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事件 昭和 52年 (ワ) 7998号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1980/05/09
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、別紙物件目録記載の臓器生検針を製造し、販売してはならない。
二 被告は、その所有する前項記載の臓器生検針を廃棄せよ。
三 被告は原告に対し、金七七万六〇六八円及び内金三九万一四九九円に対する昭和五二年九月一日から、内金三八万四五六九円に対する昭和五三年一一月九日から各支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
六 この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告1 主文第一、第二項と同旨2 被告は原告に対し、金六五九万円及び内金四五〇万円に対する昭和五二年九月一日から、内金二〇九万円に対する昭和五三年一一月九日から各支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言二 被告1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決
当事者の主張
一 原告の請求の原因1 原告は、従前その商号を「バクスター・ラポラトリーズ・インコーポレーテツド」としていたが、昭和五一年五月一日これを現商号に変更したものであつて、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
特許番号 第六五八二四五号発明の名称 「検査標本摘出用器具」出願日 昭和四三年一二月二〇日出願公告日 昭和四七年三月一五日登録日 昭和四七年九月七日2 本件発明の特許出願の願書に添附した明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「両端部が開口されその先端側の開口部が疾患切断刃に形成された長軸状の鞘と、
前記鞘内に軸方向に沿つて摺動自在に挿入されそして此の鞘の両端開口部から夫々露出された疾患部挿入先端と後端部分とを備えた長軸状の摘出具とから成り、前記摘出具は前記鞘の先端開口部から進出後退して疾患部を受納分離するポケツトを前記挿入端の背部に有し、更に第1ハブ並びに第2ハブが前記鞘の後端部分と前記摘出具の後端部に夫々同軸線上で配置されており、前記第2のハブから摘出具に沿つて平行に前方に延びた摺動板が前記第1のハブに対して摺動自在に設けられ、前記第1のハブは前記摺動板用の軌道を備え且つ摘出具と鞘相互の往復運動中の此れ等の回転を防止しそして鞘の先端部が摘出具の先端部を越えて前方に移行する事を防止する受台又は係止具が設けられている事を特徴とする検査標本摘出用器具。」3(一) 本件発明は、病変の疑いのある生体内の臓器等の組織を経皮的に穿刺して採取するために使用される、一般に生検針と呼ばれる検査標本摘出用器具に関する発明であつて、次の構成要件からなるものである。
A 両端が開口され、その先端側の開口部が疾患切断刃に形成された長軸状の鞘を有すること。
B 前記鞘内に軸方向に沿つて摺動自在に挿入され、この鞘の両端開口部からそれぞれ露出された疾患部挿入先端と後端部分とを備えた長軸状の摘出具を有すること。
C 前記摘出具は、前記鞘の先端開口部から進出後退して疾患部を受納分離するポケツトをその挿入端の背部に有すること。
D 前記鞘の後端部には第一ハブが、前記摘出具の後端部には第二ハブがそれぞれ同軸線上で配置されていること。
E 前記第二ハブから摘出具に沿つて平行に前方に延びた摺動板が前記第一ハブに対して摺動自在に設けられていること。
F 前記第一ハブは、摺動板のための軌道を備え、かつ、摘出具と鞘相互の往復運動中これらの回転を防止するようになつていること。
G 前記第一ハブには、鞘の先端部が摘出具の先端部を越えて前方に移行することを防止する受台又は係止具が設けられていること。
H 検査標本摘出用器具であること。
(二) 本件発明の作用効果上の特徴は、摘出具と鞘との相互回転を行うことなく、所定の範囲内の前進後退運動によつて検査標本の採取を可能とした点にある。
すなわち、従来公知の生検針は、すべて操作時に右に述べたような回転を必要とし、例えば、摘出具の先端が二股に分岐しており、この二股針が組織内に喰い込んだところを鞘針を回転しながら組織を細切りするようになつている(甲第七号証)。そのため、構造が複雑になり、使用に際しては手技の熟練を必要とし、標本採取の所要時間も長い。これに対し、本件発明の生検針は、摘出具の挿入端の背部にあるポケツト内に喰い込んだ組織を、鞘の先端の切断刃が切り取るようになつていて、その摘出具は二股に分岐していないうえ、鞘は摘出具に対して軸方向に移動はできるが、回転はできないようになつている。そのため、構造は従来の生検針に比べて簡単となり、操作も著しく容易であるので、手技の熟練を要しないうえ、標本採取の所要時間も短い。
なお、本件発明の生検針の使用法は、次のとおりである。
(1) 摘出具を鞘内に一ぱいに引き込み、すなわち、摘出具を鞘に対して後退位置にセツトし、そのままの状態で皮膚の上から生検部位に穿刺し、進入させる。
(2) 鞘を固定したまま摘出具のみを前進させるか、又は摘出具を固定したまま鞘を後退させる。これにより、摘出具の先端のポケツト内に採取しようとする組織片が喰い込む。
(3) 摘出具を固定したまま鞘を前進させ、ポケツト内に喰い込んだ組織を切り取る。
(4) そのまま全体を抜き取り、摘出具を前進させて切り取つた組織片をポケツトから取り出す。
4 被告は、別紙物件目録記載の生検針(以下、「被告製品」という。)を業として製造し、販売している。
5 被告製品の構造を本件発明の前記構成要件に対応して区分説明すれば、次のとおりである。
a 被告製品の管針2(被告製品に関する番号は別紙物件目録記載のものを指す。
以下同じ)は両端が開口し、その先端側の開口部が刃縁9に形成された長軸状である。
b 採取針4は長軸状であり、管針2内に軸方向に摺動自在に挿入されている。右採取針4の先端及び後端は管針2の両端開口部から露出しており、この先端は斜めに削成した尖片10となつている。
c 採取針4は、管針2の先端開口部から進出後退して組織片を受納分離するための凹欠部11を尖片10の後部に有している。
d 管針2の後端部には基片3が取り付けられ、この基片3へ案内筒1の嘴管6を嵌合し、管針2と案内筒1とを目印した固定位置に一本化できるようになつている。採取針4の後端部は基杆12に取り付けられている。そして、右基片3、案内筒1及び基杆12は同軸線上に配置されている。
e 基杆12からは、採取針4に沿つて平行に前方へ遊離条片13が延び、この遊離条片13は案内筒1上の案内突条7、7間を自在に摺動できる。
f 案内筒1には、長さ方向に一対の案内突条7、7が間隔を置いて突設され、採取針4の基杆12から延びる遊離条片13のための軌道を形成しており、そのために採取針4と直接には案内筒1、したがつて、これに結着した管針2との間の前進後退運動中、これらの回転を防止するようになつている。
g 管針2の基片3に結着した案内筒1には、案内突条7、7の間隔内の中間に係止突片8が設けられ、この係止突片8は遊離条片13の先端の鈎状係片14と係合し、採取針4が無制限に案内筒1から後退できず、したがつて、案内筒1に結着した管針2が採取針4の先端部の尖片10を越えて前方に移行することができないようになつている。
h 生検針であること。
i 右のほか、案内筒1を注射筒として使用するための喞子杆5が付属している。
なお、被告製品の使用法は次のとおりである。
(1) 案内筒1の嘴管6を管針2の基片3に挿入して両方の目印が一致する位置で結着し、採取針4を案内筒1内部をくぐらせて管針2内に挿入し、遊離条片13を案内筒1上の案内突条7、7間に嵌挿し、採取針4を管針2内に一ぱいに引き込む(別紙物件目録第6図)。そして、そのままの状態で皮膚の上から生検部位に穿刺、進入させる。
(2) 管針2及び案内筒1を一本化したまま固定し、採取針4のみを前進させるか、又は採取針4を固定したまま管針2及び案内筒1を後退させる。これにより、
採取針4の先端の凹欠部11に採取しようとする組織片が喰い込む(同第5図)。
(3) 採取針4を固定したまま管針2及び案内筒1を前進させ、凹欠部11に喰い込んだ組織を切り取る。
(4) そのまま全体を抜き取り、採取針4を前進させて切り取つた組織片を凹欠部11から取り出す。
(4)’ 右(4)の操作の代わりに、(3)の操作の後、遊離条片13を案内突条7、7間から取りはずし、採取針4を管針2及び案内筒1の両者から引き抜いて、切り取った組織片を採取し、次いで、案内筒1を管針2から取りはずし、これに付属の喞子杆5(同第4図)を装着して止血剤を充填し、再び案内筒1を管針2へ結着し、管針2を通じて止血剤を注射することもできる。右注射後は、喞子杆5を取りはずし、案内筒1及び管針2へ採取針4を挿入し、しばらくしてから全体を引き抜く。
5 本件発明と被告製品とを対比すれば、次のとおりである。
(一) 被告製品の構造a、b及びcは、本件発明の構成要件A、B及びCと順次全く同一である。
すなわち、被告製品の管針2及び採取針4は、本件発明の「鞘」及び「摘出具」と全く同一の構造を備えており、その作用も、採取針4を後退位置、換言すれば、
組織片を受納分離するための凹欠部11が管針2の内部にかくれ、採取針4の尖片10が管針2から露出する位置にセツトし、そのまま全体を生検部位に進入させ、
次いで、採取針4を前進位置、換言すれば、凹欠部11が管針2の前端から露出する位置まで採取針4を前進させるか、又は管針2を後退させ、次に、凹欠部11に喰い込んだ組織を管針2の先端の刃縁9で管針2を前進させて切り取るというものであつて、本件発明のそれと全く同一である。
(二) 被告製品の管針2の後端部には基片3が取り付けられており、この基片3に案内筒1の先端嘴管6が嵌合されて、管針2と案内筒1とを事実上一体化できるようになつている。そして、案内筒1には長さ方向に一対の案内突条7、7が間隔を置いて突設され、採取針2から延びる遊離条片13のための軌道を形成している。次に、被告製品の採取針4の後端部は基杆12に取り付けられ、この基杆12からは採取針4と平行に前方へ遊離条片13が延び、この遊離条片13の先端には鈎状係片14が設けられ、この部分は本件発明の「第二ハブ」及び係止片を有する「摺動板」と同一の構造になつている。また、案内筒1上の案内突条7、7で区切られた軌道の中途に係止突片8が設けられ、これに遊離条片13の先端の鈎状係片14が係止することによつて、採取針4の後退を制限するようになつている。
右のように、被告製品の構造d、e、f及びgは、管針2を支持する部材である基片3と、遊離条片13のための軌道及び係止手段を設けた案内筒1とを切り離して二個の部材に形成し、そのために直接には案内筒1と採取針4との間の相対的回転運動が阻止され、また、採取針4上で案内筒1の前方への移行を制限している点において、本件発明と一応相違するが、その余の点については本件発明の構成要件D、E、F及びGと同一である。
ところで、案内筒1の嘴管6の外周面は円錐状に形成されていて、これと同一形状の円錐面が管針2の基片3の内壁に形成されているので、一旦嘴管6を基片3に強く嵌合した後は、摩擦係合によつて回転もしないし、容易に抜けるということもない。ちなみに、案内筒1及び基片3にはともに嵌合位置を示す目印が設けられている。そして、被告製品は、このように嘴管6を基片3に嵌合し、管針2と案内筒1とを一体化したうえで標本の採取に使用するものであり、一体化しない限りその使用目的を達成しえないのであるから、事実上案内筒1は管針2のためのハブの一部であり、案内筒1及び基片3は全体として本件発明の「第一ハブ」に関する要件を全部備えているというべきである。
なお、被告製品の案内筒1が管針2から分離されるのは、すでに標本採取の目的が達成された後に、所望によつて止血剤を注射する必要がある場合に限つて行われるものであるが、すでに目的とする標本採取の機能を果し終えた後において被告製品をどのように使用するかは、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するかどうかとは関係がない。
さらに、作用効果についてみれば、被告製品においても、管針2と採取針4とは遊離条片13及び案内突条7、7によつて往復運動中の回転が防止され、また、遊離条片13の鈎状係片14が案内突条7、7側の係止突片8に係止することによつて、管針2の先端が採取針4の先端を越えて前方に移行することが防止される作用効果を有し、これは本件発明のそれと同一である。
(三) 被告製品の構造hが本件発明の構成要件Hを充足することはいうまでもない。
(四) 以上のとおり、被告製品は本件発明の構成要件を全部充足するから、その技術的範囲に属する。
(五) 仮に、被告製品が被告主張の後記実用新案の実施品であつて、同製品につき標本採取後案内筒1を管針2から取りはずして止血剤を注射することができるという点に実用新案登録に値する工夫が認められるとしても、被告製品は、生検針として本件発明の構成要件を全部充足すること既述のとおりである以上、本件発明を利用するものとして、その技術的範囲に属することに変わりはない。
6 被告は、被告製品を製造、販売することが本件特許権を侵害するものであることを知り、又は必要な注意を用いれば知りえたにもかかわらず過失によつてこれを知らないで、前記出願公告日である昭和四七年三月一五日から昭和五三年一一月八日までの間、左記のとおり、合計金一億三一八〇万円相当の被告製品を製造、販売したものであるから、右侵害行為によつて原告が蒙つた損害を賠償する義務がある。
(一) 昭和四七年三月一五日から昭和四八年二月末日まで 金四〇〇万円(二) 昭和四八年三月一日から昭和四九年二月末日まで 金一二〇〇万円(三) 昭和四九年三月一日から昭和五〇年二月末日まで 金一五〇〇万円(四) 昭和五〇年三月一日から昭和五一年二月末日まで 金二〇七〇万円(五) 昭和五一年三月一日から昭和五二年二月末日まで 金二八〇〇万円(六) 昭和五二年三月一日から昭和五三年二月末日まで 金四九〇〇万円(七) 昭和五三年三月一日から同年一一月八日まで 金三一〇万円 以上合計金一億三一八〇万円 そして、原告は被告の右侵害行為によつて、本件発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の損害を蒙つたというべきところ、その額は被告製品の売上額の五パーセントをもつて相当とすべきである。したがつて、原告の損害の額は、前記売上総額金一億三一八〇万円に一〇〇分の五を乗じて得た金六五九万円となる(なお、このうち昭和四八年三月一五日から昭和五二年八月二四日までの期間における売上額は金九〇〇〇万円であり、これに対応する損害額は金四五〇万円である。)。
7 被告は今後とも被告製品を製造し、販売する虞れがある。
8 よつて、原告は被告に対し、本件特許権に基づき、被告製品の製造、販売の差止及び被告が所有する被告製品の廃棄を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償として、前記損害金六五九万円及びこのうち昭和五二年八月二四日以前の損害金四五〇万円に対する不法行為の後である昭和五二年九月一日から、残額金二〇九万円に対する同じく不法行為の後である昭和五三年一一月九日から各支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する被告の認否1 請求の原因1及び2は認める。
2 同3は争う。
3 同4のうち、被告が昭和五〇年一二月一日から昭和五三年一二月末日までの間、被告製品を製造、販売したことは認めるが、その余は否認する。但し、被告製品の構造に関する別紙物件目録の記載中、「B 該案内筒1の先端嘴管6に挿脱自在」とある部分の次に、「かつ回転自在」との文言を付加すべきである。
4 同5は争う。
5 同6は、被告が昭和五〇年一二月一日から昭和五三年一二月末日までの間に、
後記のとおり、合計金一六五四万一六〇〇円相当の被告製品を製造、販売したこと及び本件発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額としては被告製品の売上額の三パーセントが相当であることの限度において認めるが、その余は否認する。
(一) 昭和五〇年一二月一日から同年同月末日まで 金一〇万三五〇〇円(二) 昭和五一年一月一日から同年一二月末日まで 金四六四万二九〇〇円(三) 昭和五二年一月一日から同年一二月末日まで 金四七六万九一〇〇円(四) 昭和五三年一月一日から同年一二月末日まで 金七〇二万六一〇〇円 以上合計金一六五四万一六〇〇円6 同7は争う。
三 被告の主張1 本件発明の技術的範囲について(一) 原告は、本件明細書中の特許請求の範囲の記載を単にAないしHに分説し、これを本件発明の構成要件として主張する。しかしながら、右の構成は、次に述べるとおり、本件発明の特許出願前公知の仏国特許第一二六七九六〇号の特許明細書(乙第五号証)に示される生検針の構成と同一である。
(1) 本件発明の構成要件AないしC及びHが右仏国特許明細書すなわち乙第五号証記載の生検針の構成と同一であることは、後記のとおり原告もこれを争わない。
(2) 乙第五号証の生検針においては、本件発明の「鞘」に該当する管状針bの後端部に、「第一ハブ」に該当する太径の柄b4が、また、「摘出具」に該当する針aの後端部には、「第二ハブ」に該当する柄a4がそれぞれ同軸線上に配置されている。したがつて、本件発明の構成要件Dと乙第五号証の生検針の構成とは同一である。
(3) 本件発明の構成要件Eが「第二ハブ」に「摺動板」を設けるというものであるのに対し、乙第五号証の生検針は、本件発明の「第一ハブ」に該当する柄b4に、「摺動板」に該当するビスdが設けられている。また、本件発明の構成要件Fが「第一ハブ」に「軌道」を設けるというものであるのに対し、乙第五号証の生検針は、本件発明の「第二ハブ」に該当する柄a4に、「軌道」に該当する溝c1が設けられている。すなわち、本件発明の構成要件E及びFと乙第五号証の生検針の構成とは、摺動板及び軌道を設ける箇所が逆になつている点においてのみ相違するものである。
しかしながら、両者の機能は全く同一であつて、その間の相違は単なる設計上の微差にすぎない。したがつて、本件発明の構成要件E及びFと乙第五号証の生検針の構成とは実質的に同一である。
(4) 乙第五号証の生検針においては、本件発明の「第二ハブ」に該当する柄a4に設けられた溝c1に、「第一ハブ」に該当する柄b4に設けられたビスdが挿入されており、このビスdは管状針bが針aの先端を越えて前方に移行することを防止するよう溝c1の前端で係止される。すなわち、右溝c1の前端は本件発明の「受台」又は「係止具」に該当する。したがつて、本件発明の構成要件Gと乙第五号証の生検針の構成とは同一である。
ところで、原告は、本件発明の構成要件Gにいう「鞘の先端部が摘出具の先端部を越えて前方に移行することを防止する」とは、「切断刃の先端が摘出具先端の傾斜面にまで進出することのない」との趣旨であるとし、管状針bの針頭b1の先端が針aの針頭a1の先端と同一線上に並ぶ位置で管状針bの前進を停止するという構成の乙第五号証の生検針は、これと相違する旨主張する。
しかしながら、本件明細書中の特許請求の範囲には、鞘及び摘出具の各先端部の形状並びにその位置関係につき何らの限定的記載がない以上、右構成要件Gは、原告主張のような趣旨に解することはできず、むしろ、鞘の先端部が摘出具の先端部と同一線上に並ぶ位置に置かれることを排除するものではないと解するのが相当である。
このことは次の二点からも裏付けられる。
第一に、本件明細書中の発明の詳細な説明の欄には、「本件発明の要旨を要約すれば」として、(1)から(4)までの記載が設けられているところ、(1)の項には、特許請求の範囲の記載と同一の記載(甲第二号証特許公報ー別添特許公報に同じ。以下、「本件公報」という。ー第三頁第六欄第三一行から第四頁第七欄第三行まで)があり、さらにその構成を限定するものとして、(4)の項には、原告の前記解釈と同趣旨の「鞘の先端部が摘出具の疾患部挿入先端を越えて前方に移行する事を防止する」との記載(本件公報第四頁第八欄第三行から第五行まで)があることである。けだし、前記構成要件Gが原告主張のように解釈されるべきものであるならば、本件発明の要旨として、右(1)の項のほかに改めて(4)の項の記載を設ける必要はないからである。
第二に、原告は、本件発明と同一の発明につき米国特許第三四七七四二三号の特許権を得ているところ(乙第一〇号証)、その出願経過から窺われる原告の意思の点である。すなわち、原告は、右特許出願において、当初、本件明細書の特許請求の範囲の記載と同一のクレームを掲げていたが(乙第一一号証)、前記乙第五号証を引用文献とする拒絶理由通知を受けたため、当初のクレームを訂正し、「前記鞘が前記閉塞器(摘出具)の面を越えて突出するのを阻止するために前記管状鞘に対する閉塞器(摘出具)の前記前端部の相互の動きを制限する手段を有する」というように限定を加え(乙第一二号証)、これによつて登録を得たものである。しかるに、原告は、本件明細書において、前記乙第五号証の生検針を従来技術として引用掲記しながら、右米国出願におけるような特許請求の範囲の限定をしなかつたのであるから、本件発明の出願に関する限り、このような限定を加える意思はなかつたことが明らかである。
(二) 本件発明の生検針と乙第五号証のそれとは、作用効果においても同一である。
すなわち、本件明細書中の発明の詳細な説明の欄には、乙第五号証の生検針につき、「経皮的摘出手段の過程で摘出具や鞘の相互の回動が余儀なくされる事で知られている。」との記載(本件公報第一頁第二欄第二一行から第二三行まで)があるが、これは事実に反する。右生検針も、摘出操作の過程においては、本件発明の「摘出具」に該当する針aと「鞘」に該当する管状針bとが相互に回動する必要のないものであり、このことは乙第五号証の摘出操作に関する記載(同号証第一頁右欄下から四行ないし第二頁左欄第二一行)から明らかである。すなわち、乙第五号証の生検針は、その構成上、管状針bに設けられたビスdが針aの溝cに挿入されて、針aに対して管状針bと同軸方向に進出後退する際、管状針bと針aとが相互に回動することを防止するようになつているものである。加えて、乙第五号証の生検針は、本件明細書の第三図及び第七ないし第九図のように針aの針頭a1と管状針bの針頭b1とを位置決めすれば、本件発明の生検針と全く同一の摘出操作を行うことができるのである。
(三) そうすると、本件明細書中の特許請求の範囲の記載をそのまま本件発明の技術的範囲として解釈するときは、乙第五号証の公知技術までこれに包含されることとなり、不合理である。
そこで、本件発明の技術的範囲につき、乙第五号証の公知技術を含まないように解釈するとすれば、本件発明の構成要件として、原告主張の前記構成要件AないしF及びHのほかに、少なくとも、本件明細書中の発明の詳細な説明の欄に本件発明の要旨の要約として掲げられている前記(4)の項の記載(本件公報第四頁第七欄第二二行から第八欄第六行まで)に対応する次の各要件を加えることが必要である。
I′ 平面卵形の傾斜した先端面を備え、そして、尖頭状の先端を形成する切断刃を備えたチユーブ状の鞘であること。
J′ 摘出具は、傾斜した平面卵形の面と尖頭部とからなる疾患部挿入先端を備えていること。
K′ 摘出具の尖頭部は、鞘の尖頭状先端に対して約一八〇度回転した位置に配置されていること。
L′ 鞘の先端部が摘出具の疾患挿入先端を越えて前方に移行することを防止する受台又は係止具が設けられていること(これは原告主張の前記構成要件Gに対応する。)。
しかしながら、右I′ないしK′の構成は、本件発明の特許出願前公知のスウエーデン国特許第一四二八七九号の特許明細書(乙第九号証)に示されるカニユーレの構成と同一である。また、右L′の構成については、乙第九号証によつて本件発明の実施例と同一の鞘及び針の先端部の構成が示され、このような構成が組織を刺通するのに好適であることが公知であつたから、乙第五号証の生検針も管状針bの先端部b1が針aの傾斜面a1を越えて前方に移行していない状能で使用することができ、なおその際には、管状針bの往復運動を制限するビスdの前進を阻止すべく溝c1の前端の位置を後方に移行すればよいことは、当業技術者において容易に想到しうるところである。
すなわち、本件発明は、その技術的範囲を右のように限定して解釈してもなお、
その特許出願前において当業技術者が乙第五号証及び第九号証から容易に発明することができたものである。
(四) 以上のとおりであつて、本件発明は本来その特許が無効とされるべきものであるが、いわゆる無効審決が確定するまでの間はひとまずこれを有効と解するほかはないにしても、本件発明の技術的範囲はさらに狭く、本件明細書及び図面に示される実施例の構成そのものに限定して解釈すべきものである。しかして、本件明細書の発明の詳細な説明の欄及び図面には、本件発明の実施例として、鞘13と第一ハブ21、摘出具17と第二ハブ53とがそれぞれ接着剤46、55で固着されるという構成のみが示されているから、原告主張の前記構成要件Dは、「鞘の後端部には第一ハブが、摘出具の後端部には第二ハブがそれぞれ同軸線上で固着されている」との趣旨に解釈されるべく、本件発明は右以外の構成を含まないものというべきである。
2 被告製品について(一) 被告製品の特定に関する被告の主張は前述のとおりである。しかして、被告製品は被告が専用実施権を有する実用新案登録第一〇七六七三〇号の実用新案権にかかる考案の実施品である。
(二) 被告製品の使用法に関する原告の主張は争うが、就中、次の二点は不当である。
(1) 原告主張の使用法(1)について 被告製品は、案内筒1及び管針2の基片3に設けられた両目印が一致する位置のほか、両目印が一八〇度回転した位置においても使用することが可能である。けだし、摘出時の効果に差異がないからである。
(2) 同(4)について 右の使用法は被告製品の本来の使用法ではない。すなわち、被告製品は、疾患部の組織片の摘出と同時に、予想される出血に対して止血剤を注射することを目的とするものであつて(乙第一三号証)、この目的を無視し、被告製品の特徴を無意味なものとする右のような使用法は全く予定されていない。
3 本件発明と被告製品との対比について 被告製品は、組織片採取の際に止血剤を注射するという目的上、管針2を支持する基片3と案内筒1の嘴管6とが着脱自在で、かつ、回転自在であるという構成を採ることが必須不可欠である。これに対し、本件発明の前記構成要件Dは、第一ハブ及び第二ハブが鞘及び摘出具の各後端部に順次同軸線上で固着されているとの趣旨に解釈すべきであること既述のとおりである。したがつて、被告製品は、右構成要件Dを充足しないし、また、作用効果においても本件発明と相違するから、本件発明の技術的範囲に属しない。
4 原告の損害について(一) 被告は、昭和五〇年一二月より前に被告製品を製造、販売したことはない。
すなわち、被告製品は、薬事法所定の医療用具に該当するから、同法第14条第1項の規定に基づく厚生大臣の承認を経て初めてこれを製造、販売しうるものである。そして、被告は、昭和五〇年八月一二日右承認の申請をし、同年一一月一九日この承認を得たうえ、同年一二月一日から被告製品の製造、販売を開始したものである(なお、被告製品の製造、販売の期間及び売上額は前述のとおりである。)。
(二) 本件発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額は、実施品の売上額の三パーセントとみるのが相当である。
すなわち、原告は、右の料率として五パーセントが相当であると主張し、その根拠として甲第五号証の一ないし三を援用する。しかしながら、生検針は、一般に、
鞘及び摘出具のみが金属で、その余の部分はプラスチツク材料からなるものであり、その加工の難易いかんもプラスチツクの部分にかかるものであるから、右甲第五号証の三記載の精密機械器具というより、むしろプラスチツク製品に類するものとみるべきである。しかして、プラスチツク製品については、右の料率は三パーセントが相当とされているのである(乙第一四号証の一ないし三)。
5 被告製品の製造、販売の虞れについて 被告は、昭和五三年一二月末日限り被告製品の製造、販売を中止し、現在は別紙参考図記載の新製品を製造、販売しているものである。したがつて、被告が今後被告製品を製造、販売する虞れはない。
なお、右新製品においては、採取針4の凹欠部11を被告製品よりも若干後方の位置に設け、採取針4に対して管針2を一ぱいに前進させた場合にも右凹欠部11が管針2の刃縁9にかからないようにしている。したがつて、右新製品に関する限り、原告主張のような使用上の問題点は生じない。
四 被告の主張に対する原告の反論1 本件発明の生検針は、次に述べるとおり、その構成及び作用効果において乙第五号証の生検針とは異なる。
(一) 構成について 乙第五号証の生検針が本件発明の構成要件AないしC及びHと同一の構成を備えていることは、被告の主張するとおりである。
ところで、本件発明の構成要件Dによれば、「第一ハブ」は「鞘」のためのハブであり、「第二ハブ」は「摘出具」のためのハブであるから、乙第五号証の生検針においては、柄b4が右にいう「第一ハブ」に、柄a4が「第二ハブ」にそれぞれ対応することになる。
そして、本件発明の構成要件Eは「第二ハブ」に「摺動板」を設けるというものであるところ、乙第五号証の生検針の柄a4には右にいう「摺動板」に対応すべき部分は存在せず、後述の「軌道」に対応すべき溝cが設けられているのである。したがつて、乙第五号証の生検針は右構成要件Eを充足しない。
次に、本件発明の構成要件Fは「第一ハブ」に「摺動板のための軌道」を設けるというものであるが、乙第五号証の生検針の柄b4には右にいう「軌道」に相当する部分はなく、ビスdが設けられているのみである。しかも、溝cに挿通されたビスdが溝部分c1にあるときは、針aと管状針bとの軸方向への相互運動中これらの回転が防止されるけれども、ビスdが溝部分c1の先端に来ると、そこから溝部分c2が柄a4の外周に沿つて一八〇度延びているから、管状針bは針aに対して半回転することになる。これに対し、本件発明の目約の一つは、「前記したような摘出具と鞘との相互の回転を除去した外科器具を提供するにある。」(本件公報第一頁第二欄第三八行から第頁項第三欄第一行まで)のである。したがつて、乙第五号証の生検針は右構成要件Fを充足しない。
また、本件発明の構成要件Gにおける「鞘の先端部が摘出具の先端を越えて前方に移行することを防止する」との部分は、本件明細書の発明の詳細な説明の欄における「前記切断刃の先端85が摘出具先端の傾斜面に迄進出する事の無い」との記載(本件公報第三頁第五欄第三四、第三五行)に対応し、かつ、その趣旨に解すべきものである。これに対し、乙第五号証の生検針は、管状針bの針頭b1が針aの先端部を越えて前方に進出することを許容し、針頭b1の最先端が針頭a1の最先端と同一線上に並ぶ位置で管状針bの前進を停止させるようになつているものである。したがつて、乙第五号証の生検針は右構成要件Gも充足しない。
もつとも、被告は右構成要件Gにいう「鞘の先端部が摘出具の先端を越えて前方に移行することを防止する」とは、「鞘の先端部が摘出具の先端部と並ぶ位置」に到達することを排除するものではないと主張する。しかしながら、右の部分を原告主張の趣旨に解すべきことは、本件明細書の発明の詳細な説明の欄における前記記載部分及び添附図面第八、第九図から明らかであるのみならず、仮に切断刃の先端部が摘出具の先端部と並ぶ位置まで進出するとすれば、全体として器具の挿入端は二叉に分岐し、穿刺することが不可能となること技術常識上明らかであるから、被告の右主張は不合理である。
また、被告主張の米国出願における審査の経過に関する事情は、特許権独立の原則に照らし本件発明の技術的範囲の解釈に直ちに影響を及ぼすものではないというべきである。
(二) 作用効果について 乙第五号証の生検針は、これを経皮的に使用する場合、次のような操作が必要である。
すなわち、最初ビスdが溝部分c1とc2の交差点に達するまで管状針bを針aに対して前進させる(乙第五号証第三図)。次いで、ビスdが溝部分c2上の前記交差点とは反対側に来るように、針aを管状針bに対して一八〇度回転し、針頭a1の最先端と頭針b1の最先端とが軸線上においても、円周上においても一致する位置に持つてくる(同第一図)。この状態で器具全体を皮下にある臓器に向かつて刺通し、所望の深さに達したならば、ビスdが前交差点に達するまで管状針bを反対側へ一八〇度回転させる(その後の手順は省略)。
右生検針においてこのような面倒な操作を必要とする理由は、管状針bを一ぱいに前進させた場合、その針頭b1の最先端が針aの先端部の傾斜面まで進出し、針頭a1及び針頭b1の先端が二叉に分かれるため、そのままでは穿刺が困難であるので、穿刺の際は管状針bを一八〇度回転させて用いなければならないからである。しかも、器具を所望の深さに刺通した後も、そのままではビスdが溝部分c2の側壁に阻まれて管状針bを後退させることができず、組織の切取りが不可能であるため、管状針bを反対側へ一八〇度回転させ、ビスdが溝部分c1の端部に達したならば、そこで管状針bを後退させるなどして組織を切り取ることになるのである。
これに対し、本件発明の生検針は、右のような回転操作を一切必要とせず、安全に組織を摘出できるという特徴を有するものである。
2 乙第九号証に示される技術は本件発明とは全く無関係である。
すなわち、同号証の器具は、血管に刺通し注射筒を接続して薬剤を注入するためのカニユーレであつて、生体の組織片を採取するための生検針とは異なる。しかも、その構成においても、マンドレル13は、カニユーレ管10の先端開口部を閉塞し、探り針として用いることができるのみで、組織を切り取ることは全く不可能であるうえ、カニユーレ管10は、マンドレル13のノブを固定したまま前方に移動させれば、その先端14を越えていくらでも前方に移行しうるものであつて、本件発明の生検針とは全く異なる。
3 以上に述べたところから明らかなように、本件発明は、その特許出願前において、乙第五号証により公知であつたものではなく、また、乙第五号証及び第九号証から当業技術者が容易に発明できたものでもない。したがつて、本件発明の技術的範囲を被告主張のように限定して解釈すべきいわれはない。
4 被告は、被告製品をその基片3の目印と案内筒1の目印とが一八〇度回転した位置においても使用することができると主張する。
しかしながら、被告製品の使用法を示すパンフレツト(甲第三号証)には、「肝生検の要領」として、「使用に先立ち、外針(C)の針基の赤印がストツパー付着部分と一致していることを確め」と記載され、被告主張のような使用法は指示されていない。のみならず、被告主張のような使い方をすると、器具全体の刺通時には支障はないとしても、次いで、採取針4のみをさらに前進させるか又は管針2のみを後退させ、次に、凹欠部11中へ喰い込んだ組織片を管針2を前進させて切り取ろうとする場合、管針2のとがつた最先端は凹欠部11の反対側にあるため、組織を突き刺しこれを固定することができず、さらに管針2を進出させてその傾斜した刃縁9が凹欠部11にかかると、その刃縁9が凹11に喰い込んだ組織を押し出してしまい、また、管針2を一ぱいに前進させた位置において管針2の刃縁9の後縁と凹欠部11の前縁との間に空隙が生ずるため、組織を切り取ることができない。
したがつて、被告の右主張は理由がない。
5 被告は、乙第一四号証の一ないし三を援用して、生検針はプラスチツク製品に類するから、本件発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額は実施品の売上額の三パーセントが相当であると主張する。
しかしながら、乙第一四号証の二にプラスチツク製品として掲げられているのは、合成樹指のフイルム、シート、ホース、床板等、主として加工も単純で、かつ、大量生産が可能な製品である。これに対し、生検針は、薬事法所定の医療用具に該当し、生命身体の安全に重大な影響を有するものであることからも明らかなように、その製造に当たつては高度の技術を必要とし、就中、金属部分の加工には高度の精密度が要求されるものであつて、前記プラスチツク製品と同列に論ずることはできず、むしろ甲第五号証の三記載の精密機械器具に属すべきものである。被告の右主張も理由がない。
6 被告は、昭和五三年一二月末日限り被告製品の製造、販売を中止し、現在は別紙参考図記載の新製品を製造、販売していると主張する。
しかしながら、仮にそうであるとしても、右の新製品なるものは、被告製品の基片3に描かれていた目印を一八〇度回転した反対位置に描き替えたものにすぎず、
構造上何らの付加変更を加えたものではないのみならず、これを使用して組織片を採取することが不可能であることは、前記4で述べたところから明らかである。したがつて、被告はいつ被告製品の製造、販売を再開するかも知れず、今後とも右製造、販売の虞れがあることは明らかである。
五 被告の抗弁(仮定) 仮に被告製品の製造、販売が本件特許権を侵害するものであるとしても、被告は、自らが専用実施権を有する前記実用新案権に基づき、その考案を実施する意思で被告製品の製造、販売を行つたものであつて、原告の本件特許権を侵害する意思は全くなかつたから、右侵害につき無過失であつたというべきである。
六 抗弁に対する原告の認否 抗弁は争う。
証拠関係(省略)
理 由一 原告がその主張のような会社であつて、本件特許権者であること及び本件明細書の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
そして、右争いのない特許請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第二号証(本件公報)を総合すれば、本件発明は、皮下疾患部の一部を経皮的に摘出、採取するために使用される検査標本摘出用器具、すなわち、いわゆる生検針に関する発明であつて、原告主張のようなAないしHの各構成要件からなるものであること及び本件発明の生検針の使用法は原告主張のとおりであることが認められる。
また、前掲甲第二号証及びいずれも成立に争いのない甲第六、第七号証、乙第五号証(但し、甲第六号証と乙第五号証は同一のもの)によれば、従来公知の生検針は、いずれも経皮的摘出操作の過程で摘出具と鞘相互回転を必要とするものであつたため、構造が複雑、大型化し、標本採取に要する時間も長いという欠点を有していたこと、これに対し、本件発明の生検針は、前述のような構成を採用した結果、
鞘を摘出具に対して軸方向に移動させるだけで組織片を切断することができ、相互回転は不必要かつ不可能となつているため、構造がより簡略化され、操作が著しく容易となり、標本採取の所要時間も短いという作用効果上の特徴を有するものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない(なお、前掲甲第六号証及び乙第五号証については後に詳述する。)。
二 次に、被告が昭和五〇年一二月一日から昭和五三年一二月末日までの間、被告製品(但し、被告製品の構造に関する別紙物件目録の記載中、「B 該案内筒1の先端嘴管6に挿脱自在」とある部分の次に、「かつ回転自在」との文言を付加すべきか否かの点を除く。)を業として製造、販売したことは当事者間に争いがなく、
右争いのない事実と成立に争いのない乙第一、第二号証を合わせ考えれば、被告製品は被告主張の実用新案、すなわち、被告が専用実施権を有する登録第一〇七六七三〇号の実用新案権(出題日 昭和四五年一二月一〇日)にかかる考案の実施品であり、その構成の特定としては、右乙第一号証(実用新案公報)中の実用新案登録請求の範囲の記載に照らして、別紙物権目録の記載をもつて必要かつ十分というべく、被告主張の前記文言を付加、挿入する必要はないと認めるのが相当である。
また、右に確定した被告製品の構造と前掲乙第一号証及び成立に争いのない甲第三号証の三を総合すれば、被告製品の使用法は原告主張のとおりであることが認められ、成立に争いのない乙第一三号証は何ら右認定と矛盾するものではないし、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。
三 そこで、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かにつき判断する。
1 ところで、被告は、本件発明の技術的範囲は本件明細書の発明の詳細な説明の欄及び図面に示される実施例の構成に限定されるとし、したがつて、本件発明の構成要件Dは、鞘及び摘出具の各後端部に第一ハブ及び第二ハブが順次同軸線で固着されているとの趣旨に解釈されるべきである旨主張する。しかして、その根拠とするところを要約すれば、本件発明の構成はその特許出願公知の仏国特許第一二六七九六〇号の特許明細書(前掲乙第五号証)に示される生検針の構成と同一であること、したがつて、本件発明の技術的範囲の確定に当たつては、右の公知技術を含まないように解釈する必要があり、そのためには被告主張の各構成要件を付加して限定しなければならないこと、しかしながら、本件発明は、右のような限定解釈を加えた場合においても、なおその特許出題前において当業技術者が右特許明細書及び同じく出願前公知のスウエーデン国特許第一四二八七九号の特許明細書(乙第九号証)から容易に発明しえたものであること、そうすると、本件発明は本来その特許が無効とされるべきものであるが、これをひとまず有効と解するにしても、その技術的範囲はさらに狭く、本件明細書の実施例の構成に限定して解釈すべきであること、というものである。
そこで、本件発明と被告製品との対北に先立つて、まず右主張の当否を検討する。
(一) 本件発明の構成がその特許出願前において乙第五号証により公知であつたか否かについて 前掲乙第五号証及び甲第六号証によれば、本件発明の特許出願前である昭和三七年二月一五日特許庁資料館に受け入れられた前記仏記国特許明細書には、生検針に関する発明が開示されていること及び右発明にかかる生検針(以下この項において「乙第五号証の生検針」という。)は本件発明の構成要件AないしC及びHと同一の構成を備えていることが認められ、なお右後段部分(乙第五号証の生検針が本件発明の構成要件AないしC及びHと同一の構成を備えていること)は当事者間に争いがない。
また、前掲両書証によれば、乙第五号証の生検針においては、本件発明の「鞘」に相当する管状針bの後端部に、「第一ハブ」に相当する柄b4が、また、本件発明の「摘出具」に相当するaの後端部に、「第二ハブ」に相当する柄a4が、そぞれ同軸線上に配置されていることが認められるから、乙第五号証の生検針は本件発明の構成要件Dと同一の構成を備えていることが明らかであり、この点は原告において明らかに争わないものと解される。
次に、本件発明の構成要件Eは「第二ハブ」に所定の「摺動板」を設けるというものであるところ、前掲両書証によれば、乙第五号証の生検針においては、本件発明の「第二ハブ」に相当する柄a4には「摺動板」に相当する部位が設けられておらず、むしろ後述の「軌道」に相当する溝cが設けられていることが認められる。
また、本件発明の構成要件Fは「第一ハブ」に所定の「軌道」を設けるというものであるのに対し、前掲両書証によれば、乙第五号証の生検針においては、本件発明の「第一ハブ」に相当する柄b4には「軌道」に相当する部位は存在せず、前述の「摺動板」に相当するビスdが設けられていることが認められる。しかも、乙第五号証の生検針は、前記溝cに挿通されたビスdが溝部分c1にあるときは、針aと管状針bとの軸方向への相互運動中これらの回転が防止されるが、ビスdが溝部分c1の先端端まで来ると、そこから溝部分c2が柄a4の外周に沿つて一八〇度延びているため、管状針bが針aに対して半回転するという構成であつて、本件発明の生検針と異なり、少なくとも経皮的摘出操作の際には針aと管状針bとの相互回転を必要とするものであることが、前掲両書証によつて明らかである。したがつて、乙第五号証の生検針は本件発明の構成要件E及びFとはその構成を異にするというべきである。
右の点につき、被告は、両者はその構成上、摺動板及び軌道を設ける箇所が逆になつているだけで、機能においては全く同一であるとし、その間の相違は単なる設計上の微差にすぎない旨主張するが、この主張を採りえないことは右に説示したところから明らかというべきである(なお、被告は、乙第五号証の生検針においても、本件明細書の第三図及び第七ないし第九図記載のように、針aの針頭a1と管状針bの針頭b1とを位置決めすれば、本件発明の生検針と同様に、両針を相互に回転させることなく組織片の摘出操作を行うことができるとの趣旨の主張をするが、このような使用法は前掲両書証中に何ら示唆されていないうえ、右の生検針には、被告主張のように両針頭を位置決めするにしても、その位置で両針頭を固定するための手段は設けられていないことが前掲両書証によつて明らかであるから、右のような使用法は到底因難というべきである。)。
右にみたとおりであつて、乙第五号証の生検針は、その余の点につき検討するまでもなく、本件発明の生検針とは構成を異にするというべきであるから、本件発明の構成がその特許出願前において乙第五号証(前記仏国特許明細書)により公知であつたとの被告の主張は理由がない。
(二) 本件発明はその特許出願前において当業技術者が乙第五号証及び第九号証から容易に発明しえたものであるか否かについて 成立に争いのない乙第九号証に本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、本件発明の特許出願前である一九五三年(昭和二八年)八月二七日に公告された前記スウエーデン国特許明細書には、二重構造の套管装置に関する発明が開示されていること、
もつとも、右発明にかかる器具は、血管に穿刺し、注射筒を接続して薬剤を注入するためのいわゆるカニユーレであつて、套管とこれに挿入される心金とが血管を穿刺するのに好適の構造を備えてはいるが、生体の組織を切断して採取するような構成にはなつていないことが認められる。すなわち、右特許明細書記載の器具は、本件発明の生検針とはその使用目的及び構成の両面において相違するから、これが本件発明の先行技術としてどの程度有用であるかは疑問である。
また、乙第五号証の生検針が、経皮的摘出操作の際に針aと管状針bとの相互回転を必要とする点において本件発明の生検針と相違するものであることは、前項に説示したとおりである。
なお、成立に争いのない乙第六ないし第八号証は、いずれも生検針に関する発明又は考案を開示したものであつて、本件発明の特許出願前に公知であつたものであるが、これらの生検針もまた、その操作時に本件発明の「鞘」に対応する部分と「摘出具」に対応する部分との相互回転を必要とすることが右乙各号証及び本件口頭弁論の全趣旨によつて明らかである。
したがつて、ほかに特段の立証のない本件においては、本件発明はその特許出願前に当業技術者が乙第五号証(したがつて甲第六号証)及び乙第九号証の開示内容に基づき容易に発明することができたなどと断定することは到底困難というべく(なお、いわゆる侵害訴訟において右のような容易に発明しえたなどという主張をすることの当否はしばらく措く。)、この点に関する被告の主張も理由がない。
右(一)及び(二)に説示したとおりであるから、本件発明の技術的範囲の限定解釈に関する被告の前記主張は、その前提において失当であり、採用するに由ないものである。
2 進んで、本件発明と被告製品とを対比する。
(一) 前記確定したとおり、被告製品の構造を示す別紙物件目録の記載によれば、被告製品の管針2は、両端が開口した長軸状であつて、その先端側の開口部が斜めに削成されて鋭利な刃縁9に形成されていることが明らかである(別紙物件目録第3図)。すなわち、右管針2は本件発明における「鞘」に該当するから、被告製品は本件発明の構成要件Aを充足する。
(二) 被告製品の採取針4も同じく長軸状であり、管針2内に摺動自在に挿入されている。
そして、右採取針4の先端及び後端はいずれも管針2の両端開口部から露出しており、かつ、その先端は斜めた削成した尖片10となつている。また、右採取針4は、管針2の先端開口部から進出後退して組織片を受納分離するための凹欠部11をその尖片10の背部に有している(以上につき、同第1図及び第5、第6図)。
すなわち、右採取針4は本件発明における「摘出具」に該当し、被告製品は本件発明の構成要件B及びCを充足するものである。
(三) 次に、被告製品の管針2の後端部には基片3が取り付けられ、この基片3に案内筒1の嘴管6を嵌合することにより、管針2と案内筒1とを目印を設けた位置において一体化できるようになつている(同第2、第3図及び第5、第6図。なお、右にいう「一体化」の意味については後に詳述する。)。一方、採取針4の後端部には基杆12が取り付けられている(同第1図)。そして、管針2と基片3及び案内筒1、また、右採取針4と基杆12とは、それぞれ同軸線上に配置されている。
また、基杆12からは採取針4に沿つて平行に前方へ遊離条片13が延び、右遊離条片13の先端には鈎状係片14が設けられ(同第1図)、かつ、右遊離条片13は案内筒1上に設けられた後記案内突条7、7間を自在に摺動できるようになつている(同第5、第6図)。したがつて、右案内筒1が本件発明における「第一ハブ」もしくはその一部分に該当する限り、右基杆12は本件発明の「第二ハブ」に該当することになり、被告製品はその限りにおいて本件発明の構成要件Dのうちの「第二ハブ」に関する部分及び構成要件Eを充足するものということができる。
ところで、被告製品の案内筒1には、その長さ方向に一対の案内突条7、7が間隔を置いて突設され(同第2図)、採取針4の基杆12から延びる前記遊離条片13のための軌道を形成しており、そのために案内筒1及びこれと一体化した管針2と採取針4との前進後退運動中、これらの相互回転が防止されるようになつている(先に認定した被告製品の使用法参照)。また、右案内筒1には、案内突条7、7の中間に係止突片8が設けられ(同第2図)、これが採取針4の遊離条片13先端の鈎状係片14と係合するため、採取針4が無制限に案内筒1から後退すること、
換言すれば、案内筒1と一体化した管針2が採取針4の先端部の尖片10を越えて前方に移行することはできないようになつている(同第6図)。
すなわち、被告製品は、管針2を支持する基片3と、遊離条片13のための軌道(案内突条7、7)及び係止手段(係止突止片8)を設けた案内筒1とを切り離して二個の部材としているため、直接には、案内筒1と採取針4との相互回転が阻止され、また、採取針4上で案内筒1の前方への移行が制限されるようになつている点において、本件発明とは一見構成を異にするかのようにみえなくもない。
しかしながら、被告製品の構造を示す別紙物件目録の記載及び先に認定した被告製品の使用法から明らかなように、被告製品の案内筒1の先端嘴管6はその外周面が円錐台状に形成されており、一方、管針2の基片3の内壁にはこれとほぼ同一形状の凹面が形成されているので(別紙物件目録第2図及び第5、第6図参照)、所定の目印の位置において嘴管6を基片3に強く嵌合した場合、管針2と案内筒1とは摩擦力等によつて係合され、容易に回転したり、脱離したりすることはないものである。しかして、被告製品は右に述べたように管針2と案内筒1とを一体化しない限り標本採取の目的を達成することができないのであるから、その案内筒1は基片3と相俟つて管針2のためのハブ部を構成し、これらが全体として本件発明における「第一ハブ」に該当すると解するのが相当である。
もつとも、前掲甲第二号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、
本件発明の実施例に関する説明として、「附号21(第6図)で示される合成樹脂製ハブは前記鞘13の一端部で強固に取付けられている」との記載(本件公報第二頁第三欄第一七、第一八行)があるところ、これに引き続く記載(本件公報第二頁第三欄第一九行から第四欄第一一行まで)を合わせ考え、かつ、添附図面第四ないし第六図を参照するならば、本件発明の実施例は「第二ハブ」に相当するハブ21と鞘13とが接着剤46を介して固着されているという構成のものであることが明らかである。しかしながら、本件発明における「鞘」と「第二ハブ」との配置に関する構成を右実施例のように限定して解釈すべき根拠は本件明細書中にこれを見出し難く、かえつて、前記発明の詳細な説明の欄には、「上記について本発明の一具体例を詳述したが、本発明は必ずしも斯る具体例に限定され得るもではなく」(本件公報第三頁第六欄第二四行から第二六行まで)と明記されているのである(前掲甲第二号証)。
右に説示したとおりであるから、被告製品は本件発明の構成要件Dのうちの「第一ハブ」に関する部分及び構成要件F、Gをいずれも充足するというべきである。
なお付言するに、被告製品においては、所望によつて止血剤を注射する必要がある場合に案内筒1が管針2の基片3から分離されることになるが、これは生検針の本来の目的である組織片の摘出、採取の作業が終了した後のことであるから(先に認定した被告製品の使用法参照)、右の事情が前記結論に何ら消長を来たすものでないことはいうまでもない。
(四) 被告製品は生検針であるから、これが本件発明の構成要件Hを充足することは明らかである。
(五) 以上のとおり、被告製品は本件発明の構成要件を全部充足するものである。しかして、被告製品は被告主張の前記実用新案の実施品であること先に認定したとおりであるが、これが本件発明の構成要件をすべて充足する以上、前記実用新案の登録出願の日前の出願にかかる本件発明を利用するものとしてその技術的範囲に属するものというべきである。
なお、被告は、被告製品は案内筒1と管針2の基片3とを、これらに設けられた各目印を一八〇度回転させた位置において嵌合することによつても使用することができる旨主張する。しかして、被告がいかなる意味合いで右のような主張をしているかは必ずしも明らかではないけれども、被告製品はその本来の使用法、すなわち、右の各目印を一致させて使用することにおいて、本件発明の技術的範囲に属すること右に詳述したとおりであるから、ほかに被告主張のような使用法が可能であるか否かの点は、本訴の帰趨とは無関係というべきである。
四 ところで、被告は、自らが専用実施権を有する前記登録第一〇七六七三〇号の実用新案権に基づき、その考案を実施する意思で被告製品の製造、販売をしたものであるから、本件特許権の侵害につき過失がなかつた旨主張する。
そして、被告製品が右考案の実施品に該当することは先に認定したとおりであるが、被告製品の製造、販売が右考案を実施する意思で行われたからといつて、直ちに本件特許権の侵害につき被告に過失がなかつたなどといえないことはいうまでもない。しかして、ほかに特段の立証のない本件においては、被告は被告製品の製造、販売により本件特許権を侵害したことにつき過失があつたと推定されるべきものである(特許法第103条)。
したがつて、被告は、被告製品の製造、販売によつて原告が蒙つた損害を賠償すべき義務を負うことになる。
五 進んで、原告の損害につき判断する。
思うに、原告は、被告製品の製造、販売によつて、原告主張のように、本件発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額、すなわち、いわゆる通常実施料の額に相当する額の損害を蒙つたとみるのが相当である。
1 そこでまず、被告製品の売上額いかんにつき検討する。
被告が、すくなくとも、昭和五〇年一二月一日から同月末日までの間に金一〇万三五〇〇円、昭和五一年一月一日から同年一二月末日までの間に金四六四万二九〇〇円、昭和五二年一月一日から同年一二月末日までの間に金四七六万九一〇〇円、
昭和五三年一月一日から同年一二月末日までの間に金七〇二万六一〇〇円、以上合計金一六五四万一六〇〇円相当の被告製品を製造、販売したことは、被告の認めて争わないところである。
しかして、甲第四号証及び第八号証は、その体裁及び内容に本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、いわゆる信用調査機関の作成にかかる調査報告書として真正に成立したものであることを肯認できなくもないけれども、その調査結果に関する記載のうち被告の生検針の製造、販売実績に関する部分は、これがいかなる資料、根拠に基づくものであるかの点の説明が甚だ不十分というほかなく、その信用性には疑念を禁じえないから、右の各調査報告書から直ちに被告が前記争いのない売上額を越えて原告主張の売上額に相当する被告製品の製造、販売をしたと認めるのは因難というべきであるし、ほかにこれを認めるに足る的確な証拠はない。
ところで、原告が不法行為の期間として主張しているのは、昭和四八年三月一五日から昭和五二年八月二四日までと昭和五二年八月二五日から昭和五三年一一月八日までの両者である。しかしながら、前記争いのない被告製品の売上額のうち、昭和五二年分については同年八月二四日、昭和五三年分については同年一一月八日の各前後の期間に対応すべき分がそれぞれいくらであるかについては、これを明らかにしうべき証拠が見当たらないから、按分比例の方法によつて確定するほかはない。そして、昭和五二年中の売上額は金四七六万九一〇〇円であるから、同年八月二四日以前の期間(二三六日間)に対応すべき分は、右の金額に三六五分の二三六を乗じて得た金三〇八万三五八二円(円未満切捨)となり、したがつて、同年八月二五日以降の期間に対応すべき分は、その残額である金一六八万五五一八円となる。また、昭和五三年中の売上額は金七〇二万六一〇〇円であるから、同年一一月八日までの期間(三一二日間)に対応すべき分は、右の金額に三六五分の三一二を乗じて得た金六〇〇万五八七一円(円未満切捨て)となる。
すなわち、被告は、昭和五〇年一二月一日から昭和五二年八月二四日までの間に、前記金一〇万三五〇〇円(昭和五〇年分)、金四六四万二九〇〇円(昭和五一年分)及び金三〇八万三五八二円(昭和五二年分中八月二四日以前のもの)の合計金七八二万九九八二円相当の、また、昭和五二年八月二五日から昭和五三年一一月八日までの間に、前記金一六八万五五一八円(昭和五二年分中八月二五日以後のもの)及び金六〇〇万五八七一円(昭和五三年分中一一月八日以前のもの)の合計金七六九万一三八九円相当の各被告製品を製造、販売したのである。
2 次に、本件発明の通常実施料の料率いかんにつき検討する。
右通常実施料の料率が実施品の売上額の少なくとも三パーセントを下らないものであることは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第五号証の一ないし三によれば、時計、光学器械、人工臓器等の精密機械器具に関する発明もしくは考案については、その通常実施料の料率を五パーセントとする契約事例が最も一般的であることが認められるところ、本件発明の対象である生検針は、その構造が複雑かつ細密であるうえ、その使用に際しては生体臓器の侵襲を伴うものであつて、生命身体の安全に少なからぬ影響を有するものであること先に説示したところから明らかというべきであるから、その設計、製造に当たつては高度の技術ないし精密度が要求されるものと考えられ、したがつて、生検針は前記精密機械器具に類するものとみるのが相当である。加えて、成立に争いのない乙第四号証によれば、
被告は昭和五三年一月三一日特許庁長官に対し、実用新案法第22条第3項の規定に基づき原告を相手方として、本件特許権につき通常実施権を設定すべき旨の裁定を請求し、現に右手続が係属中であるところ、被告は右手続において右通常実施権設定の対価としては実施品の販売価格の五パーセントが相当である旨主張していることが認められる。
右に述べた点を合わせ考えれば、本件発明の通常実施料の料率としては、原告が主張するように、実施品の売上額の五パーセントをもつて相当と認めるべきである。
もつとも、成立に争いのない乙第一四号証の一ないし三によれば、プラスチツク製品に関する発明もしくは考案については、
その通常実施料の料率を二パーセント又は三パーセントとする契約事例が多いことが認められるけれども、一方、右にいうプラスチツク製品とは、合成樹脂のフイルム、シート、ネツト、ホース、床板等の単純加工品を指称するものであつて、生検針をこれに擬する余地のないことも右乙号証によつて明らかであるから、これをもつて前記認定を覆すのは因難であるし、ほかにこの認定を覆すに足りる証拠はない。
3 そうすると、被告製品の製造、販売に対する本件発明の通常実施料の額は、昭和五〇年一二月一日から昭和五三年八月二四日までの製造、販売分につき、前記売上額金七八二万九九八二円に前記実施料率五パーセントを乗じて得た金三九万一四九九円(円未満切捨て)、昭和五二年八月二五日から昭和五三年一一月八日までの製造、販売分につき、前記売上額金七六九万一三八九円に同じく五パーセントを乗じて得た金三八万四五六九円(円未満切捨て)となり、原告は被告の前記侵害行為によつて右合計金七七万六〇六八円に相当する額の損害を蒙つたことになる。
六 被告が昭和五〇年一二月一日から昭和五三年一二月末日までの間、被告製品を製造、販売したことは、前述のとおり被告の認めて争わないところである。
ところで、被告は、昭和五三年一二月末日限り被告製品の製造、販売を中止し、
現在は別紙参考図記載の新製品を製造、販売している旨主張する。しかしながら、
仮にそうであるとしても、被告主張の新製品なるものは、右参考図の記載及び被告のその余の主張(被告の主張5参照)によつても、高々、被告製品の基片3に設けられていた目印を一八〇度回転した反対位置に変更したほか、採取針4の凹欠部11を従前よりも若干後方の位置に設けたというものであるにすぎず、その余の構成は被告製品と同一であることが窺われるのである。
右に述べた点と被告の本訴における抗争の態様その他本件口頭弁論の全趣旨を合わせ考えれば、被告は今後とも被告製品の製造、販売をする虞れがあり、かつ、現在なお被告製品を所有していると認めるのが相当である。
七 以上の次第であつて、原告の本訴各請求は、被告製品の製造、販売の差止、被告所有の被告製品の廃棄及び前記損害金七七万六〇六八円と内金三九万一四九九円に対する不法行為の後である原告主張の昭和五二年九月一日から、内金三八万四五六九円に対する同じく不法行為の後である原告主張の昭和五三年一一月九日から各支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条第92条、仮執行の宣言につき同法第196条の各規定を適用し、なお主文第二項については仮執行の宣言は不相当であるのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
追加
<12169-001><12169-002><12169-003><12169-004><12169-005><12169-006><12169-007><12169-008><12169-009><12169-010>物件目録一物品名臓器生検計(太サイズおよび細サイズ)二図面の説明(太サイズおよび細サイズとも構造は同じ)第1図は採取針およびその基部の斜視図、第2図は案内筒の斜視図、第3図は採取針の斜視図、第4図は喞子杆の斜視図、第5図および第6図は使用状態における臓器生検針の縦断図面である。
三構造A先端に嘴管6を一体に突設し、一側に長さ方向に一対の案内突条7、7を間隔を存して突設し、その間隔内の中間に係止突片8を設けた案内筒1と、(第2図)B該案内筒1の先端嘴管6に挿脱自在の基片3(該案内筒1および該基片3には挿着位置を示す目印が設けられている)を有し、先端を斜めに削成してその端縁を鋭利な刃縁9に形成した管針2と、(第3図)C先端を斜めに削成して尖片10とし、その下部に凹欠部11を形成し根部に基杆12を有し且つ該基杆の一側に前記案内筒1一側の案内突条7、7間に挿入して係合突片8と係脱する鈎状係片14を先端に設けた遊離条片13を設け、案内筒1に結着した管針2に挿脱できるようにした採取針4と、(第1図)D案内筒1に挿脱自在の喞子杆5(第4図)との組合せからなる。
<12169-011><12169-012><12169-013><12169-014>
裁判官 秋吉稔弘
裁判官 野崎悦弘
裁判官 安倉孝弘