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関連審決 無効2002-35465
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  技術常識 /  実質的に同一 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  訂正明細書 /  申し立てない理由 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10188号 審決取消請求事件
原告 エス・ケー・エンジニアリング株式会社
原告 A
原告ら訴訟代理人弁理士 清原義博
同 坂戸敦
被告 植平コンクリート工業株式会社
同訴訟代理人弁理士 小谷悦司
同 樋口次郎
同 小谷昌崇
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/04/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2002―35465号事件について平成16年1月20日にした審決中,「特許第2775392号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは,発明の名称を「透水性舗装路面用側溝」とする特許第2775392号の特許(平成6年5月19日出願,平成10年5月1日設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成14年10月28日,本件特許につき無効審判の請求をした(無効2002―35465号)ところ,原告らは,平成15年1月27日,訂正請求をした(以下「本件訂正」という。)が,特許庁は,平成16年1月20日,本件訂正を認めた上,「特許第2775392号の請求項(判決注・「請求項1ないし3」の誤記と認められる。)に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月30日,原告らに送達された。
2 特許請求の範囲 本件訂正後の本件特許に係る明細書(甲3中の「全文訂正明細書」。以下「本件明細書」という。)の請求項1ないし3の記載は,次のとおりである(以下,これらの発明をそれぞれ「本件発明1」等という。)。
【請求項1】 不透水性の下地層表面に透水性を有する表層が施工された排水性舗装道路内に埋設されてなる側溝であって,この側溝は底部と側壁とを備えた筺体とこの筺体内部に形成される排水路とから構成され,前記側壁には前記排水路と連通する導水口が設けられ,該導水口の開口部が舗装道路内の表層と下地層との境界又は境界よりも若干下部に設けられてなることを特徴とする排水性舗装路面用側溝。
【請求項2】 不透水性の下地層表面に透水性を有する表層が施工された排水性舗装道路内に埋設されてなる側溝であって,この側溝は底部と側壁とを備えた筺体とこの筺体内部に形成される排水路とから構成され,前記側壁には前記排水路と連通する導水口が設けられ,該導水口が側壁の長手方向に沿った一本の筋状に設けられ,該導水口の開口部が舗装道路内の表層と下地層との境界又は境界よりも若干下部に設けられてなることを特徴とする排水性舗装路面用側溝。
【請求項3】 不透水性の下地層表面に透水性を有する表層が施工された排水性舗装道路内に埋設されてなる側溝であって,この側溝は底部と側壁とを備えた筺体とこの筺体内部に形成される排水路とから構成され,前記側壁には前記排水路と連通する導水口が設けられ,該導水口は開口部とこの開口部と連通する通水部とから形成され,前記開口部の開口径が通水部の口径よりも径大とされ,該導水口の開口部が舗装道路内の表層と下地層との境界又は境界よりも若干下部に設けられてなることを特徴とする排水性舗装路面用側溝。
3 本件審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。
要するに,本件審決は,まず,「アスファルト舗装要綱」206〜207頁(社団法人日本道路協会,平成5年1月16日発行)(甲4。以下「刊行物1」という。)には,次のいずれかの発明が記載されていると認定した。
「不透水性の下地層表面に透水性を有する排水性舗装用アスファルト混合物の層が施工された排水性舗装道路内に埋設されてなる側溝であって,この側溝は底部と側壁とを備えた筺体とこの筺体内部に形成される排水路とから構成され,前記側壁には前記排水路と連通する開口が設けられている排水性舗装路面用側溝。」(以下「刊行物1発明1」という。) 「不透水性の下地層表面に透水性を有する排水性舗装用アスファルト混合物の層が施工された排水性舗装道路内に埋設されてなる側溝であって,この側溝は底部と側壁とを備えた筺体とこの筺体内部に形成される排水路とから構成されている排水性舗装路面用側溝。」(以下「刊行物1発明2」という。) その上で,本件審決は,上記のいずれを前提にしても,本件発明1〜3は,刊行物1,実願昭63-128798号(実開平2-50483号公報)のマイクロフィルム(甲5。以下「刊行物2」という。)及び実願昭58-99480号(実開昭60-8774号公報)のマイクロフィルム(甲6。以下「刊行物3」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであるとした。
なお,本件審決が認定した本件発明1〜3と刊行物1記載の発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(1) 刊行物1発明1を前提にした場合 ア 本件発明1について [一致点] 「不透水性の下地層表面に透水性を有する表層が施工された排水性舗装道路内に埋設されてなる側溝であって,この側溝は底部と側壁とを備えた筺体とこの筺体内部に形成される排水路とから構成され,前記側壁には前記排水路と連通する導水口が設けられてなることを特徴とする排水性舗装路面用側溝。」 [相違点a] 本件発明1の側溝の側壁に設けられた導水口の開口部は,舗装道路内の表層と下地層との境界又は境界よりも若干下部に設けられているのに対し,刊行物1発明1の導水口の開口部は,舗装道路内の表層と下地層との境界又は境界よりも若干下部に設けられているかどうか明確でない点。 イ 本件発明2について [一致点]及び[相違点a]は,上記アと同じ [相違点b] 本件発明2の導水口は,側壁の長手方向に沿った一本の筋状に設けられているのに対し,刊行物1発明1の側溝の側壁に設けられた導水口はそのようになっていない点。 ウ 本件発明3について [一致点]及び[相違点a]は,上記アと同じ [相違点c] 本件発明3の導水口の開口部は,その開口径が通水部の口径よりも径大とされているのに対し,刊行物1発明1の側溝の側壁に設けられた導水口はそのようになっていない点。
(2) 刊行物1発明2を前提にした場合 ア 本件発明1について [一致点] 「不透水性の下地層表面に透水性を有する表層が施工された排水性舗装道路内に埋設されてなる側溝であって,この側溝は底部と側壁とを備えた筺体とこの筺体内部に形成される排水路とから構成されてなることを特徴とする排水性舗装路面用側溝。」 [相違点a′] 本件発明1の側溝の側壁には,排水路と連通する導水口が設けられ,該導水口の開口部が舗装道路内の表層と下地層との境界又は境界よりも若干下部に設けられているのに対し,刊行物1発明2の側溝の側壁には導水口が設けられておらず,したがって導水口の開口部が舗装道路内の表層と下地層との境界又は境界よりも若干下部に設けられているものではない点。 イ 本件発明2について [一致点]及び[相違点a′]は,上記アと同じ [相違点b′] 本件発明2の導水口は,側壁の長手方向に沿った一本の筋状に設けられているのに対し,刊行物1発明2の側溝の側壁には導水口が設けられていない点。
ウ 本件発明3について [一致点]及び[相違点a′]は,上記アと同じ [相違点c′] 本件発明3の導水口の開口部は,その開口径が通水部の口径よりも径大とされているのに対し,刊行物1発明2の側溝の側壁には導水口が設けられていない点。
原告ら主張に係る本件審決の取消事由の要点
本件審決は,刊行物1に刊行物1発明1が記載されていると誤認して,本件発明1〜3と刊行物1記載の発明との相違点を看過し(取消事由1),また,本件発明1〜3と刊行物1記載の発明との相違点についての判断を誤った(取消事由2)結果,本件発明1〜3についての進歩性の判断を誤り,さらに,手続違背の瑕疵を有する(取消事由3)ものであり,これらの違法が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。
なお,刊行物1発明2の認定及び本件発明1〜3と刊行物1発明2との一致点・相違点の認定は争わない。
1 取消事由1(相違点の看過―刊行物1発明1について) 本件審決は,刊行物1には,側壁に「開口」が設けられている刊行物1発明1が記載されていないにもかかわらず,誤って刊行物1に同発明が記載されていると認定した(審決書6頁)結果,本件発明1〜3と刊行物1記載の発明との相違点を看過したものである。
すなわち,刊行物1が発行された平成5年当時の排水性舗装道路の排水構造は,透水性層を浸透した雨水を側壁の一部を透水性コンクリートとした集水桝へと導く構造であった(甲24)。この排水構造は,平成9年当時においても依然として用いられていた(甲27)。このように,刊行物1が発行された当時,側溝に穴を開けて排水性舗装道路の浸透水を排水する構造は全く存在しておらず,専ら集水桝を利用した排水構造が用いられていたのである。
また,刊行物1の「図-9.5.1(a)」における2つの矢印は,透水層の全面からの流れを意味していると考えられるから,「図-9.5.1(b)」に描かれた2つの矢印も,同様の流れを意味すると解するのが合理的である。
これらの事情によれば,刊行物1の「図-9.5.1(b)」に記載された側溝は,「一方の側壁に透水性コンクリートが設けられた側溝」(甲31の4参照)であって,側壁に「開口」が存在しないものであることが,当業者にとって明確であるにもかかわらず,本件審決は,上記図面から,側壁に「開口」が存在するという刊行物1発明1を誤って認定したものである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) (1) 本件発明1〜3の構成の想到困難性 本件審決は,「刊行物1記載の発明に刊行物2,3記載の発明を適用して本件発明1〜3の構成を想到することは当業者にとって容易である」と判断したが,誤りである。
ア 刊行物2記載の発明の認定の誤り 本件審決は,上記判断の前提として,刊行物2記載の「流水ブロック2」,「透水ブロック3」が,本件発明1〜3の「不透水性の下地層」,「透水性を有する表層」に相当すると認定した(審決書8頁)が,誤りである。
本件発明1〜3の「不透水性の下地層」,「透水性を有する表層」は,いずれも車道である排水性舗装道路の構成層であるのに対して,刊行物2記載の「流水ブロック2」,「透水ブロック3」は,テニスコート等の砂地の多い場所(道路でない場所)に設置される単なるブロックである。
また,本件発明1〜3の「不透水性の下地層」,「透水性を有する表層」は,道路の全面から雨水を浸透させて排水するという排水性舗装道路としての機能を発揮することを目的とし,表層が下地層を完全に被覆するように車道の全幅にわたって施工されることが必須となるものであるのに対して,刊行物2記載の「流水ブロック2」,「透水ブロック3」は,テニスコート等の不透水性の地表面から流れてきた雨水を集水して排水することを目的とし,テニスコート等の地表面の周囲部分にのみ限定的に狭い幅で,しかも「流水ブロック2」の一部が地表面に露出するように設置されるものである。
したがって,本件発明1〜3の「不透水性の下地層」,「透水性を有する表層」と,刊行物2記載の「流水ブロック2」,「透水ブロック3」とは,目的,構成,用途(適用場所)のすべてにおいて著しく異なっており,同一視することはできない。
イ 本件特許出願当時の技術水準 本件特許出願当時,排水性舗装の施工は,ようやく試験施工の域を超えつつあった段階にすぎず,舗装技術については未だ確立されていなかった(甲21,22)。また,排水性舗装における排水構造としては,専ら透水性の表層への浸透水を「集水桝」へと排水する構造が用いられていた(甲23〜27)。「側溝に横穴を設けて排水性舗装の浸透水を直接排水する構造」については,採用可能性を確認するための実験すら未だ行われておらず,ましてや横穴(開口部)の深さ位置は全く決定されていなかった(甲28)ものであり,上記構造についての特許・実用新案・意匠の出願は1件もなされていなかった(甲32)。
このように,本件特許出願当時の技術水準においては,排水性舗装における排水構造として,浸透水を集水桝へと排水することが当業者間の技術常識であり,「側溝に横穴を設けて排水性舗装の浸透水を直接排水する」構成の採用可能性すら検討されていなかったから,本件発明1〜3の構成は全く想定し得なかったものである。
ウ 刊行物1記載の発明と刊行物2,3記載の発明との技術分野等の相違 刊行物1記載の発明は,ごく最近になって創出された特殊構造を有する排水性舗装道路に適用されるものである。一方,刊行物2記載の発明は,テニスコート,陸上競技場,ゴルフ場,公園等の砂地の多い場所に使用されるものである。
また,刊行物3記載の発明は,湿潤地域に埋設される側溝に関するものであり,刊行物3に係る出願と前後する同一出願人による他の出願(甲29,30)の内容も考慮すれば,田んぼの畦等に適用されるものと考えられる。このように,刊行物1記載の発明と刊行物2,3記載の発明とは,適用対象を大きく異にする。
また,上記適用対象の相違に伴い,刊行物1記載の発明においては,道路を大型車が通行するため排水構造物に莫大な荷重が加わるが,刊行物2,3記載の発明においては,地中に埋設される排水構造物にほとんど荷重が加わらない。このように,刊行物1記載の発明と刊行物2,3記載の発明とは,適用条件を大きく異にする。
さらに,刊行物1記載の発明は,雨水等が排水性舗装内部に滞留しないようにするため,側溝の側壁の一部を透水性コンクリートとして排水性舗装内の雨水等を排水するものである。一方,刊行物2記載の発明は,土砂が排水管の内部に流入して詰まることを防止するため,地表を水と共に流れてきた土砂を透水性ブロックに到達する前の地表に沈殿させて排水管への土砂の流入量を減少させるものである。また,刊行物3記載の発明は,湿潤地域において地中水圧によりU字溝が浮き上がることを防止するため,側壁に水みちを設けることで集水効率を高めて浮き上がりを防ぐものである。このように,刊行物1記載の発明と刊行物2,3記載の発明とは,使用目的,機能・作用を大きく異にする。
以上のとおり,刊行物1記載の発明と刊行物2,3記載の発明は,適用対象,適用条件,使用目的,機能・作用のいずれにおいても著しく相違しているのであるから,技術の転用が極めて困難である大きくかけ離れた技術分野に属するものである。
このことは,無効審判の審理経過からも明らかである。すなわち,無効審判の手続において,被告は,当初,排水性舗装道路に関する証拠は一切提出していなかったが,原告らが,透水性舗装と排水性舗装とは技術分野が全く異なる旨主張したところ,新たな証拠として排水性舗装道路に関する刊行物1を提出した。特許庁は,上記新証拠を職権で採用し,無効理由通知をした。このように,被告がわざわざ新証拠を提出し,特許庁がこれを採用するためにわざわざ迂遠な手続を採ったことは,被告はもちろん,特許庁さえも,透水性舗装と排水性舗装とが互いに技術の転用が困難な技術分野に属していることを十分に認識していたことを示すから,まして砂地等(刊行物2)や田んぼの畦道等(刊行物3)に係る発明を排水性舗装道路(刊行物1)に転用することが容易なはずがない。
(2) 本件発明1〜3の顕著な作用効果 本件審決は,「本件発明1〜3の作用効果は顕著でない」と判断したが,誤りである。
ア 刊行物1には,排水性舗装の透水性層と接する部分を透水性コンクリートから形成した側溝を用いた排水構造が記載されているが,このような構造には致命的な欠点があり,現実的にはほとんど実施不可能なものである。すなわち,このような側溝は,車道に沿って長距離に亘って連続的に上面を露出させて埋設されるものであるから,車道を通行する大型車の車輪によって踏まれて上方から車両荷重が加わることは不可避であり,そうすると透水性コンクリートの部分が割れることがあり,強度を長期的に維持することが不可能であった。
これに対して,本件発明1〜3に係る側溝は,導水口が排水性舗装道路の表層と下地層の境界又は境界よりも若干下部という道路表面からある程度の深さをもった位置に設けられていることから,路面から加わる車両荷重が導水口部分に集中して加わることなく分散され,側溝が簡単に破損することはない。
このように,本件発明1〜3に係る側溝は,集水機能と強度をバランスよく両立させて排水性舗装路面用側溝としての実用化を可能としたものであり,実用化が不可能な刊行物1に記載された側溝に比べて格別顕著な作用効果を奏するものである。
イ また,本件発明1〜3の出願当時の排水性舗装における排水構造としては,甲24に示された構造と,甲25,26に示された構造が存在していたが,本件発明1〜3の排水構造は,これらの排水構造に比べても格別顕著な作用効果を奏するものである。
すなわち,甲24に示された構造は,透水性層を浸透した雨水を集水桝の側壁からのみ取り入れる構造である。集水桝は道路に沿って一定間隔にしか設置されないため,この構造は集水効率が非常に悪い。また,耐圧強度の低い透水性コンクリートが表面に露出しているため,側溝に比べると破損の危険性は少ないものの,やはり強度の点で大きな問題がある。
次に,甲25,26に示された構造は,細い導水パイプを通して集水桝まで雨水を導く構造であるため,甲24に示された構造よりは集水効率が勝っているものの,やはり集水効率が悪く,導水パイプには異物も詰まり易い。さらに,施工時においては,側溝や集水桝とは別に導水パイプを埋設する作業が必要であるため,作業効率が悪い。
これらに対して,本件発明1〜3の排水構造では,@雨水を側溝に設けられた導水口から直接取り入れる構造であるため集水効率が非常によく,しかも異物が詰まる可能性も低い。また,導水口の数を増やすことにより,側溝自体の強度をほとんど低下させることなく,大幅に集水効率を向上させることも可能となる。
Aしかも,導水口が道路表面からある程度の深さをもった位置に設けられているため,路面から加わる車両荷重によって側溝が破損することはない。Bさらに,施工時においては,導水パイプを別途埋設する必要がないため,作業効率が非常に優れたものとなる。このように,本件発明1〜3は,集水性,強度,施工性の全ての面において,本件特許出願当時の技術に比較して格別顕著な作用効果を奏するものである。
3 取消事由3(手続違背) 本件審決は,当事者が申し立てない理由について審理しながら,その結果を原告に通知しないままなされたものであり,特許法153条2項違反の瑕疵を有するものである。
すなわち,本件審決に係る無効審判手続において,特許庁は,無効審判請求時に提出されていなかった新たな証拠(刊行物1,2)を職権で採用して審理を行い,原告(被請求人)らに対して無効理由通知書(甲7)による通知をした。しかるところ,上記無効理由通知書における無効理由と本件審決における無効理由とは,「本件発明1〜3は,刊行物1記載の発明に刊行物2ないし3記載の発明を適用することにより当業者が容易に想到できたものである」という大略的な理由においては確かに共通しているものの,刊行物1記載の発明の認定内容が全く異なっているから,具体的無効理由においては全く異なるものである。
そうであれば,本件審決は,被告(請求人)が申し立てておらず,かつ,原告(被請求人)らに対して通知がなされていない新たな理由について審理したにもかかわらず,原告(被請求人)らに対して再度意見を申し立てる機会を与えずになされたものであり,特許法153条2項違反の瑕疵を有する。
被告の反論の要点
本件審決の判断に誤りはなく,原告らの主張する本件審決の取消事由には理由がない。
1 取消事由1(相違点の看過)について 刊行物1の図-9.5.1(b)では,透水性の表層と不透水性の下地層の境界の上方において側方に流れる水が,側溝の側壁を通過して側溝内部の排水路に流入することは明確に示されていると認められるが,側溝の側壁を水が通過する部分の具体的な構造は図示も説明もされていない。
ところで,排水用設備の分野において,地中に浸透する雨水を排水路に導入するため,排水路を構成する筐体の側壁に開口を形成することは,刊行物2,3のほか,甲8,9等に示されるように,本件特許出願前に周知の技術である。
そうであれば,刊行物1の図-9.5.1(b)に示された,排水用設備の一種である側溝において,側壁の水を通過させるべき部分に開口を設けることは,当業者にとっては透水性コンクリートを用いること以上に自明のことである。
したがって,本件審決の刊行物1発明1の認定に誤りはなく,原告らの主張する相違点の看過もない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 刊行物1に示された排水性舗装道路の側溝でも,少なくとも浸透水を通過させて側溝内の排水路に導入する導水部が側壁に設けられることは開示されている。また,舗装道路の側溝等の排水設備において浸透水を側溝内に直接導くため側溝の側壁に開口を設けるという技術は,前記1のとおり,本件特許出願前に周知の技術である。したがって,刊行物1に示されている排水性舗装道路の側溝において,側壁に設けられている導水部を開口とすることは,本件特許出願当時の当業者にとって自明の事項であるというべきである。
そして,刊行物1ないし3記載の発明はいずれも同じ技術分野に属するものであるから,刊行物1記載の発明に,開口部に関する刊行物2,3記載の発明を適用して,本件発明1〜3の構成とすることは,当業者が容易に想到しうることであり,上記適用には何らの阻害要因もない。
(2) 刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用した構造を想定した場合でも,刊行物1記載の側溝の側壁に導水口が設けられ,その導水口の位置が表層と下地層の境界又は境界よりも若干下部となることから,原告らの主張するような効果は,当然に生じるものである。
また,本件特許に係る出願当初の明細書には車道を対象とした場合に格別の効果があるというようなことは一切記載されていない。しかも,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用した構造でも,車道を対象とする場合であれば車載荷重に耐え得る程度の強度が得られるように側溝を形成することは,当業者であれば設計上当然に考えることにすぎない。
したがって,本件発明1〜3の作用効果は格別顕著なものではない。
3 取消事由3(手続違背)について 無効理由通知書に示されている無効理由と本件審決における無効理由とは,「本件発明1〜3は,刊行物1記載の発明に刊行物2ないし3記載の発明を適用することにより当業者が容易に想到できたものであって,特許法29条2項に該当する」という点で何ら違いはない。つまり,無効理由通知と本件審決とでは,具体的理由において多少の違いがあったとしても,引用例及び主たる理由が異なるものではないため,原告らの主張する手続違背はない。
当裁判所の判断
本件審決は,刊行物1には,刊行物1発明1又は刊行物1発明2のいずれかが記載されていると認定した上,いずれを前提にしても,本件発明1〜3は,刊行物1ないし3記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであると判断したものである。そして,原告らの主張する取消事由1は,刊行物1発明1に基づく判断についてのみ主張されたものである。そこで,以下では,まず,刊行物1発明2に基づく判断について主張された取消事由2,3について検討する。
1 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 本件発明1〜3の構成の想到容易性について 原告らは,本件審決が「刊行物1記載の発明に刊行物2,3記載の発明を適用して本件発明1〜3の構成を想到することは当業者にとって容易である」と判断したのは誤りである旨主張する。
ア 刊行物1には,「不透水性の下地層表面に透水性を有する排水性舗装用アスファルト混合物の層が施工された排水性舗装道路内に埋設されてなる側溝であって,この側溝は底部と側壁とを備えた筺体とこの筺体内部に形成される排水路とから構成されている排水性舗装路面用側溝。」(刊行物1発明2)が記載されており,本件発明1〜3と刊行物1発明2とが,「不透水性の下地層表面に透水性を有する表層が施工された排水性舗装道路内に埋設されてなる側溝であって,この側溝は底部と側壁とを備えた筺体とこの筺体内部に形成される排水路とから構成されてなることを特徴とする排水性舗装路面用側溝。」(審決書11頁,12頁,13頁)である点で一致することについては,当事者間に争いがない。
イ そして,刊行物1発明2は排水構造に係る発明ということができるから,排水性能を向上するという技術課題を当然に有するものであるところ,刊行物1発明2に係る「排水性舗装路面用側溝」において,側溝の筐体に開口を設ければ,透水性の表層から側溝の外側まで浸透して来た雨水等が側溝内の排水路へ流入するのを阻止するものがなくなり,その排水性能が向上することは明らかであるから,刊行物1発明2において側溝の筐体に開口を設けることは,当業者が必要に応じて適宜行う設計事項といえる。
現に,排水構造の分野において,地中に浸透する雨水を排水路に導入するため,排水路を構成する筐体の側壁に開口を形成することは,刊行物2,3(後記ウ,オ参照)のほか,甲8に示されるように,本件特許出願前に周知の技術である。すなわち,実願平1―104119号(実開平3―42886号公報)のマイクロフィルム(甲8)には,「透水性の舗装に隣接される排水溝,排水管或いは集水桝等の排水用構造物であって,内部に形成された排水路の壁部に,前記舗装内に浸透した水を前記排水路へ導き入れるための導水孔が貫通して設けられていることを特徴とする排水用構造物。」(実用新案登録請求の範囲)が記載されている。
ウ 一方,刊行物2には,次の記載がある(甲5)。
「内部に排水流路を有し,該排水流路に連通する導入穴を側面の上部に開設した排水管を埋設し,一側に向って下り傾斜する流水面を上面に有する流水ブロックを上記流水面の傾斜下端が導入穴に臨む状態で上記排水管の側方に埋設し,該流水ブロック上に透水性を有する透水ブロックを載置して該透水ブロックの上面を地表に露出させてなる雨水等の排水構造物。」(実用新案登録請求の範囲) 「流水ブロック2を埋設する場合には流水面6の傾斜下端が排水管1の導入穴5の入口の開口下縁と同じか僅かに高くなるように配置し…流水ブロック2の流水面6の上に透水ブロック3を載置する。」(6頁10〜16行) 「雨水は透水ブロック3の空隙内に染み込んで,流水ブロック2の流水面6上に流下する。そして,この雨水は,流水面6の下り傾斜により流下して排水管1の導入穴5を通って排水流路4内に流れ込む。」(7頁7〜11行) これらの記載に第1図の記載も併せれば,刊行物2には,「透水性の表層と,その下に配置される不透水性の層と,内部に排水路が形成される筐体とを備え,該筐体に前記排水路と連通する導水口を設けた排水構造であって,導水口の開口部を,透水性の表層とその下に配置される不透水性の層との境界又は境界よりも若干下部に設けたもの」という発明が記載されていると認められる。
そして,刊行物1発明2と刊行物2記載の発明は,共に,不透水性の層の上に配置される透水性の表層と,内部に排水路が形成される筐体とを備えた排水構造であって,該排水構造の観点からすれば,両者は同一の技術分野に属するものということができる。
エ そうであれば,刊行物1発明2に係る「排水性舗装路面用側溝」において,上記イのように,その排水性能を向上するために側溝の筐体に開口を設けるに当たり,上記ウのように同一の技術分野に属する刊行物2記載の「導水口の開口部を,透水性の表層とその下に配置される不透水性の層との境界又は境界よりも若干下部に設ける」構成を適用して,本件発明1〜3の相違点a′に係る構成とすることは,当業者が容易になし得る程度の事項というべきである。
オ 次に,本件発明2,3のみに係る相違点b′,c′について検討すると,刊行物3には,次の記載がある(甲6)。
「側壁部に集水孔を有するU字溝において,前記側壁部の外面に前記集水孔の下端に接して段状の水みちを設けたことを特徴とする集水孔付U字溝」(実用新案登録請求の範囲) 「第1図〜第3図において,1はU字溝,4は集水孔,5は水みちである。…集水孔4は…本実施例の場合,第3図に示すごとく集水孔4の外径を内径より大きくし…ている。水みち5は側壁部2の外面に,集水孔4の下端に接して設けられている。水みちより上部の側壁部に付着した水は,まず側壁部をほぼ垂直に水みち5まで流れ落ち,しかる後水みち5に沿って集水孔4まで流れ,集水孔4を通ってU字溝内に流入するのである。水みちのU字溝外側面における形状は,水平でもよい…」(2頁14行〜3頁12行) 「第5図において・・・(d),(e)は側壁部の断面形状を凹として段状の水みち25d,25eを設けた例である。」(3頁18行〜4頁6行) 「本考案品は水みちより上部の側壁部に付着した水をほとんどすべて集水することができ,集水孔の直上に付着した水しか集水できなかった従来品に比べはるかに集水効率がよい」(4頁10〜13行) これらの記載に第1〜3,5図の記載も併せれば,刊行物3には,排水構造に用いられる側溝において,集水効率を向上するために,側溝の側壁の外面に導水口を,側壁部の長手方向に沿った一本の筋状に集水孔の下端に接して設けたり,導水口の開口部の開口径を通水部の口径より大きくしたりすることが記載されていると認められる。
そうであれば,同じく側溝に関する刊行物1発明2において,排水性能を向上するという技術課題を達成するために,集水効率を向上するための刊行物3記載の上記発明を適用して,本件発明2,3の相違点b′,c′に係る構成とすることは,当業者が容易になし得る程度の事項というべきである。
カ 以上のとおり,「刊行物1記載の発明に刊行物2,3記載の発明を適用して本件発明1〜3の構成を想到することは当業者にとって容易である」との本件審決の判断に誤りはない。
キ これに対し,原告らは,刊行物2の「流水ブロック2」,「透水ブロック3」は,テニスコート等の排水を目的として,テニスコート等の地表面の周囲部分にのみ限定的に設置される,単なるブロックにすぎないから,本件発明1の「不透水性の下地層」,「透水性を有する表層」とは,目的,構成,用途(適用場所)の全てにおいて著しく異なっており,同一視することはできない旨主張する。
しかしながら,刊行物2の「流水ブロック2」,「透水ブロック3」が,単なるブロックであったとしても,その上面を地表に露出させた「透水ブロック3」が「流水ブロック2」の上に載置されており,これらが上下に重なりあっている以上,これらを「透水性の表層」とその下に配置される「不透水性の層」であるということができることは明らかである。また,本件発明1と刊行物2記載の発明との間に,原告らの主張するような目的,用途(適用場所)の相違があったとしても,これらの相違は,前記ウ認定の排水構造の構成とは無関係の事項であるから,前記認定を何ら左右するものではない。したがって,原告らの上記主張は理由がない。
ク また,原告らは,本件特許出願当時の技術水準においては,排水性舗装における排水構造として,浸透水を集水桝へと排水することが当業者間の技術常識であり,「側溝に横穴を設けて排水性舗装の浸透水を直接排水する」構成の採用可能性すら検討されていなかったから,本件発明1〜3の構成は全く想定し得なかった構成である旨主張する。
しかしながら,刊行物1発明2に係る「排水性舗装路面用側溝」において,側溝の筐体に開口を設ければ,その排水性能が向上することが自明であり,現に,排水用設備の分野において,地中に浸透する雨水を排水路に導入するため,排水路を構成する筐体の側壁に開口を形成することが,本件特許出願前に周知の技術であることは,前記イのとおりであって,仮に,本件特許出願当時において,排水性舗装における排水構造としては,浸透水を集水桝へと排水することが当業者間の技術常識であるとしても,そのことは,刊行物1発明2に係る「排水性舗装路面用側溝」において,側溝の筐体に開口を設ける構成とすることが容易になし得るものであるとの判断を何ら妨げるものではない。
また,現実に排水性舗装路を施工するに当たり,側溝に横穴を設ける構成を採用するか否かは,例えば,施工場所の立地や降雨量等の環境条件や,施工に許容される費用等の経済条件のような,排水性舗装路を実際に施工する際の現実的諸条件を考慮して決定されるものである。したがって,仮に,本件特許出願当時,排水性舗装技術が確立されておらず,側溝に横穴を設けて排水性舗装の浸透水を直接排水する構造が存在せず,その採用可能性を確認するための実験もなされていなかったとしても,これらのことから,「排水性舗装道路において側壁に導水口が設けられた側溝を用いる」構成を当業者が想定し得なかったものであると直ちにいうことはできない。
さらに,仮に,本件特許出願当時,側溝に横穴を設けて排水性舗装の浸透水を直接排水する構造について特許・実用新案・意匠の出願がなされていないとしても,このことは,上記構造の新規性を基礎付けるものということはできるものの,その進歩性を基礎付けるものとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は理由がない。
ケ 原告らは,刊行物1記載の発明と刊行物2,3記載の発明とは,適用対象,適用条件,使用目的,機能・作用のいずれにおいても著しく相違し,技術の転用が極めて困難であるほど技術分野が相違する旨主張する。
しかしながら,仮に,刊行物1発明2と刊行物2,3記載の発明とが原告らが主張する点で相違するとしても,原告らの主張する適用対象,適用条件,使用目的,機能・作用に係る相違点は,いずれも,刊行物1発明2と刊行物2,3記載の発明がいずれも排水構造に係るものであることを否定するものではない。してみると,原告らが主張する上記の事項は,いずれも排水構造の構成という観点からすれば,刊行物1発明2に係る「排水性舗装路面用側溝」に刊行物2,3記載の構成を適用することを困難とするほどの技術分野の相違を基礎付けるものとはいえない。したがって,原告らの上記主張は理由がない。
コ 原告らは,本件審決に係る無効審判の審理経過からすれば,被告や特許庁が,透水性舗装と排水性舗装とを互いに技術の転用が困難な異なる技術分野に属するものと認識していたことが示されるから,まして砂地や畦道等に関する刊行物2,3記載の発明を排水性舗装道路に転用することは困難である旨主張する。
しかしながら,仮に,被告や特許庁が,原告らの主張するような認識を有していたとしても,被告や特許庁の主観的な認識によって,本件発明1〜3の進歩性の有無が左右されるものではない。そもそも,本件審決は,刊行物2,3記載の発明を排水性舗装道路に関する刊行物1発明2に適用することが容易であると判断しているのであるから,特許庁が原告らの主張するような認識を有していたということはできない。したがって,原告らの上記主張は理由がない。
(2) 本件発明1〜3の作用効果について 原告らは,刊行物1記載の側溝は,強度の点で実用化が不可能であるのに対して,本件発明1〜3に係る側溝は,集水機能と強度をバランスよく両立させて実用化を可能としたものであり,刊行物1記載の側溝その他本件特許出願当時存在していた排水性舗装における排水構造と比較して,格別顕著な作用効果を奏するものであるから,本件審決が「本件発明1〜3の作用効果は顕著でない」と判断したのは誤りである旨主張する。
しかしながら,本件発明1〜3に係る構成は,刊行物1発明2に刊行物2,3記載の発明を適用して当業者が容易に想到できるものであることは,前記(1)のとおりであるところ,原告らが主張する「集水機能と強度をバランスよく両立させて実用化を可能とした」という上記作用効果は,容易に想到し得る本件発明1〜3の構成から当業者が当然に予測し得る程度のものにすぎない。したがって,原告らが主張する上記作用効果は,当業者が予測不可能なほど顕著なものということはできず,本件発明1〜3の進歩性を基礎付けるものではないというべきであり,原告らの上記主張は理由がない。
(3) 以上のとおり,原告らの取消事由2の主張は理由がない。
2 取消事由3(手続違背)について 原告らは,本件審決は,被告(請求人)が申し立てておらず,かつ,原告(被請求人)らに対して通知がなされていない新たな理由について審理したにもかかわらず,原告(被請求人)らに対して再度意見を申し立てる機会を与えずになされたものであり,特許法153条2項違反の瑕疵を有する旨主張するので,検討する。
(1) 本件審決に係る無効審判手続における無効理由通知書(甲7)においては,刊行物1に,「不透水性の下地層表面に透水性を有する排水性舗装用アスファルト混合物の層が施工された排水性舗装道路内に埋設されてなる側溝であって,この側溝は底部と側壁とを備えた筐体とこの筐体内部に形成される排水路とから構成され,前記側壁には前記排水路と連通する導水口が設けられ,該導水口の開口部が舗装道路内の排水性舗装用アスファルト混合物の層に設けられている排水性舗装路面用側溝。」が記載されていると認定し(3頁),それを前提として,本件発明1〜3は,刊行物1記載の発明に刊行物2,3記載の発明を適用することにより当業者が容易に想到できたものである旨の無効理由が記載されている。
一方,本件審決においては,刊行物1には,「不透水性の下地層表面に透水性を有する排水性舗装用アスファルト混合物の層が施工された排水性舗装道路内に埋設されてなる側溝であって,この側溝は底部と側壁とを備えた筐体とこの筐体内部に形成される排水路とから構成され,前記側壁には前記排水路と連通する開口が設けられている排水性舗装路面用側溝。」(刊行物1発明1)又は「不透水性の下地層表面に透水性を有する排水性舗装用アスファルト混合物の層が施工された排水性舗装道路内に埋設されてなる側溝であって,この側溝は底部と側壁とを備えた筐体とこの筐体内部に形成される排水路とから構成されている排水性舗装路面用側溝。」(刊行物1発明2)のいずれかが記載されていると認定し(審決書6頁),いずれを前提としても,本件発明1〜3は,刊行物1記載の発明に刊行物2,3記載の発明を適用することにより当業者が容易に想到できたものである旨判断されている。
(2) 無効理由通知書と本件審決の内容を比較すると,確かに,無効理由通知書においては,刊行物1に,側壁に排水路と連通する導水口が設けられた排水性舗装路面用側溝が記載されていると認定しているのみで,導水口の存在しない排水性舗装路面用側溝(刊行物1発明2)が記載されているとは認定していない(なお,無効理由通知書において認定された刊行物1記載の発明と,刊行物1発明1とは,多少表現が異なる箇所があるものの,実質的に同一のものということができる。)。
(3) しかしながら,無効理由通知書と本件審決の内容が,「本件発明1〜3は,刊行物1記載の発明に対して,刊行物2ないし刊行物3記載の発明を適用することにより当業者が容易に想到できたものである。」という基本的な理由において共通していることは,原告らも認めるとおりである。
(4) また,原告(被請求人)らは,無効理由通知に対する意見書(甲37)において,上記(1)のとおりの無効理由通知書における刊行物1記載の発明の認定に対する反論をするのみならず,刊行物1発明2を前提とした場合の本件発明1の進歩性について意見を具体的に述べている。すなわち,「(4.2)本件発明の進歩性について (4.2.1)本件訂正発明1について (A)本件訂正発明1が刊行物1及び2記載の発明から当業者が容易に想到できたものであるか否かについて」の項において,「上記したように,刊行物1の図-9.5.1の『(b)側溝排水の場合』の図に示された点線部は,穴ではなく全面透水可能な透水性コンクリートを意味しているから,刊行物1には『排水性舗装道路において,側壁に排水路と連通する導水口が設けられた側溝』を用いる構成は全く記載されていない。」(17頁26〜29行)として,刊行物1に刊行物1発明2が記載されていることを前提とした上で,原告(被請求人)らが主張する本件特許出願当時の技術水準を基に,本件発明1〜3のような「排水性舗装道路において側壁に導水口が設けられた側溝を用いる」構成や「側溝の導水口の位置を特定すること」の想到困難性について,概ね本件訴訟における取消事由2と同様の内容を主張している(17頁30行〜20頁23行)。
(5) さらに,前記1(1)イのとおり,刊行物1記載の「排水性舗装路面用側溝」において,排水性能を向上させるために,側溝の筐体に開口を設けることは,当業者が適宜行う設計事項にすぎず,現に,排水構造の分野において,地中に浸透する雨水を排水路に導入するため,排水路を構成する筐体の側壁に開口を形成することは,本件特許出願前に周知の技術である。
(6) 以上によれば,@無効理由通知書と本件審決における内容は,「本件発明1〜3は,刊行物1記載の発明に対して,刊行物2,3記載の発明を適用することにより当業者が容易に想到できたものである。」という基本的な理由において共通し,A原告(被請求人)らは,本件審決に係る無効審判手続において,刊行物1に導水口の存在しない「排水性舗装路面用側溝」(刊行物1発明2)が記載されていることを前提とした反論をしており,Bしかも,無効理由通知書と本件審決における無効理由の実質的な相違点に係る「側溝に導水口を設ける」構成は,本件特許出願前に周知であったものである。
そうであれば,刊行物1記載の発明の認定に関し,無効理由通知書と本件審決における無効理由に上記(2)のような相違が存在するとしても,原告(被請求人)らには,これに対する反論の機会が実質的に与えられており,改めて意見申立ての機会を与えなくても当事者に実質的な不利益が生じるとはいえない。したがって,本件審決を取り消すべき違法があるということはできず,原告らの取消事由3の主張は理由がない。
3 結論 以上のとおり,刊行物1発明2に基づく本件審決の判断について主張された取消事由2,3はいずれも理由がないから,刊行物1発明1について主張された取消事由1については判断するまでもなく,本件審決を取り消すべきであるとの原告らの主張は理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告らの本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 若林辰繁
裁判官 沖中康人