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関連審決 審判1968-4281
関連ワード 容易に発明 /  上位概念 /  優先権 /  特許発明 /  交換 / 
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事件 昭和 46年 (行ケ) 30号
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1977/10/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和四五年一〇月六日同庁昭和四三年審判第四二八一号事件についてした審決を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実および理由第一 当事者の求めた裁判原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二 争いのない事実一 特許庁における手続の経緯原告は特許第四六五四九八号「ゼオライト分子ふるいの製法」(一九六〇年一月一五日アメリカ合衆国にした特許出願に基く優先権主張により昭和三六年一月一四日出願、同三八年五月一三日公告、同四一年二月一日登録)の権利者であるが、被告は原告を被請求人として昭和四三年五月二八日特許無効の審判を請求し、同庁昭和四三年審判第四二八一号事件として審理されたところ、同四五年一〇月六日、特許を無効とする旨の判決があり、その謄本は、出訴期間として三か月を附加する旨の決定とともに同年一二月二日原告に送達された。
二 本件特許発明の要旨酸化物モル比が式R2O/SiO2=aSiO2/Al2O3=bH2O/R2O=c(式中のa、bおよびcの値は、所定の結晶性ゼオライト分子ふるいの型を本質的に決定するための因子であり、Rはアルカリ金属である)で表わされる全体組成をもつ水性反応体混合物を生成させ、次にこの水性反応体混合物を摂氏二〇度から一二〇度において少なくとも二時間熟成した後、少なくとも自己発生圧力の下でかつ高めた温度で熱処理することから成り、前記のアルミニウムとけい素の酸化物の大部分は、摂氏六〇〇度から八五〇度で少なくとも一時間焼成することによつて無定形にした反応性カオリン型粘土を前記反応体混合物に含ませることによつて供給することを特徴とするゼオライト分子ふるいの製法三 審決理由の要点本件特許発明の要旨は前項のとおりである。ところで特許出願公告昭和三二年第六七一二号公報(以下「第一引用例」という。)、同昭和三二年第六七一三号公報(以下「第二引用例」という。)には、それぞれ、
「酸化物モル比が式R2O/SiO2=aSiO2/Al2O3=bH2O/R2O=c(式中のa、bおよびcの値は、所定の結晶性ゼオライト分子ふるいの型を本質的に決定するための因子であり、Rはアルカリ金属である)で表わされる全体組成をもつ水性反応体混合物を反応せしめることによつて合成ゼオライト製造すること」が記載され、また、昭和一一年八月発行、大日本窯業協会雑誌第四四集第五二四号五三二頁−五四一頁(以下「第三引用例」という。)には「カオリンを摂氏六〇〇度から八〇〇度のごとき温度で一時間以上焼成すること、ならびにかかる焼成によつてカオリンが反応性となること、さらに反応性となつたカオリンを水酸化ナトリウムおよび水と反応せしめてアルカリアミノけい酸塩またはその水和物を生成せしめること」ならびに「生成物の諸性状について進んで各種の点を究明し、しかもこの生成物すなわちXR2O,Al2O3,YSiO2,ZH2Oの形を有し沸石族化合物と同様の性状を利用しまたはその礬土含有長石型生成物としての用途についても各方面から試験研究中であるということ」が記載されている。
したがつて本件特許発明は各引用例から当事者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項に違反し、同第123条により無効としなければならない。
四 引用例の記載内容審決引用のとおりの記載内容がある。
五 本件特許発明の特徴結晶ゼオライト分子ふるいの合成製造においてその原料である水性反応体混合物を形成するアルミニウムと珪素の酸化物の大部分として、カオリン粘土を摂氏六〇〇度ないし八五〇度で少なくとも一時間焼成することにより無定形にした反応性カオリン粘土を使用することにある。
第三 争点一 原告の主張(審決取消事由)本件審決は、本件特許発明の特徴である結晶性ゼオライト分子ふるい(以下「ゼオライト分子ふるい」という。)の原料として反応性カオリン粘土を使用する点が第三引用例に示唆されているものとし、これを根拠として本件特許発明が容易に推考できるものとしている。しかしながら、第三引用例には、ゼオライト分子ふるいの製造の原料および処理条件は何ら開示されていないから、審決は判断を誤つたものであり、違法であつて取消されねばならない。
第三引用例における反応性カオリン粘土を用いて加圧水熱処理した際の生成物は、いずれも長石型生成物であり、「沸石族化合物と同様の性状を利用することについて試験研究中である」という記載も、他の記載よりすればイオン交換性の可否等について試験研究中であるというにとどまる。また、その加圧水熱処理における処理条件が本件特許発明における水性反応混合物の処理条件と相違するし、そこに示されたカオリン粘土の焼成によつては、ゼオライト分子ふるいの合成に適する反応性カオリン粘土は得られず、その合成に関係のない反応性カオリン粘土を生成している。そして、その焼成により得られた反応性カオリン粘土は、シリカとアルミナとが特殊な結合をしていて、それぞれ分離したシリカ源およびアルミナ源とは考えられず、それは反応性を有するとしても、ゼオライト分子ふるいの合成における反応性は示唆していない。結局、第三引用例には、反応性カオリン粘土を使用してゼオライト分子ふるいを作ることは示唆されていないといわねばならない。
二 被告の答弁原告の主張は失当であり、本件審決に違法はない。第三引用例には本件特許発明の特微は十分開示ないし示唆されており、これに加えて一般的なゼオライト分子ふるいの製法を示す第一、第二引用例があれば、本件特許発明は容易に推考できたものであり、審決に判断の誤りはない。
第三引用例には本件特許発明の処理条件と同様に、原料としてカオリン粘土を摂氏六〇〇度ないし八五〇度で少なくとも一時間焼成して得られた反応性カオリン粘土と水酸化アルカリおよび水の混合物を反応させることによって、ゼオライト分子ふるいの上位概念物質であるアルカリアルミノけい酸塩またはその水和物(以下「アルカリアミノけい酸塩」という。)を生成物として得たこと、および得られたアルカリアミノけい酸塩には沸石(ゼオライト)類としての性質がある旨記載されている。そして、その生成物が化学組成においてゼオライトと同様であるxR2O・Al2O3・ySiO2・zH2Oの形を有すること、および沸石族化合物と同様の性状を利用しまたその礬土含有長石型化合物としての用途についても各方面から試験研究中であるということが記載されている点にてらして、ゼオライトまたは類似化合物を得たものと認められる。
なお同引用例の前がきには生成物の一つがNa2O・Al2O3・2SiO2・nH2Oネフエリン水和物またはカーネギーサイト水和物、また他のものはK2O・Al2O3・2SiO2・nH2O、カリネフエリン水和物またはカリ霞石である旨記載されているが、これを除いてネフエリン水和物を得た旨の記載はなく、
かえつて、その前がきの中に、それらの塩基交換性、それらの用途、その他について目下研究中であると記載されていて、生成物が長石型生成物と異なり塩基交換性等の性質を有することが明かであるので、同引用例では沸石族化合物の性状を有しゼオライトと同じ化学組成を有するアルカリアルミノけい酸が得られたのであつて、長石型生成物が得られたのではないと判断するのが相当である。
そして、第三引用例には前記カオリン粘土の焼成によつて未焼成のカオリン粘土に含まれるシリカ成分とアルミナ成分との化学的結合が弛緩するので、アルカリアルミノけい酸塩の合成反応においてシリカ源およびアルミナ源として両成分の双方がいずれも反応することが記載されているから、その反応性カオリン粘土はゼオライト分子ふるいの原料物質として使用できるものである。そうしてみると、本件特許発明の特徴は第三引用例に十分開示されているものといわざるを得ない。
第四 証拠(省略)第五 裁判所の判断一 本件特許発明の特徴が、ゼオライト分子ふるいの合成製造において、その原料である水性反応体混合物を形成するアルミニウム珪素の酸化物の大部分として、カオリン粘土を摂氏六〇〇度ないし八五〇度で少なくとも一時間焼成することにより無定形にした反応性カオリン粘土を使用する点にあることは、当事者間に争いがない。
二 ところで成立に争いのない甲第五号証(第三引用例)同第二号証(本件特許公報)と同第三号証(第一引用例)、同第四号証(第二引用例)とを考えあわせると、次のように認められる。
(一) 第三引用例には、本件特許発明における反応性カオリン粘土の原料と同一物であるカオリン粘土を、本件特許発明の焼成温度をその範囲に包含する摂氏五五〇度ないし九〇〇度の温度で焼成して焼成カオリン粘土を得ること、この焼成カオリン粘土が、本件特許公報でも指摘するように同じくメタカオリンとも称せられることが記載されていることが認められる。したがつて、そこで得られた焼成カオリン粘土は本件特許発明で使用する反応性カオリン粘土と同一物質に属するということができる。
(二) しかしながら、第三引用例には、そこで得られた焼成カオリン粘土(反応性カオリン粘土)の中のシリカとアルミナとが単なる混合物ではなく、緩くはあるが特殊な結合状態にあるように考えられる旨記載されていることが認められる。したがつて、従来技術である第一、第二引用例にゼオライト分子ふるいの原料としてあげられたシリカとアルミナとの混合物とは化学的組成が異なるものと考えられる。
(三) そして第三引用例における反応性カオリン粘土を加圧水熱処理した生成物としてアルカリアルミノけい酸塩であるとの記載はあるが、具体的に示された生成物としては、すべて長石型生成物だけであることが認められる。
もつとも第三引用例には「沸石族化合物と同様の性状を利用することについて試験研究中である」との記載があり、その同様の性状とはその余の記載部分からイオン交換性をいうものと解される。しかしながら、ゼオライトが生成したことも、生成物がイオン交換性を有することも示されていないので、試験研究中という記載の趣旨を併せれば、その記載は生成物が沸石族化合物と同様な性状すなわちイオン交換性を有するかどうかを検討中であるというにとどまり、ゼオライト分子ふるいの性状を有することを示しているものとは解されない。
(四) また第三引用例における最終生成物を生成する際の加圧水熱処理における二〇気圧、摂氏二一〇度、一時間、三〇パーセントの水酸化ナトリウムまたはカリウムという処理条件は、本件特許発明における大気圧または加熱温度の水蒸気圧に当る自己発生圧力、摂氏二〇度から一二〇度などの処理条件との間に大きな隔りがある。
三 前項認定の諸事実を総合すると、第三引用例には、具体的な技術思想として、
本件特許発明の特徴であるゼオライト分子ふるい製造の原料として反応性カオリン粘土の選択・把握およびその処理条件は開示されていないものとせざるを得ない。
してみると、本件特許発明の特徴である原料の選択・処理条件が第三引用例に開示されていることを前提として本件特許発明が容易に推考できるとした審決の判断は誤つており、違法であつて取消されねばならない。
よつて、原告の請求を認容することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 古関敏正 舟本信光 石井彦壽)
事実及び理由
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