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事件 昭和 55年 (ネ) 1856号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 1982/01/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 控訴人及び被控訴人【A】を除くその余の被控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。
二 被控訴人【A】の控訴に基づき、原判決中同被控訴人と控訴人とに関する部分(丙事件)を次のとおり変更する。
1 控訴人は、被控訴人【A】に対し、金四二万四〇四六円及び内金四一万三七三七円に対する昭和五一年六月二一日から、内金一万〇三〇九円に対する同五四年八月一七日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人【A】のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用のうち、被控訴人【A】と控訴人との間に生じた費用は、第一、二審を通じ二分し、その一を被控訴人【A】の、その余を控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人【A】を除くその余の被控訴人らとの間に生じた控訴費用は、第一八五六号事件について生じた費用は、控訴人の、第一九二八号事件について生じた費用は、右被控訴人らの各負担とする。
四 この判決は、第二、三項の金員の支払を命ずる部分に限り、仮りに執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 昭和五五年(ネ)第一八五六号事件1 控訴人原判決中控訴人と被控訴人らとに関する部分につき控訴人敗訴部分を取消す。
被控訴人らの請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
二 同年(ネ)第一九二八号事件1 被控訴人ら原判決中被控訴人らと控訴人に関する部分を次のとおり変更する。
(甲事件)(一)控訴人は、原判決添付目標(一)または(一)′および同目録(二)または(二)′記載の方法により、タイヤを製造し、または、右各方法により製造されたタイヤを販売してはならない。
(二)控訴人は、その占有にかかる第(一)項記載の方法により製造されたタイヤを廃棄しなければならない。
(三)控訴人は、被控訴人【A】を除くその余の被控訴人らに対し、それぞれ九二万八三一五円とこれに対する昭和五一年六月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
(乙事件)控訴人の請求を棄却する。
(丙事件)控訴人は、被控訴人【A】に対し、九二八、三一五円とこれに対する昭和五一年六月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
(訴訟費用)訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
2 控訴人被控訴人らの本件控訴を棄却する。
控訴費用は被控訴人らの負担とする。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示中控
訴人と被控訴人らとに関する部分と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決一二枚目裏七行目「緩衡性」を「緩衝性」に、同一六枚目表一二行目「匹適」を「匹敵」に各改める。)。
一 被控訴人らの主張1 本件特許の架橋発泡法によるタイヤ製法において、EVAに代替しうるものとしては、EPDM、LDPEの組合せしか考えられない。すなわち、EPDMとLDPEを組合せると、原料の物性、加工性においてEVAと同じものができ上るのであり、現に、本件特許出願直後において、タイヤ製造業者が右二つを混合した原料でタイヤを製造していた。特に、当時EPDMが安価で購入できる状況にあつたので、被控訴人【B】らは、これを大量に手に入れ、LDPEを混合してタイヤを製造していた。控訴人は、本訴が提起されるや、特許侵害を免れるために右方法に切り換えたにすぎず、控訴人の新イ号によるタイヤ製造は推考容易性が認められる。
2 有限会社山田が、控訴人に対し、本件特許に基づく損害賠償債権を原審乙事件被告【C】らに譲渡した旨を通知した昭和五一年三月一一日当時、亡【D】の相続人である同被告らは、タイヤの製造販売の営業には全く関与しておらず、右【D】の弟である被控訴人【A】が兄の後を引継いで営業していたものである。したがつて、原審乙事件被告【C】らは、損害および加害者を知るよしもなかつたのであり、控訴人主張の消滅時効は進行しない。
3 不当利得の制度は、受益者の利得に重点がおかれ、その結果、他人に損害を与えたかいなかは重要な事柄ではない、特許法102条1項は、不当利得による請求の場合も類推適用されるべきである。これが困難としても、少なくとも、通常受ける損害すなわち同条二項にいう実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭については、不当利得返還請求権が発生すると考える。そして、右実施料相当額は、売価の三パーセントを下らない。よつて、一二〇ミリタイヤ四万〇四三一個の実施料相当額は売価が五九・五〇円であることから、有限会社山田の損失は次の式により算定される。
59.50円×40,431×0.03×1/7=10,309円二 証拠関係(省略) 理 由一 原審甲事件及び乙事件について 当裁判所も、原審甲事件における被控訴人【A】を除くその余の被控訴人らの各請求は、原判決の認容した限度において正当としてこれを認容すべく、その余は失当として棄却を免れず、原審乙事件における控訴人の請求は、正当としてこれを認容すべきものであると判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加もしくは訂正するほか、原判決理由の説示(原判決三五枚目表二行目から同五一枚目裏一行目まで及び同五四枚目裏一一行目から同五七枚目表二行目冒頭「棄却し、」まで)と同一であるから、これを引用する。
1 原判決四八枚目裏五行目の次行に「なお、被控訴人らは、本件特許によるタイヤ製法においてEVAに代替しうるものは、EPDMとLDPEの組合せしか考えられず、現に本件特許出願後にタイヤ製造業者が右方法によりタイヤを製造していたのであるから、右方法は、推考容易性が認められると主張するが、新イ号方法におけるようなEPDM二〇ー四〇部とLDPE八〇ー六〇部の混合剤が公知公用であつたと認められないことは、前叙のとおりであり、また、前掲証人【E】の証言によるも、被控訴人【B】がたまたま安価で取得したEPDMを利用すべく種々試みたが、結局商品化に失敗したことが認められるにとゞまり、被控訴人らの主張事実を認めるに足る証拠はないから、右主張は採用できない。」を加える。
2 同五七枚目表二行目冒頭「棄却し、」を「棄却すべきである。」と改める。
二 原審丙事件について1 損害賠償請求(主位的請求原因)について 当裁判所も、被控訴人【A】の損害賠償請求に関する主張は、原判決認定の限度において理由があると判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加もしくは訂正するほか、この点に関する原判決理由の説示(原判決五一枚目裏一一行目から同五四枚目表二行目まで)と同一であるから、これを引用する。
(一) 原判決五二枚目裏末行の次行に、「被控訴人【A】は、原審乙事件被告【C】らが損害および加害者を知らなかつたから、消滅時効は進行しない旨主張するが、同被告らは、有限会社山田から本件特許権(持分)とその侵害を原因とした控訴人に対する損害賠償債権の譲渡を受けた亡【D】の相続人であるから、当時、
同被告らがタイヤの製造販売の営業に関与していなかつたとしても、亡【D】の控訴人に対する損害賠償債権の承継人として、右損害及び加害者を知つていたものと推認するのが相当であり、これに反する甲第四四号証の記載はたやすく措信できず、被控訴人【A】の右主張は採用できない。」を加える。
(二) 同五三枚目裏末行の数式を「11.54×40,431×1/7≒66,653」と改める。
2 不当利得返還請求(予備的請求原因)について(一) 被控訴人【A】の不法行為に基づく損害金請求のうち前記1において理由なしとした金額相当部分については、不当利得返還請求の当否について検討する必要がある。
そのうち控訴人が新イ号方法を実施したことにより得た利得は、正当な営業によつて得たものであつて、特段法律上の原因なく得た利得でないことは、前記の説示によつて明らかであるし、また旧イ号方法の実施により得た利得中損害金としては、時効消滅した前半の期間中の分についても、当時有限会社山田が控訴人の右利得によつてこれと同額の損失を生じたことを認めるに足る的確な証拠がない。
一般に、特許権者は、他人が当該特許権侵害により何ほどかの利得を得た場合、
これにより右利得と同額の損失を生じたとみなければならない合理的な理由はない。以上の点よりして、損害賠償請求の場合に侵害者の利得額即権利者の損害額と推定する旨規定した特許法102条1項の規定が不当利得返還請求の場合に類推適用できないことは、明らかである。
(二) しかしながら、特許権侵害者が適法に特許権を実施するには、特許権者又は専用実施権者の許諾を得、そのためには相当の実施料を支払わなければならないが、侵害者は、これを支払わずに実施して、その支払を免れて、同額の利得を得たことになり、他方、特許権者は、受くべき実施料の支払を受けることなく、これと同額の損害を蒙つたものということができるから、特許権の侵害があれば、特別の事由のない限り、常に実施料相当額につき不当利得が成立するということができる。本件においては、特別の事由が認められないから、有限会社山田は、控訴人に対し、同人が前半の期間中旧イ号方法の実施につき実施料相当の額の不当利得返還請求権を有していたものである。
そこで実施料相当額について検討するに、控訴人が右期間中にタイヤ四万〇四三一個を売却したことは、前認定のとおりであり、弁論の全趣旨及びこれにより成立が認められる甲第四五号証によれば、控訴人は、右タイヤを一個五九円五〇銭で売却したこと、当時ゴム製品の実施料は、売価の三パーセントが通常であつたことが認められるから、これにより計算すれば、右実施料相当額は、七万二一六九円(円未満切捨)となる。
59.50×40,431×0.03≒72,169 有限会社山田が控訴人の本件特許権侵害による損害金請求権の七分の一を亡【D】の相続人である原審乙事件被告【C】らに譲渡し、控訴人に対し、その旨通知したこと、同被告らが右譲受債権とこれに対する昭和五一年六月二一日から支払ずみまでの遅延損害金債権を被控訴人【A】に譲渡し、控訴人に対し、その旨通知したことは、前認定のとおりであり、右各債権譲渡及びその通知には、本件特許権侵害による損失についての不当利得返還請求権も含まれているものと解するのが相当である。
してみれば、被控訴人【A】は、控訴人に対し、一万〇三〇九円(円未満切捨、
前記七万二一六九円の七分の一)の不当利得返還請求権及びこれに対する原審丙事件の訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五四年八月一七日から支払ずみまで(控訴人が悪意の不当利得者であることを認めるに足る証拠はない。)民法所定の年五分の割合による遅延損害金請求権を有することになる。
3 よつて、被控訴人【A】の控訴人に対する請求は、不法行為による損害賠償請求として四一万三七三七円及び不当利得返還請求として一万〇三〇九円計四二万四〇四六円並びに前者に対する昭和五一年六月二一日から、後者に対する同五四年八月一七日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、これを正当として認容すべく、その余は、失当として棄却すべきである。
三 以上の次第であるから、原判決中原審甲事件及び同乙事件については、いずれも相当であつて、右各事件についての控訴は、いずれも理由がないから、棄却することとし、同丙事件については、前記説示と判断を異にする限度において失当であるから、被控訴人【A】の控訴に基づき、これを前記説示のとおり変更し、控訴人の控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法89条92条93条95条96条を、仮執行の宣言につき同法196条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 小林定人
裁判官 惣脇春雄
裁判官 山本博文