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関連審決 審判1966-3173
関連ワード 製造方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  数値限定 /  技術的意義 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 46年 (行ケ) 48号
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1977/10/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 被告が昭和四五年一〇月二七日特許庁昭和四一年審判第三一七三号事件についてした審決を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実および理由第一 当事者の申立原告は主文と同旨の判決を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二 争いのない事実一 特許庁における手続の経緯原告は、昭和三八年一一月二二日特許庁に対し、名称を「交互に異つた導電型の少くとも四個のゾーンを有する半導体装置の製造方法」とする発明につき一九六二年(昭和三七年)一一月二六日ドイツ国にした特許出願に基づき優先権を主張して特許出願をしたが、同四一年二月八日拒絶査定を受けた。そこで原告は同四一年五月一四日審判の請求をし、同年審判第三一七三号事件として審理されたが、同四五年一〇月二七日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、出訴期間として三ケ月を附加する旨の決定とともに同四六年一月九日原告に送達された。
二 本願特許請求の範囲一つの導電系の半導体基本材料より成る結晶の一つの面にガス状の活性化剤材料の拡散によつて反対導電系の少くとも二個の隣接したゾーンが発生され且つこの隣接したゾーンの少くとも一つに於て基本材料の導電系の少くとも一つの別のゾーンが拡散及び合金またはこのいづれかによつて発生されておりまた装置のPn接合はSiO2遮蔽の残りで被われているようになされた際、使用電圧で動作されるべきゾーン列の外部の両ゾーンの一つは完全に基本材料より、精々反対の導電系のその間にあるゾーンに於ける少数電荷キヤリアの拡散長に等しい最小間隔を守つて、分離され且つゾーン列の外部の両ゾーン間に精々基本材料に於ける少数電荷キヤリアの平均拡散長の五倍に等しい消失しない最小厚みを有する、基本材料より形成されたゾーンが配置されていることを特徴とする交互に異つた導電系の少くとも四個のゾーンを有する半導体装置三 審決理由の要点本願特許請求の範囲は前記のとおりである。ところで、本願明細書によると、
「ゾーン列の外部の両ゾーン間に精々基本材料に於ける少数電荷キヤリアの平均拡散長の五倍に等しい消失しない最小厚みを有する」という限定的な記載の部分は、
PnPnスイツチング装置を構成するための必要条件であると認められるにもかかわらず、発明の詳細な説明においては、実質的に何も説明されていない。さらに、
特許請求の範囲において、「ゾーン列」、「外部の両ゾーン」という語は、いずれの部分を指示するのか明らかでなく、また「使用電圧で動作されるべき、ゾーン列の外部の両ゾーンの一つは完全に基本材料より、精精反対の導電系のその間にあるゾーンに於ける少数電荷キヤリアの拡散長に等しい最小間隔を守つて分離され」という部分も、意味が不明瞭であつて、本願の発明の構成に欠くことができない事項が記載されているものとは到底認められない。
以上のとおり、本願は、明細書の記載の意味が不明瞭であつて特許法第36条第4項および第五項に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものと認める。
第三 争点一 原告の主張(審決を取消すべき事由)審決は本願の特許請求の範囲に記載されている数ケ所の字句の意味が明細書および図面を検討しても不明瞭であつて本願の発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないと認定しているが、審決の指摘している字句は、いずれも明細書および図面に照らし意味明瞭であつて疑問の余地はないから、審決の認定は誤りであり、審決は違法であるから取消さるべきである。
1 「ゾーン列の外部の両ゾーン間に精々基本材料における少数電荷キヤリアの平均拡散長の五倍に等しい消失しない最小厚みを有する」の字句について明細書第五頁一四行ないし第六頁一行に「ゾーン2及4は基礎結晶の材料と共に普通のプレーナー・トランジスタを形成し、その際ゾーン2はベースの役割、またゾーン4はエミツタの役割を引継ぐ。附加的ゾーン3によつて装置は個々のゾーン2、3及4、特にゾーン2及3の相互の間隔が十分小さい際はスイツチング及跳躍過程を発生するために部品を使用するに適した公知の電流電圧特性を有する如き四層体になる。」という説明があり、2、3、4相互間の距離が重要であることが示されている。また、明細書第四頁一一行から一四行までには「基礎材料と反対の導電型の接触しない隣接したゾーンの間隔が精々基礎材料における少数電荷キヤリアの平均拡散長の五倍に等しい如くなることを規定する。」との説明があつて、2と3の距離が大きくなり過ぎることを制限している。この数値限定は実験によつて定めたもので、これ以上の距離にすると、本願の目的であるスイツチングダイオードとしての機能が得られないのである。以上のとおり前記字句については発明の詳細な説明において十分説明がつくされている。
2 「ゾーン列」「外部の両ゾーン」という語について特許請求の範囲の記載および明細書の説明によれば、「ゾーン列」とはゾーンの列、すなわちゾーン1、2、3、4を指し、「外部の両ゾーン」とは外側に位置するnおよびpのゾーンすなわち4および3を指すことが明らかである。
3 「使用電圧で動作されるべき、ゾーン列の外部の両ゾーンの一つは完全に基本材料より、精々反対の導電系のその間にあるゾーンにおける少数電荷キヤリアの拡散長に等しい最小間隔を守つて分離され」という文句についてこの文句は分解して読めば次のようにその意味が明瞭である(括孤内は註釈)「使用電圧で動作されるべき(すなわち所定電圧を印加して動作させられる)ゾーン列の外部の両ゾーンの一つ(すなわちゾーン列の外側に位置する二つのゾーンの一つ、例えば4)は完全に基本材料より(すなわち完全に基本1―この場合n型―から)精々(すなわち最高でも)反対の導電系の(すなわちp型の)その間にあるゾーン(すなわちゾーン2)における少数電荷キヤリアの拡散長に等しい最小間隔を守つて分離され」二 被告の答弁本願の特許請求の範囲の記載が果して本願発明の要旨とする構成を示すに十分であるかどうかは、大いに疑義があり、原告の主張はとうてい容認することができない。
1 「ゾーン列の外部の両ゾーン間に精々基本材料における少数電荷キヤリアの平均拡散長の五倍に等しい消失しない最小厚みを有する」の字句について、原告が指摘する明細書四頁一一行から一四行までの説明は、そのあいまいさにおいてそれと大同小異ともいうべき別の表現に変えたに過ぎない。また少数電荷キヤリアの平均拡散長の五倍という数値がたとえ実験により定めたものとしても、実験の結果はその片鱗すら開示されておらず、さらにこの数値の臨界的意義はもちろんのこと、特にこの数値限定を採択した理論的根拠も明らかにされていない。この点を原告の指摘する明細書第五頁一四行ないし第六頁一行の説明に照らしてみても、そのあいまいさは依然として拭い去ることができず、その具体性のない漠然とした説明によつては、平均拡散長の五倍の技術的意義およびそれに基く作用効果を理解することができない。
2 「ゾーン列」「外部の両ゾーン」という語の意味が原告の主張するとおりであることは争わない。
3 「使用電圧で動作されるべき、ゾーン列の外部の両ゾーンの一つは完全に基本材料より、精々反対の導電系のその間にあるゾーンにおける少数電荷キヤリアの拡散長に等しい最小間隔を守つて分離され」という文句の意味について、原告は括弧書による註釈を付して分解して読めば明瞭であると主張するが、特許請求の範囲のらんには発明の要旨とする構成、すなわちそれを形成する必須の構成条件を過不足なく明記すべきであつて、その文言の真意を解するのに、括弧書の註釈によつてほぼそれに匹敵する字数を付加して補足しなければならないのでは、その趣旨にそわないことが明らかである。のみならず、原告の註釈を頼りに「その間にあるゾーン」が例えば第三図の実施例では「ゾーン2」を示すものと解読しても、この「ゾーン2」における「少数電荷キヤリアの拡散長に等しい最小間隔」がこの実施例においては実際にいかなる数値に相当するものなのか、全く明らかにされてはいない。
第四 証拠(省略)第五 争点に対する判断一 「ゾーン列の外部の両ゾーン間に精々基本材料における少数電荷キヤリアの平均拡散長の五倍に等しい消失しない最小厚みを有する」の字句(以下「字句A」という。)について特許請求の範囲の冒頭にある「一つの導電系の半導体基本材料により成る結晶の一つの面にガス状の活性化剤材料の拡散によつて反対導電系の少くとも二個の隣接したゾーンが発生され且つこの隣接したゾーンの少くとも一つに於て基本材料の導電系の少くとも一つの別のゾーンが拡散及び合金またはこのいずれかによつて発生されており」という記載からみて、本願発明における半導体装置の四個のゾーンは、基本材料より形成されたゾーン、ならびにこれと反対導電系の二個の隣接したゾーン、およびこの隣接したゾーンの一つにおいて拡散および合金またはこのいずれかによつて発生された基本材料の導電系の別のゾーンからなること、そして基本材料より形成されたゾーンは、これと反対導電系の二個の隣接したゾーンの間に介在することが認められる。
ところで、特許請求の範囲において、字句Aは、これに引き続いて記載されている「基本材料より形成されたゾーン」の修飾句であることは文章の構造上明らかである。そしてこの修飾句である字句Aは、前記の四個のゾーンの構成を考慮に入れると、「基本材料より形成されたゾーン」が外部の両ゾーンの間にあることを明らかにし、更に「基本材料より形成されたゾーン」の厚みを規定したものであるということができる。
そこで字句Aが明細書の発明の詳細な説明において、実質的に説明されているかどうかについて検討する。
まず、特許請求の範囲の記載および明細書の説明によれば、「ゾーン列」とはゾーンの列、すなわちゾーン1、2、3、4を指し、「外部の両ゾーン」とは外側に位置するnおよびpのゾーンすなわち4および3を指すことは、当事者間に争いがない。
次に、成立に争いのない甲第二号証によれば、明細書には「本発明による方法は第一図及び第二図に示されている如きPnPn電跳躍ダイオードの特殊な構成様式を生ずる。第一図はその際本発明による方法によつて製造された四層体の平面図また第二図は第一図の線AA′に沿つて導かれた垂直な断面を示す。
n型導電性のシリコン(二〇度Cに於ける固有抵抗約〇・一乃至一〇〇Ωm)より成る単結晶1へSiO2による公知の遮蔽技術を使用して約4μの二個のp型導電性のゾーン2及び3が拡散されている。ゾーン2へは同様にSiO2に遮蔽を適用して約3μの深さのn型導電性のゾーン4が拡散されている。」(明細書四頁一五行目から五頁六行目まで)という記載のあることおよび「ゾーン2及び4は基礎結晶の材料と共に普通のプレーナー・トランジスタを形成し、その際ゾーン2はベースの役割またゾーン4はエミツタの役割を引継ぐ。附加的ゾーン3によつて装置は、個々のゾーン2、3及び4、特にゾーン2及び3の相互の間隔が十分小さい際はスイツチング及び跳躍過程を発生するために部品を使用するに適した公知の電流電圧特性を有する如き四層体になる。」(明細書五頁一四行から六頁一行まで)という記載のあること(以下「記載a」という。)、ならびに明細書第二図には、ゾーン3、4の間にゾーン1、2が介在することが図示されていることが認められる。
これらの記載によつて、本願発明における半導体装置の四個のゾーンのうち「基本材料より形成されたゾーン」とは、明細書および第二図における基礎結晶の材料から成るゾーン1であり、これが、外部の両ゾーン3(基本材料と反対導電系)、
4(基本材料と同じ導電系)間にゾーン2(基本材料と反対導電系)と共に介在していることが明らかにされているといえる。そして記載aにおける「ゾーン2及び3の相互の間隔」とは、明細書第二図によれば、基礎結晶の材料であるゾーン1の厚みに外ならないから記載aは、基礎結晶の材料からなるゾーン1、すなわち特許請求の範囲における「基本材料より形成されたゾーン」の厚みが十分小さいことを条件の一つとして、本願発明における四個のゾーンを有する半導体装置がスイツチング及び跳躍過程を発生するために部品を使用するに適した公知の電流電圧特性を有することを説明しているということができる。更に前記甲第二号証によれば、明細書には「基本材料と反対の導電型の接触しない隣接したゾーンの間隔が精々基礎材料における少数電荷キヤリアの平均拡散長の五倍に等しい如くなることを規定する。」(明細書四頁一一行目から一四行目まで)という記載のあることが認められ、この記載によつて、「基本材料より形成されたゾーン」の厚みを具体的に規定していることが明らかである。
被告は、少数電荷キヤリアの平均拡散長の五倍という数値の臨界的意義および実験的裏付けないし理論的根拠が明細書において明らかにされていないと主張する。
前記甲第二号証によれば、明細書には「公知の如く交互に異つた導電型の四個のゾーンより成る半導体部品は、この半導体部品の電流電圧特性が特長のある降下する範囲(負の抵抗の範囲)を有するから、スイツチング若しくは跳躍過程を発生するために使用されることが出来る。」(明細書一頁八行目から一二行目まで)、という記載のあることおよび「本発明は異つた導電型の少くとも四個のゾーンを有する半導体部品を公知のプレーナー技術を使用して製造することを目的とする。その際本発明の主目標は、すべての層がよく接近可能であり且つ容易に接触可能でありまた特に異つた導電型の個々のゾーンに対応する電極が同じ面の方へ引出されていることを達成することである。」(明細書二頁一七行目から三頁三行目まで)という記載のあることが認められる。これらの記載と記載aとによれば、本願発明の特徴は、公知の四層からなる半導体装置を公知のプレーナー技術を使用して各層の電極が一方向一面上に整列するような構成にしたところにあり、その電流、電圧特性に関しては、新規性進歩性はなく、
前記の数値は単に公知の四層からなる半導体装置と同じ特性を得るためのものであることが明らかであるから、その臨界的意義が明らかでないとはいえない。そしてこのように字句Aについては、すでに明細書において、その実施をすることができる程度にその目的、効果が明らかにされている以上、少数電荷キヤリアの平均拡散長の五倍という数値について、その実験的裏付けないし理論的根拠まで明らかにすることは、特許法36条4項の要求するところではないと解される。
以上検討したところによれば、字句Aについては、明細書においてこれに対応する実質的説明がされていることが明らかであり、審決がこれに反する判断をしたのは誤りであるといわなければならない。
二 「ゾーン列」「外部の両ゾーン」という語についてこれらの語が特許請求の範囲の記載および明細書の説明によれば、原告主張のとおりの意味を有することは当事者間に争いがないから、これらの語がいずれの部分を指示するのか明らかでないとした審決の判断は誤りである。
三 「使用電圧で動作されるべき、ゾーン列の外部の両ゾーンの一つは完全に基本材料より、精々反対の導電系のその間にあるゾーンにおける少数電荷キヤリアの拡散長に等しい最小間隔を守つて分離され」という字句(以下「字句B」という。)についてさきに検討したところによれば、ゾーン列の外部の両ゾーンとは、基本材料と反対導電系のゾーン3と基本材料と同じ導電系のゾーン4であるから、字句Bにおける「ゾーン列の外部の両ゾーンの一つ」とは、ゾーン3かゾーン4のいずれかである。しかし字句Bにおいては、これは基本材料即ちゾーン1から反対導電系のゾーンを介して分離されるものであると規定されているので、明細書第二図を参照すれば、そのような条件を満たすものはゾーン4以外にはありえない。してみると字句Bでいう「ゾーン列の外部の両ゾーンの一つ」とはゾーン4を意味することになる。また明細書第二図によれば、字句Bにおける「反対の導電系のその間にあるゾーン」とはゾーン2であることが明白である。そうすると字句Bの意味は、
「所定電圧を印加して動作させられるゾーン4は、完全にゾーン1より最高でもその間にあるゾーン2における少数電荷キヤリアの拡散長に等しい最小間隔を守つて分離され」ということになり、要するに、ゾーン4とゾーン1の間隔、即ち、その間に介在するゾーン2の厚みを規定したものであることが明らかである。
被告は、仮りに字句Bがゾーン2の厚みを規定したものとしても「少数電荷キヤリアの拡散長に等しい最小間隔」が実際にいかなる数値に相当するものなのか全く明らかにされていないと主張する。しかし前記一で認定した明細書の記載aによれば、ゾーン2は、普通のプレーナー・トランジスタのベースの役割を引継ぐものと認められるから、字句Bでゾーン2の厚みとして規定する「少数電荷キヤリアの拡散長に等しい最小間隔」は、普通のプレーナー・トランジスタのベースの厚みをいうものと解することができる。
以上の検討によれば、字句Bは文章として拙劣であるがその意味は明らかであるといわなければならないから、これを不明瞭であるとした審決の判断は誤りである。
四 以上のとおり本件審決にはこれまで認定したとおりの違法があるから取消を免れない。よつて原告の本訴請求は正当であるから認容し、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 古関敏正 杉本良吉 石井彦壽)
事実及び理由
全容