運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ワ13121特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成16ワ14710特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 公知技術 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  均等 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  実施 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施権 /  専用実施権 /  設定登録 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 16年 (ワ) 20335号 特許権に基づく差止等請求事件
原告 株式会社丸一シラサカ
同訴訟代理人弁護士 小笠原耕司
同 山田司
被告 バクマ工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 渡辺隆夫
同 弁理士 近藤彰
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/04/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は,その占有する前項記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,1000万円及び平成16年11月28日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,原告が被告に対し,別紙物件目録記載のU型フード付換気口ベアーキャップ(以下「被告製品A」という。)及び同目録記載のアルミフレキ取付けスリーブ(以下「被告製品B」という。)を製造し,販売する被告の行為が,原告が専用実施権を有するとする換気装置の管接続構造についての特許権を侵害するとして,@被告製品A及び被告製品B(以下「被告各製品」という。)の製造等の差止め,A被告各製品の廃棄,B損害賠償の一部として,1000万円及び本訴状送達の日の翌日である平成16年11月28日から支払済みに至るまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。
1 争いのない事実等 (1) 有限会社白坂設備工業(以下「白坂設備工業」という。)は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)を有している。
@ 発明の名称 換気装置の管接続構造 A 特許番号 第3135208号 B 出願日 平成7年12月15日 C 登録日 平成12年12月1日 D 特許請求の範囲 外壁を貫通して室内側と屋外側とを連絡する通気パイプを設け,この通気パイプの室内側開口部にレジスタのガイド管を嵌合させる一方,前記通気パイプの屋外側開口部に屋外フードのガイド管を嵌合接続させる換気装置の管接続構造において,前記屋外フードは,建物の外壁面に密着する背面板と,この背板板から内側に向かって所定量突出させたガイド管を備えてなり,当該ガイド管の内径を,通気パイプの外径より所定のミリメートル単位で大きく設定し,屋外フードのガイド管が通気パイプの開口外周を包んだ状態で嵌合接続できるようにしたことを特徴とする換気装置の管接続構造。
(2) 本件発明の構成要件 本件発明は,以下の構成要件に分説することができる。
a-1 外壁を貫通して室内側と屋外側とを連絡する通気パイプを設け, a-2 この通気パイプの室内側開口部にレジスタのガイド管を嵌合させる一方, a-3 前記通気パイプの屋外側開口部に屋外フードのガイド管を嵌合接続させる a-4 換気装置の管接続構造において, b-1 前記屋外フードは,建物の外壁面に密着する背面板と,この背面板から内側に向かって所定量突出させたガイド管を備えてなり, b-2.1 当該ガイド管の内径を,通気パイプの外径より所定のミリメートル単位で大きく設定し, b-2.2 屋外フードのガイド管が通気パイプの開口外周を包んだ状態で嵌合接続できるようにした c ことを特徴とする換気装置の管接続構造。
(3) 被告各製品の構成は,別紙被告製品説明書記載のとおりである。
(4) 被告は,業として被告各製品を製造し,販売している。
2 争点 (1) 原告の専用実施権の有無(争点1) (2) 被告各製品は,本件発明の構成要件を充足するか。(争点2) (3) 原告の損害(争点3) 3 争点についての当事者の主張 (1) 争点1(原告の専用実施権設定の有無)について (原告) 白坂設備工業は,遅くとも平成9年5月31日までに,原告に対し,本件特許権の全範囲について専用実施権を設定した。なお,原告と白坂設備工業とは,代表者を共通にし,役員も重複する関連企業である。
(被告) 専用実施権は,設定登録がされなければその効力を生じないところ,本件特許権について原告に専用実施権を設定した旨の登録はされていない。
(2) 争点2(本件発明の構成要件充足性)について (原告) ア 被告各製品の構成 (ア) 被告製品Aを単独で使用した場合の構成は,以下のとおりである。
A-1 外壁を貫通して室内側と屋外側とを連絡する通気パイプ1(数字は,別紙被告製品説明書記載の図面中の符号,以下同じ。)を設け, A-2 この通気パイプ1の室内側開口部にレジスタのガイド管を嵌合させる一方, A-3 前記通気パイプ1の屋外側開口部に,屋外フードのパイプ受け部44及び押圧部46を嵌合接続させる A-4 換気装置の管接続構造において, B-1 被告製品Aは,建物の外壁面に密着する取付板部材4を有し,この取付板部材4は内側に向かって所定量突出したパイプ受け部44及び押圧部46を備え, B-2.1 当該パイプ受け部44及び押圧部46がミリメートル単位で通気パイプ1の外側に位置するように,パイプ用孔43の内径を,通気パイプ1の外径より所定のミリメートル単位で大きく設定し, B-2.2 パイプ受け部44及び押圧部46が通気パイプ1の開口外周を包んだ状態で嵌合接続できるようにした C ことを特徴とする換気装置の管接続構造 (イ) 被告各製品を組み合わせて使用した場合 A’-1 外壁を貫通して室内側と屋外側とを連絡する通気パイプ1を設け, A’-2 この通気パイプ1の室内側開口部にレジスタのガイド管を嵌合させる一方, A’-3 前記通気パイプ1の屋外側開口部に,被告製品Aと組み合わせて使用される被告製品Bを嵌合接続させる A’-4 換気装置の管接続構造において, B’-1 被告製品Aと被告製品Bの組合せは,建物の外壁面に密着する取付板部材4と,この取付板部材4から内側に向かって所定量突出した被告製品Bを備えてなり, B’-2.1 使用状態において,被告製品Bの小径部の内径が,通気パイプ1の外径より,所定のミリメートル単位で大きくなるよう設定し, B’-2.2 被告製品Aと組み合わされた被告製品Bの小径部が,通気パイプ1の開口外周を包んだ状態で嵌合接続できるようにした C’ ことを特徴とする換気装置の管接続構造 (ウ) 被告製品Aの構成A-1ないしCは,本件発明の構成要件a-1ないしcをそれぞれ充足する。
被告各製品の組合せによる構成A’-1ないしC’は,本件発明の構成要件a-1ないしcをそれぞれ充足する。
構成要件a-2,a-4及びcの充足性 本件発明は,自然換気,強制換気のいずれにも該当するものであり,本件発明の特許請求の範囲には,強制換気を除外するような文言は存在しない。被告各製品が強制換気による換気装置に使用する部品であるとしても,それによって,構成要件a-2,a-4及びcの充足性が否定されるものではない。
構成要件a-3(屋外フードのガイド管)の充足性 (ア) 文言侵害 a 「屋外フードのガイド管」の意味 本件発明は,フードとガイド管が一体化している場合と分離独立している場合のいずれをも含んでいる。
被告は,本件発明に係る特許公報に記載された明細書(以下「本件明細書」という。)に,フードとガイド管が一体となっている構造のものが実施例として示されていること,公知技術も同様の構造を示していることを理由に,屋外フードのガイド管について,ガイド管を一体に備えた屋外フードにおけるガイド管ととらえるべきである旨主張するが,本件発明の特許請求の範囲においては,「一体」という文言は存在しないし,その旨の限定もない。
b 対比 被告各製品は,分離可能な独立の部材であるが,壁面への取付完了時には,フード部材3と取付板部材4が組み合わされてビスで固定され,結合されているから,構成要件a-3を充足する。
(イ) 均等 仮に,構成要件a-3の「屋外フードのガイド管」について,被告が主張するとおり,「ガイド管を一体に備えた屋外フードにおけるガイド管」であると解したとしても,被告各製品は,構成要件a-3の「屋外フードのガイド管」と均等である。
すなわち,@一体型であるか分離独立型であるかは,本件発明の本質的部分ではなく,A一体型を分離独立型に置き換えても,外壁の汚れ防止という本件発明の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏するものであり,B置換えは,当業者が容易に想到することができたものであり,C被告各製品が,本件発明の出願時における公知技術と同一又は容易に推考できたとの事実もなく,かつ,D被告各製品が,特許出願手続において意識的に除外されたというような特段の事情もない。
構成要件a-3(ガイド管)の充足性 (ア) ガイド管の意味 ガイド管の「管」は,断面が円形で全周面を備えたパイプ状の物に限定されるわけではない。例えば,半円形管,半管,円管,角管,多角形管,断面U字状管,断面C字状管などの用語も当業者においては普通に用いられている。
(イ) 対比 被告製品Aにおいては,取付板部材4のパイプ受け部44及び押圧部46が,ガイド管に相当する。
被告各製品を組み合わせて使用した場合は,被告製品Bの小径部52がガイド管に相当する。被告製品Bの小径部52には,16か所に切れ込みが入っており,断面は完全な円ではないが,これもまた管の概念に含まれる。
構成要件b-1の充足性 (ア) 「所定量突出させた」の意味 構成要件b-1の「背面板から内側に向かって所定量突出させたガイド管を備えてなり」の「所定量」とは,特許請求の範囲の文言から解釈されるべきであり,具体的数値を意味しないのであるから,被告の主張するような「ガイド管が通気パイプの開口端よりフード内側に突出させることができる量」との限定を付して解すべきではなく,「背面板から内側に向かって突出した量」と読むべきである。
(イ) 対比 被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44及び押圧部46は,取付板部材4より内側に突出している。被告各製品を組み合わせて使用する場合においても,被告製品Bが前記取付板部材から内側に向かって突出しているから,構成要件b-1を充足する。
構成要件b-2.1の充足性 (ア) 「ガイド管の内径を,通気パイプの外径より所定のミリメートル単位で大きく設定し」の意味 構成要件b-2.1の「ガイド管の内径を,通気パイプの外径より所定のミリメートル単位で大きく設定し」とは,通気パイプとガイド管内径のすきまが大きくなりすぎて,結露の発生と水漏れが生じるのを回避することに主眼があるのであって,「所定のミリメートル単位」とはセンチメートル単位を排除する意味を持つにすぎない。被告の主張するように,通気パイプを傾斜させることができる程度の余裕を持たせることを要するとまで,限定して解すべき根拠はない。
(イ) 対比 被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44及び押圧部46並びに被告製品Bは,所定のミリメートル単位で通気パイプの外側に位置しているから,構成要件b-2.1を充足する。
構成要件b-2.2の充足性 (ア) 「ガイド管が通気パイプの開口外周を包んだ状態で嵌合接続できるようにした」の意味 構成要件b-2.2の「ガイド管が通気パイプの開口外周を包んだ状態で嵌合接続できるようにした」の「外周を包んだ状態」を,被告の主張するように「ガイド管が通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態」と限定して解すべき根拠はないから,単に,「外周を包んだ」と解すべきである。
また,仮に,「外周を包んだ状態」を「ガイド管が通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態」であると解するとしても,その状態で「嵌合接続できるようにした」と記載されていることからすれば,前記のような状態での接続が可能であることしか要求されておらず,そのような嵌合接続を「しようと思えばできる」ということしか要求されていないというべきである。
(イ) 対比 被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44及び押圧部46並びに被告製品Bは,いずれも,通気パイプの開口外周を包んでおり,構成要件b-2.2を具備する。
また,「外周を包んだ状態」を「ガイド管が通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態」であると解する場合でも,被告各製品を組み合わせて使用する場合,通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態が作出されるかどうかは,施工の問題に過ぎず,当該状態での施工を「しようと思えばできる」のであるから,構成要件b-2.2を具備する。
(被告) ア 被告各製品の使用状態 (ア) 被告製品Aの単独使用 被告製品Aは,別紙被告製品説明書記載のとおり,壁面から突出している通気パイプ1をパイプ用孔43に通して,取付板部材4を壁面に固定し,さらに,フード部材3を取付板部材4にビス止めする。特に通気パイプ1は,押圧部46の弾性で,パイプ受け部44に強く押圧され保持されている。パイプ受け部44の先端は,通気パイプ1の開口端より後方(屋内方向)位置に存在する。
(イ) 被告各製品の組合せ使用 被告製品Bは,別紙被告製品説明書記載のとおり,壁面から突出しているアルミフレキシブルパイプの通気パイプ2に接着する。先端抱持部54は,その弾性で通気パイプ2をしっかりと保持しており,大径部51の縁部は壁面と当接する。そして,被告製品Bの小径部を被告製品Aの取付板部材4のパイプ用孔43に通して,被告製品Aを装着し,取付板部材4を壁面に固定し,さらに,フード部材3を取付板部材4にビス止めする。特に被告製品Bは,取付板部材4の押圧部46の弾性で,パイプ受け部44に強く押圧され保持されている。
構成要件a-2,a-4及びcの充足性 本件発明は,公知技術である「強制換気装置の管接続構造」を意識的に除外し,「自然換気装置の管接続構造」に限定したものであるところ,被告各製品は,強制換気による換気装置のみに使用され,管路(通気パイプ)の外側に装着するフード部品であり,構成要件a-2,a-4及びcを充足しない。
構成要件a-3(屋外フードのガイド管)の充足性 (ア) 文言侵害の主張について a 「屋外フードのガイド管」の意味 本件発明は,従前の,ガイド管が通気パイプ内側に差し入れられることからくる問題点を解消するために,通気パイプの外側に差し入れるガイド管を備えた屋外フードを採用した管接続構造として提案されたものであり,本件明細書における実施例も,一体のもののみが示されている。
さらに,本件発明の拒絶査定に対する不服審判の申立時においてされた補正では,フード部分と壁面取付板とを別に構成した公知技術を前提にして,フード器具がフード部分に背面板及びガイド管を一体に備えていることが明確にされた。
以上から,構成要件a-3の「屋外フードのガイド管」は,「ガイド管を一体に備えた屋外フードにおけるガイド管」であると解される。
b 対比 被告製品Aの,フード部材3と取付板部材4とは独立しており,取付板部材4を壁面に装着した後でなければフード部材3を取り付けることができず,前記公知技術の構造と同一である。被告各製品の組合せ使用においても同様である。
したがって,被告各製品は,ガイド管を一体に備えた屋外フードにおけるガイド管を有しておらず,構成要件a-3を充足しない。
(イ) 均等の主張について 被告各製品が,本件明細書に記載された「結露が外壁面に漏れ出ることはない」との作用効果を奏することは認める。しかし,同効果は,本件発明における「接続段差部分において,ほぼ完全にすべての水分を屋外フードに送り込むことが可能である」との作用によるものではなく,通気パイプの開口部分が,壁面より突出しているという一般的な構成によるものである。したがって,置換可能性がない。また外壁の汚れ防止という作用効果は,公知技術によっても達成できるものである。
したがって,原告の均等の主張は理由がない。
構成要件a-3(ガイド管)の充足性 (ア) ガイド管の意味 本件特許権の特許権者は,出願過程において,本件発明のガイド管が通気パイプとの管継手構造であることを強調し,壁面から突出した通気パイプに対して,外周全部を包まず,定点で指示する取付板は,本件発明のガイド管とは異なる構造であると明確に指摘している。したがって,本件発明のガイド管は,管継手となる筒状構造を意味する。
(イ) 対比 被告製品Aのパイプ装着構造は,取付板部材4のパイプ受け部44と押圧部46で通気パイプを挟圧する構造であるから,管継手となる筒状構造のガイド管を備えていない。
被告製品Bは,筒状構造のパイプであるが,そもそも被告製品Bは管径調整用であり,管継手の技術的意義を備えていない。
したがって,被告各製品は,ガイド管を備えておらず,構成要件a-3を充足しない。
構成要件b-1の充足性 (ア) 「所定量突出させた」の意味 構成要件b-1の「背面板から内側に向かって所定量突出させたガイド管を備えてなり」の「所定量」とは,「本件発明の構成に必要とする量」であるから,「ガイド管を通気パイプに嵌合装着した際に,少なくともガイド管が通気パイプの開口端の外周部分を含んだ状態で包まれる突出量」を意味する。結局,「所定量」とは,「ガイド管が通気パイプの開口端よりフード内側に突出させることができる量」であると解される。
(イ) 対比 被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44及び被告製品Bは,通気パイプの開口端より突出して装着されるものではないので,いずれも,背面板から内側に向かって所定量突出させたガイド管とはいえない。
したがって,被告各製品は,構成要件b-1を充足しない。
構成要件b-2.1の充足性 (ア) 「ガイド管の内径を,通気パイプの外径より所定のミリメートル単位で大きく設定し」の意味 本件明細書の詳細な説明【0020】には,「ガイド管14の内径は,通気パイプ11の外径より若干の余裕をもたせて設定するから,この余裕寸法に応じてガイド管14を屋外に向けて僅かに下降傾斜させ・・・防止することができる」と記載されており,構成要件b-2.1の「ミリメートル単位で大きく設定する」とは,「1〜9ミリメートル程度大きくして,ガイド管を通気パイプに嵌合接続した状態で,通気パイプを僅かに傾斜させることができる程度の余裕を持たせている」との意味である。
(イ) 対比 被告各製品は,通気パイプに押圧状態で密着して装着されるものであり,通気パイプより多少余裕を持って大きく設定されるという概念には包含されない。
被告製品Aの通気パイプと取付板部材4との連結構造は,通気パイプをパイプ用孔43に挿通すると,通気パイプは押圧部46の弾性でパイプ受け部44に強く押されて保持されるものである。また,被告製品Bは先端抱持部でアルミフレキシブルパイプの全周を緩みなく抱持する。
したがって,被告各製品は,構成要件b-2.1を充足しない。
構成要件b-2.2の充足性 (ア) 「ガイド管が通気パイプの開口外周を包んだ状態で嵌合接続できるようにした」の意味 「開口外周」とは,開口箇所である「開口端」の外側縁と解されるから,「開口外周を包んだ状態」とは,「開口端の外周部分を含んで包んだ状態」と解すべきである。
(イ) 対比 被告製品Aのパイプ受け部44及び押圧部46並びに被告製品Bは,通気パイプの開口外周を包んだ状態で嵌合されていないから,構成要件b-2.2を充足しない。
(3) 争点3(原告の損害)について (原告) 平成15年1月1日から平成16年7月31日までに被告が製造し,販売した被告製品Aの台数は,15万台を下回らない。被告製品Aと市場において競合する原告製品の1台当たりの利益は,1000円を下回らない。
したがって,原告が,平成16年7月31日までに被った損害は,被告製品Aの販売台数に1台当たりの原告利益を乗じた1億5000万円を下回ることはない。
(被告) 争う。
当裁判所の判断
1 争点2,オ(構成要件b-1の充足性)について 原告の専用実施権の有無について争いがあるが,まず,争点2から検討する。
(1) 「所定量」の意味 構成要件b-1「背面板から内側に向かって所定量突出させたガイド管を備えてなり」の「所定量」とは,「ガイド管が通気パイプの開口端よりフード内側に突出することができる量」であると解される。
以下,その理由を述べる。
ア 本件発明の特許請求の範囲では,ガイド管の,背面板から内側に向かって突出する量について,「所定量」と記載されているのみであり,具体的数値等は示されていないのであるから,その内容が一義的に明確であるということはできない。
イ そこで,被告各製品のガイド管(被告製品Aにおける取付板部材4のパイプ受け部44及び押圧部46並びに被告製品Bの小径部52)の内側に向かって突出する量が,本件発明の「所定量」の範囲に属するか否かが争われている本件訴訟においては,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,その「所定量」の技術的意義を確定することが必要となる。
(ア) 本件明細書には,本件発明が解決しようとする課題として,以下の記載がある(甲2,3欄9〜31行目)。
「このような従来の換気構造にあっては,室内側から送気される温かい空気に含まれている湿気(水分)が外に向かうにつれて外気温によって水滴化し,この水滴がフードまわりの屋外壁面に滲みつくという問題があった。この問題は単に水滴が壁面を汚すという美観上の問題にとどまらず,北海道や東北などの寒冷地では,厳冬期になると滴った水滴が凍結し,外壁を剥離損傷させる等の問題を惹起する。
このため近時に至って屋外に配するフードに,水だれ防止のガイドを一体成形する等の工夫が提案されるようになった。フードの先端部にガイドを形成することによって,外壁1から最も遠い位置において水を外に向けて排出するためである。フードに形成した水抜きガイドは,排気中水分を壁面に付着させないという点では一応の有効性が確認されている。しかしながら水抜きガイドによってもなお,外壁面に水滴が付着するという問題が相当の割合で発生する。水抜きガイドは各種提案されているが,未だ完全な効果を実現できる構造がないというのが実情である。
そこで本発明の目的は,換気口のフードまわりにおける水滴の壁面付着を完全に防止する点にある。」 (イ) 本件明細書には,本件発明の作用として,以下の記載がある(甲2,4欄3〜27行目)。
「本発明に係る管継手構造は,従来の継手構造とは逆に,外壁内を貫通する通気パイプの開口端部を屋外フードのガイド管に嵌入させる。屋外フードのガイド管は,既設新設を問わず常に通気パイプの端部を外側から包んで嵌合接続状態を保つ。
かかる構造によれば,管の接続部分にある段差隙間は室内側に向かって延びるので,室内側から屋外に向かって流れてきた空気水分が水滴化したとしても,当該水分は外壁面に漏れ出ることがない。接続段差部分においてほぼ完全にすべての水分を屋外フードに送り込むことが可能となり,壁面汚損や厳冬期における壁面剥離等の問題を確実に防止することが可能となる。
既設の換気フードがすでに設置されている場合は,壁面内に納められている通気パイプの開口端部を外側から包み込むようにフードのガイド管を嵌め込むことは難しい。通気パイプは外壁面の内側までしか延びていないので,ガイド管を接続させようとすると,通気パイプの内側にガイド管を嵌入する(差し込む)しかないからである。
しかし屋外フードのガイド管を背面板より所定寸法後方に突出させておくと,通気パイプの開口端部まわりの外壁面を若干寸法だけ旋削することによりガイド管を外側から嵌め込むことが可能となって既設の換気装置(屋外フード)であっても水漏れを確実に防止することが可能となる。」 (ウ) 本件明細書における実施例として,以下の記載がある(甲2,5欄17〜21行目)。
「このような継手構造によれば,図1に矢印Aで示すように,室内Rから屋外Tに流れ出る排気水分は,パイプの接続段差部分で淀み溜まることがなく,そのまま自然にガイド管14側に落下し,フード12を介して屋外に排出される。」 上記実施例を図示した図1には,通気パイプ11にフード12が取り付けられた換気装置構造の側面断面図が示されており,ここでは,ガイド管14が,通気パイプ11の開口端よりもフード内側に突出し,通気パイプとの段差が形成されている図が示され,通気パイプ内から段差部分を通って排気水分が屋外に排出されることを示す矢印Aが記載されている。
ウ 以上の各記載によれば,次の事実が認められる。
すなわち,従来の換気構造では,室内側から送気される温かい空気に含まれる湿気(水分)が外に向かうにつれて水滴化し,この水滴がフードの周りの屋外壁面に滲みつくという問題があったところ,屋外に配するフードに水だれ防止のガイドを一体成形し,フードの先端部にガイドを形成することによって,外壁から最も遠い位置において水を外に向けて排出する等の工夫がなされていたが,それでもなお外壁面に水滴が付着するという問題が発生することが,本件発明の技術課題とされていた。そして,本件発明では,この技術課題を解決するため,特許請求の範囲に記載の構成を採用し,通気パイプの屋外側開口部にガイド管を嵌合接続させ,ガイド管を背面板からフード内側に向かって所定量突出させたものである。その嵌合接続の態様は,ガイド管の内径を通気パイプの外径よりミリメートル単位で大きく設定し,ガイド管が通気パイプの開口外周を包んだ状態とされ,従来の継手構造とは逆に,外壁内を貫通する通気パイプの開口端部を屋外フードのガイド管に嵌入させ,常に通気パイプの端部を外側から包んで嵌合接続状態を保つものである。本件発明の実施例でも,ガイド管が通気パイプの開口端よりもフード内側に突出して通気パイプとの段差が形成され,通気パイプ内から段差部分を通って排気水分が屋外に排出されることが示されている。この結果,本件発明では,管の接続部分にある段差隙間が室内側に向かって延びるので,室内側から屋外に向かって流れてきた空気水分が水滴化したとしても,外壁面に漏れ出ないという効果を達成したものである。
このように,従来技術において,フードの先端部に形成されたガイド管が,外壁から最も遠い位置において水を外に向けて排出するように構成されていたことを前提としつつ,さらに,本件発明は,外壁面に水滴が付着することを防止しようとするのであるから,背面板から内側に向かって突出し水を排出する本件発明のガイド管は,当然,通気パイプの開口端よりも,更に屋外フード内側に突出した構成を採用したものと解さなければならない。そして,嵌合接続により形成された通気パイプとガイド管との段差により,通気パイプを通って排出される水分を確実に屋外フードに送り込むことを達成したものと認められる。
そうすると,構成要件b-1の「所定量」とは,外壁面に水滴が付着することを確実に防止し,通気パイプとガイド管との段差を可能にするために,「ガイド管が通気パイプの開口端よりフード内側に突出することができる量」を意味するものと認めるのが相当である。
エ この点について原告は,構成要件b-1の「所定量」とは,具体的数値を意味しないのであるから,被告の主張するような「ガイド管が通気パイプの開口端よりフード内側に突出させることができる量」との限定を付して解すべきではなく,「背面板から内側に向かって突出した量」と読むべきであると主張する。
しかしながら,原告主張のように,本件発明のガイド管が,通気パイプの開口端よりフード内側に突出することを要件とせず,単に背面板から内側に向かって突出していればよい(すなわち,通気パイプの開口端の方がガイド管よりフード内側に突出している場合を含む。)ものと解すると,前示のとおり,従来技術におけるガイド管が,外壁から最も遠い位置において水を外に向けて排出するように構成されていたことを前提としつつ,さらに,外壁面に水滴が付着することを防止するという本件発明が目的とした技術課題の解決が達成できないことは明らかであり,原告の上記主張は,到底,採用することができない。
(2) 被告各製品との対比 被告各製品の構成は,別紙被告製品説明書記載のとおりであり,同説明書の図6によれば,被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44は,通気パイプの開口端よりもフード内側に突出されるように構成されていない。同説明書の図13によれば,被告各製品を組み合わせて使用した場合にも,被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44及び被告製品Bは,いずれも,アルミフレキシブルパイプの開口端よりもフード内側に突出されるように構成されていない。
したがって,被告各製品は,通気パイプの開口端よりもフード内部に突出させたガイド管により段差を設け,排気水分を確実に屋外フードに送り込むことを可能にする構成を採用しておらず,「背面板から内側に向かって所定量突出させたガイド管を備えて」いないこととなり,構成要件b-1を充足しない。
2 争点2,キ(構成要件b-2.2の充足性)について (1) 「開口外周を包んだ状態」の意味 構成要件b-2.2「屋外フードのガイド管が通気パイプの開口外周を包んだ状態で嵌合接続できるようにした」の「開口外周を包んだ状態」とは,「開口端部分を含んで包んだ状態」であると解される。
以下,その理由を述べる。
ア 「開口外周」とは,通常,通気パイプの開口部の外周りを意味するものと考えられ,一定の幅を持つことが予定されているが,開口端部分が除かれるものではないと解される。
イ 本件明細書の前記各記載によっても,上記アで示した通常の意味とは異なるものとして定義されていると解することはできない。すなわち,本件発明のガイド管は,「常に通気パイプの端部を外側から包んで嵌合接続状態を保つ」(甲2,4欄6〜7行目)ものとされ,通気パイプが外壁面の内側までにしか延びていないような態様であっても,屋外フードのガイド管を背面板より所定寸法後方に突出させておき,通気パイプの開口端部まわりの外壁面を若干寸法だけ旋削することにより,ガイド管を外側から嵌め込むことを可能とするものであるから,通気パイプの開口端部分を包み込んで嵌合接続するものであることが明らかである。
ウ 以上によれば,構成要件b-2.2の「開口外周」とは,開口部の外回りであり,開口端部分を除くものではないと解される。そして,「開口外周を包んた状態」とは,「開口端部分を含んで包んだ状態」を意味すると解するのが相当である。
エ 原告は,「外周を包んだ状態」が,「ガイド管が通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態」と限定して解すべき根拠はないから,単に,「外周を包んだ」と解すべきであると主張する。
しかしながら,本件発明のガイド管は,前示のとおり,常に通気パイプの端部を外側から包みこむ嵌合接続構造によって,管の接続部分にある段差隙間が室内側に向かって延び,室内側から屋外に向かって流れてきた空気水分が水滴化したとしても,外壁面に漏れ出ることなく,接続段差部分においてほぼ完全に水分を屋外フードに送り込むことを可能とする作用効果を達成するものであるから,「ガイド管が通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態」を必須の構成とするものであり,原告の上記主張を採用する余地はない。
また,上記説示に照らして,本件発明においては,仮に,「外周を包んだ状態」を「ガイド管が通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態」であると解するとしても,そのような嵌合接続を「しようと思えばできる」ということしか要求されていない旨の原告の上記主張が採用できないことも明らかである。
(2) 被告各製品との対比 ア 被告各製品の構成は,別紙被告製品説明書記載のとおりであり,同説明書の図3,4及び6によれば,被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44及び押圧部46は,通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態となっていない。同説明書の図13〜15によれば,被告各製品を組み合わせて使用した場合にも,被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44及び押圧部46並びに被告製品Bは,いずれも,通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態となっていない。
したがって,被告各製品は,構成要件b-2.2を充足しない。
イ 原告は,被告各製品を組み合わせて使用する場合,通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態が作出されるかどうかは,施工の問題にすぎず,当該状態での施工を「しようと思えばできる」のであるから,構成要件b-2.2を具備する旨主張する。
しかしながら,被告各製品を組み合わせて使用する場合でも,@通気パイプは,被告製品Aの取付板部材4の押圧部46の弾性で被告製品Bを介して被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44に押されて保持される構成がとられていること(別紙被告製品説明書),A被告各製品の取付方法として,通気パイプを一定の長さで外壁面から突出させるように指示されているところ(甲3の1,4枚目),その突出量は,被告各製品を組み合わせて使用した場合の,壁面から被告製品Bの抱持部54の先端までの長さよりも大きいこと(乙3の2,3の3)からすれば,被告各製品は,通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態が形成されることがないように設計されているのであり,単なる施工の問題であるとはいえず,構成要件b-2.2を具備する可能性があるということはできない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
結論
以上によれば,その余の点について論ずるまでもなく,原告の請求は,いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 山田真紀
裁判官 田公輝