運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2003-11209
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  技術常識 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 17年 (行ケ) 10093号 審決取消請求事件
原告 日本鉄構建設工業株式会社
訴訟代理人弁護士 小林幸夫
同復代理人弁護士 村西大作
訴訟代理人弁理士 内田和男
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 山田忠夫
同 新井 夕起子
同 立川功
同 伊藤三男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/04/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-11209号事件について平成16年7月7日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,本件特許の出願人である原告が,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁が審判不成立の審決をしたことから,原告が同審決の取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年7月12日,発明の名称を「駐輪装置」とする特許出願(特願平11-197362号,以下「本件特許出願」という。その公開特許公報は甲2)をし,その各請求項に係る発明は平成15年1月14日付け手続補正書(甲3)により補正されたが,特許庁から平成15年5月20日に拒絶の査定を受けた。そこで原告は,同年6月18日,これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は,同請求を不服2003-11209号事件として審理した上,平成16年7月7日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年7月28日付けで原告に送達された。
(2) 発明の要旨 願書に添付された明細書(平成15年1月14日付け手続補正書による補正後のもの。以下,願書に添付された図面と併せて「本件明細書」という。)の特許請求の範囲【請求項1】記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨は,下記のとおりである(請求項2は省略)。
記 「地面又は床面に自転車の車輪の軸間距離と同程度の間隔で少なくとも一対平行に設置され上下一対の平行な水平面と該水平面と一体の垂直面が形成されたレールと,前記自転車を載置する駐輪台の幅以上に長く形成されその両方の端部に前記一対 のレール の内側 の前記水平面上を転動するガイドローラと前記一対 のレールの外側 の前記垂直面上を転動するガイドローラと が一対 ずつ 回動自在に取り付けられ前記レールに夫々取り付けられた一対のガイド部材と,該一対のガイド部材上に固定された駐輪台とを備えたことを特徴とする駐輪装置。」(下線部は前記補正に係る箇所) (3) 審決の内容 審決の詳細は,別添審決謄本写し記載のとおりである。その要旨とするところは,本願発明は,実願昭63-3510号(実開平1-108886号)のマイクロフィルム(審判「刊行物1」・本訴甲8,以下「刊行物1」という。),平成11年6月30日イビケン株式会社発行「自転車バイク駐車場」第235号(平成11年7月号)21頁〜23頁(審判「刊行物2」・本訴甲9,以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下,それぞれ「刊行物1発明」,「刊行物2発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものである。
(4) 審決の取消事由 審決は,刊行物1発明の認定を誤り(取消事由1),本願発明と刊行物1発明との相違点についての判断を誤った(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(刊行物1発明の認定の誤り) 審決は,刊行物1発明として,「床面に,自転車の車輪の軸間距離と同程度の間隔で少なくとも一対平行に設置され,上下一対の平行な水平面と該水平面と一体の垂直面が形成されたレール1,1と,後記の連結部材6の幅以上に長く形成され,その両方の端部に,前記一対のレール1,1の外側の水平面上を転動するガイドローラ8Aと前記一対のレール1,1の前記垂直面の外側面を転動するガイドローラ8Bとが一対ずつ回動自在に取付けられ,前記レール1,1に夫々取付けられた一対の平行部材5A,5Bと,該一対の平行部材5A,5B上に固定され,自転車の各車輪を載置する前輪支持台13と後輪支持台34とを有する連結部材6と,を備えた,駐輪装置」(審決謄本2頁最終段落〜3頁第1段落)を認定したが,誤りである。
すなわち,刊行物1(甲8)の図面第3図及び第5図を子細に見ると,一対のレール1,1の外側の水平面上を転動するガイドローラ(案内車輪)8Aと一対のレール1,1の垂直面の外側面を転動するガイドローラ(案内車輪)8Bとは,同じ側に備わったものであり,刊行物1の明細書にも,「上記実施例の第3図および第5図に示すように,各案内車輪8A.8Bが案内レール1の外側から挿入するような構成としたが,例えば案内車輪8A.8Bが案内レール1の内側から挿入するような構成にしてもよい」(甲8の明細書14頁第3段落)と記載されている。上記図面及び明細書の記載は,刊行物1発明が,内ガイド方式(水平ガイドローラが,それぞれ,一対のレールの内側を転動するようにしたもの。以下同じ。)でもよいことを示唆するものであり,外ガイド方式(水平ガイドローラが,それぞれ,一対のレールの外側を転動するようにしたもの。以下同じ。)に特定しているわけではなく,刊行物1発明は,いずれの案内車輪8A,8Bも,上記内側,外側のいずれか一方の側にのみ備えたものであり,「床面に,自転車の車輪の軸間距離と同程度の間隔で少なくとも一対平行に設置され,上下一対の平行な水平面と該水平面と一体の垂直面が形成されたレール1,1と,後記の連結部材6の幅以上に長く形成され,その両方の端部に,前記一対のレール1,1の外側の水平面上を転動するガイドローラ8Aと前記一対のレール1,1の前記垂直面の外側面を転動するガイドローラ8Bとが同じ外側 に一対ずつ回動自在に取付けられ,前記レール1,1に夫々取付けられた一対の平行部材5A,5Bと,該一対の平行部材5A,5B上に固定され,自転車の各車輪を載置する前輪支持台13と後輪支持台34とを有する連結部材6と,を備えた,駐輪装置」と限定的に認定すべきである。
イ 取消事由2(本願発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り) 審決は,本願発明と刊行物1発明との相違点として認定した,「各『ガイドローラ』が,本願発明では,レールの内側の水平面上及びレールの外側の垂直面上を転動するのに対して,刊行物1記載の発明では,レールの外側の水平面上及びレールの垂直面の外側面を転動する点」(審決謄本3頁最終段落〜4頁第1段落,以下「相違点」という。)について,「駐輪台が一対のレール上をスライドするように構成した駐輪装置において,ガイド部材に設けた各ガイドローラが,レールの内側の水平面上及びレールの外側の垂直面上を転動するようにしたものは,上記のとおり刊行物2に記載されており,この刊行物2記載の発明を刊行物1記載の発明に適用して本願発明とすることは,当業者において何らの困難性も認められず,また本願発明が奏する作用効果も,当業者が予期し得る程度のものであって,格別のものとはいえない」(審決謄本4頁第2段落)と判断した。審決の上記相違点の認定は認めるが,相違点についての判断は,誤りである。
(ア) まず,審決は,上記判断に先立ち,刊行物2発明として,「上下2段に駐輪装置を有し,下段の駐輪装置は,自転車を載置する各ラックが一対のレールに沿って左右にスライドするものであり,そのスライド機構は,上下一対の平行な水平面と該水平面と一体の垂直面が形成された,互いに平行な一対のレールと,レールの内側の前記水平面上を転動するガイドローラと,レールの外側の前記垂直面上を転動するガイドローラとが回動自在に取り付けられ,前記レールに夫々取り付けられた一対のガイド部材と,を備えたスライド機構である,駐輪装置」(審決謄本3頁第2段落)を認定したが,誤りである。
すなわち,刊行物2(甲9)の「数台を楽にスライド出来るローラーベース図」(22頁右下,以下「ローラーベース図」という。)は,刊行物2の本文や写真に示されているものとは,全く無関係のものである。ローラーベース図には,単体のレールに対し,レールの水平面上を転動するガイドローラ(垂直ガイドローラ)と,レールの垂直面上を転動するガイドローラ(水平ガイドローラ)とを備えたローラーベースが図示されているが,単体のレールの場合,内側,外側という概念は存在しないから,一対のレールを設ける場合に,上記ローラーベースをどのように組み合わせるのかについては,全く開示していないというべきであり,刊行物2発明は,正しくは,「上下2段に駐輪装置を有し,下段の駐輪装置は,自転車を載置する各ラックが一対のレールに沿って左右にスライドするものであり,そのスライド機構は,上下一対の平行な水平面と該水平面と一体の垂直面が形成された,互いに平行な一対のレールと,レールの一方の側の前記水平面上を転動するガイドローラと,レールの他方の側の前記垂直面上を転動するガイドローラとが回動自在に取り付けられ,前記レールに夫々取り付けられた一対のガイド部材と,を備えたスライド機構である,駐輪装置」と認定すべきである。
そして,審決の相違点についての判断は,刊行物2発明の認定を前提とするものであるところ,刊行物2発明の認定が誤りである以上,相違点についての判断も,誤りである。
(イ) 次に,刊行物2発明は,上記のとおり認定すべきものであり,そのローラベースを,一対のレールにおいて適用しようとする場合,一般的に,水平,垂直ローラの組合せとして,当業者は,まず,次の2案を考えるものである。その第1は,一方のレールには,レールの内側の垂直面上を転動する水平ガイドローラと,外側の水平面上を転動する垂直ガイドローラを取り付け,他方のレールには,レールの内側の水平面上を転動する垂直ガイドローラと,外側の垂直面上を転動する水平ガイドローラを取り付けた態様,要するに,左右一対のレールのいずれにおいても,刊行物2(甲9)記載のローラベース構成における,レール及び両ローラの左右の配置が同じである態様である(下記の第1案参照)。第2は,一対のレールには,それぞれ,内側の垂直面上を転動する水平ガイドローラと,外側の水平面上を転動する垂直ガイドローラとを,回動自在に取り付けた態様,要するに,刊行物2記載のローラベース構成を,左側レール及び左側両ローラの配置とし,裏返したローラベース構成を,右側レール及び右側両ローラの配置とする,内ガイド方式である(下記の第2案参照)。しかし,本願発明においては,上記第1,第2の案ではなく,当業者の予想を超えて,第3の案,すなわち,一対のレールには,それぞれ,内側の水平面上を転動する垂直ガイドローラと,外側の垂直面上を転動する水平ガイドローラを回動自在に取り付けられた態様,要するに,刊行物2記載のローラベース構成を,右側レール及び右側両ローラの配置とし,裏返したローラベース構成を,左側レール及び左側両ローラの配置とする,外ガイド方式を採用したのである(下記の第3案参照)。外ガイド方式は,当業者が刊行物2発明から予想できる組合せの範囲を超えたものであり,刊行物1発明及び刊行物2発明から本願発明を想到とすることは困難である。
記 <第1案> <第2案> <第3案> (ウ) 次に本願発明は,当業者が予期し得る程度を超えた顕著な作用効果を奏するものである。
すなわち,刊行物1(甲8)には,自転車の駐車装置が開示されてはいるが,その台車の横スライド機構は,自転車の出し入れの際に台車を前後に移動させたり,ハンドルの傾きに追従するように傾斜させる場合に,左右の間隔を広くしてその操作を行いやすくするための補助的な機構であって,台車の横移動によって,直接的に省スペース化を図ることを目的としたものではない。自転車の出し入れの際における台車の移動量は,隣接する台車数台分の範囲にとどまり,1度に20台ないし30台の多数の台車を一度に移動させることを,全く想定していないものである。また,刊行物1においては,垂直の案内車輪8A及び水平の案内車輪8Bが,レールの同一側に,レールの長手方向に並んで配置されているため(第3図及び第4図),平行部材5Aのレール長手方向の長さを短くすることができないから,自転車の収納間隔を狭くして省スペース化を追求するという,自転車の駐車装置本来の価値を発揮することは到底かなわず,実用化されたという実績もない。これに対して,本願発明は,本件明細書(【特許請求の範囲】並びに段落【0005】,【0007】,【0009】〜【0011】,【0026】及び【0028】の記載は甲3,その余の記載は甲2参照。以下,書証番号を省略する。)の【図4】のとおり,レール2の水平面2a上を転動するガイドローラ10を,一対のレール2の内側に配置し,レール2の垂直面2b上を転動するガイドローラ10を,一対のレール2の外側に配置することによって,ガイド部材3の長さを短くして省スペース化を図り,例えば,従来の2段式に相当する程の収容効率を得ることができるようにしたものである。
また,刊行物1においては,ローラ8A,8Bが一対の案内レール1の内側を転動するように(内ガイド方式)構成してもよい(甲8の明細書14頁第3段落)としており,また,他のほとんどの従来例は,この方式を採用しているが,内ガイド方式であると,台車6の端部を押した場合,くさび効果によって,ローラ8A,8Bが案内レール1に食い付いて,引っ掛かりやすくなってしまい,また,ローラ8A,8Bが案内レール1に食い付かない場合でも,大きな歪みを生じ,台車自体の金属部分と案内レール1とが直接接触してしまい,台車が円滑に動かない。そのため,一度に押す移動台車3の数は,多くても3,4台程度と想定されており,この程度の台数であれば,一台の移動台車3を押すのに大きな力が必要であるとしても,また,押圧操作のスムーズさに多少欠けるとしても,その操作には,支障がないとの考えで設計されているものと推察される。上記のように,内ガイド方式では,20台ないし30台の台車全部をまとめて動かすことは,到底不可能であるのに対して,本願発明は,水平のガイドローラ10が,一対のレール2の外側の垂直面2b上を転動するように構成しているので(外ガイド方式),くさび効果が少なくなって,食い付きが起きず,ガイドローラ10,10は常に滑らかに動き,この結果,駐輪台4を極めて軽い力でレール2の方向に動かすことができるため,小さな力で,全部の駐輪台4を一度に移動させることが可能となる。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)〜(3)の事実はいずれも認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論 審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1) 取消事由1(刊行物1発明の認定の誤り)について 審決は,刊行物1発明として,「一対のレール1,1の外側の水平面上を転動するガイドローラ8A」(審決謄本2頁最終段落),「前記一対のレール1,1の前記垂直面の外側面を転動するガイドローラ8B」(同)を認定しており,各ガイドローラ8A,8Bが,レール1,1に対して,「同じ外側に」取り付けられていることを実質的に認定している。したがって,「同じ外側に」との文言がなくても,刊行物1発明の認定の内容が変わることはないから,原告の主張には理由がない。
(2) 取消事由2(本願発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り)について ア まず,操作性を考慮しなければ,刊行物2(甲9)の記載から前記第1案,第2案(内ガイド方式)及び第3案(外ガイド方式)の三つの態様が発案され得るが,一対のレールの内側の垂直面上を転動するガイドローラ(以下「水平輪」という。)を取り付けたガイド部材を,一方又は両方に配置したものでは,ラックの円滑な移動が困難であることが,当業者に明らかである。すなわち,第1案では,図面において,各ガイド部材及び図示されていないラックが右方に移動してしまうことがあり,水平輪がレールの垂直面から離れ,さらに,レールの水平面上を転動するガイドローラを取り付けているガイド部材の垂直な内面が,レールの水平面の端縁に接触してしまい,ラックの移動の妨げとなりやすいこと,第2案(内ガイド方式)では,各ガイド部材が,図示されていないラックがレールに対して傾くことにより内方に移動してしまうことがあり,ラックの移動の妨げとなりやすいことは,当業者に明らかである。したがって,当業者は,刊行物2の記載から,当然に第3案(外ガイド方式)を想起するのであり,刊行物1発明においても,水平な案内車輪8B,8Bが一対のレール1,1の外側に位置しており,これは,この分野における当業者の技術常識ともいえることである。
イ 次に,審決の刊行物1発明及び刊行物2発明の認定には,何ら誤りはなく,刊行物2発明が,本願発明と刊行物1発明との相違点に係る構成を備えるものである以上,当業者が,刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせて,本願発明を想到することに,何らの困難もない。
ウ 次に,本願発明の作用効果は,刊行物1発明及び刊行物2発明から当業者が当然に予期し得るものである。
刊行物1(甲8)には,「従来の停め方によると,・・・スペースの有効利用が図れないという問題点があった。・・・そこで,本考案は上記問題点を解消し得る自転車の駐車装置を提供することを目的とする」(明細書2頁最終段落〜3頁第1段落)と記載され,この記載によれば,刊行物1発明は,本願発明と同様,省スペースを図ることを目的としたものであることが明らかである。また,「案内レールに,移動台車の移動スペースを少し余分に確保するだけで,容易に自転車の出し入れを行なうことができる」(同15頁第2段落)とあるように,刊行物1発明には,案内レール上の移動台車をすべて一方側に寄せても,1台の自転車を出し入れできるだけのスペースしか確保できない態様があることは明らかであり,案内レール上の一方の端にスペースがあり,他方の端の移動台車に自転車を出し入れする場合,案内レール上のすべての台車を,一度に他方の端側に移動させてスペースを確保することは,当然のこととして想定されていることが,当業者に明らかである。原告は,本願発明は,レール2の水平面2a上を転動するガイドローラ10を,一対のレール2の内側に配置し,レール2の垂直面2b上を転動するガイドローラをレール2の外側に配置することによって,ガイド部材3の長さを短くして省スペース化を図ることができると主張する。しかしながら,ガイド部材3は,「自転車を載置する駐輪台の幅以上に長く形成され」るものであって,その幅の範囲で垂直面,水平面上を転動するガイドローラを配置すればよいことは明らかであるから,ガイドローラの配置は,原告の主張する「自転車の収納間隔を狭くして省スペース化を追求する」ことと関連しない事項である。また,本願発明が,原告主張のように,ガイド部材3の長さを短くして省スペース化を図ることができるようにするためには,レールの垂直面及び水平面上を転動する一対のガイドローラが,同位置で対向配置されることが必要であるところ,本願発明の「一対のレールの内側の水平面上を転動するガイドローラと一対のレールの外側の垂直面上を転動するガイドローラ」は,一対のガイドローラを同位置で対向させて配置することを特定していないから,原告の上記主張は本願発明の要旨に基づかないものであり,いずれにしても,失当というほかない。
原告は,刊行物1には,ローラ8A,8Bが一対の案内レールの内側を転動する(内ガイド方式)ように構成してもよい(明細書14頁第3段落)とあり,この場合,くさび効果によって,台車が円滑に動かず,20台ないし30台の台車をまとめて動かすことは不可能であるのに対し,本願発明は,水平のガイドローラ10が,一対のレール2の外側の垂直面2b上を転動するように構成しているので,小さな力で,全部の駐輪台4を一度に移動させることが可能であると主張する。しかし,審決が認定した刊行物1発明は,外ガイド方式のものであり,刊行物1における内ガイド方式の実施例と本願発明との比較は,審決の認定した刊行物1発明とは別の発明と本願発明とを比較するものであり,無意味である。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)・(2)(発明の要旨)・(3)(審決の内容)の事実は,いずれも当事者間に争いはない。
そこで,本件審決の適否につき,原告主張の取消事由ごとに判断することとする。
2 取消事由1(刊行物1発明の認定の誤り)について 原告は,審決の刊行物1発明の認定は誤りであると主張する。
そこで刊行物1について見ると,刊行物1(甲8)には,「平行部材5A,5Bの両端近傍部には上記案内レール1の走行溝7を転動自在な一対の案内車輪8A.8Bがそれぞれ設けられている」(明細書5頁第1段落),「上記実施例の第3図および第5図に示すように,各案内車輪8A.8Bが案内レール1の外側から挿入するような構成としたが,例えば,案内車輪8A.8Bが案内レール1の内側から挿入するような構成にしてもよい」(同14頁第3段落)との記載があり,また,刊行物1の第1図(全体側面図),第3図(第1支持体部分の断面図)及び第5図(第2支持体部分の断面図)には,案内車輪8A,8Bが,いずれも,案内レール1,1の外側(案内レール1,1間を内側として,その反対側。)から挿入され,案内車輪8Aは,一対の案内レール1,1の外側に位置する水平面を,また,案内車輪8Bは,同じく外側に位置する垂直面を転動するようにすることが図示されている。
上記記載及び図示によれば,刊行物1(甲8)には,案内車輪8A,8Bを,いずれも,案内レール1の外側に取り付ける態様,ずなわち外ガイド方式と,いずれも,案内レール1の内側に取り付ける態様,すなわち内ガイド方式の二つの態様が開示されており,前者の態様は,「一対のレール1,1の外側の水平面上を転動するガイドローラ8Aと一対のレール1,1の外側の垂直面を転動するガイドローラ8Bとが一対ずつ回動自在に取付けられ」ているものと認めることができる。刊行物に複数の態様が選択的なものとして開示されている場合,いずれの態様も,刊行物に記載された発明ということができ,審決は,刊行物1発明を,上記前者の態様に基づいて認定したものと認められる。
したがって,刊行物1発明として,「・・・一対のレール1,1の外側の水平面上を転動するガイドローラ8Aと前記一対のレール1,1の前記垂直面の外側面を転動するガイドローラ8Bとが一対ずつ回動自在に取付けられ・・・を備えた,駐輪装置」(審決謄本2頁最終段落〜3頁第1段落)を認定した審決に誤りはなく,原告の取消事由1の主張は理由がない。
3 取消事由2(本願発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は,まず,審決の刊行物2発明の認定は誤りであると主張する。
そこで,刊行物2(甲9)について見ると,刊行物2(甲9)には,「第一の大きな特徴は,下段ラックを横スライド方式にしていることです。下段ラックは手や足で軽く押すだけで左右にスライドし,自転車が楽に出し入れできます。そのため,固定式のものよりも多くの自転車を収納することができます」(22頁左欄第2段落〜第3段落)との記載があり,23頁には,横スライド方式を採用する駐輪施設の写真4葉が掲載され,その左上写真の説明には,「☆下段は横スライド式 足で簡単に左右に移動でき,スムーズな自転車の出し入れが可能です」との記載が,右上写真の説明には,「☆スライド式で寄せ巾縮少」との記載があり,また,22頁には,「数台を楽にスライド出来るローラーベース図」という表題で,下記のとおりスライドベースの断面図(ローラーベース図)が示され,レールの水平面上を転動するガイドローラはレールの左側に,垂直面を転動するガイドローラは右側に配置されている。
記 そうすると,上記駐輪施設における下段ラックのスライド機構の具体的な構成は,上記写真からは明らかではないが,上記記載及び図示によれば,ローラーベース図に示されたローラーベースは,上記下段ラックのスライド機構として使用可能なものであることが,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)に明らかであり,上記写真及びローラーベース図によれば,このローラーベースは,レールと,レールの水平面上を転動するガイドローラと,レールの垂直面上を転動するガイドローラとを取り付けて成る走行体(ラック)とから構成され,レールの水平面上を転動するガイドローラと,垂直面を転動するガイドローラとは,レールの反対側に配置され,また,他のローラベースと対になって用いられるものであると認めることができる。しかし,刊行物2には,上記したところ以外に,上記ローラベースに関する記載ないし図は見当たらないから,上記ローラーベースの水平面,垂直面が,上記対となるローラベースとのレール間を内側として,内側に位置するのか,その反対側である外側に位置するのかは,不明であるといわざるを得ない。したがって,刊行物2には,正しくは,「レールの一方側の水平面上を転動するガイドローラと,レールの他方側の垂直面上を転動するガイドローラとが回動自在に取り付けられ」たガイドローラが記載されていると認めるべきであり,審決が,刊行物2発明を,「レールの内側の前記水平面上を転動するガイドローラと,レールの外側の前記垂直面上を転動するガイドローラとが回動自在に取り付けられ」(審決謄本3頁第2段落)と認定したのは誤りというべきである。
ところで,刊行物1(甲8)の「上記実施例の第3図および第5図に示すように,各案内車輪8A.8Bが案内レール1の外側から挿入するような構成としたが,例えば,案内車輪8A.8Bが案内レー ル1の内側から挿入するような構成にしてもよい」(明細書14頁第3段落)の記載によれば,そもそも,案内車輪8A(垂直ローラ),8B(水平ローラ)は,案内レール1,1の内側,外側のいずれの側に配置しても,機能できるものと認められる。そうであれば,刊行物2(甲9)のガイドローラにおいても,レールの水平面上を転動するガイドローラ(垂直ローラ),及びレールの垂直面上を転動するガイドローラ(水平ローラ)は,一対のレール間の内側,外側のいずれの側に配置しても,機能できるものと認められる。刊行物2において,レールの水平面上を転動するガイドローラと,垂直面を転動するガイドローラとは,レールの一方及び他方に配置されていることは,上記(1)のとおりであるから,刊行物2は,垂直ローラ,水平ローラのうち,一方のガイドローラを内側に,他方のガイドローラを外側に配置することを教示しているものということができる。
そして,相違点が「各『ガイドローラ』が,本願発明では,レールの内側の水平面上及びレールの外側の垂直面上を転動するのに対して,刊行物1記載の発明では,レールの外側の水平面上及びレールの垂直面の外側面を転動する点」(審決謄本3頁最終段落〜4頁第1段落)であることは,原告の自認するところであり,刊行物2が,一方のガイドローラを内側に,他方のガイドローラを外側に配置することを教示しているのであるから,刊行物1発明において,ガイドローラを,レールの外側の水平面上及びレールの垂直面の外側面(外側の垂直面)を転動させることに代え,レールの内側の水平面上及びレールの外側の垂直面上を転動させるようにすること,すなわち,レールの外側の水平面上を転動するガイドローラ(垂直ローラ)を,レールの内側の水平面上を転動するように変更することは,当業者が,適宜設計変更し得ることというべきである。
したがって,審決の刊行物2発明の認定の上記誤りは,本願発明について,刊行物1,2に基づく容易想到性を肯定した審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(2) 原告は,刊行物1(甲8)は,台車の横移動によって,直接的に省スペースを図ることを目的としたものではなく,その効果を発揮することはできないのに対し,本願発明は,レール2の水平面2a上を転動するガイドローラ10を,一対のレール2の内側に配置し,レール2の垂直面2b上を転動するガイドローラ10を,一対のレール2の外側に配置することによって,ガイド部材3の長さを短くして省スペース化を図り,例えば,従来の2段式に相当する程の収容効率を得ることができるようにしたものであると主張する。
しかしながら,刊行物1には,「空いている移動台車3の所まで自転車を移動させるとともに,その両側の移動台車3を適当に移動させて,両側に自転車を容易に出し入れできるスペースを設ける」(明細書11頁最終段落),「狭いスペースで多数の自転車を格納できる」(同12頁第1段落),「自転車はすべて整列状態で格納されるため,通路幅を常に確保することができる」(同13頁第2段落),「案内レールに,移動台車の移動スペースを少し余分に確保するだけで,容易に自転車の出し入れを行なうことができる」(同15頁第2段落)との記載があり,これらの記載によれば,自転車は,幅方向に整列して密に格納されることは明らかであるから,刊行物1が,横幅についての省スペースを図ることをも目的としたものであることは明らかである。また,自転車が幅方向に整列される以上,駐輪スペースの幅方向の短縮は,自転車の駐輪台数によって自ずと制限を受けるのであるから,ガイド部材3の長さを短くしても,格別の省スペース化が可能であるとまでは認めることができず,また,刊行物2(甲9)においても,レールの水平面上を転動するガイドローラとレールの垂直面上を転動するガイドローラとが,レールの幅方向に並んでいるから,原告主張に係る上記効果は,刊行物2発明が既に有しているものであって,格別のものとはいうことはできない。
原告は,刊行物1には,ローラ8A,8Bが一対の案内レールの内側を転動する(内ガイド方式)ように構成してもよい(明細書14頁第3段落)とあり,この場合,くさび効果によって,台車が円滑に動かず,20台ないし30台の台車をまとめて動かすことは不可能であるのに対し,本願発明は,水平のガイドローラ10が,一対のレール2の外側の垂直面2b上を転動するように構成しているので,小さな力,全部の駐輪台4を一度に移動させることが可能であると主張する。
しかしながら,審決の認定した刊行物1発明は,外ガイド方式を採用するものであることは上記1(1)のとおりであり,原告が外ガイド方式を採用したことによる作用効果であると主張するところの本願発明の作用効果は,外ガイド方式を採用する刊行物1発明においても,同様の作用効果を奏するものと認められるから,これも格別のものとはいうことはできない。
(3) 以上検討したところによれば,審決の相違点についての判断に,審決の結論に影響を及ぼす誤りはなく,原告の取消事由2の主張も理由がない。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉