関連審決 |
審判1980-4776 |
---|
関連ワード | 特許を受ける権利 / 製造方法 / 加工方法 / 出願審査請求 / 共同出願 / 分割出願 / 共有 / 参酌 / 加工 / 拒絶査定不服審判 / 共同出願人 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 変更 / 合理的な理由 / 補助参加 / 不服申立 / 代理権 / 相互代表 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
昭和
56年
(行ケ)
3号
|
---|---|
裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1981/08/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 補助参加により生じた訴訟費用は原告補助参加人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「特許庁が昭和五五年一一月一四日、同庁昭和五五年審判第四七七六号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求めた。 |
|
原告の請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四八年三月二三日、名称を「球面スパイラル溝付軸受の加工方法」とする発明について特許出願(特願和四八―三二七二九号)をし、その後昭和四九年一一月一八日、右特許出願からの分割出願として名称を「球面スパイラル溝付軸受中間素材の製造方法」とする発明について特許出願(特願昭四九―一三一九九三号)(以下、「本件発明」という。)し、昭和五〇年三月八日、本件発明に関する特許を受ける権利の一部を原告補助参加人三菱重工業株式会社に譲渡し、同時に同日付をもつて原告と原告補助参加人三菱重工業株式会社との共有に係る本件発明についての出願手続につき原告をもつて代表者と定める旨の代表者選定届を特許庁に提出し、さらに昭和五〇年五月二三日原告名義をもつて出願審査請求をなしたところ、昭和五四年四月一一日拒絶理由通知がなされ、これに対して原告は昭和五四年六月一五日右拒絶理由を不服とする理由を記載した意見書を提出したが、昭和五五年一月三一日拒絶査定を受けた。 そこで、原告は、昭和五五年四月二日、審判の請求をし、昭和五五年審判第四七七六号事件として審理されたが、昭和五五年一一月一四日、「本件審判の請求を却下する。」旨の審決がなされ、その謄本は昭和五五年一二月一〇日原告に送達された。 二 審決の理由の要旨 本件審判は日本精工株式会社と三菱重工業株式会社の共有の出願に係る特許出願の拒絶査定に対する審判であり、右両名によつてなされなければならないところ、 本件審判の請求は日本精工株式会社のみによつてなされたものであつて特許法第132条第3項の規定に違反する不適法な審判の請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下すべきものとする。 なお、原審において日本精工株式会社を代表者とする代表者選定届が提出されているが、審判の請求時には代表者選定届の提出がなく、請求人として日本精工株式会社を記載するのみであるから、審判の請求が共有者全員の意志によつてなされたものとは認められない。 三 審決を取消すべき事由 拒絶査定に対して「日本精工株式会社」名義のみによつて審判の請求がなされ、 その際にはあらためて「代表者選定届」の提出がなかつたことは審決指摘のとおりであるが、審決は次の点に誤りがあり違法であるから取消されるべきである。 1 特許法第14条の規定の解釈を誤つた点 共有に係る特許を受くべき権利についての審判請求は、原則として共有者全員によつてなされなければならないことは審決の指摘するとおりである。しかしながら、本件においては、原告は、昭和五〇年三月八日付をもつて、共有者三菱重工業株式会社作成にかかる「代表者選定証」を付した代表者選定届を特許庁に提出しているのである(甲五号証の一、二)。 しかして、右「代表者選定証」「代表者選定届」には、事件の表示として昭和四九年特許願第一三一九九三号、発明の名称「球面スパイラル溝付軸受中間素材の製造方法」と明確に記載されており、本件出願については、「東京都千代田区<以下略>日本精工株式会社代表者A」をもつて共有者両名の代表者とする旨明記されているところである(特許法施行規則第8条関係様式1参照)。 この「代表者選定届」による代表者の地位は、両共有者の代理人とは異なり、当事者の表示そのものにほかならない。 すなわち、「代表者選定届」による代表者は、民事訴訟法第47条の選定当事者にひとしいものである。このことは「代表者選定届」が特に「代表者選定」の語を用いていることからもうかがえるところであり、また選定代表者が、民事訴訟法第47条の選定当事者と異なり単なる代理人であることを積極的に示すような規定は特許法中に全く存在しない。 選定代表者については特許法第14条但し書として僅か一か条の規定が存するにとどまるが、この第14条の法意は、次の趣旨を定めるものと解せられる。 すなわち、複数の当事者が共同して手続をしたときは、各人がそれぞれ全員の代表者となるが、特許出願の変更、放棄及び取下、請求、申請又は申立の取下並びに第121条1項の審判請求(以下、「特別手続」と略称する。)については、各人は全員を代表することとはならない(相互代表制が採用されない)。 しかし、もし代表者選定届によつて代表者を定めて特許庁に届け出たときは、一般手続についても特別手続にも共に代表者のみが全員を代表する。 これが第14条の示す趣旨と解される。 右の法意からすれば、特許法第14条の定める「代表者選定」とは単に代理人の趣旨ではなく、当事者としての代表者にほかならないこと明らかである。法第14条の規定を右の如く解することなく、もし、右本文中の特別手続については、代表者選定届による代表者による手続ができない旨をも含む趣旨であると解することは、同条自体の表現上明確とはいえないし、また、特別手続について、代表者選定制度を排除しなければならない合理的な理由もない。 右の如く法第14条の法意を把握する以上、選定代表者の代表権の範囲について、代理人についての特許法第9条の代理人の代理権の範囲の趣旨を導入して、審判請求について、代表者によるときは、出願手続に際して提出した選定届によるのでなく、特許庁に対して「代表者選定届」を改めて提出することを必要とする、という解釈は導きえないであろう。 何故ならば、右第9条は当事者としてではなく、代理人としての権限の範囲の原則を定めた規定であつて、しかも、民事訴訟法第81条の訴訟代理人に対する特別授権の規定に対応するものにすぎないからである。 原告は、選定代表者として前記表示のとおりの表示によつて代表者として、昭和五〇年五月二三日出願審査請求をなし(甲六号証)、拒絶理由通知(甲七号証)に対して意見書を提出し(甲八号証)、特許庁は悉くこれを共有者両名の代表者のなす行為として取扱い、昭和五五年一月三一日、代表者としての原告に対して拒絶査定をなしたものである(特許出願人欄には「日本精工株式会社」のみが表示されている。)(甲九号証)。 原告は、拒絶査定を不服として原告名のみにて、審判を請求したのであるが(甲一〇号証)、これは既に出願手続について代表者選定届が提出されているので、代表者としての原告の表示のみで、共有者たる三菱重工業株式会社と共同して審判を請求したこととなる、と理解していたが故である。 特許法第14条の解釈について、被告は、「同条本文から除外されている審判の請求などの特別手続は、選定代表者制度の適用からもともとはずれているものであるから代表者であつても審判請求は単独ではできないものである」旨主張する。 しかしながら、特許法第14条で明確にされているのは、特別手続においては、 相互代表制が適用されない、ということのみである。同条の特別手続と、ただし書きとの関係は同法第14条だけからでは明確ではない。特別手続について代表者選定が適用なしとして排除されている、と読むことはできないであろう。現に被告は、審判請求は共同で行なうことを要するが、審判手続でも改めて代表者選定届を提出すれば、有効に代表者のみで手続を遂行できる旨を主張しており、これが現行の特許庁の実務の如くである。被告によれば、この実務は特許法14条とは関係のない別個の代表者選定届であるという。このような解釈をしなければならないのは、そもそも法第14条についての被告の右の解釈が正当でないからである(特許法施行規則8条で定められている選定代表者の届出の様式は法第14条の場合のみであることに注意すべきである)。実務において審判における選定代表者が許されているのは、同法第14条は特別手続について選定代表者の制度を積極的に排除していないからである。同条が特別手続を除外しているのは、相互代表の制度についてだけなのである。特許法第14条は、特別手続は代表者であつてもできない旨を定めたものであるという被告の主張は誤つた解釈というほかない。被告がいうように、審判において改めて代表者選定届を提出するなら、審判手続においても代表者が全員を代表することとなるというのであれば、むしろ原告がいうように、第14条本文の特別手続においても、選定代表者の制度を除外してはいない、と解する方が素直な解釈であろう。 また、特許法第158条には、「審査においてした手続は、第百二十1条第1項の審判においても、その効力を有する」こと、つまり拒絶査定不服の審判は審査手続の続審として、連続した手続であることが規定されているのである。そうであれば、本件の拒絶査定不服の審判にあつては、審査でなした代表者選定届は他に特別の事由のない限り、そのまま審判手続においても引続きその効力を有するものと解するのが、法の趣旨に添つた解釈であろう。 2 特許法第133条第1項に定める補正命令を発することなく審判の請求を却下した点 仮に前項の主張が認められないとしても、原告及び原告補助参加人三菱重工業株式会社は、前記のとおり「代表者選定証」や「代表者選定届」を提出して、原告を両名の代表者とすることを明らかにしているのであるから、以下述べる如きそれまでの手続の経緯及び事情に照らしても、審判長としては、本件審判の請求が原告及び原告補助参加人三菱重工業株式会社両名によつてなされた趣旨であることを容易に推測しえたものである。 すなわち、 (一)(イ) 審査手続において、既に原告を代表者とする代表者選定届及び選定証が、原告、原告補助参加人両名から特許庁に提出されており、その選定証には「下記の発明に関する手続」について代表者を選定するものであることが記載されている(甲第五号証の二)。審査に限定してはいない。 (ロ) 審査手続において、右代表者の名において、審査請求書も提出されていた(甲第六号証)。 (ハ) 昭和五五年一月二一日付拒絶査定謄本は、原告にのみ送達されたものであるが、その特許出願人の欄には単に「日本精工株式会社」として原告名のみが記載されているにとどまる(甲第九号証)。 拒絶査定には特許法施行規則第35条第4号として、特許出願人の氏名、名称を記載すべき旨が定められており、共同出願に係る本件においては、出願人として原告と原告補助参加人の両名が記載さるべきものであるから、甲第九号証を適法とみる限り、右記載は、「代表者たる日本精工株式会社」を表示する趣旨であろう。そうであるならば、原告単独名義でなされた本件審判請求も当然、共有者両名の代表者としての趣旨であることは容易に推測しうるはずである。 拒絶査定不服審判は、拒絶査定なる行政処分に対する不服申立の手続であるから、もし拒絶査定の名宛人は原告一社でよい、というなら、本件審判請求も原告のみで本来適法なはずである。 甲九号証の特許出願人の欄には他の共有者たる原告補助参加人の表示が欠落している。(甲第一三号証の一ないし六の拒絶査定は、審査において代表者選定届が提出されていた事案であるにもかかわらず出願人として、「外一名」と共同出願人両名を表示しており、代表者選定届提出のない甲第一二号証と全くその取扱を同じくしている)。 (ニ) 審判請求手続についても、その請求は代表者でない原告補助参加人が単独で請求したのではなく、拒絶査定の名宛人である原告であり、かつ審判請求理由補充書においては、特に代表者として表示し、代表者としての原告であることが明示されている(甲第五号証の一、二と対比すれば甲第一一号証の当事者の表示は、選定届の表示とぴつたり一致している)。 (二) 元来、特許出願は、特許を受ける権利の行政庁たる特許庁に対する行使にほかならないのであつて、特許を受ける権利は、財産権としての価値をもつものであるから、特段の事由が別に存在しない限り、出願人はその手続の最終に至るまでその手続を遂行する意思を有することを通常とするものと解すべきである。 被告は、共同出願人の全員が代理人に対して拒絶査定不服の審判の請求を委任してその旨の委任状が提出されている場合に、審判請求書の請求人欄に共同出願人のうちの一名のみが記載されていた事案に関しては代理人による記載ミスと解しうる余地のあることを認めながら本件の如き選定代表者による場合には、原告主張のような諸般の事情を参酌すべき余地がない旨主張する。しかし、右の被告の主張は、 「代理人」と「当事者」の差異のみに着目する形式論であつて失当というほかない。 以上のことからしても、本件審判請求書には原告一社のみを請求人として表示してあるが、これは請求人の表示として三菱重工業株式会社の表示が脱落したもので、その真意は原告の名の下に共有者両名が審判の請求を行なう趣旨に出たものであると容易に推測すべきものである。 すなわち、本件の場合は、審判請求人の当事者の表示を書き誤つたものと評価し、特許法第133条第1項に定める補正命令を発すべき場合に該当するものである。 しかるに、補正命令を発することなく、審決は、本件審判の請求を却下したものであるから、違法として取消を免れない。 |
|
被告の認否及び主張
一 請求の原因一、二を認め、同三の主張は争う。 二1 「代表者選定届」による代表者の地位が両共有者の代理人とは異なる旨の原告主張は争わないが、この代表者が民事訴訟法第47条の選定当事者にひとしいとの主張は当らない。 選定代表者が単なる代理人であることを積極的に示すような規定が特許法中に全く存在しない点は原告主張のとおりであるが、だからといつて、この代表者が民事訴訟法第47条の選定当事者にひとしいことを明示する規定もまたないのであつて、却つて特許法第14条の解釈等からすれば、この代表者の地位は該選定当事者とも異なるものと解されるからである。 特許法第14条の示す趣旨についての原告主張は、一般手続については被告にも異論はないが、原告のいう特別手続については本文においてもともとはずされているのであり、したがつて、通常この代表者であつてもできないものと解されるから、この点の原告主張は誤りというほかない(昭和五五年九月三〇日東京高裁判決(昭和五三年(行ケ)一六三号)参照。)。 原告は、同条の表現自体が明確でないとし、かつ特別手続について代表者選定制度を排除しなければならない合理的な理由がないとして、通説を否定するが、表現も不明確ではなく、また民事訴訟とは異なる行政手続において、常に同じ制度がなければならないわけはないのであつて、民事訴訟法の選定当事者制度(共同訴訟人が多いと訴訟の進行の歩調が揃わず、弁論が錯雑し、事務繁雑となるおそれがあり、当事者にとつても不便である等の理由で設けられている)のような特別手続もなしうる代表者制度を、それまでの必要もないとして設けなかつたものと解されるのである。 なお、この第14条の代表者は、以上の点のほか、出願係属後の手続に関して選定されるものであり、かつ選定後他の当事者が当然脱退することにもなつていない点からみても、民事訴訟法上の選定当事者と異なることは明らかであろう。 右のとおりであるとする以上、本件のような場合は、審判請求は共有者全員でなされなければならず(特許法第132条第3項)、共有者全員による審判請求の後に、審判段階における特別手続以外の手続を代表者によつてなそうとするときには、改めて「代表者選定届」を提出する必要があるのである。 この点、原告が、「特別手続でも、共同しての審判請求と共に、改めて代表者選定届を提出すれば、代表者によることができる。」とするのが被告の主張である如く理解しているのは、原告の誤解である。 被告は、前述の如く共同審判請求があつたのち審判段階における特別手続以外の手続を代表者によつてなそうとする場合に関して言及したまでで、決して特許法第14条とは関係のない代表者選定制度を別個に考えているのではない。被告は、審判請求は、原告のいう特別手続であるから共同しての審判請求が必要であるということを特にいいたいだけなのである。選定届の提出を審判請求時に改めてしたからといつて、もともと選定代表者によつて代表し得ない審判請求が遡つて適法になろうはずもないのである。 被告、特許法(第14条)にいう選定代表者は例えば審査段階における一般手続、審判段階における一般手続等を代表し得るのみで、出願行為は勿論、審判請求行為その他特別手続を代表し得ないことを一貫して説明しているつもりである。代表者には審判請求行為自体の代表権限がない以上(選定代表者の代表権限が、審査と審判の間で区切られている以上)、審判請求時「代表者選定届」を改めて提出したとて、それは、その後の一般手続についての代表であり、例えば、審判請求を代表者が行なつた場合の不適法性が解消できるものではないし、また請求時の該選定届によつて代表効力が審査・審判とつながつてしまうものでもないのである。特別授権を得た代理人の場合と異なるところである。 2 次に、原告は、「本件審判請求書は原告一社のみを表示しているものの、その真意は、原告の名の下に共有者両名が審判の請求を行なう趣旨に出たものと容易に推測できるから、請求人の表示の補正、また必要なら代表者選定届の再度の提出を促すべきであつたものを、それをなさずに突如として本件審判の請求を却下した審決は、特許法第133条第1項に違反したもので、取消を免れない。」と主張する。 しかしながら、原告も認めるように、共有に係る権利についての特許出願の拒絶査定に対する審判の請求は、共有者全員によつてなされなければならない(特許法第132条第3項)ところ、本件審判の請求は、共有者の一部の者たる原告のみによつてされているから、不適法であつて補正をすることができないのである。そして、特許法第133条第1項が補正命令の対象として規定しているのは特許法第131条第1項又は第三項の方式違背に限られ、この特許法第132条第3項違反のように専ら審判の請求をしない他の共有者の意思にかかることまで含むものとは解し難いのであるから、原告の主張は理由がない(昭和五二年七月二七日東京高裁判決―昭和五一年(行ケ)第九六号、なお、この上告審は昭和五二年(行ソ)第一一二号―昭和五三年三月二四日判決―上告棄却参照。)。 もつとも、共同出願人の全員が一人の代理人に対して拒絶査定不服の審判の請求を委任し、その代理人から一通の審判請求書が提出された場合において、それが共同出願人全員の「共同して請求」したものに当るかどうかについては、単に審判請求書の請求人欄の記載のみによつて即断すべきものではなく、その請求書の全趣旨や当該出願について特許庁側の知り得た事情等を勘案して総合的に判定すべきものとされている(昭和五三年一〇月二五日東京高裁判決―昭和五三年(行ケ)第四五号参照。)。 そして、このような場合には、たとえ請求書の記載上請求人全員が表示されていなくても全員が共同して審判の請求をしたものとして差支えなく、特許法第132条第3項違反の点はないことになり、したがつて、ただ特許法第131条第1項の方式不備だけがあることになるから、審判長は、特許法第133条第1項により補正を命ずることになるが、本件の場合は、このような単なる代理人の「記載ミス」とは異なり、当事者(代表者が当事者であることは原告も自認している。)自体の問題であつて、記載ミスとして扱うことはできないのである(前掲昭和五三年(行ケ)第一六三号判決も言外にこの点を考慮しているものと思われる。)。 以上のとおりであるから、補正の機会を与えることなく却下した本件審決には、 何ら取消されるべき違法の点はない。 理 由一 請求の原因一、二の事実(特許庁における手続の経緯、審決の理由の要旨)については当事者間に争いがない。 二 そこで、審決に違法の点があるか否かについて検討する。 1 特許法第132条第3項の規定によれば、特許を受ける権利を共有する者がその共有に係る権利について審判を請求するときは共有者の全員が共同して請求しなければならないところ、拒絶査定を不服として提出された本件の審判請求書の請求人の名称欄には「日本精工株式会社取締役社長A」とのみ表示されていたことは当事者間に争いがない。 原告は、特許法第14条但し書に基づいて「日本精工株式会社」をもつて共有者両名の代表者とする旨の「代表者選定届」及び「代表者選定証」がすでに提出されておるが、これに定められた代表者は民事訴訟法第47条の規定に基づき定められた選定当事者と同じく審判請求手続についても共有者全員を代表するものとするのが特許法第14条の法意であるから、審判請求書に「日本精工株式会社」のみが表示されていても、これは当然、共有者たる原告及び原告補助参加人が共同して審判請求をなしたものと解されるべきであつて、特許法第132条第3項の規定に違反する不適法な審判請求とはいえない旨主張する。 しかしながら、特許法第14条は、二人以上が共同して手続をしたときは、同条本文に掲げる手続(拒絶査定に対する不服の審判の請求等)以外の手続については各人が全員を代表するが、同条但し書に基づいて「代表者選定届」を提出したときは、同条本文に掲げる手続以外の手続についてはその代表者が全員を代表することを定めたものであつて、原告が主張する如く代表者を定めて特許庁に届け出たときは、審判の請求等同条本文に掲げる手続(原告のいう特別手続)についてもその代表者が全員を代表できる旨を定めたものではない。このことは、同条の規定の構成を特許法第9条の規定と対比してみても明らかなところである。 したがつて、拒絶査定不服に対する審判の請求等特許法第14条本文に掲げる手続に関しても、同条但し書による代表者が民事訴訟法第47条の規定による選定当事者と同じ地位を有するものと解することはできない。 この点について、原告は、特許法第14条の規定のみからは、審判の請求等の同条本文に掲げる手続について代表者選定の適用がないと読み得ないことや特許法第158条の規定から明らかな如く、拒絶査定不服の審判手続は、審査手続の続審として連続した手続であることから、審査手続において提出された「代表者選定届」は、他に特別の事由のない限りそのまま審判手続において引続き効力を有するものと解すべきであることを根拠として、特許法第14条の法意を原告の前記主張の如く理解すべきである旨主張する。 しかしながら、特許法第158条の規定が、原告指摘のとおり審査手続と審判手続とが続審関係にある旨を示したものと解されるとしても、右規定とは別個に、特に、特許法第132条第3項において、「特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければならない」と明記したのは、審判の請求に当たつては審判請求書の記載上、共有者の全員に審判請求をなす意思のあることを、改めて(審査手続における経過とはなれて)明示することを求めた趣旨と解されるから、特許法第158条の規定を勘案しても、原告の前記主張は採用できない。 2 また、原告は、特許法第14条但し書に基づく代表者が全員のために当事者として審判の請求をなしたことにならないとしても、本件の審判の請求が原告及び原告補助参加人の両名がなしたことが容易に理解できたものであるから特許法第133条第1項の規定に基づいて審判長は、審判請求書の請求人の名称欄の記載に脱落があるものとして補正命令を発すべきであつた旨主張する。 しかしながら、審判請求書の請求人の名称欄には、前叙のとおり「日本精工株式会社」のみが表示されているにすぎず、審判請求書(成立に争いのない甲第一〇号証)全体を精査しても、原告補助参加人である三菱重工業株式会社が、原告と共同して本件審判の請求をなしたことを了解しうる記述は認められない。 成立に争いのない甲第六ないし第九号証によれば代表者選定届が出されたのちの出願審査請求書の請求人名称及び意見書の特許出願人名称には、原告名義のみが表示され、これに対する拒絶理由通知書の名宛人欄には「出願人日本精工株式会社」とのみ、また拒絶査定謄本では「特許出願人日本精工株式会社」とのみ表示(正確には、その末尾に「ほか一名」と付記すべきであつたといえるが、代表者名のみを記載したとみる余地もある。)されていることが認められるが、審査手続の段階における右のことから原告及び原告補助参加人両名が審判の請求をしたことが明らかであるとはいえないし、他に本件審判請求書が提出されたことをもつて原告ら共有者両名が審判の請求をしたものであると解すべき資料は見当らない。 したがつて、本件審判請求書の当事者の記載が単なる請求書の方式の違背に過ぎないことを前提とする原告の前記主張も採用するに由なきものといわざるを得ない。 3 そうすると、審判請求書の請求人名称欄に原告のみが表示されていたことから、本件審判の請求は原告が単独でなしたものと判断し、特許法第132条第3項の規定に違反する不適法な審判の請求であり、その補正をすることができないものであるとして、特許法第135条の規定により却下した審決には違法の点はない。 三 以上のとおりであるから、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条第94条後段の規定を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 杉本良吉 |
---|---|
裁判官 | 高林克巳 |
裁判官 | 舟橋定之 |