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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10065審決取消請求事件 判例 特許
平成19ネ10010特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成10行ケ132審決取消請求事件 判例 特許
平成20ネ10027特許権差止請求権不存在確認請求控訴事件 判例 特許
平成18行ケ10096審決取消請求事件 判例 特許
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事件 昭和 46年 (ワ) 406号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1973/11/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
(原告ら)被告は原告積水樹脂株式会社に対し金一、四一六万円およびこれに対する昭和四六年二月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
被告は原告柴田台紙株式会社に対し金四二〇万円およびこれに対する昭和四六年二月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
被告は別紙(イ)号目録記載のアルバム用単位葉および(ロ)号目録記載のアルバムを生産し、譲渡し、譲渡のために展示してはならない。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決および第一、二項につき仮執行の宣言。
(被告) 主文同旨の判決。
原告の主張
(請求の原因)一、原告積水樹脂株式会社はつぎの特許発明(以下「本件特許発明」という)の特許権者であり、同柴田台紙株式会社は本件特許権についての範囲全部の専用実施権者である。
名称 アルバムもしくはスクラツプブツク特許番号 第二七六九四一号出願 昭和三三年八月七日出願公告 昭和三五年一〇月二六日(昭和三五―一六一六九)登録 昭和三六年五月二五日特許請求の範囲「本文に詳記したようにセロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質によりなるフイルムもしくはシートを基体とし、該基体面に感圧性接着剤を塗着しその上をセロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなる透明なフイルムもしくはシートで被覆して単位葉を形成し、該単位葉を適宜枚数重ねて製本したことを特徴とするアルバムもしくはスクラツプブツク。」 なお、原告積水樹脂株式会社(出願時の商号・アドヘヤ化工株式会社)は訴外【A】と本件特許の共同出願をし、登録時においては右両者が本件特許権を共有していたが、昭和四五年七月一日同訴外人の持分放棄により同日以降同原告のみが本件特許権者となり、同年九月二日その旨の登録を了した。そして、同年八月一八日原告柴田台紙株式会社は本件特許権について原告積水樹脂株式会社より範囲全部の専用実施権の設定を受け(同時に原告積水樹脂株式会社のため許諾による範囲全部の通常実施権を設定)、同年九月二五日その旨の登録を了した。
二 本件特許出願時である昭和三三年八月七日当時においては、アルバムまたはスクラツプブツクはつぎのようなものであつた。
1、厚紙を複数葉重ね合せて製本したもの。―このものは写真等を貼付するには糊剤を用いるため貼付の際に糊剤を必要とし、かつ一旦貼着されたものを剥離するときは厚紙の表面が剥ぎ取られるのを常とする欠点を有する。
2、二重となした紙葉を複数葉重ねて製本し、各葉に切込みを設け、該切込みに名刺等被貼着物の隅角部を挿入するようにしたもの。―このものは定まつた形状、大きさのもの以外を挿入しえず、かつ挿入の際切込部が破損しやすく、しかも被貼着物が離脱しやすい欠点を有する。
本件特許発明は、非繊維質(例えばセロフアンもしくはプラスチツクス)よりなるフイルムもしくはシートを基体とし、該基体面に感圧性接着剤を塗着し、その上を非繊維質(例えばセロフアンもしくはプラスチツクス)よりなる透明なフイルムもしくはシートをもつて被覆して単位葉を形成する構成としたから、前記従来技術に伴う欠点をすべて除去克服するものであるうえ、被貼付物の表面が被覆膜によつて保護される利点を伴うことが明らかであるが、更に技術的観点からは、基体および被覆膜が非繊維質であることにより@感圧性接着剤の空気接触による老化が防止される。A基体の気湿による膨縮がない。という重要な作用効果をもたらしている。感圧性接着剤が空気によつて極めて老化しやすい性質を有していることおよび従来の繊維質の基体であれば湿度によつて簡単に膨縮し、被覆膜にしわを生ずることに鑑みれば、右@およびAの作用効果は殊に重要である。
三、被告は、アルバム用単位葉およびアルバム製造等を業とする会社であるが、昭和四二年一月より現在に至るまで別紙(イ)号目録記載のアルバム用単位葉(以下「(イ)号物件」という)を、そして最近では別紙(ロ)号目録記載アルバム(以下「(ロ)号物件」という)を業として生産し、譲渡および譲渡のための展示をしている。
(イ)号物作((ロ)号物件の構成単位葉でもある)はアルバム用巣位葉(台紙)であるが、その構造の特徴を分記するとつぎのとおりである。
1、その表面に多数の微少凹凸をつけ、かつ中間に厚紙を貼着したアルミニウムよりなるシートを基体とする。
2、基体面に感圧性接着剤を塗着する。
3、右2の上をポリ塩化ビニルまたはポリプロピレンよりなる透明なフイルムをもつて被覆する。
四、(ロ)号物件は(イ)号物件を適宜枚数重ねて製本したアルバムであり、本件特許発明のアルバムに該当する。
1、前項1の「アルミニウムよりなるシート」は本件特許請求の範囲にいわゆる「非繊維質よりなるシート」に該当し、2の点は本件特許請求の範囲にいわゆる「該基体面に感圧性接着剤を塗着」することに該当し、3の「ポリ塩化ビニルもしくはポリプロピレンよりなる透明なフイルム」は本件特許請求の範囲にいわゆる「非繊維質よりなる透明なフイルム」に該当するから、結局(イ)号物件は本件特許発明のアルバムの単位葉が備える特徴を全部備えていることになり、(イ)号物件を適宜枚数重ねて製本したアルバムである(ロ)号物件は本件特許発明のアルバムに該当することは明白である。なお、(イ)号物件はその基体が非繊維質であるアルミニウム箔、被覆膜が非繊維質であるプラスチツクフイルムで構成されているため、本件特許発明の単位葉における「@感圧性接着剤の空気による老化防止、A基体の気湿による膨縮がない。」という本質的作用効果をすべて具備していることも明らかである。
被告は、本件特許請求の範囲に「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」と記載されていることを根拠として、本件特許発明のアルバムにおける単位葉はセロフアン・プラスチツクス等を基体とするものに限定され、金属は含まれない旨主張するが、右主張は理由がない。すなわち、物を被覆するという目的に関しては、アルミニウム箔とプラスチツク等は極めて類似した性質を有し、両者は空気・湿気の不透過性を共有する外、可撓性・可塑性においても共通である。そのうえ、プラスチツクスを単位葉の基体として用いた場合にも、(イ)号物件と同一の凹凸を施すことさえ同一程度に容易である。その結果、両者は共に同一の形態で物の被覆をなすことができ、物の被覆に関し両者が全く代替的に用いられている例は枚挙にいとまがない程多い。カステラ、饅頭、あられ等の食品の包装(いずれも空気・湿気の不透過性を要求する)が最も身近なものの一例といえるであろう。したがつて、本件特許発明のアルバムにおける単位葉の基体につき、仮に特許請求の範囲にプラスチツクをその素材とする旨のみが明記されていた場合においても、
(イ)号物件は当然その均等範囲内のものと解すべきである。いわんや、本件特許請求の範囲には「プラスチツクスの如き非繊維質」と明示されているのであるから、右の「非繊維質」にアルミニウムが含まれることは明白である。なお、【B】著「アルミ箔とその応用加工」三五頁によつて明らかなとおり、(イ)号物件に使用されている如き厚さ(約九ミクロン)のアルミ箔は、必ずピンホールを生じ、空気・湿気の透過性において、プラスチツクフイルム等との何らの差異を有しない。
2、更に詳論すると、本件特許発明のアルバムにおいては、右の最も基本的な構造およびこれに必然的に伴う本質的作用効果の他に、更に細部にわたる構造が示され、かつそれに附随する作用効果が存するのであるが、(ロ)号物件は、構造・作用効果の全面にわたり本件特許発明と一致しているので、以下詳述する。
(構造)(一)本件特許発明の単位葉(台紙)は、非繊維質よりなるフイルムまたはこれを厚紙等で裏張りしたものをもつて基体とし、その片面または両面に感圧性接着剤を塗布し、その上を透明なフイルムで被覆したものである。(ロ)号物件の単位葉(すなわち(イ)号物件)も、非繊維質であるアルミニウムよりなる箔を厚紙で裏張りしたものをもつて基体とし、その両面に感圧性接着剤を塗布し、その上を透明なフイルムで被覆したものであり、全く同一構成である。
(二)本件特許発明においては、感圧性接着剤は、基体上に塗着されたものであるのに対し、被覆膜はただ単に感圧性接着剤上に重ね合わされているものであるから、感圧性接着剤は基体と強固に結着せしめられ、被覆膜とは容易に剥離され得るようになつている。(イ)号物件においても、同様に、感圧性接着剤は基体と強固に結着せしめられ、被覆膜とは容易に剥離され得るようになつている。
基体に対する感圧性接着剤の結着度は、基体がアルミニウムである場合と、セロフアン・プラスチツクである場合とで何らの差異がない。この問題は物体の濡れの問題に帰着するのであるが、月刊高分子加工別冊8(甲第九号証)によれば、アルミ箔の濡れの程度は、多数のプラスチツクの濡れの程度のほぼ中間に位置していて、両者間には全く差異がない。のみならず、本件特許出願のはるか二〇年以前より、金属箔に感圧性接着剤を塗布して強固に結着せしめ、しかも繰返し使用できるシート材・テープは広く公知であり、あまつさえ、この結着度(投錨力)を強くするためには、(イ)号物件における如く、基体表面に凹凸を付すべき知見さえも既に開示されていたのである。
(三)本件特許発明はかかる単位葉を適宜重ね合わせ、適宜製本されてなるものであるが、(ロ)号物件も、同様、右に述べたとおりの構成の(イ)号物件である単位葉を適宜重ね合わせて製本したアルバムである。
(四)本件特許発明においては、感圧性接着剤は基体と被覆膜に覆われて殆んど大気に接触しない状態となつており、この被覆膜は相隣り合う感圧性接着剤同志が接触しないようにする隔離膜の役をも兼ねている。(イ)号物件も、右と同一の構造で感圧性接着剤は大気と接触せず、被覆膜は隔離膜を兼ねている。
(作用効果) 本件特許発明は、右の如き構造を有することに伴い、つぎに述べる細部的作用効果を併せ有するが、(イ)号物件も、右に詳論したとおり同一の構造を有する結果、つぎに述べる細部的作用効果をも全く同様に有している。
(一)被貼着物を貼着するに当り、改めて糊を使用する必要がない。
(二)被貼着物は強固に貼着され、透明な被覆膜を透して観察し得る。
(三)紙に比して水濡れやひつかき傷を生じにくいうえに、被貼着物を剥離する際にも損傷せられないために破損し難く、したがつて実用上紙に比して強靭である。
(四)従来品の如く各葉に切込部を設ける必要がないから、切込部の破損ということはあり得ず、また被貼着物が自然剥離したりすることはない。
(五)被覆膜が被貼着物表面を覆つてこれを保護している。
(六)感圧性接着剤は基体・被覆膜から浸み通らず、したがつて美観を損わない。
3、なお念のために付言すると、本件特許発明にはつぎの如き形態をとつたものも含まれる。
(一)基体・被覆膜が着色されているもの。基体と被覆膜とは非繊維質物質よりなるものであるために、着色された場合には繊維質物質と異なり、光沢を有して一層美麗な外観を付与しうる。
なお、プラスチツクのフイルムに厚紙を裏張りした基体にアルミ箔様の着色を施したうえ、(イ)号物件におけると同一の凹凸を付与することも可能である。
(二)基体が透明であること。基体材料に透明な物質を用いれば、非繊維質であるために、基体そのものを透明になし得る。すなわち、繊維質である場合には如何にその材料に透明な物質を用いても、これをからみ合わせてシート状の基体にするときには必ず乱反射を生じ、基体そのものを無色透明にすることは技術的に不可能といつてよく、また、かつてかかる物質が作られたこともないのに反し、非繊維質である場合にはこのような乱反射を生じないために、材料が透明な物質でありさえすれば、基体そのものを透明にすることは比較的容易である。本件特許明細書に、
「非繊維質よりなるものであるから……基体……をも透明となし得」と記載されているのはこの意味である。
したがつて、もとより無着色のアルバムも、基体不透明のアルバムも、本件特許の要求する構造と作用効果を有する限り、本件特許発明アルバムであることは明白であり、本件特許明細書におけるこの部分のみが選択的用語によつているのは正にこの意味である。被告は、本件特許発明の基本の材料たる非繊維物質はセロフアンまたはプラスチツク等に限定されるという独自の見解の根拠として、基体を透明になしうるとの右記載をあげるが、その理由のないことは、特許請求の範囲その他において被覆膜にのみ「透明な」という用語を冠しているのに対して、基体にその用語を冠していないうえ、プラスチツクの中にも性質上不透明であつて絶対に透明になし得ないものが存する(例えば、四フツカエチレン樹脂、アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリアセタール等)のみならず、通常プラスチツクなる名をもつて市販されている物質の大部分は不透明であること、および本件特許明細書中に一実施例として厚紙をもつて裏張りをした不透明な基体が明示されていることによつても、既に明白である。
また、本件特許出願前より、アルミニウム箔に紙を裏張りしたものがそれ自身一つの商品として文房具製造業者その他の者に棄却されていた。その取引は他の用紙類と同様、表のアルミニウム箔の厚さ、色、模様および裏張り用紙の質に応じて多種の見本が作成され、見本帳を用いてなされていたものである。そうであるからこそ、このアルミニウム箔貼合紙を用いて襖紙が作成されたり(甲第八号証)、防湿箱が作成されたり(甲第一二号証)したのである。そして、本件特許発明の単位基体として、右の如きアルミニウム箔貼合紙のうち厚紙をもつて裏張りをしたものを用いれば、それは直ちに本件特許発明の有する前記諸作用効果を全部具有するのである。
4、以上のとおりであるから、(ロ)号物件((イ)号物件を重ねて製本したアルバム)が、本件特許発明技術的範囲に属すること、すなわち(ロ)号物件が本件特許発明技術そのものと一致すること、または少くとも均等の範囲内に存することは明らかである。
五、(イ)号物件を適宜枚数重ねて製本した(ロ)号目録記載のアルバム((ロ)号物件)は、当然本件特許発明の対象そのものであるから、被告が(ロ)号物件を生産、譲渡および譲渡のために展示する行為は本件特許権の侵害となる。
また、(イ)号物件(アルバム単位葉)は、明らかに重ね合わせて製本しアルバムとして用いる構造のものである。
このことは(イ)号物件の表面と裏面の両方に写真類が挿入できるようになつていること、片側には綴じしろのための余白が設けられていることにより明白である。
かかる構造からみて、(イ)号物件が本件特許発明のアルバムの「生産にのみ使用する物」という特許法101条1号の要件を充足することは疑いがない。したがつて、被告が(イ)号物件を生産、譲渡および譲渡のために展示する行為は同条により本件特許権の侵害とみなされる。
六 被告が昭和四二年一月より同四六年一月末まで(イ)号物件を生産・譲渡して得た売上金額はつぎのとおりである。
(1)昭和四二年一月乃至同四二年八月末 金一、九〇〇万円(2)同四二年九月乃至同四三年八月末 金一億三、〇〇〇万円(3)同四三年九月乃至同四四年八月末 金三億七、五〇〇万円(4)同四四年九月乃至同四五年八月末 金四億二、〇〇〇万円(5)同四五年九月乃至同四六年一月末 金一億七、五〇〇万円本件特許権侵害によつて特許権者または専用実施権者が被つた損害額は、少くとも本件特許発明実施に対し通常受けるべき金銭、すなわち右売上金の三%を下らない。したがつて、その金額はつぎのとおりとなる。
(1)昭和四二年一月乃至同四二年八月末 一、九〇〇〇万円×〇・〇三 金五七万円(2)昭和四二年九月乃至同四三年八月末 一億三、〇〇〇万円×〇・〇三 金三九〇万円(3)昭和四三年九月乃至同四四年八月末 三億七、五〇〇万円×〇・〇三 金一、一二五万円(4)昭和四四年九月乃至同四五年八月末 四億二、〇〇〇万円×〇・〇三 金一、二六〇万円(5)昭和四五年九月乃至同四六年一月末 一億七、五〇〇万円×〇・〇三 金五二五万円 ところで、原告らの権利取得の経緯は前記一に述べたとおりであるから、原告ら各自の損害額はつぎのとおりとなる。
(一)原告積水樹脂株式会社の損害額は、昭和四五年九月二日まで(共有中の期間)の額の二分の一および同月三日から同月二四までの全額であるから、少くとも同四五年八月末までの合計額二、八三二万円の二分の一に当る金一、四一六万円を下らない。
(二)原告柴田台紙株式会社の損害額は、昭和四五年九月二五日から同四六年一月末までの合計額であるから、同四五年九月より同四六年一月末までの合計額五二五万円の五分の四に当る金四二〇万円を下らない。
七、よつて、原告積水樹脂株式会社は本件特許権に基づき、原告柴田台紙株式会社は本件特許権についての専用実施権に基づき、被告に対し右侵害行為の差止を求めるとともに、右損害金およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四六年二月七日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張に対する反論)一、特許発明技術的範囲を検討するにあたり、その出願時未公知の技術の内容を云々することおよび被告主張の如く、具体的な本件特許発明そのものから遊離して、フリーアルバム(その概念自体も明確ではない)一般と称するものをことさらにとりあげ、その課題と解決なるものを論ずることは、全く無益であるのみならず、徒らに争点を不明確にするという意味において有害である。
二、本件特許発明の出願時における技術水準、すなわち公知技術を挙げれば、つぎのとおりである(但し、本件特許明細書に記載されているものを除く)。
(1)展示用具としては、米国特許第二、五九八、七五五号に開示されているもの(乙第六号証)。但し、右発明は同じく展示用具とはいつても本件特許発明とは具体的構成が異なり、技術としては別異のものである。すなわち、右米国特許発明においては、その周縁部は接着剤によつて密着されているが、シート(4)が介在する範囲ではシート(1)と感圧性接着剤を塗布したシート(2)とは単に重ね合わされているにとどまつているのであつて、このことはとりもなおさず、右発明が感圧性接着剤の老化防止を意図しておらず、単に展示物の密封を目的としていることを示している。
(2)非繊維質フイルム上に感圧性接着剤を塗布した粘着テープに関する特許発明が開示されており、この特許公報中に、非繊維質なる表現を用いる場合には、板ガラス・荷造りフイルムと並んで金属シートが包含されることが明示されていた(甲第三号証)。
(3)包装の分野においては、プラスチツクフイルムとアルミフオイルが同一目的のために代替的に使用されていた(甲第四号証)。
(4)アルミニウム箔に感圧性接着剤を塗着したシート材・テープ材が既に開発されていた。この場合、アルミニウム箔と感圧性接着剤とはなじみがよいこと、投錨力(基体に対して接着剤が結着する力)を強めるためにはアルミニウム箔表面に細かい凹みを作ればよい(したがつて、この上に更に被膜を被覆すれば、この被膜は相対的にはがれやすくなる)ことが知られていた(甲第六号証)。
(5)厚紙にアルミニウム箔を積層し、これにプリントしたうえラツカー様コーテングをもつて覆つた名札等(甲第七号証)が開示されていた。
(6)厚紙上にアルミニウム箔を貼着し、その上に凹凸模様を付した襖紙(甲第八号証)および紙を貼着したアルミ箔を用いた防湿箱(甲第一二号証)が存在していた。
(7)アルミ箔に紙を裏張りしたものが、文房具製造業者には普通の材料として使用され、多種の見本からなる冊子状の見本帳を用いて取引されていた。
三、右に述べた公知技術が存する状況下において、本件特許出願がなされたものであるから、本件特許明細書の記載文言から何を読みとるべきであるか、という問題を解明する場合には、当然に、右公知技術が斟酌さるべきは論をまたないが、更に、つぎの事情も解釈の前提とされねばならない。
(1)一般的に「フイルム」「箔」「フオイル」などの用語は無差別的・代替的に使用されている(甲第一〇号証)が、中でも、本件特許出願前より金属の薄膜は明白に「金属フイルム」なる用語を用いて示されていた(甲第一四、一五号証)のであるから、「フイルム」なる語は当然に「金属フイルム」を包含していた。
(2)アルミニウムとプラスチツクとは、共に薄膜状にするに適するところから、
本件特許出願前より、薄膜状にして粘着テープや包装材料・文房具材料等として広く代替的に用いられていた(甲第三、四、六、一五号証)。
(3)アルミニウム箔とプラスチツクフイルムとは共通する性質が多く(そうであるからこそ、本件特許出願前公知の技術においても、右に述べたとおり両者が代替的に使用されているのである)、殊に本件特許発明技術との関係においてはつぎの如き重要な性質を共有している。
(一)(防通気性・防透湿性)アルミニウムにはピンホールが存するため、アルミニウム箔とプラスチツクフイルムとは殆んど同一程度の透湿性を有する(甲第一一号証)のに加えて、(イ)号物件、(ロ)号物件においては凹凸模様を施すため、
防通気性・防透湿性は低下する。しかし、なお、繊維質物質を用いる場合に比すれば格段の防通気性・防透湿性を有する。この点において、アルミニウム箔とプラスチツクフイルムとは、共に本件特許発明技術の最も重要な作用効果をもたらしている。
(二)(濡れの程度)これは感圧性接着剤との親和力を示すものであるが、アルミニウムとプラスチツクとでは差が存しない(甲第九号証)。
(三)(透明性)本件特許発明技術上、基体が透明であることは何ら必然的な事柄ではない。しかしいずれにせよ、プラスチツクであつても本質的に不透明であつて絶対に透明になし得ない物質が存する一方、アルミニウム等の金属も条件次第で透明になしうる(甲第一三、一四号証)のであるから、この点においてもプラスチツクとアルミニウムとでは何らの差異も存しない。
四 以上の公知技術および諸事情を基礎にして考えると、本件特許請求の範囲にいわゆる「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシート」には、アルミニウム箔を含んでいることは明白である。仮に、アルミニウム箔が「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシート」に含まれないとしても、これと均等物であると解すべきである。
なお、(イ)号物件および(ロ)号物件の単位葉が、本件特許発明の単位葉の有する諸作用効果の全部を具有して本件特許発明技術を使用している以上、仮にこれに加えて被告主張の如くはがしやすさ等の利点を付加的に有するとしても(原告はこの点を争う)、本件特許権の侵害となる事実にはいささかの変更をも招来しないこと論ずるまでもない。
請求原因に対する答弁および被告の主張
(請求原因に対する答弁)一 請求原因一の事実は不知。
二 請求原因二の事実は争う。
三 請求原因三の事実は認める。
四 請求原因の事実中、(イ)号物件および(ロ)号物件の構造が原告ら主張のとおりであることおよび(イ)号物件が原告ら主張の如き作用効果を併せ有していることは認めるが、その余の事実は争う。
五 請求原因五の事実は争う。
六 請求原因六の事実は争う。
(被告の主張)(イ)号物件の基体に使用されているアルミニウム(箔)は本件特許発明の「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」に該当しないことは勿論、その均等物ということもできない。以下その理由を硝詳論する。
一(特許請求の範囲および発明の詳細なる説明の記載からの検討)1 本件特許請求の範囲に記載の「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」なる語句は、そのうち「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き」の記載部分を無視し、これを単に概念的に「非繊維質」と記載されているものとしてみることは許されない。いやしくも「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き」とわざわざ記載されている以上、そこにはセロフアンもしくはプラスチツクス」と「非繊維質」とを関係づけ、かつ両者を不可欠とする意味があるものとみなければならない。
そもそも、本件特許請求の範囲に「非繊維質」とのみ記載されていたとすれば、
それは繊維質でないあらゆる物質を包含することとなるから特定を欠くこととなり、したがつて当然本件特許の出願は拒絶されていたはずである。「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き」という限定を伴うことによつてはじめて、「非繊維質」という極めて不特定な概念が特定されたものとしてその特許が認められたものと考えなければならない。非繊維質の物質一般ではなく、これを「セロフアンもしくはプラスチツクスの如きもの」に限定したところに重要な意義があると理解すべきである。
しかも、本件特許明細書においては、単に特許請求の範囲においてのみならず、
発明の詳細なる説明中においても、「非繊維質」の語が単独で素材を表わすものとして用いられているところはなく、すべて「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き」なる限定的語句が付されているのである。しかも、「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」なる語句は、全く同一の形で、明細書中に実に一一回も使用されているのである。すなわち、それは単に「非繊維質」を例示したというものではなく、「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」という明確に限定された物質を指称する意味において用いられていることが明らかであり、
またこれを読む第三者はそう理解するのが自然である。
2、そこで、「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」の意味をときほぐしてみるために、まずセロフアンにつき、その組成、原料、製法および性質を検討する。繊維素(セルロース)というのは、いうまでもなく、自然界に産出する有機物の一種であつて、植物細胞膜の主成分をなす多糖類であるが、セロフアンは木材パルプの繊維素によつてビスコースを作り、これを凝固再生により製膜して得られるものである。その引裂強度はそれ程強くなく、湿気は極めてよく通し、防湿性はない。右のようなセロフアンの組成、製法、性質に鑑みるとき、金属がセロフアンとはいかに異質な物質であるか了解される。すなわち、金属は無機の物質である。金属には可塑性がないかまたはセロフアンに比し極めて小さい。金属を透明にすることは不可能であるし、その引裂強度は強大である。更に金属の防湿性は完全である。原料および製法において相違があることはいうまでもない。してみれば、
いま仮に「セロフアンの如き非繊維」というとき、その中に金属が含まれないことは誰の眼にも明らかであろう。
3、つぎに、プラスチツクについて考える。プラスチツクは種類も多く、従来金属が用いられていた領域にも利用範囲が拡げられて、金属と競合を生じている分野も出てきていることは事実である。しかし、プラスチツクと金属との応用面における競合にもかかわらず、なお両者は組成、原料、製法および性質を異にし、明暸に区別されているものである。すなわち、プラスチツクは有機物質であるのに対して、
金属は無機物質である。プラスチツクは可塑性を有する(そもそもプラスチツクは、英語のPlastic「可塑性がある」を語源とする)のに対し、金属は可塑性を有しないかまたはプラスチツクに比し可塑性は極めて小さい。プラスチツクは透明になしうるが、金属は透明にはできない。プラスチツクにも防湿性はあるが、
金属ほど完全ではない。金属は固体の状態で展性・延性に富むがプラスチツクにそのような性質はない。金属には金属光沢があるが、プラスチツクにはそのような光沢がない等、両者の相違点を上げればきりがなく、しかもいずれも物質の性質としては、工業的にみて本質的に重要な特質である。両者の原料および製法の相違についてはいうまでもない。
かかるプラスチツクと金属との相違からして、両者は一般にカテゴリーを異にする物質として、むしろ対比的に(すなわち異質な物質の代表として)認識されているものであり、「プラスチツクの如き」という表現により直ちに金属が含まれると考える如き飛躍的な認識は、世間のどこにも存在しない。「プラスチツクスの如き非繊維質」に該当する物質として金属を想定する者があろうとは、とうてい想像することができない。
4、また、本件特許請求の範囲には「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」なる語句が、全く同じ表現で二回使用されている。このような場合、右の語句は同義に解釈されるべきが当然であろう。本件特許明細書全体の記載に徴しても、これを別異に解しなければならない理由は発見できない。特許請求の範囲における右語句の使用をみるのに、一つは基体に関するものであつて、「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシート」とあり、
他の一つは被覆膜に関するものであつて、「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなる透明なフイルムもしくはシート」とある。前者には「透明な」という限定がなく、後者には「透明な」という限定があるが、「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなる」という点は共通であり、その部分につき別異な解釈をとるべき理由がないことは前述のとおりであるから、「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」とは、非繊維質の物質であつて透明になしうるものを指すことが明らかであり、「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き」というこはまさに「非繊維質」の物質を右の如く限定する意味において用いられているものと解しなければならない。
このことは、発明の詳細なる説明中の「基体及び被覆膜を形成するシートもしくはフイルムはセロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるものであるから、……基体のシートもしくはフイルムをも透明となし被貼着物の裏面をも観察し得るようになすこともできる」旨の記載(特許公報二頁左欄一一行目から右欄四行目まで)によつても明暸に裏付けられているものというべきである。
してみれば、本件特許発明にいう「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」には、その固有の性質上透明とすることができないもの、すなわち金属の如き物質を含まないことは、疑問の余地がないところというべきである。
二、(技術面からみた本件特許発明と(ロ)号物件の位置づけ)1、本件特許発明は、一般にフリーアルバムと呼ばれるものの構造に関するものであるが、もとよりフリーアルバムないしその単位葉全般をカバーするものでもなければ、フリーアルバムないしその単位葉に関する技術課題のすべてを解決したものでもない。
本件特許発明のアルバムの如く基体、感圧性接着剤、透明被覆膜の三要素から成ることを特徴とするフリーアルバムは本件特許出願前既に考案され、かかる方式のアルバムにおいて被覆膜のはがしやすさの要求と感圧性接着剤の劣化防止の要求が解決すべき技術的課題として既に認識されていたのである。
まず、被覆膜のはがしやすさの要求とは、@透明被覆膜を力を入れないでもはがせること。Aはがす際、基体に塗布された感圧性接着剤が被覆膜に移行したり剥離したりしないこと。Bはがす際基体を損傷しないこと、である。この要求を解決するためには、感圧性接着剤を基体には強義させ、透明被覆膜には強着することがないような(つまり緩着するような)手段を講ずるか、または基体と被覆膜との接着面積を少なくする工夫をするか、あるいは右の両者を併用するかしなければならない。
つぎに、感圧性接着剤の劣化防止の要求とは、感圧性接着剤は空気に触れて酸化しやすく、また湿気によつても劣化する性質をもつているので、この劣化を防止する必要がある。そのためには、基体および透明被覆膜の材質に通気性および透湿性の少ない(ないしは全くない)ものを選び、かつ両者間の気密性(ないし密着性)を維持する必要がある。
2 公にされた特許公報や実用新案公報によると、右に見たようなフリーアルバムに要求される技術的課題は、本件特許出願前においてはつぎのように解決されていた。
(一)米国特許第二、二八三、〇二六号(乙第三二号証) 右米国特許は、フリーアルバムの単位葉に関するものであつて、一九四二年五月一二日特許され、その公報は本件特許出願前である昭和三一年一二月四日特許庁資料館に受入れられている。右米国特許においては、感圧性接着剤を基体に塗着せず透明被覆膜の方に塗着するものとされているが、@基体、A感圧性接着剤、B透明被覆膜の三要素から成り、被貼着物の着脱のため基体と透明被覆膜とを容易にかつ繰り返し分離することができるようにしたものである点においては、一般のフリーアルバムと変りがない(感圧性接着剤が透明被覆膜と基体とのいずれに塗着されているかは、両者のはがしやすさの問題や感圧性接着剤の劣化防止の問題にとつて、
問題の解決上何らの差異をももたらさない)。
しかして、右米国特許においては、基体と透明被覆膜とのはがしやすさを実現するため、基体についてはその表面を接着剤と相容性をもたない油で処理することにより、接着剤に対する接着力を減少して基体をそれから離れやすくする方法が講じられ、他方透明被覆膜については、透明被覆膜と接着剤の双方に対して相容性をもつ溶剤の存在下に接着剤を透明被覆膜に塗着することにより、透明被覆膜と接着剤との間に一体の結合を得させる方法が講じられている。
つぎに、接着剤の劣化防止については、明示的には特に触れられていないが、透明被覆膜の材料としてはセルローン・エステルその他のセルロース材料またはゴム誘導体が、また基体の材料としてはグラシン紙が好ましい材料としてあげられているから、両者ともその材質として少なくとも本件特許発明における程度の通気性・透湿性の少ないものが考えられていることは明白である。右米国特許においては、
透明被覆膜と基体とにより被貼着物を保護するものとされているが、感圧性接着剤が空気や湿気により劣化することは古くから知られていたことであるから、その劣化防止の目的をも兼ねて右のような材質のものが選ばれたものとみるのが、当業者の常識からして当然である。
(二)米国特許第二、五九八、七五五号(乙第三一号証) 右米国特許は、フリーアルバムの如く数葉を重ね合わせて製本したというものではなく単葉のものであるが、写真等の貼着・保存・展示のための用具であるからフリーアルバムの単位葉と同一技術分野に属するものであつて、一九五二年六月三日に特許され、その公報は昭和二七年一一月四日特許庁資料館に受け入れられている。
右米国特許においては、前述のはがしやすさを実現するために、基体と透明被覆体との間に両者より小さい第三のシートを挿入し、基体と透明被覆体とは右第三のシートの外側に残された縁部と第三のシートに設けられた孔を通してのみ接着するようにし、基体と透明被覆体との接着面積を少なくする方法により、はがしやすさを実現しているのである。
つぎに、感圧性接着剤の劣化防止の点については、透明被覆体と基体とが両者の縁部において密着して両者の間に空気や湿気が入るのを防ぐ、すなわち密封の状態になつている旨の記載があるから、そのような気密性により接着剤の劣化防止がはかられていることは明らかである。なお、右米国特許において、透明被覆体の材料については、ガラスまたはプラスチツクがあげられているが、基体の材料については、透明でも半透明でもよいというのみで具体的指摘がないけれども、基体は可撓性をもつものとされているから、そこには材料としてプラスチツクが想定されているものと考えられる。基体と透明被覆体との間の気密性を重視していることからみても、両者の材質に通気性・透湿性の少ないものを考えていたとみるのが自然だからである。なお、右米国特許において、上述の気密性を被貼着物保護の観点から記述しているように見えるが、感圧性接着剤が空気や湿気により劣化することは古くから知られていた事実であるから、その劣化防止の目的をも兼ねて右のような気密の措置を講じたものであることは、当業者の常識からして当然看取し得るところである。
(三)昭三三―一〇七二五号特許公報(乙第一八号証) 右特許発明は、基体・感圧性接着剤・透明被膜の三要素から成る写真用台紙、すなわちアルバムの単位葉に関するものであつて、本件特許出願より前の昭和三二年一一月九日出願されたものである。
特許発明においては、前述のはがしやすさを実現するために感圧性接着剤を基体に強着させ、透明被覆膜には緩着させるという方法を講じている。その具体的手段としては、基体である厚紙の上面に生ゴムを主材とした膠着性のある糊をベンゾールで稀釈したものを塗布し、厚紙の上層部にこれを浸込ませてそこに被膜を形成させて厚紙と接着剤とが剥離しないよう強着させ、他方透明被覆膜についてはその基体に接する面に油性シリコンの被膜を形成しその油性によつて基体から剥離する際に接着剤の表面分子が透明被覆膜に付着するのを防ぎ、接着剤と透明被覆膜とが剥離しやすいようにしている。
なお、右特許発明においては、感圧性接着剤の劣化防止について格別の考慮が払われたあとはみえない。
3 つぎに、右本件特許出願当時における公知技術および先願発明を基礎として本件特許発明の内容を検討する。
まず、はがしやすさの点について、本件特許請求の範囲には何らこれと関係のある事項の記載がない。しかし、発明の詳細な説明において「感圧性接着剤と基体との間には両者の結着力を増すための下塗剤が施されていてもよい」として感圧性接着剤を基体へ強着させる配慮を示しているうえ、本件特許に対する無効審判請求事件における被請求人(本件原告積水樹脂株式会社)の第三答弁書(甲第三号証の六)には「本発明に於ては基体面の全範囲に感圧性接着剤が塗布されており、その上に(b)フイルムもしくはシートが被覆されているが、この(b)フイルムもしくはシートは容易に剥離され得るようになされている。従つて、使用される感圧性接着剤は必然的に比較的接着力の小さいものに限定されているのである。」として、接着剤自体に接着力の小さいものを用いることが本件特許発明にあたつては前提とされていることを述べるとともに、さらに「実際に本件特許出願当時感圧性接着剤が全範囲に亘つて塗布された基体に透明シートを被覆し、これを接着剤が付着しないように清浄に剥離して使用することは困難なこととされていたのである。従つて、例えば乙第一号証(昭和三二年一二月二三日に発行された特公昭三三―一〇、七二五号公報)第一頁右欄下から第一―五行(特許請求の範囲の項)に『接着剤2を塗布し被膜を一体に形成した台紙1と柔軟性のある合成樹脂の透明薄板の下面に油性シリコンの被膜3を形成した表板4とを互いに腹合せて着剥自在に張合せ』と記載されている如く、本発明の透明シートに該当する透明薄板の対接着剤面には油性シリコンの様な剥離剤が塗布されていたのであつて、かく構成することによつてはじめて接着剤によつて張合された台紙と透明薄板とが着剥自在となされたのである。」と主張している。
もつとも、右のような手段を施すのみで、はがしやすさが完全に実現されたかについては疑問がある。けだし、本件特許発明実施したアルバムの現物は市場に出ておらず、原告がその実施品であるとして本件訴訟において提出した検証物(検甲第三号証の一、二)をみると、いずれも感圧性接着剤は基体の全範囲にわたつて塗布されておらず、細い線の平行な縞目をもつて塗布されているにすぎないからである。右検証物につき透明被覆膜をはがしてみた感じでは、感圧性接着剤を全面に塗布した場合、透明被覆膜をはがすことが甚だ困難となるように推測される。
つぎに、感圧性接着剤の劣化防止に対する配慮をみるのに、発明の詳細なる説明において「感圧性接着剤は両面が基体と被覆膜とによつて覆われて殆んど大気に接触しないような状態となつて」いるとされ、また「感圧性接着剤の両面を覆う基体および被覆膜はいずれもセロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるものにして紙や布帛に比して空気の通過性小なるため、感圧性接着剤は殆んど空気に接触せず、老化が妨げられ永く使用に耐え得る」とされているから、右の点に対する配慮が加えられていることは明らかである。しかしながら、右引用の記載によつても明らかなように、本件特許発明における感圧性接着剤に対する気密性は、
「殆んど大気に接触しないような状態」におかれているにとどまる。というのも、
先に引用した無効審判請求事件における原告の主張において明らかに示されているとおり、本件特許発明においては、接着力の小さい感圧性接着剤を使用せざるをえず、また透明被覆膜の対接着剤面には油性シルコンを塗布して接着剤との密着性を犠牲にせざるをえないからである。しかも、実際には、右のような措置を講じても、基体の全面に感圧性接着剤を塗布することは不可能であつて、細い線の平行な縞状にこれを塗布するにとどめざるをえない実情にあるのであるから、本件特許発明において透明被覆膜と基体との気密性が図られているかは極めて疑わしい。感圧性接着剤の両面をプラスチツクの如き通気性の小さいもので覆つて気密を保つ技術思想は先に掲げた米国特許第二、五九八、七五五号公報からも読みとれるところであるから、本件特許明細書はそれをやや明暸な形で表現したに過ぎないものと考えざるを得ない。
4、これに対し、(イ)号物件および(ロ)号物件の単位葉は、被告会社代表取締役【C】の考案・出願にかかる写真用台紙すなわちアルバムの単位葉に関する実用新案(昭四四―二二九七三号実用新案公報)の一実施品であつて、右考案こそが前記二つの課題を完全に解決したものである。
右考案においては、はがしやすさを実現するため、紙台紙の表面にアルミニウム箔の如き金属箔層をラミネートしたものを基体に用い、かつエンボス加工により右金属箔層表面を物理的に荒らされた粗面とすることにより、これに感圧性接着剤を強着させるという手段を講じている。右の金属箔層表面への感圧性接着剤の塗着の効果は極めて強力であるため、透明被覆膜については、その対接着剤面に油性シルコンを塗る等の剥離手段を施す必要がないのである(したがつて、透明被覆膜の透明度が損われることもない)。現に(イ)号物件において、感圧性接着剤は基体の全面に塗られているが、透明被覆膜の対接着剤面に油性シリコン等を塗布する等の手段を一切講ずることなく完全にはがしやすさの要求を満足せしめている。
右考案では、このようにしてはがしやすさの問題を解決したため、透明被覆膜と基体とはその全面にわたつて密着し、その間にある感圧性接着剤への空気および湿気の影響を完全に防止することができるのである。しかも、基体は通気性・透湿性の全くない金属箔を紙台紙にラミネートしたものが使用されているので、感圧性接着剤の基体への浸透揮散および基体からの吸湿による影響が全くなく、接着剤の劣化防止の効果を一層高めることができる。金属箔は、セロフアンないしプラスチツクの如く接着剤に侵される心配がなく、その意味でも極めて理想的な材料である。
以上で明らかなとおり、右考案は本件特許発明においては解決されるに至つていないフリーアルバムに要求される技術的課題を、はじめて完全に解決したものということができ、価額が高くなる欠点を別とすれば、右考案によつてはじめて理想的なフリーアルバムの実現をみたといつてさしつかえないのである。このような技術思想は、本件特許発明においてはその片鱗だに示されておらず全く予測可能性が存しないものであつて、本件特許発明とは課題の解決手段を異にするものと考えるべきである。
三(均等の主張について)1 原告らは、(イ)号物件および(ロ)号物件における基体を、「その表面に多数の微少凹凸をつけ、かつ中間に厚紙を貼着したアルミニユームよりなるシート」と表現し、これが本件特許発明構成要件の一つである「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシート」と少くとも均等である旨主張する。そして、その均等論の根拠として、原告らは、本件特許出願前アルミニウム箔に紙を裏張りしたものが商品として販売されていた事実を挙示する。しかしながら、そうであればなおさらのこと、本件特許発明の出願人としては、その明細書中にそのようなものを例示することは容易であつたはずである。しかるに、
そのような例示がないばかりか、かえつて、さきに指摘した如く「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」という表現を、明細書中において実に一一回も繰り返し、そこに使用される素材がしかく限定されたものであることを明確にしているのである。右明細書を読む第三者においては、これにより、たとえ非繊維質というものの中に金属が含まれようとも、本件特許出願人は、非繊維質の素材のうち、セロフアンやプラスチツクと明暸に区別される金属の如き素材の使用を意識的に除外したものと理解するのが自然である。してみれば、もはやアルミニウム箔を使用する(イ)号物件および(ロ)号物件に対し、本件特許発明との均等を主張する余地はないものというべきである。
2 かりに均等論の適用の余地があるとしても、(イ)号物件および(ロ)号物件は均等の要件を欠いている。
(一)まず、本件特許発明における基体である「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシート」の作用効果についてみるに、
基体も透明被覆膜も同一の材質であるから、基体の右材質自体が、はがしやすさを増進したり、また感圧性接着剤の基体から透明被覆膜への移行を防止するという作用効果をあげることは不可能である。
また、感圧性接着剤の劣化防止の点についてみると、「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなる透明なフイルムもしくはシート」は、紙や布帛に比して空気の透過性が小であり、紙や布帛を使用する場合に比して感圧性接着剤の劣化を防止するという作用効果があることは認められるが、しかし空気の透過性が小さいというにとどまり、全くないわけではないとともに、前述のはがしやすさの問題を解決するために、接着力の弱い、接着剤を使用するため、基体と透明被覆膜との間の気密性が十分に得られず、そのため感圧性接着剤の劣化防止の効果もそれ程完全なものとは考えられない。
(二)ところが、(イ)号物件および(ロ)号物件においては、基体が「厚紙の両面にアルミニウム箔をラミネートし、その表面にエンボスにより多数の微小凹凸を設けたもの」であることにより、感圧性接着剤はエンボスにより粗面となつた右アルミ箔の表面に強着し、他に何らの手段を講ずることを要しないで、透明被覆膜のはがしやすさの問題を解決している。
アルミニウムは、その表面を粗面にするだけで接着剤に対する強力な接着性を付与されることは、文献に照しても明白である。
つぎに、感圧性接着剤の劣化防止の点については、(イ)号物件および(ロ)号物件における基体のアルミニウム箔は、通気性・透湿性を全く有しないものである。
原告は、【B】著「アルミ箔とその応用加工」三五頁において、〇・〇〇九ミリメートルのアルミニウム箔の透湿度が一・〇八―一〇・七〇(g/平方メートル/24)とされていることをあげて、アルミニウム箔が防湿性に優れていることを否定しようとしているが、同書の三二頁には、アルミニウム箔の防湿性に関して、
「厚さ〇・〇〇九mmのプレーン箔でもその平均透湿度は、四・六g/平方メートル/24hrで、他の包装材料に比較して著しく低く、いかにアルミ箔が防湿性に優れた包装材料であるかを示している。」旨の記述があるのであつて、右文献はむしろ被告の主張を裏づけるものにほかならないのである。なお、原告らは、同書三五頁の表に示された透湿度の数字からアルミ箔とプラスチツクとで何らの差異もない旨主張するがその表に示された材料の厚さを無視している。〇・〇〇九mmの厚さで平均四・六グラムないしそれに近い透湿度を示すものは、プラスチツクスには見当らないのである。アルバムの単位葉の如き物品にあつては、厚さをできるだけ薄くすることもまた重要なことであるから、材料の厚さを無視して防湿度を論ずることはナンセンスというべきである。
したがつて、(イ)号物件および(ロ)号物件における基体と、本件特許発明における基体とは、その作用効果を大きく異にするものであるから両者間に均等の関係は成立しない。
3 仮りに万一、本件特許発明における基体と、(イ)号物件および(ロ)号物件における基体との間に置換可能性ありとされる場合にも、その置換可能性が本件特許出願当時当業者にとつて自明であつたとはとうてい考えられない。
原告らは、本件特許出願前、金属箔に感圧性接着剤を塗布し、しかも繰り返し使用できるシート材、テープの公知であつたとか、アルミニウム箔貼合紙を用いた襖紙や防湿箔があつたと主張して、あたかも、本件特許出願当時、前記買換可能性が当業者に自明であつたとするかの如くであるが、原告らの挙示するものは、金属箔ないしアルミニウム箔貼合紙の裏面に感圧性接着剤を塗布して包装その他の目的に使用するものに過ぎず、金属箔ないしアルミニウム箔貼合紙の表面に感圧性接着剤を塗布し、そこに被貼着物を貼着して展示・保存等の目的に供するという例は、皆無であつたのである。前記【B】著「アルミ箔とその応用加工」は、アルミニウム箔の応用例を広く網羅的に集収記述した書物であるが、その中にもアルミニウム箔を右のような態様で使用する例は示されていない。
してみれば、本件特許出願当時、厚紙にアルミニウム箔をラミネートしたものをアルバムの単位葉として使用し得るなどと考える者がいた筈はなく、前記置換可能性に想倒する当業者はいなかつたと考えるべきである。
なお付言するに、特許明細書の実施例としては、特許出願人が最良の結果をもたらすと考えるものを多種類かつ必要に応じて具体的に記載すべきであり、そのことは特許法施行規則様式第一六の一三の(ロ)の記載に徴しても明白である。アルミニウム箔の使用は、セロフアンないしプラスチツクのフイルムやシートの使用に比べてはるかにすぐれていることさきにみたとおりであるから、
本件特許出願人がその出願当時アルミニウム箔の使用に想到し又は想到しうべきものであつたならば、当然これについても明細書に言及すべき筋合である。しかるに、本件特許明細書にはアルミニウム箔の使用をうかがうに足る記載さえないから、本件特許出願人においても、出願当時、アルミニウム箔の使用に想到しなかつたのはもとより、これに想到することも容易でなかつたことが知られるのである。
4 以上のとおりであるから、本件特許発明と(イ)号物件および(ロ)号物件との間に、原告の主張する均等論は成立する余地がなく、(イ)号物件および(ロ)号物件は、いずれも本件特許発明とその基体の構造を異にすることによつて、本件特許発明技術的範囲に属さないことが明らかである。
証拠関係(省略)
理 由一 成立に争いのない甲第一、二号証によれば、原告積水樹脂株式会社(出願時の商号・アドヘヤ化工株式会社)は訴外【A】とつぎの特許発明(以下「本件特許発明」という)につき共同出願し、登録時においては右両者が本件特許権を共有していたが、昭和四五年七月一日同訴外人が右共有持分を放棄し同年九月二日その旨の登録を了したことおよび同年八月一八日原告柴田台紙株式会社は本件特許権について原告積水樹脂株式会社より範囲全部の専用実施権の設定を受け同年九月二五日その旨の登録を了したこと、すなわち原告積水樹脂株式会社が本件特許権者であり、
原告柴田台紙株式会社が本件特許権についての範囲全部の専用実施権者である事実が認められる。
名称 アルバムもしくはスクラツプブツク特許番号 第二七六九四一号出願 昭和三三年八月七日出願公告 昭和三五年一〇月二六日(昭三五―一六一六九)登録 昭和三六年五月二五日特許請求の範囲「本文に詳記したようにセロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシートを基体とし、該基体面に感圧性接着剤を塗着しその上をセロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなる透明なフイルムもしくはシートで被覆して単位葉を形成し、該単位葉を適宜枚数重ねて製本したことを特徴とするアルバムもしくはスクラツプブツク。」二 被告が、アルバム用単位葉およびアルバム製造等を業とする会社であつて、昭和四二年一月より現在に至るまで別紙(イ)号目録記載のアルバム用単位葉((イ)号物件)を、そして最近では別紙(ロ)号目録記載のアルバム((ロ)号物件)を業として生産し、譲渡および譲渡のための展示をしていること、ならびに(ロ)号物件の構成単位葉および(イ)号物件の構造の特徴がつぎのとおりであることは、いずれも当事者間において争いがない。
1 その表面に多数の微少凹凸をつけ、かつ中間に厚紙を貼着したアルミニウムよりなるシートを基体とする。
2 基体面に感圧性接着剤を塗着する。
3 右2の上を塩化ビニルまたはポリピレンよりなる透明なフイルムをもつて被覆する。
三 当事者間に争いのない特許請求の範囲の記載によれば、本件特許発明のアルバムにおける単位葉は、@セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシートを基体とする。Aその基体面に感圧性接着剤を塗着する。Bその塗着された感圧性接着剤の上をセロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなる透明なフイルムもしくはシートで被覆する。という構成のものであると認められる。そして、(ロ)号物件の構成単位葉である(イ)号物件が本件特許発明アルバムの単位葉における右AおよびBの構成要素を具備していることは明らかである(被告もこの点については争わない)。
四 原告は単位葉の基体に関し、本件特許請求の範囲にいわゆる「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシート」に、(イ)号物件の基体である「その表面に多数の微少凹凸をつけ、かつ中間に厚紙を貼着したアルミニウムよりなるシート」ないし「アルミニウム箔」が包含されると主張するので検討する。
本件特許請求の範囲には、「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」という表現が二回使用されている。一つは基体に関するものであつて、
「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシート」とあり、他の一つは被覆膜に関するものであつて、「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなる透明なフイルムもしくはシート」とある。前者には「透明な」という限定がなく、後者には「透明な」という限定的語句が付加されてはいるが、「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなる」という表現は全く同一である。このような場合、右の語句は、別異に解すべき特別の理由がない限り、同一の内容を表現しているものと考えざるをえない。
発明の詳細なる説明中において「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」なるものの具体的内容ないしその作用効果について関係があると考えられる記載部分を例挙すると、@「感圧性接着剤2は両面が基体1と被覆膜3とによつて覆われて殆んど大気に接触しないような状態となつており、被覆膜3は相隣り合う感圧性接着剤2同志が接触しないように隔離膜の役をも兼ねている。」(公報一頁右欄二二行以下)、A「写真、名刺、新聞記事の切抜等5は……透明な被覆膜3を透して観察し得るのである。」(同右欄三二行以下)、B「各単位葉の基体はセロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるので紙に比して強靭であり、破損し難く、被貼着物を剥離する際にも全く損傷せられない。」(同右欄三六行目以下)、C「被覆膜が被貼着物の表面を覆つてこれを保護し、被貼着物を観察する際にも被貼着物の表面を露出する必要がないので被貼着物の表面を損傷するおそれがない。」(同右欄四二行以下)、D「更に又感圧性接着剤の両面を覆う基体及び被覆膜はいずれもセロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるものにして紙や布帛に比して空気の透過性小なるため、感圧性接着剤は殆んど空気に接触せず、老化が妨げられ永く使用に耐え得るのである。」(同二頁左欄二行目以下)、E一感圧性接着剤が基体及び被膜から浸み透らないから……一葉が次葉と接着することなく、又美観を損う恐れもないのであります。」(同左欄七行目以下)、F「基体及び被覆膜を形成するシートもしくはフイルムはセロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質りなるものであるから、これを各種の色に着色して美麗な外観を付与することもできるほか基体のシートもしくはフイルムをも透明となし被貼着物の裏面をも観察し得るようになすこともできる等各種の効果を奏するのである。」(同左欄一一行目以下)、等であつて、基体に金属、少くともアルミニウム(箔)を使用することを示唆する語句の記載はない。右記載されたところ(特に右D、EおよびF)からみると、基体に関する「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」も、被覆膜に関する「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」もともに同一物質を指称する表現と考えるほかなく、殊に右Fの記載から考えると、右「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」なる表現は、一般的に「繊維質でない物質」という意味ではなく、特に例示されているセロフアンやプラスチツクスのように一般的通性として透明になし得る性質を有する非繊維質の物質を指称するものであつて、その固有の性質上透明となし得ない性質を有するアルミニウムの如き金属はこれに含まれていないものと解さざるをえない。
原告らは、右Fの記載は、材料が繊維質である場合には、如何にその材料に透明な物質を用いても、これをシート状にするときは必ず乱反射を生じるため無色透明にすることが技術的に不可能であるのに反し、非繊維質である場合には、このような乱反射を生じないため、材料が透明でありさえすれば基体そのものを透明にすることが比較的容易であるという趣旨の記載である旨主張するが、右Fの記載は明暸に「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるものであるから……透明となし……得る……」とあり、透明となし得る理由を「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」が基体の材料であるためと明示(非繊維質中セロフアンもしくはプラスチツクスの如き物質を選択するときは、とは書いていない)してあるのであつて、右記載を原告主張の趣旨にはとうてい解せられない。
また、原告らは、プラスチツクスの中にも性質上不透明であつて絶対に透明になし得ないものが存するのみならず、通常プラスチツクなる名をもつて市販されている物質の大部分は不透明であることをもつて、右主張の一つの根拠とするが、プラスチツクスと総称される物質の中に極く例外的に透明になし得るものがあり、市販プラスチツクの大部分が不透明であるとしても、固有の性質上すべて通常の方法では透明とはなし得ないアルミニウムの如き金属とは異なり、プラスチツクは一般的通性として透明になし得るものと認識されているものであつて、かかる認識に基づいて右Fの記載がなされていることは明細書全体の記載からみて疑いがないから、
右原告主張の事実をもつしても前記事実を左右することはできない。
また、原告らは、右主張の根拠の一つとして、本件特許明細書中に一実施例として厚紙をもつて裏張りをした不透明な基体が明示されている旨主張するが、明細書中に不透明な基体を明示した記載はもちろんそれを示唆した記載もない。原告らが指摘する記載は、おそらく「……第三図及び第四図に示されるものの如く基体1の裏面もしくは中間に厚紙もしくは布帛の如き裏張材4を貼着しておいてもよいのである。」(公報一頁右欄六行以下)の部分と考えられるが、これは右記載からも明らかなとおり、基体に裏張材を貼着したものであつて、「基体」そのものが不透明という趣旨ではないのである。
また、原告らは、アルミニウム等の金属も条件次第で透明になしうるから、透明性の点において、プラスチツクとアルミニウムとでは差異がない旨主張し、それを証する証拠として甲第一三号証および同第一四号証の一ないし四を援用する。これらの証拠によると、金属でも非常な薄膜ないし透明体に蒸着状にした場合、可視的には透明に近くなるものがある事実が認められる。しかし、金属をこのような状態にするこは経費面および技術上において非常な困難を伴うものであつて、アルバムやアルバム単位葉製造業者の容易になし得るところではないと推認される(その必要も全くない)。のみならず金属を透明になる程の薄膜にした場合、これを本件特許発明における「シートもしくはフイルム」として果して使用できるかどうか甚だ疑問である。これに反し、「セロフアンもしくはプラスチツク」は一般に容易に透明になし得る(薄膜にする必要さえもない)のである。したがつて、右Fの記載中の「透明」となし得る「シートもしくはフイルム」に金属を含むとはとうてい考えられない。透明性の点において、プラスチツクとアルミニウムとでは差異がないということができないことは明らかである。
また、原告らは、アルミニウム箔とプラスチツクフイルムとは共通する性質が多く、共に薄膜状に適するところから、本件特許出願前より、薄膜状にして粘着テープ・包装材料・文房具材料等として広く代替的に用いられていた旨主張する。本件に顧われた証拠によれば、右原告ら主張のとおり、アルミニウム箔とプラスチツクフイルムとがかなり代替的に使用されていた事実は認められるけれども、プラスチツクフイルムといつた場合アルミニウム箔が当然これに包含されると考える程、すべての分野においてアルミニウム箔がプラスチツクフイルムの代替品として使用されていたとは認めるに足りないから、「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質」という表現にアルミニウム(箔)が当然含まれると考えることもできない。
なお、原告らは、本件特許出願前非繊維質フイルム上に感圧性接着剤を塗着した粘着テープに関する特許発明が開示されており、この特許公報中に非繊維質なる表現を用いる場合には、板ガラス・荷造りフイルムと並んで金属シートが包含されることが明示されていた旨主張する。しかし、原告らが右主張事実を証する証拠として提出した甲第三号証(特許出願公告昭二九―三一四四号公報五頁左欄一行目以下)には「滑らかな非繊維質の表面(例えば板ガラス金属シート欠び荷造りフイルムの様な表面)」と記載されており、金属が非繊維質に属することは明らかであるが、右の如く「滑らかな非繊維質」とのみ表現され材質をなんら限定していない場合と本件特許請求の範囲の如く「セロフアンもしくはプラスチツクの如き非繊維質」と表現され非繊維質を限定している場合とを同一視することは許されない。
以上のとおりであるから、(イ)号物件の基体である「その表面に多少の微少凹凸をつけ、かつ中間に厚紙を貼着したアルミニウムよりなるシート」は、本件特許請求の範囲にいわゆる「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシート」に該当しないといわざるをえない。
五 つぎに、(イ)号物件の基体である「その表面に多数の微少凹凸をつけ、かつ中間に厚紙を貼着したアルミニウムよりなるシート」が、本件特許発明アルバムの基体である「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりかるフイルムもしくはシート」の均等物であると解することができるかどうかの争点について考える。
(1)本件特許発明は、基体、感圧性接着剤、透明被覆膜の三層からなり、被覆膜を剥いで写真其の他を基体に貼付けるアルバムもしくはスクラツプブツクに関するものである。基体を透明被覆膜で掩うよう構成されていて、その中間に接着剤を用いるアルバム、スクラツプブツクは本件特許発明が最初のものではなく、成立に争いない乙第三二号証によると、昭和三一年一二月四日特許庁受入のアメリカ特許第二二八三〇二六号があり、透明被覆膜と接着剤を塗着した基体との中間に第三シートを介在させるものとして、同乙第三一号証によると、昭和二七年一一月四日受入のアメリカ特許第二五九八七五五号がある。
先行技術の詳細はつぎのとおりである。
(一)米国特許第二、二八三、〇二六号(成立に争いのない乙第三二号証) 右米国特許発明は、アルバムないしスクラツプブツクの単位葉に関するもので、
一九三九年二月二八日出願、一九四二年五月一二日特許にかかるものであつて、その公報は本件特許出願前である昭和三一年一二月四日特許庁資料館に受入れられている。この発明の構成は、透明な可撓性フイルム状シートに感圧接着剤を塗着し、
この塗着面側を別の不透明なシートで覆うようにしたもので、各シートは容易にかつ繰り返して分離できるようになつている。そして、感圧性接着剤が一方のシートに強着し、他方のシートに移行しないための手段として、透明シートと感圧性接着剤の双方に対して相容性をもつ溶剤の存在下に感圧性接着剤を透明シートに塗着することにより、透明シートと感圧性接着剤との間に一体の結合を得させて強着し、
他方別の不透明シートについてはその表面を感圧性接着剤と相容性をもたない油で処理することにより、感圧性接着剤に対する接着力を減少してこのシートを分離しやすくするという方法を採用している。なお、このように透明シートと感圧性接着剤の一体的結合によるときは、感圧性接着剤が乾燥や吸湿により変形や変色をしない旨を明記している。また、透明シートの材料としてはセルロース・エステルその他透明なセルロース材料またはゴム誘導体が、不透明なシートの材料として比較的厚手のグラシン紙があげられている。
(二)米国特許第二、五九八、八五五号(成立に争いのない乙第三一号証) 右米国特許発明は、アルバムの如く数葉を重ね合わせて製本したというものではなく単葉のものであるが、写真等の貼着・保存・展示のための用具であるから、アルバムの単位葉と近接の技術分野に属するもので、一九四九年四月二〇出願、一九五二年六月三日特許にかかるものであつて、その公報は本件特許出願前である昭和二七年一一月四日特許庁資料館に受入れられている。この発明の構成は、透明被覆なシートと少くとも一方の面に感圧性接着剤等を塗布した基体シートとの間に、右両者よりも小さく、かつ少くとも一か所の切欠部を設けた第三のシートを挿入したもので、写真等の展示物は右第三のシートの切欠部から露出する感圧性接着剤(基体に塗布されたもの)により固定されるようになつている。そして、右発明の展示用具においては、基体シートの周縁部(第三のシートの外側)の感圧接着剤が透明被覆シートと接着することにより、写真等の展示物は空気や湿気から気密に密閉されることおよび写真等の展示物を容易に取り替え得ることが明示されている。透明被覆シートの材料については、ガラスまたはプラスチツクがあげられている。基体シートの材料については、透明でも半透明でも不透明でもよいというのみで具体的指摘はないが、可撓性をもつものであることを当然の前提としていることおよび展示物が空気や湿気から気密に密閉されるとしていることならびに透明被覆シートの材料にプラスチツクをあげていることからみると、当然通気性・透湿性のない材料であるプラスチツクのようなものを想定しているものと考えられる。
右特許公報には、この特許発明は、通気性・透湿性のない(または少ない)プラスチツクのような物質のシートに塗布された感圧性接着剤に粘着した写真等の被貼着物をガラス・プラスチツクのような通気性・透湿性のない(または少ない)物質の透明なシートで覆い、両シートの周縁部を感圧性接着剤により密着させて内部を気密に密閉することにより、内部の写真等の被貼着物を空気や湿気から保護するものである旨明記されている。ところで、右特許発明より約七年も前に特許されている前記(一)の特許公報によると、感圧性接着剤が空気や湿気により劣化することおよびその劣化防止のために何らかの手段が必要であることが以前より当業者間において一般に認識せられていたと認められるから、右(二)の特許発明における周縁密着による密閉の技術は感圧性接着剤の劣化防止の作用効果をも期待したものであることは、当業者であれば当然明暸に看取し得るところであると考えられる。したがつて、右(二)の特許公報は感圧性接着剤の劣化防止のための密閉技術をも黙示的に開示していると認めざるをえない。
なお、成立に争いのない甲第五号証の六(審判事件第三答弁書)によれば、本件特許に対する無効審判請求事件において、被請求人である本件原告積水樹脂株式会社は、本件特許出願当時の技術水準および本件特許発明の内容についてつぎのとおり主張している事実が認められる。
「……本発明に於ては基体面の全範囲に感圧性接着剤が塗布されており、その上に(b)のフイルムもしくはシートが被覆されているが、この(b)のフイルムもしくはシートは容易に剥離され得るようになされている。従つて、使用される感圧性接着剤は必然的に比較的接着力の小さいものに限定されているのである。これに対し甲第一号証のものは大部分の接着剤は第三のシートによつて覆われ、実際に展示物を貼着するのは孔5から現われた極めてわずかな接着剤によるものである。……即ち、接着剤を孔5から現われた極めてわずかな範囲に限定することによつて展示物を着脱自在としたものであり、又シート2の縁部6に限つてシート1を密着させたことによつて展示用具の分解が可能になされたのである。……実際に本件特許出願当時感圧性接着剤が全範囲に亘つて塗布された基体に透明シートを被覆し、これを接着剤が付着しないように清浄に剥離して使用することは困難なこととされていたのである。従つて、例えば乙第一号証(昭和三二年一二月二三日に発行された特公昭三三―一〇七二五号公報)第一頁右欄下から第一―五行(特許請求の範囲の項)に『接着剤2を塗布し被覆を一体に形成した台紙1と柔軟性のある合成樹脂の透明薄板の下面にシリコンの被膜3を形成した表板4とを互に腹合せて着剥自在に張合せ』と記載されている如く、本発明の透明シートに該当する透明薄板の対接着剤には油性シリコンの様な剥離剤が塗布されていたのであつて、かく構成することによつてはじめて接着剤によつて張合された台紙と透明薄板とが着剥自在となされたのである。」(2)前記公知文献等によると、アルバム等の単位葉において、基体に感圧性接着剤塗着し、その上に薄い透明被覆膜を重ね合せるよう構成するとき、
@ 被覆膜を剥ぐ際感圧性接着剤が着いて剥がれることなく基体に残り、基体を損うことなく被覆膜が容易に剥がれることA 長期に亘り使用しても、感圧性接着剤が基体や被覆膜から浸み透つたり、あるいはたやすく空気や湿気に接して劣化することがないこと等の必要が意識せられ、この必要を満すような素材の選択ならびに構成の仕方に課題があつたと解せられるのである。
本件特許発明は、その特許公報(甲第二号証)全体の記載によれば、右@の点につき格別新規な考察と目されるものはない。右Aの点については、基体にセロフアンもしくはプラスチツクの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシートを選んだ点がその解決方法であると解せられるのである。
しかし、前記の如く、前顕アメリカ特許第二五九八、七五五号(乙第三一号証)の発明は、透明シートの被覆膜につき例としてプラスチツクを挙げて教示しており、基体につきプラスチツクスを特に挙げてはいないが、可撓性をもつものであること、および展示物が空気や湿気から気密に密閉されるよう構成することなど記載している点からみると、基本についても当然通気性、透湿性のない材料であるプラスチツクも含めて示唆しているものと解せられるのである。
ところが、本件特許発明は基体について右アメリカ特許が示唆にとどまつているところを、明白に打ち出し、前記の如く「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシートを基体と」することを本件特許発明の必須要件とした点に特徴がみられるのである。
(3)アルミニウム箔がプラスチツクスと同様前記Aの必要を満す作用効果を奏するものであることは明白である。
(4)ところが、本件特許出願時における公知文献あるいは公知例に、アルバムあるいはスクラツプブツク等において、基体にアルミニウム箔を明らかに例示したものあるいは用いたものがあつたとの証拠はなく、本件特許公報にも、アルミニウム箔については一言も明言していないのである。
そこで、本件特許出願時において、その発明の開示から、基体にアルミニウム箔を置換して用いることの着想が容易であつたかどうかについて検討を進める。
成立につきいずれも争いのない甲第三、四号証、同第六、七、八号証、同第一二、一三号証等によると、原告主張の如く、非繊維質フイルム上に感圧性接着剤を塗着した粘着テープ(甲第三号証)、プラスチツクフイルムとアルミフオイルが包装の分野で同一目的のため代替的に使用されていたこと(甲第四号証)、アルミニウム箔に感圧性接着剤を塗着したシート材やテープ材を造るにあたり、アルミニウム粘と感圧性接着剤とはなじみがよく、アルミニウム箔表面に細かい凹みを作ると投錨力が強まること(甲第六号証)、厚紙にアルミニウム箔を積層し、これにプリントしたうえラツカー様コーテングをもつて覆つた名札等(甲第七号証)、厚紙上にアルミニウム箔を貼着し、その上に凹凸模様を施した襖紙(甲第八号証)、紙を貼着したアルミニウム箔を用いた防湿箱(甲第一二号証)等が本件特許出願時に既に知られていたことが認められる。
原告は、本件特許出願時、アルミ箔に紙を裏張りしたものが文房具製造業者には普通の材料として使用され、多種の見本からなる冊子状の見本帳が存在したと主張するけれども、これを確認すべき証拠はない。
(5)前記認定の公知事公によると、本件特許出願時既に、アルミニウム箔はプラスチツクと同列にかなりの範囲において代替的に用いられることが知られていたことが認められるのであるが、公知例はいずれも接着テープや襖紙、防湿箱等に関するものである。
本件特許発明に用いられる基本は従来使用されて来た紙よりも素材として強く、
剥し易く、接着剤を浸み透すことなく、また接着剤の劣化防止にも役立つ等の作用効果を有するものであることを必要とするだけでなく、これに貼着される各種貼着物の背景色としてふさわしい色彩のものであとことも適性の一つもして重視されるものである。
このように見てくると、アルミニウム箔に関する前記公知例は、本件特許発明の基体に用いる場合とは使用の態様が異るものというべく、アルミニウム箔の純度性質が向上し、その用途が急激に多方向にわたり開発されるに至つた現在においては兎も角、昭和三三年八月七日の本件特許出願時において平均的当業者が本件特許発明の開示から、基体に要求される作用効果を考え、アルミニウム箔がセロフアンもしくはプラスチツクと同一の機能を有することに想到し、これに代え、アルミニウム箔を基体に置換して用いることを推考することが容易であつたとはたやすく認め難いところといわざるを得ない。
(6)したがつて、結局(イ)号物件ならびに(ロ)号物件の基体をなすアルミニウム箔は本件特許発明の基体である「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシート」の均等物であると認めることはできない。
六 なお、(イ)号物件ならびに(ロ)号物件において基体のアルミニウム箔にエンボス加工を施したものが用いられているのは、乙第一号証の実用新案公報一頁右欄上より二〇行目以下に記載されている如く、不乾性糊の塗着層下面に当る面積は上面に当る透明フイルム当接面積よりも遥かに大でしかも微小凹部まで不乾性糊が充填され恰も多数の根を生やしている状態が例えられ、その結果写真を貼るため透明フイルムを引き剥がして行くとき、この透明フイルム面にくつついて行こうとする粘着力よりも金属箔層面にくつついて離れまいとする粘着力の方が勝り、不乾性糊着層は金属箔層面に強着し、剥離剤を使用しなくても決して透明フイルム面にはぎ取られてしまうといつたことがないとの効果をねらつたもので、アルミニウム箔の平板が有する前記Aの機能を保有しながら、@の剥し易くするという効果を附加するため改良したものであると認めることができる。
しかし、(イ)号物件および(ロ)号物件の基体の素材をなす平板アルミニウム箔が本件特許発明における基体と均等物であると認めることができないことは既に判示したとおりである以上、右改良部分は本件特許権の侵害の成否に関係がなく、
また、右乙第一号証の実用新案を本件特許権の関係でその発明を利用するものであると認めることもできない。
七 以上のとおりであるから、被告の製造・販売にかかる(イ)号物件および(ロ)号物件の単位葉((イ)号物件と同一構成)は、本件特許発明にかかるアルバムの単位葉の「セロフアンもしくはプラスチツクスの如き非繊維質よりなるフイルムもしくはシート」との基体についての必須の要件を欠如しているから、(ロ)号物件は本件特許発明のアルバムに該当しないし、(イ)号物件は本件特許発明のアルバムの生産のみ使用するものに該当しないといわざるをえない。
したがつて、被告が(イ)号物件および(ロ)号物件を製造販売する行為が本件特許権を侵害するものといえないから、特許権侵害を前提とする原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
(別紙)(イ)号目録(イ)号図面第1図、第2図に示すごとく、その表面に多数の微小凹凸7′7′をつけ、かつ中間に厚紙4′を貼着したアルミニウムよりなるシート1′1′を基体とし、該両基体面にとじ代部分8′8′を残して感圧性接着剤2′2′を塗着し、
その上をポリ塩化ビニルもしくはポリプロピレンよりなる透明なフイルム3′3′で被覆して、該フイルムを捲着自在に形成したアルバム用単位葉(台紙)。
(ロ)号目録(ロ)号図面第1図、第2図、第3図に示すごとく、その表面に多数の微小凹凸7′7′をつけ、かつ、中間に厚紙4′を貼着したアルミニウムよりなるシート1′1′を基体とし、該両基体面に、とじ代部分8′8′を残して感圧性接着剤2′2′を塗着しその上をポリ塩化ビニルもしくはポリプロピレンよりなる透明なフイルム3′3′で被覆して該フイルムを捲着自在に形成した単位葉を重ねて製本したアルバム。
(イ)号図面<11811-001>(ロ)号図面<11811-002><11811-003>
裁判官 大江健次郎
裁判官 楠賢二
裁判官 庵前重和