• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1977-14779
関連ワード 特許を受ける権利 /  新規性 /  頒布された刊行物 /  新規性喪失(新規性の喪失) /  新規性喪失の例外(喪失の例外) /  刊行物に発表 /  出願公開 /  同一の発明 /  拒絶査定 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 昭和 56年 (行ケ) 22号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1982/06/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
この判決に対する上告期間につき、附加期間を九〇日とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告は、「特許庁が昭和五二年審判第一四七七九号事件について昭和五五年九月四日にした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、主文第一、二項同旨の判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、一九七〇年(昭和四五年)四月六日米国特許局に対し、名称を「水平無鉄芯型誘導炉」(HORIZONTAL CORE-LESS INDUCTION FURNACE)とする発明につき特許出願し、右発明の明細書は一九七一年(昭和四六年)八月三一日米国特許局公報(第三、六〇二、六二五号)に掲載された。そして原告は、右公報掲載の日から六月以内である昭和四七年二月二三日わが国の特許庁に対し、右と同一の発明(名称を「水平無鉄芯型誘導炉」とする。)につき、特許法第30条第1項の適用を受けようとする旨を記載した書面を提出すると同時に、特許出願した(以下この出願に係る発明を「本願発明」という。)ところ、昭和五二年七月七日拒絶査定を受けたので、審判を請求し、特許庁昭和五二年審判第一四七七九号事件として審理されたが、特許庁は前記米国特許第三、六〇二、六二五号明細書(以下「引用例」という。)は特許法第30条第1項にいう「刊行物」に含まれないところ、本願発明はその特許出願前米国において頒布された右引用例と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないとして、昭和五五年九月四日審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は同月一七日原告に送達された(なお、出訴期間として三か月が附加された。)。
二 審決理由の要旨特許公報は、特許法第30条第1項にいう「刊行物」に含まれない。その理由は、
次のとおりである。
1 特許公報は、特許庁長官が発表の主体となつて当該特許出願を公表するための刊行物であつて、特許を受ける権利を有する者の発表の意思とは無関係の刊行物である。したがつて、特許出願人に当該発明を発表する意思があつたとしても、その発明の特許公報への掲載は、特許法第30条第1項にいう「刊行物に発表し」には当らない。
2 特許法第30条第1項の例外規定における「刊行物に発表し」は、特許を受ける権利を有する者が「出願をしないで刊行物に発表し」と解すべきであるところ、
特許公報に発表された発明は、特許を受ける権利を有する者が出願した結果、公報に掲載されたもの、すなわち、出願をして「刊行物に発表し」たものであるから、
特許公報は特許法第30条第1項の適用を受ける刊行物とはなりえない。
3 特許法第30条1項の規定は同法第29条第1項第3号に関する例外規定であるから、当然その規定の対象となる刊行物は特許を受ける権利を有する者が当該発明について特許出願をする前に既に頒布されている刊行物に限るものと解すべきところ、当該発明が掲載されている特許公報は、特許を受ける権利を有する者が当該発明について特許出願をした結果頒布された刊行物であつて、当該発明について特許出願をする前に頒布された刊行物ではないから、特許法第30条第1項の規定の対象となる刊行物とはなりえないものである。
以上の各理由は、日本の特許公報に関してのものであるが、本件における米国特許明細書についてみると、これは本件請求人(原告)が米国特許局に出願し、米国特許局長官の職権によつて発行されたものであり、発行された特許明細書が特許を受ける権利を有する者である本件請求人の発表の意思と無関係の刊行物であることは、前記理由1で述べたと同様の理由から明白なところである。また、最初の出願国になされた出願を、第一段階の出願とみれば、その国で発行された特許明細書は、前記理由1ないし3に示した点に準じて、特許法第30条第1項の対象となる刊行物となりえないものであるとして取扱うのが、内外人に対し法の平等な適用であると解される。
三 審決を取消すべき事由 引用例に記載された発明が本願発明と同一であることは争わないが、審決が、米国において頒布された原告の米国出願特許明細書は特許法第30条第1項にいう「刊行物」に含まれないと判断したのは誤りであり、審決はこの点において違法として取消されるべきものである。
審決は、まず日本の特許公報が特許法第30条第1項にいう「刊行物」に含まれない理由を三点列挙し、これを基にして米国特許明細書が右「刊行物」に含まれない理由を述べているが、いずれも誤りである。
(審決の理由1について) 審決は、特許公報による発明の公表は特許を受ける権利を有する者の意思とは無関係であるとするが、特許出願された場合、審査の結果、拒絶理由がない限り、必ず特許公報に出願公告されることは特許法上明らかであつて、特許を受ける権利を有する者はこれらの事実を認識して特許出願するものである。
特許制度が技術発展に寄与するため、発明の公表を促し、公表の代償として出願人に独占権を許与するものであることは明らかであり、特許を受ける権利を有する者が特許出願をするのは、当該発明が当然公表されることを認識し自覚し、また、
それにより生ずるかもしれない不利益をも容認している結果である。
したがつて、特許公報による公表が特許を受ける権利を有する者の発表の意思とは無関係であるとする審決は誤りである。
右の特許制度の本質論は日本も米国も変りはなく、日本の特許公報も米国の特許明細書も出願人の発表の意思によつて公表されるものであり、これらが特許法第30条第1項にいう「刊行物」であることは疑いない。
(審決の理由2について) 審決は、特許法第30条第1項中の「刊行物に発表し」は「出願をしないで刊行物に発表し」と解すべきものとしているが、その場合の「出願」とは日本への出願を意味することは審決理由から明らかであるところ、原告も日本への出願前に「刊行物」たる米国特許公報に発明を公表しているものであるから、審決のいうとおり、日本への「出願をしないで刊行物に発表し」たことになる。米国特許出願があるという理由で、米国特許公報を「刊行物」でないとする審決は、日本の特許公報と米国特許公報とを形式的に同一視してしまつたが故の誤解に基づくものである。
刊行物に発表しないでいきなり(日本に)出願した場合、すでに特許出願の目的は達成されているかもしれないが、米国への出願、すなわち「刊行物」たる米国特許公報への発表によつては、日本での保護の目的はなんら達成されないのであるから、両者を同一に論ずることはできない。審決の理由2は日本の特許公報についてのみ妥当性を持ちうるものである。
(審決の理由3について) 特許法第30条1項の規定の対象となる「刊行物」は、「特許を受ける権利を有する者が当該発明について特許出願をする前に既に頒布されている刊行物に限」られるものであることは、審決のいうとおりであり、この場合の「特許出願」は、もちろん、日本出願を意味するものである。
本件の場合、引用例の米国特許公報は本願発明の日本特許出願前に頒布されたものであり、それ故に拒絶査定がそうしたごとく、原告は特許法第29条第1項第3号が適用されて拒絶されるのを免れるために、同法第30条第1項の例外規定の適用を求めたのである。
審決の判断は、理由2の場合と同様、特許法第29条第1項第3号、同第30条第1項にいう「特許出願」は米国特許出願をも含むと誤解した結果のものであろうが、同法第29条第1項は、日本出願についての新規性喪失事由を規定したものであることはいうまでもなく、したがつて、たとえ、日本の特許出願に係る特許出願公告公報が同項にいう「刊行物」ではないとしても、これより直ちに米国出願に係る米国特許公報が同項にいう「刊行物」でないとすることには論理の飛躍がある。
そもそも、同一法律中の同一文言が、しかも相互に関係づけられているにもかかわらず、異つて解釈されたのでは、法解釈の原則にも反するし、法的安定性を期することもできない。
被告の陳述
一 請求の原因一、二の事実は、いずれも認める。
二 同三の審決取消事由の主張は争う。審決に原告主張のような誤りはない。
特許法第30条第1項は、旧法(大正一〇年法律第九六号)第5条第1項に、新たに「刊行物への発表」及び「学術団体開催の研究集会における発表」を新規性喪失の例外事項として加える形で改正されたものである。そして、この改正は、工業所有権制度改正審議会の答申を受けたものであつて、研究発表が技術の進歩発達に大いに貢献するものであることから、立証の容易な刊行物掲載による発表などに限つてこれを認めようとするもので、答申説明にもみられるように、特許法の規定を十分知らない技術研究家が、自己の発明について研究発表を行ない、その後にした特許出願が公知を理由に拒絶されることがないように、その救済措置として定めたものと解されている。特許法第30条第1項では、研究発表という語は用いていないが、右の趣旨を変更するものではない。
特許出願をすれば、結果的に、その内容は特許公報によつて公表される。しかし、特許出願は、本来、研究発表の目的でなされるものではなく、また、これをもつて刊行物に発表するための行為であると解することも困難である。
(審決の理由1について) 原告は、特許公報は出願人が出願に係る発明が公表されることを認識し自覚して出願した結果発行されるもので、これには特許出願人の発明公表の意志が存在し、
したがつて、特許公報による発明の公表は出願人の意思とは無関係であるとする審決の判断は誤りである旨主張するが、公報による発明の公表に出願人の意思が直接関与しているとみることはできず出願人の意思としては黙認以上のものが働いているとみる余地は全くない。そして、前記した特許法第30条第1項の趣旨を考慮するとき、こういつた消極的な発表の意思不明のものまで「刊行物に発表し」の解釈に含めるべきでないことは明らかである。
(審決の理由2及び3について) 原告は、審決の理由2及び3の論理は、日本特許公報、日本特許出願についてのみ妥当性をもちうるにすぎない旨主張する。
しかし、特許法第30条第1項が、すでに出願することによつて目的を達成し、
本来なら救済する必要のない出願をも対象とするものでないことは明白であり、この点に、米国出願が本来パリー条約を取り入れたわが国特許法上は、現実に利益を享受するか否かにかかわりなく、出願日に関し国内出願と同等に扱うことが保証されている点を考慮すると、結局、両国出願間、そして両国特許公報間に差異を認めるべき筋合いはないというべきである。
米国等の外国出願のみが特許法第30条第1項の規定により救済されるとする解釈は、国内法の規定の解釈としては不合理なものといわなければならない。
証拠関係(省略)
理 由 原告が、本願発明と同一の発明につき米国特許局に特許出願し、その明細書が一九七一年(昭和四六年)八月三一日米国特許局公報(第三、六〇二、六二五号)に掲載されたこと、原告は右公報掲載の日から六月以内である昭和四七年二月二三日わが国の特許庁に対し、右発明と同一の本願発明につき、特許法第30条第1項の適用を受けようとする旨を記載した書面を提出すると同時に、特許出願したこと、
右特許出願は拒絶査定を受けたので、原告は審判を請求したが、特許庁は要旨事実摘示第二の二に示した理由により、前記米国特許第三、六〇二、六二五号明細書(引用例)は特許法第30条第1項にいう「刊行物」に含まれないところ、本願発明はその特許出願前米国において頒布された引用例と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものとして、審判の請求は成り立たない旨の審決をしたことは当事者間に争いがない。
そこで審決の当否について考えるに、特許法第29条第1項は、同項各号に該当する発明は新規性を有しないものとして特許を受けられないとし、その第三号に「特許出願前に日本国内又は外国において頒布された『刊行物』に記載された発明」を掲げる一方、同法第30条は、そのような発明であつても、特許を受ける権利を有する者が「『刊行物』に発表」することにより、その発明が右の第29条第1項の規定に該当するようになつた場合には、その該当するに至つた日から六月以内がその者がその発明につき特許出願をすれば、その発明は、特許出願前に刊行物に発表したという理由ではなお新規性を失わないものとみなす旨を定めている。
ところで同じ法令中の同一の用語は、これを別異に解すべき特段の事由のある場合のほかは、同一に解釈すべきことはいうまでもないところ、特許法第29条第1項第3号にいう「刊行物」と同法第30条の「刊行物」を別異に解すべき特段の事由は存しないから、日本国内又は外国において頒布された特許公報が、特許法第29条第1項第3号にいう「刊行物」に該当すれば、それは当然同法第30条にいう「刊行物」でもあると解さなければならない。しかして、日本国内又は外国において頒布された特許公報が第29条の「刊行物」に該当することは明らかであるから、もし、出願に係る発明が特許公報に掲載されて公表されることが、出願人(特許を受ける権利を有する者)がその発明を「刊行物に発表」したと言い得るならば、その出願人がその発表の月から六月以内に特許出願をすれば、その出願に係る発明はなお、発表されたという理由によつては新規性を失わなかつたと言うことができるのである。しかしながら、出願に係る発明が特許公報に掲載されて公表されることは、特許法第30条にいう、特許を受ける権利を有する者が、発明を「刊行物に発表」することには該当しない。けだし同条にいう「発表」とは、特許を受ける権利を有する者が自らの発表せんとする積極的な意思をもつて発表することであり、他人が発表することを容認するというような消極的な意思が存在するだけでは同条にいう「発表」とはいえないからである。出願公告は、特許庁長官が特許公報に所定事項を掲載して行なうものであつて(特許法第51条)、出願人(特許を受ける権利を有する者)の、出願に係る発明を発表しようという積極的な意思に基づいてなされるものではない。特許を受ける権利を有する者が特許出願をするのは、
それによつて特許権を取得するか、他人の特許権取得を阻止する(審査請求をしない場合)ことにあり、特許公報による出願公告又は出願公開により、出願に係る発明を発表することを意図してなされるものではないというべきである。
右の特許公報による発明の公表に関する理は、日本特許公報であつても、米国特許公報であつても異なるところはない。
審決は、引用例(米国特許公報)は特許法第30条第1項にいう「刊行物」に含まれないとしている点で妥当を欠くが、結局において、特許公報によつて発明が公表されることは、「特許を受ける権利を有する者が特許法第30条第1項にいう「刊行物に発表」したと言えないと判断しているもの」と解され、その結論は正当である。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条第158条第2項の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 高林克巳
裁判官 杉山伸顕
裁判官 八田秀夫
  • この表をプリントする