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事件 昭和 48年 (ヨ) 89号
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裁判所 静岡地方裁判所 浜松支部
判決言渡日 1975/06/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事仮処分
主文 債権者らの本件各仮処分申請をいずれも却下する。
訴訟費用は債権者らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
(甲事件について)一、甲事件・乙事件債権者ら(以下、債権者らという。)1 債務者株式会社双葉産業(以下、債務者双葉という。なお、乙事件についても同じ。)は、静岡県浜松市<以下略>所在の自己経営にかかる「娯楽センター有楽」(以下、本件店舗という。)内の別紙(イ)号説明書および同図面第一図、第二図表示の構造を有する「パチンコ遊戯場における玉循環移送装置」(以下、本件装置という。)を使用してはならない。
2 債務者双葉の本件装置に対する占有を解いて、静岡地方裁判所浜松支部執行官に保管を命ずる。
二 債務者双葉1 本件申請を却下する。
2 訴訟費用は債権者らの負担とする。
(乙事件について)一 債権者ら1 債務者株式会社西陣(以下、債務者西陣という。)は本件店舗内の本件装置の新設、改造、補修を行なつてはならない。
2 債務者双葉は、債務者西陣をして本件店舗内の本件装置の新設、改造、補修をさせてはならない。
二 債務者双葉、同西陣1 本件申請中、債務者西陣に対する申請を東京地方裁判所へ移送する。
2 本件申請を却下する。
3 訴訟費用は債権者らの負担とする。
当事者の主張
(甲事件について)一 債権者らの申請の理由1 債権者らは、次の特許発明(以下、本件発明といい、その特許権を本件特許権という。)の特許権者である。
発明の名称 パチンコ遊戯場における清浄遊戯玉自動循環装置出願 昭和三八年四月二〇日出願番号 昭和三八年ー二〇六三三出願公告 昭和四五年一二月二五日公告番号 昭和四五年四一四一七号登録 昭和四七年一〇月九日登録番号 特許第六六一九九九号2 本件発明の特許登録請求の範囲(以下、請求の範囲という。)は、別紙本件特許公報(以下、別紙公報という。)の特許請求の範囲の項記載のとおりであり、これを六個の構成要件に分類すると、次のとおりである。
(一) 玉磨き機1(番号は別紙公報第一ないし第四図の番号を示す。以下同じ。)の下に計数容器2を配置して、該計数容器よりコンベアー3のバケツト4に玉が入るようにし、かつ該バケツトより補給タンク5内の玉が定量以下になると玉が移入されるようにしたこと。
(二) 補給タンク5には、補給パイプ14を連結して、該補給パイプ上に玉送り装置17を設け、かつ該玉送り装置より出た補給パイプの各パチンコ機(A・B・C)の景品タンク6上部の個所毎に電磁開閉機15により開閉される補給口16を設けたこと。
(三) 各景品玉タンク6には、玉が無くなると接続するスイツチを設けたこと。
(四) 各パチンコ機のアウト玉排出通路23毎にカウンタースイツチ21を介在させて、かつこれらの各アウト玉排出通路23を排出玉収容タンク25に集結させ、さらに該収容タンクより還元装置を介して供給管27を玉磨き機1に連通させたこと。
(五) しかして指令室8の配電盤9には、各景品玉タンク6内のスイツチにより点滅する補給指令ランプ10、点灯した補給指令ランプに基づき投入する各補給スイツチ11、投入した補給スイツチにより働くマグネツトリレー30により一定時間作用するタイマースイツチ20、該タイマースイツチの作用中作動する玉送り装置17のモーター18等を同一回路上に配設したこと。
(六) 多数のパチンコ機の玉の計数、玉の運搬、玉磨き等を指令室8内の指令によつて自動的に循環して行わせるようにしたこと。
3 債務者双葉は、昭和四一年頃から、静岡県浜松市<以下略>所在の本件店舗において、パチンコ機約三二〇台を擁するパチンコ店を営んでいるが、その店舗内の装置は、別紙(イ)号説明書および同図面第一図、第二図表示の構造を有する本件装置である。
4 本件装置を六個の構成要件に分類すると、次のとおりである。
(一)’ 玉磨き機1’(番号およびアルフアベツトは、別紙(イ)号図面第一、
第二図の番号を示す。以下同じ。)の下にリミツトスイツチS’1付計量容器2’を配置して、該計量容器よりコンベヤー3’のバケツトに玉が入るようにしたこと。
(二)’ 補給タンク5’には分配ベースタンクBおよびスモールタンクbを介して補給パイプ14’を連結して、該補給パイプ上にカウンター付き玉送り装置17’を設け、該玉送り装置より下の補給パイプ14’の各パチンコ機(A’・B’・C’)の景品玉タンク6’上部の個所毎に右玉送り装置の歯車形ローラー19’の玉送り歯により制禦される補給口16’を設けたこと。
(三)’ 各景品玉タンク6’には玉が無くなると接続するスイツチ7’を設けたこと。
(四)’ 各パチンコ機のアウト玉排出通路23’毎にカウンター21’を介在させて、これら各アウト玉の排出通路23’を排出玉収容タンク25’に集結させ、
さらに該収容タンクより、バケツトエレベーター式還元装置26’の供給管27’をリミツトスイツチS3付計量タンク28’を経て、玉磨き機1’に連通させたこと。
(五)’ 指令室8’の配電盤9’には、各景品玉タンク6’内のスイツチ7’により点滅する補給指令ランプ10’、点灯した補給指令ランプに基づき投入する各補給スイツチ11’投入した補給スイツチにより働くマグネット30’により電動子dの先爪Kを玉送り装置17’のカムCの溝hより離し、歯車形玉送りローラー19’をして該ローラーの一定数の回転により、再び右先爪KのカムCの溝hに落ち込み、右ローラーの回転をとめるまで、すなわち一定時間自由回転する玉送り装置17’の電動機18’を同一回路上に配設したこと。
(六)’ 多数のパチンコ機の玉の補給、玉の計数、玉の運搬、玉磨きなどを、指令室8’内の指令によつて自動的に循環して行わせるようにしたこと。
5 そこで、本件発明と本件装置の構成を比較すると次のとおりである。
(1)(一)と(一)’の比較 玉磨き機1・1’は全く同一であり、計数容器2に対応する計量容器2’も同一要素であり、バケツト付コンベヤー3・3’も全く同一であり、補給タンク5・5’に補給タンク内の玉が定量以下になると玉が移入されるようになつている点も全く同一である。ここでは計数容器2に対し、計量容器2’の差があるが、計量容器2’においても最終的にはリミツトスイツチにより玉の数を掌握できるので、同一要素である。
(2)(二)と(二)’の比較 (二)も(二)’も、補給タンク5・5’に補給パイプ14・14’を連結し、
該補給パイプ上に、玉送り装置17・17’を設け、かつ該玉送り装置より出た補給パイプの各パチンコ機(A’・B’・C’)の各景品玉タンク6・6’上部に補給口16・16’を設け、右補給口は電磁開閉機の作用により開閉される点、本件装置は本件発明の構成要件と同一である。もつとも本件装置に構造上多少の差異があるので、以下この点について検討する。
まず、(二)は、補給タンク5に補給パイプ14を直結しているのに対し、
(二)’は、補給タンク5’にベースタンクBおよびスモールタンクbを介在させているが、Bやbが介在することは、遊戯場の規模や設置等の関係により、使用玉の減増があるので、それらへの補給を維持するためのタンクであり、これらのタンクの存在によつて(二)と(二)’が別要素となるはずはなく、これは単なる設計上の問題である。ベースタンクBおよびスモールタンクbは、玉の補給を円滑ならしめるための補給パイプの一種であり、請求の範囲にいう「補給パイプ」の変形にすぎない。
次に、(二)は、補給パイプ14上に玉送り装置17を設けているのに対し、
(二)’は、(二)補給パイプの末端(債務者らのいう補給支管)上にカウンター付き玉送り装置(債務者らのいう定数計数器)17’を設けている点については、
(二)’における補給支管は補給パイプの延長ないし変形で、(二)にいう補給パイプと同一であり、また、(二)の要件中には単に玉送り装置17とあるのみであつて、(二)’の定数計数器と称するものが、電動機18’のマグネツト30’への通電により、歯車形ローラー19’が自由回転して、補給パイプ14’内の玉を景品玉タンク内に送り込むことにおいて(二)の玉送り装置にほかならず、しかも、具体的にも、補給指令ランプ10’の点灯に基づく補給スイツチ11’の投入により電動機18’への通電により、玉の補給が行われるのであるから、
(二)のように玉を積極的に送くるか、(二)’のようにローラーの自由回転をまかせるかは、玉送り装置として別異のものではなく、また、請求の範囲でこれを限定したものでないので、この点も全く同一である。
次に、(二)は、単に「電磁開閉器により開閉される」としており、これに対応する(二)’は、「玉送り装置17’より下の補給パイプ14’の各パチンコ機(A’・B’・C’)の景品玉タンク6’上部の個所毎に歯車形ローラー19’の玉送り歯により制禦される補給口16’を設け」とされている点については、まず、本件発明において、電磁開閉機により開閉されるというのは、マグネツトへの通電によりその間磁力により補給口を開き、または閉じることをいうのであるが、
本件装置の補給口16’の開閉をみるに、電動機18’のマグネツト30’への通電により電動子dが作動し、この作動により回転させられる歯車形ローラー19’が右補給口上部に臨んでおり、しかして該ローラーの回転中補給口16’より玉が送られ、該ローラーが定数回転すると、電動子dに設けられた先爪KがカムCの溝hに落ち込み、該ローラー19’の歯が動きを止めて補給口への玉の投入も停止するものである。従つて、本件装置の前記電動機のマグネツト30’およびその関連機構は、他面電磁開閉機と称することができ、本件発明にいう電磁開閉機と同一である。次に、本件装置は、補給パイプに傾斜を設け、自然落下力を利用して玉を運搬するものであるが、傾斜を利用して玉を流すなどのことは、まさに公知公用の事実で、特許訴訟において問題とならない。
(3)(三)と(三)’の対比 (三)も(三)’も、それぞれ「各景品玉タンク6・6’には玉が無くなると接続するスイツチ7・7’を設けたこと」は全く同一である。
(4)(四)と(四)’の対比 各パチンコ機のアウト玉(あふれ玉、抜き玉を含む。)排出通路23・23’毎にカウンタースイツチ21、またはカウンター21’を介在させて、これら各アウト玉排出通路23・23’を排出玉収容タンク25・25’に集結させ、さらに、
該収容タンクより還元装置(債務者らのいうバケツトエレベーター)26・26’を介して、供給管27・27’に連結し、右供給管を玉磨き機1・1’に連通させた点は両者全く同一である。このうち、(四)のカウンタースイツチ21および(四)’のカウンター21’は、ともにパチンコ機より排出される玉を積算計数する点では両者全く同一である。また、(四)’の要件は、「該供給管27を玉磨き機1に連通せしめ」とあるのに対し、(四)’は、供給管27’と玉磨き機1’の間に、リミツトスイツチS3付きプールタンク28’を介在させている点が構造上異なるが、パチンコ機数の多い場合は、使用玉数も増加するため、必然的にその数量を維持するための貯留タンクを要することになるのであつて、このプールタンクを介在させることは、本件発明の実施例において上部タンク28として明示した如く、設計的なものにすぎず、全く同一である。
(5)(五)と(五)’の対比 まず、その前半において、両者ともに、「指令室8・8’の配電盤9・9’には各景品玉タンク6・6’内のスイツチ7・7’により点滅する補給指令ランプ10・10’、点灯した補給指令ランプに基づき投入する各補給スイツチ11・11’投入した補給スイツチにより働く」までは全く同一であるが、その後において、(五)は、「マグネツトリレー30により一定時間作用するタイマースイツチ20の作用中作動する玉送り装置17のモーター18等を同一回路上に配設し」とあるのに対し、(五)’は、「マグネツト30’により電動子dの先爪Kを玉送り装置17’のカムCの溝hより離し、歯車形玉送りローラー19’をしてローラーの一定数の回転により再び右先爪KがカムCの溝hに落ち込み、右ローラーの回転を止めるまで、すなわち一定時間回転する玉送り装置17’の電動機18’を同一回路上に配設し」たものである。そこで、この点について検討するに、補給スイツチの投入により働くのは、マグネツトリレー30またはマグネツト30’であつて、しかもこれは玉送り装置17・17’をして一定数のパチンコ玉を景品玉タンク6・6’に投入する動作を始めさせる点で両者は全く同一である。一定数のパチンコ玉を景品玉タンクに投入するための装置として(五)はタイマースイツチ20を用いているが、これは、ローラー19の回転数により時間を定め、一定数が投入されるように敷設してある。これに対し、(五)’は、特にタイマースイツチを用いていないが、前述の如く、ローラー19’の一定数の回転によりカムCの溝hに先爪Kが落ち込むことによつてローラー19’の回転が止まるようになつているので、ローラーの回転数により一定数が投入されるようにした点は両者全く同一である。タイマースイツチは公知の機器であり、これらを取捨選択して使用することは、電気工事上通例のことであつて、何ら特段の技術ではなく、従つて、かかる公知の機器であるタイマースイツチの使用を必須条件とされないことは明らかであり、また、かかる機器をはずすことにより本件特許要旨全体の技術の範囲外とすれば、本件特許権としての存在価値は何ら存しないことになる。
(6)(六)と(六)’の対比 (六)と(六)’は全く同一である。
以上のとおり、本件装置は、本件発明の構成要件を全て具備しているから、本件発明の技術的範囲に属するものである。
6 保全の必要性(一) 債務者双葉による侵害行為の継続 債権者らは、債務者双葉に対し、昭和四八年五月頃より再三にわたり口頭をもつて、あるいは、同年六月一〇日付および同年一一月七日付の各内容証明郵便をもつて、債務者双葉が使用している本件装置は、本件特許権を侵害するものであるから、直ちに使用を中止するよう申し入れ、また引続いて使用したい場合はパチンコ機一台当り月間金一二〇円の実施料を支払うよう通告した。しかるに、債務者双葉は、右通告を無視し、現在に至るも本件装置を使用している。
(二) 債権者らの窮迫と損害の拡大 債権者らは、本件発明を発明するについて、昭和三五年頃より昭和三八年四月二〇日まで約三か年間にわたり研究し、かつ多額の資金を費し、現在そのための直接間接の負債一億五〇〇〇万円をかかえている。そこで、債権者らは、本件発明が公告され、かつ登録された以上、本件発明を自ら実施して本件発明装置を製造販売し、または第三者に対し実施権を与えて実施料を得て、本件発明に要した資金を回収する必要に追られているが、債務者双葉のように、債権者らの承諾なくして、ほしいままに本件特許権を侵害する本件装置を使用されるならば、右資金を回収することができない。
また、債権者らは、現在までに【A】ほかに対し本件発明の実施権を与え、実施料を得ているが、債務者双葉により公然と本件特許権を侵害する本件装置を使用されることによつて、右【A】らから、本件特許権に疑をもたれ、実施料を支払わずに本件特許権を侵害する本件装置を使用することを放置するのかと、強い異議の申出を受けており、また、右【A】らとの間で締結した実施契約を錯誤により無効であると主張されるおそれがある。かくしては、債権者らは、毎月得ている実施料を喪失することになる。
また、債権者らは、有限会社王将に対する静岡地方裁判所浜松支部昭和四八年(ヨ)第二九号特許権侵害差止仮処分事件について同年五月一日、有限会社光扇商事に対する長野地方裁判所同年(ヨ)第四二号特許権侵害差止仮処分事件につき同年五月二六日、それぞれ本件装置を使用してはならない旨の仮処分決定を得ている。債務者双葉が引続き本件装置を使用することが許されるとするならば、本件装置を使用していた有限会社王将に対する関係では、同社に対しその使用を差止め、
債務者双葉に対しては、その使用を継続させるとの不平等な結果になり、それは、
債権者らにとつて経済的損失となるばかりでなく、大きな精神的苦痛となる。
さらに、債務者双葉が公然と本件特許権を侵害する本件装置を使用することによつて、他のパチンコ遊戯場経営者においても、債権者らの承諾なくして本件装置を使用するおそれがあり、これは、単に静岡県浜松市の経営者だけでなく、日本全国の業者に波及するおそれが多分にあつて、その場合には、債権者らは、本件特許権を有していても、本件装置を使用している経営者から実施料を取得することができず、極めて甚大な損害を蒙る。債権者らは、パチンコ機一台当り月間金一二〇円の実施料で本件発明の実施を許容しているが、現在本件装置またはこれと同様の装置を使用するパチンコ業者は、全国で五割から六割を占め、そのパチンコ機の台数は、約八〇万ないし九六万で、右業者から実施料を取得するならば、月間金九六〇〇万円ないし一億一五二〇万円となる。従つて債務者双葉により公然と本件装置を使用されることによつて、債権者らは、月間右金額の損害を蒙るおそれがある。
(三) 債務者双葉の蒙る損害 一方、債務者双葉が、本件仮処分決定により本件店舗に設置する本件装置の使用を差止められたとしても、債権者らに対し、パチンコ機一台当り月間金一二〇円の実施料を支払うならば、債権者らは、債務者双葉に対し、本件装置の使用を許諾する用意がある。従つて、債務者双葉が本件仮処分によつて蒙る損害は、僅か一台につき一か月金一二〇円に尽きる。
(四) 本件特許権の存続期間の僅少 特許権の存続期間は、特許出願の日から二〇年、出願公告の日から一五年である(特許法67条1項)。本件発明は、昭和三八年四月二〇日に出願されたものであるが、審査手続に日時を要し、昭和四五年一二月二五日に出願公告された。従つて、本件特許権は、出願の時から二〇年である昭和五八年四月二〇日をもつて消滅し、今後八年の期間存続するにすぎず、緊急に仮処分によつて債務者双葉の違法行為を差止めなければ、本件特許権の保護を全うすることができない。
以上のとおり、債権者らは、本件仮処分が得られないことによつて甚大な損害を蒙るのに対し、債務者双葉が、本件装置の使用を差止めされることにより蒙る損害は僅少であるうえ、緊急性の要件も具備しているので、本件仮処分の必要性は十分あるものといわなければならない。
二 債務者双葉の答弁および主張1(一) 申請の理由第1項は認める。
(二) 同第2項は、請求の範囲が別紙公報の特許請求の範囲の項記載のとおりであることは認めるが、これを六個の構成要件に分類することについては争う。
(三) 同第3項のうち、債務者双葉が、昭和四一年頃から債権者ら主張の地所在の本件店舗においてパチンコ店を営んでいること、その店舗内の装置が別添(イ)号図面第一図、第二図表示の構造を有することは認めるが、(イ)号説明書表示の構造を有することは争う。
(四) 同第4および第5項の主張は争う。
(五) 同第6項のうち、(一)の通告があつたことは認めるが、その余は争う。
2 本件発明の技術的範囲について(一) 本件発明の構成要件 本件発明は、パチンコ遊戯場における清浄遊戯玉自動循環装置で、その請求の範囲に記載されたとおりの具体的な構成の全てを構成要件とするものである。
特に、本件特許出願当時の公知技術に照らすと、本件発明の構成のうち大部分が既に先行技術として存在するか、または、それから容易に考案し得るものであり、
僅かに、
(1) カウンタースイツチと計数容器の二つの計算数機構を設け、これをいずれも指令室内に表示させるようにしたこと、
(2) 特殊な電気回路(同一回路)上に多数の装置(補給スイツチ、マグネツトリレー、タイマースイツチ、玉送り装置等のモーター)を設置したこと、
(3) 電磁開閉機、タイマースイツチ、モーター、玉送り装置等の組合せからなる玉送り機構、等の極めて具体的な部分において、本件発明の特徴を見出すことができる。本件発明の出願の審査、審判、異議の過程において、出願人自らが本件発明の要旨を請求の範囲記載の具体的な一連の構造であると再三にわたり言明し、具体的構造による作用効果を強調していることからも、本件発明が、右に記載した特徴となつている具体的機構を備えた請求の範囲記載事項の全てを必須の要件としているといわなければならない。
(二) 本件発明の目的、作用効果 具体的には、後記本件発明と本件装置との対比の項に記載したとおりであるが、
大要は次のとおりである。
(1) 本件発明の目的は、別紙公報(一欄二二行から二欄一一行まで)に記載されているように、従来人手によりなされていた景品玉の補給、アウト玉の反覆使用、計算、玉の運搬、玉磨き等を機械的、電気的に全自動で行ない、パチンコ機裏側の従業員を不用ならしめるとともに、従来行われていたアウト玉の反覆使用をやめ、遊戯者をして常に衛生処理した玉のみを使用させることを目的としている。しかしながら、このような目的は、本件発明のみの目的ではなく、同様の目的のために本件特許出願前に多数の先行技術が存在していたのであり、目的を同じくするからといつて、彼此装置の類似判断の基礎とはなし得ないのであるが、他面、かかる目的を達し得ない装置は、本件発明の目的外、すなわち技術的範囲外であるという意味で、判断の資料となり得るもので、本件発明の技術的範囲の外縁を画する意味を有するものである。
(2) 本件発明の作用および効果については、別紙公報(三欄一九行から四欄終りから四行まで)に詳細な記載がある。この記載は、全て請求の範囲に記載された具体的な構成に対応するものとなつており、請求の範囲記載の各要件のうち一つでも欠ければ、この作用、効果は達し得ない。換言すれば、請求の範囲に記載された事項は、この作用、効果を達するために欠くことのできない事項となつている。
3 本件発明の構成要件の分け方について 構成要件を大まかに分けると、議論を抽象化させ、対比を不正確にするおそれがあるので、本件発明の構成要件としては、次のとおり、九つの要件に分けることが妥当であり、かつ必要である。
@ 玉磨き機の下に計算容器を配置して該計数容器よりコンベヤーのバケツトに玉が入るようにしたこと。
A バケツトより補給タンク内の玉が定量以下になると玉が移入されるようにしたこと。
B 補給タンクには補給パイプを連結して該補給パイプ上に玉送り装置を設けたこと。
C 該玉送り装置より出た補給パイプの各パチンコ機における景品玉タンク上部の個所毎に電磁開閉機により開閉される補給口を設けるとともに各景品玉タンクには玉が無くなると接続するスイツチを設けたこと。
D 各パチンコ機のアウト玉排出通路毎にカウンタースイツチを介在させたこと。
E これら各アウト玉排出通路を排出玉収容タンクに集結させたこと。
F 該収容タンクより還元装置を介して供給管を前記玉磨き機に連通させたこと。
G 指令室の配電盤上には、各景品玉タンク内のスイツチにより点滅する補給指令ランプ点灯した補給指令ランプに基づき投入する各補給スイツチ、投入した補給スイツチにより働くマグネツトリレーにより一定時間作用するタイマースイツチ、該タイマースイツチの作用中作動する玉送り装置のモーター等を同一回路上に配設したこと。
H 多数のパチンコ機の玉の補給、玉の計数、玉の運搬、玉磨き等を、指令室内の指令によつて自動的に循環して行わしめるようにしたこと。
4 本件装置について 債務者双葉の経営にかかる本件店舗のパチンコ機には、無人型パチンコ機(以下、無人機という。)と、還元機付有人型パチンコ機(以下、還元機付機という。)の二種があり、その構造は、別紙無人機および有人機(還元機付機)の図面表示のとおりで、無人機ではアウト玉はアウト玉排出口より下に設けた景品玉タンクに流入して景品玉として循環使用され、還元機付機ではアウト玉とセーフ玉は下タンクに貯溜され還元機によつてパチンコ機上部の景品玉タンクに揚送され景品玉として循環使用されるようになつている。
本件装置は、パチンコ遊戯場における玉循環移送装置で、営業中これら各パチンコ機から排出されるあふれ玉(パチンコ機の貯溜容量超過の玉)と景品交換場で景品と交換した景品交換玉および閉店後の抜き玉とを一括して処理するものである。
以下、本件装置を九つの要件に分ける。
@’ 玉磨き機の出口に流し樋を配置し、該流し樋により玉磨き機の下に設けてある仕上り玉タンクに清浄玉を流入させ(なお、仕上り玉タンク内には、玉をあふれ出させないために玉の上面レベルを検出するリミツトスイツチが設けてあり、玉磨き機の運転は、仕上り玉タンク内に貯溜した玉の上面レベルが右リミツトスイツチで検出されない限り継続し、玉磨き機から仕上り玉タンクに清浄玉が流入する。)、さらに、玉処理場の床に少量(最大一五個程度)の玉が入るバケツトが付いた階内揚送用バケツトエレベーターを植設して、右バケツトに仕上り玉タンク内の清浄玉を流入させるようにしたこと。
A’ 右バケツトにより計数することなく(玉数はばらつきがある。)、仕上り玉タンク内の清浄玉を揚送し、玉処理場内の上部プールタンクに空けるようにしたこと(なお、上部プールタンク内にも、玉をあふれ出させないために玉の上面レベルを検出するリミツトスイツチが設けてあり、階内揚送用バケツトエレベーター運転は、上部プールタンク内に貯溜した玉の上面レベルが右リミツトスイツチで検出されない限り継続し、玉は上部プールタンクに空けられる。)。
B’ 上部プールタンク内の玉は、その下方に設けてある分配ベースタンクに流入し、ベースタンクから供給パイプ中を流下して玉処理場より出て中二階、地下一階のスモールタンクに流入し、さらに、スモールタンクからパチンコ機の各列上方に沿つて設けてある補給樋を流下して、補給樋の中途に各パチンコ機毎に対応して設けてある開け放しのシユート取付口からシユートに流入するようになつており、各シユートに接続する補給支管の末端には、玉の落下により機械的に計数する爪車つき定数計数器を設けたこと。
C’ 該定数計数器は、常時はその爪車がストツパーで回転不能に拘束されていることにより、玉のパチンコ機への流出が阻止されるようになつており、他方、無人機の上部予備タンクには、タンク内の玉が少くなると接続するスイツチを設け、また、還元機付機の上部景品玉タンクには、タンク内の玉が少くなると接続し還元機の運転を開始させる第一スイツチと、それよりも少くなると接続する第二スイツチを設けたこと。
D’ 各パチンコ機の排出玉通路毎に積算計数表示器を設けたこと。
E’ 景品交換場で回収した交換玉および各パチンコ機の排出玉通路からその島の底の集合樋に排出される排出玉(あふれ玉と抜き玉の総称。)を、各誘導樋により地下二階の収容タンクに集結させるようにしたこと。
F’ 該収容タンク内の玉を、少量(最大一五個程度)の玉が入るバケツトが付いた階外揚送用バケツトエレベーターにより、計数することなく(玉数はばらつきがある。)揚送し、地上二階の玉処理場内上部に設けてあるプールタンクに空け、プールタンクからその下にある玉磨き機に流入させるようにしたこと(なお、プールタンク内には、玉をあふれ出させないために玉の上面レベルを検出するリミツトスイツチが設けてあり、階外揚送用バケツトエレベーターの運転は、プールタンク内に貯溜した玉の上面レベルが右リミツトスイツチで検出されない限り継続し、交換玉、排出玉はプールタンクに空けられる。)。
G’ 地下一階の玉売場にある配電盤には、無人機の場合は上部予備タンク内のスイツチ、還元機付機の場合は景品玉タンク内の第二スイツチの各接続により点灯する補給指令ランプと、点灯した補給指令ランプに基づき投入して定数計数器のストツパーをはずす各補給スイツチとをそれぞれ別回路に配設したこと。
H’ 無人機の上部予備タンクへの玉の補給と、還元機付機の景品玉タンクへの還元機によらないで行なう玉の補給とを、玉売場内の指令によつて行ない、各パチンコ機から排出される排出玉および交換玉の玉磨きを自動的に行なつて各パチンコ機に循環させるようにするとともに、排出玉の計数は、従業員が各パチンコ機の表板を開き、その裏の積算計数表示器の表示を見て集計するようにしたこと。
5 本件発明と本件装置の対比について以下、具体的に本件発明と本件装置の構造の相違およびそれによる両者の目的、作用、効果の違いを明らかにする。
(一) 目的の相違と玉の循環方式の相違(イ) まず、本件発明は、全体として、各パチンコ機より出たアウト玉を直ちに玉磨き機で衛生処理をして循環使用することを目的とする構成となつているのに対し、本件装置は、そのような構成とはなつていない。
(ロ) 本件発明の目的として、別紙公報(一欄三八行以下)には、「遊戯者には常に衛生的処理をした清浄玉をもつて遊戯せしめる目的のために……」と記載されているし、また、効果について、別紙公報(四欄二四行以下)には、「本発明は以上のようであるから、遊戯者の使用する玉は常に玉磨き機により衛生処理をした清浄玉のみであるから清潔に遊戯せられ、且つ遊戯場も清潔に保持せられる効果がある」と記載されており、いずれも単なる実施例の説明ではない。請求の範囲に記載された本件発明の構成は、このような目的、効果を達するためのものである。本件発明のアウト玉とは、当り玉、すなわちセーフ玉と対応する外れ玉を意味し、この外れ玉(狭義のアウト玉)が反覆使用されることなく玉磨き機に送られ、遊戯者が常に清浄玉のみで遊戯し得るように構成されていなければ、本件発明の主要目的の一つを欠くことになる。
(ハ) ところが、本件装置は、無人機と還元とを用いているため、玉磨き機で衛生処理される玉は、営業中のあふれ玉と景品交換玉および閉店後の抜き玉であつて、アウト玉はパチンコ機台内をそのまま循環して反覆使用されるようになつているので、遊戯者の使用する玉は、常に玉磨き機により衛生処理をした清浄玉のみではなく、むしろ大部分は反覆使用されている玉である。
(ニ) 右のように、本件装置は、本件発明の目的を達し得ないものであるが、反面本件発明にない作用、効果を有する。例えば、本件装置によれば、玉は各パチンコ機内において循環し、反覆使用され、営業中遊戯場全体を循環する玉は、全アウト玉(外れ玉)に比較すれば極く少いあふれ玉と景品交換玉のみであるから、玉の運搬、玉磨き、補給装置等は本件発明のものと比較し、はるかに小能力、安価な装置で足りるのである。
(二) 全体的計数機構の相違(イ) 次に、本件発明は玉磨き機の下に計数容器を設けている(前記3の@の要件)が、本件装置では玉磨き機の下に仕上り玉タンクを設けているだけで計数容器はない。
(ロ) 本件発明における計数容器は、別紙公報(四欄三六行から四〇行まで)に記載されているように、各パチンコ機より出たアウト玉を一括して収容し、全機のアウト玉数を計数表示するものであり、これによりパチンコ全機の稼働状況を一目して判然とさせ、営業者をして一々これらを計数する手間を省かせるものである。
右公報記載の部分は、実施例のみの作用、効果の記載ではなく、特許法36条4項に定める発明の効果の記載である。出願人は、出願過程において、最後の補正である昭和四五年八月三一日付補正書で、請求の範囲から全機のアウト玉数の計数表示を削除したが、審判官が右補正を認めたのは、請求の範囲の末尾五行「……玉の計数等を指令室内の指令によつて循環して行わしめる」の記載のほか、別紙公報の発明の詳細な説明(以下、詳細な説明という。)欄の記載と照らせば、計数容器による計数の表示が指令室においてなされることが明白であると考えたことによるものとみることができるのである。本件発明における計数機構の特色の一つは、各機毎のアウト玉の計数表示とともに、「全機のアウト玉数も計数表示」されるところにあり、バケツトの玉の流込の規制や計数容器自体のあふれ防止などとは無関係のことである。
なお、債権者らは、詳細な説明の実施例の記載に「カウンター計数器を付設した計数容器」とあることから、カウンター計数器と計数容器とは別物であると主張するが、この記載は素直に読めば、むしろ計数容器が全体的計数の作用をすることについて明らかにするため、計数容器の構成を説明したものとみるべきである。
(ハ) これに対し、本件装置の仕上り玉タンクは、単なるタンクであつて、何ら計数作用を営むものではない。仕上り玉タンクに流入する玉は、あふれ玉と景品交換玉であつて、アウト玉(外れ玉)ではないので、右タンクにいかなる装置を付けようとも、アウト玉(外れ玉)のみの計数をすることは不可能であり、仮に右タンクに流入する玉を計数したとしても、計数されるのはあふれ玉と景品交換玉の総和になり、全機の稼働状況を知ることはできない。
なお、仕上り玉タンクのリミツトスイツチは、右タンクの上面レベルを検知し、
玉磨き機の作動を止めて、玉が右タンクからあふれ出ることを防止する作用をもつだけであり、右タンクを通過する玉の数ないし量を計ることはできない。ましてや、これにより全機のアウト玉数を計数したり、遊戯場全体の稼働状況を把握し得るものではない。
本件発明において、アウト玉と景品交換玉とを同一の玉磨き機で磨き、これらを計数容器に流入させれば、もはやアウト玉の計数の役割を果さなくなり、この作用を営ませようとすれば、玉磨き機やタンクは景品交換玉用のものを別に設けなければならないことになるが、本件装置は、右のように、全機の稼働状況を知ることはできないが(その必要もない。)、営業中景品交換玉とあふれ玉とを同一装置により、運搬、玉磨きすることができるので合理的である。
(ホ) なお、債権者らは、後記三の第4項の(ロ)において、計数容器が債務者双葉の主張するような作用、効果を奏することが要旨であるとしても、本件装置は、不完全利用であると主張する。
しかし、いわゆる不完全利用論自体が我が国において定着したものではなく、不完全利用は特許法36条5項と矛盾するので権利侵害とならないとするのが、多数説であり、これを明言する判例もある。そして、本件装置が、本件発明の構成要件として請求の範囲に明確に記載されている計数容器を配置せず、本件発明の作用、
効果を達するための必要な構成を欠き、玉数を計数できないことは、既にこの点だけで本件装置が本件発明と技術的範囲を異にする根拠十分であつて、不完全利用の理論の介入する余地はない。
仮に、不完全利用論を認める場合においても、本件装置は、次のように、その要件を充たさないものである。
(a) 本件装置は、営業時間中景品交換玉とあふれ玉を一括処理できるという特徴を有し、たれ流し式に玉がバケツトに入るので、玉の流れは円滑であるし、安価でもある。従つて、作用、効果を低下させるだけどころか、無駄を省いて、しかも本件発明より実用上都合がよいなど本件発明にない優れた作用、効果を有している。
(b) また、債務者西陣により開発された本件装置のような「月光ライン」スタイルが自動循環装置の主流を占めていること、どのメーカーも計数容器を付設していないこと、債務者らが自ら本件発明を実施させていると主張する業者ですら、計数容器を使用していない(おそらく全国に一軒もないであろう。)という事実は、
本件装置の方が作用効果的に優れ、技術常識からいつて当然とるべき構成であるからである。
(c) しかも、技術常識からそのような構成をとることが理由のあるものである以上、本件発明の技術的範囲を逸脱するためになされた変更ともいえない。
(d) 債権者らは、昭和三八年四月頃債務者西陣の社員が債権者【B】から本件特許出願書類を借りていつたことを、右のような主張の一つの柱としているが、仮にそのような事実があつたとしても、権利解釈について本来何の根拠ともならない。
(三) 本件発明のバケツトコンベヤーと本件装置のバケツトエレベーター(階内揚送用)の構造、作用の相違 本件発明では、計数容器よりコンベヤーのバケツトに玉が入るようにし、該バケツトより補給タンク内の玉が定量以下になると玉が移入されるようになつている(前記3のAの要件)が、本件装置では、階内揚送用バケツトエレベーターにより計数することなく、上部プールタンクに移送するようになつており、この移送は、
上部プールタンクに設けたリミツトスイツチで上面レベルが検出されない限り、常に継続されているようになつている点で両者の構造は相違している。
(四) 補給機構の相違 次に、玉が上部プールタンクより景品玉タンクに供給されるまでの構造を対比する(前記3の要件中BCGに関連する)。
(イ) 本件発明では、補給タンクに補給パイプを連結して、該補給パイプ上に玉送り装置を設けている(前記3のBの要件)が、本件装置では、上部プールタンクの玉はその下方に設けられた分配ベースタンクに流入し、ベースタンクから供給パイプ中を玉の自重により流下してスモールタンクに流入するようになつており、構成、作用を異にする。特に、本件装置の供給パイプ上には玉送り装置は存在しない。
本件装置のベースタンクは、遊戯場の各島(ブロツク)および玉売場に送る玉を分流させるものであり、スモールタンクは、ベースタンクより供給パイプ中を流下して送り込まれた玉を保留し、一斉補給に備えるとともに、補給樋に円滑に玉を配分する役割を有するものであつて、いずれも単なるパイプの変形ではなく、常に必要なもので、遊戯場の規模や設置場所に無関係である。
(ロ) 本件発明では、玉送り装置より出た補給パイプには各パチンコ機の景品玉タンク上部の個所毎に電磁開閉機により開閉される補給口を設けており(前記3のCの要件)、補給タンクから電磁開閉機を設けた補給口までは、玉は補給パイプを通つて送り込まれるのに対し、本件装置は、スモールタンクを出た玉は補給樋(通称角樋)を通つてシユート取付口に流下するのであり、パイプはスモールタンクに至る間までにしか用いられていない。また、本件装置におけるシユート取付口は電磁開閉機により開閉されるものではなく、常時開放の単なる開口部であり、本件発明の補給口と全く異なる。
本件装置の補給樋は、幅広の樋で、玉はこの樋の中を多数列になつて流下するもので、この樋には、各パチンコ機の上部の個別毎に常時開放シユートの取付口が左右交互に取付けられていて、常に玉は補給支管、シユート、補給樋に充満されるようになつている。そして補給指令により定数計数器のストツパーが外れ、爪車が回転し、補給支管、シユート、そして補給樋の玉が景品玉タンクに自重により落下するのである。補給樋は、特に多数のパチンコ機に一時に補給する際に、十分な玉を円滑に、しかも平等に流すことができるという効果を有する。
これに対し、本件発明では、モーターの駆動により回転する玉送り装置の玉送りローラーの回転圧によつて玉が圧送される構成になつており(別紙公報三欄三〇行〜三二行)、玉送り装置の圧力が、玉を通じて補給口の先端にまで伝達される必要があるので、補給タンクから補給口まで補給パイプでなければならないのである。
本件発明は、右のように、景品玉の積極的玉送りを対象としており、玉の自然流下を利用する本件装置と技術的範囲を異にする。従つて、本件装置のベースタンク、
スモールタンク、補給樋等は、本件発明の補給パイプと全く別異な構成、作用、効果を有するものである。
(ハ)さらに、本件発明は、投入した補給スイツチにより働くマグネツトリレー、
これにより一定時間作用するタイマースイツチ、該タイマースイツチの作用中作動するモーター使用の玉送り装置等を設け(前記3のGの要件)、これらの機器の組合せにより初めて景品玉タンクに玉を補給し得る構成となつていて、これらが全て説明の構成に欠くことができない事項として、請求の範囲に明瞭に特定記載されている。
これに対して、本件装置は、補給スイツチの投入により働くのは定数計数器のみであつて、タイマースイツチも、マグネツトリレーも、モーター使用の玉送り装置も一切存在していないのであるから、本件発明の構成要件を欠くことは明らかである。本件装置の定数計数器にはモーターに相当するものはなく、爪車は自ら回転して玉を送る作用を有するものではなく、玉により回転させられるとともに、その回転を計数装置に伝達し補給される玉を一定数に制禦する装置で、本件特許の玉送り装置と構成は勿論、作用、効果においても相違している。定数計数器が補給支管の末端にあるのも、玉送りの機構を有しないからである。従つて、本件装置の定数計数器は、玉送り装置とはいえず、本件発明の玉送り装置と均等物(構成、作用、効果において均等なもの)ともいえない。
(二) 本件発明は、補給パイプの各パチンコ機における景品玉タンク上部の個所毎に電磁開閉機により開閉される補給口が設けられており(前記3のCの要件)、
その作用は、タイマースイツチ、マグネツトリレーの作用により電気的に一定時間補給パイプの筒扉を開口することにより、一定数の玉をその景品玉タンクに入れることにある(別紙公報三欄三二行〜四二行)。
これに対して、本件装置の定数計数器においては、一瞬間の通電により電磁石を作動させて、ストツパーの係止を外し、爪車の回転を可能にさせるだけで、補給パイプの補給口を開口するものではなく、また、玉の重力で爪車を回転し所定の数だけ玉が落下すると、電磁石とは無関係にカムの作用で再びストツパーが爪車を係止するのであつて、タイマーにより時間的に計数制禦するのではなく(定数計数器の位置、調子により補給時間は異なる。)、爪車の回動間隔により空間的に規制するものである。
(ホ) 本件装置の優れた効果(a) 本件発明では、玉の補給をタイマースイツチによる時間的制禦をもつて行つているので、玉が途中で引つかかつたようなときは、タイマースイツチによる時間的制禦が無駄に経過して一定数の補給は不可能であるが、本件装置においては、
爪車に流れて来た玉は必らず正確に一個宛回動するので、途中一時的に玉が流れて来ない時は爪車の回転が止み(過回転防止金具がある。)、その障害を取り除けば再び回転して、残余の玉数を補給するので、常に正確に玉を送ることができる。
(b) 本件発明では、モーターという高価なものを使用し、玉送り操作中無理な力がかかることがあり、その故障の原因となることも考えられるが、本件装置は、
玉の送りに自然力を利用しているので、極めて簡明な装置であり、安価であるとともに、故障も少いなど合理的な機構となつている。
(c) 本件発明では、一つの補給パイプに補給口がいわば直列状態で存在するため一つの補給パイプ中のパチンコ機の一台に玉を補給しているときは、他の同列のパチンコ機へは玉を補給できないが、本件装置では、スモールタンク、補給樋等を設け、しかも定数計数器を補給支管の末端に取付けたので、全機一斉に正確に補給することができるので、極めて便利である。
(ヘ) なお、債権者らは、後記三の第6項の(ニ)において、本件装置の定数計数器が、本件発明の玉送り装置、タイマースイツチ、電磁開閉機のもつ構造および作用を全て具えた均等物であると主張する。
しかし、請求の範囲には、玉送り装置と電磁開閉機が別個に独立し、かつ別々の位置にあること、また、タイマースイツチは配電盤にあり、マグネツトリレーにより一定時間作用するように構成されていることが、明白に記載されている。
また、債権者らは、タイマースイツチと機械的タイマー(定数計数器を指す。)は、いずれも公知の機器で、容易に置換できると主張するが、定数計数器は、それ自体発明(技術的思想創作のうち高度なもの。)として特許されているのであつて、容易に置換できるといつたものではない。さらに、債権者らは、後記三の第6項の(ホ)において、玉送り装置と定数計数器を均等な技術であると主張するが、
両者は、右に述べたように、構成、作用、効果のいずれの面においても相違する。
(五) 本件発明のカウンタースイツチと本件装置の積算計数表示器の相違(イ) 本件発明では、アウト玉排出通路毎にカウンタースイツチを介在させている(前記3のDの要件)が、本件装置では、排出通路等に積算計数表示器を設けている点で相違する。
(ロ) 本件発明のカウンタースイツチは、詳細な説明中の発明の効果(実施例の効果ではない。)の記載(別紙公報四欄三四〜三五行)をみれば明らかなとおり、
単に電気的にアウト玉数を計数するだけでなく(計数のみならスイツチとする必要は全くない。)、これを配電盤上に逐次計数表示して、各パチンコ機の稼働状況およびそれに基づく機械調整の必要の有無を指令室にて一目で判然とされるようにすることを目的とした機械である。
(ハ) これに対し、本件装置の積算計数表示器は、機械的な計数表示装置にすぎず、営業中各機毎のアウト玉数を逐次把握できないので、カウンタースイツチと同一要素ではない。
もともと本件発明において、アウト玉の数を計数し、配電盤に表示するようにしたのは、アウト玉を直ちに機外に排出して磨くため、景品玉の減少量が著しく多く、逐次アウト玉の数を把握していなければならない(アウト玉の多い機械は多数回補給しなければならない。)からで、本件発明においては不可欠の構成であるが、本件装置では、その必要性はあまりないので、実用性がなく高価なだけのカウンタースイツチによる表示をしないのである。従つて、カウンタースイツチと積算計数表示器とは、計数の目的、構成、作成、効果いずれの面からみても相違する。
(ニ) なお、債権者らは、後記三の第7項の(ハ)において、カウンタースイツチも積算計数表示器もともに公知の機器であり、容易に置換可能な均等物であると主張するが、右に述べたように、積算計数表示器が、カウンタースイツチの技術的特徴を具えていない以上、両者を均等物ということはできない。
(六) 排出玉収容タンクに集まる玉の違い。
本件特許では、各パチンコ玉排出通路を排出玉収容タンクに集結せしめている(前記3のEの要件)が、本件装置では、アウト玉(外れ玉)ではなく、あふれ玉と閉店後の抜き玉と景品交換玉とが誘導樋において合流し、一括して収容タンクに集結せしめている点で両者は構成を異にする。
(七) 玉磨き機への供給機構の相違 次に、本件発明では、収容タンクより還元装置を介して供給管を玉磨き機に連通せしめている(前記3のFの要件)が、本件装置は、仕上り玉タンクから上部プールタンクへ玉を揚送するのと全く同一の装置で、玉磨き機にではなく、リミツトスイツチ付きプールタンクに揚送しているのであり、両者は具体的構成を異にする。
(八) 電気回路の相違、電気機構の相違(イ) 本件発明では、配電盤上に、補給指令ランプ、補給スイツチ、マグネツトリレーにより一定時間作用するタイマースイツチおよびモーター等が同一回路上に配設されている(前記3のGの要件。別紙公報第四図参照)が、本件装置では、配電盤上に、補給指令ランプと定数計数器の電磁石を働かす補給スイツチとが全く別回路に配設されている点で両者は構成を異にする。
(ロ) 本件発明では、玉送り装置および電磁開閉機がマグネツトリレー、タイマースイツチにより時間的に制禦されるものであることは、前記第4項の(四)(ハ)、(ニ)のとおりであり、これらの電気機器を相関連させて作動させるため、各機器が同一回路上にあることが要件となるのである。別紙公報(二欄二三行)には、コンベヤーのモーターが他の電気機器と別回路にあることが記載されており、これと請求の範囲の同一回路の記載および別紙公報第四図とを合わせ考えると、本件発明においては、同一電源により回路が構成されているものを、同一回路、別の電源によるものを別回路としているものとみられる。
これに対し、本件装置の補給指令ランプの回路と、補給指令スイツチの回路は、
前者は各島にあるコンセントより電気を取つており、後者は玉売場(指令室)内のコンセントより電気を取つており、別電源によるもので、別回路にある。
(ハ) 本件発明におけるマグネツトリレーは、リレー(継電器)であり、これは、補給スイツチの投入により回路を閉成させ、タイマースイツチを作用させ、タイマースイツチの回路の閉成によりモーターを駆動させると同時に、補給口の電磁開閉機を開口させるものである(別紙公報三欄二三行〜四二行)。
これに対し、本件装置の定数計数器の電磁石は、一瞬間の通電によりストツパーの係止を外す役割を有する単なる電磁石であり、タイマースイツチを作用させたり、補給の終了により電流を遮断するリレーではない。
(ニ) なお、債権者らは、タイマースイツチが公知の機器であり、これらを(タイマースイツチおよび定数計数器の計数機構を指すと考えられる。)取捨選択して使用することが電気工事上通例であるから、タイマースイツチの使用を必須条件とされないと主張する。
しかし、本件発明では、タイマースイツチをモーターの駆動の制禦等に用いて玉を一定時間補給することが発明の構成に欠くことのできない事項(特許法36条5項)とされているのである。
(ホ) 本件装置は、本件発明と電気機構を全く異にし、極めて合理的なものである。特に、複雑で故障の起き易いマグネツトリレー、タイマースイツチ、モーター等を使用しないので、故障が少く、安価にできるし、万一故障しても構造が単純で修理し易く、しかもその作用は確実である等の利点がある。
(九) 全体的作用の相違(イ) 本件発明では、多数パチンコ機の玉の補給、玉の計数、玉の運搬、玉磨き等を指令室内の指令によつて自動的に循環して行わしめることを特徴とする清浄遊戯玉自動循環装置で(前記3のHの要件)、少くとも、それらが何らかの形で指令室において把握し得るようになつていることが必要であるが、本件装置では、指令室の指令により自動的に行われるのは、玉の補給のみであつて、玉の計数、玉の運搬、玉磨き等は、指令室の指令と全く無関係に行われており、しかもアウト玉はパチンコ機台内でそのまま循環して使用されているので、全体として清浄玉自動循環装置とはいえない。
(ロ) なお、債権者らは、前記3のHの記載が、本件発明の要旨を要約したものと主張するが、この記載は、前記3の@ないしGの各構成要件を具えることにより得られる作用に関するものであり、要旨の要約ではなく抽象的な作用の要約であり、本来本件発明の構成上の要旨は@ないしGの具体的構成にある。
(一〇) 対比の結論 以上のとおり、本件装置は、本件発明の主要目的を異にし、本件発明の構成要件を欠除しているか、または、構成上の差異があり、しかもこれにより作用、効果も異るのであるから、何ら本件発明の技術的範囲に属するものではない。
三 債務者双葉の主張に対する債権者らの反論1 債務者双葉の主張第2項の(一)および(二)について 債務者双葉は、請求の範囲の記載を無視し、またはこれに背反して、別紙公報の詳細な説明欄に記載した一実施例の具体的な構造を本件発明そのものであるとし、
実施例と本件装置との差異のみで挙げているものであり、その主張は理由がない。
2 債務者双葉の主張第3項について 債務者双葉は、構成要件を大まかに分けると、議論を抽象化させ、対比を不明確にするおそれがあると非難するが、六個であれ、九個であれ、分け方により権利要旨に相違を生ずるとは考えられず、実益のない形式的議論である。
3 債務者双葉の主張第5項の(一)について 無人機、還元機付機によるパチンコ機内における玉の循環方法は、パチンコ機そのものに関する発明であるのに対し、本件発明は、パチンコ機から排出される玉を、玉磨き機に送り、清浄にすることを目的としたものであつて、パチンコ機そのものに関する発明ではない。そこで、普通のパチンコ機(以下、普通機という。)を使用した場合を一実施例として詳細な説明欄に記載したにすぎず、請求の範囲におけるパチンコ機には、普通機、無人機、還元機付機その他さらに改良されたパチンコ機のいずれをも包含しており、本件発明においても、無人機還元機付機を使用することができるのであり、また本件装置がパチンコ機からの排出玉を常に清浄にする構造と装置をもつている以上その目的において相違することはない。本件装置においても普通機を使用した場合遊戯者の使用する玉はすべて清浄玉となる。従つて、本件装置において無人機、還元機付機を使用しているからといつて本件発明の技術的範囲に属さないとはいえない。
4 債務者双葉の主張第5項の(二)について(イ) 請求の範囲には、単に「玉磨き機の下に計数容器を配置して」とあるのみであつて、全体的計数をすること、ならびに計数を配電盤上に表示することを要件としていない。別紙公報の詳細な説明中の「計数容器により全機のアウト玉数も計数表示される」との記載は、一実施例であり、本件発明の重要な要旨ではない。
出願過程において、出願人が、一旦は特許請求の範囲に「計数容器により全機の王の計数をなし、これを配電盤上に表示する」旨の記載をすべく補正書を提出したが、さらに補正書を提出して、右記載を削除したが、審判官が、万一、計数容器で全体の計数をして、かつその結果を配電盤上に表示することを本件発明の要旨と考えたならば右補正を許可するはずはなく、さらに釈明して請求の範囲に加筆させたであろうに、その事実がないのは、審判官としても、右のように考えなかつたことの証左である。
本件発明において、玉磨き機の下に計数容器を配置したのは、玉磨きされた清浄玉を収容することを目的としたものであり、それが主な作用である。そして、計数容器は、そのL樋によつて一定数の清浄玉を区切つてバケツトコンベヤーのバケツトに入れることを第二次的作用、効果とするものである。計数容器が、全機のアウト玉数を計数する作用は、第三次的副次的作用、効果にすぎない。詳細な説明中には、玉磨き機の「流出口直下にはカウンター計数器を付設した計数容器2を配置する」と明確かつ具体的に記載され、計数容器そのものが玉の数を計数するのではなく、計数容器に付設されたカウンター計数器によつてなされるものであることが、
明らかにされているが、請求の範囲には、「計数容器」と記載されているのみで、
全体的計数をなす具体的構成が示されていない。従つて、計数容器が、全機のアウト玉数を計数し、営業者をして店舗内のパチンコ全機の稼働状況を一目で判然とさせることは、詳細な説明の一実施例に基づく目的、作用、効果である。
請求の範囲に基づいて定められる計数容器は、カウンター計数器を付設したものと、これを付設しないものとが考えられるのであり、いずれの装置についても、本件発明の技術的範囲に属する。カウンター計数器を付設しない計数容器にあつては、玉磨き機によつて玉磨きされた玉を収容するとともに、コンベヤーのバケツトに玉を入れるものにすぎず、これが、請求の範囲にいう計数容器の技術的解釈である。
(ロ) 仮に、計数容器が、債務者双葉の主張するような作用、効果を奏することが要旨であるとしても、本件装置は、不完全利用である。
a 本件発明は、パチンコホールにおける玉の補給、玉の計数、玉の運搬、玉磨きを全自動化する構成をもち、本件装置においても、それらについて同一の内容の構造をもつ。そして、本件発明における計数容器による全機のアウト玉数の計数は、
計数容器の第三次的副次的補助的作用であつて、本件発明においては、比較的重要でない作用、効果であるが、アウト玉の総数、もしくは景品交換玉が流入する場合は店全体の使用玉の総数の概算を計数し得ることは作用上優れている。債務者双葉が、この作用上優れている計数容器をそれより作用上劣る仕上り玉タンクと置き換えたのは、もつぱら特許発明の技術範囲から逸脱することを目的としたものである。
b 本件発明の計数容器を仕上り玉タンクに変更することは、業界の技術常識からいつて極めて容易であるばかりでなく、より以上の作用、効果を期待する限り、アウト玉の総数、もしくは店全体の使用玉の総数の概算を知ることができる計数容器を配置するのであつて、これを仕上り玉タンクに変更することは、通常なされないものである。
c 本件装置は、パチンコホールにおける玉の補給、玉の計数、玉の運搬、玉磨きを全自動的になすものであつて、アウト玉の総数の概算を計数する計数容器を失つても、自動循環装置としての機能を果たし、なお、本件特許出願前の技術からみれば、作用、効果上極めて優れている。
d 債務者西陣は、その開発した宇宙パイプの地下誘導装置において、玉磨き機の下に計数容器を配置しており、計数容器が玉の計数をする機能を営むことを熟知していたばかりでなく、本件特許出願がなされた直後の昭和三八年四月頃債権者【B】から本件特許出願の控を借り受け、計数容器がアウト玉の総数を計数する作用、効果があることを当然認識しながら、本件発明を模倣するについては、故意に、計数容器を、アウト玉の総数を計数できない仕上り玉タンクに変更したものであつて、右変更は、もつぱら本件特許権侵害の責任を免れるためだけになされたものである。
5 債務者双葉の主張第5項の(三)について 債務者双葉は、本件装置の上部プールタンクに設置されたリミツトスイツチは、
上部プールタンクから玉があふれることを防止するだけであるというが、これこそ、タンクの玉が定量以下になると自動的に玉が送られるという本件発明のそれと全く同じである。
6 債務者双葉の主張第5項の(四)について(イ) 請求の範囲の記載によれば、補給パイプの形状や長さについて、何ら定めているものはないので、本件発明を設置する店の大小、形状やパチンコ機の多少などの種々の制約に対応して補給パイプには、長短、大小曲直、角か丸かなどの変形が当然予定されているものである。本件装置が、スモールタンクや補給樋を使用しているのは、店の規模や営業の態様のほかに、玉の自然落下力を利用した補給形式をとつていることにもよるが、請求の範囲には、積極的に玉を移送することを要旨とする旨の記載はないので、本件発明は、積極的に玉送りをするか、自然の落下力を用いるかは自由である。
(ロ) 本件装置におけるシユート取付口は、常時開放の単なる開口部であるというが、本件発明の補給口も単なる開口部であり、常にはここを電磁開閉機が閉じ、
必要な時だけ開けるもので、構造は全く同一である。
また、本件発明の玉送り装置にモーターが存在し、これがタイマースイツチの作用中作動することが明記されているというが、請求の範囲には「玉送り装置のモーター等を」と記載されており、モーターは一例示である旨が客観的に窺われ、特に玉送り装置がモーター付であるとは限定されておらず、モーターの設置を必須の要件としていない。
(ハ) 本件装置の定数計数器は、常に正確に玉を送ることができるというが、本件発明のものも定数計数器と同じ原理に基づき正確に玉を送るもので何ら差異はない。
本件装置では、全機一斉に正確に補給できるというが、一台のパチンコ機に玉を補給する時間は二〇秒か三〇秒の極めて僅かな時間であり、また一つの島のパチンコ機が一斉に補給を要するということは、通常考えられない。
本件装置の定数計数器は、本件発明の玉送り装置に比して、簡明で安価であるというが、むしろ、定数計数器の方がはるかに高価であり、かつ多数を必要とするので、割高となる。
(ニ) 本件装置の定数計数器と、本件発明の玉送り装置は、構造上若干の相違があるが、定数計数器は、本件発明の玉送り装置、タイマースイツチ、電磁開閉機のもつ構造および作用を全て具えた均等物で、昭和三八年四月当時これらと置換することは十分予測できたものである。三つの機器が一つのものに組立てられたからといつて、何ら異なるものとなるのではない。
本件装置の定数計数器には、電動機はないというが、巻線付電磁石があり、これに配電盤上の補給スイツチの押圧により通電すると、該電磁石が爪片Kを溝h付カムCより引上げるものであり、電気で動く機器、すなわち広義の電動機であり、動かされる爪片を電動子と称するも何ら支障はない。特に特許上は電気で動く機械、
すなわち電動機器の略称として、何ら誤つた用語ではない。
また、本件発明のタイマースイツチと、機械的タイマー(定数計数器)は、いずれも公知の機器であつて、容易に置換できるものである。
(ホ) 本件装置の定数計数器は、本件特許出願前からパチンコ機の景品玉流出計数器に採用されていた公知の機器であり、債務者西陣は、昭和四一年頃設置した本件装置については、本件発明の玉送り装置を模倣改作して同様の作用、効果を営む定数計数器に置き換えたものであつて、両者は、技術的思想からみれば、均等な技術である。
(a) 本件発明の玉送り装置は、自動循環する玉を定数宛景品玉タンク内に補給する目的をもち、本件装置の定数計数器においても同様の目的をもつ。
(b) 本件発明の玉送り装置は、公知機器であるタイマースイツチが動いている間、ローラーが回転し補給口が開いて玉を定量宛景品玉タンク内に送るのに対し、
本件装置にも補給口があり、この部分に歯車状送り込み車が設けられ、かつ電磁石により引き付けられる電動子が、カム周を一定時間摺動する間、玉が補給されるようになつている。両者の技術要素は、玉送りの数の正確性、玉の補給能力において優劣がなく、互に置換しても同一の作用、効果を奏する。
(c) 定数計数器は、相互に接続した歯車の回転によつて補給する玉の数を計算し、通電することによつて働く電磁石により、カムの溝から鉄片をひき上げてカム周を摺動させるものであつて、本件発明の玉送り装置と置換すること自体、この道の通常の専門家にとつて当然なし得るものである。
7 債務者双葉の主張第5項の(五)について(イ) 請求の範囲には「各パチンコ機のアウト玉排出通路毎にカウンタースイツチを介在せしめ」と記載されているのみで、その計数の方法、場所については何ら限定していないし、また特定もしていない。従つて、カウンタースイツチによるアウト玉の計数が、配電盤に表示されるとの詳細な説明に基づく構成は、本件発明の要旨ではなく、それが実施例として理想的なものであり、特有な効果を生ずることを明らかにしたものである。出願人代理人は、出願過程において、カウンタースイツチによる計数を配電盤上に表示することを請求の範囲から削除し、そのことを要件としないこととしたものである。請求の範囲に基づく構成としては、アウト玉排出通路毎にカウンタースイツチを設置してそこでそのものによりアウト玉を計数することもでき、またカウンタースイツチを配電盤に連結して、計数表示器にアウト玉数を計数表示させることもできるのである。
(ロ) 結局、本件発明のカウンタースイツチと、本件装置の積算計数表示器とは、単に電気的な計数器か、機械的なものかの微差が存するのみで何ら変りはない。
(ハ) 本件特許のカウンタースイツチは、本件特許出願当時から公知のものであり、他方、本件装置の積算表示器は、歯車を利用して玉の計数をする公知の機器であり、公知の機器でないとしても、業界の技術者にとつて容易に推考することができたものであつて、両者は、全くの均等物であり、債務者双葉は、本件特許権侵害の責を免れるため、カウンタースイツチを積算計数表示器に置換しているにすぎない。
8 債務者双葉の主張第5項の(六)について 本件発明と本件装置との構成の差異は、債務者双葉が普通機を用いず、たまたま無人機と還元機付機を用い、アウト玉が一部パチンコ機台内を循環していることからくる相違で、既に第3項で述べたことと全く同じ反論で足りる。
9 債務者双葉の主張第5項の(七)について 請求の範囲には、「還元装置を介して、供給管を前記玉磨き機に連通せしめ」と記載してあり、また、詳細な説明にも還元装置と表示しているのみで、その具体的構造を定めているわけではない。還元装置とは、エレベーターを含む広義のいわゆる元に戻す装置の総称であつて、これには、周知の如く種々の機構や機械が考えられるのであり、バケツトエレベーターが還元装置の一種であることはいうまでもない。
10 債務者双葉の主張第5項の(八)について 本件装置の定数計数器は、本件発明のマグネツトリレー、タイマースイツチ、モーター、電磁開閉機等を、一か所にまとめた構造と作用を有するものであることは、前記第6項の(ニ)に述べたとおりであるので、結局債務者双葉の主張する電気回路の違いは、本件装置においては、補給指令のランプが点灯するまでの電気回路と、その点灯したのを確めて定量玉の補給を行うまでの電気回路とを、別々の系列にしたというにすぎないが、この二つの電気回路は、別々であることが普通であつて、本件発明においても、両者が同一の電気回路にあることを構成要件としているものではなく、別紙公報の第四図も別回路である。債務者双葉は、本件装置は「タイマースイツチ」を欠くが故に、本件発明の技術的範囲に属さないと主張するが、タイマースイツチと同じ構造、作用は定数計数器が帯有しているのであるから、本件発明の技術的範囲内にある。
11 債務者双葉の主張第5項の(九)について 本件発明においても、直接指令するのは玉の補給のみであり、他は自ら自動的に循環して行われるようになつているのであり、いささかも、本件装置と異なるところはない。
(乙事件について)一 債権者らの申請の理由1 債権者らは、甲事件申請の理由第1項記載の本件特許権を有している。
2 本件発明の特許公報は別紙のとおりであり、その請求の範囲を六個の構成要件に分類すると、甲事件申請の理由第2項記載のとおりである。
3 債務者双葉は、本件店舗において、パチンコ機約三二〇台を擁するパチンコ店を営業しているが、その構造は別紙(イ)号図面および同図面説明書表示の構造を有する本件装置である。しかして、債務者西陣は代理店をして本件店舗に本件装置を設置させたものである。
4 本件装置を六個の構成要件に分類すると、甲事件申請の理由第4項記載のとおりである。
5 そこで、本件発明と本件装置の構成を比較すると、甲事件申請の理由第5項記載のとおりであつて、本件装置は、本件発明の構成要件を全て具備しているから、
本件発明の技術的範囲に属するものである。
6 保全の必要性(一) 債務者らによる侵害行為の継続 債務者双葉は、甲事件申請の理由第6項の(一)記載のとおり、債権者らの申入、通告を無視し、現在に至るも本件装置を使用しているばかりか、メーカーである債務者西陣と連絡をとり、債務者西陣と共謀して、一円の実施料も支払うことなく本件特許権を侵害する意向を示している。一方、債務者西陣は、本件装置が本件特許権を侵害するものであることを知りながら、自らの費用において弁護士を派遣するなどして、債権者らと徹底的に争う姿勢を示し、強引に本件装置を新設改造せんとし、かつ補修を行つている。
(二) 債権者らの窮迫と損害の拡大 債権者らは、甲事件申請の理由第6項の(二)記載の損害を蒙るおそれがある。
但し、同記載中の「債務者双葉」が「本件装置を使用」するとあるところは、「債務者ら」が「本件装置を新設、改造、補修」すると読み替える。
(三) 債務者らの蒙る損害 債務者らが、本件仮処分決定により本件装置の新設、改造、補修を差止められたとしても、債権者らに対しパチンコ機一台当り月額金一二〇円の実施料を支払うならば、債権者らは、債務者らに対し、本件装置の新設、改造、補修を許諾する用意がある。従つて、債務者らが本件仮処分によつて蒙る損害は、僅かパチンコ機一台につき一か月金一二〇円に尽きる。
(四) 本件特許権の存続期間の僅少 本件特許権は、甲事件申請の理由第6項の(四)記載のとおり、今後八年の期間存続するにすぎず、本件仮処分の緊急性の要件も具備している。
(五) 債務者らに対する新設等禁止の仮処分の必要性 債務者双葉が、甲事件の仮処分決定により本件店舗内に現在する本件装置の使用を禁止されても、本件装置を取壊して執行官保管を求め、債務者西陣に再び本件装置と同様な装置を設置させ、新設した装置を使用するおそれがあり、また、債務者西陣が、その新設等をするおそれがあるのであるから、債務者らに対する本件装置の新設等禁止の仮処分の必要性は十分に存する。
7 債務者西陣の移送の申立についての反論(一) 民事訴訟法15条による不法行為地の裁判籍 民事訴訟法15条は、「不法行為に基づく損害賠償の訴」と限定しているものではなく、「不法行為に関する訴」として、不法行為に基づく訴を広く包含している。特許権侵害差止請求の訴は、絶対的、排他的、独占的な特許権を違法に侵害する行為を排除しようとするものであり、その侵害行為は不法行為であるから不法行為に基づく訴であつて、同条にいう「不法行為に関する訴」に包含される。
また同条の裁判籍が認められた理由は、現実に不法行為がなされ、または、なされた地において証拠調をなすことが、債務者が普通裁判籍を有する地方裁判所でなすよりも容易であり、かつ、それに応じて債権者の権利を迅速に保護し得ることにあることからみれば、損害賠償の訴と差止請求の訴を別異に取扱うべき合理的理由も、また実益もない。
従つて、特許権侵害差止仮処分は、その本案たる差止め請求の訴の管轄裁判所、
即ち、侵害行為のなされた地の裁判所たる静岡地方裁判所浜松支部の管轄に属する。
(二) 民事訴訟法5条による義務履行地の裁判籍 特許権侵害差止請求の訴は、民事訴訟法5条所定の財産上の訴であり、同条にいう義務履行地は契約上の義務履行地のみではなく、あらゆる財産上の義務履行地が該当し、特許権侵害差止の義務履行地は、具体的に債務者が侵害行為をなし、債権者がそれを差止め得る地である。特に債権者らは、本件仮処分において債務者西陣に対し包括的に本件装置の製造、販売、設置の差止を求めているのではなく、具体的に本件店舗内の本件装置の新設、改造、補修の禁止を求めているのであるから、
本件店舗の所在地が義務履行地である。
二 債務者らの答弁および主張1 債務者西陣に対する本件仮処分申請の移送の申立の理由 特許権侵害差止請求の訴を本案とする仮処分は、債務者の普通裁判籍のある裁判所の専属管轄に属する。従つて、債務者西陣に対する本件仮処分は、その住居地の裁判所たる東京地方裁判所の管轄に属し、債務者双葉と併合請求の関係にあつたとしても、静岡地方裁判所浜松支部に管轄を生ずることはない。
債権者らは、特許権侵害差止請求の訴が、不法行為に関する訴に該当するというが、特許権侵害差止請求権は不法行為の要件たる故意、過失を要件事実としないからその主張は失当である。
また、民事訴訟法5条にいう義務履行地の裁判籍についても、特許権を侵害してはならないという義務は、一般的不作為義務であることからすると、認めることはできない。
2 申請の理由第1ないし第6項の答弁および主張は、甲事件債務者双葉の答弁(二の第1項)および主張(二の第2ないし第4項)と同じ。
三 債務者らの主張に対する債権者らの反論 甲事件の債務者双葉の主張に対する債権者らの反論と同じ。
証拠関係(疎明)(省略)
理 由一 債務者西陣に対する仮処分申請の管轄 債権者らは、特許権侵害差止請求の訴は、民事訴訟法15条にいう不法行為に関する訴に包含されるし、また、乙事件においては、債務者西陣に対し、具体的に本件店舗内の本件装置の新設、改造、補修の禁止を求めているのであるから、同法5条による義務履行地の裁判籍によつても、当裁判所に管轄があると主張するのに対し、債務者らは、特許権侵害差止請求の訴を本案とする仮処分は、債務者の普通裁判籍のある地の裁判所の専属管轄に属し、同法5条および15条によつて管轄を認めることはできないと主張する。
ところで、同法15条にいう「不法行為に関する訴」とは民法709条ないし724条に規定する不法行為の訴よりも広く、故意、過失等の帰責原因がなくても、
およそ賠償責任を生ずるすべての違法な行為に基づく訴を包含するものであると解する。そして、特許権侵害差止請求の訴は、侵害者の故意、過失がなくても、客観的にみて違法な侵害行為である限り、その行為を排除しようとするものであること、ならびに、民事訴訟法15条の裁判籍が認められた理由が、不法行為地で審理すれば、証拠調が容易で権利者を迅速に保護し得ることにある以上、損害賠償の訴と差止請求の訴とを区別すべき合理的根拠もなければ、その実益もないこと、からみると、特許権侵害差止請求の訴は、同法15条にいう「不法行為に関する訴」に包含されるものと解する。従つて、この点に関する債務者らの主張は採用できない。
しかして、本件装置を設置した本件店舗が浜松市にあることは当事者間に争いのないところであるから、債務者西陣に対する仮処分申請は、その本案の管轄裁判所たる当裁判所の管轄に属するものといわなければならない。
二 本件発明の技術的範囲 債権者らが本件発明の特許権者であること、および本件発明の請求の範囲が、別紙公報(成立に争いのない疎甲第二号証)の特許請求の範囲の項記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。
右当事者間に争いのない本件発明の請求範囲によれば、本件発明は、パチンコ遊戯場における清浄遊戯玉自動循環装置でその構成要件を総括すると、多数のパチンコ機ABC……の玉の補給、玉の計数、玉の運搬、玉磨き等を指令室8内の指令によつて自動的に循環して行わせるようにしたものであつて、これを分類すると次のとおりである。
@ 玉磨き機1の下に計数容器2を配置して、該計数容器よりコンベヤー3のバケツト4に玉が入るようにしたこと。
A 該バケツト4より補給タンク5内の玉が定量以下になると玉が移入されるようにしたこと。
B 補給タンク5には、補給パイプ14を連結して該補給パイプ上に玉送り装置17を設けたこと。
C 該玉送り装置17より出た補給パイプ14の各パチンコ機A・B・Cの景品玉タンク6上部の個所毎に電磁開閉機15により開閉される補給口16を設けるとともに各景品玉タンク6には、玉が無くなると接続するスイツチ7を設けたこと。
D 各パチンコ機A・B・Cのアウト玉排出通路23毎にカウンタースイツチ21を介在させたこと。
E これら各アウト玉排出通路23を排出玉収容タンク25に集結させたこと。
F 該収容タンク25より還元装置26を介して供給管27を玉磨き機1に連通させたこと。
G 指令室8の配電盤9には、各景品玉タンク6内のスイツチ7により点滅する補給指令ランプ10、点灯した補給指令ランプに基づき投入する各補給スイツチ11、投入した補給スイツチにより働くマグネツトリレー30により一定時間作用するタイマースイツチ20、該タイマースイツチの作用中作動する玉送り装置17のモーター18等を同一回路上に配設したこと。
三 本件装置の構成要件 債務者双葉が、昭和四一年頃から静岡県浜松市<以下略>所在の本件店舗において、パチンコ店を営んでいること、その店舗内の装置が、別紙(イ)号図面第一図、第二図表示の構造を有することは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない疎乙第一号証、本件店舗を撮影したものであることについて争いのない疎乙第二号証および弁論の全趣旨を総合すると次の事実が疎明される。
本件店舗のパチンコ機には、無人機と還元機付機の二種があり、その構造は、別紙無人機および有人機(還元機付機)の図面表示のとおりで、無人機ではアウト玉(外れ玉)はアウト玉排出口より下に設けた景品玉タンクに流入して景品玉として循環使用され、
還元機付機ではアウト玉(外れ玉)とセーフ玉は下タンクに貯溜され還元機によつてパチンコ機上部の景品玉タンクに揚送され景品玉として循環使用されるようになつている。本件装置は、パチンコ遊戯場における玉循環移送装置で、営業中これら各パチンコ機から排出されるあふれ玉(無人機の場合はアウト玉のうち景品玉タンクの容量を超過した玉、還元機付機の場合はアウト玉とセーフ玉のうち下タンクの容量を超過した玉)と景品交換玉(景品交換場で景品と交換した玉)および抜き玉(閉店後パチンコ機内より抜き取つた玉)を一括して処理することを目的とし、その構成要件を総括すると、無人機の上部予備タンク6’への玉の補給と、還元機付機の景品玉タンク6’への還元機によらないで行う玉の補給を、玉売場8’の指令によつて行ない玉の運搬、玉磨きについては、玉売場8’の指令と無関係に自動的に行うとともに、あふれ玉および抜き玉の計数は従業員が各パチンコ機の表板を開き、その裏の積算計数表示器21’の表示を見て集計するようにしたものであつて、これを本件発明と対比して分類すると、次のとおりである。
@’ 玉磨き機1’の下に仕上り玉タンク(リミツトスイツチS1付)2’を配置して、該仕上り玉タンクより階内揚送用バケツトエレベーター3’のバケツトに玉が入るようにしたこと。
A’ 該バケツトより上部プールタンク5’内に玉が充満し該上部プールタンク内のリミツトスイツチS2が働いて階内揚送用バケツトエレベーター3’の作動を止めるまで玉が移入されるようにしたこと。
B’ 上部プールタンク5’に次いで分配ベースタンクBを、さらに供給パイプ14’、スモールタンクb、補給樋14’、シユート、補給支管14等を設け、玉が該供給パイプ、補給樋、シユート、補給支管等の傾斜により自然落下するようにし、補給支管の末端に定数計数器17’を設けたこと。
C’ 補給支管14’の各パチンコ機A’・B’・Cの上部予備タンク(無人機の場合)6’または景品玉タンク(還元機付機の場合)6’上部の個所毎に、定時はその爪車19’がストツパーKで回転不能に拘束されていることにより玉のパチンコ機への流出が阻止されるようになつている定数計数器17’の爪車19’を臨ませた補給支管を設けるとともに、無人機の上部予備タンク6には同タンク内の玉が少くなると接続するスイツチ7’を、また、還元機付機の景品玉タンク6’には同タンク内の玉が少くなると接続し還元機の運転を開始させる第一スイツチと、それよりも少くなると接続する第二スイツチ7’を設けたこと。
D’ 各パチンコ機の排出玉通路23’毎に積算計数表示器21’を介在させたこと。
E’ あふれ玉および抜き玉は集合樋24’、誘導樋24’を経て収容タンク25’に集結させられて、交換玉は交換玉受タンク、交換玉誘導樋34’を経て誘導樋24’であふれ玉および抜き玉と合流するようにしたこと。
F’ 該収容タンク25’の玉を階外揚送用バケツトエレベーター26’によりプールタンク(リミツトスイツチS3付)28’に移入されるようにし、該プールタンクからその下の玉磨き機1’に流入させるようにしたこと。
G’ 玉売場8’の配電盤9’には、無人機の場合は上部予備タンク6’内のスイツチ7’、還元機付機の場合は景品玉タンク6’内の第二スイツチ7’により点滅する補給指令ランプ10’、点滅した補給指令ランプに基づき投入する各補給スイツチ11’があり、この補給スイツチの投入により定数計数器17’の電磁石30’を励磁させて磁性回動板を回動させてストツパーKを外し、玉の動力により爪車19’を回転させ、その結果玉を正確に五〇〇個だけ上部予備タンク6’または景品タンク6’に補給し、その間に分配ベースタンクB内の玉を供給パイプ14’、補給樋14’、シユート、補給支管14’等の傾斜により自然落下させて、
五〇〇個の玉を送出後はストツパーKが自動的に係止し、爪車19’を停止するようになつていること。
四 本件発明と本件装置の対比 そこで、本件発明と本件装置の構成、それによる両者の目的、作用、効果について対比する。
(一) 目的と循環方式について(1) 本件発明は、前示構成によれば、パチンコ機から排出されたアウト玉はすべて玉磨き機によつて玉磨きされ、その玉磨きされた玉が景品玉タンクに補給されるから、遊戯者の遊戯する玉は常に玉磨きされた清浄玉である。そしてこのように遊戯者の使用するパチンコ玉を常に清浄な玉にすることが本件発明の目的であり、
効果である。
ところで特許法70条は、「特許発明技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない。」と規定し、同法36条第5項は(明細書に掲げる)「特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない。」と規定し、
発明の詳細な説明には、「その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」(同法36条4項)のであるから、発明の詳細な説明に挙げた目的、構成および効果には、単に実施例のみではなく、その発明自体の目的、構成、効果も記載されているものである。詳細な説明の項の記載が実施例についてのものであるか、それともその発明自体の目的、構成、効果についてのものであるかは、結局全体の文章のつながりから判断することになるが、本件発明の詳細な説明の項のうち、別紙公報一欄二二行ないし二欄一一行、および同四欄二四行ないし五欄二行の各記載が本件発明自体についての記載で、前者は目的に関する記載、後者は効果に関する記載であつて、その余の記載は実施例の説明であると認めるのが相当である。
そして、前掲疎甲第二号証には、「従来……アウト玉も同様に裏側に於いて容器内に集めこれをその儘景品玉タンクに入れて反覆的に使用しているのが現状である。……遊戯者も常に不潔な玉を何度(「等」)は明らかな誤記と認められる。)も使用することになるので極めて非衛生であつた。本発明は…遊戯者には常に衛生的処理をした清浄玉をもつて遊戯せしめる目的のために景品玉タンクに玉がなくなれば自動的に衛生処理をした玉を景品玉タンクに補給し、アウト玉も自動的に玉磨き装置に送つて衛生処理をして補給タンク内に送り込む……」との記載(別紙公報一欄二二行ないし二欄四行)があり、また、「本発明は……遊戯者の使用する玉は常に玉磨き機により衛生処理をした清浄玉のみであるから清潔に遊戯せられ且遊戯場も清潔に保持せられる効果がある……」との記載(別紙公報四欄二四行ないし二七行)がある。右のように、前者は本件発明の右の目的に関する記載であり、後者は本件発明の右の効果に関する記載である。このような本件発明は、パチンコ機より出たアウト玉を直ちに玉磨き機で衛生処理をして循環使用し、遊戯者には常に衛生処理をした清浄玉のみをもつて遊戯させることを目的とするものであり、請求の範囲に記載された構成は、このような目的、効果を達するためのものであると認められる。成立に争いのない疎甲第六六号証の供述記載、証人【C】の証言のうち、
右判断に反する部分は採用できない。
債権者らは、無人機、還元機付機によるパチンコ機内における玉の循環方法は、
パチンコ機そのものに関する発明であるのに対し、本件発明は、パチンコ機から排出される玉を清浄にすることを目的としたものであつて、使用するパチンコ機を限定していないから、本件発明においても、無人機、還元機付機を使用することができると主張し、証人【C】の証言、債権者【B】尋問の結果(第二回)中にはこれに沿う部分も存する。
しかしながら、本件発明は、単にパチンコ機から排出される玉を清浄にすることを目的としたものではなく、右のように、遊戯者には常に衛生処理をした清浄玉のみをもつて遊戯させることを目的としたものであつて、本件発明において、無人機、還元機付機を使用すれば、この目的を達することができなくなることは明らかでありまた、後記判示のとおり本件発明の構成要件の一つであるパチンコ全機のアウト玉数を計数表示することも不可能となるから、債権者らの右主張は採用できない。
(2) ところが、前記判示のように、本件装置においては、無人機と還元機付機を用いているため、玉磨き機で衛生処理される玉は、営業中の前示あふれ玉と景品交換玉および閉店後の抜き玉であつて、アウト玉(遊戯者が使用した玉)のうちあふれ玉とならなかつた玉は、玉磨きされないまま、無人機では景品タンクに流入し、環元機付機では還元機により景品玉タンクに揚送され、ともに景品玉として循環使用されるようになつているので、遊戯者の使用する玉は、常に玉磨き機により衛生処理をした清浄玉ばかりではない。そして、証人【D】の証言(第一回)によれば、無人機、還元機付機においては、遊戯者の使用する玉の大部分は、循環使用されているアウト玉であることが疎明される。
(3) また、証人【D】の証言(第一回)によれば、無人機、還元機付機を使用すると、たれ流し式のパチンコ機を使用した場合に比べて使用玉がはるかに少いので、玉磨き、玉の運搬等の装置は、少能力のもので足り、また各装置の耐久性においても優れていることなどの利点があること、従つて、本件装置は、本件発明に比して右の利点があることが疎明される。
債権者らは、本件装置がパチンコ機からの排出玉を常に清浄にする構造と装置をもつている以上、本件発明とその目的において相違しないと主張する。
しかしながら、パチンコ機に無人機或は還元機付機を使用しないときは、遊戯者の使用する玉は常に玉磨き機によつて衛生処理をした清浄玉になることは明らかであるが、現に本件店舗においては、すべてのパチンコ機が無人機か還元機付機であり、これを使用することによつて本件装置は右のように優れた利点を発揮しており、本件装置の能力からしても無人機或は還元機付機は必要不可缺のものであるから、パチンコ機が無人機或は還元機付機でない場合を想定して本件発明と本件装置の構成を論ずる必要性は存しない。
(4) 従つて、本件装置は、本件発明の、パチンコ機より出たアウト玉を直ちに玉磨き機で衛生処理をして循環使用し、遊戯者には常に衛生処理をした清浄玉のみをもつて遊戯させるという目的を欠くので、その技術的範囲を異にするものといわなければならない。
(二) 全体的計数機構について 本件発明は、前示構成によれば、玉磨き機の下に計数容器が配置され、各パチンコ機から排出されるアウト玉はすべて玉磨き機によつて玉磨きされてこの計数容器に収容されるようにし、パチンコ玉の計数を自動的に行わしめる装置である。(したがつて右計数容器は具体的にはカウンタースイツチを付けるなどしてそこに収容するパチンコ玉を計数することができるものでなければならない。)そして前掲疎甲第二号証には、「又従来補給するパチンコ玉や排出されたアウト玉の計数……を……人力で行つていたものを機械的電気的に全自動で計数……せしめ……」との記載(別紙公報二欄六行ないし九行)があり、また、「各パチンコ機のアウト玉排出口毎に設けられたカウンタースイツチによりそれぞれのパチンコ機のアウト玉数が配電盤上の表示器に……表示されると共にこれらアウト玉を一括収容する計数容器により全機のアウト玉数も計数表示されるので各機毎の稼働状況及び……店舗内のパチンコ全機の稼働状況も一目として判然(と)せられるので営業者をして一々これらを計数する手間も省かれる多大の利益がある。」との記載(別紙公報四欄三三行ないし四二行)があつて、右各記載は、本件発明の目的、効果に関する記載である。従つて、本件発明の計数容器は、各パチンコ機より出たアウト玉を一括して収容し、全機のアウト玉数を計数表示するものであり、これによりパチンコ全機の稼働状況を一目して判然とさせ、営業者をして一々これらを計数する手間を省かせるという構成、効果をもつものである。証人【C】の証言、債権者本人【B】(第二回)尋問の結果中右判断に反する部分は採用できない。
このことは、債権者らの本件特許出願の審判および異議手続の経過にあらわれた出願人の意図ないし認識からしても、これを肯認することができる。即ち、原本の存在および成立に争いのない疎乙第三号証、第四号証の一、二によれば、次の事実が疎明される。
出願人は、本件特許出願の拒絶査定に対し、不服の審判を請求した。この審判手続において、【E】審判長から昭和四五年四月一五日付尋問書で、「玉の排出通路にカウンタースイツチ(21)、計数容器(2)が設けられている旨記載されているが、なにゆえこのような計数機構を二個所(二重)に設けたのか、その目的、作用効果を発明の詳細な説明の項に記載して本願の要旨を明確にされたい。」と指示されたことに対し、出願人は、同年六月三〇日付手続補正書において、前示公報の記載と同旨の主張をした。また、右補正後さらに一部特許請求の範囲を訂正した結果、同年九月一四日本件発明の出願公告の決定がなされたが、これに対し、申請外【F】から異議の申立がなされ、出願人は、これに対する昭和四六年五月二七日付特許異議答弁書において、「各パチンコ機のアウト玉排出通路毎にカウンタースイツチを介在させて、各機毎の排出玉をカウントすることと、玉磨き機(の)下に計数容器を介在させて全パチンコ機の計数をする。」と主張している。この主張を含む出願人の答弁によつて、異議申立の理由がないものとして、本件発明は特許となつた。
以上の事実が疎明される。この出願審判および異議手続の経過にあらわれた出願人の意図ないし認識からすれば、本件発明の計数容器は、前示の構成、効果をもつものといわなければならない。
もつとも、前掲疎乙第三号証によれば、出願過程において、出願人が、昭和四五年六月三〇日付手続補正書で、特許請求の範囲に「……計数表示器等を指令室内の配電盤に設け……」と記載したが、同年八月三一日手続補正書で特許請求の範囲からその旨の記載を削除したことが疎明され、債権者らは、本件発明の計数容器が、
全体的計数をすること、ならびに計数を配電盤上に表示することは、第三次的副次的作用、効果にすぎず、本件発明の要旨ではなく、一実施例にすぎないのであつて、審判官が、右の記載を削除した補正を許可したことは、その証左であると主張するが、審判官が右補正を認めたのは、請求の範囲の「……玉の計数等を指令室の指令によつて循環して行わしめる……」との記載および前示公報の記載と照らせば、計数容器による計数の表示が指令室においてなされることが明白であると考えたことによるものと解され、前示判断を左右するに足りず、債権者らの右主張は採用できない。
また、前掲疎甲第二号証の詳細な説明中に、「カウンター計数器を付設した計数容器2」との記載(別紙公報二欄一六、一七行)があり、債権者らは、右記載から、計数容器ではなくカウンター計数器により計数されるものであり請求の範囲にいう計数容器には、カウンター計数器を付設しないものも考えられるのであつて、
その場合には玉磨きされた玉を収容するとともに、コンベヤーのバケツトに玉を入れるものにすぎないものである、と主張し、証人【C】の証言中には右主張に沿う部分も存するが、右記載は実施例の記載であつて、計数容器が全体的計数をすることについて明らかにするために、その具体的構成を説明したものと認めるのが相当である。
なお、成立に争いのない疎甲第六四号証および債権者本人【B】尋問の結果(第一回)中には、本件発明の発明者である債権者【B】は、区切樋により玉を一定数ずつ送る機能のある玉切り連算機(別名、計算機、計数容器)と称する公知の機器を計数容器として使用したものである、との供述記載および供述が存するが、そうであるとすると、計数容器を設けることは、本件発明の構成要件であることは前示のとおりであるから、本件発明は玉切り連算機の使用を必須要件とするものであるということになるのに対し、本件装置が玉切り連算機を欠くことは明らかであるから、本件装置は、本件発明の技術的範囲に属しないことになる。
(2) これに対し、本件装置の玉磨き機の下に配置した仕上り玉タンクは、単なるタンクであつて、計数作用はなく、前記判示のように、このタンクに営業中流入する玉は、アウト玉やセーフ玉のうちあふれ玉となつたものと景品交換玉であつて、アウト玉(あふれ玉)のみではないので、右タンクにいかなる装置を付けようとも、アウト玉(外れ玉)のみの計数をすることはできない。仮に右タンクに流入する玉を計数したとしても計数されるのは右あふれ玉と景品交換玉の総和になり、
全機の稼働状況を知ることはできない。
なお、前掲疎乙第一号証および証人【D】の証言(第一回)によると、仕上り玉タンク内のリミツトスイツチは、同タンクの上面レベルを検知して玉磨き機の作動を止め、玉が右タンクからあふれ出ることを防止する作用をもつものであつて、右タンクからバケツトへの玉の移入は、上部プールタンク内のリミツトスイツチが働いて階内揚送用のバケツトエレベーターの作動を止めるまで継続し、遂次行われているので、仕上り玉タンク内のリミツトスイツチにより同タンクを通過する玉数を計ることはできないことが疎明される。
仕上り玉タンクよりバケツトへの玉の移入を止めて、リミツトスイツチが検出するまで同タンク内へ玉を貯溜し、その量を計ることも考えられない訳ではないが、
そうした場合、その間上部プールタンクへの玉の移入は当然停止してしまうし、また、一旦計量した後またリミツトスイツチで計量するとすれば、仕上りタンク内の玉を全部空にしてから新たな玉を流入させて計量しなければならないから、仕上り玉タンク内の玉を全部バケツトで上部プールタンクに揚送するまで玉磨き機から仕上りタンクへの玉の流入を阻止しなければならないなどの弊害を生ずることが推認できるうえ、このようにして計数しても、計数されるのは、前記のように、あふれ玉と景品交換玉であつて、これにより全機のアウト玉数を計数したり、遊戯場全体の稼働状況を把握し得るものではない。
(3) 従つて、本件装置の仕上り玉タンクは、本件発明の計数容器のもつ前示の構成、効果を欠くものであるといわざるを得ない。成立に争いのない疎甲第一六、
第一七号証、前掲疎甲第六六号証、証人【C】の証言中、右判断に反する部分は、
採用できない。
そして本件装置には、前記判示のとおり、各パチンコ機の排出玉通路毎に積算計数表示器が介在しているが、右は各パチンコ機ごとの営業中のあふれ玉と閉店後の抜き玉の計数表示装置にすぎず、全体的計数機構でないことは明白であり、ほかに本件装置に本件発明の計数容器に相当する構成、効果のある装置が存することの疎明はない。
(4) 債権者らは、計数容器が前示の構成、効果をもつことが要旨であるとしても、本件装置は、不完全利用である、と主張する。
しかしながら、仮に不完全利用論を認める場合においても、一応その要件とされる、(a)構成要件のうちの一つで比較的重要性の低いものを省略(変更)し、作用、効果を低下させるものであつて、その省略(変更)が極めて容易であるばかりでなく、技術常識から通常とられない構成であり、もつぱら特許発明技術的範囲から逸脱することを目的としたものであると推認せざるを得ないものであること、
(b)その省略(変更)をしても、なお特許出願前の先行技術に比べ作用、効果上特に優れたものであること、などのうち、本件装置は、次の(イ)ないし(ハ)記載のように、少くとも右(a)の要件を欠如するものと認められるので、不完全利用とはいえない。
(イ) まず、前記判示のように、本件発明の計数容器が前示の構成、効果をもつものであることは、詳細な説明の項の中の本件発明自体の効果の記載からも、その出願経過からも認められるものであつて、本件発明において、計数容器はむしろ基本的構成要件ともいえるものであり、計数容器が構成要件のうちで比較的重要性の低いものであると認めることはできない。従つて、計数容器における全機のアウト玉数の計数作用は、計数容器の第三次的幅次的補助的作用、効果であるとする債権者らの主張は採用できない。
(ロ) 次に、本件発明において、アウト玉(外れ玉)と景品交換玉を同一の玉磨き機で磨き、これらを計数容器に流入させれば、もはやアウト玉(外れ玉)の計数の役割を果さなくなり、この作用を営ませようとすれば、玉磨き機やタンクは景品交換用のものを別に設けなければならないことになる。本件装置は、前記判示のように、営業中景品交換玉とあふれ玉を同一装置により運搬、玉磨きするので、一括して処理できるという特徴を有するばかりでなく、仕上り玉タンクで計数することなくたれ流し式に玉を階内揚送用バケツトエレベーターのバケツトに入れるようにしているので、玉の流れは円滑であり、装置は安価でもある。そして、全機のアウト玉を計数するのは、その日の営業状態を知り、翌日の営業方針を決定することを主たる目的とするものと考えられるが、そうとするなら一日単位で計数すればよいのであつて、逐次計数する必要性は余りないということになり、本件発明の計数容器の前示の構成、効果が一般的に必要なものであるかどうかは疑問である。従つて、本件装置は、無駄を省いて、しかも本件発明にない優れた作用、効果を有するものと認められ、本件発明に比べて作用、効果を低下させるものとはいえない。
(ハ) さらに、前掲疎第六四号証、成立に争いのない疎甲第五五および第六二号証、証人【G】および同【D】(第一回)の各証言ならびに債権者本人【B】尋問の結果(第二回)を総合すると、昭和四八年一〇月末現在全国のパチンコ遊戯場の経営者数約九五〇〇名、パチンコ機台数約一七〇万台で、そのうち約五割ないし六割が各種の自動循環装置を設えたものであり、債務者西陣の開発した本件装置と類似の商品で計数容器を備えていない「月光ライン」は昭和四八年末現在で既に店舗数約一六〇〇店、パチンコ機約四四万台を超しているが、他方、本件発明そのものを実施したものは現在一店舗もなく、債権者らが通常実施権を設定している株式会社ユーケンが製造、販売している自動循環装置「マスターライン」も計数容器を備えていないばかりでなく、債権者らが実施許諾をしている業者で計数容器を使用しているところは全くなく、債権者【B】自身計数容器の必要性がないことを自認していることが疎明される。従つて、技術常識からは計数容器を付設しない方が通常であると推認され、本件装置が技術常識から通常とられない構成であるとはいえない。
右のように、本件装置は、不完全利用論を認めたとしても、その要件に該当しないものといわなければならない。
(5) そうすると、本件装置の仕上り玉タンクは、本件発明の計数容器とその技術的範囲を異にするものといわなければならない。換言すれば、本件装置は、本件発明の前記構成要件@を充足していない。
五 結論 以上のとおりであるから、本件装置は、本件発明の、パチンコ機より出たアウト玉を直ちに玉磨き機で衛生処理をして循環使用し、遊戯者には常に衛生処理をした清浄玉のみをもつて遊戯させるという目的、ならびに前記基本的な構成要件@を充足せず、その結果多数のパチンコ機の玉の補給、玉の計数、玉の運搬、玉磨き等を指令室内の指令によつて自動的に循環して行わせる清浄遊戯玉自動循環装置である本件発明の技術的範囲に属しないものというべきである。
従つて、本件装置が本件発明の技術的範囲に属することを前提とする債権者らの本件各仮処分申請は、その余の構成要件の相違および保全の必要性について判断するまでもなく、失当であるから、甲・乙事件ともこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条93条を適用して主文のとおり判決する。
追加
(イ)号説明書(一)図面の説明図は債務者株式会社双葉産業のパチンコ遊戯場における玉循環移送装置であつて、第一図は、地下一階および中二階に設置された装置の概略全体図、第二図は、
各パチンコ機上部の景品玉タンク直上部に臨む補給パイプ上に設けてあるカウンター付き玉送り装置の拡大斜面図である。
(二)構造の説明玉磨き機1’の下に計量容器(債務者らの指称するリミツトスイツチS1付き仕上り玉タンク。以下、()内は債務者らのいう名称を指す。)2’を配置して、
該計量容器よりコンベヤー(階内揚送用バケツトエレベーター)3’のバケツトに玉が入るようにし、かつ該バケツトより補給タンク(上部プールタンク)5’内の玉が定量以下になるとリミツトスイツチS2の作用により玉が移入されるようになし、該補給タンクには分配ベースタンクBおよびスモールタンクbを介して補給パイプ(供給パイプ、補給樋、シユート、補給支管)14’を連結して、該補給パイプ(補給支管)14’上にカウンター付き玉送り装置(定数計数器)17’を設け、かつ該玉送り装置より下に出た補給パイプ(補給支管)14’の各パチンコ機A’B’C’D’……における景品玉タンク6’上部の個所毎に右玉送り装置の歯車形玉送りローラー(爪車)19’の玉送り歯により制禦される補給口16’を設けるとともに、各景品玉タンク6’には玉が無くなると接続するスイツチ7を設け、また各パチンコ機A’B’C’D’……下部のアウト玉排出通路23’毎にカウンター(積算計数表示器)21’を介在せしめ、かつこれら各アウト玉の排出通路23’を傾斜アウト玉通路(集合樋)24’を経て排出玉収容タンク(収容タンク)25’に集結せしめ、さらに該収容タンクより還元装置(階外揚送用バケツトエレベーター)26’を介して供給管27’を上部のタンク(リミツトスイツチS3付きプールタンク)28’を経て前記玉磨き機1’に連通せしめ、しかして指令室(玉売場)8’の配電盤9’には、各景品玉タンク6’内のスイツチ7’により点滅する補給指令ランプ10’、点灯した補給指令ランプに基づき投入する各補給スイツチ11’、投入した補給スイツチにより働くマグネツト(電磁石)30’により作動する電動子(磁性回動板)d、該電動子の先爪(ストツパー)Kがカウンター計数器31’32’33’両端のカムCの溝hに係脱するようになつている玉送り装置(定数計数器)17’、該玉送り装置の歯車形玉送りローラー(爪車)19’の一定個数回転(一定時間回転)を許容する電動機18’などを同一電気回路上に配設し、多数パチンコ機A’B’C’D’…の玉の補給、玉の計数、玉の運搬、玉磨きなどを指令室(玉売場)8’内の指令によつて自動的に循環して行わしめるようにした構造と認められる。
なお、34’は景品と交換した不浄玉を収容タンク25’に誘導する誘導パイプ(交換玉誘導樋)であつてこのタンクより還元装置(階外揚送用バケツトエレベーター)26’で玉磨き機1’に送られる。
(三)作用の説明今パチンコ機A’B’C’D’…中何れかの景品玉タンク6’内が空になると、
空になつた景品玉タンク6’内のスイツチ7’が働いて、指令室8’内に於ける配電盤9’上の補給指令ランプ10’が点燈する。そこで、該配電盤上の補給スイツチ11’を押すと、該補給スイツチと連なる電気回路上の電動機18’のマグネツト(電磁石)30’が働き、電動子(磁性回動板)dが作動してその先爪(ストツパー)Kがカウンター計数器31’32’33’両端のカムCの溝hより外れるので、玉送り装置(定数計数器)17’の歯車形玉送りローラー(爪車)19’は回転して補給パイプ(補給樋、シユート、補給支管)14’内に充実している玉をその重量により逐次一定数、すなわち五〇〇個の玉を景品玉タンク6’内に補給し、
かくして該タンクが玉で充されると、自から玉送り装置(定数計数器)17’の電動子(磁性回動板)dが弾線により下動してその爪先(ストツパー)KがカムCの溝hに係合するので、玉送り装置(定数計数器)17’の歯車形玉送りローラー(爪車)19’は回転を抑止され、従つて補給口よりの玉の補給は止む。
他方、パチンコ機A’B’C’D’…よりの各アウト玉(抜き玉、あふれ玉、セーフ玉など遊戯者が使用した玉)は、それぞれ下端の排出口23’より各カウンター(積算計数表示器)21’を通過する際計数されつつ下部の傾斜アウト玉通路(集合樋)24’を経てアウト玉収容タンク(収容タンク)25’内に集合するとともに、これらは還元装置(階外揚送用バケツトエレベーター)26’により供給管27’を介して玉磨き機1’上部のタンク(リミツトスイツチS3付きプールタンク)28’内に送られ、かつ該玉磨き機1’内において逐次研磨清浄化されて、
計量容器(リミツトスイツチS1付き仕上り玉タンク)2’内に落下し、次いで、
さらに該計量容器の下端より自から一定数宛コンベヤー3’のバケツトに収容待機し、しかして補給タンク(リミツトスイツチS2付き上部プールタンク)5’内の玉が定数以下になる毎に、該タンクに付設されたスイツチS2が自動的に働き、かつこれと連なる別回路上のコンベヤー(階内揚送用バケツトエレベーター)3’用のモーターが作動して、該コンベヤーが上昇してその上端のバケツトより内部の清浄玉を五〇〇個宛補給するので、常に補給タンク(上部プールタンク)5’内は定量に保たれ、従つて該補給タンクより玉送り装置(定数計数器)17’までの補給パイプ(供給パイプ、補給樋、シユート、補給支管)14’内に玉が充満している。そして、いずれかのパチンコ機の景品玉タンク6’が空になるまでは、スイツチが切れているので電気的に運転されることはない。
(イ)号図面の(一)<11894-001>(イ)号図面の(二)<11894-002><11894-003><11894-004><11894-005><11894-006><11894-007><11894-008><11894-009><11894-010><11894-011>
裁判官 水上東作
裁判官 竹田稔
裁判官 小野田禮宏