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事件 昭和 52年 (ワ) 3654号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1979/02/16
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告大阪ロイヤル株式会社は別紙目録(イ)の釘を、被告国際鋲螺株式会社は別紙目録(ロ)の釘を製作し、譲渡し、貸し渡してはならない。
2 被告両名は前項の各釘を廃棄しなければならない。
3 訴訟費用は被告両名の負担とする。
事実及び理由
申立
(原告) 主文同旨の判決と仮執行の宣言(被告ら) 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者双方の主張
(原告)一 原告は次の特許権者である。
1 出願日 昭和四七年一月二四日2 出願公告日と公告番号 昭和五一年四月三日(昭五一ー一〇四一六号)3 発明の名称 装飾化粧板の壁面接着施工法4 登録日と登録番号 昭和五二年七月二〇日(第八七〇六二七号)5 特許請求の範囲 目的の壁面その他の装飾化粧板を、接着剤を介して貼着させたる後、ゴム・合成樹脂系弾性材による柱状の圧着材を中間に備へた釘の打ち込みによつて、圧着材の拡張加圧面により、装飾化粧板の貼着全面への完全接着を行うようにしたことを特徴とする、装飾化粧板の壁面接着施工法。
二 本件特許発明構成要件およびその目的とする作用効果は次のとおりである。
(一) 本件特許発明は装飾化粧板の壁面接着施工であつて、
(イ) 目的の壁面その他に、装飾化粧板を、接着剤を介して貼着させたる後、
(ロ) ゴム・合成樹脂系弾性材による柱状の圧着材を中間に備へた釘の打ち込みによつて、
(ハ) 圧着材の拡張加圧面により、装飾化粧板の貼着全面への完全接着を行うようにしたこと、
という三要件からなつている。
(二) しかして、本件特許発明は右の三つの要件からなる壁面接着施工法であることによつて、次のような作用効果をあげることをその目的とするものである。
(イ) 従来の押へ板7を不要とし、圧着材3に刺通された釘1のみで足りる。
(ロ) 釘1の打込みに際し、圧着剤3が圧縮されて釘1を抱くことにより、あたかも釘1に指をそえたまま打込むように、打込時に釘1に曲りを生じることもなく、確実に真直ぐに打込むことが出来る。
(ハ) 圧着材3は釘1と装飾化粧板4表面間で圧迫変形して、その柱状高さの圧縮と共に拡張加圧面9が拡大して、きわめて強力に接着する。
(ニ) 右の釘1の抜取りも極めて容易であり、釘1と圧着材3は再使用も出来る。
三(一) 被告大阪ロイヤル株式会社は別紙目録(イ)の釘(イ号物件)を業として製作して、「ボンドネイル」と記載した箱に納めて販売し、貸し渡している。
(二) 被告国際鋲螺株式会社は別紙目録(ロ)の釘(ロ号物件)を業として製作して、「オサエ釘」と記載した箱に納めて販売し、貸し渡している。
(三) そして、右イ、ロ号各物件はポリエン化ビニール材により柱状圧着材Bの中間に釘@を備えたものであり、目的の壁面その他に、装飾化粧板を接着剤を介して貼着させた後、これらを打ち込むことによつて前記二(二)の作用効果を生ずるものである。
四 本件特許は方法の発明についてなされている場合であるところ、被告らのイ、
ロ号物件は本件特許発明実施にのみ使用する物であるから、被告らの前記三(一)(二)の各所為は本件特許権侵害行為とみなされる(特許法101条2号)。
イ、ロ号物件が多用万能であるという被告らの主張は認めることができない。
1 そもそも本件特許発明における「ゴム・合成樹脂系弾性材による柱状の圧着材を中間に備へた釘」は、本件特許出願前には、存在しなかつたものであり、本件特許発明にかかる方法を実施するためにのみ発明せられた物であり、従つて、他に転用することを機能上、全く考えていないものであり、また、そのようなことは経済的でもない。しかるところ、被告らのイ、ロ号物件はまさに右「合成樹脂系弾性材による柱状の圧着材を中間に備へた釘」である。
2 被告らはイ、ロ号について色々な使用法があると述べているが、まず、一般論として、物にはその物に応じた使用目的と使用方法があり、その目的と機能に合つた用法をこそ「使用」というべきである。特許法101条2号に「その発明の実施にのみ使用する物」というのも、物理的に他の用途に全く使用できない物という意味ではない。したがつて、物理的には他の用途に使用できる場合があつたとしても、その使用方法が実用的、経済的な使用でなければ、それは他の用途に使用したということはできない。換言すれば、このような場合はその発明の実施にのみ使用するものであるといわなければならない。
3 そして、以上のような観点からすると、被告らの主張する用法はいずれも実用的、経済的な使用法とはいえないものである。
まず、被告ら主張の(1)ないし(4)の用途には一般に押しピンが使用され、
(5)の用途には一般にステツプルが使用されている。ところが、イ、ロ号をこれらの用途に使うと圧着材Bの上に釘@が出た状態で使用されるから、手や衣服にひつかける危険があり、実用的でなく、またそれを使用するために金鎚等が必要であるから機能的にもよろしくない。また、これらは元来建築用に使用するものであるから大きな箱に入れて大量に販売され、値段も高いから、これを家庭用等としてカレンダー、カタログ等を貼るために購入使用することは経済的でもない。
(6)の用法は雨戸樋の取付具に補助ピンとして使用するというのであるが、この場合、補助ピンはなくてもよいものをわざわざ使用しているのであり、しかもそのピンは全く取付けの機能を果していない。また、被告らのいう補助ピン(いわゆるタツチエースの釘。検乙第二九号証)の太さは一・四二ミリメートル、長さは一六ミリメートルであるのに対しイ、ロ号物件の太さは〇・九一ミリメートル、長さは二二ミリメートルであるから右補助ピンはもともとイ、ロ号物件ではない。そして、これらの形状の相違はそれぞれの使用目的の相違からきている。すなわち、
イ、ロ号物件は壁面接着に使用するので、釘穴の跡が細いほど目立たず美しい仕上りができる。長さも二〇ミリメートル以上あるので強固な圧着が可能となつている。これに対しタツチエースの釘を壁面接着に使うと径が大きいので壁面に大きな穴があき、長さが不足するので強固な圧着ができない。
4 なお、被告ら主張にかかる原告の本件および別件特許の存在とその出願経過
および米国特許の存在は認めるが、これに基いて本件特許権の行使が内在的に制限されるとの主張は争う。
権利濫用の主張も争う。
五 よつて、原告は被告らに対しそれぞれ請求趣旨のとおりの請求をする。
(被告ら)一 原告の主張一ないし三はいずれも認める。同四は争う(ただし、その2で述べている一般論はおおむね妥当と考える。)。
二 被告らのイ、ロ号物件は多用万能であり、単に原告の本件特許方法の実施にのみ使用する物ではないから、その製造販売等を業としても何ら本件特許権の間接侵害とはならない。すなわち、
イ、ロ号物件は左記のとおり色々の用途に使用されており、かつこれらの用途はすべて実用的、経済的である。
(1) 室内装飾用(アクセサリー押え釘)(2) 衣料品雑貨の陳列用(3) カレンダー、ポスター類の押え釘(4) カーテン、敷物、のれんの押え釘(5) コードの室内配線用(6) 建築用の雨戸樋取付部材(補助ピン)(タツチエース) なお、原告は右(6)で使用する補助ピンについてその寸法について云々するが、本件特許で用いる釘の大小は特許要件になつていないからその主張は妥当を欠く。
三 本件特許の審査過程等以下に述べる点からすると本件特許権の行使には内在的な限界があると解すべきである。すなわち、本件特許要件(ロ)にいう「ゴム・合成樹脂系弾性材による柱状の圧着材を中間に備へた釘」(とりもなおさず本件イ、
ロ号物件)は本件および後記別件各特許の出願前から公知公用のものであり、当業界の慣用技術または自由技術であつたとみるべきである。
1 まず、本件特許は次に述べるとおり当初「構造の特許」として出願されていたところ、のちに「方法の特許」に変更されており、このことは(ロ)の要件の釘自体がすでに公知であつたことを示している。すなわち、本件特許は昭和四七年一月二四日「壁面へ合板等を糊接着させる場合の圧力釘」として原告から出願されたものであるが(特願昭四七ー八九二五号)、その後昭和四八年三月一二日手続補正書が提出され、その名称は「化粧合板等の壁面接着のための圧力釘」と変更されると同時に明細書及び図面も補正された。
それが昭和四八年一〇月一七日(特開昭四八ー七七二五一号)として特許出願公開された。そして、昭和五〇年一〇月一六日拒絶理由通知書に基づき手続補正書が提出され、更に「装飾化粧板の壁面接着施工法」という方法特許に変更されると共に、明細書及び図面を補正した結果、漸く昭和五一年四月三日特許出願公告昭五一ー一〇四一六号として公告され(昭和五二年三月八日特許査定)昭和五二年七月二〇日特許第八七〇六二七号として六年有余の歳月を費してかろうじて登録に至つたものである。
2 次のような特許も存在する。
(イ) 米国特許第三〇七二九一号(ロ) 同 第三〇三二七六九号(ハ) 同 第二九四四二六一号3 原告は次のような別件特許についても出願し公告されている。
(1) 出願日 昭和五一年二月一一日(2) 発明の名称 化粧合板用の仮止釘(3) 出願の種類 特許願(4) 出願番号 特願昭和五一年一四一三一号(5) 特許請求の範囲 直径1mm以下の貼釘の中間位置に紫外線透過率の高いポリ塩化ビニール、ポリエチレン又はポリプロピレン等の合成樹脂材よりなりその大きさが直径4mmー7mm、長さ4mmー7mmである弾力材を刺し留めたことを特徴とする化粧合板用仮止釘。
ところが、右特許出願の当初の明細書における特許請求の範囲は「貼釘の中間位置に紫外線の透過率の高いポリ塩化ビニール、ポリエチレン又はポリプロピレン等の合成樹脂材よりなる弾力材を刺し留めたことを特徴とする化粧合板用仮止釘」であつたところ、右仮止釘はその特許出願時(昭和五一年二月一一日)公知(昭和四八年六月三日付日刊工業新聞)又は右公知のものより当業者なら容易に発明できるもので(進歩性なし)、概括して公知の範疇に属していた。
そこで、前記(5)のとおり補正され、特に傍線を付した部分の技術要件を必須の要件として加えることによつてのみその特徴が認められ、かろうじて特許出願公告となつたものである。従つて、当初の合板用仮止釘の技術は、昭和五一年二月一一日以前は公知のものであつたとしなければならない。
そうだとすると、被告らのイ、ロ号物件の製造販売を原告の本件特許権の間接侵害であるとしてその差止を求める原告の権利行使は許されない。
四 かりにそうでないとしても原告の本件特許権の行使は権利の濫用であつて許されないものであり、その理由とするところは、前記三で明らかなとおりイ、ロ号物件はそれ自体技術として高く評価できるものは何ものも存しないものであつて、社会公共的に何人も自由に使用できるものであり、原告のような一私企業のみに独占使用を許容することは特許制度の趣旨に反するものである反面被告らは原告の権利行使により著しい損害を蒙る、という点にある。
五 以上のとおりであるから被告らはいずれにしても原告の本訴請求に応じることができない。
証拠(省略)
理 由一 原告主張の請求原因一(原告が本件特許権を有すること)、二(本件特許権の構成要件と作用効果)、三(被告大阪ロイヤルがイ号物件を、同国際鋲螺がロ号物件を各製造販売等していることおよびイ、ロ号物件の機能、用法、効果)の各事実は当事者間に争いがない。
右の事実によると、本件特許は方法の発明についてなされている場合であることおよび被告ら製造販売にかかるイ、ロ号物件はいずれも右特許の構成要件(ロ)にいう「合成樹脂系弾性材による柱状の圧着材を中間に備へた釘」に該当し、まさに本件特許方法の実施に使用する物であることが明らかである。
二 原告は、右イ、ロ号物件は本件特許発明実施にのみ使用する物であると主張し、被告らはこれを争いイ、ロ号物件の使用方法は多様である旨主張しているので、以下その当否について検討する。
1 特許法101条2号所定の間接侵害の存否に関し、当該方法特許の実施に使用する物についてはたして「他の用途」があるかどうかを決するためには次のような点が考慮されるべきである。すなわち、
まず、一般に、物にはそれが製造された目的、その物の有する機能等に由来してその物に備わつた特性に適わしい本来の用途があると考えられる。
方法特許の構成要件に組込まれた物もまさに右の意味において当該方法発明の実施に適合するものとして考えられた技術的所産であるはずである。したがつて、特許法101条2号にその物の「使用」というのも当該発明の一環としてその実施に最も適わしい本来の用法を指していると解される。
してみると、右法条号の解釈に関連して当該物の「他の用途」(他の使用法)の存否を検討するにさいしても、これと同じように、その存在を肯定するためには、
単にその物が「他の用途」に使えば使いうるといつた程度の実験的または一時的な使用の可能性があるだけでは足りないことはもちろん(身近な例として洗濯ばさみを文具用の紙ばさみに用いるが如き場合参照)、「他の用途」が商業的、経済的にも実用性ある用途として社会通念上通用し承認されうるものであり、かつ原則としてその用途が現に通用し承認されたものとして実用化されている必要があると解すべきである。
けだし、これに反し「他の用途」を前記特許法101条2号所定の「使用」と別異に広く解すると、同法条号の適用範囲を徒らに狭くし、ひいては折角のその立法趣旨を没却することになるからである。
2 これを本件についてみるに、被告らの主張する「他の用途」(被告らの主張二の(1)ないし(6)の用途)のうち、(1)ないし(5)の用途については、被告らの立証(検乙第三ないし第一一号証、第一二号証の一、二、第一八ないし第二一号証、第二五ないし第二八号証参照ーーただし、検乙第六、第一一号証で撮影されているカーペツト押さえ用に使つている釘はその釘@の頭部において本件イ号またはロ号物件と同一のものとは受けとれない。ーー)をまつまでもなく、イ、ロ号物件がこれらの用途に使つて使えなくはないことは経験則上明らかである。しかし、原告と主張立証するとおり、(1)ないし(4)の用途(室内装飾用等)には本来の物(商品)としてかねてから各種の押ピンがあり(それぞれ原告主張のものまたは写真であることに争いない検甲第三ないし第一八号証、第二三号証の一ないし一一、第二七号証の一、三、四、第二八号証の二、四、証人【A】の証言によつて原告主張のような写真であると認める同第二七号証の二、第二八号証の一、二一参照)、(5)の用途(コードの室内配線用)には同じくステツプルがあり(原告主張のものであることにつき争いない検甲第二〇、第二一号証、第二九、第三〇号証に証人【B】の証言によつて真正に成立したものと認める甲第六、第七号証および同証人の証言をあわせ参照)、これらがその用途に最も適合していることが明らかである反面、いまイ、ロ号物件をこれらの用に供するときは、柱状圧着材Bの緑色の半透明着色によつて美観を呈することはあるとしても(ただし、押しピン、ステツプルでも同様のことは可能)、圧着材のBの本来の機能である圧着作用を活用しているわけではなく、また(1)ないし(4)の用途では押しピンと異なり釘打ち作業を必要とし、かつ釘@が長いためその頭が通常出たままで不安定であり、人の手足に引つかける危険性もある点において、また(5)の用途についても以上のほか釘@がフイーダー線内部の鋼線に当ることによる危険性もある点(前掲証人【B】の証言参照)等において前記既製商品に比し機能面において全体として劣るところがあり、これを越えるものとは言い難い。すなわち、イ、ロ号物件は要するに「圧着」材を付した直径〇・九ミリメートル、長さ二二ミリメートルの「釘」であつて、被告ら主張の前記のような用途は未だ実用性ある本来の用途として承認され定着しうるものということのできないものである。のみならず、イ、ロ号物件のこれらの用法が現実に一般的に通用定着しているとも解し難い。乙第二号証の一、
二、第三ないし第九号証、前掲検乙第四ないし第一一号証、第一二号証の一、二、
第一八ないし第二一号証や証人【C】、同【D】、同【E】の各証言によると現に本件イ、ロ号各物件が散発的にこれらの用途に用いられていることも窺われないではないが、なお一般的な通用を証するものとは言い難い。もつとも、乙第一号証、
検甲第二五号証、検乙第一号証等によると、被告大阪ロイヤルにおいては昭和五一年六月七日の業界誌「電線新聞」にイ号物件の広告をし、同物件を「万能かり止めくぎ」と謳い、「電線、TVアンテナコードの屋内配線用として従来のステーブルにかわる!」としてその販売代理店を募集しているほか、イ号物件の包装箱にも「合板、ボードの仮止め用」のほか「室内装飾用」等被告ら主張の用途を列記し「万能釘」であると謳つていることが認められるけれども、右の事実だけで前示のような用法の実態自体に関する判断を左右することはできない。かえつて、前記各証拠や検甲第二六号証等によつても、イ、ロ号物件はたとえば一箱二、〇〇〇本入とか一、五〇〇本入となつて、その量の点で被告ら主張のような主として家庭用または商店陳列用の用途としては適しくなく、かえつて本件特許方法実施のために適わしい大量販売を目論んでいるように思われる。また、証人【F】、同【G】の証言によると、原告側の商品「かり釘」においては被告ら主張のような用途には一向売り捌けず、専ら建築金物問屋を介して本件特許方法実施のために大量に売却されていることも認められる。
次に被告ら主張の(6)の用途(雨戸樋の取付具の補助ピンとしての用法)についても、それぞれ原告と被告ら主張のようなものであることにつき争いない検甲第三一号証、検乙第二九号証、証人【H】の証言によつて真正に成立したと認める乙第一二、第一三号証に同証人の証言を総合すると、右補助ピンなるものは本訴提起後である昭和五三年九月ごろ雨戸樋保持具の卸販売を業とする株式会社山本興業が右保持具の取付けにさいし補助ピンを使うことを考え、被告国際鋲螺に特別に注文加工を依頼したというのであつて、本件イ号はもとよりロ号物件とも異なるものであることが認められる(補助ピンの釘は太さ一・四ミリメートル、長さ一六ミリメートルであるのに対し具体的なイ、ロ号物件の釘@は太さ〇・九ミリメートル、長さ二二ミリメートルである。)から、右補助ピンの用法をもつて本件イ、ロ号物件の「別の用途」であるとすることはその前提においてすでに失当である。
3 他に本件イ、ロ号物件の「他の用途」が存するとの主張立証はない。
そうすると、被告らのイ、ロ号物件は原告の本件方法特許発明実施にのみ使用する物というべきである。
三 そこで次に被告らの三および四の主張(原告の本件特許権行使の制限および権利濫用の主張)について検討する。
原告の本件特許および別件特許の存在およびその出願経過が被告ら主張のとおりであることは原告も自認するところである。そして右事実関係および成立に争いない乙第一四号証の三によると昭和四八年六月三日の時点において「化粧合板用仮止めくぎ」として釘の頭に弾力材をかませたものが他社から発売されている旨業界新聞に報道されていることが認められる。しかし、右の時点は本件特許が出願され、
すでに原告によつて同一のものが提案された後であることが明らかであるから(出願日昭和四七年一月二四日)、前記のような物の存在のゆえに本件特許権の行使が何らかの意味で制約されなければならない合理的理由は見出し難い(このことは本件特許が被告ら主張のような数次の手続補正を経ていることや別件特許の出願経過によつても左右されるところはない。)。
そうすると被告らの三の主張は失当であり、また主としてこれと同一の事実関係に依拠して主張する四の主張も失当で、その他、本件に顕出された全証拠によつても他にこれらの主張を肯認するに足る証拠はない。
四 よつて、原告の被告らに対する請求を認容し、仮執行宣言の申立についてはこれを付するのは相当でないからこれを却下し、訴訟費用の負担につき民訴法89条93条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 畑郁夫
裁判官 中田忠男
裁判官 小圷眞史