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事件 昭和 53年 (ワ) 9231号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1980/04/23
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告1 被告は、別紙物件目録(一)記載のセメント瓦成型機を製造し、譲渡し、又は譲渡若しくは貸渡のため展示してはならない。
2 被告は、別紙物件目録(一)記載のセメント瓦成型機及びその半製品(成型工程を完了するも組立工程を完了するに至らないもの)を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金一五〇〇万円及びこれに対する昭和五三年一〇月三日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに第3項につき仮執行宣言二 被告 主文同旨の判決
当事者の主張
一 原告の請求の原因1 原告は次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有する。
発明の名称 「セメント生瓦受取装置」出願日 昭和四八年二月七日出願公告の日 昭和五二年七月一三日登録日 昭和五三年二月二五日特許番号 第八九八四三二号2 本件発明の特許出願の願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「下面をセメント瓦成型用上型と同形に形成し多数の小孔を穿設した中空の吸引器を昇降自在に設け、且つ該吸引器内を真空源および大気に通じさせる切換弁を設け、該吸引器がセメント瓦成型機の下型から吸着した生瓦を受板上に接近させ受板と生瓦との間に緩衝作用を行なう空気層を介在させた状態に於て該生瓦を受板上に落下させるように切換弁を動作させることを特徴とする生瓦受取装置。」(別添公報参照)3(一) 本件発明を構成要件に分説すれば次のとおりである。
A 下面をセメント瓦成型用上型と同形に形成し、多数の小孔を穿設した中空の吸引器を昇降自在に設ける。
B かつ該吸引器内を真空源及び大気に通じさせる切換弁を設ける。
C 該吸引器がセメント瓦成型機の下型から吸着した生瓦を受板上に接近させ受板と生瓦との間に緩衝作用を行う空気層を介在させた状態において、
D 該生瓦を受板上に落下させるように切換弁を動作させる。
E 以上を特徴とする生瓦受取装置。
(二) 本件発明の作用効果は次のとおりである。
本件発明は、空気の緩衝作用を利用して、受板上への生瓦載置をゆるやかに行うもので、生瓦のひび割れ、表面の損傷等の危険を少なくして、これを受板上に載置することができるようにした生瓦受取装置である。
4 被告の製造、販売するセメント瓦成型機(以下、「被告製品」という。)は別紙物件目録(一)記載のとおりである。
5 被告製品の構造を区分説明すれば次のとおりである。
a 多数の小孔を穿設した中空のセメント瓦成型用上型と兼用の吸引器を、ラム2により昇降自在に設ける。
b かつ該吸引器内を真空源及び大気に通じさせる切換弁を設ける。
c 該吸引器がセメント瓦成型機の下型から吸着した生瓦を受板上に接近させ受板と生瓦との間に緩衝作用を行う空気層を介在させた状態に於て、
d 該生瓦を受板上に落下させるように切換弁を動作させる。
e 以上を特徴とする生瓦受取装置を備えたセメント瓦成型機。
6 被告製品は以上の構造により本件発明の生瓦受取装置と同一の作用効果をあげるものである。
7 本件発明と被告製品とを対比すると次のとおりである。
(一) 本件発明の構成要件と被告製品の構造とを対比すれば次のとおりである。
(1) 構成要件Aについて 本件発明の構成要件Aは、成型用上型と吸引器とを別個に設けるものであるのに対し、被告製品は、成型用上型と吸引器とを兼用とするものであり、その点において両者は相違するが、もともとセメント成型機におけるモルタル成型と生瓦取出しとは連続的ではあるが、時を異にして行われる動作であるから、前述の本件発明の作用効果に照らして考えれば、成型用上型と吸引器が別個でなければならない理由はない。そして、プレス成型時にはプレス用上型であり、生瓦取出し時には吸引器として作用する被告製品の吸引器は、その下面が成型上型と同形であることの範疇に入ること、また、右吸引器が多数の小孔を穿設した中空のものであること及びそれが昇降自在のものであることは明らかであるから、被告製品の構造aは本件発明の構成要件Aを充足するというべきである。
(2) 構成要件BないしEについて 被告製品の構造bないしeは、それぞれ本件発明の構成要件BないしEと同一である。
(二) 結局、被告製品は本件発明の構成要件のすべてを備え、その作用効果も前記のとおり本件発明のそれと同一である。
(三) 以上のとおりであるから被告製品は、本件発明の技術的範囲に属する。
8 被告は、昭和五〇年四月ごろから業として被告製品を真空高速成型全自動プレスM・S・P―三二〇〇型及びM・S・P―三二〇〇Y型名下に製造し、譲渡し、
又は譲渡若しくは貸渡のために展示し、現に本件特許権を侵害している。
9 被告は、被告製品の製造販売が本件特許権を侵害することを知り、又は過失によりこれを知らないで、昭和五〇年四月ごろ以降被告製品を製造販売し、本件出願公告の日である昭和五二年七月一三日から昭和五三年八月末日ごろまでの間の被告製品の製造販売台数は少なくとも二六台で、その本体の販売価格は一台当たり金六〇〇万円を下らないから、その合計価格は金一億五六〇〇万円と算出され、少なくともその一〇パーセントに当たる金一五六〇万円の純利益を得たものであり、原告は被告の右侵害行為によつて右純利益の額と同額の営業上の損害を被つたものと推定されるべきであるから、被告は原告の右損害を賠償する義務がある。
10 よつて、原告は被告に対し、被告製品の製造、譲渡及び譲渡若しくは貸渡のための展示の差止めを求めるとともに、前記損害金一五六〇万円の内金一五〇〇万円及びこれに対する前記侵害行為の後である昭和五三年一〇月三日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する被告の認否1 請求の原因1及び2は認める。
2 同3ないし7は争う。
3 同8のうち、被告が、真空高速成型全自動プレスM・S・P―三二〇〇型及びM・S・Pー三二〇〇Y型のセメント瓦成型機を製造、販売していることは認め、
その余は争う(なお、被告製品は別紙物件目録(二)記載のとおり表示されるべきである。)。
4 同9は争う。
三 被告の主張1 本件発明の技術的範囲 本件発明は、下型の上に水切鉄板と水切布を置き、水切布上にモルタルを載せて上型を下降させて圧搾成型し、モルタルの水分は下型から搾り出す、いわゆる「自然重力下型脱水」式のセメント瓦成型技術に関するものであつて、
(A)1 セメント瓦成型用上型とは別個に、
(A)2 下面をセメント瓦成型用上型と同形に形成し多数の小孔を穿設した中空の吸引器を昇降自在に設け、
(B) 該吸引器内を真空源及び大気に通じさせる切換弁を設け吸引器内を真空源に通じさせて器内を真空として生瓦を吸着し、
(C)1 該吸引器がセメント瓦成型機の下型から生瓦を吸着して上昇し、次いで受板上位置で降下し、吸着した生瓦を受板上に接近させ、
(C)2 受板と生瓦との間に緩衝作用を行う空気層を介在させた状態において、
(D)1 切換弁を切換え、吸引器内を大気に通じさせて、
(D)2 該生瓦を受板上に落下させるように切換弁を動作させる(E) ことを特徴とする生瓦受取装置をその技術的範囲とするものである。
2 ところで、本件発明の前記1の構成要件のうち、(C)2の「受板と生瓦との間に緩衝作用を行う空気層を介在させた状態において」生瓦を受板上に落下させるという構成を除き、その余の構成はすべて次に述べるように本件特許出願前公知となつている。
すなわち、本件発明の生瓦受取装置の対象となつているプレス成型セメント瓦は、セメント砂(硬質細骨材)を混和し、加圧成型してなるもので日本工業規格(JIS規格)でいう「厚型スレート」に属する。ところで、この厚型スレートは、古くから製造され、使用されている建築材料であつて、昭和二八年JIS規格が制定され、原料、製造法、形状寸法、品質、試験方法が定められ(乙第一号証、
一頁ないし五頁参照)、この製造に使用するプレス成型装置も数多く開発されている。
次に、特許公報昭二八―四六二八「波形繊維セメント板製造方法」(乙第二号証参照)には、セメント系屋根葺材料である波形繊維セメント板を波形の型表面を有する上型(要材33’)下型(要材33)の間で成型する技術(乙第二号証一頁左欄一八行ないし二一行、同第四図参照)、この上型と別に、下面を成形用上型と同一に形成した吸引器(吸引揚卸機49)を昇降自在に設け(同第二図)、該吸引器が成形機の下型(33)から成型された板石(26)を吸着して上昇運搬し(同公報第二図の軌条a上の運搬車31の位置から軌条c上の運搬車50の位置に運ぶ。
同公報一頁右欄三四行ないし二頁左欄三行参照)、運ばれた板石は運搬車56上に置かれている受板(石板間に挿入する波形の型)上に置く技術が記載されている。
更に、特許公報昭三九―一二六四八「平いらなアスベストセメントの薄板を山付き薄板へ変形する装置」(乙第三号証参照)には、山付きに成型されたアスベストセメント薄板を取上げる装置についての説明があり、本件発明の吸引器と同じ下面に多数の小孔を穿設した中空の吸引器(中空ケーシング)を設け、この吸引器の内部を吸込ポンプに連結して真空とし、成型されたアスベストセメント薄板を吸着して下部の成型機から持上げる取上装置の技術が記載されている(同公報三頁右欄、
九行ないし二八行、同第六図参照)。
本件発明における装置の各構成要素は、前記両特許公報(乙第二号証及び第三号証)に記載されている技術を組合せることによつて、すべて公知である。ただ、本件発明においては、「受板を生瓦との間に緩衝作用を行なう空気層を介在させた状態に於て」という限定がある点で特徴が認められるにすぎない。
しかし、空気を落下物に対する緩衝材として利用するためには、落下物の下方にある空気が逃げないよう閉じ込めたうえで、空気の圧縮によつて緩衝作用をもたせることが必要である。しかるに、本件発明の明細書及び図面には、落下物の下方の空気を圧縮し得る装置又は構造はなんら開示されていない。むしろ、本件発明の明細書には、「生瓦は空気を生瓦、受板の間隙の側方へ排出しつつ落下して」(甲第一号証、本件特許公報(別添公報と同一)第四欄、四行ないし五行参照)と記載されており、この記載からすれば、落下物の下方の空気は圧縮されることなく、自由に排除されると解されるのである。大体連続的にモルタルをプレス成型し、成型されたばかりの生瓦と受板の間の空気を閉じ込め緩衝作用をもたせるというような技術は不可能であるうえ、本件発明の明細書に記載されているように、周囲が開放されている状態で生瓦を落下させても、空気の緩衝作用を生じないことは物理的に極めて明白である。
また、そもそも空気中において物が落下すればなにがしかの空気の抵抗を受けることは自明の理である。本件発明の「緩衝作用を行なう空気層」とは、このような自明な定性的な自然現象を意味するものではなく、吸引器から受板上に落下するセメント生瓦に落下時の衝撃を現実に定量的に緩和する空気層が介在することを必須の要件としているものである。そして、その空気層の程度について、本件発明の明細書中発明の詳細な説明では、「生瓦と受板6との間に5〜15mmの空気間隙がある状態」をあげているが、この点について原告は、右の「緩和作用のある空気間隙の限界については明確な普遍的限界を画することができないが故に、本件発明の明細書中特許請求の範囲の記載も「緩衝作用を行なう空気層」というような表現をし、有効に緩衝作用を行なうことのできる厚さの空気層を意味しているわけである。」と後記四で説明をしているが、右説明は、いずれも、特許請求の範囲にいう「緩衝作用を行なう空気層」の技術内容をなんら解明していない。
したがつて、いずれにしても、本件発明は、物理の原理原則に反した実施不可能な発明であるか、又は、その技術内容が不明確で有効な特許発明でないことに帰し、特許法第29条第1項の「産業上利用することができる発明」とはいえないものであるから、かかる特許について権利侵害を生ずることはない。
3 また、本件発明は、前記のように、「緩衝作用を行なう空気層」なる構成を除くその余の構成はすべて公知であり、かつ、右「緩衝作用を行なう空気層」の構成について未解決の技術を含む瑕疵ある発明であるから、その技術的範囲は厳格に解釈されるべきである。
ところで、被告製品は別紙物件目録(二)記載のとおり表示されるべきであり、
しかして、被告製品においては、生瓦と受板との間に緩衝作用を行う空気層を有していないことで、既に本件発明と相違し、更に、本件発明のようにセメント成型用上型と吸引器とを別体に形成することなく、セメント瓦成形型用上金1’の下面に、モルタルの搾水孔と空気吸引孔とを兼ねる多数の小孔(搾水・吸引孔)2を穿設し、その下面に水切鉄板7、金網8、脱水布9を順次取付けたセメント瓦成型・搾水・吸引上型1を装着し、反重力上方低気圧脱水装置を使用して上型より搾水を吸引しながら成型する装置であつて、この点においても本件発明の構成要件を欠き、その技術的範囲に属しないことは明らかである。
四 被告の主張に対する原告の反論 被告は、空気を落下物に対する緩衝材として利用するためには、落下物の下方にある空気が逃げないように閉じ込めて空気の圧縮によつて緩衝作用をもたせることが必要であり、本件発明のように、周囲が開放されている状態で生瓦を落下させても空気の緩衝作用が生じないことは、物理学上極めて明らかであるから、本件発明は、実施不可能な発明である旨主張する。
しかしながら、一般に平板を水平状態のまま空中を自由落下させるときその着地直前に、空気の緩衝作用が働くことは周知である。すなわち、平板が空気中を自由に落下するときの空気抵抗はさほど大きくはないが、停止している受板に平板が接近すると平板下方にある空気は側方への排出が間に合わなくなり、圧縮されて急速に圧力が高まり、平板の落下を受止める傾向すなわち緩衝力を強めるようになる。
特に平板の落下速度が大きいときは、圧縮される空気の性質は非流動性に近づき、
平板の落下を阻止しようとする抵抗すなわち、緩衝力が大となる。
普通の生瓦に近似して作られた一辺の長さ三〇センチメートル、重量二・九五キログラム、硬度Cスケール60の物体でなされた実験結果(甲第一〇号証)によつても、落下高さ三ミリメートルないし二〇ミリメートルの範囲では、衝撃力は、空気の緩衝作用によつて、空気の緩衝作用がない場合の五〇パーセントないし七〇パーセントに減少することが実証されている。また、落下高さが大きくなるとほぼその平方根に比例して比較的ゆるやかに衝撃力は大きくなる。
そして、本件発明において、緩衝作用を有効に行わせるための条件は、生瓦の下面面積・形状・重さ・粘弾性的性質・粗さ及び受板の形状の精度等によつて変化するものであり、明確な普遍的限界を画することができない故に、本件発明の明細書中特許請求の範囲の記載も「緩衛作用を行う空気層」というような表現をし、有効に緩衝作用を行なう空気層」というような表現をし、有効に緩衝作用を行うことのできる厚さの空気層を意味しているわけである。
被告は、本件発明が、「緩衝作用を行う空気層」という構成において、技術内容が不明確であるから、有効な発明ではないと主張する。しかし、本件発明の明細書中特許請求の範囲において、「受板と生瓦との間に緩衝作用を行なう空気層を介在させた状態に於て該生瓦を受板上に落下させるように切換弁を動作させる」と記載することによつて、発明の構成要件を機能的に表現することは、発明の思想的・抽象的性質からある程度認められ、そして、発明の詳細な説明において、この機能を完全に達成することができる実施態様を記載すれば足りるのである。本件発明においては、前記の「緩衝作用を行なう空気層」という特許請求の範囲の記載を受けて、発明の詳細な説明の中で、「五〜一五ミリメートルの空気間隙がある状態で吸引を止めて生瓦を落下させる」とその実施態様を明記しているのである。そして、
右の五ないし一五ミリメートルという数値は、現在普通に使用されている三〇センチメートル角程度の大きさの瓦について実験し、明確に有効性が認められた範囲を画するものであり特許請求の範囲の「緩衝作用を行なう」という機能は、右数値の間隙を設けることによつて、完全に達成することができるものである。
証拠関係(省略)
理 由一 原告が本件特許権を有すること、本件発明の明細書の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 ところで、被告は、本件発明は、物理の原理原則に反した実施不可能な発明であるか、又は、その技術的内容が不明確で有効な発明でない旨主張するので、まずこの点について判断する。
前記確定した争いのない事実と成立に争いのない甲第一号証(本件特許公報)によれば、本件発明は、プレス機により上型、下型及び側枠の間でプレス成型されたばかりのセメント生瓦を受板上に移す生瓦受取装置に関するもので、本件特許出願当時、生瓦を受板に移すには、普通、反転式移動すなわち、水切鉄板、水切布に載つて下型上にある生瓦の上に受板を載せ、次に水切鉄板を下型から外し、重ねられた水切鉄板、布、生瓦、受板を反転させ、受板を下にして作業台に置き、生瓦の上に載つた状態にある水切鉄板、水切布を除き、このようにして受板に載せられた生瓦を受板とともに乾燥処理現場へ移すという方法が行われていたこと、しかしこの方法では、受板は生瓦一枚毎に使用されるため、極めて多数が必要であり、その寸法形状も生瓦のそれに厳密に一致する精度で製作されないのが実情であるため、生瓦を受板上に移したとき生瓦面と受板面とに不一致部を生じて片当たりを起こし、
これが原因となつて、ひび割れを生じたり、接触圧が高くなつて受板に接触する瓦表面の模様等を損傷する危険が多いこと、そこで、本件発明は、右のような反転式移動でなく、吸引器により生瓦を吸着し、受板上にそれを落下させることとし、その際、空気の緩衝作用を利用して受板上への生瓦載置をゆるやかに行うこととしたというものであり、それによつて、生瓦を損傷させることなく受板上に載置することができるようにした点にその特徴を有するところの生瓦受取装置であることを認めることができる。そして、右事実と前記確定した本件特許請求の範囲の記載とによれば、生瓦の受板上への落下は、「受板と生瓦との間に緩衝作用を行う空気層を介在させた状態に於て行われる」ことが本件発明の構成に欠くことのできない一つの要件であることは明らかである。
ところで、生瓦が落下するに際し、この生瓦とこれを受ける受板との間に空気層を介在させ、この空気層をいわゆる緩衝材として利用することとするならば、この空気層を、落下する生瓦によつて積極的に圧縮することが可能な状態にすることが必要であることは見易い道理というべきである。けだし、およそ特許さるべき発明は産業上利用することができる発明でなければならないから、本件発明において、
空気層の存在が緩衝作用を及ぼすといつても、それは単に落下物たる生瓦がいささかなりとも空気層の抵抗を受けないことはないし、そうであればそれをもつて空気層による緩衝作用といえるという、いわば物理的常識の観点からではなくて、空気層をして緩衝作用を行わしめる以上は生瓦と受板との間隙をどのように構成すれば生瓦に衝撃を与えない緩衝作用を行う空気層を介在させることができるかということが明らかになつてこそ、前記本件発明の構成に欠くことができない要件として肯定することができるからである。そして、この場合、その構成は、落下する生瓦によつて空気層を積極的に圧縮することが可能なものとされることによつて生瓦と受板との間に存在する空気層が生瓦に対する緩衝作用を行い、本件発明が奏する前記作用効果を肯認し得るというべきである。しかるに、本件発明の明細書及び図面には落下する生瓦によつて空気層を積極的に圧縮することが可能な構造と認めるべきものは何ら記載されていないし、その示唆すらも見出し得ない。なお、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八ないし第一〇号証によれば、落下する瓦板に対する押出し気流の緩衝効果、生瓦が受板に落下する際の空気の緩衝作用に関する解析及び平面状物体が着地する際の空気の緩衝作用についてそれぞれ解説されていることを認め得るけれども、これらの証拠によつても本件発明の装置について右に説明した趣旨における空気層の存在を肯認することができない。
原告は、「緩衝作用を行なう空気層」という本件特許請求の範囲の記載を受けて、その発明の詳細な説明において、「五〜一五ミリメートルの空気間隙がある状態で吸引を止めて生瓦を落下させる」とその実施態様を明記しており、右の五ないし一五ミリメートルという数値は、現在普通に使用されている三〇センチメートル角程度の大きさの瓦について実験し、明確に有効性が認められた範囲を画するものであり、特許請求の範囲の「緩衝作用を行なう」という機能は、右数値の間隙を設けることによつて、完全に達成することができる旨主張する。
前顕甲第一号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明中に、「生瓦と受板6との間に五〜一五mmの空気間隙がある状態で吸引を止めて生瓦を落下させると、
生瓦は空気を生瓦、受板の間隙の側方へ排出しつつ落下して適当な緩衝作用が行なわれ生瓦はやわらかく受板上に載る」旨記載されていることを認め得るけれども、
落下物の落下位置が到達点に近づけば、換言すれば落下距離が小さくなればそれだけ落下物が受ける衝撃は少なくなることは技術常識上明らかなところである。してみれば、生瓦を受板上に接近させて生瓦と受板との間隙すなわち生瓦の落下距離を五ミリメートルないし一五ミリメートルに極めて小さくして落下させる場合には、
衝撃は微少となるが故に、生瓦がやわらかく受板上に載るということは自明の理であつて、それは本件発明の特許請求の範囲にいう「緩衝作用を行なう空気層」が介在するかどうかとは無関係であるというべきものであるから、原告の右主張は肯認し難い。
しかして、他に、いかなる技術的構成をもつて、本件発明における「受板と生瓦との間に緩衝作用を行なう空気層を介在させた状態」と認めるべきかを確定すべき証拠はない。
三 してみれば、結局、本件発明における「受板と生瓦との間に緩衝作用を行なう空気層を介在させた状態」とはどのような技術的構成をいうのかこれを知ることができないから、被告製品が仮に原告主張の構造を有するとしても、本件発明と被告製品との対比すらこれをすることができないこととなるので、被告製品が本件特許権の技術的範囲に属するとは断定し難い。
四 よつて、原告の本訴請求はすべて失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条の規定を適用して主文のとおり判決する。
追加
物件目録(一)一名称セメント瓦成型機二図面の略解第一図はセメント瓦成型機の正面略図、第二図は第三図A―A線における上型の断面図、第三乃至五図は、成型時及びその前後の上型、下型、側枠等の動きを示す略図であり、上型は第二図のB―B線における断面を示している。
三説明このセメント瓦成型機は、プレス機1のラム2の下端に横移動可能にキヤリヤ3を装置し、該キヤリヤ3の下面の正面から見て右方部に上型4を取付け、同じく左方部にモルタル受部5を設け、ラム2の直下方に下型6を固定しており、プレス機の両側にそれぞれモルタル供給機7および生瓦受取台8を設けたものである。
上型4は、瓦の裏面を形成する金型であり、第二図以下に見るように一方向に複数の管状孔4aを平行に穿設し、各管状孔4aを多数の小孔4bにより生瓦の裏面を形成する上型下面に通じさせている。上型4の管状孔4aが開孔する一側面には集水管9を取付けて各管状孔4aをこれに結合した可撓管10に通じさせている。
集水管9は可撓管10により気水分離器11に連結され、気水分離器11はブロワー12により排気されている。可撓管10及び管状孔4a内は切換弁(図示せず)により前記のようにブロワー12に通じたり、または大気に通じるようになつている。
下型6は瓦の表面を形成する金型であつて、その周囲は、これに密接して上下に摺動可能の側枠13で囲まれている。
モルタル供給機7は、計量筒14で一定量のモルタルを計り取り、エヤシリンダ15で計量筒14を第一図右方へ押出して一定量のモルタル16を第一図左方に移動したキヤリヤのモルタル受部5に移す装置である。
生瓦受取台8は、瓦の表面形状に合致する形状の受板17を載せてエヤシリンダにより昇降する。生瓦受取台8の下にはコンベヤ19が装置されており、該受取台8が下降するとき受板17が受取台8を離れてコンベヤ19に載せられるようになつている。
次にこのイ号機械の動作を説明する。
Aモルタル供給キヤリヤ3が第一図の状態にあるとき、モルタル供給機7により一定量のモルタルがキヤリヤ3のモルタル受部5に載せられると、キヤリヤ3は第一図右方へ移動して該受部5が下型6の真上に来る。そこで受部5の底が開いて前記一定量のモルタル16が下型6の上に落下する。
キヤリヤ3はその後、再び左行して上型4が下型6の真上に来る(第三図)。モルタル受部5は再びモルタル供給機7から一定量のモルタルを受取る位置に来る。
Bプレスプレス機1のラム2を下降させてキヤリヤ3と共に上型4を下降させ、モルタル16を上型4、下型6、側枠13の間で強圧し、生瓦16aを成型する。(第四図)上型4の下面には多数の小孔を有する水切鉄板、金網、布を重ねた脱水材18が取付けてあるから、このときモルタル16から絞り出された泥状分を含んだ水は、
ブロワー12の負圧により前記脱水材18、小孔4bを通つて上型4内の管状孔4aに入り、集水管9、可撓管10を通つて気水分離器11内に吸出される。
C生瓦取出しプレス機1のラム2により、キヤリヤ3と共に上型4を上昇させ、この状態でキヤリヤ3を右行させる。(第五図。このとき前記A項のモルタル供給が同時に行なわれる。)成型された生瓦16aは、上型の下面に開口する多数の小孔4bがブロワー12により負圧になつているため上型6の下面に吸着され、上型6の上昇、横移動と共に移動して生瓦受取台8の真上に来る。
次に生瓦受取台8の上に生瓦表面の形状に合致する形状の受板17を載せて該受取台8を上昇させ、受板17を生瓦16aの近くまで上昇させる。受板17は生瓦に接触しない状態で停止する。
この状態で切換弁(図示せず)を切換えて上型4内の管状孔4a、小孔4b内を大気圧にすると、前記吸着作用が解かれて生瓦16aはその重さのため上型から離れ、生瓦16aと受板17との間に介在する空気層を通つて受板17の上に落ちる。
次いで生瓦16a、受板17を載せた受取台8が下降し、受板17をコンベヤ19に移して生瓦16aを乾燥場へ送る。
前記のように動作するイ号成型機において、上型6は生瓦を成型するための型であると同時に、成型後はブロワー等と共に生瓦取出し装置として作用するものである。
1プレス機2ラム3キヤリヤ4上型4a管状孔4b小孔5モルタル受部6下型7モルタル供給機8生瓦受取台9集水管10可撓管11気水分離器12ブロワー13側枠14計量筒15エヤシリンダ16モルタル16a生瓦17受板18脱水材19コンベヤ<12166-001><12166-002><12166-003><12166-004><12166-005><12166-006><12166-007><12166-008><12166-009>物件目録(二)セメント瓦成形用上金型1’下面に、モルタルの搾水孔と空気吸引孔とを兼ねる多数の小孔(搾水・吸引孔)2を穿設し、さらにその下面に水切鉄板7、金網8、
脱水布9を順次取付けたセメント瓦成形・搾水・吸引上型1をプレスピストン19に装着し、該上型1が上方位置aからモルタル18’を載置する下型15および側枠16に結合する下方位置bに降下し、ついで成形されたセメント瓦18を吸引して上方位置aに上昇するようにし、上記上金型1に穿設した搾水・吸引孔2とブロワー(低気圧発生風車)14とを連通する排気管12にブロワー14及び大気に通じさせる空気流の切換弁13を設け、上記上型1がセメント瓦成形用下型15から、セメント瓦18を吸引上昇して上方位置aに戻ると、上型1はセメント瓦18を吸引したまま受板上方位置cに水平移動しついで受板20を上昇させてセメント瓦18に近接(受板20とセメント瓦18の間隙は零粍乃至三耗程度)させたのち上記金型1の吸引面を形成している脱水布9に付着するセメントの粘着力により、
セメント瓦18の重力による脱水布9からの離脱をゆるやかに行う状態に於て該セメント瓦18を受板20上に離脱載置させるように切換弁13を動作させることを特徴とするセメント瓦成形装置。
セメント瓦成形搾水吸引装置の構成と機能の詳細な説明。
セメント瓦成形用上金型1’の下面に多数の搾水・吸引孔2を設け、その上端は、複数配置した搾水通過管3と連通し、その通過管3の各端部は集水管4に接続されている。その集水管4とは反対側端部の、搾水通過管3上方に、これに直交する大気吸引管5を設け、これを各搾水通過管3と連通する。大気吸引管5には多数の小孔のある給水管6を挿設する。前記上金型1’下面には多数の小孔を有する水切鉄板7、金網8、及び脱水布9を順次取付けてある。集水管4の排出口にゴムホースの可撓管10を接続し、他端は、第一気水分離器11入口に接続する。その分離器11の頂部排気管12に切換弁13が取付けられていて上型1の作業周期の休止時(第一四図)に第一気水分離器11下方の排水口11’より搾水を排出する。
次に分離された空気は第二気水分離器17を通り大風量のブロワー14にて吸引排気する。下型15は定置され、型枠16が下型15周囲を上下する様に構成されている。
前記の様な構造にしてあるからセメント瓦成形・搾水・吸引上型1と定置された下型15と型枠16を係合して密閉した成形空間を形成し搾水・吸引孔2をブロワー14と連結して成形空間を低気圧に維持すると同時に搾水を行うもので、成形開始と同時に大風量のブロワー14を作動させて、成形空間の空気を吸引し、同時に上型1の吸引管5より絶えず適量の大気を導入し、上型1内に気圧差を発生させ、これによつて生ずる空気流を利用して搾水を排出する(第一三図)。
搾水にあたつて脱水布9の介在によりセメント材料が搾水・吸引孔2に入いり込むことを防ぐ。
一方、上記空気流と吸水管6から適時給水される洗滌水によつて搾水通過管3を洗滌し搾水に混つたセメント泥による目詰りを防ぐ。搾水と洗篠水は霧状になつて集水管4に集められ、可撓管10を経て第一気水分離器11に入り空気と水に分離され、水分は下方の排水口11’上部に溜る。溜つた水分は、切換弁13が作動し、
第一気水分離器11内部が大気圧に復した時(第一四図)排出可動蓋を押し開けて排水口11’より排出される。一方第一気水分離器11にて分離された空気は、切換弁13を経て第二気水分離器17を通りブロワー14にて吸引排出される。
本装置は、成形開始より上型1内を低気圧に維持するもので、成形された上型1に吸引されているセメント瓦18は、そのままの状態で成形位置より上昇a位置より水平移送され、受板20の上方の離脱位置cに至る。このとき切換弁13を切換えると空気流が止り上型1内が大気圧に復しセメント瓦18は重力により受板20上に離脱する。
従つて、本装置によれば単一の成形・搾水・吸引上型1により、セメント瓦の成形と吸引移送を連続的に行い、作業工程を少くし、成形されたばかりの瓦が吸引移送時の衝撃により変形毀損することがない効果を有する。
さらに上型吸引面の脱水布9にはセメントが付着し、粘着しているからセメント瓦は脱水布の周囲より中央にかけ徐々に離れゆるやかに離脱するので離脱時の衝撃の発生を阻止することができる。
第一図セメント瓦成形機側面図第二図同平面図第三図成形順序を示す断面図第四図同第五図同第六図同第七図成形順序を示す側面図第八図同第九図同第一〇図上型、下型、型枠の第一一図のAーA断面図第一一図同第一〇図のBーB断面図第一二図水切鉄板・金網・脱水布の拡大断面図第一三図搾水吸引時の図第一四図切換弁を動作させ搾水を排出する状態を示す図1セメント瓦成形・搾水・吸引上型1’セメント瓦成形上金型2搾水吸引孔3搾水通過管4集水管5大気吸引管6給水管7水切鉄板8金網9脱水布10可撓管11第一気水分離器12排水管13切換弁14ブロワー15下型16型枠17第二気水分離器18セメント瓦19高圧プレスピストン20受鉄板21コンベアー22受台23上型取付テーブル24高圧プレスシリンダー25定量機26定量カツプ<12166-010><12166-011><12166-012><12166-013><12166-014><12166-015><12166-016><12166-017>
裁判官 秋吉稔弘
裁判官 野崎悦宏
裁判官 安倉孝弘