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関連審決 無効2003-35491
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10086号 審決取消請求事件
原告 株式会社富士機械工作所
訴訟代理人弁理士 倉内義朗
同 國富豪
被告 アイセル株式会社
訴訟代理人弁理士 園田敏雄
同 宮崎栄二
同 奥野隆夫
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/04/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2003-35491号事件について平成16年6月30日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,被告が原告の有する特許について平成15年11月28日に無効審判を請求したところ,特許庁が平成16年6月30日に後記本件特許を無効とする審決をしたところから,原告がその取消しを求めて提起した訴訟である。
当事者間の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「自動溶接装置」とする特許第1592995号発明(昭和60年10月17日特許出願〔以下「本件特許出願」という。〕,平成2年12月14日設定登録,以下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成15年11月28日,本件特許を無効にすることについて審判の請求をし(甲12),無効2003-35491号事件として特許庁に係属し,原告は,平成16年3月8日,本件特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載等について訂正(以下「本件訂正」という。)を求める訂正請求をした(甲14の1,2)。
特許庁は,同事件について審理した結果,平成16年6月30日,「訂正を認める。特許第1592995号の明細書の特許請求の範囲第1項に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,平成16年7月9日原告に送達された。
(2) 発明の要旨 本件訂正に係る明細書(以下「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「本件発明」という。)の要旨は,下記のとおりである。
記 「短板を曲げ加工して予め略真円状の短管となされたワークの継目を溶接する自動溶接装置であって, 入口がワーク径より大きくなされるとともに内部が溶接時のワーク径と同径に絞られた貫通穴が設けられ,入口側の端部中央から軸方向に沿って刃先がワークの継目内に入り込むように貫通穴内に突入されたワークの位置決め部材が設けられ,位置決め部材の延長上にある出口側近傍に溶接用の開口部が,貫通穴 の全周 が閉じる 部分 を介して 設けられた溶接治具と, 溶接治具に設けられた開口部上に具備された溶接トーチと, ワークを溶接治具の貫通穴に送り込み,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を連続的に行う送り手段とからなることを特徴とする自動溶接装置。」(下線部は訂正箇所) (3) 審決の内容 審決の詳細は,別添審決謄本写し記載のとおりである。その要旨とするところは,本件発明は,特開昭55-24782号公報(審判甲1・本訴甲1,以下「刊行物1」という。)及び実願昭57-192488号(実開昭59-99073号)のマイクロフィルム(審判甲2・本訴甲2,以下「刊行物2」という。)記載の発明(以下,それぞれ「刊行物1発明」,「刊行物2発明」という。)並びに甲1公報,甲2公報,特開昭52-133053号公報(審判甲3・本訴甲3,以下「刊行物3」という。)及び特開昭59-76690号公報(審判甲4・本訴甲4,以下「刊行物4」という。)記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものであるというものである。
(4) 審決の取消事由 しかしながら,本件審決は,本件発明と刊行物1発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),本件発明と刊行物1発明との相違点を看過し(取消事由2),本件発明と刊行物1発明との相違点の認定を誤り(取消事由3),本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断を誤り(取消事由4〜6),本件発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由7)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本件発明と刊行物1発明との一致点の認定の誤り) 審決は,刊行物1発明を「切板を成形してオープンパイプ(11)とし,同オープンパイプ(11)のシーム部(2)を溶接する自動溶接装置であって,駆動ロール(38)及びスクイズロール(13)が設けられ,溶接トーチ(14)上流側の駆動ロール(38)とスクイズロール(13)との間にロータリーシームガイド(18)を設け,スクイズロール(13),(13)間に具備された溶接トーチ(14)と,オープンパイプ(11)を駆動ロール(38)に送り込む動作を連続的に行う送り込みローラー(16)とからなる自動溶接装置」(審決謄本9頁第2段落)と認定した上,この刊行物1発明を本件発明と対比し,「後者(判決注,刊行物1発明)の『切板を成形してオープンパイプ』とすることは,その技術的意味からみて,前者(判決注,本件発明)の『短板を曲げ加工して予め略真円状の短管』とすることに相当し,したがって,後者の『オープンパイプ(11)』は,前者の『略真円状の短管となされたワーク』に相当する。また,後者の『シーム部(2)』,『送り込みローラー(16)』はそれぞれ前者の『継目』,『送り手段』に相当し,後者の『ロータリーシームガイド(18)』は,縮径過程で継目を位置決めする手段である限りにおいて,前者の『ワークの位置決め部材』と一致する。また,刊行物1の記載事項・・・からみて,2つのスクイズロール(13),(13)がオープンパイプを縮径する作用を成すことは明らかであるから,2つのスクイズロール(13),(13)と,本件発明の『溶接治具』とは,ワークを縮径する手段である限りにおいて一致する」(同12頁第2段落〜第3段落)とする。そして,両者の一致点として,「短板を曲げ加工して予め略真円状の短管となされたワークの継目を溶接する自動溶接装置であって,ワークを縮径する手段と,縮径過程で継目を位置決めする手段と,溶接トーチと,ワークを,ワークを縮径する手段に送り込む動作を連続的に行う送り手段とからなることを特徴とする自動溶接装置」(同頁「一致点」の項)を認定した。
しかしながら,審決の上記一致点の認定は,以下に述べるとおり,誤りである。
(ア) 刊行物1発明の「送り込みローラー(16)」は,本件発明の「送り手段」に相当するものではない。
刊行物1発明の「送り込みローラー(16)」は,ワークを突き合わせて連続的に「駆動ロール(38)」へ送り込むものであるのに対して,本件発明の「送り手段」は,間欠的にワークを溶接治具へ送り込むものである点で両者は異なる。そして,刊行物1発明の技術的課題及び目的にかんがみれば,「送り込みローラー(16)」によりワークを「駆動ロール(38)」へ連続的に送り込むという構成は,不可欠なものである。刊行物1(甲1)の第1図,第2図等に示される配置構成によれば,ワークを「駆動ロール(38)」へ間欠的に送り込む場合には,ワークの支持が不安定となるから,ワークを連続的に送り込むという構成は,刊行物1発明において,必須の構成であり,「送り込みローラー(16)」は,間欠的にワークを溶接治具へ送り込む本件発明の「送り手段」とは,本質的に異なるものである。本件発明に係る訂正明細書(甲14の2)の特許請求の範囲第1項には,「間欠的」の文言はないが,本件発明の目的にかんがみれば,本件発明の「送り手段」がワークを間欠的に送るものであることは,明細書に記載がなくても明らかである。
(イ) 刊行物1発明の「ロータリーシームガイド(18)」は,本件発明の「ワークの位置決め部材」と一致するものではない。
刊行物1発明の「ロータリーシームガイド(18)」は,その形状が円形であるため,ワークの継目と一点でのみ接するものである。これに対して,本件発明の「ワークの位置決め部材」は,入口側の端部中央から軸方向に沿って刃先がワークの継目内に入り込むように貫通穴内に突入された構成となっており,この点で両者は異なる。
また,刊行物1発明の「2つのスクイズロール(13),(13)」は,本件発明の「溶接治具」と一致するものではない。
刊行物1発明の「2つのスクイズロール(13),(13)」は,本件発明の「溶接治具」と一致するのであれば,刊行物1発明の「ロータリーシームガイド(18)」は,本件発明の「溶接治具」の上流側に設けられていることになり,このような位置に「ロータリーシームガイド(18)」が設けられた場合,ワークの後端が「ロータリーシームガイド(18)」を通過した後には,ワークの位置決めが不正確となる。特に,刊行物1発明では,前後のワーク同士が単に突き合わされたにすぎない状態で送られることから,ワークの位置決めは不正確になるのに対し,本件発明の「ワークの位置決め部材」は,上記のような構成であるため,ワークの位置決めが不正確になる等の不具合はなく,この点で両者は異なる。
イ 取消事由2(本件発明と刊行物1発明との相違点の看過) 本件発明の「溶接治具」には,「貫通穴の全周が閉じる部分」が設けられている。そうすると,本件発明と刊行物1発明は,「刊行物1記載の発明においては,ワークを縮径する手段が『2つのスクイズロール(13),(13)』であって,貫通穴が設けられていないことにより,位置決め部材(ロータリーシームガイド(18))は貫通穴に設けられておらず,溶接用の開口部も存在しない点」(審決謄本12頁〜13頁「相違点1」の項)だけではなく,「『貫通穴の全周が閉じる部分』が存在しない点」においても相違するが,審決は,上記相違点を看過した誤りがある。
本件発明の「溶接治具」は,「貫通穴の全周が閉じる部分」を設けた構成により,貫通穴に挿入されたワークは貫通穴内を進み,溶接治具の開口部付近に達するとワーク継目がぴったり合わせられ,ワークの外周面がしっかりクランプされた状態で溶接されるため,熱歪等によるワークの継目の開き及び溶接部分の起き上がりが規制され,初期設定寸法どおりの寸法精度の高い短管製品を得ることができるという作用効果を奏するのに対して,刊行物1発明の「2つのスクイズロール(13),(13)」は,具体的な構成及び作用効果は明らかではなく,本件発明の「溶接用治具」と同様の作用効果を奏するものではない。
ウ 取消事由3(本件発明と刊行物1発明との相違点の認定の誤り) 審決は,本件発明と刊行物1発明との相違点4として,「本件発明においては,送り手段が,『ワークを溶接治具の貫通穴に送り込み,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を連続的に行う』のに対し,刊行物1記載の発明においては,送り手段である送り込みローラーは『オープンパイプ(11)を駆動ロール(38)に送り込む動作を連続的に行う』ものの,駆動ロール(38)に送り込んだ後,更に,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を行うか否かについては明かでない点」(審決謄本13頁「相違点4」の項)を認定したが,誤りである。
すなわち,刊行物1発明の「送り込みローラ(16)」は,その配置構成等から,単に,ワークを連続的に「駆動ロール38」に送り込むだけのものであって,「駆動ロール(38)に送り込んだ後,更に,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作」を伴わないことは明らかである。
エ 取消事由4(本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り1) 審決は,本件発明と刊行物1発明との相違点1として,「本件発明においては,ワークを縮径する手段が『溶接治具』であり,同溶接治具は『入口がワーク径より大きくなされるとともに内部が溶接時のワーク径と同径に絞られた貫通穴が設けられ,入口側の端部中央から軸方向に沿って貫通穴内に突入されたワークの位置決め部材が設けられ,位置決め部材の延長上にある出口側近傍に溶接用の開口部が,貫通穴の全周が閉じる部分を介して設けられ』ているのに対し,刊行物1記載の発明においては,ワークを縮径する手段が『2つのスクイズロール(13),(13)』であって,貫通穴が設けられていないことにより,位置決め部材(ロータリーシームガイド(18))は貫通穴に設けられておらず,溶接用の開口部も存在しない点」を認定した(審決謄本12頁〜13頁「相違点1」の項)。そして,この相違点1について,@「刊行物2記載の発明においては溶接する対象は長尺管(連続管)であり,短管ではないが,スクイズブロックにてワークを縮径し,溶接時にその継目を合わせた状態を保つ限りにおいて,スクイズブロックは本件発明の溶接治具と同等の作用効果を成すことは明かであり,この作用効果は,ワークの縮径の過程にて得られるものであることから,溶接する対象が短管であるか,長尺管であるかに依存しないものである」(同13頁下から第2段落),A「刊行物1記載の発明におけるワークを縮径する手段として,刊行物2記載の発明のスクイズブロックを適用することに格別困難な点は見い出せない」(同),B刊行物2記載の発明は,「導入される鋼板Aを円管状に成形するため,左右一対となるスクイズブロック10に半円筒状の管案内面11が形成され,同管案内面11で形成される円形は管流れ方向上流側は上流側に沿い漸次大径,下流側は所望鋼管径と同一とし,上面から管案内面11にまで達するトーチ切欠12が設けられた溶接用スクイズブロツク10」であるが(審決謄本10頁第2段落),この「刊行物2記載の発明」における『一対のスクイズブロック』を一体とし,『管案内面11で形成される円形』を貫通穴とすることに格別困難な点は見いだせない」(同13頁最終段落〜14頁第1段落),C「刊行物4に記載されるように,ワークの継目の部分をクランプする手段(刊行物4記載のシームガイドロール(10))を設けることは本件出願前に公知である・・・更に,刊行物2記載の発明において,スクイズブロックには溶接用の開口部が設けられており,その開口部を設ける位置をスクイズブロックのどの部分に設けるかは適宜定められる設計事項であり,溶接する箇所を,ワークの継目の部分をクランプする手段を介して設けることも刊行物4に記載されるように本件出願前に公知である」(同14頁第3段落〜第4段落)とした上,D「刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用するにあたって,刊行物1,2及び4に記載の事項及び技術常識を勘案して,ワークを縮径する手段を,『入口がワーク径より大きくなされるとともに内部が溶接時のワーク径と同径に絞られた貫通穴が設けられ,入口側の端部中央から軸方向に沿って貫通穴内に突入されたワークの位置決め部材が設けられ,位置決め部材の延長上にある出口側近傍に溶接用の開口部が,貫通穴の全周が閉じる部分を介して設けられた溶接治具』とすることは当業者が容易に成し得た」(同14頁第5段落)と判断したが,以下に述べるとおり,誤りである。
(ア) 本件発明の「溶接治具」と刊行物2発明の「スクイズブロック」とは本質的に異なっており,上記@のようにいうことはできない。
ワークの継目の突き合せ部分がオーバーラップしたり,上下に食い違ったりするという刊行物2発明における技術的課題は,非常に大まかな精度のレベルの問題である。刊行物2発明の「スクイズブロック」は,左右2個一対のものとして形成され,その対向間隔が調節可能となっているため,必然的に本件発明の「貫通穴の全周が閉じる部分」に相当する部分を設けることができないように構成されている。本件発明では,溶接治具に「貫通穴の全周が閉じる部分」を設けるという特有の構成により,「短板を曲げ加工して予め略真円状の短管となされたワークは溶接治具の貫通穴内を通り,ワークの外周面がしっかりクランプされた状態で溶接されるため,熱歪等によるワークの継目の開き及び溶接部分の起き上がりが規制され,初期設定寸法通りの寸法精度の高い短管製品を得ることができ」る(訂正明細書〔甲14の2〕6頁第1段落)という作用効果を奏するのに対して,刊行物2発明では,このような作用効果を奏し得ない。
(イ) 短管の溶接装置に関する技術と長尺管の溶接装置に関する技術とを組み合わせて適用することは容易ではないため,上記Aのようにいうことはできない。
本件発明は,熱歪等によるワークの継目の開き及び溶接部分の起き上がりが発生するという技術的課題を解決して,寸法精度の高い製品を得ることを目的としているが,寸法精度を阻害する要因として,溶接による熱歪に加え,板材を曲げ加工することによって発生する内部応力がある。板材から短管製品を造る場合,板材を曲げると内部応力が発生し,この内部応力が熱歪とともに継目の開きの原因となるのである。そして,ワークの継目を先端から溶接していくと,溶接が済んだ部分では,継目の開きの問題が解消されていく一方で,溶接が済んでいない部分にその問題が集積されていく。この結果,ワークの後端が最も熱歪及び内部応力の影響を受けることとなり,寸法精度を阻害することとなるのである。短管の溶接装置では,管の長さに応じた板材から短管を製造するため,ワークの後端における継目の開きや溶接部分の起き上がりの問題が大きければ大きいほど,寸法精度の高い短管製品を得られなくなる。これに対して,長尺管の溶接装置の場合には,長いコイル状のワークを用いるため,このワークのうち,上記不具合の発生箇所となる後端部分の占める割合はわずかしかなく,ワークのほとんどの部分は,上記不具合とは関係ない部分であり,しかも,その後端部分で不具合が発生しても,その後端部分を切り落として製品として使用しなければよく,残りほとんどの部分を製品として使用できる。このように,長尺管の溶接装置の場合には,短管の製造装置において問題となるワークの後端部分における上記不具合は,ほとんど問題とならなくなるといってよく,本件発明の技術的課題及び目的は,短管の溶接装置に特有のものであって,長尺管の溶接装置に直ちに該当するものではない。短管の溶接装置に関する技術と長尺管の溶接装置に関する技術とを組み合わせて適用することには,動機付けがなく,相当の困難性が存在することは明らかである。
(ウ) 刊行物2(甲2)には,左右一対の「スクイズブロック」の対向間隔が調節可能であることは記載されているが,対向間隔の調節が必要ない場合に関する記載及び一対の「スクイズブロック」を一体として構成することも可能な旨の記載は一切ない。すなわち,刊行物2発明の「スクイズブロック」は,対向間隔が調節可能な左右一対の「スクイズブロック」であって,対向間隔の調節はあくまで微調整のためである旨の記載,対向間隔の調節が必要ない場合に関する記載及び一対の「スクイズブロック」を一体として構成することも可能な旨の記載は,刊行物2のどこにも見当たらないのであるから,上記Bのようにいうことはできない。仮に,上記「スクイズブロックを一体として構成しても良いことは明らかである」との認定が正しいとしても,このことから,一体となった「スクイズブロック」において,「貫通穴の全周が閉じる部分」が存在することを示唆するものではない。
(エ) 刊行物4(甲6)は,長尺管の溶接装置に関するものであり,短管の溶接装置に関する技術と長尺管の溶接装置に関する技術とを組み合わせて適用することは容易ではないため,上記Cのようにいうことはできない。また,刊行物4には,「シームガイドロール(10)」がワークの継目をクランプするとの記載はない。「シームガイドロール(10)」は,ワークの継目と単に当接しているにすぎず,「金属テープ2」が始めて突合された部分「b点」において,その突合せ側縁がラップしないようにガイドするには,「シームガイドロール10」は,その第5図に示されるように,「金属テープ2」の突合せ部と,単に当接してさえいれば十分である。したがって,刊行物4記載の「シームガイドロール(10)」は,ワークの継目をクランプするものではない。
仮に,刊行物4記載の「シームガイドロール(10)」がワークの継目をクランプする手段であるとしても,それは,ワークの継目の部分のみをクランプする手段でしかなく,本件発明の「溶接治具」の「貫通穴の全周が閉じる部分」とは,構成及び技術的な意義が全く異なる。すなわち,刊行物4記載の「シームガイドロール(10)」は,「金属テープ2」の突合せ側縁がラップしないように,「金属テープ2」の突合せ部のみをクランプするものである。そして,刊行物4は,薄肉管溶接装置に関するものであり,薄肉管の素材となるのは「金属テープ2」のような薄い金属条であることから,「金属テープ2」の突合せ側縁がラップしないようにするためには,ワークの全周をクランプする必要はなく,「金属テープ2」の突合せ部のみをクランプすることで足りる。これに対して,本件発明の「溶接治具」の「貫通穴の全周が閉じる部分」は,熱歪等によるワークの継目の開き及び溶接部分の起き上がりを規制するために,ワークの外周を,全周にわたって,しっかりクランプするものである。そして,熱歪等によるワークの継目の開き及び溶接部分の起き上がりを規制するためには,ワークの継目の部分のみをクランプするのみでは足りず,ワークの全周をクランプする必要がある。したがって,「溶接する箇所を,ワークの継目の部分をクランプする手段を介して設ける」という点について,刊行物4記載の「シームガイドロール(10)」と本件発明の「溶接治具」の「貫通穴の全周が閉じる部分」とは,構成及び技術的な意義が全く異なっている。
オ 取消事由5(本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り2) 審決は,本件発明と刊行物1発明との相違点3として,「本件発明においては,溶接トーチが『溶接治具に設けられた開口部上に具備』されているのに対し,刊行物1記載の発明においては,溶接トーチが2つのスクイズロール(13),(13)の間に設けられている点」(審決謄本13頁「相違点3」の項)を認定し,これについて,「刊行物2には,『トーチ切欠12には溶接トーチ30が臨設される。』と記載されている・・・。してみれば,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用するにあたって,溶接トーチはスクイズブロックの開口部上に設けることとなることは当然の構成である」(同14頁最終段落〜15頁第1段落)と判断した。
しかしながら,上記エ(イ)のとおり,短管の溶接装置に関する技術と長尺管の溶接装置に関する技術とを組み合わせて適用することは容易ではないから,審決の上記判断は誤りである。
カ 取消事由6(本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り3) 審決は,本件発明と刊行物1発明との相違点4として,「本件発明においては,送り手段が,『ワークを溶接治具の貫通穴に送り込み,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を連続的に行う』のに対し,刊行物1記載の発明においては,送り手段である送り込みローラーは「オープンパイプ(11)を駆動ロール(38)に送り込む動作を連続的に行う」ものの,駆動ロール(38)に送り込んだ後,更に,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を行うか否かについては明かでない点」(審決謄本13頁「相違点4」の項)を認定し,これについて,「刊行物3の,『円筒状ワークを受取り,その合せ目を溶接する』の記載・・・からみて,同刊行物3は溶接の対象を短管とするものである。そして『フイードチエン23,23が駆動してマンドレル3に連続的に嵌つている円筒ワーク4の両側を挟んで,該マンドレルに沿つて移送する。また,トーチ5のところまで移送されたとき,ここで円筒ワーク4の合せ目4aが溶接される。』・・・の記載からみて,ワークの送り手段であるフイードチエン23,23は,ワークを縮径する手段に送り込み,縮径させ,溶接させ,同縮径する手段から排出させる一連の動作を連続的に行うものである。そして,刊行物1記載の発明においては,送り手段(送り込みローラー)はワークを少なくとも上流側の駆動ロールまで送り込むものであることからすれば,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用するにあたって,送り手段を,ワークを溶接治具の貫通穴に送り込み,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を連続的に行うものとすることは当業者が容易に成し得た」と判断したが(同15頁第2段落),誤りである。
すなわち,刊行物3(甲3)の「フイードチエン23,23」は,刊行物1発明の「送り込みローラー(16)」と同様,ワークを連続的に送り込むものであり,間欠的にワークを溶接治具へ送り込む本件発明の「送り手段」とは,本質的に異なるものである。
キ 取消事由7(本件発明の顕著な作用効果の看過) 審決は,「本件発明の作用効果は,刊行物1,2記載の発明及び刊行物1ないし4記載の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって,格別なものではない」(審決謄本15頁第3段落)としたが,誤りである。
すなわち,本件発明は,出口側近傍に溶接用の開口部を「貫通穴の全周が閉じる部分」を介して設けたものであって,このような構成により,「短板を曲げ加工して予め略真円状の短管となされたワークは溶接治具の貫通穴内を通り,ワークの外周面がしっかりクランプされた状態で溶接されるため,熱歪等によるワークの継目の開き及び溶接部分の起き上がりが規制され,初期設定寸法通りの寸法精度の高い短管製品を得ることができる」(訂正明細書〔甲14の2〕6頁第1段落)という作用効果を奏する。刊行物1〜4には,これに該当する構成は開示されていないから,本件発明は,刊行物1発明,刊行物2発明及び刊行物1〜4記載の事項からは,当業者が予測できない顕著な作用効果を奏するものである。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)〜(3)の事実はいずれも認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論 本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1(本件発明と刊行物1発明との一致点の認定の誤り)について ア 本件発明の「送り手段」は,ワークを「溶接治具の貫通穴に送り込み,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を連続的に行う」(訂正明細書〔甲14の2〕の特許請求の範囲第1項)手段であり,他方,刊行物1(甲1)の「送り込みローラー(16)」は,オープンパイプ(11)を駆動ロール(38)に送り込み,駆動ロール(38)に送り込まれたオープンパイプ(11)は駆動スクイズロール(13)に送り込まれて断面円形に縮径され,溶接トーチ14でシーム溶接され,下流側の駆動ロール(38)に引き取られて排出される。したがって,刊行物1発明の「送り込みローラー(16)」は,上記一連の動作を連続的に行う送り手段であると認められ,ワークを縮径ダイス,溶接装置に供給する送り手段として,本件発明の「送り手段」に相当する。
イ また,ワークのシーム線を溶接トーチに一致させるためにワークを位置決めする手段に関する本件発明の構成は,「入口側の端部中央から軸方向に沿って刃先がワークの継目内に入り込むように貫通穴内に突入されたワークの位置決め部材」(訂正明細書〔甲14の2〕の特許請求の範囲第1項)であり,「センターガイドプレート17が刃先を貫通穴13に適当な長さ突入させて・・・おり,この突入した部分がワーク1の継目と係合することによってワークの位置決めを」し(訂正明細書4頁第3段落),「センターガイドプレート17とワーク1の継目2が係合され,ワーク1が引き続き位置決めされた状態で送りこまれる」(同5頁第5段落)という作用効果を奏するものである。他方,刊行物1(甲1)の「ロータリーシームガイド(18)」は,「溶接部のロール(38)との間にも・・・・設けられ,これらシームガイドによって常に溶接トーチ(14)直下にシーム線(12)が位置するようになされている」(2頁左上欄最終行〜右上欄第1段落)ものであるから,本件発明の位置決め部材と同様に,縮径過程でのワークのシーム線(継目)を正確に位置決めする手段である。そして,作用効果において,格別の違いがあると解すべき理由は,訂正明細書の記載にはないから,刊行物1発明の「ロータリーシームガイド(18)」は,縮径過程で継目を位置決めする手段である限りにおいて,本件発明の「ワークの位置決め部材」と一致している。
(2) 取消事由2(本件発明と刊行物1発明との相違点の看過)について 本件審決は,本件発明と刊行物1発明との相違点1として,「本件発明においては,・・・溶接治具は『入口がワーク径より大きくされるとともに・・・・・,位置決め部材の延長上にある出口側近傍に溶接用の開口部が,貫通穴の全周が閉じる部分を介して設けられ』ているのに対して,刊行物1記載の発明においては,ワークを縮径する手段が『2つのスクイズロール(13),(13)』であって,・・・・」(審決謄本12頁「相違点1」の項)とし,本件発明が「貫通穴の全周が閉じる部分」を有することを,相違点1の一部として認定しているから,審決に原告主張の相違点の看過はない。
(3) 取消事由3(本件発明と刊行物1発明との相違点の認定の誤り)について 相違点4の認定における,審決の「刊行物1記載の発明においては,送り手段である送り込みローラーは,『オープンパイプ(11)を駆動ロール(38)に送り込む動作を連続的に行う』ものの,駆動ロール(38)に送り込んだ後,更に,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を行うか否かについては明かでない」(審決謄本13頁「相違点4」の項)との説示は,「送り込みローラー(16)」の駆動力によって「縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を行う」ものであるかどうかについては,具体的な記載が刊行物1にはないので明らかでないことをいうにすぎず,審決の上記認定に何ら誤りはない。
(4) 取消事由4(本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り1)について ア 刊行物2(甲2)は,「溶接鋼管の製造装置の改良」(1頁最終段落)に関するものであり,ワークの縮径手段がスクイズロールである従来技術について,鋼管の成形とその溶接を安定させることができ,しかも,高品質の製品を高速で製造し得る溶接鋼管の製造装置を提供することを目的とし(2頁第2段落),ワーク縮径手段を「スクイズブロック」(縮径ダイス)にしたものであり,さらに,「スクイズブロック」を分割型にし,ブロック移動部20によって「スクイズブロック」の対向間隔を調節できるようにしたものである(2頁最終段落)。
刊行物2記載の上記目的及び効果は,溶接鋼管の溶接品質,製品品質,製造速度に関する技術的事項で,ワークの長さの大小に関わりなく,溶接鋼管製造装置一般に共通する技術的事項であり,上記技術手段を利用することについて,ワークが長尺管である場合に限られ,短管の自動溶接装置には利用できないと解すべき技術的問題ないし技術的理由はない。また,本件発明の「溶接治具」は,縮径ダイス(絞り金型)であって,短管自動溶接装置においてワークを縮径させ,シーム線を当接させて断面円形にし,断面円形に保持した状態で溶接トーチでシーム線を溶接させることをその基本的な機能とするものである。したがって,刊行物2の「スクイズブロック」は,縮径ダイスであり,鋼管自動溶接装置において,本件発明の「溶接治具」と同様の機能を奏するものであるから,両者は,その技術的本質において特段の違いがあるものではない。
イ また,断面C型のオープンパイプを縮径して断面円形に成形し,断面円形の状態に保持して,その突き合わせ面(シーム線)を自動溶接することは,ワークが長尺管であるか,短管であるかにかかわらず鋼管自動溶接に共通することであり,また,スクイズロールや,縮径ダイス等の縮径手段によるワーク保持(溶接時の保持)と溶接品質との関係は,ワークの長さにかかわりのないことである。したがって,縮径手段をどのようなものにするかは,個々の縮径手段の構造,機能の溶接精度への影響,溶接品の品質への影響,溶接作業の能率などによって選択されることであり,この選択はワークの長さによって制限されることではない。
ウ 一方,刊行物2(甲2)の「ブロック移動部20」による調整は,「スクイズブロック」の貫通穴の溶接用開口部の近傍において,その円筒状内面で把持されたワークの継目がぴったり合うようにするための調整であるから,ワーク鋼板の幅寸法誤差に対する微調整であることは,当業者の技術常識から明らかなことである。本件発明の「溶接治具」は,ワーク鋼板の幅寸法誤差に対する上記微調整への対処手段を備えておらず,単に「出口近傍の開口部ではワークの継目がぴったり合うワーク径と同径になっている」としているにすぎず,間隔調節の必要がないようになっていることを前提にしている。そして,間隔調節の必要がないのであれば,刊行物2記載のものにおいて,「スクイズブロック10」が分割型である必要のないことは,自明のことである。
エ また,原告主張の「貫通穴の全周が閉じる部分」を備えることによる本件発明の効果及びその理由は,訂正明細書(甲14の2)の記載において明らかでないから,明細書の記載に基づかないものであり,失当である。仮に,「貫通穴の全周が閉じる部分」を備えることによる作用効果,すなわち,「スクイズブロック」内面でシーム線を押える効果が認められるとしても,それは,スクイズロールでワークを縮径させる場合,シーム線を押えて突き合わされる縁部が半径方向にずれて溶接精度が低くなることを防止するという周知事項(例えば,刊行物4〔甲6〕の「ガイド板7」,特開昭59-85316公報(甲8,以下「甲8公報」という。)の「成形ロール11」)に基づき,当業者の技術常識から予想できた範囲内のことである。
(5) 取消事由5(本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り2)について 相違点3は,刊行物2(甲2)の鋼管自動溶接装置が備えている事項であり,刊行物1発明の短管自動溶接装置における縮径手段に刊行物2の「スクイズブロック10」による縮径手段を適用するときに,設計上当然に採用される構成にすぎない。刊行物1発明の「スクイズロール」による縮径手段と本件発明の「溶接治具」とは,ワークの長短にかかわらず,鋼管自動溶接装置における縮径手段の基本的な機能(ワークの縮径,保持,繰出し等)の点で相違はなく,また,本件発明の「溶接治具」と刊行物2の「スクイズブロック10」による縮径手段とは,溶接品質及び溶接速度の向上など,共通の課題を有するものであるから,刊行物1発明における縮径手段に,刊行物2の「スクイズブロック10」を適用することは,当業者が容易になし得ることである。
(6) 取消事由6(本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り3)について 本件発明の「送り手段」は,「ワークを溶接治具の貫通穴に送り込み,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を連続的に行う」(訂正明細書〔甲14の2〕の特許請求の範囲第1項)手段であり,間欠的にワークを溶接治具に送り込む送り手段ではない。したがって,原告の主張は本件発明の要旨に基づかないものであり,失当である。
(7) 取消事由7(本件発明の顕著な作用効果の看過)について 原告主張の「貫通穴の全周が閉じる部分」を備えることによる本件発明の効果及びその理由は,明細書の記載に基づかないものであり,失当であること,仮に,その作用効果が認められるとしても,周知事項に基づき,当業者の技術常識から予想できた範囲内のことであることは,上記(4)エのとおりである。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)・(2)(発明の要旨)・(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下においては,本件審決の適否につき,原告の取消事由ごとに判断することとする。
2 取消事由1(本件発明と刊行物1発明との一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,審決が,本件発明と刊行物1発明との一致点として,「短板を曲げ加工して予め略真円状の短管となされたワークの継目を溶接する自動溶接装置であって,ワークを縮径する手段と,縮径過程で継目を位置決めする手段と,溶接トーチと,ワークを,ワークを縮径する手段に送り込む動作を連続的に行う送り手段とからなることを特徴とする自動溶接装置」(審決謄本12頁「一致点」の項)を認定したことは,@刊行物1発明の「送り込みローラー(16)」は本件発明の「送り手段」に相当するものではなく,A刊行物1発明の「ロータリーシームガイド(18)」は本件発明の「ワークの位置決め部材」と一致するものではないから,誤りであると主張する。
(2) 上記(1)@の点について,原告は,刊行物1発明の「送り込みローラー(16)」はワークを突き合わせて連続的に「駆動ロール(38)」へ送り込むものであるのに対して,本件発明の「送り手段」は間欠的にワークを溶接治具へ送り込むものである点で両者は異なると主張する。
本件発明の要旨は,上記第3の1(2)記載のとおりであり,その「送り手段」は,ワークを「溶接治具の貫通穴に送り込み,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を連続的に行う」(訂正明細書〔甲14の2〕の特許請求の範囲第1項)手段であり,間欠的にワークを溶接治具へ送り込むものであるかについては,何ら記載がない。原告は,本件発明に係る訂正明細書の特許請求の範囲第1項には,「間欠的」の文言はないが,本件発明の目的にかんがみれば,本件発明の「送り手段」がワークを間欠的に送るものであることは,明細書に記載がなくても明らかであると主張する。しかしながら,特許法29条1項及び2項所定の特許要件,すなわち,特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たつては,この発明を同条1項各号所定の発明と対比する前提として,特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ,この要旨認定は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限つて,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎないと解すべきである(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。これを本件についてみると,本件発明に係る上記第3の1(2)の特許請求の範囲の記載から,本件発明の「送り手段」は,ワークを「溶接治具の貫通穴に送り込み,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を連続的に行う」ものであることが,一義的に明確に理解できるものであるところ,一見してその記載が誤記であることが訂正明細書発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情は認められない。したがって,原告の上記主張は,本件発明の要旨に基づかないものであり,失当というほかない。
(3) 次に,上記(1)Aの点について,原告は,刊行物1発明の「ロータリーシームガイド(18)」は,その形状が円形であるため,ワークの継目と一点でのみ接するものであるのに対して,本件発明の「ワークの位置決め部材」は,入口側の端部中央から軸方向に沿って刃先がワークの継目内に入り込むように貫通穴内に突入された構成となっており,この点で両者は異なると主張する。
しかしながら,審決は,刊行物1発明の「ロータリーシームガイド(18)」は,「縮径過程で継目を位置決めする手段である限りにおいて」(審決謄本12頁第2段落),本件発明の「ワークの位置決め部材」と一致するとしたものであり,原告主張に係る位置決め部材としての具体的な構成が異なる点をもって,審決の上記対比に誤りがあるということはできない。
また,原告は,刊行物1発明の「2つのスクイズロール(13),(13)」は,本件発明の「溶接治具」と一致するのであれば,刊行物1発明の「ロータリーシームガイド(18)」は,本件発明の「溶接治具」の上流側に設けられていることになり,このような位置に「ロータリーシームガイド(18)」が設けられた場合,ワークの後端が「ロータリーシームガイド(18)」を通過した後には,ワークの位置決めが不正確となるのに対し,本件発明の「ワークの位置決め部材」は,入口側の端部中央から軸方向に沿って刃先がワークの継目内に入り込むように貫通穴内に突入された構成であるため,ワークの位置決めが不正確になる等の不具合はなく,この点で両者は異なると主張する。
しかしながら,刊行物1発明の「2つのスクイズロール(13),(13)」は,「スクイズロール(13)によりオープンパイプ(11)のシーム線12を合せ終ったところで溶接トーチ(14)を当てて溶接を行う」(刊行物1〔甲1〕2頁左上欄)のであるから,「スクイズロール(13),(13)」は,オープンパイプ(断面C形の短尺パイプ)を縮径させ,そのシーム線を当接させて断面円形にし,その状態に保持してシーム線を溶接させるものであり,短管自動溶接装置において「ワークを縮径する手段」である。同様に,本件発明の「溶接治具」も,短管自動溶接装置において「ワークを縮径する手段」であるから,「刊行物1の記載事項・・・からみて,2つのスクイズロール(13),(13)がオープンパイプを縮径する作用を成すことは明らかであるから,2つのスクイズロール(13),(13)と,本件発明の『溶接治具』とは,ワークを縮径する手段である限りにおいて一致する」(同12頁第2段落〜第3段落)とした審決の認定に誤りはない。
(4) 以上のとおり,原告の取消事由1の主張は,理由がない。
3 取消事由2(本件発明と刊行物1発明との相違点の看過)について 原告は,本件発明と刊行物1発明は,「『貫通穴の全周が閉じる部分』が存在しない点」においても相違するが,審決は,上記相違点を看過した誤りがあり,本件発明の「溶接治具」は,「貫通穴の全周が閉じる部分」を設けた構成により,初期設定寸法どおりの寸法精度の高い短管製品を得ることができるという作用効果を奏するのに対して,刊行物1発明の「2つのスクイズロール(13),(13)」は,同様の作用効果を奏するものではないと主張する。
しかしながら,審決は,本件発明1と刊行物発明1の相違点1として,「本件発明においては,・・・溶接治具は『入口がワーク径より大きくなされるとともに・・・・・,位置決め部材の延長上にある出口側近傍に溶接用の開口部が,貫通穴の全周が閉じる部分を介して設けられ』ているのに対して,刊行物1記載の発明においては,ワークを縮径する手段が『2つのスクイズロール(13),(13)』であって,・・・・」(審決謄本12頁「相違点1」の項)と認定し,本件発明が「貫通穴の全周が閉じる部分」を有すること,すなわち,刊行物1発明は,上記「『貫通穴の全周が閉じる部分』が存在しない点」を,相違点1の一部として認定している。そして,相違点1についての判断において,「刊行物2記載の発明におけるスクイズブロックは,・・・間隔調節の必要がないのであれば同スクイズブロックを一体として構成しても良いことは明かである」(同13頁最終段落)とし,ここで「スクイズブロックを一体として構成」した場合には,「スクイズブロック」の内面が連続し,「貫通穴の全周が閉じる部分」を有することになるから,審決は,相違点1の一部として,「貫通穴の全周が閉じる部分」についての検討を行っていることが明らかである。そして,審決は,本件発明の作用効果について,「刊行物1,2記載の発明及び刊行物1ないし4記載の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって,格別なものではない」(同15頁第3段落)としているのであるから,審決に相違点の看過はない。
したがって,原告の取消事由2の主張は,理由がない。
4 取消事由3(本件発明と刊行物1発明との相違点の認定の誤り)について 原告は,刊行物1発明の「送り込みローラ(16)」は,その配置構成等から,単に,ワークを連続的に「駆動ロール38」に送り込むだけのものであって,「駆動ロール(38)に送り込んだ後,更に,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作」を伴わないことは明らかであるから,本件発明と刊行物1発明との相違点4を,「本件発明においては,送り手段が,『ワークを溶接治具の貫通穴に送り込み,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を連続的に行う』のに対し,刊行物1記載の発明においては,送り手段である送り込みローラーは『オープンパイプ(11)を駆動ロール(38)に送り込む動作を連続的に行う』ものの,駆動ロール(38)に送り込んだ後,更に,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作を行うか否かについては明かでない点」(審決謄本13頁「相違点4」の項)と認定した審決は誤りであると主張する。
しかしながら,刊行物1には,「駆動ロール(38)に送り込んだ後,更に,縮径させ,溶接させ,貫通穴から排出させる一連の動作」について,具体的な記載がなく,これらの動作を伴わないことが明らかであると認めることはできない。したがって,審決の上記認定に誤りがあるということはできず,原告の取消事由3の主張は,理由がない。
5 取消事由4(本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り1)について (1) 原告は,刊行物2発明の「スクイズブロック」は,左右2個一対のものとして形成され,その対向間隔が調節可能となっているため,必然的に本件発明の「貫通穴の全周が閉じる部分」に相当する部分を設けることができないように構成され,本件発明の「溶接治具」にあるような作用効果を奏し得ず,本質的に異なっているとして,審決にあるように「刊行物2記載の発明においては溶接する対象は長尺管(連続管)であり,短管ではないが,スクイズブロックにてワークを縮径し,溶接時にその継目を合わせた状態を保つ限りにおいて,スクイズブロックは本件発明の溶接治具と同等の作用効果を成すことは明かであり,この作用効果は,ワークの縮径の過程にて得られるものであることから,溶接する対象が短管であるか,長尺管であるかに依存しないものである」(審決謄本13頁下から第2段落)ということはできないと主張する。
しかしながら,本件発明の「溶接治具」は,訂正明細書(甲14の2)の「ワークは・・貫通穴内を進み,溶接治具の開口部付近に達するとワーク継目がぴったり合うとともに,・・・前記開口部で溶接が開始される」(3頁第1段落)との記載のとおり,ワークを縮径する手段であって,短管自動溶接装置においてワークを縮径させ,シーム線を当接させて断面円形にし,断面円形に保持した状態で溶接トーチでシーム線を溶接させるものである。他方,刊行物2発明の「スクイズブロック」は,「導入される鋼板Aを円管状に成形するため,左右一対となるスクイズブロック10に半円筒状の管案内面11が形成され,同管案内面11で形成される円形は管流れ方向上流側は上流側に沿い漸次大径,下流側は所望鋼管径と同一とし,上面から管案内面11にまで達するトーチ切欠12が設けられた溶接用スクイズブロツク10」(審決謄本10頁第2段落)であり(このことは当事者間に争いがない),ワークを縮径する手段であって,鋼管自動溶接装置において,本件発明の「溶接治具」と同様の機能を有するものであり,刊行物2の「スクイズブロツク10は僅かのトーチ切欠12を除いて鋼板に面接触するので成形が極めて安定し,突き合せ部がオーバラツプすることがなく安定な溶接が可能である。また管軸方向に長いスクイズブロツクを用いるため,溶接後の管の抱持工程が長く,従来のスクイズロールを用いたものに比べてスプリングバツク(管のはじけ)による溶接割れの発生率が少なく,また,その分だけスピードアツプも可能となつた」(4頁最終段落)との記載によれば,本件発明の「溶接治具」と同様の作用効果を奏することができるものと認められる。したがって,両者は,縮径手段として本質的に異なっているものということはできず,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 次に原告は,短管の溶接装置に関する技術と長尺管の溶接装置に関する技術とを組み合わせて適用することは容易ではないため,「刊行物1記載の発明におけるワークを縮径する手段として,刊行物2記載の発明のスクイズブロックを適用することに格別困難な点は見い出せない」(審決謄本13頁下から第2段落)ということはできないと主張する。
しかしながら,ワークを縮径して断面円形に成形し,断面円形の状態に保持して,その突き合わせ面(シーム線)を自動溶接するに当たって,スクイズロールや,縮径ダイス等の縮径手段によるワーク保持と溶接品質との関係は,ワークの長さにかかわりなく,共通の技術的事項であると認められる。したがって,短管の溶接装置に関する技術と長尺管の溶接装置に関する技術とを組み合わせて適用することは,何ら困難と認めることはできず,原告の上記主張は理由がない。
(3) 次に原告は,刊行物2には,対向間隔の調節が必要ない場合に関する記載及び一対の「スクイズブロック」を一体として構成することも可能な旨の記載は一切なく,また,一体となった「スクイズブロック」において「貫通穴の全周が閉じる部分」が存在することを示唆するものはないと主張する。
しかしながら,刊行物2において,対向間隔の調節が必要ない場合に関する記載及び一対の「スクイズブロック」を一体として構成することも可能な旨の記載が存在しなくても,「スクイズブロックを一体として構成」した場合には,「スクイズブロック」の内面が連続し,「貫通穴の全周が閉じる部分」を有することになることは,上記3のとおりであり,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)は,このことを刊行物2の記載から容易に理解し得ると認められるから,原告の上記主張も理由がない。
(4) さらに,原告は,刊行物4(甲6)は,長尺管の溶接装置に関するものであり,短管の溶接装置に関する技術と長尺管の溶接装置に関する技術とを組み合わせて適用することは容易ではないこと,刊行物4記載の「シームガイドロール(10)」は,ワークの継目をクランプするものではなく,仮に,ワークの継目をクランプする手段であるとしても,ワークの継目の部分のみをクランプする手段でしかなく,本件発明の「溶接治具」の「貫通穴の全周が閉じる部分」とは,構成及び技術的な意義が全く異なるとして,「刊行物4に記載されるように,ワークの継目の部分をクランプする手段(刊行物4記載のシームガイドロール(10))を設けることは本件出願前に公知である・・・更に,刊行物2記載の発明において,スクイズブロックには溶接用の開口部が設けられており,その開口部を設ける位置をスクイズブロックのどの部分に設けるかは適宜定められる設計事項であり,溶接する箇所を,ワークの継目の部分をクランプする手段を介して設けることも刊行物4に記載されるように本件出願前に公知である」(審決謄本14頁第3段落〜第4段落)ということはできないと主張する。
しかしながら,短管の溶接装置に関する技術と長尺管の溶接装置に関する技術とを組み合わせて適用することは,何ら困難と認めることはできないことは,上記(2)のとおりである。また,刊行物4の「金属テープ2が始めて突合された部分b点にはその突合せ側縁がラツプしないようにガイドするシームガイドロール10(第5図参照)があり,更に溶接個所のc点には溶接トーチ5(第6図参照)が設けてあり,これら溶接トーチ5,シームガイドロール10及び位置検出用トレーサ14は一つのホルダー9に設けてあり」(甲6の明細書5頁第2段落〜6頁第1段落)との記載及び第3図及び第5図の図示によれば,刊行物4には,「シームガイドロール(10)」によりワークの継目をクランプすることが開示されていると認められ,それがワークの継目の部分のみをクランプする手段であるとしても,本件発明の「溶接治具」と構成及び技術的な意義が全く異なるということはできない。
したがって,原告の上記主張は,いずれにしても採用することができない。
(5) 以上説示したところによれば,本件発明と刊行物1発明との相違点1についての審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由4の主張は,理由がない。
6 取消事由5(本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り2)について 原告は,短管の溶接装置に関する技術と長尺管の溶接装置に関する技術とを組み合わせて適用することは容易ではないことを理由として,審決の本件発明と刊行物1発明との相違点3についての審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,短管の溶接装置に関する技術と長尺管の溶接装置に関する技術とを組み合わせて適用することは,何ら困難と認めることはできないことは,上記5(2)のとおりである。したがって,原告の取消事由5の主張は,理由がない。
7 取消事由6(本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り3)について 原告は,刊行物3(甲3)の「フイードチエン23,23」は,刊行物1発明の「送り込みローラー(16)」と同様,ワークを連続的に送り込むものであり,間欠的にワークを溶接治具へ送り込む本件発明の「送り手段」とは,本質的に異なるものであることを理由として,審決の本件発明と刊行物1発明との相違点4についての審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,本件発明の「送り手段」は,間欠的にワークを溶接治具へ送り込むものであるとの主張が本件発明の要旨に基づかないものであることは,上記2(2)のとおりである。したがって,原告の取消事由6の主張は,理由がない。
8 取消事由7(本件発明の顕著な作用効果の看過)について 原告は,本件発明は,「貫通穴の全周が閉じる部分」を設けた構成により,刊行物1発明,刊行物2発明及び刊行物1〜4記載の事項からは,当業者が予測できない顕著な作用効果を奏するものであると主張する。
しかしながら,刊行物2において,「スクイズブロックを一体として構成」した場合に,スクイズブロックの内面が連続し,「貫通穴の全周が閉じる部分」を有することになることは,刊行物2の記載から当業者が容易に理解し得ることは,上記4(3)のとおりであり,この場合,「貫通穴の全周が閉じる部分」を設けた構成による作用効果を奏しうることも明らかである。
したがって,本件発明が,刊行物1発明,刊行物2発明及び刊行物1〜4記載の事項からは,当業者が予測できない顕著な作用効果を奏するものであるということはできず,原告の取消事由7の主張も,理由がない。
9 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉