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事件 |
昭和
50年
(ワ)
4876号
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 1977/10/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨(一) 被告は原告に対し金四七四万円及びこれに対する昭和五〇年一〇月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。 (二) 訴訟費用は被告の負担とする。 との判決および仮執行の宣言。 二 請求の趣旨に対する答弁 主文同旨。 |
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当事者の主張
一 請求原因(一) 本件特許権原告は次の特許権(以下、「本件特許権」という。)の権利者である。 発明の名称 水道管内面の錆止め方法及び装置特許番号 第七一四六一九号出願日 昭和四四年一月二八日出願公告 昭和四七年八月四日登録日 昭和四九年一月一八日その特許請求の範囲(ただし、方法発明に関する部分)の記載は次のとおりである。 「エアーモーターを内装したライニング機本体を適宜牽引せしめて水道管内を浮遊状態で移行させるに当り、防錆性合成樹脂液剤と硬化剤を主剤とした液剤とをライニング機本体先端に取付けた混合筒内に於て、スクリユーの回転に依り強制混合せしめた後スリツトを通し、これに関連する加速回転盤の噴出流路により水道管内面に噴出塗布させる事を特徴とした水道管内面の錆止め方法。」(二) 本件特許発明の構成要件及び作用効果 本件特件発明(ただし、方法発明に関する部分。以下同じ。)の要旨は、次の要件から構成される。 (1) エアーモーターを内装したライニング機本体を適宜牽引せしめて水道管内を浮遊状態で移行させる。 (2) 防錆性合成樹脂液剤と硬化剤を主剤とした液剤とをライニング機本体先端に取付けた混合筒内に於て、スクリユーの回転に依り強制混合せしめる。 (3) 右混合した液剤をスリツトを通し加速回転盤の内面に供給する。 (4) 加速回転盤の噴出流路から遠心力により水道管内面に噴出塗布させる。 ことを特徴とした水道管内面の錆止め方法。 しかして、本件特許発明は、右の四つの要件よりなる水道管内面錆止め方法であることにより、次のような作用効果をあげることをその目的とするものである。すなわち、 (1) 防錆性合成樹脂液剤と硬化剤の混合液を水道管内壁に塗布するものであるから、その塗膜は薄くして錆止めとしての作用は十分であり、モルタルに比し接着力が強力、かつ、透水性が少であるから、水道管内に生起する錆及びこれに伴つて附着する水垢等の発生を長期にわたり防止しうるうえ、硬化剤の働きで塗布後きわめて短時間(約二時間)で乾燥固化するため従来の如く長時間に及ぶ養生期間を全く必要とせず、したがつて、作業能率の向上に寄与することができ、また、この塗膜はモルタルに比して粗度係数が大であるから水の流通性がよい。 (2) 二液の混合は混合室内においてなされるから、作業終了後において液剤供給管A、B内の液剤を回収し使用に供することを可能とし、経済的にも優れている。 (3) スプレー方式ではなく、加速回転盤の回転により遠心作用を利用して混合液を噴出塗布させる構造であるから粘度の高い混合液を使用でき、したがつて、その塗布作業は短時間で厚く塗布することができ、また塗布層は非常に丈夫となる。 (三) 被告の方法 被告は後記(五)記載の工事を実施するについて別紙目録記載の方法(以下、 「(イ)号方法」という。)を使用したが、その要旨は次の要件から構成される。 (1) 電気モーターを内装したライニング機本体を適宜牽引して水道管内を浮遊状態で移行させる。 (2) 防錆性合成樹脂液剤と硬化剤を主剤とした液剤とをライニング機本体の後端に取付けた供給管の一部においてパイプ内にスタテイツクミキサーを装着し、このパイプを通過させることにより混合する。 (3) 右混合した液剤を右パイプに接続した供給管の先端を通し加速回転盤の内面に供給する。 (4) 加速回転盤の噴出流路から遠心力により水道管内面に噴出塗布させる。 水道管内面の錆止め方法。 (四) 本件特許発明と(イ)号方法との対比 まず、(イ)号方法の(1)の要件は本件特許発明の(1)の要件に該当する。 もつとも、モーターの回転に必要な動力源が電気であるか、エアーであるかの相違は存するけれども、それは単なる設計上の微差に過ぎない。 次に、(イ)号方法の(2)の要件と本件特許発明の(2)の要件とを対比すると、(イ)号方法においてはライニング機本体の後端に取付けた供給管の一部すなわち混合筒内においてスタテイツクミキサーにより二液を強制混合するのに対し、 本件特許発明ではライニング機本体の先端に取付けた混合筒内においてスクリユーの回転により二液を強制混合するものであるが、両者は水道管内面においてライニング機本体の混合筒内で二液を強制混合させるという同一の目的を有するのみならず、いまこれを仔細に見ても、(イ)ライニング機本体先端における混合と後端における混合との位置の相違は、これを時間的にみると数秒程度の位置差に過ぎず、 もとよりその作用効果は全く同じであるから問題にならず、(ロ)また強制混合方法の相違についても、(イ)号方法が採用したスタテイツクミキサーによる混合方法は本件特許発明の出願前から公知の技術であつたから、出願当時当業者においては、本件特許発明の採用しているスクリユーによる混合方法からスタテイツクミキサーによるそれに置換することは容易に推考することができた。したがつて、両者は均等方法である。 さらに、混合液剤を加速回転盤内に供給する点に関する(イ)号方法の(3)の要件も本件特許発明の(3)の要件にそのまま該当する。もつとも、この点をさらに具体的に説明すると(イ)号方法では混合した液剤をノズルの形状を有する供給管の先端を通して加速回転盤の内面に供給するのに対し、本件特許発明では右液剤をスリツトを通して加速回転盤の内面に供給しているので一見両者に相違があるように見えるけれども、本件特許発明におけるスリツトとは本件特許公報第2図より明らかなとおり右液剤を押し出す狭い通路、すなわち、小孔を意味するから、 (イ)号方法の供給管の先端は本件特許発明のスリツトに該当すると解すべきであり、かりにそうでないとしても右両者の相違は単なる設計上の微差又は均等方法である。 最後に、(イ)号方法の(4)の要件は本件特許発明の(4)の要件にそのまま該当する。 以上のとおりであるから、(イ)号方法と本件特許発明との相違は単なる設計上の微差又は均等方法であり、(イ)号方法は全体として本件特許発明の技術範囲に属し、それゆえ、本件特許権を侵害するものである。 (五) 原告の被つた損害 被告は第三者からの注文に応じ、(イ)昭和四九年二月から三月までの間横浜市<以下略>先から同<以下略>先まで及び同区<以下略>の五先から一七番の五先までの耐水用既設鋳鉄管(四吋口径、長さ合計一、〇七二メートル)の防錆工事と(ロ)昭和五〇年一月三〇日から同年三月一〇日までの間横浜市<以下略>先から六四六番地先までの配水管(口径一〇〇ミリ、長さ五〇三メートル)の更生工事とをそれぞれ施行するにさいし、前記(イ)号方法を使用したものであるが、そのさい本件特許権の存在を知り、したがつて、右(イ)号方法の使用が本件特許権の侵害となることを知つていた。 そして、一般に水道管等内面の防錆工事請負代金が管の長さ一メートル当り一万円ないし一万二、〇〇〇円であることを考慮すると、被告は右(イ)の工事を少なくとも一〇七〇万円で、また、右(ロ)の工事を少なくとも五一〇万円でそれぞれ請負い、右請負代金額合計一、五八〇万円の三割に相当する四七四万円の利益を得たものと思われるから、被告としては前記工事の施行により原告に対し右同額の損害を与えたものと推定される(特許法102条1項)。 (六) 結論 よって、原告は被告に対し、右損害金四七四万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五〇年一〇月一六日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 二 請求原因に対する被告の答弁(一) 請求原因(一)の事実はすべて認める。 (二) 同(二)の事実中、本件特許発明の構成要件(3)の事実は争い、その余の事実は認める。 (三) 同(三)の事実は認める。 (四) 同(四)の事実中、(イ)号方法の(1)ないし(3)の要件と本件特許発明の(1)ないし(3)の要件との間に原告主張のとおりの相違点が存すること、(イ)号方法の(4)の要件が本件特許発明の(4)の要件に該当すること及びスタテイツクミキサーによる混合方法が本件特許発明の出願前から公知であつたことは認めるが、右相違点が単なる設計上の微差又は均等方法であること等その余の主張は争う。 (五) 同(五)の事実中、被告が(イ)号方法を使用するについて故意があつたこと及び被告が原告に対し損害を与えたことは争い、その余の事実は認める。 三 被告の主張(一) エアーモーターを内装したライニング機本体を適宜牽引して水道管内を浮遊状態で移行させ、ライニング機本体の高速回転するヘツド(回転盤)から遠心力により塗料を管内壁に噴出塗装する方法(乙第一号証の二の四頁から五頁にかけて、同第二号証の二の七六頁から七七頁にかけて、および同第三号証参照)、防錆塗装材として防錆性合成樹脂液剤と硬化剤を主剤とした液剤との二液剤を利用すること(乙第二号証の二の七六頁、同第四号証参照)、二液剤をエアーモーターによるスクリユーの回転によつて強制混合してスリツトから押し出す方法(乙第五、第七号証参照)は、いずれも本件特許発明の出願前より公知であつた。 したがつて、本件特許発明の各要件はその出願前より先行技術として存在していたことに帰するから、本件特許発明は、水道管内ライニングのための防錆塗料として防錆性合成樹脂液剤と硬化剤を主剤とした液剤とを使用すること、すなわち二液速乾性樹脂による水道管内のライニング方法という課題を解決するため、右各要件を組み合わせたところにその本質があるのであつて、各構成要件自体は特段新規性を有するものではない。これを具体的に説明すると、本件特許発明は、エアーモーターを駆動させて混合筒内に設けたスクリユーを回転させ、それによつて右二液を強制的に攪拌混合し、次いで、右スクリユーの回転により右混合液を前方に送り、 混合筒に螺着した噴射筒に穿設した多数のスリツトを通じて噴射筒外に押し出し、 これを右スリツトの外周側でスクリユーと同軸同速で回転している加速回転盤の噴出流路の底部で掻き取り、加速回転盤の高速回転により生ずる遠心作用によつて多数の噴出流路から噴出飛散させるという方法を採用した点にその本質が存するものというべきものである。 したがつて、本件特許発明の請求の範囲を解釈し、発明の技術的範囲を画するさいには、組合わされた各構成要件たる方法自体は厳格にこれを理解すべきであり、 多少にかかわらず相違点を無視または容認することは許されない。換言すると、本件特許発明においては、エアモーター駆動による混合筒内のスクリユーの回転によつて二液剤を強制混合し、次いで、スクリユーの回転により混合筒と不可分に結合螺着した噴射筒のスリツトから右混合液を押し出すという方法は他の方法によつて代えることのできない必須の要件というべきである。 しかるに、(イ)号方法においては、そのうち二液混合方法一つをとつてみても、動力を用いることなく、単にパイプの中に右まわり、左まわりにねじれた短い金属片を交互に並べて挿入した構造のミキサー(スタテイツクミキサー)内を二液剤が通過することにより混合し(これを原告主張のように「強制」混合ということはできない。)、これを供給管の先端から加速回転盤の内面に供給するものであつて、本件特許発明の開示した方法と異なること明白である。 いずれにしても、被告の採用した(イ)号方法は本件特許発明の前記必須要件を具備していないから、その技術的範囲に属しないものというべきである。 (二) また、被告の採用した(イ)号方法の作用効果は次の各点において本件特許発明のそれよりも優れている。 すなわち、 (1) 本件特許発明においては二液剤混合のためのスクリユーと混合液剤四散撒布のための加速回転盤とを同一回転軸に取付けて回転させる必要があるため、ライニング機本体にトルクの大きいエアーモーターを内装することが不可欠である(狭小な配水小管のライニングの場合を考えると、大型電気モーターを使用することはできない。)のに対し、(イ)号方法においては前記のとおり二液剤混合方法としてはスタテイツクミキサーによる方法を採用しており、液剤混合のためには何ら動力を要しないので、加速回転盤回転のためだけの動力として小型電気モーターを使用すれば足りる。 その結果、一般にエアーモーターの故障等による停止は圧力計によつて発見するのであるが、その発見は困難であるのに対し、電気モーターの停止は電流計により直ちに発見できる。 また、エアーモーターが故障により停止した場合にはスクリユーの回転が停止し、二液剤は混合されないまま流出し、その事後処理がきわめて困難であるのに対し、(イ)号方法では二液剤は供給管を通過するだけで混合されるのでモーターが停止しても混合されないまま流出することはない。 さらに、本件特許発明においてはスクリユー及び加速回転盤の二個の駆動部分があるので、それだけ故障が発生しやすく、また、保守点検に手間を要する。 (2) 本件特許発明においてはスクリユーの回転が一定であるから、液剤の流量の変化に伴つて混合の効果が変化し、液剤の量が多くなると、混合が不安定不完全となり、混合能力に限界があるのに対し、(イ)号方法においては各液剤の流量の変化によつて混合の効果に影響はない。 (3) (イ)号方法においては供給管のパイプの一部がライニング機本体に近接した部分でスタテイツクミキサー(ミキサーパイプ)を形成し、同所で液剤が混合され、さらに、これに接続した供給管でライニング機本体の加速回転盤に液剤が供給されるので、ミキサーパイプに接続する供給管は混合液剤の養生通路となり、その通過中に液剤が十分に養生されるため、回転盤から塗布されたライニング層は堅牢となるのに対し、本件特許発明では右養生通路に該当するものがないので、混合液剤のライニング層は(イ)号方法に比して堅牢性に欠ける。 (4) (イ)号方法の方が本件特許発明よりも混合が完全であるばかりでなく、 液送の圧力降下が低く、かつ、安価である。以上のような点から考えても、被告の採用した(イ)号方法はとうてい本件特許発明の技術的範囲に属しないことは明らかで、本件に原告が主張するようないわゆる均等の理論を採用する余地はないものである。 四 被告の主張に対する原告の反論 本件特許発明の出願前においては、水道管内面に発生する赤錆、水垢、錆瘤等による出水不良、赤水の発生に伴う市民生活への支障の解決策としては、(イ)既設配水管を新管と布設替えする方法、(ロ)水道管内面を更生する方法(管内を清掃して錆等を除去する方法)、(ハ)水道管の内面清掃後に防錆塗装をする方法(モルタル、タール、アスフアルト等の防錆塗装材を特殊なこて、吹付機で塗る方法又は乳剤化した塗料を電気分解して電着塗装する方法)が存在したのであるが、右(イ)の方法は都市における工事の場合には長時間の断水、交通遮断が避けられないばかりでなく、莫大な費用を要すること、右(ロ)の方法は錆の発生をむしろ助長、促進し、数か月で元の状態に復してしまうこと、右(ハ)の方法は塗装材の硬化、養生日数が長期にわたり、その間仮配水管を設置する必要があり、また、タール、アスフアルトのスプレーによる塗装は塗膜が薄く、接着力が弱いうえに、硬化も不十分であるため、錆の発生を招き易いこと及びモルタル塗装はある程度厚塗をする必要があるため小口径管には適さないこと、以上の各欠点が存在した。 そこで、八時間程度の短時間の断水で水道管内面の清掃、塗装、養生を完了し、 通水できること、管内面の塗装が適当な厚さを有し、十分防錆効果があること、長期に亘り配水管の寿命を保つこと、通水量を減じないこと、七五ミリないし二〇〇ミリの小口径配水管の更生も可能であることの各条件を充足した埋設水道管内面のライニング方法が当業界の技術的課題として存在していた。 かくして、本件特許発明は特許請求の範囲に記載のとおりの方法により右課題をすべて解決したものにほかならず、被告が主張するようにその技術的範囲を画するにさいしこれを制限的に解釈しなければならないいわれは全くない。 被告は高速回転盤の遠心力により管内壁に噴出塗装するライニング方法は本件特許発明の出願前から公知であつた旨主張する(乙第一、二号証)けれども、右方法は被告が自認する如く塗装材がアスフアルト、タールエナメル、コールタール、セメントモルタル等であり、しかも一液性の材料を吹付けるものであるから、防錆性合成樹脂液剤と硬化剤の二液を水道管内面において塗布寸前に強制混合させて塗布する本件特許発明の方法とは技術思想が全く異なる。 また、右二液を塗装材として使用することは公知であつたけれども、その塗膜が薄くなめらかで接着力が強く、完全硬化時間が所要時間内であることに着目し、これを防錆剤として埋設水道管内面への塗布に使用することを可能にしたのは本件特許発明が始めてである。 もつとも、前掲乙第二号証の一、二にはパイプライニングの基材としてエポキシ系樹脂を使用することが開示されているけれども、それは塗装材としての理論上の可能性を提示したにすぎないものである。 さらに、被告は二液をスクリユーで強制混合してスリツトより押し出す方法も同様に公知であつた旨主張する(乙第五、第七号証)が、右方法に開示されている噴射はコーン噴霧であるから、粘度及び速乾性の高いエポキシ系樹脂の塗布には使用できず、本件特許発明における加速回転盤による噴射によつてはじめてそれが可能である。 結局、被告主張の公知例を斟酌しても、本件特許発明は、合成樹脂液剤と硬化剤との二液を水道管内面において塗布寸前に強制混合し、この混合液を加速回転盤より遠心力作用で水道管内面に噴出塗布する(二液型速乾性樹脂の埋設水道管内面への攪拌塗布)という点に新規性を有すると解すべきであるところ、(イ)号方法は本件特許発明の右新規部分、すなわちその本質を共通にし、前述の相違点は単なる設計上の微差又は均等方法であるから、その技術的範囲に属するものというべきである。 |
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証拠(省略)
理 由一 原告が本件特許権の権利者であること及び被告が原告主張の工事を施行するにさいし(イ)号方法を使用したことは当事者間に争いがない。 二 まず、本件特許発明の構成要件を前記特許請求の範囲の記載に基づき分説すると、次のとおりであると解される。 (一) エアーモーターを内装したライニング機本体を適宜牽引せしめて水道管内を浮遊状態で移行させる。 (二) 防錆性合成樹脂液剤と硬化剤を主剤とした液剤を用いる。 (三) 右液剤をライニング機本体先端に取付けた混合筒内に於て、スクリユーの回転に依り強制混合せしめる。 (四) 右混合した液剤をスリツトを通し加速回転盤の内面に押出す。 (五) 右混合液剤を右スリツトに関連する加速回転盤の噴出流路から遠心力により水道管内面に噴出塗布させる。 ことを特徴とした水道管内面の錆止め方法。 三 また、被告の採用実施した(イ)号方法の構成を別紙目録の記載に基づき分説すると、次のとおりであると解される。 (一) 電気モーターを内装したライニング機本体を適宜牽引して水道管内を浮遊状態で移行させる。 (二) 防錆性合成樹脂液剤と硬化剤を主剤とした液剤を用いる。 (三) 右液剤をライニング機本体の後端に取付けた供給管の一部においてパイプ内にスタテイツクミキサーを装着し、このパイプを通過させることにより混合する。 (四) 右混合した液剤を右パイプに接続した供給管の先端より加速回転盤の内面に供給する。 (五) 右混合液剤を加速回転盤の周囲に穿設した多数孔から遠心力により水道管内面に噴出塗布させる。 水道管内面の錆止め方法。 四 次に、本件特許発明の右構成要件と(イ)号方法の右構成とを対比すると、本件特許発明の構成要件(一)のうち「エアーモーターを内装した」との点は、 (イ)号方法の構成(一)の「電気モーターを内装した」との点と相違するが、その余の点は共通であること、本件特許発明の構成要件(二)は(イ)号方法の構成(二)と共通であること、本件特許発明の構成要件(三)は(イ)号方法の構成(三)と相違すること、本件特許発明の構成要件(四)は(イ)号方法の構成(四)と相違すること、本件特許発明の構成要件(五)のうち「右スリットに関連する」「噴出流路」の点は、(イ)号方法の構成(五)の「周囲に穿設した多数孔」の点と相違するが、その余の点は共通であること、以上の点が明らかである。 そこで、右各相違点について検討するに先だち、まず本件特許発明の内容につき検討する。 (一) 本件特許発明の技術思想1 本件特許公報の記載 成立に争いのない甲第一号証(本件特許公報)によると、「水道管内面の腐蝕防止及び水垢等の附着防止を目的として、錆止め用ライニングを施す事はすでに知られている。而して従来既知の方法と装置としては英国式と米国式のものに大別され前者はウインチ等の牽引力で以って管内を移行するライニング用主体の進行方向に予めモルタルを装填なし置き、ライニング用主体進行時の押出力でモルタルを押送しこれに伴いライニング用主体の外周と水道管内周とに作出される間隙にモルタルを塗着せしめるものであり、後者は圧搾空気圧力で高速回転するモーターを内装したモルタル吹付機を水道管の内部で適宜移行させると共に噴出部より噴射されるモルタルを上記の動力に依つて得る遠心力で水道管の内面に噴射塗着せしめるものである。然し乍ら双方共単にモルタルを水道管内面に塗着させるだけのものである故、錆止め作業を完了し、爾後水道管に通水を計り、使用する為には塗着モルタルの乾燥及びモルタル中に含有しているアルカリ分の除去等に三日間の所謂養生期間を必要とし、この間に於て通水用流路を別設しなくてはならず作業の迅速化を阻害すると共に経済的にも好ましからざるものである。本発明は上記の点に鑑み、錆止め効果を十二分に発揮させる事は勿論、ライニング後、速やかに通水を可能とし作業施工能率の向上を計らんとしたものであり、」(一頁左欄最下欄から一九行目ないし同右欄一二行目)と、また、「本発明の方法によれば、原告主張の作用効果(1)ないし(3)記載(ただし、同(1)記載中の粗度係数が大であるの「大」は「小」の誤記であると認める。参照「土木工学ポケツトブツク」第三版一一八頁)の作用効果をあげるものである。」旨(二頁右欄四行目から同欄二四行目まで)それぞれ記載されていることが認められる。 右記載を斟酌すると、本件特許発明は水道管内面のライニング用の防錆塗料として防錆性合成樹脂液剤と硬化剤を主剤とした液剤を使用することにより右塗料としてモルタルを使用することにより生ずる右英国式及び米国式の欠点を克服するという主たる課題を解決し、原告主張の作用効果(1)記載等の作用効果をあげるものであると認められる。 2 本件特許発明の各構成要件に関する公知例の存否(1) 成立に争いのない乙第一号証の一、二(社団法人配管技術研究会発行の「配管と装置」昭和四一年四月号)には、「モルタルを塗装機に送給し、塗装機の高速回転するヘツドから管壁に投射する。同時に塗装機は管内を移動してゆく。」方法が現地モルタルライニング工法の一つである遠心法として紹介されており(四頁左欄)、また、右工法のうち管のサイズが小さくて作業員が管内に入つて塗装機を運転できないので遠隔操縦する場合の工法を図解した同所の第3図(五頁左欄)によると、塗装機を牽引索で牽引して管内を浮遊状態で移行させる様子が窺われる。 また、成立に争いのない乙第二号証の一、二(同「配管と装置」昭和四三年八月号)にも、モーター軸に取付けたスピンナーブレード(スクリユー等の羽根のこと)でポンプによつて圧送されたモルタルを円周方向に吹きつけライニングする方法が遠心工法として紹介されている(七七頁)。 右事実によると、モーターを内装したライニング機本体を適宜牽引せしめて水道管内を浮遊状態で移行させ、右本体の加速回転盤の噴出流路より水道管内面に噴出塗布させるライニング方法(本件特許発明の構成要件(一)、(五))は本件特許発明の出願前より公知であつたことが認められる。 (2)前掲乙第二号証の一、二(七六頁)によると、本件特許発明の出願前すでにパイプライニング材の代表的なものとして、タールエポキシ、タールエナメル、ガラス、塩化ビニール、ポリマーセメント、セメントモルタルのほかに、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂が存在したことが認められる。 そして、エポキシ樹脂を液状にしたもの(エポキシ樹脂ワニス=防錆性合成樹脂液剤)を塗料として使用する場合において、 その直前にこれと硬化剤との二液を混合することは当時から当業者の間で知られていたことである(化学大辞典Vol・1九六九頁「エポキシ樹脂ワニス」)。 また、成立に争いのない乙第四号証(特許公報、発明の名称「鉄材の防蝕被膜形成方法」、公告昭和三七年五月三一日)によると、(イ)右特許発明は地下に埋没されて使用する水道鉄管、ケーブル用鉄管、ガス管等の電蝕を防止するのに最適の方法であること、(ロ)右発明による熱硬化性粘結剤として、尿素、フエノール、 メラミン、エポキシ等の合成樹脂が存すること、(ハ)尿素樹脂を使用した場合の実施例として、木材接着用尿素樹脂と硬化剤とを混合することが開示されていること、以上の各事実が認められる。 右認定事実によると、防錆性合成樹脂液剤と硬化剤とを水道管内の防錆塗装材として使用すること(本件特許発明の構成要件(二))も公知であつたものというべきである。 (3) 成立に争いのない乙第五号証(特許公報、発明の名称「二液樹脂充填塗布装置」公告昭和四二年八月二六日)によると、本剤と硬化剤との二液合成樹脂を別々に供給管1、2を介して供給し、右装置内において空気モーター6によつて混合攪拌翼(スクリユー)20を回転させて二液を強制混合する方法が開示されていることが認められる。 右に事実によると、本剤と硬化剤との二液剤を混合筒内においてエアーモーター駆動によるスクリユーの回転により強制混合する方法(本件特許発明の構成要件(三))も公知であつたと認められる。 (4) 成立に争いのない乙第三号証(実用新案公報、名称「管内自動塗装機」公告昭和三四年九月二六日)によると、登録請求の範囲を「図面に示すように回転軸筒4の連通孔6と回転軸筒4の外周に遊嵌した連絡箱5の連通孔7とを連通し、連絡箱5の塗料導入孔8に回転しない塗料送出管9を連通し、回転軸筒4の先端に連設した塗料収容回転筒10外側に取付けた数対の腕片11、11ダッシュ間に塗装ローラー12をそれぞれ横架し、塗料収容回転筒10に無数の塗料噴出孔13を各塗装ローラー12に相対して穿設し、塗料収容回転筒10の先端に着脱自在に冠蓋14を取付けた管内自動塗装機」とする実用新案が本件特許発明の出願前に公知であつたことが認められる。 そして、右公報の「実用新案の説明」の項を参照すると、右考案における塗料噴出孔とは、塗料を塗料収容回転筒内から塗装ローラーに噴射する孔を意味するものと認められる。 また、前掲乙第五号証によると、比較的広い道路5内で攪拌混合した二液を上部押出管7に圧送するために細長い道路5を使用していることが認められる。 右認定事実を総合すると、混合した二液剤をスリツトを通し加速回転盤の内面に押出すこと(本件特許発明の構成要件(四))は、本件特許発明の出願当時当業者が何らの発明的な努力を要することなく採用しうる構成であると認められる。 3 本件特許発明の特徴または本質 そこで、以上認定の本件特許公報の記載及び公知例を斟酌して本件特許発明をみると、本件特許発明は、防錆性合成樹脂液剤と硬化剤を主剤とした液剤との二液速乾性樹脂を使用した水道管内面のライニング方法という課題に対して、いずれもその出願前より公知の技術である前記の各構成要件を適切なものとして選択して組み合わせ、特許請求の範囲に記載のとおり特定し構成して、右課題を解決したところに新規性が存し、まさにそのことにより特許要件を具備するものとして特許されるにいたつたものというべきである。 そして、その組合わせた構成要件(一)ないし(五)は相互に関連を有する構成として選択されたものと考えられる。すなわち、水道管内面の止錆め用ライニング工法において従来の技術の欠点を解消するため、本件特許発明が構成要件(二)の防錆性合成樹脂液剤と硬化剤を主剤とする液剤とを用いる構成を選択したことにより、その液剤の速乾性という性質から噴出塗布の直前に二液を混合することが要請され、それにはライニング機本体に近接した、しかも噴出位置に近い場所で混合することが適切であり、そのために構成要件(三)の、ライニング機本体先端に取付けた混合筒内においてスクリユーの回転により強制混合する方法が基本的な構成として選択され、次に構成要件(三)による二液混合が円滑になされるためには二液をある時間混合筒内に滞留させることが必然的に要請され、それには混合筒から加速回転盤へ混合された液剤を送出する通路を狭くしておくことが適切であり、そのために構成要件(四)の、スリツトを通して押出す方法が選択されたものと解される。そして、さらにそのスリツトから押出された液剤を遠心力によつて効果的に噴出させるためには、スリツトに関連する個所に噴出流路が設けられていることが適切であり、そのために構成要件(五)の、スリツトに関連する加速回転盤の噴出流路からの噴出塗布という方法が選択され、さらに、かかる狭い水道管内でスクリユーの回転と加速回転盤の回転を支障なく行なうに適当な動力として構成要件(一)のエアーモーターが選択されたものと解するのが相当である。 従つて、構成要件(三)の混合方法についての選択特定は、本件特許発明の他の構成要件の選択にも密接な関連を有する基本的な選択特定であると評価されなければならない。 (二) イ号方法の技術思想 成立に争いのない乙第一一号証(米国特許第三、二八六、九九二号、特許庁資料館受入昭和四二年三月二日)によると、特許請求の範囲の1として「中空の円筒形管および該管内にその長さ全体にわたり長手方向に直列状に連なつて延びた多数の屈曲したシート様要素から成り、各要素は管の長さ全体にわたり管壁まで延びて該管を二つの分離したチヤンネルに分割しており、該要素は交互にかつ互に点接触して配列されかつ流体の方向を変えるように彎曲しており、管を横断する各要素の端縁は隣接する要素の接触する端縁に対しある角度で持つて置かれ、そして二つの上記チヤンネルの全断面積は該管の長さ全体にわたり実質上一定であることを特徴とする多数の流体を運びながら完全に混合するための用具」とする米国特許が本件特許発明の出願前に日本国内において公知であつたこと、右発明は別個の容器から押し出される二または二以上の流体混合材料を自動的に混合し、かつ、その結果得られる組成物を分配し、噴霧し又は送り出すための用具に関するものであり、例えば、合成樹脂を混合するためおよびこの生成物を所望の場所に分配しまたは送り出すのに特に有用であることが認められる。 そして、(イ)号方法がパイプ内に右まわり、左まわりにねじれた短い金属片を交互に並べて挿入した構造のいわゆるスタテイツクミキサーを使用していることは右方法記載の内容に照らして明らかであるところ、右パイプが前記米国特許における中空の円筒形管に、また、右金属片が右米国特許における屈曲したシート様要素にそれぞれ該当するものと認められるので、(イ)号方法は前記二液の混合のために前記米国特許における混合用具を使用しているものにほかならないというべきである。そこで、(イ)号方法において右のような構成(構成(三))が選択されたことが他の構成にどのように関連しているかについて検討すると、(イ)号方法がその構成(三)としてスタテイツクミキサーを混合方法として選択したことにより、スタテイツクミキサーを通過した液剤はすでに十分に混合されているからその混合した液剤を加速回転盤へ送出す通路を狭くするという本件特許発明の構成要件(四)のようなスリツトを設ける必要はなく、むしろ混合液が円滑に送出されるためには狭くすることは有害ですらあるため、単にスタテイツクミキサーに接続した供給管の先端から加速回転盤の内面に供給するとの構成(四)が選択されたのであり、またこの構成を選択したことにより本件特許発明の構成要件(五)のようにスリツトに関連する個所に噴出流路を設ける必要もなくなり、加速回転盤の周囲に多数孔を穿設するとの構成(五)が選択されたものと解される。また動力源についても、(イ)号方法の場合は、本件特許発明にはないスタテイツクミキサー内に二液を押送するための動力が別個に必要となつてはいるが、回転のための動力源としては加速回転盤の回転のためのみに十分であれば足りるので電気モーターを用いるとの構成(一)が選択されたものと解される。 (三) 侵害の有無 以上のような認定事実および判断によれば、本件特許発明の出願当時、原告が本件特許発明において選択した混合筒内でのスクリユーの回転による二液の強制混合方法と被告が(イ)号方法において採用したスタテイツクミキサーを装着した管内を通過することによる二液の混合方法とは互いに異なる混合方法としていずれも公知であつたところ、原告は、前記判示のとおり混合筒内でのスクリユーの回転による二液の強制混合という混合方法を基本的な構成として選択したことが明らかであるから、混合の技術思想としてはこれと全く異なり、従つて他の構成要件についても当然差異をもたらすようなスタテイツクミキサーによる混合方法を基本的な構成としている(イ)号方法は、本件特許発明とはその選択組合わせを異にする技術と解するのが相当であり、結局(イ)号方法は本件特許発明の技術的範囲に属しないものといわねばならない。また、以上の考察からすると、被告の(イ)号方法は全体として本件特許発明とその技術的思想を異にするものというべきであるから、その基本的構成である混合方法の相違点についてはもちろんその他の個々の相違点に関する原告主張の均等の理論も理由がないというべきである。 そうすると、被告の(イ)号方法はなんら原告の本件特許権を侵害するものではない。 五 よつて、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
目録(被告のイ号方法)(1)電気モーターを内装したライニング機本体を適宜牽引して水道管内を浮遊状態で移行させるに当り、 (2)防錆性合成樹脂液剤と硬化剤を主剤とした液剤とをライニング機本体の後端に取付けた供給管の一部においてパイプ内にスタテイツクミキサー(パイプの中に右まわり、左まわりにねじれた短い金属片を交互に並べて挿入した構造のミキサー)を装着し、このパイプを通過させることにより混合せしめた後、 (3)右パイプに接続した供給管の先端を通し、 (4)加速回転盤の周囲に穿設した多数孔より水道管内面に撤布して塗布する。 水道管内面の錆止め方法。 参考図(イ号方法の実施に使用している装置)図面の説明第一図はライニング機本体の外観図、 第二図はライニング機本体の断面図、 第三図は供給管の断面図、 第四図は供給管内に配設されたスタテイツクミキサーの斜視図、 第五図は加速回転盤の斜視図である。 各図において、 Aはライニング機本体Bは電気モーターCは加速回転盤Dは供給管EはスタテイツクミキサーFは供給管である。 イ号図面第一図(外観図)<12039-001>第二図(断面図)<12039-002>第三図(供給管断面図)<12039-003>第四図(斜視図)<12039-004>第五図(加速回転盤斜視図)<12039-005> |
裁判官 | 畑郁夫 |
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裁判官 | 小倉顕 |
裁判官 | 北山元章 |