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事件 昭和 47年 (ワ) 3375号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1975/11/10
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告(一) 被告は、別紙目録記載の方法を用いて得られる三塩化チタンと三塩化アルミニウムの共結晶混合物を主成分とするオレフイン重合用触媒成分(商品名TAC)を製造し、譲渡してはならない。
(二) 被告は、その所有する前(一)の項記載の物件を廃棄せよ。
(三) 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
二 被告 主文同旨の判決を求める。
請求原因
一 原告は、次の特許権(以下(一)の特許権を「本件甲特許権」、その特許発明を「本件甲特許発明」といい、(二)の特許権を「本件乙特許権」、その特許発明を「本件乙特許発明」という。)の特許権者である。
(一) 発明の名称 オレフイン類低圧重合用の改良された触媒の製法 出願日 昭和三二年四月八日 (特許願昭三二-八六一八号) 優先権主張 一九五六年(昭和三一年)四月一六日(アメリカ合衆国) 公告日 昭和三七年一〇月一六日 (特許出願公告昭三七-一六五八〇号) 登録日 昭和四〇年六月一〇日 特許番号 第三一七一八七号(二) 発明の名称 オレフイン重合触媒の製法 出願日 昭和三四年六月二七日 (特許願昭三四-二一一一九号) 優先権主張 一九五八年(昭和三三年)六月二七日(アメリカ合衆国) 公告日 昭和四〇年九月八日 (特許出願公告昭四〇-二〇一六九号) 登録日 昭和四二年一二月二五日 特許番号 第三一九三六五号二 本件甲特許発明の特徴は、次のとおりである。
(一) 本件甲特許発明の願書に添付した明細書(以下「本件甲明細書」という。)の特許請求の範囲(以下単に「請求の範囲」という。)の項の記載は、次のとおりである。
「四塩化チタニウムを(a)金属アルミニウム又は(b)金属アルミニウム及び(又は)第U族又はアルミニウム以外の第V族の金属或いは遷移金属例えばチタニウムと塩化アルミニウムの混合物を用い、約150〜600゜Cの温度で、また反応剤を三塩化チタニウムと塩化アルミニウムとの共結晶混合物を生成するような割合で用いて還元し、次いでこのハロゲン化混合物をアルミニウムアルキル化合物例えばアルミニウムトリエチルで活性化することを特徴とするオレフインの低圧重合用改良触媒の製造方法。」(二) 本件甲特許発明構成要件は、次のとおりである。
(1) 四塩化チタニウムを(三塩化チタニウムに)還元する。
(2) (還元剤として)(イ) 金属アルミニウム、又は(ロ)(a) 金属アルミニウム、及び(又は)(b)(@) 第U族の金属、又は(A) アルミニウム以外の第V族の金属、或いは(B) 遷移金属、例えばチタニウムと(C) 塩化アルミニウムとの混合物を用いる。
(3) 約一五〇度ないし六〇〇度Cの温度で還元する。
(4) 反応剤を三塩化チタニウムと塩化アルミニウムとの共結晶混合物を生成するような割合で用いる。
(5) 次いで、このハロゲン化混合物(三塩化チタニウムと塩化アルミニウムとの共結晶混合物)をアルミニウムアルキル化合物、例えばアルミニウムトリエチルで活性化する。
(6) オレフレイン低圧重合用改良触媒の製造方法
(三) 本件甲特許発明は、公知のオレフレン低圧重合用触媒の製法、すなわち四塩化チタニウムを乾燥チタニウム粉等により還元して三塩化チタニウムとし、これをアルミニウムアルキル化合物で活性化する方法の改良に係る。右公知の方法では、その製品である触媒によりオレフイン、例えばプロピレンを重合するに当たつて温度五〇度Cないし一〇〇度Cとして平方吋当たり五〇ポンドないし一五〇〇ポンドのゲージ圧、通常少なくとも平方吋当たり一〇〇ポンドのゲージ圧を要し、大気圧では重合はほとんど起らない(別添本件甲特許発明の特許公報一頁左欄一二行目ないし二六行目参照。以下右公報を「本件甲公報」という。なお、以下本件甲公報を引用する場合、別添公報の訂正のとおり訂正されたものとして引用することとする。)。これに対し、本件甲特許発明では、四塩化チタニウムの還元剤としてアルミニウム等を用いることにより、還元された生成物を三塩化チタニウムと塩化アルミニウムとの共結晶混合物とするので、これをアルミニウムアルキル化合物で活性化した触媒は、大気圧でのオレフイン類の重合を可能にする(本件甲公報三頁左欄四〇行目、四一行目参照)。
右効果の相違は、主として次の理由による。公知方法により触媒を用いるときは、遷移金属化合物(三塩化チタニウム)が重合稀釈剤中に適当に分散されず、従つて触媒作用を営む表面積が極めて小さくなり、また遷移金属化合物が早期において重合体によつて被覆されて触媒作用を減じた(本件甲公報一頁左欄二七行目ないし三四行目参照)。これに対し、本件甲特許発明の触媒を用いるときは、触媒構成要素の一つである塩化アルミニウムが重合に用いられる稀釈剤又は稀釈剤-アルキル金属化合物(アルミニウムアルキル化合物)混合物に可溶であり(同一頁右欄三行目ないし一四行目参照)、かかる触媒が重合稀釈剤に加えられるときは遷移金属化合物(三塩化チタニウム)の非常に微細な分散が生ずる。(同一頁二二行目ないし二四行目参照)。更に、可溶性塩(塩化アルミニウム)を混入することは還元された遷移金属化合物(三塩化チタニウム)の結晶構造に著しい影響を及ぼす(同一頁右欄二五行目ないし三一行目参照)。かくて、活性化された触媒は、その高い分散度と特殊な結炭構造に基づき重合に際しての触媒効率を大いに高め、大気圧下の重合を可能ならしめる。
(四)1 本件甲特許発明構成要件(4)の三塩化チタニウムと塩化アルミニウムとの「共結晶混合物」とは一般式MCl3(MはAl及びTiを示す。)を有する結晶性組成物であつて、AlとTiの分布が本質的にランダム(無秩序)であるものを指す。
「共結晶混合物」を「固溶体」といつても差し支えない。固溶体とは、共立出版株式会社発行の「化学大辞典」によれば、ある一つの結晶相の格子点にある原子が全く不規則に別種の原子と置換するが、あるいは格子間隙に別種原子が統計的に分布されるように入り込んだ相、すなわちある結晶相に他物質が溶け込んだとみなされる混合相をいう。本件の「共結晶混合物」は、塩素の結晶格子中にAlとTiか無秩序に入り込んでできているので、この意味において固溶体である。
右のような「共結晶混合物」であることは、X線的研究によつても、帯磁性(磁化率)研究によつても、それぞれ独立に確認されている。すなわち、X線研究によると、若しAlCl3とTiCl3とか別個の組成物であるならばX線回折パターンが二つの相を示すと予想されるか、「共結晶混合物」では単一の相が存すること、換言すればTiCl3とAlCl3との物理的混合物は各物質の回折線が各物質の割合に応じて組み合されたパターンを示すのに対し、本件甲特許発明の触媒物質はTiCl3の回折線パターンに近い単一のパターンを示すことが、また帯磁性研究によると、純粋TiCl3中の隣接するTi相互間の磁気的相互作用が共結晶物中の本質的にランダムに分散されたAl原子により破壊されることがそれぞれ判り、その結果として「共結晶混合物」であることが確認されている(甲第一二、第一四、第一五号証)。
2 本件甲特許発明構成要件(4)の三塩化チタニウムと塩化アルミニウムとの共結晶混合物を生成するような「割合」とは、本件甲明細書の発明の詳細な説明の項に、「塩化アルミニウム又は同効物質かTiCl4のTi及び又はAlによる還元を促進するときに加えられる所のAlCl3の量は通常約1〜70(モル)%、
好むらくは終りの生成物がAlCl3(Ticl3とあるのは誤記である。)の約5〜50(モル)%を含有するに充分な量である可きである。」(本件甲公報二頁右欄一六行目ないし二〇行目)とされていることを指す。
右引用の本件甲公報の記載は、AlCl3を使用する場合におけるその通常の若しくは好ましい量を指示するものである。反応剤はTiCl4の量に基づき化学量論的にあるいは遊離金属を終りの生成物中に残すようにこれらの金属(類)の僅かの過剰をもつて使用される(本件甲公報二頁左欄一一行目ないし一四行目、二九行目ないし三一行目参照)。またAlCl3の量につき「通常約1〜70(モル)%」とあるのは、TiCl4の量に対してである。
3 本件甲特許発明構成要件(3)の「約一五〇度ないし六〇〇度Cの温度」にいう約一五〇度は、使用する温度の最低限を意味する。しかし、右約「一五〇度」の記載は、弾力的に解釈されなければならない。何故ならば、諸条件、反応器のタイプ、温度計の設置場所、反応剤の形状が、粒状、フレーク状又はその他であること等により変り得るからである。
三 本件乙特許発明の特徴は、次のとおりである。
(一) 本件乙特許発明の願書に添付した明細書(以下「本件乙明細書」という。)特許請求の範囲(以下単に「請求の範囲」という。)の項の記載は、次のとおりである。「部分還元された共結晶した塩化チタン/塩化アルミニウム触媒成分を乾式ミル粉砕し、粉砕された触媒成分をアルミニウムアルキル成分によつて活性化することからなり、その乾式ミル粉砕工程の激烈さはスチールボールでの少くとも一日間のボールミル粉砕の激烈さに等しいものであるオレフイン重合触媒の製法。」(二) 本件乙特許発明構成要件は、次のとおりである。
(1) 部分還元された共結晶した塩化チタン/塩化アルミニウム触媒成分を乾式ミル粉砕する。
(2) 乾式ミル粉砕工程の激烈さはスチールボールでの少なくとも一日間のボールミル粉砕の激烈さに等しいものである。
(3) 粉砕された触媒成分をアルミニウムアルキル成分によつて活性化する。
(4) オレフイン重合触媒の製法。
(三) 本件乙特許発明は、部分還元された共結晶した塩化チタン・塩化アルミニウム触媒成分をアルミニウムアルキル成分によつて活性化するオレフイン低圧重合用触媒の製法の改良に係るものである。前述の触媒成分をアルミニウムアルキル成分によつて活性化する前に、右触媒成分を乾式ミルにより一定の激烈さをもつて粉砕することによりその触媒効率を著しく高めるものである(別添本件乙特許発明の特許公報一頁左欄下から五行目ないし右欄二六行目参照。以下右公報を「本件乙公報」という。)。ここに乾式ミル粉砕とは、稀釈剤を用いないで、粉砕装置(ポールミル又はペツブルミル)により粉砕することをいう。
乾式である限り粉砕装置の形式のいかんは問わない。しかし、乾式ミルによる粉砕の程度については、スチールボールミルによる少なくとも一日間の粉砕によつて得られる程度の粉砕が要求される。そこで、粉砕装置が異なることに応じて、粉砕に要する時間も異なり得るのである。このことは、本件乙明細書に、「与えられた粉砕装置に最も適した時間は経常の実験で容易に決定することができる。」(本件乙公報二頁左欄二七行目ないし二九行目)と記載されている。
本件乙特許発明の触媒効率を著しく高めるという前述の効果は、乾式ミル粉砕により触媒成分の結晶構造に著しい変化を与えることにより得られるものと解されている(同二頁左欄三三行目ないし四五行目参照)。
(四)1 本件乙特許発明構成要件(1)の「部分還元された共結晶した塩化チタン/塩化アルミニウム触媒成分」とは、部分還元性塩化チタンと塩化アルミニウムとの共結晶したものを意味し、概念上本件甲特許発明にいう「三塩化チタニウムと塩化アルミニウムとの共結晶混合物」よりも広く、後者は前者に含まれる関係にある。
2 本件乙特許発明構成要件(2)の「乾式ミル粉砕工程の激烈さはスチールボールでの少なくとも一日間のボールミル粉砕の激烈さに等しいものである」は、スチールボールの型式・寸法・回転数・回転速度、ボールの材質・容積・重量・寸法・数・形状、対処理物とボールとの量比、粉砕温度を考慮したうえで、本件乙公報二頁左欄一六行目ないし二九行目記載のような結論が出され、これに基づいて構成されたものである。
この定め方は、共結晶成分の終晶構造に顕著な変化を生ぜしめるという意味において「一定の激烈さ」とされたのである。「少なくとも一日間の粉砕によつて得られる程度の粉砕」が要求されるとした基準は、あくまでも共結晶成分の結晶構造に変化を与え、産業上要求される活性度にまでその活性度を高める粉砕か否かにあるのである。
「スチールボールでの少なくとも一日間のボールミル粉砕の激烈さ」について、
本件乙明細書には、「部分還元性遷移金属ハライド(註、共結晶混合物)のX線回折試験で……その結晶構造の著しい変化を与え、凡ての回折の山を完全に消失させる」程度の激烈さをいう旨記載されており(本件乙公報二頁左欄三八行目ないし四〇行目参照)、「スチールボールでの少なくとも一日間のボールミル粉砕」とは、
右のような粉砕の激烈さをスチールボールの側から表現しただけであつて、常にスチールボール用いて最少限一日間ミル粉砕しなければならないことを要件とするものではない。
本件乙特許発明は、乾式粉砕の結果触媒成分の結晶構造が変化することにより、
触媒の効率が顕著に向上することの知見に基づいて完成されたものである。粉砕を長時間行えば、触媒成分の表面積が増加して触媒活性が大きくなることが考えられるが、本件乙特許発明では、「触媒活性の大きな増加は単に表面積増加によるよりもむしろ金属ハライドの結晶構造の変化に帰因するものと考えられる。」(本件乙公報二頁左欄四二行目ないし四四行目)のである。
四 被告は、別紙目録記載の方法(以下「被告方法」という。)を用いて、四塩化チタンをアルミニウムにより部分的に還元して三塩化チタン、三塩化アルミニウムの共結晶混合物とし、これを乾式ミル粉砕したもの(商品名TAO)(以下「被告製品」又は「TAC」という。)を業として製造し、これを訴外住友化学株式会社、同三井東圧株式会社等に販売し、右購買者においてこれをアルミニウムアルキル化合物により活性化してポリプロピレンの重合触媒として使用している。
五(一) 被告方法は、次のとおりである。
(1) 四塩化チタンに金属アルミニウムを添加して、不活性雰囲気中で常圧の下に摂氏約一三六度の温度で四塩化チタンと金属アルミニウム粉末を反応せしめ、三塩化チタンと三塩化アルミニウムのモル比三対一の共結晶混合物3TiCl3・AlCl3を得る。
(2) 右生成物を振動式スチールボールミル中に投入し、不活性雰囲気中において数十時間にわたり粉砕する。この際、実質的な量の稀釈剤その他の液体を添加しない。すなわち、乾式ボールミル粉砕である。
(3) 右製品を気密銅製ドラム罐に詰めて保存し、且つ販売する。
(二) 被告方法を、本件甲、乙各特許発明との対比の便宜上区分説明すると、次のとおりである。
(1)′ 四塩化チタンを三塩化チタンに還元する。
(2)′ 還元剤として金属アルミニウムを用いる。
(3)′ 摂氏約一三六度の温度で還元する。
(4)′ 還元の結果、三塩化チタンと三塩化アルミニウムの共結晶混合物3TiCl3・AlCl3を得る。
(5)′ 右生成物を乾式振動ボールミル粉砕する。
(6)′ ミル粉砕は数十時間にわたる。
(三) 被告から被告製品を購入する者は、これをポリプロピレンの重合に当たりアルキルアルミニウム化合物により活性化している。
(四) 被告製品を活性化して使用する場合、すなわちアルキルアルミニウム化合物により処理することにより活性化して使用する場合の作用効果、すなわち触媒活性、重合度及び重合物の改善・改良は、本件甲、乙各特許発明の作用効果に等しい。
六 本件甲、乙各特許発明と被告方法とを対比すると、次のとおりである。
(一) 被告方法の区分説明(1)′は、本件甲特許発明構成要件(1)に、同区分説明(2)′は同構成要件(2)に、同区分説明(4)′は同構成要件(4)にそれぞれ該当する。
被告方法の区分説明(3)′はその温度において本件甲特許発明構成要件(3)と異なる。しかし、本件甲特許発明の温度は、本件甲明細書の記載から明らかなように、約一五〇度ないし六〇〇度Cを最も適当な温度とするものであり、各場合に用い得る最低の温度があり得るのであつて(本件甲公報二頁左欄四九行目ないし右欄四行目参照)、一五〇度以下の温度が本件甲特許発明の効果を生じ得ないとするものではない。従つて、本件甲特許発明請求の範囲の項には、「約一五〇度」という表現が用いられているが、この記載は弾力的に解釈されなければならず、一五〇度以下の温度を用いる方法を同請求の範囲外とするものではない。何故ならば、当該温度は、諸条件、反応器のタイプ、温度計の設置場所、粉砕度等により変わり得るからである、この意味において、被告方法の区分説明(3)′は本件甲特許発明構成要件(3)に該当するか、少なくとも両者は均等関係に立つ。
右のとおりであつて、被告方法は、本件甲特許発明構成要件(1)ないし(4)を充足する。
(二) 被告方法の区分説明(5)′は本件乙特許発明構成要件(1)に、同区分説明(6)′は同構成要件(2)に該当する。
七 被告製品の購買者が、オレフイン重合を行う際、アルキルアルミニウム化合物により被告製品を活性化することは、本件甲特許発明構成要件(5)及び本件乙特許発明構成要件(3)にそれぞれ該当する。
八 前述のとおり、被告製品は、本件甲特許発明構成要件の一部である(1)ないし(4)及び本件乙特許発明構成要件の一部である(1)、(2)を充足する方法で得られるものであり、しかも被告製品は、本件甲特許発明の残りの構成要件(5)及び本件乙特許発明の残りの構成要件(3)を充足したうえでのみオレフイン重合の触媒として使用され、右以外の用途を有しない。被告は、右のとおりの被告製品を、現にオレフイン重合用触媒として業として製造販売しているのであるから、本件甲、乙各特許発明の方法の実施にのみ使用する物を業として生産販売していることになる。従つて、被告は、本件甲、乙各特許権を侵害しているものである。
九 よつて、原告は、被告に対し、特許法第101条2号及び同法第100条に基づき、本件甲、乙各特許権のいずれかにより(選択的併合)、被告製品の製造販売の差止及び廃棄を求める。
被告の答弁及び主張
一 請求原因一の項は認める。
二(一) 同二、(一)の項は認める(二)同二、(二)ないし(四)の項は争う。
三(一) 同三、(一)の項は認める。
(二) 同三、(二)ないし(四)の項は争う。
四 同四の項のうち、被告が商品名TACという商品を製造販売していることは認めるが、被告からTACを買受けた者がこれをどのように加工してプロピレンの重合触媒として使用しているかは知らないし、その余の事実は否認する。TACの製法は、原告主張のとおりではない。
五 同五の項ないし八の項は争う。
六 原告の、本件甲特許発明の中間生成物を特徴付ける「共結晶混合物」の説明(請求原因二、(四)1の項)によつても、「共結晶混合物」の意味が明らかでない。「共結晶混合物Cocrystallization Product」という用語は、本件甲明細書及びこれに相当する米国特許第三、〇三二、五一〇号明細書以外には全く使用例を見ない特殊の用語であり、それが本件甲特許発明の出願当時一般に用いられていた「固溶体Solid Solution」と同じ観念であるのか、又は多少異なるところがあるのか、若し全く同じであるとすれば何故に一般的な用語を使わないで、わざわざ特殊の用語を造つて使つたのか、全く理解することができない。
また、本件乙特許発明の「乾式ミル粉砕工程の激烈さはスチールボールでの少なくとも一日間のボールミル粉砕の激烈さに等しいものである」との要件は、本件乙特許発明の要件中、特に重要なものであり、同特許発明は、この要件があることによつて特許になつたもののようであるが、「粉砕装置が異なればそれに応じて粉砕に要する時間も異なり得ることは明らかである。与えられた粉砕装置に最も適した時間は経常の実験で容易に決定することができる。」との原告の主張(請求原因三、(三)の項)からすれば、単に「乾式ミル粉砕」と定めたことのほかに、以上のような粉砕の時間をもつてその激烈さを定めることがいかなる点で発明を構成するのか不可解である。原告は、右の程度の粉砕が、粉砕の諸条件を考慮したうえで「共結晶成分の結晶構造に変化を与え、産業上要求される活性度にまでその活性度を高める」に足るものであると主張するが、この点について本件乙明細書には、僅かに「この乾式粉砕法がこの結晶構造の著しい変化を与え」(本件乙公報二頁左欄三九行目、四〇行目)とあるだけで、「少なくとも一日間のボールミル粉砕の激烈さと等しい激烈さ」とこの「結晶構造の著しい変化」との関連性については、明細書のどこにも記載がない。
また、「産業上要求される活性度にまでその活性度を高める」ということは、余りにも当然のことで、そのために十分な時間は、
「与えられた粉砕装置に最も適した時間は経常の実験で容易に決定することができる」という「最も適した時間」に含めて考えることができるであろう。要するに、
単に時間を基準とした上記のような限定の仕方では、一定の激烈さを示したものということができないばかりか、発明の要件として全く意味をなさない。
七 原告は、被告製品は三塩化チタンと三塩化アルミニウムの共結晶混合物3TiCl3・AlCl3を数十時間乾式振動式ボールミル粉砕したものであるとし、被告製品は専ら被告からこれを購入した者によりアルキルアルミニウム化合物によつて活性化されたうえでオレフイン類の重合にのみ使用されており、右被告製品の購入者による活性化は、本件甲特許発明の残りの構成要件(5)及び本件乙特許発明の残りの構成要件(3)にそれぞれ該当し、右各要件を充足したうえでのみオレフイン重合の触媒として使用され、右以外には用途を見出し得ないと主張する。しかし、被告製品TACは、本件甲、乙各特許発明の方法による活性化を経たうえでオレフイン重合の触媒として使用され、それ以外の用途を見出し得ないとの主張事実は、事実に反する。「四塩化チタンをアルミニウムで還元して得られる組成物(3TiCl3・AlCl3)」は、本件甲、乙各特許発明の方法を実施するために使用されるばかりでなく、それ以外の他用途を数多く有しているから、仮にTACが本件甲特許発明でいう三塩化チタニウムと塩化アルミニウムとの共結晶混合物及び本件乙特許発明でいう部分還元された共結晶した塩化チタン/塩化アルミニウム触媒成分に該当するものとしても、TACは、特許法第101条第2号にいう「その発明の実施にのみ使用する物」には該当しない。
(一) オレフイン類の重合以外の用途1 芳香族化合物をアルキル化する方法における触媒 右は、英国特許第八九五、九六八号明細書(乙第一号証)に記載されている用途であつて、そこでは、「三ハロゲン化チタンないしは四ハロゲン化チタンとアルミニウムとを反応することによつて得られる生成物が芳香族化合物のアルキル化に非常に適当な触媒であることを見出した。」(右明細書一頁二七行目ないし三一行目)、「三ハロゲン化チタンないしはアルミニウムと四ハロゲン化チタンとの反応生成物をアルキル化工程に使用する前に例えばボールミルを使用して細かに粉砕してもよい。この粉砕は乾式又はベンゼンのような不活性液体の存在下で行うことができる。」(同二頁四〇行目ないし四六行目)、「実施例一五と実施例一六に用いられている触媒は使用する前にボールミルで粉砕した。」(同二頁一〇七行目、一〇八行目)等の記載がある。右記載中、「四ハロン化チタンとアルミニウムとを反応することによつて得られる生成物」とは、3TiCl3・AlCl3にほかならず、しかもこれはボールミル等で乾式粉砕してから触媒として用いられているから、TACが、そのままで、右の芳香族化合物のアルキル化反応における触媒としての用途を持つていることが明白である。
2 共役ジオレフイン類の重合方法における重合触媒 右は、原告がその特許権者である特許第五六九七九九号の特許公報(特許出願公告昭四四ー二六九二九号)(乙第二号証)に記載されている用途であつて、そこでは、本件甲、乙各特許発明の目的物であるオレフイン(CnH2n)とは異なり、
エチレン結合二個が直接単結合で結合している構造(H2C=CHーCH=CH2)を持つ炭化水素で、オレフインの性質とは別の特有の反応を示す共役ジオレフイン(共役ジエン)(CnH2n-2)類の重合体類の製造に使用される好適な触媒成分として、「主体成分は……塩化アルミニウムの如きT〜V族金属のハロゲン化物と共結晶させた三塩化チタン……である。……本発明に使用される触媒系の共触媒成分はT〜V族金属の金属アルキル……を包含する。共触媒として特に重要なものは低級アルキルアルミニウム化合物類、特にトリアルキルアルミニウム化合物類……である。……その触媒系の主体触媒成分と分散媒とを、その重合反応にそれらを使用するに先立つて、不活性環境に於いて相互に密に接触させるのが望ましい。この稠密接触は、……分散媒中に充分に分散させるのに満足な時間その混合物を強力に混練することによつて達成し得る。
」(右特許公報一頁右欄下から六行目ないし二頁左欄三五行目)と記載されている。従つて、右重合法においても、3TiCl3・AlCl3が主体触媒成分として用いられていることが判る。これは、3TiCl3・AlCl3が本件甲、乙各特許発明実施以外の用途に用いられていることを明らかにしている。
3 公害防除の用途 右は、特開昭四八ー三三六五八号公開特許公報(公開日昭和四八年五月一一日、
出願人徳山曹達株式会社。乙第一五号証の一)に記載されている用途であつて、そこには、「クロムイオンを含有する水の処理方法」として、工業排水中に含有されて廃棄され水質汚濁の公害の原因となつているクロムイオンを除去することを目的とする発明が記載されているが、その記載によると、同発明は、「クロムイオンを含有する水に最高原子価より低原子価のチタン化合物を添加し、かつPH5〜10で反応させることにより該クロムイオンを除去することを特徴とするクロムイオンを含有する水の処理方法」というのであつて、右発明の方法に使用される「最高原子価より低原子価のチタン化合物」としては、「必ずしも純粋な低原子価チタン化合物を使用する必要はない。例えばαーオレフインの重合用触媒である3塩化チタン又は3塩化チタンとアルミニウム化合物」も使用できることが記載されており(右公開特許公報二六二頁右欄上段一二行目以下、右発明の明細書ー乙第一五号証の二ー七八三頁一二行目以下)、更に実施例として、「市販の3塩化チタン」を使用する事例を掲げている(乙第一五号証の一の二六三頁左欄下段六行目以下、同号証の二の七八八頁六行目以下参照)。ところで、右の「αーオレフインの重合用触媒である3塩化チタン」の中には、TACのように四塩化チタンを金属アルミニウムで還元した3TiCl3・AlCl3も含まれることは、右明細書の記載ー少しでも当該技術分野の知識を有するものが読めば、極めて明瞭に理解されるところである(乙第八号証の一頁右欄一八行目ないし二六行目参照)。「市販の3塩化チタン」についても全く同様で、TACがこれに相当し、あるいはこれと同様に使用し得ることについては、疑問の余地がない。
TACは、クロムイオンを含有する水(工場排水等)に添加して、PH5〜10の条件下で反応させると、クロムイオンを水酸化クロムとして完全除去する作用を有している。ところで、水質汚濁防止法第3条第1項及びこれに基づく排水基準を定める総理府令第1条別表第一によれば、工場及び事業場から河川、湖沼、港湾、
沿岸海域その他の公共用水域に排出される水の汚染状態は、六価クロムの化合物については一リツトルにつき〇・五ミリグラム(〇・五PPMに相当)をもつて含有量の最大許容限度と定めており、また公害対策基本法第9条に基づく水質汚濁に係る環境基準(環告五九)第一の1の別表1によれば、国民の健康を保護し生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい環境基準としては、水質の汚濁は六価クロムの化合物につき最高〇・〇五PPMまでであることと定められている。このように、クロム化合物のうちの六価クロム化合物、一般にはクロム酸及びその塩類(M′2CrnO3n+1)は法律により有害物質として指定され厳しい監視下に置かれている。このクロム酸は、メツキ工場の排水(クロムメツキの洗浄水のほか、クロメート処理、ユニクローム処理、電触研磨不働態化処理、陽極酸化処理、
塗前処理ーリン酸クロム系作業ー等の工程から排出される。)のほか、クロム酸なめしをしている皮革工場の排水中に含まれ、また、冷却水の腐食抑制剤(インヒビーター)として使用されるためこれらのブローなどで排水中に混入することが考えられる(乙第一七号証)。従つて、右のような六価のクロムを沈澱除去できる方法は、公害防止という現代的要請にこたえる技術であり、その意味で多くの需要が見込まれる方法であるといわなければならない。現に六価クロムの除去に苦慮している工場において、この方法について試験検討が進められている。このように、クロムイオンを沈澱除去せしめて浄化処理する方法におけるTACの用途は、極めて現実的な経済的実施の可能性が客観的に十分認められる用途であることが明らかである。
前掲特開昭四八ー三三六五八号公開特許公報(乙第一五号証の一)によれば、従来工場排水中に含まれているクロムイオンを除去する方法として、イオン交換樹脂と接触させて含有クロムイオンを吸着除去する方法があつたが、この方法には、クロムイオン濃度が希薄な場合に吸着除去が不完全であり、またクロムイオン以外の浮遊物を予め除去する必要があるばかりでなく、イオン交換樹脂の再生操作が煩雑である等の欠陥があつた。また、この方法以外にも、クロムイオンを含有する工場排水をPH2〜3の酸性に保ち、硫酸第一鉄、チオ硫酸ソーダ等の還元性物質を添加するか、あるいは亜硫酸ガスを吹き込みクロムイオンを三価のクロムイオンに還元したる後アルカリを添加して三価の水酸化クロムとし沈澱除去する方法が知られているが、この方法により生成する水酸化クロムは微細な粒径となるため沈降性が悪く、沈澱除去が極めて困難であるという欠陥がある。これに引きかえ、右発明によれば、クロムイオンを含有する水に最高原子価より低原子価のチタン化合物を添加し、且つPH5〜10で反応させることにより該クロムイオンを水酸化クロムとして沈澱除去することができるのであり、従来から公知の還元性物質の添加により水酸化クロムとして沈降させる方法に比べて極めて沈降性が優れている。そして、
右発明における最高原子価(四価)より低原子価のチタン化合物としては、必ずしも純粋な低原子価チタン化合物に限らず、「例えば、αーオレフインの重合用触媒である3塩化チタンまたは3塩化チタンとアルミニウム化合物、更には第3成分を加えた組成物」等が使用される。「特に3塩化チタンとアルミニウム化合物とを含む組成物を本発明に用いる場合、アルミニウムの凝集効果が相乗的に作用して生成する水酸化クロムの沈降性を一段と改良することができるので好適である。」とされている。(同公報二六二頁右欄上段一二行目ないし左欄下段二行目参照)。ここにいわゆる「αーオレフインの重合用触媒である3塩化チタンまたは3塩化チタンとアルミニウム化合物」に、TACが該当することは疑う余地もない。同公報中の実施例1が、「市販の塩化チタン」と呼んでいるものも、TACのような、四塩化チタンを金属アルミニウムで還元した生成物を含んで呼称したものである。このことは、前掲乙第八号証の特許出願公告昭三八ー一一八四〇号特許公報に、「アルミニウム還元で製造された三塩化チタンは3TiCl3・AlCl3なるごときものと考えられるので本質的には三塩化チタンと異る物質であるが、以下簡単に述べる意味において三塩化チタンとは逐一区別して記載しないこととする。」(右公報一頁右欄二一行目ないし二六行目)と記載されているように、当業者間ではこれを「三塩化チタン」と略称することが慣例となつているのであつて、そのことは右乙第八号証の記載のように断り書きをしなくとも、当業者には理解できることなのである。
TACが六価クロム化合物を沈澱除去する作用を実際に果し得ることは、東京都公害局に所属する東京都公害分析センターにおいて測定の結果明らかにされた(乙第一八号証の一)。すなわち、被告が前掲特許公報(乙第一五号証の一)記載の実施1例にならつて、「6価のクロムイオンを10mgモル含む水溶液1lを苛性ソーダでPH7.5に調整し」たものを作り、該水溶液に、「市販の3塩化チタン」としてTACを使用し、その「40mgモルを溶解した水溶液1lを苛性ソーダでPH7.5に調整したもの」を加え、三分間攪拌し、更に三分間経つてから上澄液を採取したもの(乙第一八号証の二)を、東京都公害分析センターにおいて測定したところ、処理前の六価クロムイオン含有水溶液では四九〇PPMもあつた六価クロム化合物が、検出限界の〇・〇四PPM以下に減つていたことが明らかとなつた(同号証の一及び二)。全く同様にして、財団法人化学品検査協会に依頼して、試料の作成と処理、測定をすべて同協会において行つた試験結果によれば、処理前の六価クロムイオン四八一PPMが、処理後には〇・〇四PPMの検出限界以下となつていた(乙第一九号証)。
右事実は、TACが右の用途において現実に使用し得るものであることを明白にするものである。
なお、TACと同様の三塩化チタン化合物の他用途を示す前掲乙第一五号証の一記載の発明が現実に実施され、経済的に極めて大きな効果を収めたことは、昭和四九年一一月二六日付「特開昭四八ー三三六五八号の発明の実施について」と題する書面(乙第二一号証)に示されているとおりである。
また、TACは、「市販の3塩化チタン」として、訴外東洋ストウフアー社の製品と現在日本の市場を二分している。そして、αーオレフインの重合触媒としての市販の三塩化チタンが、すべてアルミニウム還元のものばかりであることは、乙第一五号証の一記載の発明の特許出願当時の当業者の常識である。
(二) オレフイン類の重合方法のうち、本件甲、乙各特許発明の方法以外の方法における用途1 3TiCl3・AlCl3を活性化する工程が全く異なる方法(1) 特許第四五七九九六号方法(特許権者住友化学工業株式会社)(特許出願公告昭四〇ー九八四七号特許公報。乙第三号証) 右は、触媒系として、四塩化チタンをアルミニウムで還元して得られた三塩化チタンと塩化アルミニウムの錯合体と金属アルミニウム(これらの両者を別々に、又は同時にボールミルで分散して得られる分散度の高いもの程良い結果が得られる。)及び直接水素原子と結合のない窒素の有機化合物より成る触媒系を用いることによつて、αーオレフインの重合に当たり重合活性を著しく高める方法に関するものである。
(2) 特許第四六五五〇二号方法(特許権者徳山曹達株式会社)(特許出願公告昭四〇ー一八四二九号特許公報。乙第四号証) 右方法においては、固体触媒として、「例えば、スタウハー社の三塩化チタンAA(註、Al還元した三塩化チタンを更に粉砕により活性化したもの、3TiCl3・AlCl3や、また単に四塩化チタンの水素還元による三塩化チタンの如き、
三塩化チタン組成物と金属ナトリウム、或いはカリウムの如き第T族金属と、シクロペンタジエン環を有する誘導体とを水素雰囲気下で、且ボールミル型の如き、粉砕効果を有する触媒調整機を用いて圧力三〜三〇気圧、温度二〇〇度C以下の条件で水素化反応を行なつて得られる」触媒を用いる(右特許公報一頁右欄二四行目ないし三一行目)。このような還元性金属水素化物よりなる触媒を用い、オレフイン類の重合を行つた後、例えば水蒸気蒸溜のような方法で溶媒の除去後、無溶媒下で触媒成分の分離を行うと同時に、高分子重合体の改質を併せて行うことができる。
この方法では、三塩化チタン組成物である3TiCl3・AlCl3のほかにアルカル金属(同合金)及び添加物としてシクロペンタジエン環を有する化合物を添加して固体の触媒成分を構成してあるため濾過法による触媒分離が可能である。
(3) 特許出願公告昭四四ー二三五〇四号特許公報記載の方法(出願人徳山曹達株式会社)(乙第五号証) 右方法は、四塩化チタンをアルミニウム還元して得られた三塩化チタンを更に活性化したスタウフアー社製AA品(TiCl3AA)と、細片又は微粒子状としたアルカリ金属及びシクロベンタジエニル金属誘導体化合物とを反応させて得られる反応混合物にアルキル亜鉛を加えた系を用いてモノオレフインを重合せしめることにより、任意のメルトインデツクスを有する高結晶高重合物を高収率に得る方法に関する。
(4) 特許第五八七七九七号方法(特許権者三菱油化株式会社、同倉敷レーヨン株式会社)(特許出願公告昭四五ー一二八六二号特許公報。乙第六号証) 右発明では、四塩化チタンのアルミニウム還元法により製造され、且つ微粉砕された三塩化チタンとトリオルガノ錫モノハイドライドとの組合せ触媒を用いることによつて、高活性でエチレンが重合でき、嵩比重の高い高剛性、高軟化点を有するポリエチレンが生成することを特徴としている。そして、ここにいわゆる微粉砕された三塩化チタンは、公知文献によれば、3TiCl3+Al→3TiCl3・AlCl3なる反応に基づき、「ここに生成した塩化アルミニウムは三塩化チタンと固溶体を形成し共晶出すると一般に信じられている。」(右特許公報一頁右欄三一行目、三二行目)と記載されている。従つて、右方法は、アルキルアルミニウムを用いることなく、3TiCl3・AlCl3を活性化してエチレン重合の触媒に用いる点で、本件甲、乙右特許発明の方法と異なる方法であることが明白である。
TACは、右用途において本件甲、乙各特許発明にいうアルミニウムアルキル化合物とか、アルミニウムアルキル成分とかにより活性化されるのではなくて、これらとは全く異なるトリオルガノ錫モノハイドライドによつて活性化されるから、この一点においても、前掲用途が本件甲、乙各特許発明の方法と異なる方法であることが明瞭である。
次に、原告は、TACが本件甲特許発明構成要件(5)及び本件乙特許発明構成要件(3)を充足したうえで使用されるのは、オレフイン重合用の触媒としてであるというが、前述のTACの用途はエチレン重合用の触媒である。そして、本件甲特許発明にいうオレフインにエチレンが含まれないことは、本件甲公報三頁左欄下から一一行目ないし下から八行目に、「重合されるオレフインは一般式RーCH=CH2を有するものである可きである。(但そのRは1〜20炭素原子、好むらくは1〜5或は6炭素原子の飽和炭化水素である。)」と記載されているところ、エチレンはH2C=CH2であつて、右のRで表わされる炭素原子を有しないものであることから明らかである。従つて、TACは原告が主張する以外の用途ないし方法において使用されるものといわなければならない。
TACがエチレン重合用のトリオルガノ錫モノハイドライドとの組合せ触媒としての用途を有することは、前掲特許出願公告昭四五ー一二八六二号特許公報の記載から明らかである。すなわち、同特許発明は、被告の製品の大手の供給先の一つである訴外三菱油化株式会社の出願に係るものであつて、右公報記載の四塩化チタンのアルミニウム還元法により製造され且つ微粉砕された三塩化チタンには、概念上TACを含めて考えられていることが明白である(同公報一頁右欄一九行目ないし二一行目参照)。
(5) 特許第五九七一〇三号方法(特許権者出光興産株式会社)(特許出願公告昭四五ー二四一五三号特許公報。乙第七号証) 右の発明は、三塩化チタン〔TiCl3(AA)〕(註、粉砕によつて活性化された3TiCl3・AlCl3)とテトラアリルジクロムの二成分からなる触媒組成物を用いてプロピレンを重合するに当たり、窒素、酸素、燐、硫黄、ハロゲン元素の一種類又はそれ以上を一分子中に含む化合物を触媒の第三成分として添加することにより、重合活性を著しく増大せしめるか、あるいは得られる重合体中のアイソタクチツク部分の含有量を増大せしめるプロピレンの重合方法に関するものである。
2 3TiCl3・AlCl3に活性化剤としてアルキルアルミニウムを使用するほか、更に第三成分を添加して触媒成分を使用する方法(1) 特許第四一三八三〇号方法(特許権者アヴイサン・コーパレイシヤン)(特許出願公告昭三八ー一一八四〇号特許公報。乙第八号証) 右方法は、粉砕して実質的に無定形となした三塩化チタン(註、その中には四塩化チタンをアルミニウムで還元して3TiCl3・AlCl3となつたものがある旨の注意書がされている。)とアルキルアルミニウムジハロゲン化物又はセスキハロゲン化物にアルコキシシラン又はアルキルジシロキサンなる第三成分を添加して錯化合物化して、新しい触媒系を得、これを使用して重合体の収率を一七五倍にも増加させ得たものである。
(2) 特許第四六一四五四号方法(特許権者チツソ株式会社)(特許出願公告昭四〇ー一六一四九号特許公報。乙第九号証) 右方法は、三塩化チタン又は3TiCl3・AlCl3あるいはこれらを粉砕して活性化したものと、アルキルアルミニウムジハロゲン化物とのほかに、第三成分として新たにアリロキシシラン類を導入して新しい触媒系を得て、オレフインの立体特異性重合を行う方法である。なお、この発明の触媒成分であるアルキルアルミニウムジハロゲン化物と遷移金属ハロゲン化物との組合せは、オレフイン系炭化水素の結晶性重合体の製造触媒としては用いられていないが、右第三成分の添加によつて、安価で完全なモノアルキルアルミニウムハロゲン化物をオレフイン系炭化水素の結晶性重合体の製造触媒として用いられるようにしたものである。
(3) 特許第五四八四八六号方法(特許権者チツソ株式会社)(特許出願公告昭四四ー四五五五号特許公報。乙第一〇号証) 右の方法は、オレフイン炭化水素を重合させて固体結晶性重合体を製造する方法において、三塩化チタン、三塩化アルミニウム固溶体(3TiCl3・AlCl3)とアルキルアルミニウムジハロゲン化物とのほかに、モノ及びポリエチレングリコールジエーテル類の中から選ばれた化合物とからなる触媒系を使用することによつて、右の第三成分を添加しない場合に比べて、プロピレンの重合速度を二〇〇倍以上とし、しかも得られる重合体の九五%以上が結晶度の高い高重合体であるようになしたものである。
(4) イソタクトプロピレンの重合において、アルミニウムジエチルクロライドとジエチレングリコールジメチルエーテルと共に触媒原料として用いる方法。
大阪地方裁判所昭和三五年(ヨ)第二六六七号仮処分申請事件の昭和三九年一二月二六日の判決(乙第一六号証参照)によれば、同事件の被申請人である新日本窒素肥料株式会社(現在のチツソ株式会社の前身)が、イソタクトポリプロピレンの重合に当たり、具体的な触媒原料として、(a)物質(「3TiCl3・AlCl3の組成を有する物質」を微磨砕し、結晶性を失つてほとんど無定形となつたもの。)、(b)物質(アルミニウムジエチルクロライド)及び(c)物質(ジエチレングリコールジメチルエーテル)の三種の物質を使用するいわゆるアビサン法を現実に実施していたことは、当事者間に争いがない事実とされている。しかも、同事件では、右三種の触媒原料のうち、(a)と(b)の三物質から生成される触媒を使用した場合と、これに第三の物質である(c)物質をも添加して触媒として用いた場合との触媒としての異同が争点とされ、結局判決では、両者は、触媒として同一でもなければ均等でもないと判断されたのである。
原告は、仮に乙第一六号証記載の製法における(a)成分としてTACが使用されるとしても、右の製法における(a)成分の使用が本件甲、乙各特許発明実施に当たらないということはできないと主張するが、(a)物質と(b)物質のほか(c)物質が添加されることによつて異なる触媒となつたことは同判決で明白にされていることである。事実今日においては、オレフイン重合用触媒としての二成分系のものと三成分系触媒との間には、触媒としての作用効果に格段の差異があることは明らかとされており、その作用効果は、第三成分が二成分触媒を変性することによつてもたらされると考えられている。すなわち、第三成分の果す作用効果について、(イ)触媒二成分間の反応によつて生成する触媒毒を第三成分が除くとか、
(ロ)第三成分が金属アルキルと錯体を形成してその活性点生成の能力を増加させるとか、(ハ)第三成分と金属アルキル間の反応により活性な成分が生成されるとか、(ニ)第三成分が三塩化チタン結晶と反応してその表面のエネルギー条件を変え、低活性の活性点を賦活したり結晶の破壊を引き起して活性点の数を増加させるとか等の解釈が個々の賦活現象に対して与えられている。一方、それらを特許文献の面から見れば、一九六七〜八年ころには主な第三成分のスクリーニングが終つて、それを実用化するうえでの問題点もほぼ解決されているといわれている(乙第二〇号証)。従つて、前述の(a)物質にTACが包含されるならば、三成分系において(a)物質として用いられるTACの用途と本件甲、乙各特許発明における用途とは異なるから、TACが本件甲、乙各特許発明の方法以外の方法において現実に工業的に用いられていたことが明らかである。何故ならば、右の三成分系触媒を用いるアビサン法は、前述の仮処分事件の係属当時、新日本窒素肥料株式会社において現実に工業的に使用され、経済的見地からも無視することのできない程度の収益を挙げていたであろうことは、右事件がイタリーの世界的に有名な化学工業株式会社であつたモンテカチーニ社から提起され、長年月にわたつて争われたという一事をもつてしても十分に推測されるところである。しかも、チツソ株式会社は、
右仮処分申請事件の第一審判決の後から被告会社製品の大手供給先の一つとなつているのであつて、TACが右判決の(a)物質と同様に使用できるものであることが明らかであるからである。
右のとおりであつて、TACの他用途について、単なる使用の可能性が存するのみで、使用しても経済的に意義が乏しいなどという原告の主張は理由がない。
なお、被告が前掲大阪地方裁判所の判決を援用したのは、それが、たまたま顧客の企業機密を害することなく利用することのできる、公けにされた資料であつたことによる。
八 特許法第101条第2号の「その発明の実施にのみ使用する物」であることを否定する事由となる他用途としては、原告の主張するように商業的ないし実用的に行われている用途に限定して解釈すべき合理的根拠はない。また、現実にその他用途に使用されている事実を必要とする理由もない。もちろん単なる仮想的、言いわけ的に主張される用途であるに過ぎないような場合は、右他用途としては十分ではないであろうが、特に現実に使用されている事実までも証明されなくとも、相当の客観性をもつて使用の可能性が証明されるときは、右の他用途の存在を肯定すべきである。
被告の主張に対する原告の反論
一 被告は、被告製品には本件甲、乙各特許発明の方法に用いる以外に他の用途が存するとし、その例を列挙する。しかし、特許法第101条第2号にいう「その発明の実施にのみ使用する物」の要件を排除するに足りる他用途における使用は、経済的使用でなければならず、単なる使用の可能性が存するだけでは右使用に該当しないものであるところ、被告が列挙する発明は、いずれも現実に実施されておらず、仮に実施が不可能でないとしても経済的見地から現実的意義がなく、経済的実施の可能性は存しないものか、また製品の製造条件、品質等について明示されておらず、本件甲、乙各特許発明における製品との同一性について疑問の存するものばかりである。
被告の、TACが乙第一六号証記載の製法中の(a)成分として使用することができるとの主張事実は知らないし、乙第一六号証記載の製法が現実に実施されている点も知らない。仮に、右製法における(a)成分としてTACが使用されるとしても、右製法における(a)成分の使用が本件甲、乙各特許発明実施に当たらないということはできない。
二 被告は、特開昭四八ー三三六五八号公開特許公報(乙第一五号証の一)に言及し、クロムイオンを含有する水に最高原子価より低原子価のチタン化合物を添加し、PH5〜10で反応させることにより該クロムイオンを水酸化クロイオンとして沈澱除去することができ、右チタン化合物としては必ずしも純粋な低原子価チタン化合物に限らず、例えばαーオレフインの重合用触媒である三塩化チタン又は三塩化チタンとアルミニウム化合物、更には第三成分を加えた組成物等が使用されるとし、αーオレフインの重合用触媒である三塩化チタン又は三塩化チタンとアルミニウム化合物にTACが該当すると主張する。しかし、右公報中に記載された「αーオレフインの重合用触媒である3塩化チタンまたは3塩化チタンとアルミニウム化合物」としては、「市販の3塩化チタン」のみが実施例として採り上げられ、その効果について述べられているに過ぎない。その他の化合物については、その効果は明らかにされていない。従つて、仮に右公報記載の事実がそのとおりであるとしても、右実施例にいう「市販の3塩化チタン」が何を指すのか明確ではない。従つて、右三塩化チタンがTACを包含するものとは直ちに解することができない。三塩化チタンは、塩化アルミニウム、金属アルミニウム等により四塩化チタンを還元して得られるのみならず、チタニウム、水素等によつて四塩化チタンを還元して得ることもでき、かかるプロセスにより得られる三塩化チタンも市販されるものであるからである。
仮に、TACが右公報記載のものに当たるとしても、TACが同公報に述べられた用途に現実に使用されているとの事例を聞かない。若し、TACが現実に右用途に使用されていないときは、TACが本件甲、乙各特許発明実施にのみ使用するものに該当しないということはできない。
仮に、TACが他用途に経済的に使用され得る可能性を現実に有するならば、本件甲、乙各特許発明実施にのみ使用する物とはいい得ないとしても、
TACが前述公報記載の用途に商業的ないし実用的に使用され得るものとはいい得ないから、TACは依然として本件甲、乙各特許発明実施にのみ使用する物に該当しないということはできない。
なお、被告は、TACが四塩化チタンを金属アルミニウムで還元して得られる生成物であることを前提として、乙第八号証を根拠にその生成物が一般に三塩化チタンと略称されていると述べているが、乙第八号証の記載は、むしろかかる生成物が「三塩化チタンと異なる物質」であることを明示するためのものなのである。
三 被告は、特許出願公告昭四五ー一二八六二号特許公報(乙第六号証)を引用し、TACがトリオルガノ錫モノハイドライドと組み合せてエチレン重合用触媒に用いられているから、TACは、本件甲、乙各特許発明実施に使用する以外の用途を有すると主張する。しかし、右公報が存するという一事をもつてTACが他用途を有するとする根拠とし得ないことは明らかである。第一に、右公報記載の触媒が現実に使用されているということを聞かない。現実に使用されていなければ、TACが本件甲、乙各特許発明実施にのみ使用される物であるとの原告の主張に何らの影響も及ぼさない。第二に、仮にTACが他用途に商業的ないし実用的に使用され得る可能性を有するとすれば、本件甲、乙各特許発明実施にのみ使用する物とはいい得ないとしても、TACが右公報に記載された用途に商業的ないし実用的に使用され得るものとは断定され得ないから、TACは依然として本件甲、乙各特許発明実施にのみ使用する物に該当しないということはできない。
四 被告は、TACはプロピレン重合方法において、アルミニウムアルキル化合物のほか、第三の物質としてのジエチレングリコールジメチルエーテルと共に優れた触媒原料として用いられるとし、大阪地方裁判所昭和三五年(ヨ)第二六六七号仮処分申請事件の判決(乙第一六号証)を引用する。しかし、被告の右主張事実はすべて争う。仮に、TACが右触媒の原料として用いられ、右触媒が現実に使用されているとしても、被告の主張は次の点において重大な過誤を犯している。すなわち、右仮処分申請事件において、被申請人が第三の物質とされるジエチレングリコールジメチルエーテルを添加することによつて一定の特殊な効果を得たとする方法は、いわゆるアビサン法の触媒原料のうち、原告の主張する(a)物質、(b)物質及び(c)物質の三種の物質を使用してイソタクトポリプロピレンを重合するものであるが、右仮処分申請事件においてこれと対比された申請人の方法は、いずれにしても、(イ)成分としてトリウムとウランを含めて周期律第四ー六A族金属のハロゲン化合物と、(ロ)成分として周期律第二又は第三族の金属、殊にその有機化合物より成る触媒を用いるものであり、その(イ)成分は、3TiCl3・AlCl3の組成を有する物質を微磨砕し結晶性を失つてほとんど無定形となつたもの、すなわちいわゆる(a)物質を含有するものではない。右(イ)成分は、三塩化チタンの単一体を含むものではあるが、それに止まり、三塩化チタン単一体と(a)物質とは全く異質なものである。この点は、前述の判決に詳細に説明されている。右のとおりであるから、申請人の方法における(ロ)成分が被申請人の方法における(b)物質と同一であるとしても、申請人の方法における(イ)成分(ロ)成分との組合せを被申請人の方法における(a)物質と(b)物質との組合せと比較したとき、既に右組合せの成分に相違があるのであるから、被申請人の触媒成分に更に(c)物質をいわゆる第三の物質として添加して申請人の方法によるものと異つた効果が得られたとしても、特にそれはいわゆる第三の物質を添加することのみによる効果ということができないことは自明である。
被告は、TACにアルミニウムアルキル化合物及び第三の物質としてジエチレングリコールメチルエーテルを加えると、右第三の物質を加えないものとは異なつた触媒が得られるということを、前掲判決で立証しようとするが、同判決には何ら被告の主張を裏付ける記載はない。同判決中の被申請人の(a)物質に、仮にTACが用いられたとしても、申請人の(イ)成分はTACとは全く無関係であるからである。
いわゆる第三の物質を加えることによる差異を論ずるためには、第三の物質以外の成分が同一でなければならないところ、前掲判決中で対比される物質においては、
第三の物質を添加する以前の成分比較において、両者は異なつているのである。従つて、仮に被申請人の触媒成分系にTACが(a)物質として用いられるからといつて、その用途が、本件甲、乙各特許発明の用途と異なるとはにわかに断ずることができない。
証拠関係(省略)
理 由一 原告が、本件甲、乙各特許権の特許権者であること、本件甲、乙各特許請求の範囲の項の記載がそれぞれ請求原因二、(一)の項及び三、(一)の項のとおりであることは当事者間に争いがない。
二 原告は、被告製品TACが本件甲、乙各特許発明実施にのみ使用する物であると主張し、被告はこれを争い、仮にTACが本件甲特許発明でいう三塩化チタニウムと塩化アルミニウムとの共結晶混合物及び本件乙特許発明でいう部分還元された共結晶した塩化チタン/塩化アルミニウム触媒成分に該当するとしても、右各発明の実施にのみ使用する物には該当しないと主張するので、以下この点について検討する。
三 成立について争いがない甲第二号証の一、二(本件甲公報)、第四号証(本件乙公報)によれば、本件甲、乙各特許発明は、それぞれ次の構成要件からなるものと認められる。
(一)本件甲特許発明(A)(1) 四塩化チタニウムを、(a)金属アルミニウム、又は、(b)金属アルミニウム及び(又は)第U族又はアルミニウム以外の第V族の金属あるいは遷移金属、例えばチタニウムと塩化アルミニウムとの混合物を用い、
(2) 約一五〇度Cないし六〇〇度Cの温度で、
(3) また、反応剤を、三塩化チタニウムと塩化アルミニウムとの共結晶混合物を生成するような割合で用いて還元し、
(B) 次いで、このハロゲン化混合物をアルミニウムアルキル化合物、例えばアルミニウムトリエチルで活性化する。
(C) オレフインの低圧重合用改良触媒の製造方法
(二) 本件乙特許発明(A) 部分還元された共結晶した塩化チタン/塩化アルミニウム触媒成分を乾式ミル粉砕し、
(B) 粉砕された触媒成分をアルミニウムアルキル成分によつて活性化することからなり、
(C) その乾式ミル粉砕工程の激烈さはスチールボールでの少なくとも一日間のボールミル粉砕の激烈さに等しいものである、
(D) オレフイン重合触媒の製法。
四 原告は、本件甲特許発明でいう三塩化チタニウム(TiCl3)塩化アルミニウム(AlCl3)との共結晶混合物とは一般式MCl3(MはAl及びTiを示す。)を有する結晶性組成物であり、AlとTiの分布が本質的にランダム(無秩序)であるものを指すが、「共結晶混合物」はまた「固溶体」といつても差し支えがなく、共結晶混合物であることはX線的研究によつても帯磁性研究によつても確認されるとし、また、本件乙特許発明でいう部分還元された共結晶した塩化チタン/塩化アルミニウム触媒成分とは、部分還元性塩化チタンと塩化アルミニウムとの共結晶したものを意味し、概念上本件甲特許発明にいう「三塩化チタニウムと塩化アルミニウムとの共結晶混合物」よりも広く、後者は前者に含まれる関係にある、
と主張するのに対し、被告は、「共結晶混合物」という用語は本件甲明細書以外には全く使用例を見ない特殊の用語であるとし、TACが三塩化チタニウムと塩化アルミニウムとの共結晶混合物であることを否認する。
ところで、TACが原告が主張するような共結晶混合物に該当するかどうかは別として、被告が商品名TACという商品を製造販売していることは当事者間に争いがなく、TACが三塩化チタニウムと塩化アルミニウムの組成物(3TiCl3・AlCl3)であることは被告の明らかに争わないところである(被告は、TACの製造販売行為が本件甲・乙各特許発明間接侵害となることを否定し、3TiCl3・AlCl3には本件甲・乙各特許発明におけるようなオレフインの重合触媒としての用途のほかに他の用途があるとしてその例を列挙し、原告の間接侵害の主張を反駁しているが、このことから被告は、TACが三塩化チタニウムと塩化アルミニウムの組成物ー3TiCl3・AlCl3ーであることは争つていないものといえることは当然である。)。
右のとおりであるから、三塩化チタニウムと塩化アルミニウムの組成物ー3TiCl3・AlCl3ーであるTACが本件甲特許発明でいう三塩化チタニウムと塩化アルミニウムとの「共結晶混合物」であるかどうか、また、本件乙特許発明でいう部分還元された共結晶した塩化チタン/塩化アルミニウム触媒成分に該当するかどうかの点についての判断はしばらくおき、次に、TACが仮にそのようなものであつたとして、TACは本件甲・乙各特許発明実施にのみ使用されるものであるといい得るかどうかについて判断する。
成立に争いがない甲第七号証の二によれば、ビユアケム・コーポレシヨンの副社長である【A】は、同人が知り得る限りポールミル粉砕された三塩化チタン・三塩化アルミニウムの唯一の商業的用途はアルミニウムアルキル化合物と共にオレフイン重合の触媒として用いることである旨供述していることが認められるが、右供述内容は後記認定の事実に照らし、これをそのまま信用することはできず、他にTACが本件甲、乙各特許発明実施にのみ使用する物であることを認めるに足りる証拠はない。かえつて、成立について争いがない乙第一五号証の一、第一七号証、第一八号証の一、証人【B】の証言により真正に成立したことが認められる乙第一八号証の二、第一九、第二一号証、証人【B】の証言を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、昭和四八年五月一一日に出願公開された出願人徳山曹達株式会社、出願日昭和四六年九月三日、発明の名称「クロムイオンを含有する水の処理方法」、とする特開昭四八ー三三六五八号の公開特許公報(乙第一五号証の一)によると、その発明の特許請求の範囲は、「クロムイオンを含有する水に最高原子価より低原子価のチタン化合物を添加し且つPH5〜10で反応させることにより該クロムイオンを除去することを特徴とするクロムイオンを含有する水の処理方法。」であり、右「発明に用いるチタン化合物としては必ずしも純粋な低原子価チタン化合物を使用する必要はな」く、「例えばαーオレフインの重合用触媒である3塩化チタン又は3塩化チタンとアルミニウム化合物」が使用される旨が記載され(同公報二六二頁右欄上段一二行目以下)、更に実施例として、「市販の3塩化チタン」を使用する例が掲げられている(二六三頁左欄下段三行目以下)。そして右発明の出願人である徳山曹達株式会社が昭和四七年六月ころから昭和四八年七月ころにかけて同会社のポリプロ工場の排水中に含有されている六価クロムイオンを除去するために、右公開特許公報記載の発明の実施として低原子価(三価)チタン化合物を実際に使用して、六価クロムの除去に極めて大きな効果を収めた。被告会社は、右公報記載の発明の実施を実験的に試み、同公報記載の実施例1に示されている「市販の3塩化チタン」をTACとしてその他は実施例どおりとして試料を作成し、その試料の分析、測定を東京都公害分析センターに依頼したところ、その結果は六価クロム化合物が処理前は四九〇PPM、処理後は定量限界以下(定量下限は〇、〇四PPM)であり、また、被告会社の依頼に基づいて前同様「市販の3塩化チタン」をTACとして、財団法人化学品検査協会が右実施例1のとおり行つた試験によれば、六価クロム溶液が処理前は四八一PPM、処理後は検出限界以下(検出限界は〇・〇四PPM)であつた。六価クロムは、クロムメツキ工場の洗浄排水のほか、クロム酸なめしをしている皮革工場の排水中等にも含まれ、また、冷却水の腐食抑制剤(インヒビーター)として使用されるためこれらブローなどで排水中に混入することが考えられるが、動物に対して毒性を示すのでその排出は厳しく規制されている。
右のように認めることができる。
被告は、右公開特許公報中でいう「αーオレフインの重合用触媒である3塩化チタン」の中には、TACのように四塩化チタンを金属アルミニウムで還元した3TiCl3・AlCl3も含まれることは、明細書を少しでも当該技術分野の知識を有するものが読めば極めて明暸に理解されるところであるとして乙第八号証を引用し、更にTACは前記公開特許公報実施例1中に記載された「市販の3塩化チタン」に相当すると主張する。しかしながら、右公開特許公報には「αーオレフインの重合用触媒である3塩化チタン又は3塩化チタンとアルミニウム化合物」と記載(前出)されていて、同じくαーオレフイン重合用触媒であつても、「3塩化チタン」と「3塩化チタンとアルミニウム化合物」とは区別されて使用されているのであるから、実施例1でいう「3塩化チタン」の中には、TACのような三塩化チタンとアルミニウム化合物であるようなものは含まれないものといわなければならない。被告挙示の乙第八号証(特許出願公告昭三八ー一一四八〇号特許公報)には、
「アルミニウム還元で製造された三塩化チタンは3TiCl3・AlCl3なるごときものと考えられるので本質的には三塩化チタンと異る物質であるが、以下簡単に述べる意味において三塩化チタンとは逐一区別して記載しないこととする。」との記載(一頁右欄二一行目ないし二六行目)があることが認められるが、これは単なる右乙第八号証の用語例であるに止まり、他に一般に3TiCl3・AlCl3が三塩化チタンの中に含まれるとの証拠はないから、TACが前記公開特許公報実施例1中の「市販の3塩化チタン」に相当するとする被告の主張は理由がない。しかし、TACがαーオレフインの重合用触媒であることは当事者間に争いがなく、
TACは前記公開特許公報(乙第一五号証の一)でいう「αーオレフイン重合用触媒である……三塩化チタンとアルミニウム化合物」であり、そのTACを右公報の実施例1でいう「市販の3塩化チタン」として使用した結果前認定のように六価クロムのイオンが除去できたのであるから、TACはまたオレフインの重合用触媒として使用し得るほかに六価クロムの除去という他の用途にも使用し得るものといわなければならない。
五 TACが四塩化チタンを金属アルミニウムで還元した3TiCl3・AlCl3であることは当事者間に争いがなく(被告はTACがそのようなものであることを主張しているー前項参照)、成立について争いがない乙第一号証、同第六号証によれば、TACのような四塩化チタンを金属アルミニウムで還元した3TiCl3・AlCl3は、本件甲・乙各特許発明におけるようなオレフインの重合用触媒として使用することのほかに芳香族化合物をアルキル化する方法における触媒としても使用することができ、また、オレフイン類の重合方法のうち、本件甲・乙各特許発明の方法以外の方法に使用することができることが認められる。
六 原告は、特許法第101条第2号にいう「その発明の実施にのみ使用する物」の要件を排除するに足りる他用途における使用は、経済的、商業的ないしは実用的な使用でなければならず、単なる使用の可能性があるだけでは足りないところ、被告製品は、本件甲、乙各特許発明の用途以外の用途には現実に使用されておらず、
他用途に使用することが不可能でないとしても、経済的、商業的ないしは実用的な実施の可能性がなく、被告製品が本件甲、乙各特許発明実施にのみ使用する物であることを否定し得ない旨主張する。しかしながら、その物がその発明の実施にのみ使用する物であることは、特許法第101条第2号の適用を求める者の側にそれを立証すべき責任が存するものと解すべきであるから、その物が客観的に使用され得る可能性があるとの反証が挙がれば、むしろその物がその発明の実施にのみ使用する物であることを主張する者の方で他用途における使用が経済的、商業的ないしは実用的な使用の可能性がないことを立証しなければならないものと解される。原告は、そのような立証をしていないから、結局は原告の主張は理由がないことになる。
七 そうすると、被告製品が本件甲、乙各特許発明実施にのみ使用する物であることを前提とする原告の本訴請求は、その余の争点について判断するまでもなく、
理由がないことに帰するので、これを棄却することとし、訴訟費用負担について民事訴訟法第89条を適用し、
主文のとおり判決する。
追加
目録四塩化チタンに金属アルミニウムを添加して摂氏約一三六度の温度で反応せしめて三塩化チタンと三塩化アルミニウムのモル比三対一の共結晶混合物を得、右生成物を振動式スチールボールミル中に投入し、不活性雰囲気中において数十時間にわたり乾式粉砕することによりオレフイン重合用触媒成分を得る方法。
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裁判官 高林克巳
裁判官 牧野利秋
裁判官 清永利亮
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