関連審決 |
補正審判1976-30 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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昭和56行ケ82 | 判例 | 特許 |
平成15行ケ230審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
昭和41行ツ1審決取消請求 | 判例 | 特許 |
平成14行ケ617審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11行ケ376審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 先願主義 / 遡及 / 翻訳文 / パリ条約 / 優先権 / 明瞭でない記載 / 均等 / 置換 / 属地主義 / 混同 / 拒絶理由通知 / 誤記の訂正 / 請求の範囲 / 変更 / 釈明 / 要旨変更 / |
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事件 |
昭和
52年
(行ケ)
46号
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1978/06/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告のための附加期間を九〇日とする。 事実および理由第一、当事者の求めた裁判原告訴訟代理人は「特許庁が昭和五一年補正審判第三〇号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は主文一、二項同旨の判決を求めた。 第二、争いのない事実一、特許庁における手続の経緯原告は、昭和四九年二月七日特許庁に対し、名称を「電荷担体箔」とする発明につき、西暦一九七三年(昭和四八年)二月八日ドイツ連邦共和国にした二件の特許出願に基づく優先権を主張して、特許出願したが、昭和五〇年六月一六日拒絶理由通知をうけたので、同年一一月四日手続補正書を提出したところ、同年一二月一日補正却下の決定がなされた。 そこで、原告は昭和五一年六月八日補正却下の決定に対する審判を請求し、昭和五一年補正審判第三〇号として審理されたが、同年一〇月五日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、出訴期間として三ケ月を附加する旨の決定とともに同年一〇月二五日原告に送達された。 二、本願特許請求の範囲(一)、本件補正前可撓性伝導基質、該基質上の伝導中間層、該中間層は添加剤としてカーボンブラツクを含有するポリ酢酸ビニルからなる・および該中間層上に配置の非伝導セレン層・以上からなる電荷担体箔。 (二)、本件補正後可撓性導電金属箔と、当該金属箔上で添加剤としてランプ・ブラツクを含有するポリビニル・アセタールから成る中間層と、当該中間層上に配置の不導体セレン層から成る電荷担体箔。 三、審決理由の要点本件補正は、本願願書に最初に添付された明細書の記載中、電荷担体箔の中間層に使用する樹脂材料として「ポリ酢酸ビニル」を「ポリビニルアセタール」に補正しようとするものである。ところで、その明細書には、ポリビニルアセタールに関する記載はもちろん、それを示唆する記載もない。またポリビニルアセタールが、 中間層(感光板の導電性支持体とセレン層とを接着する層)に使用されることが自明な事項であるとも認められない。したがつて、本件補正は原明細書に記載された事項の範囲を越え、その要旨を変更するものといえる。なお審判請求人は、本件補正は、優先権証明書として差出したドイツ連邦共和国原出願明細書の翻訳の際、ポリビニルアセタールをポリビニルアセタート(ポリ酢酸ビニル)と誤訳したことの訂正であり、出願の対象の同一性の範囲内にあるから適法である旨主張するけれども、ドイツ連邦共和国にした特許出願は優先権の主張の基礎となるものに過ぎず、 わが国の特許出願の願書に添付された明細書でないので、採用できない。そうすると結局本件補正は却下を免れない。 四、明細書の記載と誤訳願書に最初に添付された明細書に「ポリビニルアセタール」に関する記載は何もない。ただし、審決判示のとおり、ドイツ連邦共和国に出願した際の願書には「ポリビニルアセタール」とあつたものを、本願の明細書において、「ポリ酢酸ビニル」と誤訳したものである。 五、優先権証明書の提出日優先権証明書が特許庁に提出されたのは、昭和四九年四月三日である。 第三、争点一、原告の主張(審決取消事由)審決が、いわゆる誤記の訂正もしくは明瞭でない記載の釈明の範囲を出ない本件補正につき、要旨を変更するものとして、これを却下したのは、判断を誤つたもので違法であつて取消されねばならない。 本願はドイツ連邦共和国にした特許出願に基づく優先権主張による出願であるから、願書に添付された明細書は、優先権証明書に添付された第一国であるドイツ連邦共和国出願の明細書に基づいて記載されたものであり、特許法施行規則第2条により特許出願の書面は日本語で作成されねばならないので、第一国出願明細書の翻訳文として取扱わねばならない。したがつて、外国人が出願人である場合に、その翻訳の過程に伴つて避けることのできない翻訳者の錯誤による誤訳・混同等は、明細書原文の範囲内である限り、誤記の訂正または明瞭でない記載の釈明として補正が許されなければならず、本願はすでに発明が完成されているのであるから、この補正によつて先願主義に反するものでもなく、後願者の利益を害することにもならない。これをもし要旨変更として許されないとするならば、優先権主張に基づく発明者および出願人の利益を著しく害うことになる。 ところで本件補正は、第一国出願明細書原文における「ポリビニルアセタール(polyvinyl acetal)」を、ドイツ語原文ではともに一文五字からなり、最後尾の文字が「l」と「t」と違うだけの「ポリビニルアセタート(polyvinyl acetat)」すなわち「ポリ酢酸ビニル」とした翻訳者の誤訳によつて生じた誤記を訂正しようとするものである。したがつて「ポリ酢酸ビニル」を「ポリビニルアセタール」と訂正することは、誤記の訂正または明瞭でない記載の釈明といわねばならない。 もともとポリビニルアセタールは、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られるポリビニルアルコールをアルデヒドと反応させ、その水酸基の一部分をアセタール化したものである。ポリビニルアセタールとポリ酢酸ビニルとは異なる物質ではあるが、両者の性質はかなり類似し、また用途も類似した点が多くともに接着剤、ラツカー、塗料、フイルムさらには電子記録用感光板の有機光導電材料とセレン層間の中間接着剤として使用される。したがつて、ポリ酢酸ビニルをポリビニルアセタールと補正しても、単なる材料の変換または均等物置換の場合と同じく、発明の同一性を失わず、いずれにしても本件補正は要旨の変更となるものではない。 二、被告の答弁原告の主張は否認する。本件補正は明細書の要旨を変更するものであるとして、 これを却下した審決に判断の誤りはなく、何ら違法のかどはない。 本件補正の対象となるのは、わが国に出願した願書に添付された明細書または図面である。原告がドイツ連邦共和国にした特許出願は、優先権主張の基礎となるに過ぎず、第一国出願はわが国にした特許出願でなく、第一国出願明細書ないし、その翻訳文はわが国における特許出願の明細書ではない。したがつて補正の当否は、 優先権主張に基づく出願であつても、あくまでも本願の願書に最初に添付された明細書についてみるべきである。その特許請求の範囲記載の「ポリ酢酸ビニル」の記載が、第一国出願明細書の翻訳に基づくもので、「ポリビニルアセタール」を誤訳した経緯によるものであるからといつて、本願の願書に添付した明細書における誤記とはならない。 また本願の願書に添付された明細書に記載された「ポリ酢酸ビニル」は実在する合成樹脂であつて、これ自体明細書中矛盾することのない明瞭な記載であり、ポリ酢酸ビニルと異なる物質であるポリビニルアセタールに関する記載は、当該明細書に全くないから、両者の性質、用途が類似するところがあるとしても、その間の訂正は、明瞭でない記載の釈明にも当らない。そして審決が指摘するとおり、ポリビニルアセタールが、中間層に使用されることが自明な事項であるとも認められないから、本件補正の前後において発明の同一性はなく、「ポリ酢酸ビニル」を「ポリビニルアセタール」と訂正することは明細書の要旨を変更するものであり、これが認められるとすると、「ポリビニルアセタール」を出願対象とする後願は拒絶されることになり、わが国の特許制度が採用している先願主義に反することとなる。いずれにしても原告の主張は理由がない。 第四、裁判所の判断一、本件補正の対象として考慮すべき明細書についてパリ条約は属地主義を原則とし、各国特許独立の原則に立つているから、同条約に基づく優先権主張による出願であつても、わが国における特許の成否は、国内法による出願書類によることはいうまでもなく、第一国出願の明細書は、優先権の効力すなわち出願日遡及の有無を検討する資料としての、いわゆる優先権証明書に過ぎず、それ自体ないし翻訳文がわが国特許出願における明細書としての性質もしくは効力を持つものではない。したがつて本件特許出願の願書に最初に添付された明細書に第一国出願明細書の翻訳にあたつての誤訳がふくまれた事情があつても、それ自体明細書の誤記ということはできず、この主張を論拠とするところは採用できない。 ちなみに、優先権証明書は、特許法第43条第2項によれば特許出願の日から三月以内に提出すればよいことになつており、本件出願においても、それが出願日後五十余日である昭和四九年四月三日に提出されていることは当事者間に争いがない。このことも、優先権証明書すなわち第一国出願明細書が、わが国出願の願書に最初に添付された明細書を裏付けるものでないこと、すなわち出願による発明の開示と直接関係ないことを示すものといえる。 結局、本件補正が要旨を変更するものであるかどうかは、わが国出願の願書に最初に添付された明細書のみにより、その記載した事項の範囲内であるかどうかを検討して定めなければならない。 二、要旨の変更の有無についてところで、願書に最初に添付された明細書に、ポリビニルアセタールに関する記載が何もないことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証(本件特許出願の公開公報)を精査してみても、当該明細書に「ポり酢酸ビニル」が「ポリビニルアセタール」の誤記であることをうかがわせるような記載はなく、次に認定する両者の性質の異同からみて、ポリ酢酸ビニルでは中間層として使用する樹脂材料としては発明として技術的に矛盾したり、また化学常識として、もともとポリビニルアセタールを示すものとして掲げられたものとみることはできず、もとよりその間に発明の同一性を認めることも、とうていできない。 すなわち、いずれも成立に争いのない甲第五号証(エンサイクロペデイア・オブ・ケミカル・テクノロジー)および甲第六号証(高分子辞典)ならびにポリ酢酸ビニルとポリビニルアセタールに関する原告の主張など弁論の全趣旨によれば、ポリ酢酸ビニルはポリビニルアセタールとは別に実在する樹脂であつて、ポリビニルアセタールとはともに本願発明の中間層に使用できるような性質・用途において類似するところがある反面、引張り強さおよび熱変形温度の値において互いに重複するところがないなど性質において異なるところがみられる化合物であることが認められるのである。 以上の事実を総合して検討し、さらに、電荷担体箔の中間層に使用する樹脂材料として「ポリ酢酸ビニル」を「ポリビニルアセタール」に補正しようとすることは、まさに本願特許請求の範囲の技術的事項の基本に触れることを考え合わせれば、本件補正は、出願の願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものとはいえないことが明らかであるから、要旨を変更するものといわざるをえず、 これを却下した審決の判断に誤りはない。 三、結び以上のとおり本件審決には原告主張の違法はないから、失当として棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を、上告のための附加期間につき、民事訴訟法第158条を適用して主文のとおり判決する。 (裁判官 小堀勇 舟本信光 小笠原昭夫) |
事実及び理由 | |
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全容
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