関連審決 |
審判1966-7625 |
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関連ワード | 技術的思想 / 発明の詳細な説明 / 技術的意義 / 実施 / 構成要件 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
昭和
46年
(行ケ)
91号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1975/12/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が昭和四六年五月六日同庁昭和四一年審判第七六二五号事件についてした審決を取り消す。 訴訟費用は、被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求める裁判
原告訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決を求め、被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。 |
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請求原因
原告訴訟代理人は請求の原因として次のとおり述べた。 (特許庁における手続)一 原告は名称を「自動車警報用電気結線装置」とする発明につき、昭和三八年九月七日特許出願をしたが、昭和四一年九月二七日拒絶査定を受けたので、同年一一月五日審判請求(同年審判第七六二五号事件)をしたところ、特許庁は昭和四六年五月六日その審判請求は成り立たない旨主文第一項掲記の審決をし、その謄本は同年七月一四日原告に送達された。 (発明の要旨)二 本願発明の要旨は次のとおりである。 自動車のドアーの開閉により閉開を行う主たる電気回路に、時限スイツチ、鍵等により操作する手動スイツチ、必要ならば電流の断続を行う断続リレー及び警報器を接続し、この警報器に対し、これと電源とを結ぶ短絡電気回路を設けて、この回路に、主たる電気回路の手動スイツチにより同時に操作する手動スイツチ、主たる電気回路を開閉する電磁スイツチを接続し、かつ、主たる電気回路の手動スイツチ接点と短絡電気回路の電磁スイツチとを分岐電気回路を設けたことを特徴とする自動車警報用電気結線装置。 (審決の理由)三 そして、右審決は本願明細書に特許請求の範囲として前項のような記載があることを認めたうえ、次の理由を示している。 (一) 本願明細書の発明の詳細な説明中に本願図面の第一図(本判決添付図面と同一内容)記載の符号(数字)を指して「(1)は自動車の乗降用ドアーに設けたドアースイツチで、乗降用ドアーを開放したときに閉路し、同閉鎖したときに開路するように形成する。(2)は時限スイツチで、通常開路の操作を行つてから二分位を経て閉路する。(3)は鍵をもつて開閉を行う手動スイツチで、これに対し、 接点(4)及び分岐用接点(5)を設ける。(6)は断続用(点滅用)抵抗、 (7)は警報器用リレー、(8)は警報器で、上記の順に直列に接続し、かつ、接点(4)、(5)は並設する。警報器(8)は出力線をアースしてもよい。(9)は断続(点滅)リレーで、入力線は断続抵抗(6)の次に接続し、出力線はアースする。通常断続用抵抗は電熱線であり、断続リレー(9)はバイメタルで、電熱線(6)により接触、離脱する。(10)はルームランプで、入力線はドアースイツチ(1)の次に接続し、出力線はアースする。(11)は電源である。上記をもつて主たる電気回路(イ)を構成する。」と記戴されているが、これによれば、本願発明における「主たる電気回路」は電源(11)、ドアースイツチ(1)、時限スイツチ(2)、手動スイツチ(3)、接点(4)、(5)、断続用抵抗(6)、警報器用リレー(7)、警報器(8)、断続リレー(9)及びルームランプ(10)の各回路素子が本願図面の実例のように接続されてなる回路構成を指すものと解される。 しかし、一般に自動車警報装置の技術分野においては、「主たる電気回路」の用語が必ずしも上記の回路構成それ自体と同義に使用されているばかりでなく、本願明細書の特許請求の範囲においてその主要な構成要件の一つとして「自動車のドアーの開閉により開閉を行う主たる電気回路に、時限スイツチ、鍵等により操作する手動スイツチ、必要ならば電流の断続を行う断続リレー及び警報器を接続し」と規定されているのは甚だ具体性に乏しく、漠然たる表現であつて、これによつては、 上記の回路構成を一義的に律したことにはならないから、結局、「主たる電気回路」ひいては右構成要件の技術的意義は不明であるといわなければならない。 (二) 次に、本願明細書の特許請求の範囲には、他の主要な構成要件として「警報器に対し、これと電源とを結ぶ短絡電気回路を設けて、この回路に、主たる電気回路の手動スイツチにより同時に操作する手動スイツチ、主たる電気回路を開閉する電磁スイツチを接続し」と規定され、本願明細書の発明の詳細な説明中には「(ロ)は短絡電気回路で、電源(11)あるいはドアースイツチ(1)の前に接続し、この短絡電気回路に手動スイツチ(3)により同時に操作する手動スイツチ(3a)、接点(12)及び電磁スイツチ(13)を接続する。」と説明されているが、その「短絡電気回路」は電磁スイツチ(13)を自己保持するためのものであつて、警報器(8)と電源(11)とを結ぶものではないから、右構成要件の前段は事実に反するものといわざるをえない。 (三) 要するに、少くとも、右(一)及び(二)の主要な構成要件にはそれぞれ技術的意義の確立しない「主たる電気回路」及び「短絡電気回路」が含まれているため、本願発明の要旨とする構成がその特許請求の範囲に記載されているとは認めえないから、本願発明はその明細書の記載が特許法第36条第四、五項の要件を満たさないものとしての出願を拒絶すべきものである。 (審決の取消事由)四 しかし、右審決は以下に述べるように事実の認定を誤り、そのため本願明細書が特許法第36条第四、第五項に反するとして本願を拒絶すべきものとした違法があるから、取り消されるべきである。 (一) 主たる電気回路(審決の理由(一)の点)について1 右審決は「主たる電気回路」を「電源(11)、ドアースイツチ(1)、時限スイツチ(2)、手動スイツチ(3)、接点(4)、(5)、断続用抵抗(6)、 警報器用リレー(7)、警報器(8)、断続リレー(9)及びルームランプ(10)の各回路素子が別紙図面の実例のように接続されてなる回路構成」と解しているが、右回路構成は本願発明の実施例の一つであつて、その技術的思想を包含してはいても、それ自体が「主たる電気回路」ではない(例えば、ルームランプ(10)は「主たる電気回路」の概念としては存在しない。)から、右審決のこの点の認定は誤りであり、これを立論の根拠とする右審決の判断には重大な誤りがある。 2 また、右審決中、自動車警報装置の技術分野において「主たる電気回路」という用語が必ずしも上記回路構成と同義に使用されていないとする点はその趣旨が明らかでないが、もともと右技術分野には「主たる電気回路」という特定の用語はないから、出願人が「主たる電気回路」に独自の内容を与えるのは自由であり、本願発明においては、上記回路構成について短絡電気回路及び分岐電気回路との間に基本と補助との関係があることを示す適当な用語として「主たる電気回路」が用いられ、当業者がこれを理解するのに難渋する事情はないのである。 3 次に、右審決は本願明細書の特許請求の範囲における前段部分(冒頭から「ーーーー警報器を接続し」まで)の記載を非難し、その技術的意義が不明であるとするが、右記載は「主たる電気回路」を技術思想的には抽象的方向に、しかも、本願発明固有の部分については可及的限定的に表現したものであつて、特許法の要求する技術的思想の表現として妥当なものであるから、その技術的意義が不明であるとされるいわれは全くない。 (二) 短絡電気回路(審決の理由(二)の点)について右審決は「短絡電気回路」が「要するに、電磁スイツチ(13)を自己保持するためのものであつて、警報器(8)と電源(11)とを結ぶものではない」と説示しているが、短絡電気回路(ロ)は別紙図面から明らかなように接点(12)、(14)、電磁スイツチ(13)の接続によつて電磁コイル(13a)を自己保時するとともに、接点(15)から分岐用接点(5)、手動スイツチ(3)、接点(4)を通じて主たる電気回路に接続しているから、一度主たる電気回路が閉路すれば、 警報器用リレー(7)が接続されているため、短絡電気回路から主たる電気回路に電流が流れて、警報器(8)が鳴動し、また、手動スイツチ(3)を切断することによつて、短絡電気回路と主たる電気回路とが切断されるのである。 |
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答弁
被告指定代理人は請求の原因について次のとおり述べた。 一 原告主張事実中、本願発明につき、出願から審決の成立にいたる特許庁の手続及び審決の理由に関する事実並びに本願明細の特許請求の範囲に原告主張の発明の要旨が記載されていることは認める。 二 しかし、右審決の認定ないし判断は正当であつて、右審決に原告主張のような違法はない。 その所以を以下に補説する。 (一) 主たる電気回路について1 本願発明においては、「主たる電気回路」が時限スイツチ、手動スイツチ、断続リレー、警報器等を付加的に接続するのか、それとも、これらの回路部品等を含めて構成されるのか、特許請求の範囲の記載だけは必ずしも明らかでないが、そのような場合には、一般に明細書の発明の詳細な説明を参照するのが常道とされているので、本願明細書の発明の詳細な説明中にある別紙図面のような回路構成をもつた唯一の実施例の記載を参照すると、「主たる電気回路」の実体については、右審決が解したとおりに把握されるとともに、それ以外に解しようがないのである。 2 なお、本願発明の目的を達成するには、「主たる電気回路」に接続する手動スイツチとして、例えば双投式三極手動スイツチを用い、一方の可動接触子で「主たる電気回路」に属する接点(4)と分岐電気回路に属する接点(5)とが同時に接続されるとともに、他方の可動接触子で短絡電気回路に属する接点(12)が閉じられているようになつているべきものであるのに、その特許請求の範囲には「鍵等により操作する手動スイツチ」と記載されているだけで、その構造、機能、他の構成要素との結合関係は勿論、その形式すらも明らかに規定されていない。したがつて、本願明細書の特許請求の範囲中「主たる電気回路」に関する記載はこの点だけでも具体性があるとはなしがたい。 3 本願発明の特許請求の範囲によれば、「断続リレー(9)」は必要ある場合にのみ接続されている選択的構成要素とされているが、これについても少くとも明細書の発明の詳細な説明においては実施例によつてその具体的構成、作用を断続用抵抗(6)と関連させて記載すべきであるのに、本願明細書にはさような記載がない。 (二) 短絡電気回路について1 電源(11)の正端子から「短絡電気回路」を流れる電流は「分岐電気回路」の電磁コイル(13a)を経て電源(11)の負端子に入るものであつて、「主たる電気回路」に流れることはないから、後記「短絡線」が存在することとあいまつて、原告主張のように一度「主たる電気回路」が閉路すれば警報器(8)が鳴動する作用が生じることはありえない。 2 本願発明の実施例には警報器用リレー(7)の一端子を電源(11)の正端子に直結する「短絡線」があるが、これは「主たる電気回路」の断続用抵抗(6)、 警報器用リレー(7)等の回路部分と並列され、しかも、そのインピーダンスが実質的に零であるから、手動スイツチ(3)を閉じた状態でドアースイツチ(1)が閉成されても、警報器用リレー(7)にそれを動作させるに足りる電流は流れない。また、手動スイツチ(3)によつて「主たる電気回路」に接続される「分岐電気回路」が設けてあつても、それはその結線から明らかなように、要するに、警報器用リレー(7)が動作したと仮定した状態において、断続用抵抗(6)、警報器用リレー(7)、警報器(8)等の回路と並列して電源(11)に接続されるに過ぎず、また、「短絡電気回路」を介して電磁コイル(13a)を電源に接続するものであるから、その存在が警報器用リレー(7)ひいては警報器(8)の動作を直接左右するものではないのである。 3 本願明細書中には「このようにして、一度短絡電気回路(ロ)が閉路すれば、 自動車の乗降用ドアーを閉鎖し、ドアースイツチ(1)が離脱しても、主たる電気回路(イ)は開路するが、短絡電気回路(ロ)は閉路している」云々の記載があるが、一般に、電磁スイツチないしリレーを動作させた原因が消滅した後においても、その動作によつて閉成されたそれ自体の接点を介して動作状態を持続させることを「自己保持」と呼んでいるので、本願発明における「短絡電気回路」の役割は電磁スイツチを自己保持することにほかならない。そして、その作用は本願発明の実施例の構成から明らかなように手動スイツチ(3a)の可動接触子、その接点(12)、電磁スイツチの接点(14)、(15)、その可動接触子等を介して電磁コイル(13a)を電源(11)に接続することによつて行われるのであるから、そのような回路接続の態様はいかなる意味においても、「これ(警報器)と電源とを結ぶ短絡電気回路を設け」たものとはいえない。したがつて、「短絡電気回路」は警報器と電源とを結ぶものではないとした右審決の認定に誤りはない。 |
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証拠関係(省略)
理 由一 前掲請求の原因のうち、本願発明について出願から審決の成立にいたる特許庁の手続、明細書中、特許請求範囲に記載の発明の要旨、審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。 二 そこで、本願明細書の記載が特許法第36条第四、五項の要件を欠くか否か、 ひいては右審決に違法を来すか否かを検討する。 (一) 成立に争いのない甲第三号証の五によると、本願明細書中、発明の詳細な説明には右審決の前掲理由(一)の冒頭に摘示の「主たる電気回路(イ)」に関する記載があること、しかし、右記載は本願発明実施の一例(別紙図面)における「主たる電気回路」の構成を説明したに過ぎないことが認められるから、右記載をもつて直ちに本願明細書の特許請求の範囲にいう「主たる電気回路」の構成であるとするのは早計であるばかりでなく、本願明細書の特許請求の範囲の記載の発明の要旨に徴すると、本願発明における「主たる電気回路」とはドアースイツチ(但し、右記載中「自動車のドアーの開閉により開閉を行なう主たる電気回路」という部分から、その存在が推認される。)、時限スイツチ、手動スイツチ、断続リレー及び警報器を不可欠の接続素子(但し、断続リレーは任意的なもの)として構成される電気回路を指称することが疑を容れないところであり、これによれば、その技術的意義もまた明瞭であるといわざるをえない。 したがつて、右審決が本願明細書中、前記のような実施例の回路構成をもつて、 本願発明における「主たる電気回路」の構成であると解したうえ、自動車警報装置の技術分野において用いられる「主たる電気回路」の意義と異ると説示しているのはもとより筋違いである。 そして、「主たる電気回路」なる用語は右技術分野において特定内容の回路構成の意味に使用されている資料がなく、複数の回路のうち一つを指称するに用いるのに格別の妨げがあることもないから、本願発明における「主たる電気回路」の構成がその用語のゆえに具体性を欠いていると見られるいわれはない。 なお、被告は本願発明の「主たる電気回路」については、そのうち「手動スイツチ」の詳細な規定がないから、その点だけでも具体性がない旨を主張するが、本願明細書の特許請求の範囲には、鍵等により操作すること、その操作により短絡電気回路の手動スイツチが同時に操作されること、その接点と短絡電気回路の電磁スイツチとを接続する分岐電気回路が設けられることが明記されているほか、前出甲第三号証の五によると、本願明細書には実施例について二個の手動スイツチがそれぞれ可動接触子(別紙図面の(3)、(3a))と接点(同と(4)、(5)と(12))からなる旨の記載があることが認められるので、それ以上構造、機能、結合関係、形式等の記載がなければ、右審決のいうようにその技術的意義が不明であるとすることはできない。また、被告は本願明細書に断続リレーの具体的な構成、作用の記載がないと主張するが、前出甲第三号証の五によれば、本願明細書には断続リレーの構成、作用について一応明確にされていることが認められるから、被告の右主張は当らない。 (二) 次に、本願明細書の特許請求の範囲には、「短絡電気回路」に関して「警報器に対し、これと電源とを結ぶ短絡電気回路を設けて、この回路に、主たる電気回路の手動スイツチにより同時に操作する手動スイツチ、主たる電気回路を開閉する電磁スイツチを接続し」と記載され、次いで、「主たる電気回路の手動スイツチ接点と短絡電気回路の電磁スイツチとを接続する分岐電気回路を設けた」と記載され、前出甲第三号証の五によると、本願明細書中、発明の詳細な説明に右審決の前掲理由(二)に摘示の「短絡電気回路(ロ)」に関する記載があること、なお、本願発明の実例についても、短絡電気回路は同回路上の手動スイツチ(3a)の接点、電磁スイツチ(13)の(14)、(15)を経て電磁コイル(13a)(13の一部)を自己保持するとともに、電磁スイツチ(13)の接点(15)から手動スイツチ(3)の接点(5)までの分岐電気回路を通じて主たる電気回路に接続していることが記載されていることを認めることができるから、「短絡電気回路」に流れる電流は「電磁スイツチ」を中継点とし、「分岐電気回路」を経由して「主たる電気回路」の「手動スイツチ接点」に達するから、電源を警報器に接続する結果となることが明らかであり、したがつて、右特許請求の範囲に短絡電気回路が警報器と電源とを結ぶものとして記載したのは少しも事実に反するものではないというべきである。そして、以上のような回路接続の態様をもつて警報器と電源とを結ぶものではないとする被告の主張はすべて根拠がないこととなる。 (三) それならば、結局、右審決の理由(一)、(二)における判断はいずれも誤りであることに帰着するから、右判断に基き本願明細書の記載が特許法第36条第四、五項の要件を備えないものとして本願発明の特許を拒絶すべきものとした右審決は違法であるというほかはない。 三 よつて、その違法を理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 駒田駿太郎 |
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裁判官 | 中川哲男 |
裁判官 | 橋本攻 |