突出部分の形状を棒状に限定する趣旨の記載は見当たらない。
そして,「ペグ12」は,「段付き円形軌道」と相互作用して所定の範囲にわたってホロワーを離脱位置に確実に保持するものであるから,「ペグ」の一般的意味として辞書類に列挙されている「留めくぎ」に類する機能を有している。
また,被告製品の「第1の突起」(611,613)も,軸方向に突出して,トッピングと相互作用して背もたれの角度位置の所定の範囲にわたってポール(140,150)を離脱位置に確実に保持する「留めくぎ」の機能を有しているから,本件特許発明の「ペグ12」に該当するものである。
イ 「段付き円形軌道」について (ア) 本件特許発明において,第2チーク内周の環状部分は,そこを直接何かが通る道として予定されているのではなく,形態的にみて,円形の軌道状に形成されていることから,この部分を「円形軌道」と呼んでいるのにすぎない。そこで,「軌道」の意義について,何かが「通る道」であることを前提として,被告製品におけるラチェット内周の環状部分やトッピング部分は「軌道」としての意味を有するものではないとする被告主張は誤りである。被告製品の構造として当事者間に争いがない別紙物件目録添付の図4によると,被告製品においても,本件特許発明における「円形軌道」が形成されていることは明らかである。
また,被告製品のトッピングは,ラチェット内周の全周にわたって形成された環状部分(すなわち本件特許発明の「円形軌道」に相当する部分)の内壁に形成された「段」にほかならないから,被告製品は,全体として「段付き円形軌道」の要件を充足する。
(イ) 被告は,本件明細書【0016】及び【0017】には,円弧A及び円弧Bという直径の異なる2つの円弧によって全周円をなす「円形軌道」を前提として,その「円形軌道」をCという段により結合させることが「段付き円形軌道」の意味であり,円弧Bが「円形軌道」の一部を構成することが明示されているのに対し,被告製品のトッピング先端面は平坦な直線で,円弧状ではないなどとも主張する。
この点,たしかに,本件明細書の上記部分には,「段」の部分も円弧Aとは直径の異なる円弧Bを構成している旨が記載されているが,当該記載部分は,「以下に,この発明の好適例を,添付の図面を参照して,勿論,非限定的な方法で説明する」(本件明細書【0013】【実施例】冒頭部分)と明記されているとおり,【実施例】中の説明にすぎず,典型的な実施形態ではあっても,本件特許発明技術的範囲を当該形態に限定する趣旨ではない(以下,本件明細書記載の実施例を,「本件実施例」という。)。構成要件Eは,「段付き円形軌道P」としているだけで,段の部分の先端面が円弧であることを要件とはしていないのであるから,例えば,「段」の先端面のどの部分をとっても中心軸からほぼ等距離と見なし得る程度に,「段」の先端面が円周方向に十分狭く形成されている場合には,「段」の先端面は直線であってもよいのであって,必ずしも厳密な意味における円弧の一部である必要はない。他方,「段」の先端面が直線でもよい程度に十分狭く形成されている場合には,第1の突起がその短い「段」の先端面を摺動する間に背もたれのアンロック角度範囲を確保することは困難であるから,その場合には,上記「段」の近傍にこれと対をなすもう一つの同様の「段」を設け,「第1の突起」がこれら一対の「段」を一体に跨いで摺動するようにする必要がある。そのため,第1の突起の円周方向の長さは,上記複数の「段」の間隙よりも長くかつ外方向に凸の円弧状に形成すればよいのであるから,構成要件Eにおいて,「段」の個数や,「第1の突起」の円周方向の長さや形状などについては,別段の制限はないのである。
ウ 被告製品の構成要件E該当性 前記の各解釈を前提とすると,被告製品の「第1の突起」は,構成要件Eの「ペグ12」に該当するところ,被告製品は,構成要件Eの「段付き円形軌道」の「段」に相当するトッピング(501,505)の先端面を直線とするために,トッピングの円周方向の幅を極めて狭く形成しており,それでも背もたれのアンロック角度範囲においてポールを離脱位置に確実に保持するために,狭い間隙(T1,T2)を隔てた近傍にそれぞれ対となる同様のトッピング(503,507)を設けた上,第1の突起が間隙(T1,T2)を跨いで摺動し得るよう,第1の突起をラチェットの円周方向に長く円弧状に形成したものであるから,被告製品の構成eは,本件特許発明構成要件Eを充足する。
なお,構成要件Eは,「この背もたれ角度位置の所定の範囲に亘ってホロワー5を離脱位置に確実に保持するようにペグ12と相互作用できる段付き円形軌道」とあるのみで,「相互作用」の具体的態様を限定していないのであるから,「相互作用」について特定の態様を前提とする被告の主張は失当である。
構成要件Eにおける均等侵害について (ア) 仮に被告主張のように,本件特許発明の「ペグ12」が,ホロワーの面上に対して垂直方向に棒状のものに限るとしても,「ペグ12」の機能は,「段付き円形軌道」の「段」の部分と相互作用して,背もたれのアンロック角度位置を所定の範囲にわたってホロワーを離脱位置に確実に保持することであるから,必ずしもホロワーの面上に対して垂直方向に棒状のものでなくても,外方向に凸の円弧状であれば,横長の突起,すなわち被告製品の第1の突起のごとき形状であっても同様の作用効果を奏するものである。したがって,「ペグ」の用語の文言上の意味が,垂直方向に棒状のものを意味するとしても,「ペグ12」のそのような形状は本件特許発明の本質ではなく,「ペグ12」を被告製品の「第1の突起」の形状のものと置き換えても,本件特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものである。
(イ) また,仮に,本件特許発明の「段付き円形軌道」は,「直径の異なる二つの円弧からなるもので,『段』の先端面も直径の小さい円弧の一部をなしていなければならない」ものであり,他方で,被告製品のトッピングの先端面が直線状に平坦に形成されているとしても,被告製品のように,1個のトッピングの端面の幅が極めて狭い場合には,そこが水平軸を中心とする円弧の一部である場合と外見的にも機能的に実質的差異はほとんどなく,第1の突起が当接してその端面上を摺動する妨げもないから,「段」の先端面が円弧状であることは本件特許発明の本質部分ではない。したがって,本件特許発明の「段付き円形軌道」を被告製品の環状部分とトッピングとの結合体に置き換えても,その目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものである。
(ウ) 上記各構成は,当業者であれば,被告製品が販売された平成12年当時において容易に想到することができたものであり,本件特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれらから上記出願時に容易に推考できたものでもなく,また,被告製品の「第1の突起」の形状,「段」の先端面が直線であるという形状が本件特許発明の特許出願手続において,それぞれ特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情も認められない。
したがって,被告製品の「第1の突起」及びラチェットの全内周に沿って形成された環状部分とその内壁に形成されたトッピングとの結合体が,それぞれ本件特許発明の「ペグ12」及び「段付き円形軌道」の各文言を侵害しないとしても,当該各構成は上記各構成要件均等であり,被告製品が本件特許発明技術的範囲に属することは明らかである。
なお,前記のとおり,被告は,被告製品は,「各トッピング先端面の平面は,各間隙の反対側の肩部が水平軸に近づくように突き出た傾斜平面になっている」と主張するが,仮に被告製品が当該構成を有しているとしても,そのような形状のトッピングを設けたラチェット内周の環状部分は,いずれにせよ本件特許発明の「段付き円形軌道」に該当するか,あるいはその均等物である。
(3) 構成要件Fについて ア 被告は,構成要件Fについて,@被告製品のレリーズプレートのカム穴には,「ロック解除に対応するカムの位置に対して離脱位置に保持することができる」部分は存在しない,A被告製品のレリーズプレートのカム穴には,「第2ペグの一つと相互作用してその軸Xの方への移行を確実に制御」する部分は存在しないなどと主張する。
イ 被告の主張は,本件特許発明の薄板14の開口部15の形状が,本件実施例中の「各開口部15は,周辺が軸Xの周りに長く,この軸から最も遠いその縁には,それが傾斜部Rによって互いに結合された直径の異なる二つの円弧DおよびEを含むという意味で段状である。」(【0022】)との記載の形状に限定されることを前提としているが,その前提自体が誤りである。
前記のとおり,本件実施例における開口部の形状は,構成要件Fを充足し得る形状の好適例の一つにすぎず,構成要件Fは,開口部の具体的形状に関して直接的,限定的に規定するものではない。
ウ 被告は,構成要件Fにおける開口部の形状が本件実施例記載の前記形状に限定されるという誤った前提において,本件実施例中の傾斜部Rの部分が構成要件Fの「第2ペグの一つと相互作用してその軸Xの方への移行を確実に制御」する部分であり,同Eの部分が構成要件Fの「離脱位置に保持することができる」部分であると決めつけた上で,「溝幅が略均一でかつ全体の平面形状が円弧状をしており,カム穴の一端側は水平軸に近づき他端側は水平軸から離れるように渦状に配置されている」にすぎない被告製品のカム穴には,本件特許発明の開口部のような傾斜部Rや半径の小さい円弧Eに相当する部分は存在しないなどと主張するが,構成要件Fは,前記のとおり,開口部に関しては,その特定部位の形状や当該部位が担うべき具体的な役割については一切言及していない。薄板の開口部が全体として,「第2ペグの一つと相互作用してその軸Xの方への移行を確実に制御し,それをこの関節装置のロック解除に対応するカムの位置に対して離脱位置に保持することができる」ような形状と配置をみたしておればよいと記載されているだけである。
エ たしかに,被告製品のカム穴の形状及び配置は,「好適例」として本件実施例に記載された形状どおりのものではないが,被告製品のカム穴のうち水平軸に近づく一端側は本件実施例の円弧Eに,水平軸から離れる他端側は本件実施例の円弧Dに,全体として円弧状に形成されているカム穴の外周側内壁面は実施例の段差Rにそれぞれ対応し,それぞれ本件実施例の対応する部位と同一の機能を有しているのであるし,本件実施例においても,ペグ13は開口部の両円弧の段差部分を含む外周内壁面に沿って摺動しつつ緩やかにロック解除方向に退避するようになっているのであるから,第2のペグの移動制御の原理は被告製品の場合と同様であって,本件特許発明及び被告製品は,共通の原理により構成要件F所定の機能を有するものである。
上記のとおり,被告製品の構成fが本件特許発明構成要件Fを充足することは明らかである。
オ なお,被告は,乙2ないし14を引用し,被告製品における「リクライニング機構のロック状態からロック解除方向にレリーズプレートを回転させると,このカム穴の外周側の円弧状内壁面とポールの第2の突起との摺動により,第2の突起及びポールは緩やかにロック解除方向に退避するようになっている」構成は公知技術であり,当該技術を採用している点において被告製品は構成要件Fと異なるもので,本件特許発明は,本件実施例記載の開口部の具体的形状から新規性が認められたかのような主張をする。
しかし,被告製品も,上記構成においては構成要件Fと何ら異なるものではないし,本件特許発明は,ホロワーに公知技術にはみられない二つのペグを設けて,これらペグの間に薄板に形成された十分に狭い部分を備えた曲がった架橋片を挿通させることによって,ロック解除機構とロック解除状態維持機構とを実現した点に新規性を有するのであり,被告製品は本件特許発明の上記新規構成を模倣するものである。
(4) 構成要件Gについて ア 被告は,被告製品のレリーズプレート(構成要件Gの「上記板」に相当する。)の各カム穴の水平軸から遠い側の縁部は,「不等幅の弧状部」であること及び「弧状部の狭い部分」の存在を認めているから,被告製品が,構成要件Gのうち,「上記板が各ホロワーの二つのペグ(12および13)の間に,十分狭い部分16aを備えた架橋片16を含む」との部分を充足することは,当事者間に争いがない。
イ 当事者間に争いがない別紙物件目録添付の図3の記載からすると,被告製品は,レリーズプレートのカム穴の縁部の弧状部のうち「弧状部の狭い部分」が曲がっていること,レリーズプレート縁部のうち,「弧状部の狭い部分」の幅が隣接する弧状部の広い部分と同程度に広ければ,レリーズプレートがロック解除の方向に回転するときその部分が第1の突起と第2の突起との間を挿通することができず,ポールの半径方向の往復運動の妨げとなることが一見して認められる。
したがって,被告製品は,「弧状部の狭い部分」が曲がっていて,ポールの半径方向の往復運動を可能にする程度に十分狭く形成されているというべきであって,構成要件Gを充足するものである。
ウ(ア) この点に関して,被告は,被告製品の開口部の具体的な形状を,本件実施例に記載された開口部の具体的形状とのみ対比し,被告製品の「弧状部の狭い部分」は,ポールの半径方向の往復運動を可能にしていないし,曲がってもいないなどと主張する。しかし,その前提自体が誤りであること,被告製品の開口部の「溝幅が略均一でかつ全体の平面形状が円弧状をしており,カム穴の一端側は水平軸に近づき他端側は水平軸から離れるように渦状に配置されている」(原告物件説明書f(5)参照)形状が,構成要件Fを充足することは,前記のとおりである。
(イ) 被告製品が,開口部の溝幅がほぼ均一であり,第2の突起が当該溝幅に規制されて溝幅方向への移動ができないという構成を有していたとしても,渦状に形成された溝の流れに沿って移動することは何ら規制されていない。しかも,第2の突起が上記のとおり移動することが可能であることにより,それに伴って,ポールの半径方向の往復運動が可能となっているのである。そして,被告製品の弧状部の狭い部分が,十分に狭く形成されていることにより,レリーズプレートが回転する際,弧状部が第1の突起と第2の突起との間を障害なく挿通することができるため,第2の突起が開口部の溝の流れに沿ってその全行程を往復することができ,それに伴ってポールの半径方向の往復運動が可能となっているのである。
(ウ) 構成要件Gは,架橋片が曲がっていることの形成由来は問わず,弧状部が外見上曲がってさえいれば,同構成要件の「曲がった架橋片」に該当する。
いずれにせよ,被告製品が「曲がった架橋片」を備えていることは,間違いない。
(被告の主張) (1) 被告製品が,構成要件AないしD及びHを充足することは,認める。
(2) 構成要件Eについて ア(ア) 被告製品は,本件特許発明における「ペグ」を有さない。
(イ) 「ペグ」とは,本来,「テントの張り網を固定するために地面に打ち込む杭」,「(木製または金属製の)留めくぎ,掛けくぎ,(テントの)くい」など,棒状のものを意味する語である。被告製品の第1の突起は,ラチェットと略同心の円弧状摺動面(円形軌道相当)を所定の角度にわたって有する突起であって,本件特許発明における「ペグ」ではない。 この点に関して,原告は,被告製品の「第1の突起」は,機能的に構成要件Eにおける「ペグ」に該当する,水平方向に棒状のものも,「ペグ」とする用法があるなどと主張する。しかし,同一形状の物は同一用語で呼ばれるところ,ペグとは棒状のものをいうこと,一般的な用法としても,垂直方向に棒状であるからこそ,「peg」なる用語が用いられていることからすると,本件特許発明の出願過程において,「ペグ」について突出部分の形状を棒状に限定する趣旨の記載は見当たらないからといって,棒状の方向を問わないとする原告主張は誤りである。
被告製品における第1の突起は,ポールと一体に,ラチェットの円周方向に長く板状に設けられているものであり,その形状自体から,構成要件Eの「ペグ」に該当するものではない。
(ウ) 被告製品における「第1の突起」は,その機能に着目しても,構成要件Eの「ペグ」に含まれるものではない。そもそも,「ペグ」とは,広いところに刺す「杭」であり,平面から立ち上がる「留めくぎ」である。被告製品の「第1の突起」が存在するポールは,通常はプレス加工によって製作するが,被告製品の第1の突起は,ポール上にラチェットの円周方向に長く円弧状に設けられ,ポールに設けられた外歯部に沿って第1の突起が存在しているので,プレス加工時の残留応力が均等になり,本件特許発明における「ペグ」を形成する場合と比較して,突起形成後の熱処理による外歯部のゆがみを大幅に低減することが可能となる。これにより,被告製品においては,ポールの外歯部の形状にゆがみがなく,ラチェットの内歯部との正確かつ確実な噛合が可能となり,棒状の「ペグ」の構成によっては得られないロック強度の安定化という効果が得られるのである。
また,リクライニング装置の使用者が操作レバーを引き上げる途中で,ポールの外歯部とラチェットの内歯部の噛合が外れるが,その際,シートバックをシートの前方に倒す方向に付勢する力によりラチェットが旋回し,「第1の突起」の「トッピング」側の側面が,「トッピング」の一側面に対して強く衝突する状況が生じ,「第1の突起」に対して強い衝撃が加わる。この場合,被告製品の「第1の突起」は,ラチェットの円周方向に長く設けられているから,かかる衝撃に対して棒状の「ペグ」の構成によっては得られない強い強度を得られるのである。
(エ) さらに,上記の構成を採用することにより,第1の突起は,トッピング上全体を摺動するように作動するのではなく,逆に,トッピングの一部が,第1の突起の上を,背もたれのアンロック角度範囲にわたって,ラチェットの内歯部とポールの外歯部との噛合が解除された位置にポールを保持できるような突起(611,613)の上記円弧状外周面の円弧方向の長さ(前記の背もたれのアンロック角度範囲にわたる円弧の長さ)を摺動するように作動する構造を有しており,本件特許発明の構成とは明らかに異なるものである。
(オ) 上記のとおり,被告製品における「第1の突起」は,形状のみならず,機能面から見ても,「ペグ」には該当しないものである。
イ(ア) 被告製品は,本件特許発明における「段付き円形軌道」を有さない。
(イ) 軌道とは,本来,「@車の通る道。路盤の上につくった線路構造物の総称。」,「A天体の運行する道。一般に,物体が何らかの力に作用され て運動する際に描く一定の経路。」等を意味する語である。
被告製品のラチェットの内歯部には,平坦になっているトッピング(501,503,505,507)があるのみで,これと突起(611,613)が当たるとしても,本件特許発明のように円形軌道上面に当接するものではない。すなわち,被告製品のラチェットには,「内歯部の内側に沿って円形軌道が形成されて」いないのである。
原告が構成要件Eの「円形軌道」に該当すると主張する被告製品の円状の部分およびトッピング部分は,被告製品において何ら「軌道」としての意味を有するものではなく,「円形軌道」には該当しない。
(ウ) 本件特許発明における「段付円形軌道」は,本件明細書【0016】ないし【0018】の記載からすると,「直径の大きい部分Aおよび直径の小さい部分Bの形状が共に円弧状であり,この直径の小さい部分Bの上をペグが摺動し,この直径の小さい部分Bの上をペグが摺動している状態では,ペグ12は,この直径の小さい部分Bによって,半径方向の運動が阻止される。」という構造を有しており,このような直径の大きい部分Aおよび直径の小さい部分Bをあわせて,「段付円形」「軌道」という名称が付されているのである。また,本件明細書には,「段付き円形軌道」は,ペグと相互作用することが明記されており,「ペグ12」と相互作用する部分であるという意味においては,本件明細書における直径の短い円弧Bの部分が,「軌道」としての本来の機能を有するのであるから,同円弧Bの部分が円形であることによりはじめて「段付き円形軌道」となり得るものである。しかも,本件明細書【0016】及び【0017】の記載には,円弧A及び円弧Bという直径の異なる2つの円弧によって全周円をなす「円形軌道」をCという段により結合させることが「段付き円形軌道」の意味であることが明確に示されているのであるから,円弧Bの部分が円形の軌道であることは実施例における例示などではなく,構成要件Eの本質的要素である。
これに対し,被告製品は,前記のとおり,本件特許発明の外見上直径の小さい部分Bに対応する位置に所在するトッピング部分は平坦である。すなわち,ラチェットは丸く,その内側も円形となっているが,内歯部の内側のトッピングの部分は,トッピング507の間隙T2の反対側の肩部が中心側に近づくように突き出た傾斜平面であって,トッピングを横から見れば直線で,円形ではないから,「段付円形」の構成を有していないのであり,被告製品の平坦なトッピングは,「円形軌道」には該当しない。
(エ) また,本件特許発明における「段付き円形軌道」は,「直径の小さい部分」Bの幅(角度)により,「背もたれの角度位置の所定の範囲に亘ってホロワー5を離脱位置に確実に保持する」機能を実現しているが,被告製品では,前記のように,「直径の小さい部分B」は存在せず,第1の突起(611,613)の幅(角度)によって,ホロワー5を離脱位置に保持する背もたれの角度を変えることができるのである。すなわち,被告製品は,ポール上の第1の突起を凸の曲面とし,トッピングに対して,凸の曲面の長さによりロックされない状態にし,トッピングとポールの突起とを線接触にし,トッピングに当たるポール上の突起を丸みを持たせて幅広に形成しつつトッピングの間隙T2の反対側の肩部近辺のみを利用して,ポールの外歯部とラチェットの内歯部の噛合を防ぎ,ロックされない状態に保つ構成を採用しており,ポール上の突起は,トッピング部分全体を摺動するものではない。
したがって,トッピングの上側平面は,「背もたれの角度位置の所定の範囲に亘ってホロワー5を離脱位置に確実に保持する軌道」となるものではない。
(オ) 上記のとおり,被告製品は,「ペグ」も,「段付き円形軌道」も有しないから,構成要件Eを充足しない。
(カ) なお,原告は,「ペグ」及び「段付き円形軌道」について均等侵害が成立すると主張する。しかし,本件特許発明の本質的部分は,各ホロワーから軸方向に突出する第1ペグと第2ペグを設け,第1ペグを背もたれのチークに結合された段付き円形軌道により相互作用させるとともに,ロック解除に対応するカムの位置に対して離脱位置に保持することができる開口部が開いている薄板を含み,その薄板が各ホロワーの二つのペグの間にホロワーの往復運動を可能にする十分狭い部分を備えた架橋片を含むものとし,第2ペグをその薄板の開口部と相互作用させることにある。背もたれの角度調整時にロックを解除するロック解除と,背もたれの前倒時におけるロック解除状態維持という機能について,背もたれの角度調整時にロックを解除するロック解除機構(薄板の開口部を用いたもの)と,ペグと段付き円形軌道を用いて背もたれの前倒時にロック解除状態を維持するロック解除状態維持機構は,従来技術として存在していたところ,本件特許発明は,かかる従来技術に対し,「第1ペグ」と「段付き円形軌道」の相互作用及び「第2ペグ」,「開口部」,「十分狭い部分を備えた架橋片」の相互作用により両機能を実現するものである。これに対し,被告製品は,原告が「段付き円形軌道」の高い部分に相当すると主張するトッピングの幅ではなく,「ペグ」に相当すると主張する第1の突起の円弧状外周面の円周方向の幅により背もたれの前倒時にロック解除状態の角度を確保し,半径方向の往復運動が不可能な均一幅の渦巻状のレリーズプレートの開口部により背もたれの角度調整時にロックを解除する機能を果たそうとしているのであり,本件特許発明とその本質的部分において異なっているのである。これは,前記のとおり,被告製品が,開口部について従来技術を採用しているのに対し,本件特許発明は,「ホロワーの往復運動を可能にするに十分狭い部分16aを備えた,曲がった架橋片16」という構成を特許請求の範囲に記載することにより,新規性を認められたことに由来するのである。すなわち,原告は,同構成を特許請求の範囲に記載することにより,被告製品のような技術を本件特許発明技術的範囲から意識的に排除したものである。
したがって,被告製品に,本件特許発明について均等論は適用されない。
(3) 構成要件Fについて ア 被告製品は,「長穴状のカム穴は,溝幅が略均一でかつ全体の平面形状が円弧状をしており,カム穴の一端側は水平軸に近づき他端側は水平軸から離れるように渦状に配置されている」構造を有しているのであって(被告物件説明書f’(5)),構成要件Fにおける「離脱位置に保持することができる」という部分は存在しない。
さらに,被告製品は,構成要件Gについて詳述するとおり,「リクライニング機構のロック状態からロック解除方向にレリーズプレートを回転させると,このカム穴の外周側の円弧状内壁面とポールの第2の突起との摺動により,第2の突起及びポールは,緩やかにロック解除方向に退避するようになっている」(被告物件説明書f’(5))という公知技術(乙2〜14参照)を採用しており,この点においても構成要件Fを充足しない。
イ 薄板14の開口部15について (ア) 本件明細書【0022】ないし【0030】及び図面の各記載によると,構成要件Fにおける「ロック解除に対応するカムの位置に対して離脱位置に保持することができる開口部15が開いている薄板14」は,ホロワー5を非ロック位置に位置させる際に,専らペグ13が板14の開口部15に設けられた直径の大きい円弧Dに対向する位置から直径の小さい円弧Eに対向する位置に移動するという構成を有していると説明されている。
これに対し,構成要件Gにおける「ホロワーの半径方向の往復運動を可能にするに十分狭い部分16a」は,各ホロワーが半径方向の往復運動を完全にできるようにするために,保持された板14は,各ホロワーの二つのペグ12および13の間に,十分狭い部分16aを有する曲った架橋片16を含むこと,すなわち,ペグ13がロック位置にある場合において,直径の大きな円弧Dがあり,その結果として十分狭い架橋部分16aがあることにより,ホロワーが半径方向の往復運動をすることを可能にする構成を有していると説明されている。
(イ) 本件特許発明における開口部は,一方で「ホロワーの半径方向の移動を可能にするに十分狭い部分16a」を備えるとともに,ホロワーが非ロック位置にある場合には,ホロワー5の半径方向の移動を不可能にするよう円弧Eを底面とする十分狭くない架橋片部分を備えるものであり,2つの架橋片部分の間に,ホロワーが半径方向に移動可能なロック位置からそれが不可能な非ロック位置への二値的な制御のために2つの円弧をつなぐ段差を設けているものである。これに対し,被告製品には,段差はなく,従来技術と同様,均一の溝幅の穴の片を用いるものにすぎない。だからこそ,本件明細書に記載された開口部〔図1(15),図3 E,R,D〕と,被告製品におけるカム穴184の形状は,明らかに異なるのである。
すなわち,本件特許発明においては,大きい直径の円弧D,傾斜部R,直径の小さい円弧Eにより,往復運動が可能な状態から軸Xの方への移行を確実に制御し,離脱位置に保持するという構成となっているのに対し,被告製品はあくまで,緩やか,かつ,連続的に「長穴状のカム穴は,溝幅が略均一でかつ全体の平面形状が円弧状をしており,カム穴の一端側は水平軸に近づき他端側は水平軸から離れるように渦状に配置されて」おり,直径の異なる二つの円弧D,E及びこれらを段状に結合する傾斜部Rから構成されていないので,ホロワーの動き(移行制御)に差異があるから,「その軸Xの方への移行を確実に制御」する部分は存在せず,ましてや,「離脱位置に保持することができる」部分は存在しないのである。
(ウ) 前記のとおり,カム穴184の形状は,ごく一般的な公知技術である。本件特許発明が従来技術をそのまま用いているのであれば,水平軸方向に移行はされるものの,半径の小さな非ロック位置に固定されるような平らな部分(円弧Eの部分)は存在しないから,「離脱位置に保持することができる開口部」という表現を用いることはできない。本件特許発明は,従来技術を採用することなく,あえて変更を加え,半径が大きく,ホロワーの半径方向の往復運動を可能にするに十分狭い部分16aを備えたロック位置と,半径が小さく確実にペグをカムの位置に対して離脱位置に保持できるような「軸Xの方への移行を確実に制御し」,「ロック解除に対応するカムの位置に対して離脱位置に保持することができる」開口部15を有しており,その間の傾斜部が,両状態の境界となっているものである。
被告製品は,従来技術を用いたにすぎないのであるから,特に,本件特許発明が強調するような意味での「軸Xの方への移行を確実に制御」する部分は存在しないのである。
(エ) 以上のとおり,被告製品は,構成要件Fを充足しない。
(4) 構成要件Gについて ア(ア) 被告製品は,「ホロワーの半径方向の往復運動を可能にするに十分狭い部分16aを備えた,曲った架橋片16」を充足しない。
被告製品のいずれの部分が「架橋部分」であり,それが「ポールの半径方向の移動を十分なもの」としているか否かについて,原告の主張自体,不明確である。たしかに,被告製品のカム穴183の外側は薄くなってはいるが,当該部分が薄くても,レリーズプレートの「弧状部の狭い部分に隣接する開口部部分」も「広い部分に隣接する開口部部分」も,略均一溝幅のスリットであり,弧状部の狭い部分であっても,ポールの半径方向の往復運動は上記カム穴の略均一な半径方向の溝幅に規制されているのであるから,「ポールの半径方向の移動」は,十分なものとはなっていない。
(イ) 本件明細書【0022】ないし【0030】の記載からすると,本件特許発明において,「各ホロワーが半径方向の往復運動を完全にできるようにするために,保持された板14は,各ホロワーの二つのペグ12および13の間に,十分狭い部分16aを有する,曲った架橋片16を含む必要がある」(【0025】)のは,「各開口部15は,…直径の異なる二つの円弧DおよびEを含むという意味で段状である」(【0022】)という2つの円弧のうちの直径の大きな円弧が存在するからである。そして,本件特許発明が,「各開口部15は,周辺が軸Xの周りに長く,この軸から最も遠いその縁には,それが傾斜部Rによって互いに結合された直径の異なる二つの円弧DおよびEを含むという意味で段状である。」(【0022】)という構成を採用しているのは,「大きい直径の円弧Dが対応するペグ13の半径方向に向い側にきたとき,後者がその全半径方向行程を自由に運行できる(図3参照)」(【0023】)ように,また,「直径の小さい円弧Eがこのペグの向い側にくると,この円弧が半径方向にこのペグに押付けられ,それを,この関節装置の非ロックに対応するこの軸に最も近い位置に保持する」(【0023】)ようにするためであるから,「ホロワーの半径方向の往復運動を可能にするに十分狭い」とは,本件明細書の図3において示されるように,直径の大きな円弧Dと十分狭い架橋部分16aとの間の開口部の半径方向の幅を広くして,ホロワーが半径方向の往復運動をすることが可能となっており,ペグ13がロック位置にあるということを意味するというべきである。
一方,ホロワー5を非ロック位置に位置させる際には,カムが少しずつホロワー5から離れる方向に動くこととなるが,ホロワー5は,カムの動きに直接連動するわけではなく,専らペグ13が板14の開口部15に設けられた直径の大きい円弧Dに対向する位置から直径の小さい円弧Eに対向する位置に,傾斜部Rを利用して瞬間的に移動することによって,ホロワー5の歯部3との噛合からの解放を制御している。すなわち,ペグ13が,直径の小さい円弧Eに対向する非ロック位置にある場合には,それがロック位置にある場合と異なり,開口部15が半径方向に十分広くないことから,ペグ13は,半径方向に往復運動することが不可能となっているのである(本件公報の図1参照。)。
このように,本件特許発明における「ホロワーの半径方向の移動を可能にするに十分狭い部分16aを備えた,曲った架橋片16」とは,ホロワーがロック位置にある場合に,ペグ13が「半径方向の往復運動を可能にする」よう円弧Dを底面とする「十分狭い」架橋片部分16aを備えるとともに,ホロワーが非ロック位置にある場合には,ホロワー5の半径方向の移動を不可能にするよう円弧Eを底面とする十分狭くない部分を備えるものであり,2つの部分の間に,ホロワーが半径方向に移動可能なロック位置からそれが不可能な非ロック位置への二値的な制御のために,円弧Aと円弧Bの2つの円弧をつなぐ段Cを設けていることから「曲った」架橋片と表現するものである。
(ウ) もっとも,ロック位置においてホロワーの往復運動が可能とならないプレート(薄板)の開口部(略均一の溝幅の長穴)は,本件特許発明の出願前に頒布された刊行物(乙2ないし14)の各記載からも明らかなとおり,従来の周知慣用技術であり,本件特許発明は,本件実施例における開口部の構造のとおり,ロック位置においてホロワーの往復運動が可能とならないプレート(薄板)の開口部を有するものを対象とするものに限定されるものである。そして,本件明細書において,本件特許発明においては,薄板の開口部が広い部分と狭い部分の2つの部分を有しており,その広い部分においてはホロワーが半径方向に往復運動を可能にしている点で従来技術とは異なると記載されている(本件明細書【0022】,【0023】参照)こととの整合性および従来例における薄板の開口部の形状との比較を考慮すれば,本件特許発明における「ホロワーの半径方向の移動を可能にするに十分狭い部分16aを備えた,曲った架橋片16」とは,板14を回転させることによってホロワーの半径方向の往復運動を可能とすることを示しているのではなく,ロック位置において,半径方向に広い開口部を設けることによりホロワーの往復運動が可能であることを示したものというべきである。
(エ) 被告製品のレリーズプレートの開口部は,「弧状部の狭い部分に隣接する開口部部分も広い部分に隣接する開口部部分も,略均一溝幅のスリットであり,弧状部の狭い部分であっても,ポールの半径方向の往復運動は上記カム穴の略均一な半径方向の溝幅に規制されている」(被告製品の構成g’)ことから,原告が十分狭い部分と主張する被告製品の弧状部の狭い部分に第2の突起が対向する位置にある場合において,ポールの半径方向の移動は可能となってはいない。被告製品のレリーズプレートは,上記の従来技術と同様,均一な溝幅の開口部を有するにすぎないからである。本件特許発明技術的範囲に,従来技術であるロック位置において半径方向の往復運動が不可能な均一幅の渦巻状の開口部を含ませるのであれば,「ホロワーの往復運動を可能にするに十分狭い部分16aを備えた,曲がった架橋片16」という文言を特許請求の範囲にあえて記載する理由がない。従来技術(乙2ないし14)においては,本件特許発明のように,特別に開口部の形状を記載したものはないのであって,原告があえて開口部の形状について具体的に記載したのは,従来技術と同様の形状の開口部を意図していたものでないからにほかならない。
よって,本件特許発明における「ホロワーの半径方向の往復運動を可能にするに十分狭い部分16a」は,静止状態の薄板の開口部に対して,第2ペグおよびホロワーが半径方向に移動可能な状況を形成するものと理解すべきであり,このような開口部の形状を限定して特許を取得しながら,開口部の形状を限定していない公知技術までをもその権利範囲に含ませるような解釈は許されない。
また,被告製品のレリーズプレートにおいては,ポールがロック位置にある場合に,第2の突起が「半径方向の往復運動を可能にする十分狭い」架橋片部分を備えておらず,また,開口部に2つの円弧およびそれをつなぐ段差が設けられていないことから,架橋部分が「曲っ」ているともいえない。
(オ) 上記のとおり,被告製品は,「ホロワーの半径方向の移動を可能にするに十分狭い部分16aを備えた,曲った架橋片16」を有さないから,構成要件Gを充足しない。
3 争点3-無効理由の存在が明らかかどうかについて, (被告の主張) (1) 本件特許発明の構成は,特開平6-125821号公報(乙15。以下「125821号公報」という。),特開平7-124028号公報(乙9。以下「124028号公報」という。)及びフランス共和国無審査特許第2215108号公報(乙16。以下「仏国2215108号公報」という。以下,これらの各発明を総称して,「各引用発明」という。)に各記載の本件特許発明の出願時における周知技術又は公知技術を適用することにより,当業者が極めて容易に想到することができた構成であるというべきである。本件特許発明進歩性を欠き,無効理由が存在することは明らかであり,本件特許権に基づく原告の請求は権利の濫用に当たり許されない。
(2)ア(ア) 本件明細書に従来技術として記載されている125821号公報(乙15)には,本件特許発明の第1チーク1,第2チーク2,歯部3,ホロワー5,外歯部6,カム8,ペグ12,段付き円形軌道Pにそれぞれ相当する固定フランジ1,可動フランジ12,噛み合わせ112a,ブロック3,上部歯3a,カム7,小片5a,リング22(厚さの厚い部分18bを含む。)を有する背も垂れ部の調整装置に関する発明(以下「乙15の発明」という。)が記載されている。
(イ) したがって,125821号公報(乙15)には,本件特許発明における構成要件AないしEが開示されているというべきである。
イ(ア) 本件特許発明の出願前に頒布された刊行物である124028号公報(乙9)には,本件特許発明の第2ペグ13,薄板14,開口部15,曲った架橋片16,十分狭い部分16aにそれぞれ相当するピン91c,レリーズプレート93,カム長穴93a,レリーズプレート93の外縁とカム長穴93aの間の部分,レリーズプレート93の外縁とカム長穴93aの間の部分のうちの幅の狭い部分を有するリクライニング装置に関する発明(以下「乙9の発明」という。)が記載されている。
(イ) したがって,124028号公報(乙9)には,構成要件F,構成要件G及びHのうちロック位置においてホロワーの「半径方向の往復運動を可能」としていることを除いたすべての点が開示されているというべきである。
ウ(ア) 本件特許発明の出願前に頒布された刊行物である仏国2215108号公報(乙16)には,本件特許発明の第2ペグ13,薄板14,開口部15,曲った架橋片16,十分狭い部分16aにそれぞれ相当する突起36,プレート32,オリフィス34,プレート32の外縁とオリフィス34の傾斜ランプ35の間の部分,プレート32の外縁とオリフィス34の傾斜ランプ35の間の部分のうちの幅の狭い部分を有する調節可能シートバック用関節装置に関する発明(以下「乙16の発明」という。)が記載されている。
(イ) したがって,仏国2215108号公報(乙16)には,124028号公報(乙9)と同様,本件特許発明構成要件F,構成要件G及びHのうちロック位置においてホロワーの「半径方向の往復運動を可能」としていることを除いたすべての点が開示されているというべきである。
(3) 本件特許発明と各引用発明との対比 ア 前記のとおり,本件特許発明と乙15の発明との相違点は,乙15の発明が,「それが,一方では,各ホロワーから軸方向に突出する第2ペグ13を,他方では,カム8に固定されていて,各々上記第2ペグの一つと相互作用してその軸Xの方への移行を確実に制御し,それをこの関節装置のロック解除に対応するカムの位置に対して離脱位置に保持することができる開口部15が明いている薄板14を含み,上記板が,各ホロワーの二つのペグ(12および13)の間に,ホロワーの半径方向の往復運動を可能にするに十分狭い部分16aを備えた,曲った架橋片16を含む」(構成要件FないしH)という構成を有していない点で,相違する。
イ 本件特許発明において,構成要件FないしHは,カムをロック解除に対応する位置に移動させた時に,ホロワーを退避位置(ホロワーの外歯部がチークの内歯部から離脱した位置)に移動させてロック解除を行ったり,逆にロックしたりするロック機構であり,車両シート用関節装置にとって,背もたれの角度調整をする上で,最も基本的且つ必須の機構である。
乙15の発明における車両シート用関節装置にも,ロック機構が設けられているが,このロック機構は,リーフスプリングによって,ホロワー(ブロックとブロックプッシャー部材からなる)を固定フランジの中心側に向けて常時付勢しておき,カムがロック解除に対応する位置に移動した時に,リーフスプリングの弾性押圧力によりホロワーを退避位置に押動させることにより,ロック解除を行うものである。
ウ ロック機構には種々の方式のものがあり,前記のとおり,124028号公報(乙9)に記載されているロック機構は,本件特許発明構成要件Fと同一の構成を有しており,さらに,同ロック機構は,構成要件Gのうち,「薄板が架橋片(16)を含む」という構成を有している。
そして,本件特許発明におけるロック機構も,乙9発明におけるロック機構も,車両シート用関節装置という同一技術分野に属するものであり,両者間で技術の転用(置換)が頻繁になされる関係にある。したがって,当該技術分野における通常の知識を有する者が,乙9の発明におけるロック機構を乙15の発明のロック機構として転用(置換)しようと試みることに何ら困難性はない。
このような転用(置換)がなされれば,その結果として,乙15の発明に最初から存在したペグと,乙9の発明のロック機構内に存在した第2ペグとが,ホロワーの同一面上に設けられることになり,そして,二つのペグが並列配置されれば,当然,二つのペグの間には,薄板の架橋片が配置されることにもなる。したがって,転用(置換)の結果得られた車両シート用関節装置が,構成要件Fの構成を有するだけでなく,同構成要件Gの構成に極めて近い構成をも有することになる。
エ もっとも,前記のとおり,本件特許発明においては,開口部の形状が本件実施例における形状に限定されており,かかる限定を前提とすると,本件特許発明における開口部は,乙9の発明における一定幅の開口部と,その構造が相違することになり,その結果,乙9の発明におけるロック機構を乙15の発明におけるロック機構として転用(置換)して得られる車両シート用関節装置は,本件特許発明技術的範囲には含まれないことになる。
しかし,これらの限定は,本件特許発明の作用効果上,あまり意味がない限定であり,その進歩性を高めるものでもない。よって,これらの限定があっても,本件特許発明は,乙15の発明及び乙9の発明(又は乙16の発明)を組み合わせることにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば,容易に想到できる程度の発明である。
なお,本件特許発明の「ホロワーの離脱制御の確実化」という効果は,乙9の発明におけるロック機構を採用すれば当然得られる効果であり,本件特許発明は,その構成のみならずその効果においても,新規性を有していない。
オ この点に関して,原告は,乙15の発明(リーフスプリングを用いたロック解除機構を有する。)に,乙9の発明におけるカム機構を用いたロック解除機構を組み込むことは,ピン91cをどこに形成すればよいのか,カム長穴93aをどこにどのように形成すればよいのか,ロック解除状態維持機構との関係をどのようにすればいいのかなど,様々な技術的工夫が必要であって,当業者が置換を試みることは有り得るが,それは机上の空論であって,実際には当業者であっても困難である旨主張する。
しかし,乙15の発明におけるロック解除機構を,乙9の発明におけるカム機構を用いたロック解除機構へ置換することは設計的事項にすぎない。すなわち,当業者は,第2ペグ(ピン91c)をホロワー上に形成する際,乙9の発明におけるピン91cがポール91の板面に形成されているから,これと同様にホロワーの板面に形成することとし,その際の選択肢として,ロック解除状態維持機構のペグ(第1ペグ)と同方向に突出するように設けることも容易である。また,第2ペグと第1ペグとをホロワーの同一板面上に並列に形成する場合,両者の干渉を回避するために,第2ペグと第1ペグとをホロワーの同一板面上に離間して配置し,その際は,段付き円形軌道が外側に存在するため,第1ペグを外側に配置することは,ありふれた選択であり,この場合には,第2ペグ(ピン91c)と嵌合するカム長穴93aが穿設されたレリーズプレート93を,ホロワーに重ねて配置し,カムと同期して回転するように構成すること,レリーズプレート93と第1ペグが干渉しないように,レリーズプレート93の形状を設定することも,当業者にとってむしろ当たり前の選択である。被告も,同様の思考経過を経て,被告製品を設計したのである。そこで,当業者にとって,リーフスプリングを用いたロック解除機構の代わりに,カム機構を用いたロック解除機構を乙15の発明におけるロック機構内に組み込むことは,思考レベルとしては低く,現実に困難な作業ではなく,単純に置換することが可能であるというべきである。
また,原告は,本件特許発明は,ホロワーに二つのペグを設け,これらのペグの間に薄板に形成された架橋片を介在させるという構成により,ロック解除動作とロック解除状態維持動作を確実に行えるという作用効果を有する旨主張するが,ロック解除動作を確実に行えるという効果は,乙9の発明におけるロック解除機構が有していた効果であり,ロック解除状態維持動作を確実に行えるという効果は,乙15の発明におけるロック解除状態維持機構が有していた効果であるから,原告が主張する本件特許発明の効果は,従来から存在し,当然予測できた効果に過ぎず,本件特許発明には,特有の効果は存在しない。
以上より,本件特許発明は,各引用発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,特許法第123条1項2号に該当し,本件特許権は無効とすべきことが明らかである。
(原告の反論) (1) 乙15の発明におけるロック機構に代えて,乙9の発明又は乙16の発明におけるロック機構を転用することは容易ではなく,本件特許発明は,当業者にとって容易想到というわけではない。
(2)ア 125821号公報(乙15)には,リーフスプリング4によりブロック3及びブロックプッシャー部材5を常に中心側に付勢して背もたれのロックを解除するロック解除機構(以下「ロック解除機構」という。)と,背もたれを前方に倒す場合に,操作レバーから手を離しても背もたれをロックさせないロック解除状態維持機構(以下「ロック解除状態維持機構」という。)が記載されている。
イ ロック解除機構は,スプリング10による反時計方向への付勢力に抗して操作レバーを時計方向に回動させると,操作レバーの回動に伴ってカム7も時計方向に回動し,カム7がブロック3及びブロックプッシャー部材5の半径方向外方向への押し付け力を解除することにより,ブロック3及びブロックプッシャー部材5は,リーフスプリング4による中心方向への付勢力によって中心方向に退避し,ブロックの上部歯3aと可動フランジ12の噛み合う部分112aとの噛合が解除され,A1-A3の範囲で背もたれの角度を自由に調整することができる機能を有する。しかし,操作レバーから手を離すと,操作レバーがスプリング10の付勢力により元の位置に復帰するように反時計方向に回動し,それにつれてカム7も反時計方向に回動してカム7がブロックプッシャー部材5とブロック3とを半径方向外方に押し付けることにより,ブロック3の上部歯3aと可動フランジ12の噛み合う部分112aとが噛合し,背もたれがロックされてしまう。そのため,いわゆるツードア乗用車で後部座席に乗り込むために背もたれを前に倒した場合には,操作レバーから手を離しても背もたれをロックさせないようにする機構が必要となる。
ウ ロック解除状態維持機構は,ロック解除動作により,ブロック上部歯3aが可動フランジ12の噛み合う部分112aとの噛合が解除された状態で,背もたれを車の前方方向に若干回動すると,ブロックプッシャー部材5の小片5aがアンラッチングリング18の厚さの厚い部分18b(半径方向内側に突出した円弧状の部分)に乗り上げ,ブロック3は半径方向外方への移動が制限されて上部歯3aと噛み合う部分112aが噛合できなくなるため,操作レバーから手を離しても,ブロックプッシャー部材5は,ブロックプッシャー部材5の小片5aがアンラッチングリング18の厚さの厚い部分18bに乗り上げていることによって,カム7を回動できない状態となることにより,背もたれはある前傾角度の範囲において,自由に回動することができるのである。
(3)ア 124028号公報(乙9)には,「操作レバー95をスプリング96の付勢力に抗して操作して一方向に回動させると,‥‥ポール91の外歯91aとラチエツト5の内歯51との噛合が解除される。結果,機構9がラチエツト5のロアアーム2に対する回動を許容する状態となる。‥‥アツパアーム3がロアアーム2に対して回動が許容された状態で,操作レバー95のスプリング96の付勢力に抗した操作を解除すると,‥‥ポール91の外歯91aとラチエツト5の内歯51とが噛合すると共にカム部材92の当接部92aとポール91の当接面91aとが当接してポール91の摺動動作が規制され外歯91aと内歯51との噛合が維持される。結果,機構9がラチエツト5のロアアーム2に対する回動を規制する状態となる。‥‥」と記載されている。上記記載により,操作レバー95から手を離すと,外歯91aと内歯51が噛合し,背もたれがロックされる構造,すなわちロック解除機構と同様の構造が開示されているが,ロック解除状態維持機構は開示されていないというべきである。
イ 仏国2215108号公報(乙16)にも,124028号公報(乙9)と同様の技術内容が開示されている。
(4) 本件特許発明の構成 ア 本件特許発明は,第2のペグ13がロック解除機構,第1のぺグ12がロック解除状態維持機構を構成する。
イ ロック解除機構は,背もたれの角度を調整するため,操作レバーをバネ9による反時計方向F1への付勢力に対して時計方向F2に回動させると,操作レバーの回動に伴ってカム8と薄板14が時計方向に回動し,カム8がホロワー5の半径方向外方向への押し付け力を解除すると同時に,薄板14の回動により開口部15が第2のペグ13を案内し,その面上に第2のペグ13を有しているホロワー5が半径方向中心側に移動すると,ホロワー5の先端外周部に形成された外歯部6は,リング4の歯部3との噛合が解除され,背もたれの角度を自由に調整する機構を有する。もっとも,操作レバーから手を離すと,操作レバーがバネ9の付勢力により元の位置に復帰するように反時計方向F1に回動し,つれてカム8も反時計方向に回動してカム8がホロワー5を押し上げることにより,ホロワー5の外歯部6とリング4の歯部3が噛合し,背もたれがロックされてしまうから,操作レバーから手を離しても背もたれをロックさせないようにして背もたれを前方に倒す場合には,ロック解除状態維持機構が必要となる。
ウ 操作レバーによりロックを解除したことにより,ホロワー5の外歯部6がリング4の歯部3との噛合が解除された状態で,背もたれを車の前方方向に若干回動すると,ホロワー5に取り付けられた第1のペグ12が円弧Bに乗り上げ,ホロワー5が半径方向外側への移動を制限されて外歯部6と歯部3との噛合ができなくなるため,この状態で操作レバーから手を離しても,ホロワー5は,第1ペグ12が円弧Bに乗り上げていることにより,カム8を回動させない状態となる。したがって,背もたれはある前傾角度の範囲において自由に回動することができる。これがロック解除状態維持機構である。
(5) 乙9の発明のロック機構を乙15の発明のロック機構に転用することの可否 ア 前記のとおり,乙15の発明におけるロック機構は,ロック解除機構及びロック解除状態維持機構から構成されているが,乙9の発明におけるロック機構は,ロック解除機構しか有していない。
イ 乙15の発明におけるロック解除機構は,操作レバー・カムが一体となって回動することにより,座席側の固定フランジ1に取り付けられたリーフスプリング4の中心方向への弾発的な付勢を制御することにより噛合・解除を実現している。
これに対し,乙9の発明におけるロック解除機構は,操作レバー・カム・レリーズプレートが一体となって回動し,座席側に支持されるポール91のピン91cと,座席側に支持されるのではなく,操作レバーの回動軸に支持されるカム93のカム長穴93aとによる中心方向へのカム作用による駆動の制御により噛合・解除を実現している。
すなわち,本件特許発明は,ロック解除機構とロック解除状態維持機構について,ホロワーに公知例にはみられない二つのペグを設けて,これらペグの間に薄板に形成された十分に狭い部分を備えた曲がった架橋片を挿通させることによって実現したもので,このような新規な構成によって,ロック解除動作とロック解除状態維持動作を確実に行えるという顕著な作用効果を奏するものである。
したがって,乙15の発明におけるリーフスプリング4を,乙9の発明におけるカム機構に置き換える場合,ピン91cをどこに設ければよいか,カム長穴93aをどこにどのように形成すればよいか,ロック解除状態維持機構との関係をどのようにすればよいか等,様々な工夫が必要であり,単純に置換することができるとの被告の主張は机上の空論にすぎない。被告は,124028号公報(乙9)記載のロック機構を,125821号公報(乙15)記載のロック機構として転用(置換)したならば,当然,2つのペグがホロワーの同一面上に設けられ,両ペグの間には薄板の架橋片が配置されることになるのが「当然」であると主張するが,なぜそのような構成が採用されることになるのが「当然」であるかについて,論理的な説明は一切されていない。
ウ したがって,本件特許発明は,各引用発明から容易に想到することができるものではなく,進歩性を有する。
4 争点4-原告の損害額について (原告の主張) (1) 被告は,本訴提訴時(平成16年5月17日)までに,被告製品を少なくとも280万個販売した。被告製品の出荷単価は350円であるから,その合計販売額は9億8000万円であるところ,本件特許権の実施料率は販売額の10%が相当であるから,原告は9800万円の実施料相当額の損害を被った。
(2) 弁護士費用 1000万円 (3) 合計 1億800万円 よって,原告は,被告に対し,損害賠償として1億800万円及びこれに対する侵害行為の後である平成16年5月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の反論) 原告主張の損害は,否認ないし争う。
当裁判所の判断
1 争点2(被告製品の構成要件充足性)について 本件については,事案の内容にかんがみ,まず争点2から判断する。
(1) 構成要件Fについて ア 被告製品の構成については,争点1に関する当事者の主張欄に記載したとおり,その一部について当事者間に争いがある。しかし,別紙原告物件説明書の記載のうち,aないしd,e(3),f(1)ないし(4),f(5)のうち「上記長穴状のカム穴は,溝幅が略均一でかつ全体の平面形状が円弧状をしており,カム穴の一端側は水平軸に近づき他端側は水平軸から離れるように渦状に配置されている。レリーズプレートがどのような角度位置にあっても,ポールの第2の突起の半径方向の移動は,このカム穴の存在によって,最大でも,このカム穴の上記略均一な半径方向の溝幅である小範囲内に規制されることになる。リクライニング機構のロック状態からロック解除方向にレリーズプレートを回転させると,このカム穴の外周側の円弧状内壁面とポールの第2の突起との摺動により,第2の突起及びポールは,緩やかにロック解除方向に退避するようになっている。」という部分及びhの各記載並びに被告製品の構造が別紙物件目録添付の図1ないし図8のとおりであることは,当事者間に争いはない。そこで,本件においては,被告製品の構成のうち,上記の当事者間に争いのない部分を前提として,構成要件Fの充足性についてまず検討する。
イ 「第2ペグ」をこの関節装置のロック解除に対応する離脱位置に保持することができる開口部15について (ア) 上記のとおり,被告製品のカム穴(183,184)が,「溝幅が略均一でかつ全体の平面形状が円弧状をしており,カム穴の一端側は水平軸に近づき他端側は水平軸から離れるように渦状に配置されている。」ことは,当事者間に争いがない。
(イ) 特許発明技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定められなければならず,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して解釈するものとされている(特許法70条1項,2項)。また,特許発明技術的範囲の解釈に当たっては,当該特許発明の出願当時の技術水準や出願経過等をも斟酌すべきである。
そこで,以下,構成要件Fにおける「第2ペグをこの関節装置のロック解除に対応する離脱位置に保持することができる開口部15」の意義を検討する。
原告は,構成要件Fにおける開口部の形状は,本件実施例の形状に限定されるものではないと主張する。
この点に関して,本件特許発明の特許出願前に頒布された以下の各刊行物には,車両シート用リクライニング機構に関する発明又は考案が示されており,ロック位置においてホロワーが往復運動可能とならないプレート(薄板)の開口部について,次の記載がある。
a 特開昭57-9415号公報(乙2)には,「各拘束部材6a,6bを回動中心Oに近づく方向に移動させるには操作板12Aに開口された長孔13a,13bが各係合ピン9a,9bを案内するので特別な復帰部材を設ける必要はない。」と記載され,図には開口部が均一の溝幅の長穴であるプレート(薄板)が示されている。
b 特開昭57-9416号公報(乙3)には,「第1及び第2の長孔24,25はその一端より他端側の方が円孔16の中心に近づくように屈曲して形成され,その結果アーム15の拘束の解除時には各拘束部材8A,8Bの係合ピン22,23が前記各長孔24,25に案内され,半ば強制的に各拘束部材8A,8Bを互に近づける方向に移動させることが可能となる。」と記載され,図には開口部が均一の溝幅の長穴であるプレート(薄板)が示されている。
c 特開昭57-9417号公報(乙4)には,「操作レバー29のハンドル29Bを矢印Q方向に引き上げると第2長孔32に第2係合ピン22が案内されて第2拘束部材20がシャフト15方向へ移動する。」と記載され,図には開口部が均一の溝幅の長穴であるプレート(薄板)が示されている。
d 特開昭57-9419号公報(乙5)には,「操作レバー19の握持部19Bを矢印Q方向へ引き上げると操作板19Aが回動して第1及び第2の係合ピン12,13が各長孔22,23に案内され,各拘束部材10,11が互いに近づくようになる。」と記載され,図には開口部が均一の溝幅の長穴であるプレート(薄板)が示されている。
e 特開昭60-135338号公報(乙6)には,「操作板15に取付けられた操作部材21を前記スプリング材18の付勢に逆らって操作し,操作板15を回動させると,第1及び第2の拘束部材11,12が係合ピン14と長溝16との係合により一対のガイド部材8のガイド面8aに沿って軸心方向に夫々移動する。」と記載され,図には開口部が均一の溝幅の長穴であるプレート(薄板)が示されている。
f 実願昭60-96134号(実開昭62-5047号)のマイクロフィルム(乙7)には,「案内突起23,23は操作板24に形成された弧状の案内孔26,26に案内されて操作板24の回動に伴って拘束部材19,19が上下の案内部材20,20との間を進退自在に摺動するように形成してある。」と記載され,図には開口部が均一の溝幅の長穴であるプレート(薄板)が示されている。
g 実願昭60-167402号(実開昭62-75734号)のマイクロフィルム(乙8)には,「レバー7は,第3図(a)に示すように,図示外の押込みスプリング20の弾性力に抗して下方に向けて回動動作させると,インナーツースピン18が中心部側に向けてその位置を変位するため,このインナーツースピン18が固着されたインナーツース12が中心部側に向けてガイドレール11のガイド溝11b内をスライドするようになっている。」と記載され,図には開口部が均一の溝幅の長穴であるプレート(薄板)が示されている。
h 特開平7-124028号公報(乙9)には,段落【0020】に「カム部材92の当接部92aとポール91の当接面91aとの当接が解除されポール91が摺動動作可能となると共にレリーズバー93のカム長穴93aとポール91のピン91cとのカム作用によつてポール91が摺動させられ,ポール91の外歯91aとラチェット5の内歯51との噛合が解除される。」と記載され,段落【0021】に「レリーズレバー93のカム長穴93aとポール91のピン91cとのカム作用によってポール91が摺動させられてポール91の外歯91aとラチェット5の内歯51との噛合すると共にカム部材92の当接部92aとポール91の当接面91aとが当接してポール91の摺動動作が規制され外歯91aと内歯51との噛合が維持される。」と記載され,図には開口部が均一の溝幅の長穴であるプレート(薄板)が示されている。
i 実公昭52-2171号公報(乙10)には,「又前記軸3には,操作板4を嵌合してある。該操作板4は,先端を延長して扇形状とし,その内側にカム作用をする略三角形状のカム孔6を穿孔しこのカム孔6内に固定金具1背部に設けた案内板11の間を移動できるように嵌めたロックプレート10からのピン12を遊嵌してある。」と記載され,図には開口部がロック位置においてホロワーの半径方向の往復運動を可能としない溝幅の長穴であるプレート(薄板)が示されている。
j 実願昭62-4509号(実開昭63-112843号)のマイクロフィルム(乙11)の第1図には,開口部がロック位置においてホロワーの半径方向の往復運動を可能としない溝幅の長穴であるプレート(薄板)が示されている。
k 特開昭63-117711号公報(乙12)には,「ここで背凭部2の傾斜角度を調整すべく,図示しないリクライニングハンドルを操作すると,両操作ワイヤW1,W2が同時に牽引されて左,右のカムプレート131,13 2がばね161,16 2の付勢力に抗して同時に第4図時計方向に回動される。この回動により両カムプレート131,13 2は,第8図に示すように左,右ロックギヤ10 1,10 2のレリーズピン15 1,15 2が係合孔13a 1,13a 2の他端に係合するロック解除位置まで移動して,左,右ロックギヤ101,10 2を左,右インナギヤI1,I 2の内歯6 1,6 2より離間させるので,背凭部2の自由な傾動が許容されるようになる。」と記載され,図には開口部がロック位置においてホロワーの半径方向の往復運動を可能としない溝幅の長穴であるプレート(薄板)が示されている。
l 実願昭63-62587(実開平1-169149号)のマイクロフィルム(乙13)の第2図には,開口部がロック位置においてホロワーの半径方向の往復運動を可能としない溝幅の長穴であるプレート(薄板)が示されている。
m 実願平2-115986号(実開平3-101244号)のマイクロフィルム(乙14)には,「この状態でシートバック側の可動ブラケット3を前倒または位置を調整する場合には,カバー19の凹部20内にある操作レバー11aのノブ18を握って操作レバー11aを軸2を中心にして引き上げると,操作レバー11aに穿った長孔23にはまった張出片6’からの軸14aは長孔23の内縁に係止されて作動板6をスプリング26に抗して回動し,カム片7がロックプレート9から外れると共にカム孔5に嵌まるピン10を介してロックプレート9は案内板8に案内されて係止歯21’からロックプレート9の先端の係合歯9’が離れ係止を解除して可動ブラケット3をフリー状態とする。」と記載され,図には,開口部がロック位置においてホロワーの半径方向の往復運動を可能としない溝幅の長穴であるプレート(薄板)が示されている。
(ウ) 上記aないしm記載の各刊行物には,「開口部がロック位置においてホロワーの半径方向の往復運動を可能としない溝幅の長穴であるプレート(薄板)」の構造として,被告製品と同様である「溝幅が略均一でかつ全体の平面形状が円弧状の長穴状のカム穴」の構造が開示されており,当該技術は公知であったものと認められる。
(エ) 証拠(甲1)によると,本件明細書には,発明の詳細な説明欄において,開口部15に関し,以下のとおりの記載がある。
「【0022】各開口部15は,周辺が軸Xの周りに長く,この軸から最も遠いその縁には,それが傾斜部Rによって互いに結合された直径の異なる二つの円弧DおよびEを含むという意味で段状である。
【0023】円弧DおよびEの直径は,次のように決める。即ち:大きい直径の円弧Dが対応するペグ13の半径方向に向い側にきたとき,後者がその全半径方向行程を自由に運行できる(図3参照),並びに対照的に,直径の小さい円弧Eがこのペグの向い側にくると,この円弧が半径方向にこのペグに押付けられ,それを,この関節装置の非ロックに対応するこの軸に最も近い位置に保持する(図1参照)。
【0024】傾斜部Rのお陰で,板14を廻すだけで,この傾斜部をペグ13が滑動し,このペグをその離脱した非ロック位置へ確実に移行させる。
【0025】勿論,各ホロワーが半径方向の往復運動を完全にできるようにするために,保持された板14は,各ホロワーの二つのペグ12および13の間に,十分狭い部分16aを有する,曲った架橋片16を含む必要がある。」 「【0027】明確に,この関節装置は次のように作用する。
【0028】休止状態(図3)で,カム8は,ホロワー5が軸Xから最も遠い半径方向位置にあって,それらの歯部6が移動チーク2の歯部3と噛合った角度位置にあり:従って背もたれが固定されている。
【0029】この背もたれの角度位置を変えるために,シートの使用者がレバーハンドル11をばね9の戻し力に抗して作動すると,次の二つの結果が生ずる:ホロワー5に押付けられてそれらを歯付きリング3と係合させる,カム8の半径方向に突出する部分が角度的に動かされて,ホロワーを半径方向に軸Xの方に動けるようにし,これらの移動が板14の開口部15とペグ13の相互作用によって行われる。
【0030】換言すれば,各ホロワー5の歯部6が移動チーク2の歯部3から半径方向に離脱することについての“確実な”制御が見られる。」 (オ) 本件明細書の上記各記載に照らせば,本件特許発明は,「溝幅が略均一でかつ全体の平面形状が円弧状の長穴状のカム穴」という公知技術が存在する状況の下において,開口部について,周辺が軸Xの周りに長く,この軸から最も遠いその縁には,それが傾斜部Rによって互いに結合された直径の異なる二つの円弧DおよびEを含むという意味で段状であり(【0022】),円弧DおよびEの直径は,大きい直径の円弧Dが対応するペグ13の半径方向に向い側にきたとき,後者がその全半径方向行程を自由に運行でき(図3参照),対照的に,直径の小さい円弧Eがこのペグの向い側にくると,この円弧が半径方向にこのペグに押付けられ,それを,この関節装置の非ロックに対応するこの軸に最も近い位置に保持する(図1参照)構造を有し(【0023】),傾斜部Rにより,板14を廻すだけで,この傾斜部をペグ13が滑動し,このペグをその離脱した非ロック位置へ確実に移行させる(【0024】)ことにより,構成要件Fにおける「第2ペグの一つと相互作用してその軸Xの方への移行を確実に制御し,それをこの関節装置のロック解除に対応するカムの位置に対して離脱位置に保持することができる開口部15」とした点において,その本質的特徴を有するものというべきである。
そこで,「第2ペグをこの関節装置のロック解除に対応する離脱位置に保持することができる開口部15」とは,本件実施例の形状,すなわち,「ホロワーの半径方向の移動を可能にするに十分狭い部分16aを備えるとともに(構成要件G参照),ホロワーが非ロック位置にある場合には,ホロワー5の半径方向の移動を不可能にするよう円弧Eを底面とする十分狭くない架橋片部分を備えるものであり,2つの架橋片部分の間に,ホロワーが半径方向に移動可能なロック位置からそれが不可能な非ロック位置への二値的な制御のために2つの円弧をつなぐ段差を設けているもの」に例示される,段差のある形状を意味するというべきである。
(カ) これに対し,被告製品の「カム穴183,184」は,従来技術と同様,段差がない均一の溝幅の穴のレリーズプレートを用いるものにすぎず,本件明細書ないし願書に添付された図面に記載された開口部〔図1(15),図3 E,R,D〕の構造により例示された段差のある構造とは異なるものと認められる。また,被告製品のカム穴183,184は,その回転中心からの距離が滑らかに変化する渦巻状をしているため,「第2の突起143,153」を,リクライニング装置のロック解除位置に対応する離脱位置に保持することもできない。
上記によれば,被告製品は,構成要件Fを充足しないというべきである。
(2) 構成要件Gについて ア 「開口部15が明いている薄板14における十分狭い部分16aを備えた,曲がった架橋片16」について 上記のとおり,被告製品のカム穴「183,184」が,段差のない略一の横幅の穴のレリーズプレートであることは,当事者間に争いがない。
また,本件特許発明の特許請求の範囲における開口部15の形状は,本件実施例により例示される段差がある形状に限定して解釈すべきことも,上記のとおりである。
そして,本件実施例において,構成要件Gにおける「十分狭い部分16aを備えた曲がった架橋片16」が,構成要件Fにおける開口部15の形状と対応した形状であることは,「開口部15」及び「曲がった架橋片16」のいずれもが薄板14に存在しており,薄板14において,開口部15の上部部分が曲がった架橋片16を構成していることからも明らかである。
そこで,被告製品のカム穴「183,184」が,略均一の横幅の穴である以上,被告製品には「ホロワーの半径方向の往復運動を可能にするに十分狭い部分16aを備えた,曲がった架橋片」に相当する部分は存在しない。
イ 「ホロワーの半径方向の往復運動を可能にするに十分狭い部分16aを備えた」について 前記のとおり,被告製品のカム穴「183,184」が,略均一の横穴であるから,その外周側の部分が,「ポール140,150」の「半径方向の往復運動」を可能としていないことはその構造上明らかである。
そこで,被告製品には,「半径方向の往復運動を可能にする十分狭い部分16a」に相当する部分は存在しない。
ウ 上記によれば,被告製品は,構成要件Gを充足しないというべきである。
(3) 原告の反論について ア 原告は,本件特許発明技術的範囲について,開口部15の構造は,本件実施例が例示する形状に限定されないことは,本件明細書の記載上からも(「【0013】以下に,この発明の好適例を,添付の図面を参照して,勿論,非限定的な方法で説明する。」)明らかであるし,本件特許発明は,開口部の形状のみならす,ロック解除機構とロック解除状態維持機構とを,ホロワーに公知例にはみられない二つのペグを設けて,これらペグの間に薄板に形成された十分に狭い部分を備えた曲がった架橋片を挿通させることによって実現した点に新規性を有するなどと主張する。
イ しかし,本件特許発明における開口部15の形状が本件実施例に例示されている段差のある形状に限定されず,被告製品のような略均一の横幅の構造をも含むのであれば,当該開口部の構成は,構成要件Fについての上記記載のとおり,本件特許発明の出願当時における公知技術にすぎない。また,その場合,以下に詳述するとおり,本件特許発明のその余の構造は,各引用発明においてすべて開示されているから,本件特許発明進歩性を欠き,無効理由を有することとなる。
(ア) 本件明細書に参考文献として記載されている125821号公報(乙15)には,次の構成を有する装置に関する発明が記載されている。
「座席の座る位置の枠に取り付けられる固定環状フランジと,一方では,この固定フランジの内部にはカップ形状の凹部が設けられ,さらにがセルのセットを備えたものであり,そして他方では,大きな直径を有する環状凹部を有し,この環状凹部は,シートの背も垂れ部の枠に取り付けるための凹部であり,さらに固定フランジのセルを有する。これは,互いにその間隔を120゜であるように取り付けられたセットを有しており,各々上部歯を有し,これらのブロックは,ブロックプッシャー部材を圧迫しており,この部材は各々可動フランジの方向に向いている小片を有するもので,これらブロックプッシャー部材は,ステップを3つ有し,そして中央シャフトに取り付けられているもので,この中央シャフトは,カムの回転を操縦するもので,さらにこのカムは,3ステップの延長部を有する。この延長部の一方は,くぼみ部であり,他方は狩猟用ラッパの形状をし,一先端固定フランジの内部に形成されたキャビティに収容されているスプリングのセットと共同するシャンクのセットであり,そのブロックプッシャー部材の小片は,アンラッチングリングと共同して動き,このアンラッチングリングは,可動フランジの内部に形成され,カムが,スプリングの動きに対して収縮する方向に回転したとき,シートの背も垂れ部の調整装置の中央に押し戻した状態で保持するために形成されている厚さの厚い部分を3箇所有する止め金が外れているリングと共同して働くものである。」 (イ) 本件特許発明と,乙15の発明との一致点は,次のとおりである。
乙15発明の固定フランジ1,可動フランジ12,噛み合わせ112a,ブロック3,上部歯3a,カム7,小片5a,リング22(厚さの厚い部分18bを含む。)が,それぞれ本件特許発明の第1チーク1,第2チーク2,歯部3,ホロワー5,外歯部6,カム8,ペグ12,段付き円形軌道Pに相当する。
上記によれば,125821号公報(乙15)には,本件特許発明における構成要件AないしEが開示されているというべきである。
ウ(ア) 本件特許発明の出願前に頒布された刊行物である124028号公報(乙9)には,次の構成を有する装置に関する発明が記載されている。
「‥‥シートクツシヨン1の後部両側には夫々ロアアーム2,3が固定されており,シートバツク4の下部両側にはラチエツト5,6が固定されている。
このロアアーム2,3とラチエツト5,6とは夫々後述するブツシユ7,8を介してロアアーム2,3に対してラチエツト5,6が回動自在となるように連結されており,さらに,ロアアーム2,3とラチエツト5,6とはラチエツト5,6のロアアーム2,3に対する回動を規制状態又は許容状態とする後述の機構9,10によつて関連づけられている。‥‥機構9は,対のポール91,カム部材92及びレリーズプレート93とを有して構成されている。‥‥ブツシユ7は,貫通穴71を有する筒状を呈したものであつて,ロアアーム2に形成された貫通穴21内に嵌挿されてロアアーム2の一側面22に立設されるように溶接等によつて固定されている。ラチエツト5はロアアーム2の一側面22側に配置されブツシユ7の外周に挿通されて回動自在に支持され,さらに,ブツシユ7を中心として内歯51が半抜き形成されている。ロアアーム2には径方向に延在する対の開口23がブツシユ7を中心として対称となるように形成されている。対のポール91は,この開口23内に夫々開口23の側壁に沿つて摺動自在に支持されており,摺動方向と直交する一端面には外歯91aが,他端面には摺動方向に対して傾斜した当接面91bが夫々形成され,さらに,側面にはピン91cが夫々半抜き形成されている。ブツシユ71には回転軸94が貫通穴71に挿通されて回転自在に支持されており,その両端はブツシユ71より外方に延在している。カム部材92は当接部92aが形成された菱形形状を呈するものであつて,ロアアーム2の他側面23側に配置され回転軸94の一端に一体回転するように固着されている。レリーズプレート93はロアアーム2の他側面23側に配置され回転軸94の一端に一体回転するように固着されている。このレリーズプレート93には対のカム長穴93aが形成されている。‥‥このように構成されたリクライニング機構9のポール9は,その厚み内において外歯91aがロアアーム2の他側面22側に配置されたラチエツト5の内歯51と噛合可能に且つ当接面91bがカム部材92の当接部92aと当接可能に開口23内に配置される。尚,ロアアーム2には厚み方向にずれた絞り部分2aが形成されており,開口部23はこの絞り部分2aと本体部分2bとの間の連結部分2cに形成され,カム部材92はこの絞り部分2a内に位置して本体部分2bと同一平面上に配置される。‥‥回転軸94の他端には操作レバー95が一体回転するように固着されている。‥‥この操作レバー95とロアアーム2との間にはスプリング96が配設されており,操作レバー95はこのスプリング96の付勢力を受けてポール91の外歯91aとラチエツト5の内歯51とが噛合し且つ外歯91aと内歯51との噛合を維持させるべくカム部材92の当接部92aとポール91の当接面91bとが当接してポール91の摺動動作が規制されるように他方向に回動付勢されている。尚,操作レバー95を設けずに,レリーズプレート93をケーブル等で直接操作するようにしてもよい。この場合,回転軸94は必ずしもカム部材92及びレリーズプレート93と共に回転するものでなくてもよい。‥‥ブツシユ7回りには一端がブツシユ7に係止され且つ他端がラチエツト5に係止されたスパイラルスプリング11が配設されており,このスパイラルスプリング11はポール91の外歯91aとラチエツト5の内歯51との噛合が解除された状態においてラチエツト5をロアアーム2に対して他方向‥‥に付勢する。又,レリーズプレート93にはフランジ部93bが形成されており,レリーズプレート93はこのフランジ部93bに連結された連動棒12を介して機構10のレリーズプレートに連結されている。
‥‥操作レバー95をスプリング96の付勢力に抗して操作して一方向‥‥に回動させると,回転軸94を介してカム部材92及びレリーズプレート93が回転する。これにより,カム部材92の当接部92aとポール91の当接面91aとの当接が解除されポール91が摺動動作可能となると共にレリーズレバー93のカム長穴93aとポール91のピン91cとのカム作用によつてポール91が摺動させられ,ポール91の外歯91aとラチエツト5の内歯51との噛合が解除される。結果,機構9がラチエツト5のロアアーム2に対する回動を許容する状態となる。
尚,レリーズプレート93の回転は連動棒12を介して機構10のレリーズプレートも回転させられるため,機構9と同様に機構10もラチエツト5のロアアーム2に対する回動を許容する状態となる。‥‥アツパアーム3がロアアーム2に対して回動が許容された状態で,操作レバー95のスプリング96の付勢力に抗した操作を解除すると,操作レバー95はスプリング96の付勢力を受けて他方向に回動し,回転軸94を介してカム部材92及びレリーズプレート93が回転する。これにより,レリーズレバー93のカム長穴93aとポール91のピン91cとのカム作用によつてポール91が摺動させられてポール91の外歯91aとラチエツト5の内歯51との噛合すると共にカム部材92の当接部92aとポール91の当接面91aとが当接してポール91の摺動動作が規制され外歯91aと内歯51との噛合が維持される。結果,機構9がラチエツト5のロアアーム2に対する回動を規制する状態となる。尚,レリーズプレート93の回転は連動棒12を介して機構10のレリーズプレートも回転させられるため,機構9と同様に機構10もラチエツト5のロアアーム2に対する回動を規制する状態となる。‥‥ポール91がロアアーム2の開口21内に配置されるので,ポール91及びカム部材92がレリーズプレート93が配置されるロアアーム2の他側面23側に露出することとなり,ロアアーム2の一側面22側にはラチエツト5が存在することとなる。よつて,ポール91及びカム部材92とレリーズプレート93とが近接し且つロアアーム2とラチエツト5とが近接する。これにより,ポール91とレリーズレバー93との連係として半抜き形成されたピン91cを,カム部材92とレリーズプレート93との連係として夫々の回転支持及び操作を行う回転軸94を,ラチエツト5のロアアーム2への支持としてロアアーム2に固定されたブツシユ7を夫々利用でき,ラチエツト5のロアアーム2への支持構造やポール91及びカム部材92とレリーズプレート93との連係構造が簡素化される。特に,ピン91c及び回転軸94の利用は装置全体の軸方向厚みをより小さくすることに寄与され,ブツシユ7の利用はラチエツト5のロアアーム2に対する回動を安定化することに寄与される。‥‥本発明によれば,ポールをロアアームの開口内に配置したので,ポール及びカム部材が操作部材が配置されるロアアームの他側面側に露出することとなり,ロアアームの一側面側にはラチエツトが存在することとなる。これにより,ポール及びカム部材と操作部材とを近接させ且つロアアームとラチエツトとを近接させることができ,結果,ラチエツトのロアアームへの支持構造やポール及びカム部材と操作部材との連係構造を簡素化することができる。」 (イ) 本件特許発明と,乙9の発明との一致点は,次のとおりである。
乙9発明の装置のピン91c,レリーズプレート93,カム長穴93aがそれぞれ本件特許発明の第2ペグ13,薄板14,開口部15に相当する。
また,乙9発明の装置のレリーズプレート93の外縁とカム長穴93aの間の部分,レリーズプレート93の外縁とカム長穴93aの間の部分のうちの幅の狭い部分がそれぞれ曲った架橋片16,十分狭い部分16aに相当する。
上記によれば,124028号公報には,原告の上記主張を前提とすると,構成要件F,構成要件G及びHが開示されているというべきである。
カ 本件特許発明と各引用発明との対比 (ア) 上記のとおり,原告の主張を前提とすると,125821号公報(乙15)には,本件特許発明における構成要件AないしEが開示されており,124028号公報(乙9)には,構成要件F,構成要件G及びHがそれぞれ開示されている。
そして,本件特許発明におけるロック機構も,乙15発明及び乙9発明におけるロック機構も,車両シート用関節装置という同一技術分野に属するものであることに照らせば,乙9の発明におけるロック機構を乙15の発明のロック機構として用いることは当業者にとって容易に想到することができるというべきである。
したがって,原告が主張するように本件特許発明における開口部15の形状が,本件実施例により例示されている段差のある形状に限定されず,被告製品が採用する公知技術である略均一の横幅の構造をも含むのであれば,本件特許発明は,当業者が本件特許発明の出願当時の公知技術である乙15の発明及び乙9の発明を組み合わせることにより,容易に想到することができたものということとなる。
(イ) 上記のとおり,原告の主張を前提とすると,本件特許権は,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものとして,無効理由を有することが明らかといわざるを得ないこととなる(したがって,いずれにしても,本件特許権に基づく原告の請求は棄却を免れない。)。
2 結論 以上によれば,被告製品は,本件特許発明技術的範囲に属さないものである。したがって,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
よって主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録別添図1ないし8の各構成を有する下記製品番号の車両シート用リクライニング機構記・72510-214WR・72520-214WR・451305-0001-RAA,RAC,RAE,RAF,RAG,RAH,RAJ・451306-0001-RAA,RAC,RAE,RAF,RAG,RAH,RAJ・451305-0005-R00,RAA,RAB・451306-0004-R00,RAA,RAB図1図2図3図4図5図6図7図8(別紙)原告物件説明書aシートの背もたれの傾斜角をその座部に関して水平軸の周りに調節できる車両シート用リクライニング機構(90)である。
b(1)シートの座部に両側に固定することが予定されている略円板状のベースアーム(100)とシートの背もたれの両側に固定することが予定されている略円蓋状のラチェット(130)を具備する。
(2)ベースアームとラチェットは,対向的に重ね合わせて閉じた空間を形成するように,かつ,それらの円中心と直交する水平軸の周りに相対的に旋回可能に取り付けられることが予定されている。
(3)ラチェットの内周の全周にわたって半径方向内側に向かう内歯部(133)が形成されている。
c(1)ベースとラチェットで形成される空間の内部には,ラチェットの内歯部と噛み合うことのできる外歯部(141,151)を備えるポール(140,150)が,水平軸を挟んだ対称位置に2個配されている。
(2)ベースアームにはガイド突起(105,106,107,108)が形成されており,各ポールがガイド突起の側面にガイドされて半径方向に滑動できるようになっている。
(3)各ポールが半径方向外側に滑動するとき,各ポールの外歯部がラチェットの内歯部と噛み合ってベースアームとラチェットの相対的旋回が禁止され,リクライニング機構はロック状態となり,ポールが半径方向内側に滑動するとき,ポールの外歯部はラチェットの内歯部から離脱して,ベースアームとラチェットの相対的旋回が解放され,リクライニング機構はロック解除状態となる。
d(1)ベースアームとラチェットで形成される空間の内側に,水平軸の周りに回転できるようにカム(170)が取り付けられている。
(2)上記カムは,ポールの半径方向の滑動を制御するもので,スパイラルスプリング(191,195)によって付勢されることによって,ポールをその外歯部がラチェットの内歯部と噛み合う位置に押し付け,リクライニング機構のロック状態を保持する。すなわち,シートの背もたれを一定の傾斜角で休止させる場合のポールの位置を保持する。
(3)シート外側のリクライニング機構には,シートに座っている人が,上記カムをスパイラルスプリングによる付勢方向に逆らって回動させることにより,ポールを半径方向内側に滑動させてその外歯部をラチェットの内歯部から離脱させて,背もたれの傾斜角度を作動させうるポール位置とするため,水平軸上にベースアームとラチェットを貫通して設けられるヒンジピン(120)には,操作レバーが設けられている。
e(1)ラチェットの内歯部の内側には,内歯部と同軸的に,さらに深い内側空間が形成されるように円形状凹部が形成されており,この円形状凹部の全内周にわたって底面からは段差を設けた環状部分が形成され,この環状部分の内周壁面には,中心方向に突出するトッピング(突部)(501,503,505,507)が形成されている。
(2)トッピング(501,503,505,507)の先端面は,水平軸と平行な平面である。
(3)各ポールの外歯部に比較的近い面上には,第1の突起(611,613)が形成されている。
(4)欠番(被告物件説明書e’(4)参照)(5)背もたれのアンロック角度範囲(たとえば,30度)に亘って,ラチェットの内歯部とポールの外歯部との噛合が解除された位置にポールを保持できるように,第1の突起(611,613)の上記円弧状外周面の円弧方向の長さ(前記の背もたれのアンロック各度範囲である30度に亘る円弧の長さ)は,対をなすトッピング(501と503,505と507)相互の間隙T1及びT2の円周方向の幅よりも大きく設定されている。
f(1)各ポールの背部に近い面上には,軸方向に第2の突起(143,153)が形成されている。
(2)前記カムの前部及び後部にそれぞれ近い2箇所の面上には,軸方向にそれぞれ突起(176,177)が形成されている。
(3)カムのラチェット側の面上には,レリーズプレート(180)が,その2箇所の小孔(181,182)に上記カムの2箇所の突起がそれぞれ嵌合することにより,固定されている。
(4)上記レリーズプレートには,各ポールの第2の突起がそれぞれ挿通する長穴状のカム穴(183,184)が2箇所設けられている。
(5)上記長穴状のカム穴は,溝幅が略均一でかつ全体の平面形状が円弧状をしており,カム穴の一端側は水平軸に近づき他端側は水平軸から離れるように渦状に配置されている。レリーズプレートがどのような角度位置にあっても,ポールの第2の突起の半径方向の移動は,このカム穴の存在によって,最大でも,このカム穴の上記略均一な半径方向の溝幅である小範囲内に規制されることになる。リクライニング機構のロック状態からロック解除方向にレリーズプレートを回転させると,このカム穴の外周側の円弧状内壁面とポールの第2の突起との摺動により,第2の突起及びポールは,緩やかにロック解除方向に退避するようになっている。
g各ポールの第1の突起と第2の突起の間を挿通することとなる上記レリーズプレート各カム穴の水平軸から遠い側の縁部は,レリーズプレートの外周の円弧と,この円弧とは遍心した円弧(カム穴の外周側の円弧)とで挟まれた不等幅の弧状部でなる。カム穴(183)の弧状縁部のうち右側部分(カム穴(184)の弧状縁部のうち左側部分)は,第2の突起がポールを伴って外方向に自由に移動できるように十分狭く形成されている。
h車両シート用リクライニング機構である。・(別紙)被告物件説明書a’シートの背もたれの傾斜角をその座部に関して水平軸の周りに調節できる車両シート用リクライニング機構(90)である。
b’(1)シートの座部に両側に固定することが予定されている略円板状のベースアーム(100)とシートの背もたれの両側に固定することが予定されている略円蓋状のラチェット(130)を具備する。
(2)ベースアームとラチェットは,対向的に重ね合わせて閉じた空間を形成するように,かつ,それらの円中心と直交する水平軸の周りに相対的に旋回可能に取り付けられることが予定されている。
(3)ラチェットの内周の全周にわたって半径方向内側に向かう内歯部(133)が形成されている。
c’(1)ベースとラチェットで形成される空間の内部には,ラチェットの内歯部と噛み合うことのできる外歯部(141,151)を備えるポール(140,150)が,水平軸を挟んだ対称位置に2個配されている。
(2)ベースアームにはガイド突起(105,106,107,108)が形成されており,各ポールがガイド突起の側面にガイドされて半径方向に滑動できるようになっている。
(3)各ポールが半径方向外側に滑動するとき,各ポールの外歯部がラチェットの内歯部と噛み合ってベースアームとラチェットの相対的旋回が禁止され,リクライニング機構はロック状態となり,ポールが半径方向内側に滑動するとき,ポールの外歯部はラチェットの内歯部から離脱して,ベースアームとラチェットの相対的旋回が解放され,リクライニング機構はロック解除状態となる。
d’(1)ベースアームとラチェットで形成される空間の内側に,水平軸の周りに回転できるようにカム(170)が取り付けられている。
(2)上記カムは,ポールの半径方向の滑動を制御するもので,スパイラルスプリング(191,195)によって付勢されることによって,ポールをその外歯部がラチェットの内歯部と噛み合う位置に押し付け,リクライニング機構のロック状態を保持する。すなわち,シートの背もたれを一定の傾斜角で休止させる場合のポールの位置を保持する。
(3)シート外側のリクライニング機構には,シートに座っている人が,上記カムをスパイラルスプリングによる付勢方向に逆らって回動させることにより,ポールを半径方向内側に滑動させてその外歯部をラチェットの内歯部から離脱させて,背もたれの傾斜角度を作動させうるポール位置とするため,水平軸上にベースアームとラチェットを貫通して設けられるヒンジピン(120)には,操作レバーが設けられている。
e’(1)ラチェットの内歯部の内側には,内歯部と同軸的に,さらに深い内側空間が形成されるように円形状凹部が形成されており,この円形状凹部の内周壁面には,中心方向に突出するトッピング(突部)(501,503,505,507)が設けられている。
(2)トッピング(501,503,505,507)の先端面は,水平軸と平行な平面であり,トッピング(501,503)の上記平面は,その間隙T1側の肩部よりも反対側の肩部が高い平面,すなわち,間隙T1の反対側の肩部が水平軸に近づくように突き出た傾斜平面となっており,トッピング(505,507)の上記平面は,その間隙T2側の肩部よりも反対側の肩部が高い平面,すなわち,間隙T2の反対側の肩部が水平軸に近づくように突き出た傾斜平面となっている。
(3)各ポールの外歯部に比較的近い面上には,第1の突起(611,613)が形成されている。
(4)第1の突起(611)は,平面形状が円弧状になるように突設され,トッピング(503)にのみ摺接するものであり,第1の突起の円弧状外周面は,トッピング(503)の傾斜平面上の高い肩部側にその外周面上の接触位置を変えながら摺接するものである。もう一つの第1の突起(613)も,同様に,平面形状が円弧状になるように突設され,トッピング(507)にのみ摺接するものであり,第1の突起の円弧状外周面は,トッピング(507)の傾斜平面上の高い肩部側その外周面上の接触位置を変えながら領域に摺接するものである。
(5)背もたれのアンロック角度範囲(たとえば,30度)に亘って,ラチェットの内歯部とポールの外歯部との噛合が解除された位置にポールを保持できるように,第1の突起(611,613)の上記円弧状外周面の円弧方向の長さ(前記の背もたれのアンロック角度範囲である30度に亘る円弧の長さ)が確保できるように設定されている。
f’(1)各ポールの背部に近い面上には,軸方向に第2の突起(143,153)が形成されている。
(2)前記カムの前部及び後部にそれぞれ近い2箇所の面上には,軸方向にそれぞれ突起(176,177)が形成されている。
(3)カムのラチェット側の面上には,レリーズプレート(180)が,その2箇所の小孔(181,182)に上記カムの2箇所の突起がそれぞれ嵌合することにより,固定されている。
(4)上記レリーズプレートには,各ポールの第2の突起がそれぞれ挿通する長穴状のカム穴(183,184)が2箇所設けられている。
(5)上記長穴状のカム穴は,溝幅が略均一でかつ全体の平面形状が円弧状をしており,カム穴の一端側は水平軸に近づき他端側は水平軸から離れるように渦状に配置されている。レリーズプレートがどのような角度位置にあっても,ポールの第2の突起の半径方向の移動は,このカム穴の存在によって,最大でも,このカム穴の上記略均一な半径方向の溝幅である小範囲内に規制されることになる。リクライニング機構のロック状態からロック解除方向にレリーズプレートを回転させると,このカム穴の外周側の円弧状内壁面とポールの第2の突起との摺動により,第2の突起及びポールは,緩やかにロック解除方向に退避するようになっている。この退避動作時,ポールの半径方向の移動は,カムにより,水平軸方向の移動が直接規制されていると共に,第2の突起を介して,カム穴の外周側の円弧状内壁面により,水平軸方向と逆方向の移動が間接的に規制されている。
g’各ポールの第1の突起と第2の突起の間を挿通することとなる上記レリーズプレートの各カム穴の水平軸から遠い側の縁部は,レリーズプレートの外周の円弧と,この円弧とは偏心した円弧(カム穴の外周側の円弧)とで挟まれた不等幅の弧状部でなる。この弧状部の狭い部分に隣接する開口部部分も広い部分に隣接する開口部部分も,略均一溝幅のスリットであり,弧状部の狭い部分であっても,ポールの半径方向の往復運動は上記カム穴の略均一な半径方向の溝幅に規制されている。
h’車両シート用リクライニング機構である。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 鈴木千帆
裁判官 荒井章光